機動戦士ガンダムSEED Destiny 凍て付く翼
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第6話 衝突

 

レーダーからアビスの反応がロストする。

脱出装置は機能して居らず、それは機体が破壊された事を意味し同時にパイロットのアウルが戦死した事を意味した。

マスクで隠れたネオの表情は見えない。

 

「アウル……馬鹿野郎が!!」

 

操縦桿を固く握りしめるネオは前線から撤退する。

ネオの撤退命令を受けて連合軍の部隊は全機前線から離脱した。

海上にはミネルバと発進したモビルスーツしか居ない。

インド洋前線基地で待機してたステラは空を見上げると、目の前に見える青い機体に憎悪を抱く。

 

「アウルが居ない……アウルが……アウルが……うあああぁぁぁ!!」

 

感情的になるステラはペダルを踏み込みメインスラスターで機体を加速させ飛び出して行ってしまう。

その様子はインパルスに搭乗するシンにも見えた。

 

「レーダーに反応、アレはガイアか? よし!!」

 

シンは奪われたガイアを撃破しようと戦線近くの陸上に向かってインパルスを飛ばす。

モビルスーツ部隊の指揮を執るアスランは単独で先行するシンを通信で呼び止めた。

 

『シン、前に出過ぎだ。敵の陽動かもしれない』

 

「相手は1機ですよ。性能は互角、負ける筈ない」

 

『何か仕掛けてる可能性だってある。単独行動は危険だ』

 

(偉そうに。前大戦の英雄だかなんだか知らないけど、満足に戦えもしないヤツに言われて溜まるか)

 

シンはアスランの声を無視して迫るガイアに向かう。

地上は林に囲まれてるが障害物は少ない。

空を飛べないガイアにインパルスは上空からビームライフルの銃口を向ける。

 

「機体を奪われたままで居られるか。必ず落としてやる!!」

 

『お前らがぁぁぁ!!』

 

発射されたビームは地面へ直撃し大きな土煙を上げる。

ガイアはモビルアーマー形態へ変形し犬のようなフォルムに変わると、迫るビームの襲撃を振り払う。

変形したガイアの機動力と運動性能はモビルスーツよりも高い。

何発も発射されるビームはすべてガイアの後方に直撃し激しい轟音が響く。

 

「コイツ、早い!!」

 

『落とす!!』

 

瞬時にモビルスーツに変形したガイアはビームライフルの銃口をインパルスに向けた。

激高してるステラだが訓練された戦闘技術と集中力は凄まじく、正確な照準はインパルスを捉える。

有利な状況での戦闘に油断がなかっとは言い切れず、発射されたビームに反応するのが遅れてしまいバックパックの左翼を破壊した。

黒煙を上げるインパルスはバランスを崩し空中で上手く動けない。

 

「しまった!? こうなったら接近戦で!!」

 

飛べなくなったインパルスはビームサーベルを引き抜きガイアが待ち受ける陸上へ着陸する。

対するガイアもビームライフルを腰部へマウントさせ、サイドスカートからビームサーベルを引き抜く。

敵を目の前にしたステラは酷く興奮しており力任せに操縦桿を動かした。

 

『落とす……落とす!! うあああぁぁぁ!!』

 

「やってやる!!」

 

走るガイア、インパルスは胸部チェーンガンを連射して牽制した。

インパルスと同じVPS装甲のガイアに実弾兵器は通用しない。

それでも普通のパイロットなら自身が搭乗する機体に攻撃が直撃する事に動揺したりするモノだが、ステラの精神状態は目の前の敵を倒す事しか考えて居らずわずかな動揺もなかった。

弾丸は全て跳ね返され地面に落ちる。

ガイアは接近した所でビームサーベルを振りかぶった。

空気を焼き払いながら切っ先は青い胸部装甲を焦がす。

寸前で脚を引いたインパルス。

握るビームサーベルを相手のコクピットへ突き立てるが、腕を掴まれるとその動きを止められてしまう。

ガイアもまたビームサーベルをインパルスに突き立てる。

 

「コイツ、強い!!」

 

相手の力量に舌を巻くシン。

ビームコーティングされたシールドでガイアの攻撃をなんとか受け止める。

シールドはビームエネルギーを反発し激しい閃光となり両者を照らす。

 

『うぅ、あああぁぁぁ!!』

 

ステラは右手に握る操縦桿を力の限り押し込みシールドを貫こうとするが、それよりも早くにインパルスの膝蹴りがガイアを襲う。

股関節部分を思い切り叩き付けられガイアは背面から地面に倒れた。

 

「これならどうだ? まだ動くか」

 

『左脚がうまく動かない。変形出来ない?』

 

装甲に覆われてない間接部には攻撃がダイレクトに伝わる。

ガイアの左脚はフレームが歪んでしまいモビルアーマー形態に変形出来なくなってしまう。

地上戦で脚部の反応が悪くなるのは致命的で状況は圧倒的に不利だ。

ステラは悔しさに血が滲むまで唇を噛み締め憎悪の眼差しを向けるが、そこにネオから通信が入って来る。

 

『ステラ、聞こえるか!! 撤退するんだ!!』

 

『ネオ……アウルが居ないの。帰って来ないの!!』

 

『とにかく今は逃げるんだ!! 俺とスティングはまだここに居る!!』

 

『でも……でも……』

 

『ステラはよくやったさ。お前まで居なくなったら俺はどうすれば良い? さぁ、戻るんだ』

 

『うん……わかった』

 

左脚部が上手く動かないガイアはメインスラスターを吹かすとその場からジャンプした。

 

「逃げるのか!? クッ!!」

 

シンは逃がすまいとビームサーベルを振り下ろしたがもう遅く切っ先は地面にぶつかるだけだ

ガイアはバッタの様に地面を蹴ると同時にメインスラスターを吹かして飛距離を伸ばしながら戦闘領域から離脱してしまう。

追い掛けてもバックパックが損傷したインパルスでは追いつく確証はなく、シンは小さくなって行く後ろ姿を見るしか出来ない。

 

「また逃げられたのか、クソッ!! ん、レーダーに反応? これは……」

 

インパルスのツインアイが見た先。

コクピットの戦闘画面に映るのは建造中の連合軍基地。

カーペンタリア基地とも距離が近く、このまま建造されてはザフトにとって脅威になる。

だがシンの目に焼き付く光景のせいでそんな事は考えられなかった。

基地内部では民間人までもが労働に加えられており、連合軍兵士にライフルの銃口を突き付けられながら作業を進めて居る。

けれどもインパルスが現れた事により作業どころではなく助かりたい一心で逃げ出すモノも大勢居た。

連合軍の兵士は逃げ出す民間人に向かって容赦なく銃弾を浴びせる。

怒号と悲鳴が交じり合い周囲は血に染まった。

為す術なく殺される民間人を見てシンは見過ごす事は出来ない。

 

「お前ら……やめろぉぉぉ!!」

 

基地へ足を踏み入れるインパルス。

防衛戦力は先程の戦闘で使い果たしておりインパルスに太刀打ち出来ない。

あるのは固定された対空機関砲か歩兵だけ。

ビーム兵器でなければVPS装甲は貫く事は出来ず状況は一方的だった。

 

「む、無理だ。撤退!! 撤退!!」

 

「現時間を持ってインド洋前線基地を放棄する。各員は自身の判断で行動しろ」

 

「ザフトのモビルスーツが来る!?」

 

チェーンガンで対空機関砲を破壊し歩兵も1撃で吹き飛ばす。

基地の至る所で爆発が起こり連合軍兵士は一目散に逃げ出した。

抵抗するだけの力はもう相手にないがそれでもシンは攻撃を止めない。

その現場に合流するアスランとヒイロ。

一方的に攻撃するインパルスの姿を見たアスランはシンに通信を繋げると声を上げた。

 

『シン、やめろ!! もうこの基地には戦闘能力はない』

 

「でもコイツラは民間人を虐殺したんですよ!!」

 

『それでも無抵抗な相手を攻撃しては連合軍と同じだ!!』

 

アスランは必死に呼び掛けるがインパルスが攻撃を止める事はない。

ジッと様子を見てたヒイロはペダルを踏み込みバーニアを吹かすと一気にインパルスに近づいた。

右手にはビームの発生してないテンペストビームソードが握られて居る。

基地に向かってチェーンガンを発射するインパルスに対してヒイロは無言のまま近寄ると、ビームを発生させずにテンペストビームソードで斬り掛かった。

突然の出来事にシンも反応が遅れてしまいインパルスは胴体に斬撃を受けると仰向けに倒れてしまう。

 

「ぐっ!? 何をするんだ、お前!!」

 

「作戦に支障を来たす存在は邪魔なだけだ」

 

「邪魔だと? 俺はここに囚われてる人を助けただけだ!!」

 

自らの言い分を叫ぶシン。

それを聞いたヒイロは倒れたインパルスのコクピットにビームソードを突き付ける。

張り詰めた空気が漂いシンは額に汗を滲ませた。

互いに引くつもりのない両者の間にアスランは強引に割って入る。

『ヒイロ、何をしてるんだ!!』

 

アスランは通信越しに叫ぶがヒイロは顔色ひとつ変えていない。

コンソールパネルに指を伸ばすとアスランに返事を返した。

 

「お前がモタモタしてるからだ。言ってもわからないのならこうした方が早い」

『だが……』

 

「言いたい事は後にしろ。ミネルバから帰還命令が送られた。早くここから撤退するのが先だ」

 

隊長であるアスランを威圧するような態度で言葉を発するヒイロ。

アスランは言い返す事が出来ず緊迫した状況が続いてしまう。

味方に攻撃され、言い分を跳ね返されたシンは苛立ち更に声を上げた。

 

「俺は間違った事はしてない!!」

 

「そうか……」

 

グフが握る右手のソードがらビームが発生する。

切っ先がコクピット部分に触れるか触れないかの位置でこのまま突き刺されたらパイロットは即死。

逃げる事も防ぐ事も出来ない。

ビームはジリジリと空気を焼く。

 

「っ!! 本気なのかよ!?」

 

『ヒイロ、止めるんだ!!』

 

叫ぶアスランはビームライフルの銃口をグフに向ける。

ヒイロはチラリと横目で見るだけでテンペストビームソードを収める気配はない。

 

『これ以上するならお前を撃つ。武器を収めてミネルバに帰還しろ』

 

「了解した。作戦終了、ミネルバに帰艦する」

 

言うとインパルスからビームソードを引き、メインスラスターから青白い炎を噴射するグフは飛び上がりミネルバに向かって飛んだ。

アスランのセイバーもビームライフルを引き、シンはコクピットの中で飛んで行くグフを赤い瞳で睨み付ける。

 

///

 

何とか激戦を潜り抜けたモビルスーツはミネルバのモビルスーツデッキに戻る。

グフも帰還すると同時に整備が始まり消耗したバッテリー電力や推進剤の補充が行われた。

ヘルメットを脱ぎハッチを開放させるヒイロは何もなかったかのようにデッキの上に降りる。

パイロットの仕事は終わったがミネルバの他のクルーはまだ慌ただしく動いており余裕がある状態ではない。

ヒイロはそんな事は気にせず自室に戻ろうと歩き出すがそこに激怒するシンが走って来た。

事情を知らない整備兵のヴィーノは彼の姿を見つけると戦果を祝おうと呼び掛ける。

 

「おっ!! シン、今回も凄かった――」

 

今のシンにはヴィーノの声は耳に入らず、すぐ先に居るヒイロの事しか見えてない。

ヴィーノに肩をぶつけ言葉を塞ぎながらも手が届く距離まで来ると、シンはヒイロの胸ぐらを掴み上げ怒りを爆発させる。

 

「オイ!! 味方に攻撃するなんてどういう事だ!!」

「あの場ではアレが最善の方法だと判断したまでだ」

 

「ふざけるな!! そんなの理由になるか!!」

 

シンの怒号はモビルスーツデッキ全体に響き渡る程大きく、他のクルーも2人の争いに気が付き始め視線が集まる。

眉1つ動かさないヒイロは冷静にシンの言い分を覆すだけた。

 

「基地破壊は作戦行動に含まれていない。お前のやったことは無意味だ」

 

「違う!! あそこには民間人が囚われてたんだ。俺はそれを助けたかっただけだ!!」

 

「ザフトと連合は緊張状態にある。必要以上の戦火拡大は相手に付け入られる口実を与える」

 

「だったら虐殺されるのを黙って見てれば良かったのか!!」

 

「そうだ」

 

「お前っ!!」

 

怒りが頂点に来たシンは拳を握り力を込めた。

周囲では時間と共に人ごみが増える中、セイバーのコクピットから降りてきたアスランはシンが振り上げた拳を掴み声を上げる。

 

「いい加減にしないか!! 」

 

「アス……ラン……」

 

「シン、なぜ指示に従わなかった? 俺の声は届いた筈だ」

「同じ事を言わせないで下さい。俺はあの基地の民間人を助けたかっただけだ。まさかアンタまで見捨てろ、なんて事言わないですよね?」

 

煽るように言い返すシン、モビルスーツデッキに鈍い音が響く。

左頬は殴られた痕で少し赤くなる。

 

「自分勝手な考えでモビルスーツに乗るな!! アレだけの兵器なら連合軍がやった事と同じ事だって出来るんだ。力と責任を託された事を自覚しろ!! ヒイロもだ!! どんな状況でも味方を攻撃するような事はするな!!」

 

納得がいかないシンはアスランを睨み付けるがヒイロは顔色ひとつ変えない。

「了解した」

 

一言そう言うとヒイロは背を向けて自室に向かい歩き出した。

残されたシンもいつまでもこうしてる訳にも行かず悪態を付きながらもモビルスーツデッキから去る。

 

「わかりましたよ、命令には従います。では失礼します」

ようやく静かになった所で集まったクルー達も各自の仕事に戻って行く。

アスランはシンを殴る事でしか従わせる事が出来なかった自身の力不足に苦悩する。

その様子を遠目で眺めてたルナマリアは聞かれないように小さく呟いた。

 

「こんなんでやって行けんのかしら?」

///

 

潮風が流れるペルシャ湾。

ミネルバは命令であるジブラルタル基地支援に向かう為、中継ポイントでもあるマハムール基地へ入港する。

補給に備え各自がモビルスーツでその準備をして居るが、ヒイロだけはモビルスーツは二の次にして整備兵のヨウランの所に来て居た。

以前の戦闘で感じたグフ・イグナイテッド使い勝手を改善して貰う為に相談を持ち掛ける。

 

