真・恋姫無双〜魏・外史伝23
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第十一章〜青き龍は正義の一刃に討たれん・前編〜

 

 

 

  日はとうに沈み・・・、空は闇へと染め、星達が地上を照らす。

 

  その地上にて、赤く染まっている所があった・・・。

 

  その赤は、星達の光をかき消し、その暗く染まる闇夜さえも赤く染め上げる・・・。

 

  俺はその日、母さんのつかいで少し離れた町の方まで出かけていた。

 でもその日は、町に行く時にいつも通る道で雨に降られたせいで途中で雨宿り、町に着いた時は

 昼をとうに過ぎていた。町で母さんに頼まれた物を買い終えた時にはすでに夕刻、空と山は赤く染まっていた。

 村に帰る時にはもう日が沈んで、俺は暗い林道の中を歩く羽目になった・・・。

  「・・・あれ?」

  ふと、村の方角を見る・・・。村の方の空が赤くなっていた。夕焼け空かな・・・と思ったが、方角的に

 それは無かった。じゃあ、何だろう・・・?・・・次第に、不安な気持ちが膨らんでいった。  

  「・・・っ!!」

  不安でたまらなくなった俺は暗い林道を走り出した。その赤い空の下を目指して・・・。

  

  誰かの悲鳴が夜の澄んだ空気を切り・・・。

 

  誰かの泣き声が山々にまで届き、響く・・・。

 

  虚しくも、誰にも届くことなく・・・。

 

  次第に聞こえなくなっていく・・・。

 

  「なぁ・・・・・・っ!?!?」

  手に持っていた荷物を落とす。荷物は地面に落ちると袋から飛び出し、割れたり、土にまみれた。

  急ぎ村に着いた俺の目に映ったのは、村が・・・俺の村が・・・!!

 数刻ほど前は、あんなに平和でのどかだった村が・・・、今家々から火が上がり、火の海と化している現実を

 俺は受け止められずにいた。

  受け入れ難い現実に呆然とする俺・・・。

  「はっ・・・!父さん、母さん・・・静奈!!」

  我に返った俺は、家族が無事かどうかを確かめるために俺は燃え盛るの村の中へと行く。

 その炎の熱さに体から汗が流れ落ち、息をするたびに熱くなった空気が、俺の喉を焼く様な感覚を覚える。

  「父さーん、・・・母さーん」

  必死になって、家族の名前を叫ぶ。叫ぶたびに熱くなった空気が俺の喉を焼く。

  「静な・・・ッ!?」

  俺の目に疑いたくなるような光景が映る。

  「お、おじさん、おじさん・・・!!」

  いつも俺と静奈に良くしてくれる隣家のおじさんが道の真中に倒れていた。

 俺はおじさんの傍に駆け寄り、何度も呼びかけ、背中を揺する。でもおじさんはうんとすんともしない。

 そして背中を揺すった俺の手は血に濡れていた。よく見ると、おじさんの背中には大きな切傷があった。

  「おじさん・・・、そんなおじさん!おじさん!!一体・・・どうしっ・・・!?!?!?」

  俺はようやく気が付いた・・・。おじさんだけじゃなかった。辺りにはおじさんの様に大きな傷を負って

 倒れている村の皆の姿が至る所に見られた・・・男、女、子供関係なく。皆、俺が良く知る人達、いや

 この村で俺が知らない人なんていない!この村が・・・一つの家族を形成していたのだから・・・。

  俺は倒れている一人一人に駆け寄る・・・が、誰一人起きなかった・・・。

  「うぎゃあああっ・・・!!!」

  ドサッ!!!

  家の角から血を流しながら、倒れる人が見えた。

 そしてもう一人、家角から出てくる。

  「ん・・・?おい、こっちにまだ生きている奴がいんぞ!」

  俺の知らない人間だった・・・。この村の人間じゃない奴が血を滴り落ちる剣をその手に握っていた。

  「まだ生きて残っていやがったのか・・・。さっさと殺すぞ!!」

  また一人、この村の人間じゃない奴が出てくる。殺すって・・・、俺を?

 まさか・・・、こいつらが皆を・・・?この熱い中にいながらも、全身に寒気が走る。殺されるという恐怖が

 寒気として体を駆け巡る。

  二人の男が俺に近づいてくる。逃げなきゃ殺される・・・!逃げようと体を動かそうとするが、恐怖あまり

 腰が抜けてしまったせいで立つことができない・・・。

  「あ・・・、あああ・・・。」

  体が震えを上げる。そんな俺に構う事無く、男達が俺の前にまで来た。

  「悪いなぁ、坊主・・・。でも、俺達の顔を見ちまった以上生かしておくわけにはいかないんだよ・・・。」

  そう言って、一人の男がその血に濡れた剣を振り上げる。

 や、やばい・・・殺される。殺される、殺される、殺される、殺される、殺される・・・!!!

