IS ゲッターを継ぐ者
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「やっぱりさー、ハヅキ社製のがいいよね」

 

「そうかな? ハヅキはデザインだけって感じじゃん」

 

「そのデザインがツボなの!」

 

「私はミューレイのスムーズモデルかなぁ。性能的にもいいし」

 

「あー、でもあれ高いじゃん」

 

「あ?……おはよー」

 

 

 今日は月曜日の朝。ダルくておっくうでしょうがない。

 

 なにせ昨日テレビつけてやってたサDエさん見てたらサザDさん症候群になっちゃったよ……。

 

 うわぁいやだ。気が重くてしょうがない。今度からDザエさんは観ない。うん、そうしよう。そうしよう、双子葉類。なんつって。

 

「親父ギャグなのそれ……?」

 

 

 どうやら聞こえてみたい。あれ、皆して顔ひきつらせてる。面白くなかったか?

 

 

「た、滝沢君はさあ! ISスーツって何処のやつなの? 見たことないタイプだけど」

 

 

 カタログを手に、元気に聞いてくるのは確か……鏡ナギさんだ。うん。名前と顔を覚えるのは結構大変だ。なんとか今、クラス全員が分かるくらいになった。

 

 見せてきたのはISスーツのカタログ。

 

 

「なんだっけなぁ。どっかの研究所がカスタムしたって聞いてるけど。元は……あ、イングリッド社のストレートモデルだ」

 

 

 ノートにメモった内容を読み伝えると、皆「「「へぇ?」」」と珍しげな反応。

 

 いや僕は初めてISスーツ見た時になんじゃこりゃって思ったよ。なにあのペラペラ。マブ○ヴですか。

 

 下がアレなったらどうすんだ全く。男に優しくない。

 

 僕は號さん達が真ドラゴン乗ってた時の白と赤、青、黄色のカッチョいスーツが一番好きだわ。あ、ちなみに僕は竜馬さんのお下がり着用してた。

 

 しかし本音を言うなら……。

 

 

「ぶっちゃけ性能がいいなら超合金のスーツでもOKだね」

 

「……マジで?」

 

「本気と書いてマジと読む」

 

 

 アイアンな社長のスーツを見てみろ。あれはいいものだ……。一回パソコンで観たけど惚れたぜ!

 

 ただ絵に描いてみたらクラスの皆には「う?ん」な反応。何故だ、劇中では秘書(女)の方も装着していたのに。

 

 

「んーとじゃあ、マヤマヤに戻す?」

 

「いやそれも……」

 

「じゃあヤマヤ」

 

「それは勘弁して下さい!」

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 

「諸君、おはよう。席につけ」

 

 

 カタログを見てたりノートの絵にう?んだったり山田先生がなんかいじられてたりする教室。チャイムが鳴ると入ってきたのは我らが担任、織斑先生であります。

 しかし平和だなぁ。耳をすませば色々な声が聞こえてくる。

 

 

「ほら席についてー」

 

「そう言えばこの間の対抗戦なくなっちゃったよね」

 

「フリーパスがぁ?」

 

「なーんかごちゃごちゃだよ」

 

「あ、やっぱマヤマヤにしようか?」

 

「それもやめて下さい……黒歴史なので……」

 

 

 まるで何事もなかったかのよう。

 

 だから思ってしまう。緩くないか? つい先日メカザウルスが暴れまわってたのに。

 

 あの一件は実験用IS……いやちょっと無理があるだろうと言いたいが、とりあえずそういう事になって箝口令がしかれ、僕や鈴さん、セシリアさんは誓約書まで書かされたくらいだったから。 そういや鈴さん大丈夫かな。試合以来見てないけど……。

 

 

「今日よりISの実技訓練も本格的になる。各自スーツの申し込みを済ませておけ。それまでは学園支給のものを使用してもらう。忘れた場合は体操着か水着で受けてもらうがそれも忘れたら……まあ下着で構わんな」

 

「いやアカンでしょう!?」

 

 

 反射的に立って叫んでしまう。そんな事になったらパラだ、ンンッ! 天国と地獄と煉獄が一緒になった世界位にえらいことになるよ!

