遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-序章・三話
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三年

 

数にしてみれば、小さいのかもしれない

 

だがしかし・・・彼女にとって、彼女達にとって

それは、本当に長く

とても、辛い時間だった

 

失ったものが、あまりに大きすぎたのだ

失くしてしまったものが、あまりに多すぎたのだ

 

それは、変わりなど存在しない・・・本当に、大切なモノ

 

だから・・・

 

 

 

 

≪私は・・・絶対に、取り戻す≫

 

 

 

 

 

彼女は、歩み始めた

 

失ったものを

大切なものを

 

もう二度と、失わない為に

 

 

“永遠に続く物語”を、夢見て・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

序章 第三話【取り戻す少女】

 

 

 

 

 

 

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ーーー†ーーー

 

 

「ようやく・・・ついたわね」

 

 

私は視界いっぱいに広がる影を見つめ、小さく呟く

 

泰山

 

ここに・・・“彼”がいる

そう思うと、私は自身の頬が緩むのを我慢することができなかった

 

ここまでの道のりは、そう険しいものではなかった

時間も、思ったよりもかかっていない

順調だ・・・何もかも、上手くいっている

 

 

「ふ、ふふ・・・あはははははっ!」

 

 

思わず、こぼれ出た笑い

私はそのまま、絶を片手に歩き出した

 

 

「春蘭!霞!凪!

三人は私についてきなさい!

兵は皆、ここで待機よっ!」

 

 

この言葉に、兵たちは一斉に礼をして従う

そして三人はというと、各々いつでも動けるよう準備をしてから私の後ろについて歩き出した

 

泰山

その、山頂に向かって

“大切なモノ”を、取り戻す為に・・・

 

 

 

「華琳様・・・この先に、いったい何があるのですか?」

 

 

その途上、ふいに後ろを歩く凪が尋ねてきた

この問いに、私は小さく笑みを漏らす

 

 

「ついてからの、お楽しみよ」

 

「は、はぁ・・・」

 

 

この答えに、凪はわけがわからないといった表情のまま頷いていた

仕方のないことだと思う

私はここに来るまで、目的などを一切言っていないのだから

 

 

「ウチも気になるんやけど・・・なんやねん、お楽しみって」

 

 

今の会話が聞こえてたのだろう

凪の次は、霞がそう言って溜め息を吐き出した

そんな彼女の様子に苦笑しながらも、私は近づいてきた山頂を指さす

 

 

「ここには、私たちにとって・・・とても大切なものがあるのよ」

 

「大切なもの〜?」

 

 

“なんやねん、ソレ”と、霞は微かに目を輝かせながら聞いてくる

だけど、今は言えない

そう思い、私は彼女の肩を叩いた

 

 

「着けばわかるわよ」

 

「か〜〜〜、焦らすなぁホンマ」

 

「ふふ・・・楽しみにしてなさい」

 

 

そう・・・大切なもの

ここには、それがある

 

私たちにとって

私にとって・・・何よりも大切なものが、ここにはある

 

だから、私はここに来たんだ

 

大切なモノを・・・“取り戻すために”

 

 

 

 

「やっと着いた・・・って、なんやアレ!?」

 

 

ハッと、私は我にかえる

どうやら、山頂に着いたらしい

霞の声を聞き、私は核心する

 

そして・・・見つけた

私の、“目的の場所”を

 

 

「このような妙な建物・・・こんな所にあったか?」

 

 

春蘭の声

2人は、静かに首を横に振る

そんな中私は、一人笑っていた

 

 

泰山の頂き

そこにある、古ぼけた“神殿”と呼ばれる建物の中

そこに・・・“彼”はいる

 

 

順調だ

何もかも、順調に進んでいる

あとは・・・

 

 

 

「あとは、貴方を取り戻すだけよ・・・一刀」

 

 

 

 

 

 

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ーーー†ーーー

 

神殿の中

私たち四人は、各々の武具を構え進んでいく

薄暗い神殿の中を・・・静かに、ゆっくりと

 

 

「何だか、気味が悪いな」

 

 

ふと、春蘭が小さくそう呟く

その言葉に、凪と霞は頷いていた

確かに、春蘭の言うとおりだ

薄暗く、静かなこの空間は・・・来るものを拒んでるかのような、そのような空気さえ感じてしまう

 

いえ、違うわね

実際、“その通り”なのだろう

 

だけど、そのようなこと私には関係ない

だから・・・私は少しだけ、足を速めた

 

 

「む?

