DEEP IN THE PAST
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無邪気な少年は走り出す。

今はただ決められたレールの上を走るだけ。

無限に広がる分岐点に気づくには、少年はまだ幼すぎた。

 

-----【期待】-----

 

「はぁ・・・・」

 

城の一室でため息をつく。

空を仰ぐと清々しいくらいにいい天気なのに

太陽の顔も見れずに僕は部屋に閉じ込められている。

         

「そんなつまらなそうにしないでください」

 

後ろから教科書を持った男性が近寄ってくる。

 

「先生」

 

「先代の先生が引退されてやっと・・

 私がライオネル様の教育係に任命されたのですよ!

 教育者人生の冥利に尽きます!なのに、あなたはいつもつまらなそうで・・

 私は悲しいです!」

 

劇団員にでもなったつもりなのだろうか。

身振り手振りで訴えながら一人で盛り上がっている。

 

先生と呼ばれたその男性は、短い黒髪に眼鏡をかけて難しい顔をしている。

いかにも真面目を絵にかいたような僕の学問の先生である。

 

この世界は「犬人種」と「猫人種」の人間がいる。

読んで字のごとく犬と猫の特性を持った人間が暮らしているのだ。

それぞれの人種で国が二分化されている。

仲は・・・あまりよくない。

他にも争いを嫌う犬と猫が共存している共和国があるらしいけど

そこについてはまだ勉強中だ。

 

僕、ライオネルはこの犬人種国の現王の息子で

次期王を期待されている。「王太子」ってやつだ。

母親譲りの金髪と深海のような深い蒼色の瞳をしていると人には良く言われる。

皆僕のことを「容姿端麗」とか「穏やかな子」だとかいうけど

そんなことを言われると逆に変顔してやりたくなる。

粗ぶる犬のポーズをとってやりたくなる。

 

毎日毎日、組まれたスケジュールに沿って生活しているが 最近はそれにもうんざりだ。

 

「だって先生の教え方、面白くないし」

 

「勉強なのですから面白くなくて当然です!」

 

(そう言うところがつまらないんだよなぁ・・)

 

先生は僕の着いている机の正面に座った。

向かい合う形になったが僕はわざとそっぽを向いてやる。

 

この先生のことは大体わかる。

僕の教育係を任されてまだ間もない為にやたらとやる気に満ち溢れている。

 

教育に関しては情熱があるので優秀な教師であるのは確かなのだが

現時点では「王太子に教えている自分」に酔っている。

正直少し鬱陶しい。

 

「わかったよ。じゃ、続き教えて。美味しい卵の焼き方だっけ?」

 

「はい!いきますよ!・・って、そんな話してないでしょ!」

 

「ん?」

 

ふと窓の外に目をやると木の上から手を振っている人物がいる。

 

ライオネルに向かって何かを伝えるように

口をパクパクさせながら町の方を指さしている。

 

「先生、僕ちょっとトイレ」

 

「私もご一緒しますよ!何かあったら・・・」

 

「いいよ!そこまで子供じゃないからっ!」

 

教師を振り払って一人足早に部屋を出る。

本来今は学問の時間なので僕が一人で出歩いているのを

誰かに見られたらややこしいことになる。

柱や壁に隠れながら廊下の窓までたどり着く。

 

窓を開けてベランダを覗くと先程の人物が待っていた。

 

「サイファリス!」

 

「ライ遅いっ!俺が呼んだら3秒で来いっていつも言ってるだろ」

 

「だから3秒は無理だって・・・」

 

従兄弟のサイファリス。

同い歳なこともあってよく一緒に遊んでいる。

派手な赤髪で、やることも派手。

どこにいても目立つのでもし外出先で逸れてもすぐわかる。

瞳はライオネルよりも紫色がかった青紫だ。

 

ライオネルとって一番の友達ではあるが

彼は活発でやんちゃな子供なので少し大人しいライオネルとは正反対の性格だった。

彼はライオネルのことを「ライ」と呼ぶ。

 

「サイファリスは勉強終わったの?」

 

「んっ、俺は今日勉強早く終わる日だから」

 

「また授業抜け出してきたんじゃないの」

 

「いや、ちゃん学んだよ?『敵に見つからずに上手く逃げる方法』をね」

 

(それ、先生に見つからずに上手く抜け出す方法ってことじゃ・・・)

 

「それよりライ!今日港に豪華客船が来るらしいぜ!