 

 

「大体そんなんで受ける人なんて」

 

「この山田先生は去年に四回下着で受けているぞ」

 

「お、織斑先生ェッ!?」

 

 

 ……あかん。マジだった。

 

 

 すみません山田先生。絶ッッッ対に僕は体操着を忘れない様にします。

 

 心に誓って僕は座り直した。

 

 

「では山田先生、ホームルームを」

 

「うぅぅ……。き、気を取り直して話をさせて貰います……」

 

 

 連絡事項……と言う名の公開処刑を言い終えた織斑先生が普通に山田先生を引っ張り出す。鬼かアンタは。

 

 頑張れ山田先生。公開処刑の屈辱と眼鏡の宿命を乗り越えて。

 

 

「み、皆さんに大事なお知らせがあります。この一組に転入生が来ることになりました! しかも三名です!」

 

「なぬ?」

 

「「「えぇぇーっ!」」」

 

 

 山田先生の一言で、一気にクラスがざわめき出した。

 

 学校嫌いの僕だって知ってるよ、転入生とかは一大イベントだ。しかも三人?

 

 これに反応しない訳がない。

 

 

「じゃあ入ってきて下さい!」

 

「失礼します」

 

「………………」

 

「……失礼します」

 

 

 そう山田先生が言うと、ドアが開き転入生という三人が入ってきた。

 

 ――次の瞬間、静寂が包み込む。

 

 皆が急に静かになったのもある、けど。それは僕もだ。

 

 言葉を失う。絶句。次いで、どうしてという疑問が沸き上がってくる。

 

「嘘、だろ」

 

 

 いつの間にか、口からそう零れていた。

 

 なんで。なんで?

 

 どうして?

 

 なんで……アイツがいるんだ!?

 

 驚愕と疑問の中、僕の視線は転入生の一人……男子の制服を着込んだ少年へ釘付けとなった。

 

 

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスより転入してきました。よろしくお願いします」

 

 

 一組に転入してきた三人。

 

 一人目は綺麗な金髪、アメジストを思わせる瞳のシャルル。

 中性的な外見に礼儀正しい振る舞い。男子の制服姿だが体は細く華奢。一見すれば女とも見間違えてしまいそうで、貴公子、と現すのがピッタリだ。

 

 最後ににっこり、と微笑むと誰かが聞く。

 

 

「お、男?」

 

「はい。この学園に僕と同じ境遇の方がいると聞いて――」

 

「「「きゃあぁぁぁぁーーっ!!」」」

 

「えっ!?」

 

 

 突然発生した黄色い絶叫にビックリするシャルル。当然と言えよう。二人目の男子で、見た目は非の打ち所がない中性的な少年。そんな貴公子がクラスメイトと聞いて、年頃な女子が食いつかない筈がない。

 

「二人目の男子! しかも金髪の紳士よ!」

 

「守ってあげたい系の!」

 

「男子が二人……キタ! キタわコレ!」

 

「フフフ、イマジネーションが刺激されるわぁ……」

 

 

 一部に腐ってるのがあるが気にしてはいけない。いけないのだ。

 

 

「貴様ら、静かにせんか。まだ自己紹介が終わってない」

 

 

 担任たる千冬の注意でなんとかクラスは静まっていった。

 

 一人目の転入生、シャルルは大いに盛り上がりながら迎え入れられた。

 

 だがしかし、次からは一転することとなる。

 

 

「………………」

 

「挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

 

 第一声がこれである。

 

 二人目の転入生、ラウラ・ボーデヴィッヒ。腰まで届く銀髪、左目を眼帯で覆った赤い目の小柄な少女。

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 

 その一言だけを言い切り「以上だ」と締めくくる。

 

 反応はシャルルの時とは反対に沈黙。呆気にとられ、どう反応していいか分からないというのが皆の思い。

 

 沈黙していたかと思えば担任の千冬を教官と呼ぶ。それ以外に特に喋らない。どんな反応を返せばいいと言いたくなる。

 

 

「つ、次の方お願いします!」

 

「はい。アヤ・ケントンです」

 

 

 クラスの空気を変えようと真耶が三人目の転入生に促す。

 

 黒髪のショートカットに紫の瞳の少女アヤ。

 

 別に変な部分はない。普通に自己紹介した。普通に。

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

 普通にして、お辞儀して、終わり。

 

 寡黙な感じと丁寧な口調が相まって、説明書を読んでやった、みたいな感じであった。

 

 と言うか前の二人が濃すぎて、普通だったアヤには反応が薄い。

 

 グラフで現すなら上がってバン、下がってドン、真っ直ぐでズーン。なんだこれは。 騒いで静まって沈黙。非?常になんともいいがたい空気に副担任の真耶は「あ、あわわわ……」と涙目。一組クラスもほぼ全員冷や汗だ。