何やら、奥の方に光が見えるな」

 

 

春蘭の一言に、さらに私の足は速くなる

それに気づき、三人も私に合わせ速度をあげた

 

ああ、これだ・・・この“光”だ

間違いない

この先に、“貴方”がいるのね

 

近づくにつれ、胸が高鳴っていく

頬が、僅かに緩んだ

 

 

「やっと、見つけた・・・」

 

 

呟き、駆け込んだ先

あの光の、出ていた場所

私は見つけた

その空間の中心に飾られた、古ぼけた銅鏡を・・・

 

 

 

「これは・・・?」

 

「“始まりの銅鏡”・・・というものです」

 

「っ、誰だ!?」

 

 

突如、響いてきた・・・聞き慣れない声

私たちは慌てて、辺りを見渡した

 

 

「もっとも、貴女方には関係のない話ですがね」

 

「っ!」

 

 

再び、声が響く

素早く視線を向けた先・・・あの銅鏡の前

いつの間にか、三人の男が立っていた

 

一人は眼鏡をかけた、黒髪の男

もう一人は、ツンツンとした髪型をした男

 

そして、最後の一人は・・・

 

 

 

「どぅふん♪」

 

「「「「〜〜〜〜〜っ!」」」」

 

 

筋骨隆々で桃色の下着一丁の、もみあげおさげな変態だった

私たちはその変態のあまりのおぞましさに、半歩ほど下がってしまった

が、すぐに我にかえる

 

 

「そう・・・貴方達が、私たちの“敵”なのね」

 

「敵?

華琳様は、こいつらのことを何か知っているのですか?」

 

 

春蘭が言ったことに、私は頷き絶を構える

それから、その切っ先を“銅鏡”へと向けた

 

 

 

 

「この者達が、私たちから一刀を奪ったのよ」

 

「「「!!」」」

 

 

 

 

 

瞬間、三人の表情が変わる

先ほどまでの驚きの表情は、今はもうない

今はただ・・・あふれ出る“怒り”を隠しきれないでいた

 

 

「こいつらが、隊長をっ!」

 

 

叫び、凪は拳を強く握りしめる

その隣では、霞が偃月刀を構え殺気を放ったまま笑っていた

 

 

「なるほどなぁ・・・こいつらが、ウチらから一刀を奪ったんか」

 

 

殺気立つ2人

その背後で、春蘭は剣を構えたまま私のことを見つめてきた

 

 

「華琳様・・・今のお話は、本当のことですか?」

 

「ええ、本当よ」

 

「そう、ですか・・・こいつらが、北郷を」

 

 

そこで、彼女の言葉は止まった

それと同時に、今までにない程の殺気が彼女から放たれる

 

 

「華琳様・・・私たちは、どうすればいいのですか?」

 

 

殺気を含んだままの声

その声に私は満足げに頷いたのち、再び銅鏡に向け絶を構える

 

 

「あの銅鏡よ!

あの中に、一刀は閉じ込められているわ!

だからアレさえ壊せば・・・一刀は助かる!!」

 

「御意!」

 

「わかりました!」

 

「了解や!」

 

 

 

言うや、三人は一斉に駆け出した

その速さは、今までにない程のものだ

三人はそのまま、一直線に銅鏡へと向かっていく

 

だが、そう簡単に進ませてくれるほど奴らも甘くないようだ

 

 

 

「なっ・・・待て!!

貴様ら、今の話はいったい誰から聞いた!!?」

 

「邪魔やっ!!」

 

「くっ・・・!?」

 

 

霞の前には、ツンツン頭の男が立ちはだかり

 

 

「済みませんが、ここから先には行かせませんよ」

 

「くっ、邪魔をするなぁぁあああ!!!」

 

 

凪の前には、メガネをかけた男が立ちはだかっていた

そして、残る春蘭には・・・

 

 

 

「どぅふふ、まさか夏候惇ちゃんが相手なんてねん」

 

「ああ、本当は物凄く嫌だが・・・仕方ない、か

邪魔をするならば、お前を殺してでも通らせてもらうぞ」

 

 

あの変態が、立ちはだかっていた

心なしか、股間が膨らんでいるように見える・・・ああ、頭が痛い

 

しかし、そのようなことに気をとられている場合ではない

そう思い、私は“彼女”の話を思い出す

 

 

ここに来る前・・・もう一人の“私”から聞いた、一刀に会うための方法を・・・

 

 

 

 

 

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ーーー†ーーー

 

 

「始まりの、銅鏡?」

 

『ええ』

 

 

私の言葉に、彼女は微笑みながら頷く

 

 

『彼が・・・一刀がこの世界に来ることになった、その切欠の銅鏡よ』

 

「それが、どうしたの?」

 

『泰山の山頂・・・そこにある“神殿”の中に、その始まりの銅鏡があるわ

それを・・・壊してちょうだい』

 

「壊す、ですって?」

 

 

“いったいどうして?”