「話がある。このモビルスーツに別の武器を持たせる事は出来るか?」

 

「グフは凡庸性の高い機体だからな。ある程度は応用が効くぞ。どんなのを使いたい? 火力を上げたいならフライトユニットにビームガトリング砲とかザクのミサイルランチャーを搭載出来る」

 

「これ以上機体が重くなると動かしにくい」

 

「そうか、ならどうする?」

 

「テンペストビームソード、あれでは攻撃した時に機体の重心がぶれる。出来ればビームサーベルの方が使いやすい」

「ビームサーベルか……ソイツは中々難しいぞ」

「インパルスのフォースシルエットのビームサーベルが余っているはずだ。アレで良い」

 

「それは無理だ、ジェネレーターの出力が違うからグフでは使えない。それにインパルスはセカンドシリーズ、最新鋭機体だ。たかがビームサーベル1本って思うかもしれないが、俺の独断でそんなことは出来ないよ」

 

「そうか、邪魔したな」

 

要望が通らず諦めたヒイロは用のないモビルスーツデッキから出て行く。

ヨウランは背を向けるヒイロの姿を少しだけ眺めると思い出したように自分の仕事へ戻った。

次の作戦の為にセイバー、インパルス、ザクを完璧に仕上げる必要がある。

 

(それにしてもビームサーベルがそんなに良いのか? 俺ならビームライフルとか射撃武器を充実させるけどな。まぁ、戦場で戦うパイロットの気持ちまではわからないか)

 

コアスプレンダーのコクピットシートに座るシンも今までの戦闘データをまとめてコンピューターに読み込ませて居た。

情報を蓄積させる事で次のモビルスーツ開発にも繋がるしシンが使いやすくなるように機体にも癖が付く。

データが読み込まれるのを待つだけなのでシートの上でジッと待つだけだったが、そこに同僚のルナマリアが来ると足場を登りコクピットを覗き込む。

 

「よっと!! 何してんの?」

 

「ルナか。別に、データを更新してるだけだよ」

 

「ふ〜ん、こうなってるんだ。ソレよりも隊長とヒイロ、あれから話はしたの?」

 

「いや……してない」

その返事を聞いてルナマリアは呆れてため息を吐いた。

 

「あのねぇ、子どもじゃないんだから。いつまでもその調子だとこっちまで気まずくなるんだから」

 

「わかってるよ」

 

「わかってないから今みたいになってるんでしょ? また作戦も始まるんだからこのままだと困るんだけど」

 

ルナマリアの言う事に言い返す事が出来ないシンは目線を反らして口を閉ざすしか出来ない。

 

「隊長は自室に居るってメイリンから聞いたから、ちゃんと会って話した方が良いわよ。データ更新くらいアタシがやるから」

 

「あぁ、行けば良いんだろ。行けば!!」

 

立ち上がるシンはコアスプレンダーのコクピットから飛び降りると、言われたようにアスランに会う為に居住ブロックに向かって歩く。

1人になったルナマリアは空になったシートに座り作業が終わるのを待った。

 

「まったく世話が焼けるんだから。って、データ更新終わってるじゃない」

 

居住ブロックにまで来たシンはアスランの部屋を目指して通路を歩く。

ミネルバの整備作業に忙しくて居住ブロックには殆ど誰も居ない。

シンは自分しか居ない通路を歩き続けてると曲がり角から赤い制服に身を包んだ人物が現れた。

 

「隊長……」

 

「シンか、どうした? もしかして前の事をまだ引きずってるのか?」

 

「っ!?」

 

考えてた事をすぐに見抜かれてしまった事でシンの表情に動揺が走る。

アスランもその事に気が付いており、前置きはナシにして本題に入った。

 

「俺の事が気に入らないか? オーブ現代表の護衛をしてた筈が今はザフトでFAITHにも選ばれて」

 

「関係ありません。これからはちゃんと命令には従いますよ」

 

「突っ掛かる言い方しかしないな、キミは」

 

「だってそうでしょ? いきなり全部を受け入れるなんて俺には出来ません。アナタのやろうとしてる事が俺にはわかりません」

 

「だからインド洋の時も俺の指示は聞かなかったのか? 俺の事が気に食わないから」

 

「それは……」

 

シンはまた言葉に詰まる。

アスランの事が気に入らないと態度で示す事は出来ても真正面から言葉に出来る程無神経ではない。

次に出す言葉が思い浮かばぬまま、アスランが話を続けて来た。

 

「キミの家族は前の戦争で亡くなったと聞いた。だからザフトに入ったのか?」

 

「そうです。力があれば誰かを助ける事が出来る。もう無力で何も出来ないのは嫌なんです」

 

シンが語るのは全てではない。

オーブで家族を失ったシンは戦火を広げたアスハを恨んだし、その時に目にした青い翼を持つモビルスーツの事は今でも鮮明に思い出せる。

家族の敵を取る為、シンがザフトに入隊した1番の理由はソレだ。

 

「前にも言ったが力には責任が伴う。モビルスーツが1機あれば何千人と人を殺す事だって出来るんだ」

 

「わかってますよ」

 

「ザフトは正式には軍ではないが、命令に従って戦うと言う点で見れば同じだ。もう暫くしたらまたミネルバも出港する。敵戦力と戦う事にもなる。さっき言った事は忘れるなよ」

 

「はい。でも1つだけ聞かせて下さい。俺がした事は本当に間違いだったんですか?」

 

「命令違反、規則として見たらキミの行動は間違ってた。事は政治にも関与してる。軽率な行動と言わざるを得ない。けれどもキミは言った、誰かを助けたいと。助ける為にやったと。その感情は絶対に忘れてはダメだ」

 

「は、はい!!」

 

「そうだ。インパルスの正規パイロットとして俺はキミの技術を認めてる。次の作戦でも頼むぞ」

 

そう言うとアスランはどこかに向かって歩いて行ってしまう。

複雑な心境だったシンの心は少しだけ晴れやかになる。

けれどもアスランにはまだ心配事が残ってた。

 

(後はヒイロを何とか出来れば良いんだがソレも難しそうだな。早く話を付ける必要はあるが、まずは次の作戦が先だ。連合のスエズ基地、ローエングリン砲をどう攻略する……)

 

険しい表情になりながらも進むアスラン。

スエズ基地攻略作戦までの時間はあまり残されてない。

 

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第7話 ローエングリンゲート攻略作戦

 

ミネルバの次なる目標は連合軍ガルナハン基地のローエングリン砲を陥落する事だ。

目的地であるジブラルタルに向かうにはこのスエズ基地は避けては通れない。

スエズ基地は山道を遮るように建設されており、これを抜けるには大きく迂回するか上空を飛んで跨ぐしかないが、ローエングリン砲がこれを邪魔する。

射程距離の長いローエングリン砲が上空を飛ぶミネルバに砲撃して来られては防ぐ手だてがない。

今後のザフトの作戦行動も考えればここでスエズ基地を破壊する方がやりやすい。

アスランに招集の掛けられたモビルスーツパイロットのシン、レイ、ルナマリアの3人は一緒にミーティングルームへ入った。

ミーティングルームにはまだアスランは来て居らず、ヒイロだけがシートの上に座りながらマニュアルを片手に待って居る。

シンはヒイロの事を睨むようにして隣に立つレイに小さく言う。

 

「アイツ、やけに早いな」

 

「遅れられるよりは良い」

 

「まぁ、そうだけどさ」

 

「次の作戦はこちらから連合の基地へ攻め入るんだ。今までとは違う。雑念は捨てろよ、シン。出来なければ死ぬ事だってある」

 

「わかってるよ。俺はアイツを倒すまでは死ぬ訳には行かないんだ」

 

シンの脳裏にはまだあの時に見たモビルスーツの姿がハッキリ残ってる。

青い翼を持つモビルスーツ。

家族を殺された復讐を成し遂げるまで彼の憎悪が晴れる事はない。

その闘争心を感じたレイはこれ以上は何も言わず設置されたシートの上に座る。

シンとルナマリアも隊長であるアスランが来るまでは待つ他ないので同じ様に座った。

ふとルナマリアは前のシートに座るヒイロが読むマニュアルを後ろから覗き見る。

読んでたのは最新鋭機であるインパルスのマニュアルだ。

 

「何でアンタがそんなの読んでんのよ?」

 

「いずれ必要になる時が来るかもしれない。その時になってからでは遅い」

 

「あぁ、そう。止めはしないけど赤服のシンがやっと支給された機体よ。配属されたばかりのアナタが乗るような事はないと思うけど。インパルスも良いけれどグフの操縦もちゃんとしてくれないと困るわよ」

 

「当然だ。俺はガンダムのパイロットだからな」

 

(ガンダム?)

 

ルナマリアは理解出来ない単語に疑問を持つが、時を同じくして隊長のアスランがミーティングルームに入って来た。

部屋には緊張感が走りさっきまでの会話は頭の隅に押し込みこれからの事に集中する。

4人の前まで来たアスランはファイルを片手に作戦概要の説明を始めた。

 

「スマナイ、艦長との話で少し遅れた。ではこれよりガルナハン基地、ローエングリンゲード突破作戦の詳細を説明する。ガルナハン基地は以前にも現地のレジスタンスが突破を試みたが失敗している。敵との戦力差も勿論あったが、1番の要は敵基地に設置されたローエングリン砲だ。皆も知っての通りアレの直撃を受ければ艦艇と言えども無事では済まない。だが弱点はある。それは連射出来ない、エネルギーチャージに時間が掛かる事だ。敵はその弱点を補う為にモビルスーツ部隊と2機のモビルアーマーを配置させて居る。モビルスーツは既存のモノだがモビルアーマーはデータにない新型が。今スクリーンに映像を映す」

 

言ってアスランが設置されたコンソールパネルに指を伸ばし、シン達の前にあるスクリーンにレジスタンスが突入した時の映像を流す。

資金源もない故に戦力が乏しいレジスタンスが用意したモビルスーツは1番新しいモノでも1世代前の機体。

ビーム兵器は実装されて居らず、敵のウィンダム部隊の前に尽く破壊されて行く。

白兵戦は歯が立たず、長距離からの砲撃を試みるが、結果は1発たりとも敵に届く事はなかった。

連合軍が用意した陽電子リフレクターを搭載した新型モビルアーマー、ゲルズゲーを配備しており強力なバリアによりレジスタンスの攻撃を無効化する。

そうする事でエネルギーチャージまでの時間を稼ぎローエングリン砲で全てをなぎ払う。

 

「見ての通りだ。このモビルアーマーのせいで長距離からの攻撃は通用しない。その為、接近して破壊するしかないのだが渓谷に作られた砲台がどこへ行こうとも狙い撃って来る。周囲に隠れるような場所も存在しない。これを攻略するのが俺達の任務だ」

 

ここまでの説明と映像をヒイロはマニュアルを読む片手間に聞いてただけだ。

一方のシンもアスランを煽るように言葉を続ける。

 

「なら隊長がモビルアーマーを撃破して下さいよ。その間に俺が砲台と基地を攻めますので」

 

「そうだな、俺と他の3人でモビルアーマーは抑える。シンは単独で基地に突入してくれ。当然だが援軍も支援もないぞ。ローエングリンがお前を狙っても自分で何とかしてくれ」

 

「冗談……ですよね?」

 

一瞬、冷や汗を流すシンは恐る恐るアスランに聞き返した。

 

「あぁ、冗談は終わりだ。ローエングリンゲートを突破しガナルハン基地に攻め入る為の作戦はもう考えてある。この周囲には現地人でないと知らない坑道跡が幾つもある。だがモビルスーツでそこを通るのは不可能。そこでコアスプレンダーで谷の坑道跡を通って砲台の裏側に出てローエングリン砲を奇襲する」

 

「やるのは良いですけど、その坑道跡ってのはどんな状況何ですか?」

 

「細かな経路は後で渡す。整備班に頼んで座標データ等は入力して貰った。シンは作戦開始時刻までに進路を頭に入れてくれ。そうしないと坑道跡を抜けるのに時間が掛かる」

 

「どんな所かもわからないのに行けって言うんですか?」

 

嫌味を漏らすシン。

反抗的な態度に表情を険しくするアスランだったが部屋の中にパタンと音が響いた。

全員が視線を向けるとヒイロが読んで居たマニュアルを閉じてシートから立ち上がる。

鋭い視線でシンを睨むとすぐに今度はアスランに向き直り口を開く。

 

「だったら俺がやる。アイツには俺のグフを使わせろ」

 

突然の宣言にシンは驚くと同時にヒイロに食って掛かる。

 

「お前、何言ってんだよ!! そもそもインパルスを動かせないだろ!!」

 

「操縦マニュアルは理解した。問題ない」

 

「マニュアルを読んだだけで出来る訳ないだろ!! だいたい坑道跡って事はコアスプレンダーで行くにしてもかなり狭い筈だ。そんな繊細な操縦技術がお前にあるのか?」

 

「お前には出来ない。俺には出来る」

 

「ナニッ!!」

 

ヒイロの言葉を聞いて頭に血が上るシン。

2人はまたしても一触即発の事態になるが、感情を堪えたシンはアスランに向かって叫ぶ。

 

「インパルスの正規パイロットは俺ですからね!! こんなヤツに任せられるもんか。俺がやります!!」

 

「シン……わかった。コレが坑道跡のデータだ。さっきも言ったが作戦が始まるまでに頭の中へ入れておいてくれ」

 

アスランは上着のポケットから記憶端末を取り出しシンに差し出した。

奪い取るようにソレを持ったシンは1人でミーティングルームから出て行ってしまう。

扉の向こうに行ったのを確認したアスランは次にヒイロに自分の考えを述べた。

 

「ヒイロ、わざとあんな事を言ったな?」

 

「何の事だ?」

 

「とぼけるなよ。やり方はどうかと思うがシンをやる気にさせてくれた。本気でインパルスに乗る気なんてないんだろ?」

 

「俺はそんな回りくどい事をするつもりはない。ここで無駄な時間を使うくらいなら俺が乗る方が早い。それだけだ」

 

言うとヒイロもミーティングルームから出て行ってしまう。

部屋に残る3人。

ルナマリアはレイになるべく小さな声で聞いた。

 

「これが男の友情ってヤツ?」

 

「違うな」

 

ハッキリと言うレイにルナマリアは取り敢えず納得した。

 

///

 

