外史を駆ける鬼・春恋*乙女編 プロローグ2
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外史を駆ける鬼・春恋*乙女編 プロローグ2

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フランチェスカ学園の中心地を敷き内の公園と考えると、男子寮は公園の南東部に位置する。

北には校舎があり、校舎の西側には剣道場、東側には室内プールなどと充実した施設があり、今現在、一刀が引きつられているのは公園から西側の黎明館より離れた西南部に位置する場所。

以前の記憶を手繰り寄せてみると、この場所には何もなく、ただの草原だった記憶が蘇るのだが、その場所に建っていたのは、怪しく聳え立つ小さな館であった。

玄関の扉には『風紀館』と記されている。

少し薄暗い場所に建っているせいか、なんだか不気味に見えなくもないが、しかしながらその建物自体には、日の光が差し込んでいる為に、あたかも森の中の洋館をかもし出す様であるが、それでも一刀が住まうプレハブ小屋よりは断然によかった。

重田は風紀館の扉を開けると、一刀達を館に招き入れる。

その館の外見から二階建てと判断したが、その勘は的中し、入った広間には二階に続く階段があった。

重田はそのまま奥に進んで行き、とある部屋に一刀達を招き入れ、その部屋には会議室と記されていた。

薄暗い部屋に明かりが灯ると、そこは、一般家庭のリビング程の広い部屋であり、壁の側面には天井まで続くであろう大きな本棚があり、そこにはあらゆる書籍や資料のようなファイルが収められている。

部屋の中央には来客用のテーブルとソファーが位置しており、部屋の奥の壁際には日の光を差し込む為の大きな窓がある。

部屋の見た目的には、少し畏まった社長室に見えないこともないが、生活臭を匂わせるのか、来客用のテーブルとは別に、奥には部屋の主の者であろう大きなデスクがあり、そのデスクの隣の足元に、小さな冷蔵庫が備え付けられていた。

他にも良く見ると、デスクの上には小さなブラウン管のテレビとパソコンまであったのだ。

「まぁ二人とも、適当に腰掛けなさい」

二人はそう施されて二人で一つのソファーに腰掛ける。そして施した本人は入り口の扉へと向かい、鍵を閉める。

「さてと………何から聞くべきか――」

重田は背中に手を回して腰に当てながら、一刀の座る席の後ろを通り、デスクへ歩いていこうとしたが、それは一刀達の勘違いであった。

重田は一刀達の後ろで立ち止まり、二人は振り向こうとすると――

「――動くな。いいか、決してこちらを振り向くなよ。少しでも動けば、君の愛しい人が大変なことになるからな」

視線を他方に向けることが出来ないためわからないが、愛紗は首元になにか冷たいものが当てられていることを感じ取った。

「………聞こう。お前達はいったい誰だ?」

重田は冷ややかに告げ、その言葉には小さな殺気が篭っている。

「何者かと聞かれましても、俺達は一介の生徒とその知り合いとしか言いようがありませんが?」

一刀は重田の殺気をかわし持って冷静に答えたが、次の言葉に一刀も冷静さを欠くことになる。

「……外史――」

「!?」

その言葉だけで、一刀と愛紗の心をワシ掴みするには十分であった。

ちなみに捕捉だが、現在愛紗は一刀の学生ジャージを借りて着ている。

「三国志……管理者……聞き覚えはないかな?」

「………さぁ、なんのことか分かりかねますけれども?」

一刀はなおそれでも冷静さを努めて答えるが――

「声が若干震えているぞ」

その強がりは直ぐに見破られていた。

「それじゃ、追い討ちをかけさせてもらおうか……」

重田は空いた片手を愛紗の肩に置くと、彼女に告げる。

「……関羽だろ?お前」

その言葉を聞いた瞬間に、愛紗は行動にでようとした。

自らが座るソファーには右に一刀左に愛紗が座っており、重田が持つ何か凶器的な物は愛紗の左肩に当てられており、位置的には重田の左手が愛紗の左肩に、右手が右肩にある位置づけである。