そう言い掛けた私に、彼女はフッと微笑みを見せた

 

 

『あの日・・・一刀がこの世界から消えてしまったあと

一刀はいったい、何処に行ったと思う?』

 

 

何処に?

そんなの・・・

 

 

「天の国、じゃないのかしら?」

 

 

この答えに、彼女は“クスリ”と笑う

 

 

『違うのよ

一刀は・・・帰っていないの』

 

「っ!?」

 

 

なんですって?

帰って、いない?

それは、つまり・・・

 

 

 

『一刀は、まだ・・・この世界にいるわ』

 

 

 

“ドクン”と、胸が高鳴った

その言葉に、その言葉の意味することに

私は・・・早くなっていく鼓動をおさえることができない

 

 

「一刀は、まだ・・・ここにいるの?」

 

 

この言葉に、彼女は微笑みを浮かべたまま頷く

それから、スッと窓の向こうを指さした

 

 

『全ての答えは泰山にあるわ

そこいる者達が、一刀を貴女達から奪ったのよ

そして・・・始まりの銅鏡に、その身を閉じ込めた』

 

「泰山に・・・一刀が」

 

『ここまで言えば、あとは何をやるべきか・・・“私”ならわかるはずよ』

 

 

当たり前だ

私が、やるべきこと

 

それは・・・

 

 

 

「取り戻す・・・絶対に

私たちから一刀を奪った、その“敵”から

私たちの、大切なモノを・・・絶対に!」

 

 

 

 

 

 

 

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ーーー†ーーー

 

 

ああ、そうだ

私は・・・取り戻すんだ

 

そのために、ここに来たのだから・・・

 

 

 

「春蘭!凪!霞!

その三人をおさえていなさい!

銅鏡は・・・私が壊すわっ!」

 

 

叫び、私は絶を力強く握りしめ・・・一直線に駆け出した

ありったけの力を込め、全力で駆けて行く

 

 

 

「なっ、貴様っ!!」

 

「よそ見すんなやっ!!」

 

「くっ!?」

 

 

そのことに気づき、私を止めようとした男を・・・霞は、容赦なく攻め立てる

“神速”の名に恥じぬその攻撃に、男は身動きが取れないでいた

 

 

「くそっ・・・“于吉”っ!

アイツを止めろっ!!」

 

「いえ、そうしたいのは山々なのですが・・・」

 

「貴様らが、隊長をっ!!」

 

「ぐっ・・・ご覧のとおり、私も動けない状態でしてっ!」

 

 

“于吉”と呼ばれた眼鏡の男が、そう言って膝をつく

その目の前には、凄まじい怒気を放つ凪の姿があった

 

 

「華琳様、ここは私にお任せください!」

 

「ええ!」

 

 

それだけ言うと、私は視線を銅鏡へと向ける

あと少し・・・あと少しで、彼に届くっ!!

 

 

「そうはさせないわよん!

ぶるあぁぁぁぁああああああああああああ!!!!」

 

「それは、こちらの台詞だあぁぁぁああああ!!!!」

 

 

凄まじいまでの叫び声が、辺りに響き渡った

それはあの変態と、春蘭のものだった

 

2人はそのまま、凄まじい攻防を繰り広げる

 

やはり・・・あの変態は、只者ではない

素手で春蘭の剣を受け止めるほどだ

しかし・・・それでも、春蘭も負けてはいない

 

 

「あぁん、これは予想外よんっ!

まさか夏候惇ちゃんが、この私と互角に打ち合えるなんてっ!!」

 

「当たり前だ!

北郷がいなくなって三年・・・私は、乱世の頃以上の鍛錬をしてきたんだっ!!」

 

 

言って、春蘭は大剣を思い切り横に薙いだ

それを間一髪で躱す変態

その表情からは、先ほどまの余裕はなかった

 

 

「三年・・・たったの三年と言う奴もいるかもしれない!

しかし我々にとっては、何よりも長く辛い時間だったんだ!!」

 

「夏候惇ちゃん・・・」

 

「その間、私はひたすら己を鍛えた!

もう二度とっ!!