ミーティングが終了して数時間後、ローエングリンゲート及びガルナハン基地攻略作戦が開始された。

戦闘態勢に入るブリッジ。

シートに座るタリアが指示を飛ばすと同時に各クルーが動きミネルバは戦闘へ突入する。

 

「これより作戦を開始します。トリスタン、イゾルデで進路を開きます。メイリン、モビルスーツを順次発進。指揮はアスランに任せます」

 

「了解。ハッチ開放、カタパルトスタンバイ」

 

目前に迫る戦闘。

コアスプレンダーのコクピットシートに座るシンは力強く操縦桿を握る。

 

「こんな作戦、俺1人でやってやる!!」

 

ヒイロに対抗心を燃やすシン。

それは同時に闘士にも繋がり今の集中力はとても高い状態で維持されて居た。

開放されたハッチの向こうに見える景色を見据えて、シンは最後に息を呑んだ。

フルフェイスのヘルメットから通信士のメイリンの声が聞こえて来る。

 

『進路クリアー。コアスプレンダー、発進どうぞ」

 

「シン・アスカ。コアスプレンダー、行きます!!」

 

コアスプレンダー、続いてチェストフライヤー、レッグフライヤー、シルエットフライヤーがカタパルトから射出される。

ミネルバの進路上から大きく迂回するコアスプレンダーは当初の作戦通りローエングリン砲を奇襲する為に坑道跡に向かい飛ぶ。

モビルスーツデッキからセイバーがカタパルトへ設置され搭乗するアスランが他の3人に指示を出す。

 

「いいか、残った俺達はシンが奇襲を賭けるまで敵のモビルスーツをこちらで引き付ける。ミネルバから離れ過ぎるなよ。セイバー、発進する」

 

背部の両翼を広げて発進するセイバー。

電力が供給され灰色だった装甲が鮮やかな赤に変わる。

 

「ヒイロは俺と前線に向かう。レイは地上部隊、ルナマリアは砲撃と援護を頼む」

 

セイバーの後方に位置する3機のモビルスーツ。

ヒイロのグフはセイバーと横並びになると言われた通りに前線に向かう。

飛行出来ないレイのザクは連合軍の地上部隊を叩く。

 

「ルナマリア、聞こえたな? 地上部隊は俺がやる。支援は任せたぞ」

 

「了解。でも今回も厄介なヤツが居るから気を付けてね」

 

「大丈夫だ」

 

一方のシンも予定通り坑道跡に到着して居た。

 

「これか? 出口までの距離は16、17分から20分以内にここを抜けてローエングリン砲を落とす。こんなの簡単に出来る」

 

データに入力された坑道跡の入り口を見つけたシンは各フライヤーを引き連れて狭い道を進む。

入った先の坑道はまったく光りが届かず完全な闇で視界はまったく見えない。

コアスプレンダーの羽が周囲の岩にかすり火花が飛ぶ。

「ウソだろ!? ヴィーノにわざわざライト付けて貰ったってのに殆ど何も見えないじゃないか!! ミスしたら岩に激突して死んじまう!!」

 

目に頼って何とか先を見ようとうするがコアスプレンダーの底面に岩がまた少し触れてしまう。

コクピットに激しい振動が伝わりシートベルトがキツく体を固定して来る。

 

「クッ!! これならモビルスーツ戦の方がずっと楽だ。アイツに――」

 

ヒイロはこれぐらい自分になら出来ると断言した。

一瞬だけ任せれば良かったと考えてしまうが頭を振りそんな思いをかき消す。

赤服としてインパルスを任されたプライドがシンを奮い立たせる。

目に頼るのを止め、入力されたデータに従い操縦桿を動かしコアスプレンダーを進めて行く。

 

「いや、あんな訳のわからない奴に任せられるか。インパルスのパイロットは俺だ!!」

 

右足でペダルを踏み出口に向けてスピードを上げた。

機体の角度を細かく調整しながら、それでも時折岩と接触しながらも目標であるローエングリン砲に向かう。

 

「クソォォーーー!!」

///

アスランらはローエングリンの防衛部隊と戦闘に入った。

フライトユニットを装着した105ダガーが編成を組んでセイバーとグフの前に立ち塞がる。

ビームライフルを装備する敵は銃口を向け容赦なくビームを発射して来るが、パイロットの技量も相まって機動力と運動性能の高いセイバーは必要最小限の動きで回避した。

 

「ヒイロ、無理に迎撃しなくても良い。インパルスが突入すれば自ずと敵の態勢は崩れる」

 

「了解した」

 

良いならがアスランも敵にビームライフルを向けてトリガーを引く。

量産機とは違う高い威力を持つビームは105ダガーのシールドを吹き飛ばす。

防ぐ手立てが失くなれば撃破するのは容易だった。

連続して放たれるビームライフルに敵パイロットは回避しきれず右脚も破壊されてしまう。

 

『しまっ!?』

 

バランスを崩した機体は制御出来ずに落下してしまうが、握ったビームライフルの照準はまだセイバーを狙ってる。

照準を合わせトリガーを引く。

発射されたビームはセイバーに向かう。

だがアスランの反応はコーディネーターの中でもトップクラスであり、敵の動きは既に見切られて居た。

スラスター制御でビームを回避するとビームライフルの銃口を向ける。

けれどもアスランがトリガーを引くよりも早くに細かなビームの弾が落下する105ダガーに直撃し爆散した。

見るとヒイロのグフが右腕の4連装ビームガンを向けて居る。

 

「ヒイロか?」

 

「敵の数は多い。雑魚に時間は掛けられない」

 

「そうだな。敵の新型モビルアーマーも居る。俺達で仕留めるぞ」

 

シールド裏からテンペストビームソードを引き抜くグフはメインスラスターを吹かし敵陣に突入する。

敵機はビームライフルの銃口をグフに向けるが、以前の戦闘のようにヒイロはビームコーティングの施されたシールドで無理やりにでも防ぐ。

自身に向かって放たれるビームを物ともせず接近すると切っ先を突き刺した。

 

「まずは1機」

 

戦闘不能になった105ダガーを盾にするようにして次の敵を照準に収める。

もう動けないとは言え味方に攻撃する事に躊躇する連合軍兵。

その隙に左手首からスレイヤーウィップを伸ばし敵機のビームライフルを絡めとる。

高周波パルスを流し込みライフル内のエネルギーを爆発させマニピュレーターごと破壊した。

ヒイロは4連装ビームガンを発射しようと操縦桿のトリガーに指を掛けるがセイバーからの援護の方が早い。

発射されたビームが頭部とコクピットを撃ち抜く。

 

「このまま敵を引き付けるぞ。モビルアーマーが優先だ」

 

ヒイロは無言のまま4連装ビームガンのトリガーを引く。

回避行動に映る105ダガー部隊。

だがセイバーとグフの後方からはミネルバからの砲撃が連合軍の機体を狙う。

戦艦から放たれる高出力のビームに敵部隊も簡単には攻め込めず、アスランとヒイロも必要以上には接近しない。

その事に連合軍司令官を薄々感づいて居た。

岸壁の内部に作られた基地の司令部で男は顎に手を添える。

 

「敵の目的は何だ? こちらを誘ってるのか、新兵器でも投入したのか? ローエングリンの照準を敵戦艦に向けろ。発射後はゲルズゲーを展開、エネルギーチャージを急がせろ」

 

「了解。目標、ザフト艦」

 

司令官の一声でシェルターが開放されローエングリン砲がエレベーターで地下から上昇する。

砲身を地上に見せたローエングリンは遥か先のミネルバに狙いを付けると数秒後には赤黒く強力なビームを発射した。

高出力で太いビームは空気を焼き払いミネルバに迫る。

ブリッジのタリアは直ぐ様、指示を飛ばす。

 

「取舵一杯!! メインエンジンの出力最大!!」

 

進路を変更するミネルバの頭上をビームが通過して行く。

直撃は免れたが地上に激突したエネルギーは巨大な爆発を生み激しい振動と衝撃波がミネルバを襲う。

荒野の荒れた大地から砂埃が巻き上がり視界も悪くなる。

タリアは艦長シートにしがみつきながらも前を見た。

 

「くぅっ!! 第2射はすぐには来ない。アーサー、状況は?」

 

「艦に損害ナシ。敵の地上部隊が展開中です!!」

 

「トリスタンで援護攻撃。タンホイザーのチャージを急がせて」

 

「了解しました!!」

 

地上で戦うレイとルナマリアにも緊張が走る。

砂煙で視界が悪くなる中で連合軍はリニアガン・タンクとダガーLを迎撃に向かわせる。

 

「モビルスーツの数は8。なら、やりようはある」

 

レイはスラスター前部のミサイルポッドを展開させると迫る敵陣に目掛けて全弾発射した。

ミサイルの雨に対してダガーLは着弾する前に撃ち落とそうと頭部機関砲を連射し撃ち落とそうとするが、レイは構えたビームライフルのスコープで正確にコクピットに照準を合わせる。

飛来するミサイルか爆発し空が爆音に包まれ炎と化す。

けれどもその隙に1発のビームがダガーLを狙撃する。

正面と空からの同時攻撃。

ダガーLはミサイルを避ける為に後方へ下がるか、直撃する前に撃ち落とすかシールドで防ぐしかない。

だが後者の場合は正面からザクのビーム攻撃も待ち構えて居る。

対応出来なかったパイロットの機体にはミサイルの1発が直撃した。

 

『ぐあぁっ!! メインカメラが!?』

 

『慌てるな!! ミサイルはこの1回だけだ。編成を立て直しさえすれば――』

 

頭部を失ったダガーLはまたもレイのザクにコクピットを撃ち抜かれる。

力を失くした機体は何も出来ず荒野に倒れた。

ブレイズ・ザクのミサイルポッドに搭載されるミサイルの数は30発。

ミサイルを使い切ったのを読み取った指揮官はまずはこの場を耐えようと考えた。

だが次には高出力のビームが連合軍部隊を分断させて来る。

レイのザクの後方からガナー・ザクがオルトロスを両手に構えビームを照射した。

敵機を狙い撃ち分断するだけでなく、荒野の地面をビームが直撃する事で砂煙が舞い上がり視界は絶望的に悪くなる。

横に薙ぎ払われた照射ビームに指揮官のダガーLが飲み込まれた。

機体は爆散し黒煙が上がる。

 

「1機撃墜を確認。レイ、10秒後にミネルバから援護射撃」

 

「こちらでも確認した。一時後退、その後もう1度攻め込むぞ!!」

 

「了解!!」

 

味方の攻撃に当たらぬようにレイとルナマリアは一旦距離を離す。

視界の悪い状況で連合の地上部隊は手当たり次第に前方に向かってビームライフルのトリガーを引きながら後退して行く。

だがミネルバの砲撃距離はモビルスーツよりも長く、地上部隊は壊滅的に追い込まれてしまう。

 

「作戦開始から12分経過。敵モビルアーマーを2機確認。前と同じで陽電子リフレクターを搭載したタイプだ。こちらからでは手が出せない」

 

「隊長とヒイロの援護に回るしかないわね。時間通りに来なかったら恨むわよ、シン!!」

 

ザムザザーと同じく陽電子リフレクターを搭載したモビルアーマー、ゲルズゲーが2機発進した。

ストライクダガーの上半身と6本の脚、その姿はさながら半虫半人。

防御力は非常に高いがザムザザーとの違いは攻撃力にある。

両手に標準的なビームライフルと頭部機関砲、腹部にビーム砲を備えるが接近戦ではまったくと言っていい程戦えない。

ゲルズゲーの姿を確認したアスランとヒイロは前に出る。

 

「よし、目標のモビルアーマーを確認した。ヒイロ、今は無理に攻める必要はない。タイムリミットまで5分を切った。インパルス突入に合わせてこちらも好戦に出る」

 

「了解した。敵モビルアーマーを引き付ける」

 

ヒイロのグフの唯一の射撃武器である4連装ビームガンでゲルズゲーを撃つ。

だが展開された陽電子リフレクターにビームは全て無効化されてしまう。

 

『ザフトのモビルスーツが4機。1機は攻撃を続けて来ます』

 

『リフレクターは展開したまま先に空の敵を叩く。地上戦力は後でどうとでもなる。ローエングリンのエネルギーチャージが終われば艦艇も潰す』

 

2機のゲルズゲーは両手に構えるビームライフルの銃口をグフに向けトリガーを引く。

ヒイロは発射されるビームに回避行動を取りながらも距離は一定を保ちつつ4連装ビームガンの攻撃も止めない。

セイバーも同様にビームライフルを向け無駄とわかりつつもビームを発射した。

当然セイバーとグフの攻撃は一切通らない。

 

「わかっては居るが無駄だとわかってる事をするのは辛いモノがあるな」

 

「バッテリー残量はまだ充分にある。的を狙う訓練くらいにはなる」

 

「そうかもな。後はシンに任せるしかない!! 被弾はするなよ」

 

「余裕で出来る」

 

2人は当初の作戦通りモビルアーマーを基地から引き離すべく無理に戦わない。

シンが坑道跡を抜けてローエングリン砲に奇襲を掛けるまでの時間は残り僅か。

 

///

 

シンはデータが示すルートに従いひたすら進んだ。

コアスプレンダーのボディーを岩に擦り付ける事はあっても正面衝突して動けなくなる事はない。

ライトも役に立たず一切の光りが届かぬ道無き道を進み続け17分。

目の前には何も見えない黒一色だがデータ状は出口に差し掛かった。

 

「ここが出口なのか? それなら!!」」

 

コアスプレンダーの両翼に装備されてるミサイルを照準も付けずに全弾発射した。

闇だった空間に爆発が起こり岸壁が崩れ去る。

太陽の光りが差し込み長かった坑道跡の出口がようやく見れた。

 

「行っけぇぇぇ!!」

 

コアスプレンダーは外に出た。

同時に引き連れてきた各フライヤーとドッキングしモビルスーツに合体する。

灰色の装甲が鮮やかなトリコロールに変わったインパルスがローエングリン砲のすぐ真裏に現れた。

 

「ローエングリンは?」

『敵反応? すぐ後ろだと!?』

 

『データに該当アリ。ザフトの新型か!!』

 