 

 こうなった原因のラウラとアヤは沈黙、シャルルも苦笑いの中、パンパン、と渇いた音が響き渡った。

 

 

「いつまでもボーッとするな。転入生の自己紹介は終わったんだぞ」

 

 

 気持ちを切り替えさせるべく千冬が言う。

 

 

「次は二組との合同授業だ、遅れるなよ。滝沢はデュノアを案内してやれ」

 

 

 やっとクラスが再起動し、各々授業の準備を始めた。

 

 

「よろしく。滝沢君」

 

「………………」

 

 

 ただし一名、光牙からは返答がない。

 

 

「ん? 滝沢、どうし――」

 

 

 グラッ……バッタン。

 

 

「「「えっ」」」

 

 

 返答がないのを不審に思った千冬が声をかけると、椅子に座った光牙は、そのままの態勢で傾き……倒れた。

 

 思いもやらぬ事態。再び教室が静まり返る。

 

 それを打ち破ったのは……

 

 

「こ、光牙ァァァァァァァァッ!!??」

 

 

 言うまでもなくこの方、織斑先生。ガラス窓が割れるんじゃいってくらいに絶叫、慌てて光牙に駆け寄る。

 

 

「た、滝沢君大丈夫ですか!」

 

「ど、どうしたの一体!?」

 

「こ、光牙!」

 

「光牙さん!」

 

「いかん、気を失っている……! ボーデヴィッヒ! 担架だ、担架を持ってこい!」

 

「は、ハーゼ1了解!」

 

 

 騒然となる一年一組。千冬が指示し反射的にラウラは敬礼して言われた通り担架を持ってきた。それで光牙は運ばれ、午前中は目を覚まさなかったという……。

 

 

 

 

 

 

『嫁にしたいわマジでーーー!!』

 

「あぁぁぁーっ!? ……え?」

 

 

 またまた悪夢を見た光牙。最初は某ブラコン、次は某可能性の獣、今は某偽の恋の主人公が出てくるというよく分からない悪夢を見てもう流石にイヤになってきたりする……。

 

 

「……いやだわあんなん」

 

 

 顔芸して絶叫して腹の底から絶叫して欲望を絶叫してるのだからそうも思いたくなる。しかも全員同じ声でなんか気になると来た。

 

 飛び起きた光牙の体は汗ビッショリとなっている。

 

「光牙、大丈夫か?」

 

「あ……織斑先生」

 

 

 現れた千冬から光牙は事情を聞く。なんでも朝のHRで、転入生の紹介が終わるとぶっ倒れ保健室に運ばれたのだという。

 

 

「あ゛っ」

 

 

 思い出した光牙。同時に倒れた理由も……。

 

 あの金髪の少年、確かシャルル。彼の姿が思い出したくもない記憶と重なり、震えが止まらない。

 

 アレは光牙のトラウマ、それもナンバーワンに相応しい程の……!

 

 

「本当に大丈夫か?」

 

「……ダイジョウブですよ?」

 

「全然そうは見えないんだけど」

 

 

 様子を見に来た保険医サキの冷静なツッコミ。ガタガタ震えてて冷や汗かいてるのに大丈夫だとは見えまい。

 

 そんな光牙は午前中ずっと授業を休んでいたので、流石にこれ以上は休めない。少し挙動がおかしいのは気にはなるが、他に問題はなさそうなので午後からは復帰する事になった。

 

 

「あ、そう言えば千冬さぁ」

 

「なんだ」

 

「いつの間にか滝沢君のこと、光牙って呼んでるよね」

 

「それがどうした?」

 

 

 光牙が去るのを見送ると、サキが千冬に聞く。何か問題があるかという千冬だが問題ありありだ。

 

 

「場を弁えなさいよ。生徒や他の先生の前とかで言ったら面倒になりかねないわよ?」

 

「む……」

 

「確かに似てるかもだけど、滝沢君は滝沢君なのよ」

 

「……分かっているさ」

 

 

 まるで叱るかの様にサキは指摘した。言い聞かせる様にも聞こえたそれに、千冬はサキから顔を逸らしながらも頷く。

 

 分かってはいるのだ、と言わんばかりに。

 

 

 

 

 

「あっ、こーくん?」

 

 

 昼飯は購買で買ったパン、スーパーロングBLTサンドで済ませた光牙は教室に向かい、入るなり本音がとてとてと近づいてくる。

 本音の声で気づいた谷本や相川、箒にセシリアと言った顔見知りがそれに続いてきた。

 