大切なモノを失わないように!!」

 

 

 

“だから・・・”と、春蘭はスッと剣を構える

そして、目の前に立つ“敵”を見据え

 

一気に、駆け出した

 

 

 

「邪魔を、するなぁあああああああ!!!!」

 

「っ!!!」

 

 

爆発する、“想い”を込めた一撃

私はその声を聞くと同時に、さらに足を速めた

 

大丈夫だ

彼女達ならきっと、大丈夫

だから私は・・・私のやるべきことをやるんだ

 

そう言い聞かせ、見つめる先

あの銅鏡は、もう目前にまで迫っていた

 

絶を握りしめる手に、力がこもる

私は駆けたまま、絶を大きく振り上げた

 

さぁ、始めましょう・・・

 

 

 

 

「ここから・・・私の、私と彼の物語をっ!!」

 

 

 

 

叫び、私は目の前にあるそれめがけ・・・絶を振り下ろす

その姿に気づいたのか、霞が足止めしている男が叫んだ

 

 

「やめろっ!!

それを壊すなっ!!」

 

「ええぃ、往生際が悪いっちゅうねん!!」

 

「くっ、違う!!

貴様らがその話を何処で聞いたのかは知らんが、間違ってるんだ!!

それを壊したら・・・!!」

 

 

 

 

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〜それを壊したら・・・もう二度と、北郷一刀は帰ってこれなくなるんだぞ!?〜

 

 

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「えっ・・・?」

 

 

時間が、ゆっくりと流れていくかのような・・・そのような錯覚の中

私は、確かに聞いた

 

あの男が言ったことを

一刀が、帰ってこれなくなる?

 

何を言っているの?

だって、一刀はこの銅鏡の中に・・・

 

 

 

 

 

『ご苦労様・・・“私”』

 

 

 

頭の中、ふいに聞き覚えのある声が響いた

この声を、私は知っている

だって彼女が、私に教えてくれたのだ

ここに、一刀がいるって・・・

 

 

『そうね、確かにいるわよ

もっとも・・・少し、違うのだけれど』

 

 

違う・・・?

いったい、何が・・・

 

 

『それを、貴女が知る必要はないわ

貴女は、ここで用済みなのだから』

 

 

“ピシリ”と、音が響いた

何かに、ヒビが入る音

それが目の前にある銅鏡から聴こえてきたものだと気付いた時・・・私は、ようやく気付いた

 

ああ、そうか

私は・・・・・・

 

 

 

 

『ありがとう、“私”

これで・・・私はまた、彼に会えるわ』

 

 

 

 

“パリン”と、目の前にあった銅鏡が私の絶によって真っ二つに割れた

瞬間、そこから目を開けているのも辛い程の光が溢れ出した

 

 

“温かな、白い光”が

 

 

 

「くっ、なんやねん一体!?」

 

「この光は!?」

 

「これは・・・まさかっ!?」

 

 

三人の声が、やけに遠くから聞こえる

ゆっくりと流れていく時間の中、私はそんなことを思った

 

 

「くそっ・・・!」

 

「マズイですね・・・このままではっ!」

 

「御主人様・・・っ!」

 

 

割れて、飛び散っていく破片

強くなっていく、白い光

その光りを見つめ“嗤う”、一人の少女

 

私と同じ顔をした・・・私じゃない、私

 

 

 

『ああ、長かった

何年、何十年、何百年・・・幾千もの時を待ち続け

どれほど、どれほどこの時を待ちわびたか』

 

 

 

その少女が、笑顔のまま小さく呟いた

そして・・・愛しげに、手を伸ばした先

 

そこに・・・“彼”はいた

白く輝く衣服を身に纏い、安らかに眠る・・・彼が

 

光りの中心に

この空間の中心に

 

“フワリ”と浮かんだまま、眠る彼

 

そんな彼に向かい、少女は手を伸ばしていく

やがて少女は、彼の頬に触れた

 

そして・・・嬉々とした表情のまま、言ったのだ

 

 

 

 

 

 

 

〜おかえりなさい・・・一刀〜

 

 

 

 

 

 

 

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ーーー†ーーー

 

 

ああ、また同じ夢だ

“彼”はそう思い、いつものように・・・わけもわからないままに笑う

 

同じ夢

知らない場所で

知らない少女と、知らない少年が・・・何か、話をしている夢

 

もう何度目になるだろう

この夢を見るのは

 

考えて、“彼”は笑った

無駄なことだと、そう思ったからだ

 

回数なんて関係ない

そんなものに、意味なんてない

 

今も

きっと・・・これからも

 

自分は、また同じ夢を見るからだ

 

この、わけのわからない夢を

いつまでだって、見続けるのだから

そう思っていたのだ

 

だからこそ・・・

 

 

 

 

『こんにちわ』

 

 

 

 

突然、ハッキリと聴こえてきた声

この声に、“彼”は驚いたのだ

 

 

『っと、そんなに驚くことないんじゃないか?』

 

 

そんな“彼”もよそに、声は構わず響いていく

 

いったい何処から?