 一緒に見に行かねぇ!?」

 

「え、この前言ってた客船?」

 

港には商人の船や中小規模の客船はよく出入りしていたが

巨大な客船が来ることは珍しい。

ましてや数日前から噂になっていた豪華客船が来るなんて

10歳にも満たない少年二人には心躍る出来事だった。

 

「巨大な船なんて男心をくすぐるだろー!行こうぜライ!」

 

「で、でも・・先に上手くお城を抜け出す方法を考えなきゃ。

 このお城には人はたくさんいるし、外に辿りつくまでに

 誰にも会わずに抜け出すなんて・・・」

 

「そんなの考えなくていいぜ。俺が抜け道知ってるから。

 とにかくここから飛び降りろ」

 

「えっ」

 

そう言うとサイファリスは

ライオネルの腕を掴んでベランダから放り投げる。

一瞬何が起こったかわからなかったライオネルには

目に映る光景がスローモーションのようにゆっくり見えた・・

 

と、当時に重力にひっぱられて身体が落ちていく――

 

「うわぁあああああ!!!」

 

 

ドサッ!!!!

 

ライオネルの身体は地上に生えていた植木のクッションに受け止められる。

片足は植木の間に挟まり、マントは風呂敷のように広がっている。

服の袖は枝に引っかかり、めくれ上がって腕が肘まで露出している・・

なんて無様な恰好だ・・・

 

「な、何するんだよ・・!」

 

恨めしそうにベランダを見上げるとサイファリスが

「どけ」と言わんばかりに右手を払うように振っている。

 

ライオネルが膝を引きずりながらその場を少し離れると

今度はサイファリスが飛び降りてくる。

自分だけは上手く受け身をとってさっさと立ち上がる。

まだ座りこんでいるライオネルの前で服についた土を払う。

 

「怪我してないよな?」

 

サイファリスはライオネルの身体を抱え上げると

服やマントについた土や葉っぱを手で払いながら全身を見回す。

 

「お前なぁ!もうちょっと王太子大事にしろよ!!」

 

普段は「王太子」なんて肩書が堅苦しいと感じている

ライオネルだがこの時はそう言わずにはいられなかった。

 

「ははは、お前に説明してたら時間がかかるから『みりきこうし』ってやつだ!」

 

(・・まさか『実力行使』のこと言ってる?)

 

 

「いこーぜ!」

 

髪の毛や服の間に刺さった小枝を抜きながら二人は走り出す---

 

 

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「生まれてくれてありがとう」

 

父は腕に抱く生まれたばかりの赤ん坊に微笑みかける。

この日は本当に雲一つない清々しい天気で

自然も祝福してくれているとさえ思えた。

まるで父の言葉を理解しているかのように

その子も微笑み返した。

 

「この子がいれば うちの未来はきっと明るいわね」

 

その子を産んだ母も、ベッドから二人を見つめた。

 

「あぁ、必ず明るい。

 お前が生まれてくれたのだから・・・

 

 エリオット」

 

生まれた瞬間、両親は心から喜んだ。

ただこの子が幸せになってくれればそれでいいと・・・

それなのにいつから失われてしまったのだろう。

大切な「何か」

 

-----【予感】-----

 

 

「はぁ・・・」

 

屋敷の庭でため息をつく。

空を仰ぐと憎たらしくらいにいい天気なのに

半面、僕の心は曇り気味だ・・・

立っているのも面倒くさくなってその場で座り込む。

       

「まだ休憩の時間じゃないわよ?」

 

空を仰いだと同時に後ろから片手に剣を持った女性が近寄ってくる。

 

「母様」

 

金の糸を垂らしたような美しい金髪に整った顔立ち。

静寂を漂わせる赤紫の瞳は目の前のエリオットを見つめる。

誰と会っても綺麗と言われるくらい、自慢の母親。

とても優しそうにみえて実は結構怖い。

 

「もう・・・あなたの持つ剣が寂しそうにしてるわよ」

 

「母様・・・僕、剣術に向いてないのかなぁ。

何度やってもうまくいかないんだ」

 

片手に持つ剣を見つめる。

訓練用の剣なので真剣より刃の輝きは鈍いが

エリオットの困り顔が映し出されている。

 