 

「大丈夫なのか、光牙? 急に倒れたから心配したぞ」

 

「何処かお体の具合でも?」

 

「いや。ちょっと貧血みたいなもんだよ」

 

「貧血? 意外だねー、滝沢君いつもご飯いっぱい食べてるのに」

 

「食べ過ぎもよくないんじゃない? 太っちゃうよ」

 

 

 思い付いた適当な嘘で誤魔化せた。ゴメン、と謝罪を心の中でしておく。

 

 

「でも大丈夫そうで良かったわ」

 

「うん。怪我してたら大変」

 

 クラス一のしっかりものと言われる『鷹月静寐』、物静かな感じの『夜竹さゆか』に、一組面子がうんうん、と頷いた。

 

 それに光牙は?と言った感じ。

 

 

「皆して何故に?」

 

 

 気づかない、このバカは。

 

 

「あーそうだ。でゅっちーにケンケン?ちょっと来てー」

 

 

 本音がこいこいと手招き。やって来た二人の人物、その片方に光牙はビクッとなってしまう。

 

 

「知ってるかもしんないけどー、倒れたこーくんに紹介しよう。でゅっちーとケンケンだよ」

 

「なんで本音が仕切るの?」

 

 

「あとそのあだ名じゃ紹介にならないって」

 

「アハハ……そうかもね」

 

「確かに」

 

 

 谷本、相川にツッコまれるが「あやー?」と本音はおとぼける。フリーダムっぷりに手招きで来た二人、シャルルとアヤもちょっと困り気味だ。

 

 だが残念、布広本音のあだ名に一度捕まれれば決して逃れれはしない。断言できる。

 

 蛇足だが最初、シャルルはあだ名が『シDロ』でアヤは『あDや』だったが二人や周りの説得で今のになったのを記しておく。

 

 そのシャルル、アヤが光牙に向き直り、改めて自己紹介する。

 

 

「初めまして、滝沢君。僕はシャルル・デュノア、よろしくね」

 

「アヤ・ケントンです」

 

「た、滝沢光牙です。こちらこそ、よ、よろしく」

 

 

 何故かどもる光牙に首を傾げるシャルルやアヤ、それに本音ら。

 

 

「どしたのこーくん」

 

「べ、別になんでもないよ。なんでも」

 

 取り繕う光牙。その目をシャルルから外しながら、だが。

 

 

「大丈夫だ。大丈夫だ僕……。ダイジョウブダイジョウブ……だよね?」

 

 

 いや知らんがな。

 

 

「はぁぁ?」

 

「本当に大丈夫なの??」

 

 

 ぶつぶつと言い聞かせる光牙。と思えばため息。はっきり言うが少し不気味だ。

 

 周りの本音達も困惑している。

 

 

「………………」

 

 

 そんな彼をシャルルは観察する様に。

 

 

「……フン」

 

 

 二人目の転入生ラウラは睨み付け。

 

 

「……やっと、会えましたね」

 

 

 三人目、アヤは静かに呟いて光牙を見つめていた。

 

 それからも授業は普通に進む。

 

 

「本日の5、6時限目は二組と合同授業だ。2時限目は視聴覚室で映像を見る」

 

 

 教卓に立つ千冬が一枚のDVDを取り出しながら言う。

 

 真耶に従い一組生徒はぞろぞろと教室を出て視聴覚室へ向かう。二組生徒と教師は既に席へついていて、席は決まってないそうなので、光牙は空いていた席に座る。

 

 すると隣より声をかけられた。

 

 

「久しぶりね。光牙」

 

「あっ、鈴さん」

 

 

 怪我でしばらく姿を見ていなかった鈴であった。まだ腕に包帯を巻いているが元気そうだ。光牙はホッと一安心。

 

 

「怪我、大丈夫ですか?」

 

「入院とかしたけど検査よあんなん。大袈裟なのよ全く」

 

 

 困ったもんよね、と首を左右に振る鈴。

 

 まあ代表候補生だから、その分気にかけてられているのだろう。

 

 

「光牙さん、良ければお隣に、え゛っ」

 

 

 光牙の隣を狙いセシリアがやって来た。憧れの光牙の隣に座ろうと思っていたが、鈴の姿に目を丸くする。

 

 

「何よ。人の顔見て失礼ね」

 

「ふ、凰さん。怪我はもう、よろしいんですの?」

 

「メンドイから鈴で良いわよ。アタシも名前で呼ぶから。大したことないわ、こんなん」

 

「そ、そうですの……。って、勝手に決めないで下さいまし!」

 

「べっつにいーじゃない。おんなじ代表候補生なんだし」

 

「意味が分かりませんわ!」

 

 

 鈴へ抗議するセシリア。だがそんなに騒いでたら不味い。担任が誰かを考えれば、痛い思いをする事に……

 

 

 シュコーン!!