周囲を見渡すシンは最終目標であるローエングリン砲を探すが防衛部隊もインパルスに目を付ける。

4機のストライクダガーがローエングリン砲を死守しようと壁を作るがそのお陰で位置がすぐにわかった。

ペダルを踏み込みメインスラスターから青白い炎を噴射する。

接近と同時にビームライフルのトリガーを引きストライクダガーに照準を合わせた。

自身に発射されるビームはシールドで防ぎながらトリガーを引く。

ビームはストライクダガーが構えるシールドを吹き飛ばし、その隙を付いてコクピットを撃ち抜く。

だが奇襲に気が付いた連合軍は直ぐ様ローエングリン砲を地下シェルターに格納しようとする。

エネルギー供給ケーブルを切り離しエレベーターでローエングリン砲が地下で移動してしまう。

 

「くっ!! 時間がない!! こうなったら!!」

 

ビームライフルを腰部へマウントさせるとメインスラスターを全開にして被弾も覚悟で突っ込んだ。

飛来するビームの1発がバックパックの右翼が撃ち抜ぬきバランスが崩れる。

 

「そのまま突っ込めぇぇぇ!!」

 

加速するインパルスはビームの中をくぐり抜けストライクダガーに組み付いた。

激しい衝撃がコクピットにまで伝わる。

ストライクダガーを連れたまま地下に移動しようとするローエングリン砲にぶち当たる。

バックパックからビームサーベルを引き抜きインパルスは切っ先をコクピットに突き刺す。

 

「離脱する」

 

インパルスは再びビームライフルを握りローエングリン砲から飛ぶ。

ビームサーベルを突き刺されたストライクダガーは誘爆する。

爆発に巻き込まれ目標であるローエングリン砲は陥落し、同時に地下に作られた基地にも被害が及ぶ。

内部から次々に爆発が起こり地形も変わる。

バランスが不安定ながらも飛ぶインパルスはミネルバに合流すべくメインスラスターを吹かす。

 

「メイリン、ソードシルエット射出!!」

 

『了解。座標位置確認、ソードシルエット射出します』

 

///

 

アスランはインパルスがローエングリン砲を破壊してミネルバに向かって来るのを確認する。

作戦が成功した事で残りは目の前のモビルアーマーを倒すだけ。

 

「ヒイロ、作戦は成功だ。モビルアーマーを落とす」

 

「了解、敵機を撃破する」

 

テンペストビームソードを握るグフは一気にザムザザーに接近する。

ビームはシールドで防ぎメインスラスターを全開。

接近されれば陽電子リフレクターを使ってもどうする事も出来ず、テンペストビームソードで横一閃するとビームライフルを分断させる。

すかさずセイバーが間に割って入り胸部にビームサーベルを突き刺した。

装甲が高熱で赤く発光しザムザザーの上半身に風穴が開く。

 

「さすがだな、ヒイロ。俺には真似出来そうにない」

 

「慣れれば誰にでも出来る」

 

「俺からしたらお前の動きは強引過ぎる。被弾が怖くないのか?」

 

「死ななければ戦える。それを見極めてるだけだ」

 

動かなくなったザムザザーは地上へ落下しクモのような6本脚があらぬ方向にへし曲がった状態で横たわる。

もう1機のザムザザーに向かってヒイロはテンペストビームソード1本でまたも先行した。

目の前で一瞬にして味方が倒された所を見て搭乗するパイロットは驚愕する。

 

『近づかれたら陽電子リフレクターは使えない!! 何としても撃ち落とせ!!』

 

『き、来ます!!』

 

両手のビームライフルで接近するグフを狙うがモビルスーツとモビルアーマーでは運動性能が違い過ぎる。

ビームはグフが通り過ぎた後ろに流れて行き簡単に懐にまで接近した。

前足を薙ぎ払い、振り下ろした剣は右肩を切断する。

そのまま上半身へ切っ先を突き立てようとするが腹部ビーム砲がグフの左足を撃つ。

足首から先が失くなってしまい姿勢制御のバランスも崩れる。

 

「くっ!!」

 

「ヒイロ!! 敵は逃げるつもりか?」

 

攻撃が止まった僅かな間にゲルズゲーは戦場からの離脱を試みた。

セイバーは逃がすまいとビームサーベルを握り接近しようとする。

 

『今の内に離脱しろ!! この基地はもうダメだ』

 

頭部機関砲とビームライフルで牽制しセイバーとグフが近づきにくい状況を作る。

アスランでも回避行動を取りながらやシールドで防ぎながら敵に近づくのは難しい。

陽電子リフレクターを展開した相手に射撃は通用せず、距離を離して行く敵影にただ見る事しか出来なかった。

 

『よし、ここまで来れば――』

 

「インパルスの攻撃が届く!!」

 

ゲルズゲーの背後から換装したソードインパルスが迫る。

連結させたエクスカリバーを大きく振り下ろしゲルズゲーを一振りで真っ二つに分断した。

半分にされた機体もまた動く事は不可能になり地上に向かって落下する。

2機のモビルアーマーを最後にガルナハン基地に置ける連合軍の戦力はほぼ壊滅した。

 

「へへっ、隊長にばかり良い思いはさせませんよ。俺はあのクソ狭い坑道をやっと抜けて来たんですからね」

 

「シンになら出来ると思ったから任せた。作戦は成功したろ?」

 

「本当は自分がやりたくなかっただけなんじゃないですか?」

 

「だったらヒイロに任せた方が良かったかな?」

 

「冗談ですよ。インパルスのパイロットは俺ですからね」

 

「わかってる。モビルスーツ隊聞こえるな。作戦終了、全機ミネルバに帰還しろ」

 

ガルナハン基地を突破した事でミネルバは最短距離でジブラルタルに向かう事が出来る。

また1つ、連合軍の地球圏の戦力範囲は狭くなった。

 

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第8話 偽りの歌姫

 

ローエングリンゲートを突破したミネルバはそのまま進路を進み黒海沿岸ディオキアに到着する。

ここでは明日ラクス・クラインの慰問コンサートが開催され、クルー達はラクスを見に行けるかもしれないという事で多いに賑わって居た。

通信士のメイリンもその1人でディオキア基地内の食堂で興奮しながら姉であるルナマリアに話しかけて居る。

 

「明日はラクス様のコンサートだよ、お姉ちゃん!!」

 

「朝から何回も聞いたわよ」

 

「生でラクス様に会えるなんてぇ……超楽しみ!! 明日は絶対に行こうね!!」

 

「はしゃぎ過ぎ、もう少し静かにしてよ。」

「だってだって、あのラクス様だよ!!」

メイリンをなだめるルナマリアだったが静まる様子はなく、メニューを選んでる最中もメイリンの口は閉じない。

「わかった、わかったから。も〜ゴハンの時くらい大人しくして」

連日ラクスの事を聞かされていたルナマリアはホトホト呆れて居た。

メニューを決めて職員に伝えるとすぐに食事が提供される。

トレイを両手で持ち席を探す2人は既に座って居るヒイロの姿を見つけた。

「隣、使っても良い?」

 

「好きにしろ」

 

そっけない返事を聞くとメイリンとルナマリアはヒイロの横と前の席に座る。

興奮冷めやまぬメイリンは視線をヒイロに向けると食事も後回しにして話し始めた。

 

「ヒイロはラクス様のコンサート見に行くよね!! 今まではテレビとかでしか見た事なかったけど今度は本物だよ!! 朝早く起きて良い席確保しないと」

 

ルナマリアはこれ以上は関わりたくないとその様子を静かに見守るだけ。

ヒイロも2人が来た時には用意された食事を食べ終えており、メイリンの言う事は聞き流して席から立ち上がる。

 

「俺はあの女に興味はない。オーブで――」

「えええええええぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

ヒイロの声をかき消し絶叫が響く。

メイリンの絶叫は空気を震わせ外に居るモノにまで伝わる。

突然の事の食堂に居るモノ全ての視線が彼女に集まり、ルナマリアも動揺して目を大きく見開いて居た。

声の反響によりコップに注がれた水が微かに揺れる。

 

「興味が……ない……」

この世の終わりのような暗く淀んだ顔をするメイリン。

反響が止み、周囲は静寂に包まれる。

だがすぐに目に光を戻すとヒイロの腕を掴んで無理やり歩き出した。

 

「発売されたDVDは初回限定盤で全部買ったから見せてあげる!! ご飯なんて食べてる場合じゃない!!」

 

反論も許されずヒイロは腕を掴まれて食堂から連れ出されてしまう。

ルナマリアは引き止めようともせず、心の中で事が穏便に済むのを願うばかり。

 

(あの様子だと良くて丸1日。そのまま徹夜でコンサートの席取りに駆り出されるでしょうね。ヒイロ、ご愁傷さま)

 

ヒイロを引き連れたままメイリンはミネルバの自室まで戻って来た。

手を離し開放するや否や自室の扉にロックを掛け今までに買ったありったけのDVDを引き出しから引っ張り出す。

その内の1つを手に取るとヒイロの眼前に見せ付けて来る。

 

「これが3年前に発売されたアプリリウスでのコンサート!! ラクス様の初めてのコンサート、今じゃプレミアが付いて中々手に入らないんだから。まずはコレ!!」

 

「オ、オイッ!?」

 

「最後の『静かな夜に』が最っ高なんだから。ほら、コッチに座る!!」

 

メイリンはまたもヒイロの腕を掴むと部屋に設置したモニターの前にまで歩かせる。

ヒイロの意見など全く聞く耳を持たずシートに座らせ手に持ったDVDのパッケージからディスクを取り出しデッキに入れた。

モニターに映像が流れ始めるとヒイロの隣へ座り真剣な眼差しを向ける。

そうして深夜遅くまでラクスのDVDをヒイロとメイリンはノンストップで見始めた。

長い時間の中で休憩が取られる事もなく、聞きたくもないメイリンの解説も聞かされる事となる。

 

///

 

「ねぇ、まだ見てるの?」

 

部屋に戻ったルナマリアは既に寝る準備をして居る。

大音量で映像を見てるメイリンとヒイロに呼び掛けるが聞こえないのか返事がない。

 

「先に寝るわよ」

 

諦めたルナマリアはそう言い残し寝室のベットに行ってしまう。

メイリンは姉の事を意に返さず、映像が終わるとすぐ次のディスクに入れ替える。

休憩もなしで6時間以上も見続けてる事もあり彼女の目元には隈が出てるが全く気にする素振りもなく、映像が再生されるとまたヒイロの隣へ戻った。

 

「でね、次のが半年前に発売されたばかりのヤツ。終戦してから全然出なかったんだけど、再開してから路線変更して派手になったの。今のラクス様は昔と比べて安っぽくなったって言う人も居るけれど私は違うわ!! 今も昔もラクス様は最高なんだから!!」

 

ヒイロは文句も言わずメイリンの見せる映像を見てたが入れ替えたディスクの映像をしばらく見ると目付きが変わる。

 

「今までと動きが違う」

 

「わかる!? ダンスも取り入れたりしてアクロバティックになったの!!」

 

「そうじゃない。比べると歩幅が5センチほど伸びてる、発声もキーが少し高い。決定的なのは薬指の長さだ。最近のは人差し指と薬指が同じくらいの長さだが昔は人差し指の方が長かった」

 

「へぇ〜、そうなんだ。私も何回も見てるけど気が付かなかった」

 

ヒイロの『感想』を聞いたメイリンはまた流れる映像に集中する。

彼女はまだ事の重大さに気が付いてなかった。

興奮するメイリンを尻目にヒイロは頭の中である仮定を組み立てる。

 

(あの時、オーブで会った女が本物。半年前から現れたコイツが偽物。プラントの統率を図る為の替え玉か。元々はそうでないにしても今と言う状況に置いては有効に機能してるな。初代プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの娘……替え玉とは言え世間に認知されれば使い道は多いな)

 

「ヒイロ聞いてるの!! 次は『Quiet Night C.E.73』だよ。ちゃんとダンスの振り付けも覚えてよね!!」

 

夜はまだ長い。

翌日、ミネルバクルーの殆どは今日開催されるラクス・クラインのコンサートを見に行った。

メイリンはDVDを解説しながら全て見終わった後、またヒイロの腕を無理やり掴みコンサート会場に日も昇らぬ内に向かう。

空を見上げればまだ暗く、月と星が微かに見える。

 

「じゃあ私は取り敢えず飲み物とか買って来る。この席から絶対に動いちゃダメだからね!!」

 

「わかっている。早くしろ」

 

先乗りしたヒイロは言われた通りにシートに座ると両腕を組んでまぶたを閉じた。

昨日から続くラクスのコンサートDVDをノンストップで見せられた事もあり少なからず疲れて居る。

まだ誰も居ない会場で肌寒い空気に晒されながらも休息を取った。

 

(本物のラクス・クラインがどう動くか? このまま傍観するか、再び表舞台に登場するのかによってプラントの情勢は傾く。現状ではそれは考えにくい。だが、あの時オーブに居たのが気がかりだ。何か意図があると……すれば……)

 

ヒイロは本物も偽物も裏で何をしてるのかを探ろうと思考を巡らす。

けれども気が付けばそのまま寝てしまった。

数分後には戻って来たメイリンに肩を揺らされて目が覚める。

「ヒイロ、ヒイロったら!!」

 

「ん、ここは……」

 

「コンサート会場、戻って来たら寝てるんだもん。全然人が居ないからまだ良かったけど、もし遅かったら私の席が取られちゃう」

 

言いながら両手に紙コップを持ちながら隣へ座る。

 

「はいコレ。炭酸だからスカッと目も覚めるわ」

 

「あぁ。今の時間はわかるか?」

 

「うん? まだ朝の4時だから……5時間後に始まる予定。あぁ、早く生でラクス様見たいなぁ」

 

「そうか。終わったら起こせ」

 

言うとヒイロはまた目を閉じて睡眠を取る。

元からラクスの事に興味のないヒイロにとってコンサートの事など見なくとも良かった。

けれどもこの場から移動しなかったのはメイリンに対するせめてもの配慮なのか。

 

「ちょっとヒイロ!? 寝ちゃダメだってば!! ヒイロ、ヒイロ!!」

 

今度はメイリンがどれだけ呼び掛けても目を開ける事はなかった。

 

///

 

『みんな〜、今日は来てくれてありがと〜!!』

 

ラクス・クラインのコンサートが開かれて2時間後、最後の曲を歌い終わり無事に閉幕を迎える。

終始興奮した状態で掛け声を上げて居たメイリンの体は疲労しきっており歩くのも辛い。

一方のヒイロはコンサートが終わるまで一瞬たりとも目を覚ます事はなく体力を温存してた。

メイリンは隣に座るヒイロの肩を揺らす。

 

「ヒイロ、ヒイロ終わったよ」

 

「ん、そうか……」

 

「なら次はグッズを買いに行かないと。一緒に――」

 

