超次元ゲイムネプテューヌmk2 希望と絶望のウロボロス
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「――――――――――」

 

 その言葉にユニは思考が止まった。目の前のすっかり別人のように変わってしまったネプギアの言葉があまりに現実的ではなかったからだ。

 彼女には姉がいる。ラステイションの、ゲイムギョウ界の中で最優とも言われる守護女神――――ノワール。彼女が、否、ネプギアの言葉は女神全ての行いを非難する事だったからだ。ネプギアの傍にいたアイエフ達も言葉にあるものは唖然と口を開き、ある者は疑う様に目を細める。

 

「どうしようもなかった。これは結果論でしかないのかもしれない運命の悪戯だとしても―――――お姉ちゃんがしたことは一人の人生を鮮血と悪性の大海に沈めたんですよ。たった一人で」

 

 なぜ、零崎 紅夜があれほどまでに狂い果てたのか、その答えをネプギアは知っている。性格には教えられたのだ。まだプラネテューヌにいた時に、ラステイションに出発する前夜に空に呼ばれ、話されたのだ。

 

 

―――――どのような善意があっても、全ての歯車が悪い方に向けた。その原因の切欠は人であり、目の前の地獄に背中を押してしまったのは女神であること、と。

 

「((守護女神|私達))はお兄ちゃんに呪いを掛けたんですよ。私達の為に死んでくださいって、そんなふざけた事を祝福としてお兄ちゃんを満たしてしまったんです」

 

―――――なにもかも、巡り合わせが悪かった。それを気づくのに、僕も|君達《女神》もあまりに遅すぎた。そう、あの窓から差し込む月光に照らされた空は、あまりに惨劇を目の前に目を背けたいことを振り絞り耐える様に呟いた。

 

 

 

 

 

 

 時間は数日前に遡る。プラネテューヌを旅立つ前夜、ネクストブラッディに受けた傷を癒したネプギアはイストワールから伝言に一人である扉の前に立っていた。呼び出した本人はきっと寝る事すら必要のない体であるために、起きているだろうが親しき仲にも礼儀ありという事で、ノックをしようと握り拳を扉に近づけたその時。

 

『いいよ。ネプギア、入ってきて』

「……失礼します」

 

 中から透視したように、扉を通して聞こえた声にネプギアはドアノブに手を掛けて入室する。病室に白い空間の中で電気すら付けていなかったが、窓から差し込む月の光が足元を照らしていたおかげで問題なく足を進めることが出来た。部屋の片隅にはベッドががあって、そこにはネプギアを呼んで張本人がいた。

―――――夜天 空。数年前までこのゲイムギョウ界の裏の支配者。女神すらその存在は確認出来ておらず、その実力は四女神を相手にしても遊べる程、もし最初から彼もしくは彼女がこの騒動に全力で取り組んでいれが数日で犯罪組織が消滅させていただろう。

 

「夜遅くすまないね。君の事だから、ネプテューヌとは違って明日の準備はきちんとしているよね」

「……はい」

 

 まるで別世界に住んでいる様だとその実力と容姿も合わさって女神すら畏怖される存在は変わり果てている。全身に巻きつけられた包帯、顔も片目以外すべてだ。山を形成できるほどの大軍のモンスターに体中を貪られ、両手両足も喰われ付け根がどこにあるのかすら分からない状態だ。人で例するなら心臓を潰された状態でネクストブラッディに立ち向かった末路だと、本人は笑っていたが、明らかに異常の姿だ。

 

「ネプテューヌは……そうだな。遠足だったらきちんと準備しているけど、寝不足する。こういった事だと君か仲間が代わりに準備を整えていそうだ」

「確かに、そうですね。でも、お姉ちゃんもやる時は凄いんですよ。貴方を倒してあるべき自由を取り戻したんですから」

「そう言われると、耳が痛い」

 

 恐らく呼吸器官すらない体でどうやって話しているのか気になるか、緊張するネプギアを和らげるように雑談をする二人、いつの間にか用意されていたベットの隣に用意されていた椅子に座った腰を下ろして昔の話題に二人は微笑ましく笑い、ネプギアは心を落ち着かせた所で空は、鋭く深くここにネプギアを呼び出した話題を口にする。

 