  「ぎゃあああっ!!!」

  突然後ろにいたもう一人の男が、悲鳴と共に倒れる。目の前の男も、後ろを振り返る。そこには、別の男が一人立っていた。

 その人は・・・、まるで一匹狼の様な気高さを持った人だった。

  「な、何だてめぇは!?」

  男がその人に尋ねる。

  「・・・外道に名乗る名など・・・、持ち合わせてなどいない。」

  ザシュッ!!!

  「ぶぎゃああっ!!!」

  男の質問に答えると同時にその人は、男を右手に持つ蛮刀で切り捨てた。

 俺は・・・助かったのか・・・?

  「大丈夫か、少年?立てるか・・・?」

  「は、はい・・・。」

 そう言ってその人は俺に手を差し伸べる。

 その人の優しい言葉に、俺を支配していた恐怖が消える。俺は助かったんだと、ようやく確信した。

  俺はその手を取る。

  「君はこの村の人間か・・・?」

  俺を立ちあがらせると、その人は俺に問いただした。俺はその質問に首を縦に振る事で答えた。

  「そうか・・・、実はたまたま近くを通りかかったのだが・・・。」

  その人が何かを話す・・・。その時、俺は忘れていた事を思いだす。

 

  父さん・・・!母さん・・・!静奈・・・!!

  

  俺は皆の元に向かう。

  「お、おい何処に行くのだ?!」

  その人の言葉を聞かず、俺は・・・自分の家に向かう。

  「父さん!!母さん!!静奈ぁ!!」

  皆の名前を叫び続ける・・・。

 でも、誰も答えてくれない・・・。

 俺は自分の家の前に着く。家の戸は乱暴にこじ開けられたいた。

 俺はそこから家の中を見る・・・。その光景に、俺は・・・。

  「なっ・・・あ、あぁ・・・!!」

  家の中が、家具や床、天井・・・あらゆるものが赤く染まっていた。

 床には・・・人であったであろう、亡骸が三つ転がっていた・・・。

 何もかも遅すぎた・・・、父さん達は・・・、無惨にも殺されていた・・・。

 体から力抜ける・・・、俺はその場に座り込む。そのまま三人の亡骸を見つめたまま・・・。

  俺は何を思ったのか・・・、足を引きずるように上半身だけで静奈の・・・、年が少し離れた小さい妹の傍に寄る。

 その手には、この間・・・一緒に山に遊びに行った時に摘んできた・・・一本の綺麗な花を握っていた。が、それも

 血によって赤く染まっていた・・・。

  「・・・・・・っ!!!」

  俺は思わず、静奈を抱きしめる。温もりを確かめようと力一杯に静奈の体を抱きしめた・・・。

 でも、それでも温もりは感じなかった・・・あったのは、人間のものとは思えぬほどに、悲しくなるほどの冷たさだけあった。

  「あ・・・、あぁ・・・、あああああ・・・・・・!!」

  俺の体は再び、震え出す。どうしようもない感情が・・・俺を支配した。そしてその感情が、俺の中から溢れ出した。

  「あああああああ・・・っ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

   ああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ

   ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

  

  そして残るは、絶望・・・。

 