客足が会場から遠退く中でメイリンは次なる目的の為にヒイロを連れ出そうとしたが、突如として携帯端末の呼び鈴が鳴り響く。

ヒイロはポケットに手を入れて通話ボタンを押すと耳元に端末を当てる。

 

「どうした?」

 

『あ、コンサート終わった? ヒイロも大変ね、あんなのに関わっちゃって』

 

聞こえて来たのはルナマリアの声。

メイリンに連れ回された事に哀れみを込めて言うがヒイロは普段よりも機嫌が悪かった。

 

「そんな事の為に呼び出したのか? 用がないなら切るぞ」

 

『待って待って!! 切る事ないでしょ!! 今、ディオキアの8番街にあるホテルに居るんだけどデュランダル議長が訪問されてるみたいなの。それでザラ隊長から連絡があってアタシ達と話がしていんだって』

 

「何の為だ? 俺はアイツと話す事はない」

 

『そうかもしれないけど!! 軍人なんだから上からの指示には従うの!! シンとレイもコッチで待ってるから早く来る事、良いわね?』

 

「了解した」

 

『ホテルまでの道はわかる?」

 

「問題ない。7分で合流する」

 

『じゃあ待って――』

 

ルナマリアの声を途中で遮断するヒイロはシートから立ち上がり、言われた通り8番街ホテルに向かって歩き出す。

残されたメイリンはどうするべきか悩む間にヒイロの背中は遠ざかってしまう。

 

「あ、えぇ、行っちゃうの? まだグッズ買いたいのに!! あ〜もぅ!!」

 

メイリンはヒイロの事を諦めて1人で今度はグッズ売り場まで走る。

ヒイロは全く気にする素振りすらなく、ホテル前に時間通り辿り着いた。

そこには既にアスラン、シン、レイ、ルナマリア、艦長であるタリアまでも居る。

ヒイロの姿を見たルナマリアは途中で通話を一方的に切られた事に対して声を上げた。

 

「アンタ途中で切ったわね!!」

 

「時間には間に合った。問題ない」

 

「そうだけど――」

 

「ルナマリア、話は後にしてちょうだい。議長が中でお待ちよ」

 

言葉で彼女を静止させるタリアは時間がないとホテルの中に足を踏み入れる。

不満が収まらない彼女はヒイロを睨み付けタリアの後に続く。

中はデュランダルが滞在してると言う事もあり護衛兵が至る所で警備に当って居る。

全員はエレベーターで階を上がりホテル内のバルコニーまで来た。

 

「良い事、くれぐれも失礼のないように」

 

念を押すタリア。

言われてシンは襟元を正した。

大きな扉をノックするタリアは中に聞こえるように伺いを立てる。

 

「ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。デュランダル議長?」

 

数秒後、内側から扉が開かれる。

中に居るのはデュランダルと護衛兵1人だけ。

バルコニーには彩色された長机にティーポットが用意されて居た。

 

「やぁ、待って居たよ。中へどうぞ」

 

「はい、失礼します」

 

一礼してからタリア他5人は部屋の中へと入る。

デュランダルの誘導に従い用意された椅子の前に立つ。

最初にデュランダルが座るのを見てから5人も席に付く。

 

「折角の休暇にわざわざ来て貰ってありがとう。私もこの様な機会がないと前線で戦う兵と会う事も出来なくてね。キミ達の目から見た地球圏、プラントの現状を聞きたいんだ。余り固くならず自由に発言してくれ」

 

言うとティーポットに手を伸ばすが、気が付いたタリアは立ち上がると代わりに中の紅茶を注ぐ。

 

「助かる、タリア。さて、キミ達ミネルバの活躍は私の元まで良く届いてるよ。特にシン・アスカ君」

 

「は、はい!!」

 

「新型のインパルスを使いこなしてるそうだね。アーモリー・ワンが初陣だと聞いたが良くやってる」

 

「ありがとうございます!!」

 

デュランダルは紅茶の注がれたカップを持つと静かに口に含む。

 

「これからも活躍に期待してるよ。強奪されたセカンドステージの内の1機は破壊したと聞いた」

 

「はい、データも既に連合に渡ったと考えられ戦闘にも投入して来ました。奪還するのは困難と考え撃破しました」

 

そう説明するのはモビルスーツ隊隊長のアスラン。

 

「そうか、それも致し方ない」

 

「奪われた3機の内、破壊出来たのはアビスです。残り2機もまた投入されるかもしれません」

 

「だろうな。充分なデータを採取したのなら後は戦力に投入するだけだ。連合の立場からすれば新型のGは欲しい筈だ。アビスを撃破したのはキミか?」

 

「いえ、自分ではありません。彼です」

 

そう言うとアスランはヒイロに目線を向けた。

この中で唯一制服が緑のヒイロの姿をデュランダルはスゥッと目を細めて見る。

 

「初めて見る顔だね。名前を聞かせて貰えるかな?」

 

聞かれてもヒイロは真正面を見るだけで口を開こうとしない。

 

「ん? どうしたんだい?」

 

「ヒイロ!!」

 

見かねたシンが小さな声を出し見えないように肘を当てる。

そこでようやくデュランダルに視線を合わせると口を開けた。

 

「ヒイロ・ユイです」

 

「ヒイロ君か。単刀直入に聞くがキミは戦争に付いてどう考える?」

 

「それは今の連合とプラントの情勢の事か?」

 

「ソレもある」

 

必要以上の事は言わない。

ヒイロは数秒考えるとデュランダルを睨むように鋭い視線を向けた。

 

「終戦後の世界情勢を見ても連合がプラントに戦いを仕掛ける理由はない。それでも今のようになった理由は戦争による産業の活性化。連合の裏で何者かが状況をコントロールさせてる。」

 

「なかなかするどい着眼点だ。私もキミと同じ様に考えてる。いつの時代も戦争なんて起きて欲しくない。皆がそう考え願うにも関わらず人類は戦いの歴史を積み重ねて来た。何故か? そう願いながらも人が戦うのは避けられない運命なのかもしれない。戦争の裏では莫大な資金がうごめいてる。キミ達が乗るモビルスーツも、艦艇も、1つ作るのに様々な事業と資金が動く。この点だけを見れば非常に効率の良い産業と言える。だがその為にどこかで誰かが死ぬ。そんな事を私は認めない。連合の裏で牛耳る存在、ロゴス。連合と戦うのではなく彼らのような戦争商人を世の中から失くす事が今の戦いを終わらせる1番の道だと考える」

 

デュランダルの言葉に他の5人は静かに耳を傾けた。

けれどもヒイロだけはソレに対して意見を言う。

 

「俺達兵士は平和の為に戦って来た。だが仮にロゴスを壊滅したとしても、世界から兵器と兵士を失くしたとしても、人類の戦いは終わらない」

 

「何故そう考える?」

 

「人は感情で行動するからだ。武器がなくても人は戦いを止めない。大戦などと大掛かりな事をする必要はない。それでも人は常に戦う姿勢は必要だ。世界に対して、社会に対して、自分に対してもだ」

 

「ヒイロ・ユイ君、キミは強い人間だ。私はソレを素晴らしいと思う。けれども人類全てがそうではない。だから私は全ての人々が安心出来る世界を目指す」

 

(ギルバード・デュランダル、俺はお前をまだ信用してない。お前がこの世界に何をもたらすのか、見極めさせて貰う。だがその道を外すようなら、俺はお前を殺す)

 

///

 

会談が終わり5人はミネルバに戻る為、ホテル内の長い廊下を歩いて居る。

シンはヒイロの傍まで近寄ると先程の事を聞いて来た。

 

「オイ、なんですぐ議長に返事しなかったんだ?」

 

ヒイロは立ち止まり横目でシンを睨む。

「なっ、なんだよ」

「いいや。ただ考えが読めなかっただけだ」

 

「どういう事だよ?」

 

「わからないなら気にするな」

 

「お前、俺の事を馬鹿にしてないか?」

 

シンは聞き返すがヒイロはこれ以上は喋らない。

そんな中に昨日嫌ほど聞かされた声が聞こえて来る。

 

「アスラ〜ン!! ふふふっ」

 

「ミッ……ラクス」

 

「お久しぶりですわ。会えて嬉しい!!」

 

ラクスが突然来た事に驚くアスラン。

けれども彼女はそんな事はお構いなしで皆が見てる前でアスランに抱き付いた。

 

「今日のライブ、見て下さりましたか?」

 

「い……いや、他にもやる事があって見に行けなかった」

 

「そんな〜」

 

2人の様子を見てため息を付いて呆れるタリア。

その後ろからラクスの声を聞いたデュランダルがやって来た。

 

「あっ!! 議長!!」

 

「コンサートは終わったのかい?」

 

「はい、皆様とても楽しんで居ました」

 

「それは良かった。キミのお陰で兵の指揮が上がる」

 

デュランダルはアスランの耳元に口を寄せると小声で囁く。

 

「気付いてるかもしれないが、くれぐれも内密に頼むよ」

 

「わかってます」

 

状況を理解してないラクスはただ笑顔を向けるだけ。

自分が蚊帳の外に雰囲気に耐えられずラクスはまたアスランに話し掛けた。

 

「そう言えば!! アスランは隊長なんですわよね?」

 

「あ。あぁ。ミネルバではモビルスーツ隊の隊長をしてる」

 

「わたくし、1度モビルスーツを見てみたいです!!」

 

「そう言われてもな」

 

独断では判断出来ない内容に頭を悩ますアスランだがデュランダルが助け舟を出す。

 

「良いではないか、アスラン。キミに渡したセイバーの戦いぶりを見る事も出来るし良い機会だ。模擬戦でもやってみてはどうかね?」

 

「議長がそう仰るなら」

 

「艦長もそれで宜しいかな?」

 

「異論はありません。では準備もありますので20分後でも宜しいでしょうか?」

 

「構わんよ。では行こうか、ラクス」

 

「はい、議長!!」

 

言うとラクスはデュランダルの左隣へ並びながら歩いて行ってしまう。

喧しい声の主が居なくなった事に安堵しタリアはまたため息を付いた。

 

「なら私達も行きましょう。アスラン、さっき言ったように模擬戦は20分後。すぐに準備を初めて」

 

「了解です。各員はモビルスーツに模擬専用の武器を装備させて発進準備。いつでも出られるようにして来れ」

 

隊長であるアスランの指示に従いシン、レイ、ルナマリアは敬礼する。

だがヒイロだけは通りすぎて言ったラクスの背中をジッと見つめて居た。

 

(替え玉としてアイツを使ったのはプラントの総意か。それともあの男1人の考えか。どちらにしても本物のラクス・クラインがどう動くかによって変わって来る)

 

ラクスが偽物だと気が付いてるヒイロは誰にも言わず1人思考するが、その事に気が付く筈もないルナマリアは横目でジッとラクスの姿を見つめるヒイロの事を覗いた。

 

(ヒイロもあの子に毒されちゃったわね)

 

そんな風に思われてるなど露知らず、模擬戦を始める為に各員はミネルバに戻る。

 

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第9話 罪の所在

 

地球連合軍所属、ファントムペイン部隊。

その隊員の1人であるスティングは借りたホテルのベランダから双眼鏡を覗き込みディオキアのザフト軍基地を偵察して居た。

 

「いつまでこんな事を続けてりゃ良いんだ。ネオのヤロウ」

 

成果の得られない偵察任務に嫌気が差し悪態を付く。

後ろを振り返ればベッドの上で寝息を立てるステラが見え余計にストレスが募る。

 

「あ……ウル……」

 

よく見ればそのまぶたからは涙が流れてる。

その事にスティングは気が付かなかったし、無意識にこぼれ出た寝言に関心を示す事もなかった。

握るレンズの向こうでは戦闘が始まる訳でもないのにモビルスーツが数機出撃して居る。

 

「何だ? 呑気にコンサートをやってたかと思えば次は何する気だ?」

 

基地内に現れる4機のモビルスーツ。

確認出来たのは今までにも交戦した事のある機体。

セイバー、インパルス、ザクウォーリアが2機。

自身のカオスに損傷を与え煮え湯を飲まされた相手にスティングの視線は鋭くなる。

 

「アイツラが居るって事はザフトの新造艦もこの基地に居るって事だな。ようやくネオにまともな事を報告出来る」

 

覗き見ながらモビルスーツの動きを観察してわかったのは握られてる武器が演習用のモノだ。

見た目はライフルでもビームも実弾も発射されず出るのはペイント弾だけ。

ビームサーベルをエネルギー供給をカットされておりデータ上で表示されるのみで今の状態では戦闘能力は全くない。

 

「こんな時に演習かよ。今攻め込んだらザフトの奴らを壊滅出来るかもな」

 

冗談を言うスティングだが、その背後から音もなく誰から飛び付いて来た。

 

「なっ!?」

 

「ネオ……ネオはまだ?」

 

「ステラか、驚かせるな。ネオならすぐ迎えに来させる。この事を報告して後は後方部隊に任せてディオキアから出ようぜ」

 

「帰る?」

 

そう言うスティングは暗号通信でネオに伝える為に双眼鏡をステラに渡して持ち込んだ通信装置に向かって行く。

受け取ったステラはつぶらな瞳を向けて立ち尽くすだけだったが、好奇心のままに双眼鏡のレンズを覗き込む。

拡大されて映るホテルの壁。

その場でグルグル回る彼女は外の風景も視界に収める。

青い空と海、人々が居る町並み。

でも見えるのはそれらだけでなく、少し前にスティングが偵察の為に見てたザフトのディオキア基地も当然目に入った。

瞬間、ステラの眼光が鋭くなる。

 

「あ……あぁっぁ……敵、倒さないと。敵、敵、うあああぁぁぁっ!!」

 

前回の戦闘で仲間のアウルが戦死した。

ネオの処置により薬物で一時的に感情を抑えはしたがここに来てそれが爆発してしまう。

エクステンデッド、コーディネーターに対抗する為に人工的に強化された兵士。

けれども非人道的に行われる強化により彼女らの記憶さえも操作されており連合からは戦う為の道具としか認識されてない。

ステラは握ってた双眼鏡を投げ捨てると全速力で部屋の中を走り抜ける。

 

「ステラ!! どう言うつもりだ!!」

 

声に気が付いたスティングは走り出す彼女の腕を掴み何とかして止めようとしたが、今のステラに現状を把握出来るだけの視野はなかった。

強引に手を振り払いホテルの部屋から出て行ってしまう。

 