「ネプギア、君は紅夜のことが恐ろしくない?」

「……………」

 

 ネプギアの沈黙に拳を強く握る様子に目に入れず空は、容赦なく口を開く。

 

「ブラッディハードの役目は種のリセット。人間の様な知的生命体は良くも悪くも発展しすぎる自らを絶対と表するように。その過程で空と自然は汚れ、他の弱き生命体は淘汰されていくか環境に適応できずに死していくか……星という数多の生命が暮らす中で、たった一つの種をいつまでも優遇するわけにはいかない」

「……だから滅ぼすんですか?」

「一つが十に害を成すなら、その一を切り捨てた方がいい。((秩序と言うのはそういうもの|・・・・・・・・・・・・・))だから」

 

 女神という者は人の為に、冥獄神は星の為に、それは絶対に理解できない同時の方程式。最初から見ている景色が違う、最初から住んでいる世界が違う、最初から生きている次元が違う、一つの種の全てが他の種を思いやることは有りえない。もし、そのような事が起きてしまえばその種は生産性が衰えていき、勝手に滅びるだろう。良くも悪くも生命連鎖の根源は弱肉強食、弱き者は淘汰され強き者が生き残る鉄則。

 

「けど、過ちに気付く事が出来たのなら……生命の対しての感謝、手を取り合う事によって生まれる団結力によって少しでも善性を持つ者達が増えて、暗き欲望に精魂を浸食された者達を止めて、道徳に外れた者達を裁く者達が現れて、秩序を整えるのなら―――――その種はまだ進化しつづける意味と価値がある」

「……つまり、ブラッディハードは種に対する試練、なんですか?」

「正解だよ。ネプギア、汚れきった生命に誰もが同調するような絶対悪を造りだし襲わせる。生命の繁栄における最大の障害として、それを乗り越えてこそ、新たなステージに上がれるだろう。……もし、それに協力できずに滅びてしまえば、その種はいつまでたっても変われなかった弱き者――――((そういうことになる|・・・・・・・・・))」

 

 つまり女神はその逆、その世界で最も優れた生命を愛し育むのを守る冥獄神とは対極の存在。お互いその力の根元にあるのは良くも悪くも意志の力。同じ存在の様に見えるが視点が異なり、故に光と闇の様な関係。

 ………だから、ネプギアはふと思いついていた。彼女に記憶に残る手を取り合う女神と冥獄神の姿は――――――

 

「そう、女神と冥獄神が手を取り合う。その事態がお互いに存在を破綻させている。……特に広すぎる視野を持つ冥獄神は特にね」

「――――――それじゃ、私は、私達はお兄ちゃんの手を取る事が間違っているというのですか?」

「……そもそも冥獄神の誕生は偶然と偶然が上手い事に組み合わさり、強い意思が必要なんだ。……だけど、紅夜の場合は違う、あれは本来の仕様を穢し狂わせた人為的な神格だ」

 

 あれは人を思い、人を愛し、人を守ろうとする女神の仕様に近い冥獄神――――だったのだが。

 

「その器―――――紅夜はあまりに幼すぎた。環境と巡り合わせが史上最悪だった」

「…………何が、ですか?」

「さっきも言ったけど、女神は知的生命体を守る存在――――話が面倒だから人を例にするね。あれは人を守る器じゃない、そういうものじゃない。女神に憧れたから、そういう近い者になっただけだった」

「…………はっ?」

 

 憧れる最愛の姉の様に人の為にあろうとするあの誠実な姿勢を空は、まるで出来の悪い木偶人形の踊りに目も当てられない様に苦い表情で言い放った。

 

「話をするよ紅夜の過去を、誰かの物になろうとした愚かで幼すぎた子供に手を差し伸べた女神と周囲の人々は造り出した光と闇の大きすぎる境目に狂ったまま、人の総意を受け止める器となることを決意してしまった経緯」

 

 思い出してみればネプギアは紅夜の事をほとんど知らない。知る機会がなかったといってもいいし、なにより今の人生を楽しそうにしていた彼なのだから、聞く必要も思いつかなかった。しかし、人間も女神すらも理解できない深淵の闇には確かに狂気を孕む彼がいたのだ。

 