そこからすぐに重田の左手を取り、凶器を無効化してそのまま制圧行動を取ろうとし、重田を捕まえて尋問というシミュレーションを浮かべたが、その行動はすぐに規制された。

愛紗が少し肩の筋肉を振るわせた瞬間に、重田の右手のかける力がより一層強まり、その行動で自身の考えが読まれていることを知り、頭の中の計画の実行を抑えた。

「……お前らは何者だ。私の知りうるこの世界の北郷一刀は、お前ほど体は絞まっていない。………太っていたわけではないが、少なくともお前ほど体つきはよくはない。それに肌の色も少し黒い。冬の季節に似つかわしくない肌色だな。制服はどうした?何故裾の部分が破れかけている。とても一年未満着た制服には見えないな。少なくとも3年以上は着古している」

一刀がフランチェスカ学園に編入して来たのは2年生の頃で、外史に向かった時差を差し引けば一年も制服を着てない計算になり、今の使い古された制服はおかしいのだ。

「………沈黙は何も生まない。いいだろう、話しやすくしてやる。男、むかえのソファーに腰掛けろ」

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一刀は本人と認めてもらっていないのか、呼称が『男』と変化し、彼はゆっくりと席を立つと、そのままむかえのソファーに歩き腰掛ける。

そうすると今現在自分からむかえにあたる愛紗を人質に捕らえた重田の行動が分かる。

「……!?な!!」

彼を見た瞬間、一刀は言葉を失い、重田の手に握られているものの名称を口にする。

「……たま、ご?」

「そう、卵だ!!だがただの卵ではない。良く見てみろ。この卵を!!」

その卵は何処となく黒く傷んでおり、それは腐っていることが判る。

「ふふふ、この卵は”腐っている”!!その腐敗具合は二年を有する。以前調理部の冷蔵庫で見つけた代物だ。少しでも女が抵抗して、私がうっかり手に力を入れてしまいこの卵を割ってしまえばどうなるか!……ゆっくり想像してみろ――」

腐敗した卵。それはそれはおぞましき殺人兵器。一度その殻が割れ、中身が露出すると、耐え難き腐臭が周りを覆い、その匂いは体にこびり付き、シャワーを浴びずには要られなくなる。

今その兵器は愛紗の左肩に位置し、重田はそれをゆっくりと彼女の頭に持っていく。もしこのまま割れることなどあれば。彼女の美しい髪は腐った卵塗れに陥り、その匂いはシャワーで落とすことは難しくなる。

女性の命である髪に落とされる苦痛と、無様な姿を愛しき人に見せなければならぬ恐怖が先立って、愛紗の体はガタガタと震えだした。

「……ご、ご主人……さま――」

関羽雲長らしからぬ震えた声と涙を流しながら、愛紗は一刀に助けを求め、その彼女を人質に取る重田の笑いを見ると、一刀は歯軋りする。

「さぁ、どうする?お前は一体何者だ。知っていることを全て正直に答えない限り、お前の愛しき女性は卵の腐乱塗れになるぞ」

【なんて卑怯な!!】そんな言葉が一刀の喉から出掛かったが、今は愛紗の(女性の)命を最優先と考え、彼が知りうる情報を話すことになる。

「なるほど。それではお前達は、肯定派でも否定派と言うのだな?」

「……さぁ、彼女を解放してもらおう」

「いいや、まだだ。そこのコップに入った液体を飲み干してもらおう」

いつのまにそこにあったのか。来客用テーブルの上には一つの透明のコップに入った水らしきものがある。

「見た目はただの水だがそうではない。異世界のものがこの水を体に入れると、食道から胸に熱い感じを催し、最後には体中に痒みを催し死に至る。………っと言っても、一般人からすれば、なんの効果もないものだ。お前が本当にこの世界の住人と証明するのであれば、一気にこの液体を飲み干せる筈だ」