「ナニをするつもりだ? まさか……冗談だろ!!」

 

///

 

ミネルバのモビルスーツデッキにはヒイロが搭乗するグフだけが残ってた。

パイロットであるヒイロもその場に残っており整備兵であるヨウランと共に機体の調整を行ってる。

 

「お前パイロットだろ? 自分の機体が大事なのはわかるけどこんな事してて良いのか?」

 

「演習をやる意味はない。そんな事をした所で戦えない兵士は死ぬだけだ」

 

「戦闘に対してクレバーな考えなのもわかったけどさ、議長が訪問されてるんだろ? ヤバイって」

 

「オイ」

 

ヨウランの言葉を無視してヒイロは片膝立ちのグフに握らせたビームサーベルの設定を終える。

連合のウィンダムが使用するビームサーベルをエネルギーケーブルでグフのジェネレーターに無理やり取り付けたモノだ。

 

「完了した。電力を流せ」

 

「ハイハイ、仰せのままに」

 

説得を諦めたヨウランは言われた通りにビームサーベルへ電力を供給させる。

握ったグリップからピンク色のビームが発生するがそれは一瞬で、ジェネレーター出力が大きすぎてエネルギーケーブルが途中で焼き切れてしまう。

ビームの発生も当然止まってしまった。

 

「あ〜ぁ、ダメだこりゃ。なぁ、どうしてもビームサーベルでないとダメなのか? 標準装備のビームトマホークやテンペストビームソードでも充分だろ?」

 

「威力は高いかもしれない。だがビームサーベルの方がポテンシャルが良い」

 

「グフはビームサーベル使うように出来てないんだ。いっその事別の機体使うとか」

 

「だがインパルスは使えない。そうなるとこの方法で進めて行くしかない」

 

ヒイロの言い分が曲がる事はない。

こうなってしまった場合、折れるのはいつもヨウランだ。

 

「いつになったら出来るかわからねぇぞ。ソレまでは我慢してくれよ? 俺にだって他に仕事があるしな」

 

「わかった。後は任せる」

 

「サーベルグリップとケーブルは廃棄だな」

 

ヒイロは使えなくなった部品の片付けを任せるとペダルを踏んで片膝を付かせたグフを自立させる。

ゆっくりと進む機体は収納ケージまで来るとヒイロはバッテリーのエネルギー供給をストップさせた。

一方定刻通り準備を終わらせた他のモビルスーツ部隊は基地内に自身のモビルスーツの脚を付ける。

全員が演習用の装備を付けておりアスランが搭乗するセイバーも例外ではない。

周囲を見渡したアスランはコンソールパネルに指を伸ばし通信を繋げる。

 

「ヒイロのグフが見当たらない」

 

『モビルスーツデッキまでは一緒でしたがそこから先は』

 

レイの報告に確信を得たアスランは思わずため息を付いてしまう。

 

「まぁ良い、人数は足りてる。チーム編成は俺とレイ、シンとルナマリアだ。200秒以内に相手を殲滅させた方が勝ち。議長も傍で見てる、演習だからと言って気を抜いたりするなよ」

 

『了解』

 

3人の返事が通信越しに返って来る。

アスランは演習を始めようと操縦桿を握り締めるが突如としてレーダーに敵反応が映った。

そこには連合に奪われたガイアの姿。

 

「ガイアがどうしてここに!? 各員演習中止、1度基地に戻って装備を整える」

 

すぐに演習を中止させモビルスーツを後退させるアスラン。

だがシンはその指示に異を唱える。

 

「でもこのままじゃ街が!!」

 

「今のままでは戦う事も出来ない。気持ちはわかるが引くしかない」

 

「くっ!!」

 

シンの脳裏に蘇るのは目の前で家族が死んだ光景。

何も出来ず、髪の毛1本すら残さずビームに消し飛ばされた。

少し前にもインド洋基地での民間人虐殺を見たばかり。

アスランに力とは何かを問われ答える事の出来なかったシンだったが、確かなのは心の底から沸き上がる悲しみと怒り。

ガイアはメインスラスターを吹かせてジャンプしながら街の中心街から基地へと迫って来て居る。

踏み潰される街。

逃げ惑う市民。

血を流しケガをする人に泣き叫ぶ子ども。

感情を抑え切れないシンは力強く操縦桿を握り締めた。

 

「武器はなくても押さえ付ける事くらいなら出来ます。俺にはこのまま見過ごすなんて出来ません!!」

 

「止めろシン!! 防衛部隊もすぐに展開される。それまで――」

 

言い切るシンは声を無視してペダルを踏み込みメインスラスターを吹かしてインパルスを飛ばす。

武器のない状態でガイアに挑むのは無謀極まりない。

アスランは1人で先行して行くインパルスを止めに行く事が出来なかった。

街中を突き進むガイアはディオキア基地を目指して来る。

周囲の状況を全く試みない相手の行動にシンは怒りを燃やす。

 

「戦うだけならどこでだって出来る。何だってこんな所で!!」

 

「見つけた!! 敵、敵!!」

 

インパルスを視野に収めたガイアはビームサーベルを引き抜き飛び掛る。

武器を持たない今は真正面から戦う術はなく、インパルスはメインスラスターを吹かせ寸前の所で上空に飛び上がった。

ビームはアスファルトを溶かし灼熱の蒸気を上げる。

 

「くっ!! 逃げるな!!」

 

「そうだ、コッチに来い」

 

空を飛べないガイアはビームサーベルを戻し次はビームライフルを握った。

インパルスに照準を合わせようとするがシンはガイアに背を向けて街から離れて行く。

街の中では被害を大きくなるだけ、基地に被害を出す訳にもいかず誰も居ない海岸へ向かって飛ぶ。

ガイアは空のインパルスを狙いトリガーを引く。

発射されたビームは真っ直ぐに目標へ向かって飛んで行くがシンはスラスターで機体を制御してコレを避ける。

 

「当たれ、当たれ!!」

 

立て続けに発射されるビームに背を向けたままでは避けきれず、反転したインパルスはシールドでコレを防いだ。

ガイアとの距離は近づかれ過ぎないように、離れすぎないように調整しながら行き先を誘導して行く。

 

「上手くいってるけど、このパイロットは何なんだ? 周りがまるで見えてない。こんな簡単に引っ掛かるなんて」

 

疑問に思いながらもシンは被害の及ばない海岸に向かって誘導を続ける。

なかなかダメージを与えられない事と戦いにくい事にステラは更に逆上して居た。

 

「ぐぅぅぅっ!! 消えちゃえぇぇぇ!!」

 

「何だって言うんだ!?」

 

我慢出来なくなったステラはガイアをモビルアーマー形態に変形させ背中のウイング前面に展開されたビームブレードでインパルスに突っ込む。

予測出来ない行動にシンは反応が遅れてしまい、回避行動を取るが左脚部を持って行かれてしまう。

態勢を崩されるインパルス。

ガイアは瞬時にモビルスーツに変形し背部に組み付いた。

 

「こ、コイツ!! でもこれなら行けるかも。ガイアは飛べないからな。このまま援軍が来るまでこうしてれば機体を取り戻せる」

 

ガイアは無理やりインパルスに組み付くので精一杯な状況。

このまま攻撃しようと片手を離せば海へ落とされる。

そうなればステラにとって状況は益々不利になってしまう。

ステラは組み付いたまま頭部バルカンでフォースシルエットに至近距離から弾丸を直撃させる。

VPS装甲で作られてるシルエットだが内部パーツはそうはいかない。

弾丸は噴射口から内部を破壊し、青白い炎が黒煙に変わる。

 

「しまった!? パワーが上がらない!!」

 

シンはペダルを踏み込み必死に出力をあげようとするが機体は反応してくれない。

出力の下がったメインスラスターで2機を支える事など出来ず、インパルスとガイアはもつれ込んだまま海へ落下してしまう。

 

「離せよコイツ!! 機体の制御が!?」

 

「アウル、アウルゥゥゥ!!」

 

インパルスはまともに動く事もままならず海に流されて行く。

 

///

 

ミネルバはインパルスを追ってディオキア基地を出港する。

本来ならダーダネルス海峡で連合軍を迎え撃つ為に出港はもう少し先なのだが、ガイアと組み付いて海に落下してから機体の反応を探知出来なくなってしまう。

敵の増援が現れる事も考え充分な戦力を整えてからインパルス、並びにパイロットのシンの救出に向かった。

だが2機の反応は依然として見つからない。

バッテリーが両機とも失くなってしまいどこまで流されたのかわからなくなる。

日が沈めば捜索は更に困難になってしまうので時間との勝負。

だがそれらしき姿は見つけられず周囲は夜の闇に包まれてしまう。

そんな中、アスランは1人潮風のあたる甲板に居た。

 

(俺が無理にでも止めて置けばこうはならなかった。クソッ!! 俺はまた……)

 

両手を手すりにつけゆっくりと目を閉じると強い風が吹き髪が舞う。

頭の中に思い浮かぶのはあの時の言葉。

 

『コーディネイターにとってパトリック・ザラが取った道が唯一正しい物であった事が、何故分からん!!』

ユニウスセブンで戦ったテロリスト。

2年前、アスランは父であるパトリック・ザラの強攻策には反対した。

だがテロリストのその一言はアスランには重すぎる。

そのせいで大戦は泥沼化し被害は更に広がってしまった。

止められる立場に居ながら何もする事が出来ない。

今回のシンの事も重なり思い悩んでると甲板の入り口の開く音が聞こえる。

しかし今は振り向く気力もなく足音が背後に近付いて来た。

「ここに居たのか」

「ヒイロ!?」

 

声を聞き振り返る先に居たのはヒイロだった。

以外な人物が来たことに驚いてしまうがヒイロは気にした様子はない。

 

「何を迷っている。お前がしっかりしないと作戦に支障が出る」

 

「お前でも励ましたり出来るんだな。」

「そんなつもりはない。救出が成功すれば次はダーダネルス海峡で連合と戦闘だ。情報によればオーブも関与してるらしい」

 

「そうか、オーブも……」

 

カガリの国であるオーブともこのままでは戦う事になってしまう。

しかしコレを回避する方法などなく、自身の無力さを呪うしか出来ない。

 

「情けない話だがオーブと戦うことに少し踏ん切りがつかなくてな。俺は、ヒイロがこのミネルバに来る前はオーブに居た。そこで現代表であるカガリ・ユラ・アスハのボディーガードをしてた。前の戦争では英雄視されたりもしたがザフトに居続ける訳にもいかず、カガリの傍に居る事を選んだ。そう決めた筈なのに連合の宣戦布告で放って置けばプラントがまた戦火に巻き込まれる。只見てるだけなんて俺には出来ない。だからザフトに戻ったのに……」

 

「言いたい事はそれだけか? 戦えない兵士など軍には必要ない。だったらお前の敵は誰だ?」

 

「俺の……敵?」

 

「俺の敵は俺の命を狙うモノ、俺の命をもてあそぶモノ、そのすべてが敵だ。お前の敵はどこに居る。倒すべき敵が居ないのに何故お前は軍で戦う?」

 

「今の俺にはわからない……何でなんだろうな」

 

「それを見つければ良い。だが作戦開始まで時間もない。インパルスの捜索もある。戦力にならないようなら戦場に来るな」

 

突き放すように言うヒイロは出口に向かって歩いて行く。

優柔不断だった自身の心にナイフを突き立てるような言葉だが今のアスランには気力が沸いた。

 

「ヒイロ!! 俺の答えを探してみるよ。それと、隊長に向かってお前って言うのは止めろ」

 

「了解した」

ヒイロは静かに呟くと甲板から出て行ってしまう。

夜の闇に染まる空を見上げながらアスランは1人潮風に当たる。

 

「普段からあれぐらい話してくれると良いんだけどな。俺も人の事は言えないか」

 

1人で思い悩んで居た時よりは心が安らいだ。

///

 

波の音だけが聞こえる。

荒波に流された2機は絡み合ったままどことも知れぬ岸に辿り着いた。

バッテリー残量は底を突き指1本とて動かせない。

 

「クソッ!! レーダーも見れないって事は救難信号も出せない。どこだここは?」

 

コクピットのシートに座るシンは文句を言いながらもハッチを手動で開放させる。

シートベルトを外し拳銃を手に取り外の景色を覗くと辺りは夜に変わってた。

身を乗り出し機体から出たシンは海岸の砂浜に足を付ける。

振り返った先にはフェイズシフトがダウンしたインパルス、そして隣に横たわるガイアが居た。

 

「コイツもここに。なら……」

 

スライドを引き銃を構えるシンは動かないガイアのコクピットに走った。

ハッチに手を触れ外から開放させるべくパネルに指を掛ける。

装甲に身を隠しながらパネルを押すとガイアのハッチを開放させた。

中の空気と外気が入り混じる。

緊迫した空気の中で息を殺すシンは敵のパイロットの気配に敏感になるが全く何も感じられない。

呼吸を整え、シンはコクピットに銃口を突き付ける。

 

「え……この子は……」

 

ガイアのコクピットに座るのはシンとさほど年齢も変わらない少女。

パイロットスーツも着ずに気を失う少女はアーモリー・1で出会った少女と同じだ。

 

「う……ん……」

 

「っ!!」

 

口から漏れる声に再び緊張を走らせるシンはグリップを確かに握り締め銃口の先を正確に額へ向けた。

ゆっくりまぶたを開ける少女は虚ろな表情で目の前のシンを見る。

暫くは状況を理解出来ず可憐な姿のままだったが、数秒もすると意識を覚醒させシンの事を敵だと認識した。

途端に変わる表情。

敵意をむき出しにする彼女は両手をシンの首に掛けようと全力で伸ばす。

 

「う゛ううぅぅぅっ!! 敵!! てきぃぃぃ!!」

 

彼女の手はどれだけ伸ばしても空を掴むだけ。

シートベルトが体を押さえ付けてこれ以上は動けないが彼女はそんな事に気が付いてない。

思うのは目の前に居る敵を倒す事だけ。

目の前に突き付けられる銃口でさえも今は見えてない。

シンは少女の異常な行動に恐怖すら覚えトリガーに指を掛けるだけに留まる。

 

「普通じゃないぞ、コイツ。どうしてこんな子が!?」

 

「ぐぅぅぅっ!! あ゛あ゛あああぁぁぁ!! 敵は倒す!! 倒す!!」

 

「意思の疎通も出来そうにないな。だったら!!」

 