「ネプギア、この話を聞いてまた最初の質問に戻るよ。どうしようもないと判断した時は、並行世界からゲハバーンを持ってきていい紅夜を討て、僕が討っていい―――――有り様によっては、紅夜は世界に住む種を全て鏖殺する災厄の化物と化す」

 

 それは誰も知らず、見えず――――巡り合わせと周囲の期待は最悪の狂気の卵を孵化させようとしていた。

 

 

 

――――――空が語り始めたのは、紅夜の始まりからだ。

 つまり、この世界に来たばかりで記憶がない真っ白のキャンパスのようだった時期の頃だ。

 紅夜は、モンスター討伐帰りの緑の大地の女神――――ベールに拾われた。女神である彼女は、少し警戒しつつも紅夜を拾い、事情を聴くことになった。結果は記憶喪失、人より遥かに生きているベールはその言葉に嘘偽りがないことを確信することができた。

 しかし、人はそうでもなかった。当時宗教的に大粛清が行われた事態が終息した時に現れた怪しい人物にスパイではないかと、誰もが疑った。それは、いつも疑惑の視線を浴びる精神的拷問の日々、食事も睡眠も24時間体制での監視、本人は口癖のようにスパイではないと訴えた。誰もその言葉を信じることは出来なかった。

 

 唯一、紅夜によって救いの時間がベールとの一時だった。守護女神戦争の最中故に会える事は少なく、時間も短い物だったが、それでも一日中向けられる疑惑の中で、温かい陽光の様な微笑にまるで弟のように面倒を見てくれたベールに紅夜は心底感謝した。

 

――――――そう、誰も信じられない敵の中で唯一与えてくれた。甘い蜜のような毒に紅夜は依存してしまった。

 

 狂信者の誕生である。紅夜は女神の在り方を真っ先に学んだ。ベールの役に立ちたいと血走った目で監視の目も気にせず学び、自分にできる事―――――モンスター退治だった。

 

 ベールに感謝される程に褒められるほどにその狂気は加速していく、元より人間の体ではなかったこともあり限界も分からず、ただ走り続けた。

 

 女神の様になりたい、女神のようになったら、自分を助けてくれたベールの為にもっともっともっと恩返しが出来る!

 

 女神に固執し、嫉妬し、依存していく………そんな無理に無理を重ねた行為はベールに手によって収まり、少しずつ人間味を戻して言っていた。そんな時に始まったのが、ベールの次に信頼できる人だったから言われた国の発展の為に”女神”ネプテューヌを暗殺せよする依頼を断った時に紅夜は人の手によって殺された。

 恐らくその時からだろう。零崎 紅夜の形成されていく人間性に罅が入ったのは、最愛の女神であるベールすら敵に回し、成し遂げたのは国の秩序、しかしそれは紅夜にとってはどうでもいいことだった。

 国があってこその女神である鉄則を理解できない紅夜は女神の為に、行動を起こすことしか考えられなくなった。故に善悪すら理解できない。否、紅夜の思考は女神から始まり、女神に終わる。

 女神が望まなくとも、女神の為ならばと喜んで身を捧げる――――どうしようもない存在の誕生だ。故に世界の重さを知らず、見えず、理解できない紅夜は女神の苦悩を振り払う為に、喜んで冥獄神となった。そういう物になってしまった。

 

 冥獄神はその星の種を負を餌に力を増幅させる。しかし、それは常に自爆のリスクを背負う。故にそのシステムを作り出した空は、その大質量の悪性の意志を受け止めても、己の意志を貫く強さがいる者を素材にできる様に手引きしていたが、紅夜という冥獄神はそれを知らない。女神に執着する意思は冥獄神と言う存在を自己破綻する。紅夜自身が冥獄界を殺す毒と成り果てているのだ。それは正気の沙汰ではない苦しみを味わうだろう。

 

 滅ぼすべき人間という種を壊れ始めている紅夜は人々の悪性の根源――――自己破滅に飲まれていく。魂まで到達するであろう滅びの熱情に今まで抗えていること自体が奇跡だと言っていい。それが女神の望むべき未来を歪ませていくのも時間の問題、どこまで紅夜の意志の矛盾に塗れた持つのか空にも分からない。

 

 

 ただ確実に言えるのは、零崎 紅夜はブラッディハードに相応しくなかったという結果だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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