そう、僕がここにいるのは剣の訓練のためだった。

強くなりたくて、母と訓練してはいるがいまいち成果を実感できずにいた。

母は見た目と反して剣の腕が立つ。なので僕の訓練も母がつけてくれるのだ。

 

「誰でもそんなにすぐにできるものではないわ。

大好きな父様の為に頑張るってこの前言っていたわよね?」

 

「・・・・」

 

僕の父はこの犬人種国の地区で自警団長をしている。

将来的には、沢山の功績をあげて

自警団員の憧れでもあるお城の騎士になることが目標らしい。

 

父はとても僕に期待している。

僕の外見・・長い金髪と赤紫がかった瞳は

「騎士」となった時、とてもよく映えるだろうという。

 

将来僕が大人になったら家を助けたい。

父を喜ばせたくて剣の稽古を頑張ると約束したけど・・・

 

「わかったよ・・・じゃあもう一度最初から・・」

 

エリオットは立ち上がって母に向かって剣を構える。

先程の困り顔が嘘のように真剣な眼差しになる。

 

「いいわよ。かかってきなさい」

 

母もそれに答えるように剣を構えた。

 

その時・・・・・

 

「あー!」

 

エリオットは突然 構えていた剣を地面へ放り投げる。

視線は明らかに母を通り越してその奥を見つめていた。

 

「ちょっとエリ・・・!」

 

母も視線を追う様に振り返る。

少し離れた所にこちらに向かってくる二人の男性がいた。

一人は笑顔で手を振っている。

 

「父様!」

 

「あなた!」

 

エリオットは父の元へ走り出す。

 

「エリオット 稽古頑張っているな」

 

駆け寄ってきたエリオットの頭を乱暴に撫でる。

父は日の光を浴びると透き通る銀髪をしている。

そしてその髪色には目立ちすぎる深紅の瞳・・その瞳の奥には暖かさを感じる。

エリオットは何よりもその父の大きな手が大好きだった。

 

「もー、まだ稽古の途中だったのに・・」

 

放り投げられた剣を拾って母も父の元へやってきた。

しかし、父の隣にいた人物を見て慌てて頭を下げる。

 

「あら・・あなたは・・・いらっしゃいませ」

 

 

「この子がお前の言っていた・・?」

 

「あぁ。これがエリオットだよ。可愛い子だろう?」

 

エリオットを見下ろす男性がいた。

その男性は、見た目は父と同年代くらいだが身なりがきちんと揃っていた。

黒い髪から覗く瞳は鋭さを感じるが不思議と威圧感はない。

胸元には犬人種の国の紋章がついている。

 

「エリオット。この人はお城の騎士団の団長なんだ。

いつも王様の傍についている偉い人なんだよ」

 

「・・騎士・・僕らの憧れの・・?」

 

「うん。騎士であり俺の友人でもあるんだ。

 こいつはいつの間にか俺よりも随分出世していたけどな・・。

 今回は仕事の話で久しぶりにうちへ来たんだがお前ともぜひ会ってみたいと言ってな。

 挨拶しなさい」

 

「うん」

 

父の元から離れ、隣の騎士団長の前で改めて直立すると

エリオットは笑顔で挨拶をする。

 

「いらっしゃいませ団長様。エリオットです。

 狭い所ですがどうぞゆっくりしていってください」

 

「・・・狭いは余計だぞ」

 

「自宅」を狭いと言われて父は眉をひそめる。

だがもう一度エリオットの頭を撫でると笑顔に戻っていた。

 

「さて、先に仕事の話をしよう。エリオット、またあとでな」

 

父は先に屋敷内へ向かって戻っていく。

騎士団長の男性はエリオットの顔をじっと見つめると

無言のまま、父の後を追って行った。

 

「・・・あの人・・また来たのね。最近見ないと思っていたのに」

 

二人の後ろ姿を見送りながら母は怪訝そうな顔をする。

 

母はあの人が嫌いなのだろうか・・?

 

 

 

 

説明
01.期待と予感
過去と未来 幕開けと終焉 流したものは血か涙か

うちの創作キャラを使った物語です。
この話では1ページ目と2ページ目、タイトルが分かれていて
それぞれ別の物語が展開されています。
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タグ
犬耳 オリジナル 少年 

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