彼女が叫ぶように2人はついさっきまでは戦ってた敵同士。

シンはグリップを両手で握り照準を定める。

人差し指に力を込めトリガーを引こうとするが時間だけが過ぎ去って行く。

心の中の葛藤、脳裏に蘇るアスランの言葉と自分の過去の境遇。

次第に額からは汗が流れ指は震えて居た。

 

「ダメだ、無抵抗な人間を殺したら俺まで一緒になる。それにこの子を殺しても何も変わらない。この子は無理やり操られてるだけだ。精神状態が異常なのは薬物の投与か? どっちにしてもここまでするなんて普通じゃない」

 

「ウウウゥゥゥッ!!」

 

「俺は敵じゃない、キミの味方だ。今助けるから」

 

シンは銃を腰に戻し少女が伸ばす両手首を掴んだ。

同じ年代とは思いない力がシンを振り払おうとするが何とか押さえ付けるが姿勢が崩れてしまいコクピットに倒れてしまう。

 

「う、うわぁっ!?」

 

顔が少女の胸の上にぶつかり体が密着してしまう。

表情を赤面させるシンだが少女は気にする事もなく手足をバタつかせ暴れ回る。

 

「大丈夫、大丈夫だから!!」

 

「う゛うっ!!」

 

「もう戦う必要なんてない!! 大丈夫、キミの事を守るから!! 俺が守るから!!」

 

暴れる少女に叫ぶシン。

けれども言葉は届かず少女はシンの首元に八重歯を突き立てた。

 

「ぐぅっ!?」

 

肉を突き破る歯、流れ出る血。

シンは痛みに耐えながら何とか彼女に言葉を聞かせる。

 

「大丈夫だから。もう戦う必要なんてない!! キミは俺が!!」

 

必死の訴えを聞いてくれた少女はようやく腕の力を弱めた。

むき出しの殺気もどこかへ消えて2人の目線が交差する。

口元はシンの血で汚れてしまって居た。

 

「だい……丈夫? ステラの事……守る?」

 

「ステラ……あぁ、俺はキミを傷付けたりしない。大丈夫、キミを守る」

 

「ほんとうに?」

 

「本当さ、約束する」

 

「ありが……とう……」

 

言うとステラは意識を手放した。

力なくシートに体を預ける彼女の姿は歳相応の少女にしか見えない。

シンは体を固定してるシートベルトに手を伸ばし解除してからステラを抱え上げた。

狭いコクピットから這い出たシンは装甲を足場にして再び砂浜に足を付ける。

 

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第10話 降臨

 

集められた枯れ木から火が上がる。

星明かりしか届かないこの場所では目の前で燃える火だけが唯一の光り。

コクピットから非常食を持って来たシンはその内の1つをステラに手渡す。

 

「ほら、持って来たから」

 

「ありがとう」

 

「今日はこれでやり過ごそう。日が出て明るくなったら他に食料がないか探して来るよ」

 

受け取ったステラはビニールを引き裂きブロック上の栄養食を小さな口でひと口食べる。

精神状態も落ち着き普通に食事を取るのを見たシンも心を安堵させ自分の分の栄養食にかぶり付いた。

空腹が完全に満たされる訳ではないが今夜を耐え忍ぶ分には充分。

チューブを手に掴み水を含むと口の中のブロックを喉の奥へ流し込む。

 

(こんな事になっちまったけどミネルバが捜索隊を出す筈だ。でもそれは連合も同じ。連合が先に来たらステラを助けられない。それどころか俺まで連れてかれるかもしれない。ここは信じて待つしかないか)

 

シンは砂浜に寝転ぶと眼前に広がる星空を見た。

何光年も先から届く星の光り。

無限に続く宇宙空間。

幼少期はオーブ、ザフトに入隊してからはプラントに住んでたシン。

夜空を、宇宙をこんなにもハッキリ見たのは初めての経験だった。

 

(そう言えば……夜空なんてちゃんと見た事なかったな)

 

「ほし……キレイ。アウルもあそこに居るのかな?」

 

「アウル? 知り合いか?」

 

「うん!! アウルは……アウルは……」

 

声が段々と小さくなる。

表情も暗くなるステラを見てシンは体を起こし立ち上がると彼女の隣に移動して手を握ってあげた。

 

「大丈夫?」

 

「大事な事なのに……忘れちゃった。なんで? なんでなの?」

 

「友達だったのか? それとも家族とか?」

 

「わかんない……わかんないよ!! うぅっ、あうるって誰なの?」

 

(やっぱり普通じゃない。戦わせる為に無理やり薬物投与やマインドコントロールまでしてるな。精神状態が幼いもそうだ。アウルってのが誰かはわからないけど、こんな忘れ方はおかしい)

 

最後には涙まで流す彼女にシンは何と言葉を掛けて良いのかわからず、只優しく抱きしめてやる事しか出来なかった。

悲しみを同じくするシンは心の中で決意を固める。

 

(今でも目の前でマユが死んだ光景が夢に出て来る。耐え切れなくていっその事忘れたかった時もあった。でも忘れる事でさえも苦しみになるのか。だったら俺は忘れない!! この悲しみも、苦痛も、全部抱えて

力にする!!)

 

シンの瞳は鋭く光り輝く星々を睨んだ。

その先では星の光りとは違う輝きが付いたり消えたりして居た。

 

「アレは……」

 

「流れ星さん?」

 

「違う、星の光りなんかじゃない。爆発、近くで戦闘してる」

 

立ち上がり爆発の先を見つめるシンはここからの距離がどの程度離れてるのかを目視で判断する。

戦闘の規模は小さいが発射されるビームライフルの閃光も一瞬ではあるが見える事からそこまで離れてない。

 

(戦ってるって事はミネルバが近くまで来てるのか? いや、断定は出来ない。どちらにしても連合軍だった場合が1番マズイ。どうする?)

 

考えるシンに対してステラは無垢な瞳を向けるだけ。

悠長にしてる時間もなく、シンはステラを砂浜から立ち上がらせると一緒にモビルスーツに向かって歩き出した。

 

「どうしたの?」

 

「ここも戦闘になるかもしれない。コクピットの中に居る方が安全だ」

 

「アナタも一緒に来るの?」

 

横たわる機体の元にまで来たシンは立ち止まるがステラの質問にすぐに応える事が出来ない。

こうする間にも爆撃音が耳に届くようになり戦闘が近づいてるのがわかる。

手を握り隣に立つ彼女は何も言わないまま見つめるしかしない。

 

「ゴメン、一緒には……行けない」

 

「どうして?」

 

「どうしてって……上手く言ってあげられないけど今は無理なんだ。互いの場所に戻るしかない。でもウソを付いたりなんてしない。俺は絶対にキミを守るから」

 

「ほんとう?」

 

「本当だよ。絶対に守る。約束する」

 

言うとシンは彼女の両手を優しく握り締める。

未練が残りながらも温もりが残る手を離そうとした時、ステラは思い出して最後に口を開けた。

 

「名前、教えて?」

 

「名前?」

 

「私はステラ。ステラ・ルーシェ」

 

「俺は……シン・アスカ。ステラ、また一緒に星を見よう」

 

「うん、わかった!! シンの事も覚えたよ。また一緒に星見よ」

 

「あぁ、約束だ」

 

「やくそく」

 

約束を交わした2人は互いの居場所に戻るしかない。

確定した情報がない状況下で一緒に居るのはリスクが高く離れるしかなかった。

インパルスのコクピットに入るシンは最後の予備電力を使い機体を何とか動かす。

予備電力の使用時間は10分程度しかない。

通信装置に電力を供給させ通信が傍受出来ないかどうかを試して見る。

 

「頼むぞ。ザフトのモビルスーツが居るなら繋がって来れ」

 

運に任せてシンはコンソールパネルを叩く。

雑音ばかりがスピーカーから聞こえて来るばかりで声の類は一切聞こえない。

それでも少ない電力を使ってこうするしかなかった。

ハッチの向こうに光る爆発に気を付けながらもただひたすらに繋がるのを待つ。

 

「頼む、繋がれ。頼むから」

 

10秒経過するもまだ雑音しか傍受しない。

焦りも感じ始め額に汗が滲む。

たった数秒でも時間が長く感じてしまい不安な状況は消えない。

ようやく20秒と時間が過ぎる中でようやく声が聞こえ目を見開いた。

 

『――える――ネルバの――』

 

「ミネルバ!? 捜索隊が来てくれた!!」

 

『聞こえ――シン、聞こ――こちらはミネルバのアスラン・ザラだ。シン、聞こえるなら応答してくれ』

 

「隊長が来てくれたのか?」

 

声もちゃんと聞こえ確証が持てたシンはまたコンソールパネルに手を伸ばした。

 

「こちらはインパルス。隊長、聞こえますか?」

 

『シン、無事だな? こっちは連合のモビルスーツと交戦中だ。お前を回収次第、すぐにこの場から離脱する』

 

(やっぱり相手は連合軍か。こっちと同じでステラを回収しに来たのか。だとしたらやっぱり一緒には行けない……クッ!!)

 

苦虫を噛み潰しながらもシンは操縦桿を握り締めた。

脚部はガイアの攻撃により切断されてしまって立ち上がる事は出来ず、チェストフライヤーとレッグフライヤーを分離させコアスプレンダーだけにする。

主翼を広げメインスラスターの出力を上げるシンは上空に見える閃光に目掛けて機体を飛ばす。

 

「エネルギーは少ないけど合流するくらいなら出来る」

 

飛び立つコアスプレンダーの中でシンは後ろに振り返った。

そこには分離したインパルスのパーツとステラの乗るガイアが立ち上がる姿が見えた。

ガイアのビームライフルは海を漂流してる間に流されてしまっており、サイドスカートからビームサーベルを引き抜くと捨てられたパーツに向かって斬り掛かる。

ビームは容易く装甲を貫きインパルスの残骸は爆発を起こしガイアを飲み込む。

VPS装甲はこのくらいの爆発では傷すら通さず、頭部のツインアイは空を飛ぶコアスプレンダーを見つめた。

 

「シン……名前、覚えた」

 

「ステラ……」

 

シンはペダルを踏み込みコアスプレンダーを加速させる。

いつまでも彼女の事を思って居たかったが目の前には敵も迫っており悠長に出来ない。

 

「セイバーはどこだ? 連合軍のモビルスーツも近くに居るんだろ」

 

『コアスプレンダーの座標位置はこちらで掴んだ。連合のウィンダムとカオスが出てる。交戦は避けろ』

 

「そうは言っても場所がわかんないんじゃ」

 

『ヒイロも一緒に来てる。70秒後には合流するから離脱しろ』

 

「ヒイロも?」

 

『そうだ、俺は敵機を誘導する。離脱してミネルバと合流する事を優先しろ。わかったな?』

 

「了解。こんな状態で戦う気なんてありませんよ」

 

言われた通りにシンはコアスプレンダーの速度を一定に保ちそのまま真っ直ぐに進み続ける。

そして見えて来るのは青い装甲と威圧感の覚える機体のフォルム。

時間通りにヒイロが乗るグフはコアスプレンダーに合流した。

 

『目標視認。任務完了、直ちに帰還する』

 

「ヒイロ、セイバーは?」

 

『敵機と交戦中だ。だが相手の数も少ない。離脱するくらいなら楽に出来る』

 

「そうか」

 

『推進剤はまだあるな。インパルスのフライヤーは捨てて来たか』

 

「情報は漏れないように破壊した」

 

『ならここに居る理由はない。ミネルバに戻る』

 

グフはマニピュレーターでコアスプレンダーを掴むと迅速にミネルバに向かって飛んで行く。

一息付くシンはシートの背もたれに体を預けるとまた後ろに振り返る。

ステラと一緒に居た島はもう見る事が出来ない。

 

///

 

セイバーと交戦するネオはガイアまで目前まで迫ってるにも関わらず近づく事も出来ない事にストレスを募らせる。

ビームライフルの銃口を夜でも目立つセイバーの赤い装甲に向けるが瞬時に回避行動を取られてしまうせいで互いに致命傷は与えられない。

 

「チィッ!! 時間稼ぎか。押すも引くも出来ない。スティング、先行してステラと機体を回収しに行け。もしかすればザフトも新型も頂けるかもな」

 

「了解。その間は赤いヤツを押さえとけよ」

 

言うとメインスラスターを吹かし単独でガイアの居る島へ向かうカオス。

だがアスランは追い掛けようとはせずヒイロからの通信に耳を傾けた。

 

『目標視認、任務完了。直ちに帰還する』

 

「シンを回収したな。ならこれ以上の戦闘は無意味だ」

 

セイバーはモビルアーマー形態に変形すると目の前に居るウィンダムを無視して現空域から離脱して行く。

ウィンダムではその加速に到底追い付く事など出来ず、夜の闇に残る青白い光りを眺めるしか出来ない。

 

「撤退? って事は……スティング、ステラは無事か?」

 

「あぁ、見つけた。外から見る限りは機体に損傷はない」

 

「そうか。ザフトの新型には逃げられたがガイアを奪われなかっただけマシと考えるか。俺も今から合流する」

 

ウィンダムもカオスとガイアが居る島に向かってメインスラスターを吹かす。

島にはインパルスの爆発した炎が目印になってくれてたお陰ですぐに見つける事が出来た。

スラスターを制御しゆっくりと砂浜に着地させるとモニターにガイアの姿を収めた。

スティングの報告通り機体に損傷したような異常はなく、それを確認したネオは胸を撫で下ろす。

 

「ステラ、無事だな?」

 

「ネオ……うん、何ともないよ」

 

「良し、ならこんな所にいつまでも居る理由はない。引き上げるぞ。スティング、左側を頼む」

 

飛べないガイアに2機は両側から腕を伸ばし機体を支えると島から飛び立つ。

動きにくい状態ではあるが3機の推進力を合わせれば飛ぶ事は簡単に出来る。

コクピットの中でネオはステラが単独で飛び出して行った経緯に付いて考えて居た。

 

(スティングの言う事が正しいならステラの記憶の奥にはまだアウルが残ってる。マインドコントロールと薬物投与で人間を完全に操れるとは俺も考えんが……ステラにはまた辛い思いをさせる事になるな)

 

ネオの考える事などわかる筈もないステラはモニターに映る星空を見つめて居た。

 

///

 

ミネルバに帰還したシンには厳しい処罰が待ってる。

アスランの命令を無視した単独行動。

無事に終わったとは言え最新鋭機であるインパルスの機密情報が敵軍に渡るかもしれなかった事。

捜索部隊を派遣する事によりミネルバさえもが危険に晒される状況。

けれどもシンは艦長であるタリアに呼び出される事もなくアスランと一緒に自室に居た。

 