一刀はそう言われると、途端に近況で喉を鳴らす。

外史にて一刀は否定派に、”無用なファクター”として何度も殺されかけた。

目の前の重田が何故外史について、また管理者を恐れているのか分からないが、一刀も目の前の液体を恐れていた。

『異世界の者を排除する』この響きに、一刀は恐れを抱く。確かにこの世界は十中八九一刀の知りうる世界だ。

しかし果たして本当にこの世界は自分を受け入れてくれるのか。コップの前に立ち、その物体を掴もうとした時、愛紗は叫んだ。

「ご主人様、止めてください!!私は……私は大丈夫です!!」

彼女は重田に拘束されながら、涙を流して訴える。

「我慢します!!たとえご主人様に嫌われようと、臭みに耐えて我慢しますから、そんな危険なことなどお止め下さい!!」

必死に訴える愛紗に一刀は微笑みかけ、彼は言った。

「………惚れた女の子を、汚れさせる男はいないよ……」

その瞬間。世界は静寂に満ちた感覚に陥る。

むかえには拘束されながらも泣き叫ぶ愛紗に、手の甲で口元を押さえながら体を震わせる重田。

一刀はコップに手をかけて、液体を一気に喉の奥に流し込む。

すると一刀に襲い掛かってくるのは、むせ返るような食道への違和感に、酷い胸焼け。

一刀は胸を押さえながら床を這いずり回り、愛紗は重田の腕を振り払うと一刀のそばに駆け寄った。

「一刀様!!一刀様ぁぁっ!!」

「あーはっはっはっはっはっはっは!!」

会議室に広がる一刀の苦しみと愛紗の狼狽。そして重田の高笑い。外史から戻ってきた二人の男女に待っていたのは『絶望』の二文字に他ならなかった。

 

「っという展開を作り出してみたんだが、どうだったかね?」

デスクには肘掛椅子に腰掛け、肩肘を付き、顔をニヤつかせる重田。

「「良い訳ないでしょうが!!」」

それぞれ片手でデスクを叩き抗議する二人に、またも重田は声高らかに笑い転げた。

「いやぁ、ゴメンゴメン。君達のことは間接的ではあるが、貂蝉から聞かされている」

「それなら、貴方はやはり」

一刀の問いに、重田はおもむろに席を立つと、背中を向けて窓を眺める。

「いや、私は管理者ではない。……私はただの探求者さ」

「探求者?」

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「そうだ。話せば長くなるから、結論だけを言うと、私はある使命を帯びてあらゆる世界をまわっている」

「使命とは、それはいったい?」

愛紗が彼に問いかけると、彼は両手を広げて問いを返した。

「それに関しては私もよく判っていない。……何故だかなぁ。この世界に転生した際に記憶が飛んでしまったらしい」

重田は改めて椅子に腰掛け両肘をおいて二人に話しかける。

「そのうち思い出すだろうと思って過ごしてきて十数年。未だに答えはわからないまま。……まぁ、気長に暮らす中で思い出すだろう。私はこの世界では普通の人間と変わりない。次の世界に行く時はすなわち私が死ぬとき。人間五十年と言われているくらいだから、今を楽しまなきゃ損って物だ。だからこうしてのんびりしているってわけ」

「………」

「………」

重田の答えに、明らかに二人は訝しげに見つめる。

「あれ、信じてない?でも貂蝉から君達の世話を任されているのは本当だよ」

「証拠は?」

「ないね」

「なら信じることは無理でしょう」

「なら一介の学生として過ごすといいよ。でもさ北郷君、君は大きな爆弾を抱えていることを忘れていけないよ」

一刀は「なにを?」っと言う言葉が喉から出かかるが、重田はとある方向に指を指す。

「君は彼女という爆弾を、本当に守りきれるのかい?」

「愛紗が爆弾?いったい何を言っているのですか!?」

重田の指摘に、一刀は怒鳴る。

「だってそうだろう。本来彼女はこの世界に”存在してはならない存在”だ。この世界の基本は、『関羽雲長は男』という事実。しかし今ここに存在する関羽雲長は女。その事実が外史の存在を嫌う管理者に知られればどうなる。奴らは彼女を証明する全てを消しにかかる」

「その時は、俺が彼女を守ります!!」

「世界の管理者相手にかい?生憎と言っては何だが、私は探求者として世界をまわる上で、君と良く似た存在を見てきたつもりだ。彼らも君と同じ様に戦うと意気込んで戦ったが……さて、何人生き残れたと思う?」

その問いに一刀は考え込んでしまう。確かに自身も外史の管理者と戦って、辛くも勝利を収めることが出来たが、その勝利は、肯定派である貂蝉の手助けも含め、仲間達支えがあっての勝利。

その結果は愛紗以外の全てを失い、現在仲間の消息は知る由もない。

「零だ」

なかなか答えない一刀に痺れを切らし、重田は答える。

「零だ。奴らを相手にして、勝てたものなど存在しない。奴らに負けた者の辿る一途は、全く違う記憶を擦り付けられ、やがて奴らの駒として使い捨てられる。君達は見たはずだ。永遠に沸き出でる白装束の軍団を。彼らは全て管理者に敗れ、駒にされた者達だ」