  その絶望は、いつしか憎しみへと変わっていった・・・。

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  「・・・い、姜維・・・、姜維!!」

  「え・・・?」

  昔に思いふけっていたところに突然党員の一人に呼びかけられ、姜維は現実に戻る。

  「え・・・?じゃないだろう。さっきから呼んでいるのに・・・どうしたんだ?」

  「ああ・・・、いえ別に。」

  「そうか?まぁいいか・・・、それよりさっき軍議で樊城の防衛拠点を攻める事になったぞ・・・。」

  「樊城ですか・・・、白帝城から目と鼻の先の?随分思い切りましたね・・・。」

  樊城を突破すれば、その先には白帝城。今、白帝城は蜀軍が本陣として劉備達が滞在している。

  「しかも、今そこには関羽がいるそうだ・・・。」

  そこにもう一人の党員がそう言いながら近づいてくる。

  「関羽って・・・、軍神と謳われる・・・あの関羽ですか?」

  「その関羽だ・・・。」

  「・・・・・・。」

  「なんだよ姜維?びびってんのか?」

  「そ、そんな事は・・!?」

  「だが、確かに・・・関羽を相手にするのは出来れば避けたいなぁ〜。」

  「ですよね・・・。」

  「しかし、彼女を倒したとなれば、蜀軍に大きな損害を与える事が出来る。幸い、向こうの兵数はこちらとさほど

  の差はない・・・。」

  「兵数ではそうだろうが・・・。」

  何分、向こうはあの乱世を生き抜いた精鋭達・・・。数で負けていないにしても戦力的に見れば、向こうの方が

 上である事は火を見るより明らか・・・、真っ正面から戦えば、返り討ちにおうのは必定であると党員は思っていた。

  それを見透かすように、もう一人の党員が話す。

  「その事について、廖化さんに考えがあるそうだ・・・。」

  「考え・・・、ですか?」

  一体何だろう・・・?と姜維は首を傾げた。

  「それは廖化さんから直接聞いた方が早いだろうさ。さ、行こうぜ。皆が待っている。」

  「分かった。じゃあ行くか、姜維。」

  「はい。」

  姜維は立ち上がると、すぐ党員二人の後を追う。

 すると、後から来た方の党員が彼の目の前に何かを差し出す。

  「何ですか・・・これ?」

  見た所、飴玉程の大きさの水晶玉が紐にくくりつけられた感じの装飾品のようだ。

  「来る途中でよ・・・これをお前にって女の子から預かったんだよ。」

  「え・・・、女の子ですか?」

  そう言って、姜維は女の子から預かったという水晶玉を受け取る。

  「ああ、中々可愛かったぜ〜♪何だよ〜、お前も隅に置けないな!」

  顔をにやつかせながら、姜維の肩に手を回す党員の一人。

 その党員の冷やかしに、顔を真っ赤にする姜維であった・・・。

 

  「よしよし・・・、上手いこと無双玉が姜維の手に渡ったか。後はあいつの怒り憎しみが玉に呼応すれば

  ・・・。しかし、樊城か・・・。関羽にとってこれほどの皮肉は無いだろうぜぇ・・・?」

  物陰に隠れていた伏義は、笑みをこぼしながらその喉を鳴らしていた・・・。

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  別の頃、荊州・樊城の防衛拠点にて・・・。

  「関羽将軍、東に放った偵察部隊が戻ってきました。どうやら、正和党に動きがあったようです。」

  「そうか。では、迎撃の準備を整えろ!」

  「はっ!」

  正和党が動き出した事を察知した関羽達は、それに備え、戦闘態勢に入る。拠点内で兵達が慌ただしく動き回る。

 そんな中、一人の若い兵士が愛紗に話しかけた。

  「関羽将軍。」 

  「どうした?」

  「いえ・・・、大したことでは無いのですが、ここ最近の悪天候が続き、河川の水量が増加しているのが

  少し気になりまして・・・。」

  若い兵士に言う通り、ここ最近立て続けに大雨という悪天候が続き、その結果、樊城の後方に位置する

 大きな河川の水量が増していたのであった。もともと、この辺りは洪水の被害が多い事もあり、この若き兵士は

 それを懸念した上での進言であった。

  「ふむ・・・。だが、万が一に備えすでに堤防を作ったのだから、その辺りの心配は必要なかろう。」

  無論、愛紗もそれは承知の上であった。そのため、早い段階で周囲の河川の岸に堤防を張る事で、洪水の被害を

 出さないよう配慮していた。

  「は、はぁ・・・。」

  「そんな事より、お前・・・、こんな所で油を売っている暇があるのならば、他の者達の手伝いなり、何なり

  とやるべきではないのか?」

  愛紗は少し叱りつける感じにその兵士に説教する。これに若い兵士は怖気づいた。

  「は、はっ!失礼しました!!で、では自分はこれで・・・。」

  兵士は愛紗に向かって軽くを会釈すると、慌てて何処かに行ってしまった。

  「全く・・・。」

  この時、自分自身が後でひどく後悔する事をまだ知る由も無かった・・・。

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  ここより後方の、河川の反対側に位置するもう一つの拠点・麦城・・・。

 ここは防衛としてではなく、白帝城と樊城の防衛拠点を繋ぐ連絡拠点として機能していた。

  そのため拠点にいる兵士は、樊城に比べはるかに少なかった。

  ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!

  「うぎゃあああっ!!!」

  「いぎゃあああっ!!!」

  「ヴえぇえええっ!!!」

  武装した三人の蜀軍兵士が一瞬にして、体が四つに分断され、宙に舞う。そこから大量の血が飛び出す。

 今、この拠点は襲撃を受けていた。敵の数は・・・一人、たったの一人であった。

 しかし、その一人に拠点に駐在していた兵士達が次々と殺されていった。

 何故ならば、速すぎるため・・・敵が彼等の目に止まらぬほど速く動くため、彼等がそれに追いつけないのであった。

 その神懸った俊足に誰一人追いつけず、そして一瞬にして体を切り刻まれて・・・逝った。

  「い、いかん・・・!この事を関羽将軍と劉備様に報告を!」

  「は、はっ!!」

  この状況を芳しく無いと判断した拠点隊長は二人の部下に伝令の役を与えた。

 二人の兵は急ぎ馬に乗り、拠点をそれぞれ反対方向に駆けて行った。

  「逃がさねぇよ・・・。」

  ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!