「普通なら独房入りでしょ? どうしてですか?」

 

「自覚はあるようだな。そうだ、普通なら独房入りだ。でも俺がFAITHの権限を使って今回の事は不問にした」

 

「わかりません。どうして?」

 

「お前を止める事が出来なかった俺にも否はある。でも勘違いするなよ。今回の行動はとても許される事じゃない。だが次の作戦開始まで時間は少ない。今は少しでも体を休めてくれ」

 

「その……ありがとうございます」

 

この件に関してシンは一切反論する事など出来ず素直に感謝の言葉を述べた。

けれども言われた通り責任は重々感じて居る。

プラントの為に戦う兵士としての責任は取らなくてはならない。

 

「次の戦闘にはオーブが居るんでしょ。隊長は戦えるんですか?」

 

「戦うしかない。今の俺はザフトに所属する兵士だ」

 

「俺も同じです。この立場が変わらない限り次のオーブとの戦闘は避けられない。でも俺、今日の事で思ったんです。こんな事を繰り返してても戦争の根源には近づけない」

 

「根源? 議長が言ってたロゴス、戦争商人とも言ってたな。俺も議長ほど詳しくはないが、確かに今回の連合軍の開戦の持って行き方は強引だった。言うように裏でロゴスと呼ばれる組織が関与してるのかもしれない」

 

「ロゴスを表に引きずり出さないと戦争が長引くだけです」

 

「だがどうやって? 今のシンにも、俺にも、そんな事が出来るだけの力はない」

 

言われてシンは表情を暗くする。

言葉で言うのは簡単だがそれを実現させるのはシンには不可能な事だ。

名前だけで姿形の見えない相手を倒す事など出来はしない。

 

「でも可能性はある」

 

「可能性? 何なんです?」

 

「連合は強引にプラントと開戦して攻撃を仕掛けて来たが幸いにも最初の核攻撃は防いだ。ユニウス・セブンも偶発的ではあるが地球への落下は阻止された。戦力的に見ればザフトに分がある。その事もあって連合は攻めにくい状況が続いてるし、プラント側が優位に立つ事が出来れば各国同盟が失くなるかもしれない。わざわざ負ける戦争なんてどこだってやりたくない」

 

「でもそれだといつまで掛かるのか……」

 

「そうだな、1日2日でどうこうなる訳がない。仮に今言った通りに進んだとしてもどれだけの時間が掛かるのかは俺にだってわからない」

 

徐ろにアスランはシンの瞳を見ながら心を覗くように言う。

 

「シン、何かあったのか?」

 

「何かって、俺なりに考えてるだけです」

 

「先の事を考えるのは良い事だ。だがさっきも言ったが俺達にも出来る事と出来ない事はある。こんな戦争は早く終わって欲しい。勿論俺だってそう思いながら戦ってるさ。でも今の話を聞いてるとそれだけではないように思えた。やる方法があるなら明日にでも戦争を終わらせる。そう言う風に見れた」

 

「それは……」

 

シンには応える事が出来ない。

連合軍のパイロットと接触した事が露呈すれば立場は更に悪くなってしまう。

それは今回の件を不問にしてくれたアスランを裏切る事にも繋がる。

味方が居なくなった状況でステラを助ける事は絶望的に無理だ。

故に心の中に閉まっておくしかない。

 

「まぁ良い。話はこれで終わりだ。戦闘に備えて体はキッチリ整えておくんだぞ」

 

アスランは返事を聞かぬまま扉を開放させて部屋から出て行ってしまう。

残されたシンは静寂する部屋の中で悩み続ける事しか出来ない。

 

///

 

ヨーロッパとアジアとの境界をなすダーダネルス海峡。

ミネルバは作戦領域へと侵入しレーダーで敵戦力の分析に入る。

今回の戦闘では味方の艦艇も配備されており、今までのように背水の陣で戦わねばならぬ程の危機的状況ではない。

それでも最新鋭の艦艇でもありモビルスーツを搭載したミネルバは作戦の要でもあり失敗する訳にはいかなかった。

眼前にはオーブのタケミガズチ級の艦艇とモビルスーツ部隊が待ち構えて居る。

タリアは瞬時に状況を見極め各員に指示を飛ばす。

 

「メイリン、コンディションレッド発令。セイバー、インパルス、グフは直ちに出撃。レイとルナマリアは甲板でミネルバの護衛」

 

「了解です」

 

「イゾルテ、トリスタンで敵艦艇に砲撃。アーサー、タンホイザーの発射準備」

 

「えぇ!? もう使うのですか?」

 

「大打撃を与えて相手の態勢を崩す。まだどこかで連合軍の部隊が待ち構えてるのよ。相手の思い通りにさせてたらこっちが不利になる」

 

「了解しました!! タンホイザー、エネルギーチャージ開始」

 

ミネルバは開幕早々に大きく打って出る。

出撃準備の整ったモビルスーツ隊もカタパルトから順次発進して行く。

 

「シン・アスカ、コアスプレンダー行きます」

 

「アスラン・ザラ、セイバー発進する」

 

コアスプレンダーは主翼を広げ青空の下を飛ぶ。

続いて発射されるチェストフライヤーとレッグフライヤーにガイドビーコンを合わせると直ぐ様モビルスーツ形態にドッキングした。

最後にフォースシルエットを背部に背負いバッテリー電力を全身に供給させ灰色だった装甲が鮮やかなトリコロールに変わる。

ツインアイに光りが灯り腰部からビームライフルを掴むとメインスラスターから炎を噴射させた。

アスランのセイバーも灰色だった装甲が赤に変わり、メインスラスターを吹かせてインパルスに合流する。

ヒイロのグフは最後にカタパルトから出撃した。

 

「出撃する」

 

フルフェイスヘルメットのインカムへ端的に言うとフライトユニットを背負ったグフはカタパルトから発射される。

各モビルスーツが大空に飛び立ち、アスランはコンソールパネルに指を伸ばす。

 

「まずはタンホイザーのエネルギーチャージまでの時間を稼ぐ。ミネルバの射線上に敵を誘導するんだ」

 

『了解』

 

『了解した』

 

3機のモビルスーツは目の前に広がる20機を超えるモビルスーツ部隊に向かって突っ込む。

インパルスに搭乗するシンは複雑な心情が絡み合い迷いを捨て切れないで居た。

祖国であるオーブとの戦闘。

ステラがまた敵として出て来た時。

でも戦場での迷いは死に繋がる事を知ってるシンは雄叫びを上げ一時的にでも感情を振り払うしかなかった。

 

「うあああぁぁぁっ!!」

ビームライフルの銃口を向けトリガーを引く。

オーブが開発した可変モビルスーツ、ムラサメは数でインパルスを包囲しようとするが発射されたビームに直撃しあっさりと1機目が破壊されてしまう。

フォースシルエットの加速能力は高く、並のナチュラルが乗った量産機では捉える事も難しい。

回避行動を取り縦横無尽に飛び回りながらも正確な射撃でムラサメのコクピットを射抜く。

 

「クソッ!! 出て来なければやられなかったのに!!」

 

インパルスはシールドを構えると飛んで来るビームに向けって振り払う。

アンチビームコーティングによりビームは反射されまた別のムラサメの頭部に直撃した。

矛盾を孕みながらも今のシンには戦う事しか出来ない。

一方のアスランはオーブ軍に対してなかなか攻撃出来ないで居た。

そうしてる間にもセイバーは包囲されてしまい1機のムラサメがビームサーベルを握り攻撃を仕掛けて来る。

 

「くっ!?」

 

操縦桿を握るアスランだがトリガーが引けない。

振り被られた斬撃を寸前の所で避け、ビームライフルの銃口を至近距離から右足に向ける。

 

「俺の……敵……」

 

躊躇しながらもトリガーは引かれビームは発射される。

ムラサメの右脚部は破壊され、バランスを崩して海へと落下して行く。

ヒイロのグフは右手にテンペストビームソードを構え強引にでも敵機に接近する。

シールドでビームは防ぎきり、メインスラスターを最大出力にして接近戦にもつれ込む。

右腕を振り上げて袈裟斬り。

ムラサメは上半身と下半身を分断され爆発する。

瞬時に目標を切り替え機体を加速。

爆発に巻き込まれないようにするのと同時にまた攻撃へ移る。

機体の見た目も相まってオーブのパイロットは恐怖を覚えた。

 

『まるでオーガみたいじゃないか』

 

『く、来る!?』

 

「邪魔だ!!」

 

戦意喪失したパイロットに勝ち目はない。

逃げる事も間に合わず、突き立てられたテンペストビームソードは胴体に突き刺さる。

戦闘不能になるのを確認したヒイロをムラサメを海に捨て、左手首からエグナーウィップを伸ばした。

高周波パルスを発生させ横になぎ払う。

ムラサメの頭部が首元から弾き飛ばされパイロットは視界が見えなくなる。

 

『うあああぁぁぁっ!!』

 

デタラメにビームライフルの銃口を引きビームを発射するがムラサメの前にはもうグフの姿はない。

右腕の4連装ビームガンで背部を撃つ。

ムラサメはメインスラスターが機能しなくなり黒煙を上げながら落下する。

 

「敵機破壊を確認。次の行動に移る」

 

レイとルナマリアはミネルバの甲板上に乗り近づく敵を迎え撃った。

ザクは空を飛べないため海上での戦闘はミネルバの甲板に上って居る。

いつも数で押して来る連合軍のやり方にルナマリアはイラついて居た。

 

「いつもいつもごちゃごちゃと!!」

ガナーザクはオルトロスを撃つが距離が開きすぎて居た。

ムラサメは左右に展開しビームは空に消えた

「なんで当たんないのよ!?」

「落ち着け、冷静に対処しないと勝てるものも勝てなくなる。」

尚も敵の攻撃は激しさを増す中でレイは牽制のミサイルをばら撒き敵を艦には近づけさせないようにする。

 

「敵の戦闘能力は低い、2人でもやれるはずだ」

「そうね!! シンの鼻っ柱を折るぐらい撃破しまくっちゃうんだから」

レイが撃ったミサイルに気を取られるムラサメに照準を合わせもう1度トリガーを引く。

高出力のオルトロスのビームは直撃すると機体を爆発の炎に包む。

「良し、その調子だ」

 

そう言うとレイもムラサメを照準に入れビームを撃つ。

直撃は出来なくとも手数は増えれば敵もミネルバに近づきにくい。

最初の時間稼ぎは充分に出来た。

ブリッジでタリアは声を上げる。

 

「アーサー、エネルギーは?」

 

「80パーセントまでチャージ完了。いつでも発射出来ます」

 

「宜しい、タンホイザーを使用します。目標敵空母」

数で不利なザフトは形勢を逆転するためミネルバのタンホイザーを使う。

アーサーは言われたようにオーブのタ空母に照準を合わせ発射ボタンに指を添える。

タンホイザーを覆っている装甲がスライドし砲門が外に露出した。

 

///

 

オーブ軍のタケミガズチ級。

ブリッジには当然オーブ軍の兵士が居るが、その中には代表であるカガリとユウナが一緒に居た。

 

「わざわざここに来る意味があるのか、ユウナ?」

 

「勿論さ。同盟を結んだ太平洋連合の為に戦うオーブ軍。その現実をちゃんと自分の目で見て欲しかった」

 

「納得は出来てないが理解はしてる」

 

「それだよ、カガリには納得して貰わないといけない。オーブの理念を壊してはならない、キミはそう言った。でもどうだい? 相手はそんな事一切気にせず攻撃して来る。言葉でどれだけ訴えても無理なんだよ」

 

「そんな事はない!! 例え可能性が僅かでも、ちゃんと会談の機会を用意すれば打ち解ける事だって――」

 

理想を語るカガリだったがユウナはその甘さを遮る。

 

「出来ないよ、そんな事。カガリ、キミは優しい子だ。でもそれを全てに当てはめてはいけない。特に政治にはね。話し合い、打ち解け合う。個人と個人ならそれも出来るけど国と国ではそうはいかない。どちらにも譲れないモノがある。カガリが話し合おうと呼び掛けても相手は耳を傾けもしない。それが外交だ。ならばどうするか? 自らの意見は押し通すしかない」

 

「だからって戦う必要は――」

 

「ある。まぁ、こんな大規模な戦争は大げさだけどね。勘違いして欲しくないけど僕は戦争がしたい訳じゃないんだ。戦争が良い事だなんて思ってない。でも国を導き国民の安全を守るのはそんな簡単な事じゃない事は理解して欲しい」

 

カガリは言い返す事が出来ない。

うつ向き爪が皮膚に食い込む程に手を握り締める

けれども既にカガリ達は戦場に足を踏み入れており、目の前では戦闘が始まって居た。

2年前とは立場が違う。

力のなさを痛感しながらも自国の兵士が戦う姿はハッキリと見なくてはならない。

 

「敵艦艇が動きました!!」

 

通信兵が叫ぶ。

モニターに映るのはザフトのミネルバがタンホイザーをオーブ軍に向けてる所だった。

それを見たカガリは目を見開く。

 

「ユウナ……だったら私は今までの考えを捨てないとダメなのか?」

 

「その覚悟があるのなら……」

 

ミネルバの動きが止まる事はない。

タンホイザーの巨大な銃口から今まさに発射されようとして居た。

閃光。

一筋のビームが飛来する。

タンホイザーは寸前の所で活動を停止してしまう。

 

「どこから!? 索敵を急いで!!」

 

タリアが急いで索敵班に指示を出す。

数秒後にはモニターに映像が映し出され、そこには青い羽を持つ機体が居た。

それは2年前の大戦でも居た伝説的な機体。

 

「あれは……」

 

シンはその瞳に映る機体の姿を決して忘れない。

心の奥底からは怒りの炎が湧き上がる。

説明
コズミック・イラ73年10月。
地球連合軍とザフト軍による大戦から2年が経過し地球圏、プラント、共に平和な日々が続くかに思われた。
しかし、人類が戦いを辞める事はない。
地球へ向かって降下するユニウスセブンを止めるべくザフトの新造艦ミネルバは動く。
そこに所属するシン・アスカも新型モビルスーツ、インパルスへ搭乗しユニウスセブン落下を阻止するべく行動に移る。
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機動戦士ガンダムSEEDDestiny 新機動戦記ガンダムW クロスオーバー シン・アスカ ヒイロ・ユイ 

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