二人は思い出した。

斬っても斬っても襲い掛かる白装束の軍団。

管理者が人形と言っていたので気にも止めなかったが、彼らもかつては一刀達の様な人であったのだ。

「そ、そんな……ご主人様が、あの、様な……」

倒れそうになった愛紗を一刀は咄嗟に受け止める。

「私のせいで、ご主人様に迷惑が――」

「それは違う愛紗!!俺は、君といることを望んだ!!全てを捨ててまで君を守りたいと誓ったんだ!!」

「ですが!!ご主人様を危険に晒す位ならこの命などっ!!」

「馬鹿なこと言わないでくれ!!君には俺が必要だ!!君がいなくなれば俺は!!」

二人の掛け合いに、突然重田はテンポの遅い拍手をする。

「はいはい、素晴らしき涙物語はその辺にして。まだ私の話は終わっていないよ。何も奴らと戦うと決まったわけではない。ようは奴らに見つからなければいい。仮に見つかっても、追い返すだけの力があればいい」

悲観に暮れる二人にそう告げる重田。

「……なら、教えて下さい。俺達はどうすればいいのですか?」

「そう。その為に私がいる」

「貴方が?」

「そうだ。確かに貂蝉からは私のこの世界の滞在中は、君達の一生を守り続けろと言われた。そして、理由はわからないが、この私が消滅すれば私の魂の一部がこの世界に留まり、この世界の鍵となる。そして誰からも干渉されない一個の世界として独立するそうだ。だが………ただで約束を飲むほど、私はお人よしではない。何かを得るには、何かを犠牲にする。そうだろう?」

冷笑する重田に対し、一刀と愛紗は歯軋りしかねない程に顎に力が入る。

「………要求は?」

「何、そう身構えることはない。私の要求は単純明快さ」

すると重田は先程の冷徹な表情は何処へやら、椅子に背中を預けて座りなおした。

「実を言うと、この世界での私の命は長くはない」

何を言っているのかわからないまま、二人は重田を見続けるが、突然重田はフランチェスカの上着を脱ぎ、中の黒いシャツも脱ぎ去ると上半身裸になる。

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その肉体は男である一刀が見ても惚れ惚れする引き締まった肉体。硬そうな胸板に割れた腹筋。何処を見ても完璧なその体には、胸の中心を大きな切られた古傷が通っていた。

彼はその傷を触れもって淡々と語りだした。

「この傷は心臓移植の痕でね。医者の見立てによると30まで生きられれば良いほうらしい。………この世界に一己の命として根を下ろしたなら、その人生を楽しみたい。君達への要求は一つだ。私は今指導者を求めている。この体の本来の持ち主の人生は、皆を導く指導者であったらしい。だから君達には、この者が本来導くであろう者達を導くこと。それが私の要求だ」

重田は胸に手を当てて二人に訴える。

「………誰にでも頼むわけではない。君達だから頼むのだ。中華大陸を一つに纏め上げた北郷一刀。万の軍勢を携えてそれを支えた関羽雲長だからこそ、その素質は十分にあると判断したんだ。どうだ、受けてくれるかな?」

二人は顔を見合わせて、少しの間を置いた後に、重田に答えた。

「わかりました。重田さん、俺は貴方に従いましょう」

「私も同意見です。一刀様の意思は私の意志。一刀様が矛を貴方に預けるなら、私も貴方の盾になりましょう」

「はっは、これはいい。世界にこれほど硬く切れ味のいい『素質』という盾と矛を兼ね備えた逸材は他にいないな。私の名前は重田昌人。以降は……まぁなんとでもと呼んでくれ」

「わかりました。それではこれからは昌人さんと呼ばせていただきます。改めて、俺の名前は北郷一刀です。以降は一刀と呼んでください」

「私は関羽、字は雲長。真名を愛紗。大主よ、貴方に私の真名を預けます」

「そうか………一刀君、愛紗ちゃん。短い期間ではあるが、二人ともよろしく頼む」

こうして一刀達は昌人とがっちり握手を交わして、仲間の誓いをたてたのであった。

 

後付けの様なもの

 

「それにしても昌人さん。何故あの時の脅し道具が卵だったんですか?」

「だって、ナイフとか取り出したら、シリアスさが目立つだろう」

「………何をいっているかよく判らないのですが?」

「つまりだ。今回は学園物にしたいという作者の意向に従い、100%シリアスだけは控えただけだ」

「………それでも何を言っているか分からないのですが?」

「………大人の事情というものさ」

「えrゲフンゲフン……恐い!!大人の事情!!」

 

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