そう思い、動かした視線の先

“彼”のすぐ前に、一人の“少年”が立っていた

白く輝く衣服を身に纏う、一人の“少年”が

 

 

“彼”は、この少年を見たことがあった

 

いったい、何処で?

そう思い見回した先、“彼”は答えを見つける

ああ、そうだ

いつも夢に出てきていた、あの少年じゃないか

今も見ている、この夢の中の少年だ

視線の先・・・いつものように少女と話をする少年を見つめ、彼は一人納得する

 

 

『落ち着いた?』

 

 

ふいに、“少年”はまた“彼”に声をかける

“彼”は少女と話す少年から視線をはずし、目の前に立ち自分のことを見つめる少年を見た

 

 

『じゃ、改めまして・・・こんにちわ』

 

 

そう言って笑う少年

“彼”はそれに対し、どうしていいのかわからず黙ってしまう

 

無理もないことだ

何故なら“彼”は今まで、こうして誰かと話すことがなかったのだから

だから“彼”は、少年の言葉にどのように答えたらいいのかわからなかった

 

そんな“彼”の様子を見て、少年は困ったように笑う

 

 

『ああ、そっか・・・そういえば、君はこういうの初めてだっけ?』

 

 

その言葉に、“彼”は頷く

“そっか”と、そんな“彼”の返事に少年はまた笑った

 

 

『そうだよな・・・君は、今までずっと一人だったんだもんな』

 

 

言って、少年は“彼”の隣に座る

それを見て、“彼”は初めて自分が座っていることに気づいた

少年は・・・そんな彼の考えがわかったのか、クスッと笑いを漏らしていた

 

 

『まぁ、仕方ないさ

人ってさ・・・一人だと、当たり前のことに気づけないものなんだ』

 

 

“例えば”と、少年は“彼”を指さした

その行動に一瞬戸惑う“彼”だったが、そのような些細なことはすぐに気にならなくなってしまう

 

 

『君は、いったい誰なのか・・・とかね』

 

 

少年が放った、この言葉によって・・・

 

ああ、そうだ

“彼”はその一言で、ようやく疑問に思った

“自分はいったい、何者なんだろうか?”と

 

 

『ほら、案外気づけないだろ?』

 

 

この言葉に、“彼”は頷く

そして同時に、興味をもった

隣に座る、この少年のことが・・・“彼”は、気になったのだ

 

“もっと、色々な話をしたい”

 

それは・・・“彼”が抱いた、初めての“感情”

そんな様子が伝わったのだろう

 

 

『少し、一緒に話でもしようか?』

 

 

少年は優しげな笑顔を浮かべたまま、“彼”に向かってそう言ったのだ

その言葉に、“彼”は勢いよく頷いた

 

 

『それじゃぁ、まずは自己紹介からだね』

 

 

言って、少年は“彼”の手をとる

そして・・・“彼”の目を見つめたまま、口を開いた

 

 

 

 

『俺の名前は、■■一刀』

 

 

 

 

“ザァ”とノイズがかかり、声が微かに聞き取れない

だがしかし、大事な部分は聞こえたと・・・“彼”は胸を撫で下ろす

 

“よかった”

 

“一刀”と名のった少年を見つめ、“彼”はそう思った

 

 

『よろしく』

 

 

やがてニッコリと笑い、差し出される手

“彼”は少し戸惑いながらも、その手をとった

 

“彼”にはその手が、妙に温かく感じていた

 

 

 

『さぁ、まずはどんな話から始めようか・・・』

 

 

そう言って、少年は語り始める

“彼”の知らない、聞いたことのない

 

だけどとても大切な・・・そんな物語を

 

 

 

目覚めの時は・・・もう、目前にまで迫っていたのだ

説明
改訂版、三話になります
先生・・・絵が、うまくなりたいです
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コメント
股間を膨らませるなww 戦闘中だぞww  しかし、最後に出て来たのはいつの一刀くんなのか……(神余 雛)
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遥か彼方、蒼天の向こうへ 恋姫†無双 華琳 春蘭 

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