 

 

「あうっ!?」

 

「(あ、やっぱり……)」

 

「静かにせんか馬鹿者」

 

 

 なりました。

 

 炸裂、織斑先生の黒き得物(出席簿)。今回は仕込まれたワイヤーで伸び縮みし、角がセシリアの後頭部に当たると手元へヨーヨーみたいに戻っていく。

 

 

「オルコット、早く席に着け。授業が始められん」

 

「も、申し訳ありません……」

 

 

 お叱りを受けてしまったセシリアはすごすごと座った。クスクス、という笑いが追い討ちをかけ身を縮める。

 

 

「ンンッ!」

 

 

 前の千冬が咳払いし、意識を切り替えさせる。全員がいるのを確認すると、説明を始める。

 

 

「今から視聴する映像は、第一回モンド・グロッソ、翔舞(しょうぶ)部門のものだ。配ったプリントには映像を見て感じたこと。最終的にどう思ったかを感想としてまとめてもらう。そのつもりで見る様に」

 

 

 はい、と皆が頷く。

 

 真耶と二組担任がプリントを配り、全員に行き渡るのを確認すると教師達は、一番前の巨大モニターの脇にある機械を操作し始めた。

 

 真耶のリモコン操作で窓が曇り、二組担任が電気を落とす。光源が前面のモニターだけになり、映画館みたいな雰囲気になって映像が始まった。

 

 モニター内には、きらびやかなISを纏う女性が飛翔する姿が映し出される。

 

 

「翔舞部門とは……まあそうだな、IS版フィギュアスケートだと思ってくれればいい。規定フィールド内を音楽に合わせ舞踊るものだ」

 

 

 

 かなり噛み砕いた感じだが、千冬は戦闘の達人だ。ジャンルが違うからそうなるのも仕方ないだろう。

 

 

「(あれは織斑先生に合わない感じだしなぁ……)」

 

 思わず光牙がそう思う。すると、だ。

 

 

「……いや。私もこれから全部門優勝を狙うか」

 

「「「「「……はい?」」」」」

 

「全部門優勝で真なるブリュンヒルデ……ステラブリュンヒルデを目指そうか。そうするか」

 

「どうしたオイ」

 

 

 何処ぞの東で不敗だった師匠が、東西南北中央全てで最強を目指すかを宣言するかの如く一人決意する千冬。

 

 ……はっきり言おう。見た目がすっごい怪しい、あと怖い。

 

 またまた千冬に対する何かが揺らぎ、

「き、教官?」

 

 

 ドイツの兎隊長は困惑してたりする。

 

 うん、そりゃそうだ。

 

 

 

 

「……まぁ」

 

 

 光牙の隣にいるセシリアがほう、と息をついた。

 

 似たような反応がそこかしこで上がる。

 

 映像の中では、ISが優雅に舞っていた。ISが衣装、まるで一つになっているかの如く。

 

 光がISに反射し、機体各所の装置からは演出の為だろうか? 粒子みたいなものが放出されて舞い散って、とても綺麗・優雅であった。

 

 

「スウェーデンのIS『ヴァルキュリア』のパイロット『アリー・フィアティ』さんです。彼女が第一回、第二回モンド・グロッソの翔舞部門の優勝者でヴァルキリーの一人なんですよ」

 

 最強の五人たるヴァルキリーを教材に使うとは、流石は天下のIS学園といったところか。

 

 真耶の説明に、一組二組生徒は感嘆を受けた。

 

 

「美しいですわ」

 

「へぇ。ISはこんな風にもなるんだ」

 

「………………」

 

 

 両隣のセシリア、鈴が見惚れ驚いている。

 

 しかし光牙は、最後まで難しい顔で映像を観ていた。

 

 

 

 

「すごかったよねー、あの映像」

 

「あの光とか綺麗で見惚れちゃった」

 

「あぁ?私もあんな風にISで踊ってみたいなぁ」

 

 映像の視聴終了後。

 口々に感想を呟き話しながら移動する、一組と二組生徒。翔舞部門の映像に惚れたり、ISが綺麗だったと話したりしている。

 

 

「ふぅ?」

 

 

 光牙も一緒に移動中。息をつきながら配られたプリントを見た。映像の感想をまとめ後日提出をしなければならない。しかも感想欄にはギッチリ書けよ、と千冬が釘を刺してきた。

 

 だが感想欄の広さはどう見ても三十行位は余裕で書けそうなサイズ。学校嫌いの光牙が憂鬱になったのは言うまでもない。

 

 しかしどうしても光牙は気になる事があり、放課後に千冬と真耶の元を訪ねる。 いつもの会議室で、教師二人へ光牙は向かい合う。

 

「どうしたんですか滝沢君? 気になる事があるって」

 

「今日の授業で観た映像についてです」

 

「あれか。何処か分からない部分があったか?」

 

 

 千冬が聞くと、光牙は一度口を閉じてから、少し考えて話し出した。

 

 

「先生、あの映像は勿論本物ですよね」

 

「それはそうですよ。偽物なんか授業で使える訳ないじゃないですか」

 

「……正直、あれを見て僕は少しおかしく思いました」

「おかしい?」

 

「不審と言いますか……。こう言うのもあれなんですが、僕の中ではISを兵器だと思ってます」

 

「「…………」」

 

「それが全てだとは思いませんけど、少なからずISには人を殺せる力があります。だから、今日の映像でどうしても理解出来ないところがありました」

 

 

 ゲッターに乗り戦っていた光牙は、戦闘力を秘めたISが何故あんな事をするのかと理解出来なかった。

 

 先日のメカザウルス襲撃も関係している。今、この世界の何処かでは恐竜帝国が動いている筈だ。

 

 そんな中で悠長にしていていいのか。いささか呑気過ぎるのではないか。

 

 入学してから今日に至るまでに感じ危惧となった思いを、そのまま伝えた。

 

 

「………………」

 

「成る程な。確かに一理あるかもしれん」

 

 

 真耶は難しい顔をし、千冬は腕を組んで理解出来る部分もある、と頷く。

 

 

「……では聞くが滝沢。貴様はそれでどうしたい?」

 

「え?」

 

 

 いきなり質問され、光牙は思わず声を上げてしまった。

 

 

「今日の映像で疑問と危惧があった、だからなんだ? 何かしたいのか?」

 

「それは……」

 

 

 光牙は危惧したがそれまで。その先を考えてなかった。

 

 これまでにない、千冬の厳しい視線に、思わず冷や汗が背中を伝った。

 

 これが……ブリュンヒルデ。

 

 聞いてはいたが、世界最強の女の片鱗を味わい縮こまってしまう。

 

 

「滝沢。貴様の言い分は分からんでもないが、お前の世界とこの世界は違う。仮に今の意見を世界に述べても、十分な力はない」

 

「………………」

 

「自分の考えが他人だと思うな。お前が危惧しても、そうは思わない者もいるという事を忘れるな」

 

 

 思っても、それを他人へ意見を押し付けるなと警告する千冬。

 

 

「……すみません。考えが浅はかでした」

 

「……いや、一理あるとも言ったろう」

 

 

 千冬は立ち上がると、光牙の頭へポン、と手を乗せわしゃわしゃとかき回した。

 

 

「わぁぁ! な、なんですか?」

 

「お前のは間違ってもない。最低限の警戒は勿論必要だという事だ」

 

「話してくれてありがとうございます」

 

 

 千冬が笑い、真耶もお礼を述べた。

 

 少なくとも光牙の危惧は、全部が無駄ではなかったのだ。

 

 

「だが、気を付けるのはお前も一緒だぞ。立場上、お前はいつ狙われてもおかしくはないんだ。何やら生徒間とかできな臭い部分もある。私達も出来る限りはするが、お前も警戒しとけよ」

 

 

「はい」

 

 

 話の内容を頭に叩き込み、光牙は職員室を出た。

 

 

 千冬からの警告の意味、ベーオの修理の事もあったりして、光牙は頭を悩ませる。

 

 

「あっ! て言うか映像の感想書いてねえ!!」

 

 

 唐突に思い出した光牙は急ぎ自室へ戻り、こういうのには慣れてないし苦手な為、クラスメイトらに聞いたりしながら映像の感想を何とか書き終えたのだった。

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第十七話です。
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謎反応 授業風景 原作改変 オリキャラ ラウラ シャルロット 光牙 ゲッター インフィニット・ストラトス 

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