  「ぐぎゃああ!!」

  「ぎゃああっ!!」

  「ぶごほっ!!」

  「があああ!!」

  拠点内に、悲鳴と断末魔がこだまし、手と足、そして首が宙を舞う。地面は流れる血によって赤く染まる。

 敵は地面に転がる腕や足を踏みつけながら、一人残った拠点隊長にゆっくりと歩んでいく。隊長は剣を目の前の敵に向ける。

  「貴様、一体何者だ!正和党の人間か!!」

  敵は突然、歩みを止める。そして拠点隊長を睨みつける。

  ザシュッ!!!

  「ひぎゃああ!!!」

  拠点隊長の胴体が、突然引き裂かれる。引き裂かれた下半身から空に向かって血が噴き出す。そしてその場で膝をおり、

 そしてそのまま前に倒れる。

  「へへ・・・。」

  伏義は小刀にべっとり塗れた血を舌で舐めとった。その表情は、まさに悪魔・・・それ以外に形容できる言葉がない。

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  「急げ!急げ!早くこの事を劉備様に伝えなくては!!」

  馬の背中に乗り、その馬を急かす兵士。風が彼の全身を叩きつけられる。

 麦城で起こった事態を、白帝城に桃香に伝えんと、縄を強く握りしめる。

  ブンッ!

  「・・・?」

  ふと、後ろから背中に風が当たる。だが今の彼には大した事では無かった。

 彼は白帝城に向かった。

  「え・・・?」

  突然、目の前の景色が真中で分断される・・・。

 何が起きたのか、兵士には全く理解出来なかった。

 景色がどんどん左右に分断されていく・・・。

 そして、彼の意識も左右に分断された・・・。

  ドサ!!ドサ!!ドサ!!!ドサアァッ!!!

  四つの影が地面を勢いよく転がっていく・・・。

 そしてその勢いが無くなり、地面で静止する。

 それはその兵士と、彼が乗っていた馬であったものであった。彼と馬は体の中央からバッサリと切られ左右に

 分断されていた。転がったせいで、その周辺は血と体の内容物が散らばっていた・・・。

  「・・・これで連絡拠点は完全に死んだな。」

  伏義はゆっくりと立ち上がると、そのまま何処かへと消える。

  「さて・・・、俺がしてやるのはここまでだぜ。後はお前等で頑張んな・・・。」

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  同時刻、樊城の防衛拠点では・・・。

  「正和党の様子はどうだ・・・。」

  「は・・・!現在、ここより約三里ほど先で部隊を展開!数はおよそ四千!さらに後方には攻城兵器と思われる布で

  隠されたものを確認できます。」

  「そうか。では、我々も投石機の準備を!連中が近づいてきたら、兵器事石の下敷きにしてやれ!」

  「「「はっ!!!」」」

  城壁にて、工作兵達に指示をする愛紗。その指示に従い、工作兵達は投石機の準備に取り掛かる。

 愛紗は前方に布陣する正和党を自分の目で確認する。すると、向こうから二人の人間が馬に乗ってこちらに

 向かって来た。

  「・・・舌戦をかわすために突出して来たか・・・。」

  「如何なさいますか?」

  一人の兵が愛紗に話しかける。

  「ここは向こうに合わせよう・・・。我々も舌戦に行くぞ!」

  「はっ!」

  愛紗の他、二、三人が後に付く。

  

  「大丈夫なんでしょうか?あの二人だけを行かせたりして・・・。」

  「何が大丈夫だって?」

  防衛拠点より三里ほど離れた所で布陣する正和党。拠点前に向かった仲間の二人の安否を心配するように

 見つめる姜維。それに対して、彼の隣で同じく拠点前で様子を窺っている年上の党員が尋ねる。

  「何って・・・、例えば俺達への見せしめとして二人を殺す・・・みたいな。」

  「はっはは・・・!そんな事か?!・・・恐らくそれは、関雲長に限って言えばまずは無いだろう。

  舌戦で来たとなれば、向こうもそれに合わせてくるはず・・・。」

  「そうかもしれませんが、二人の挑発に乗って攻めてきたら・・・!」

  「ああ・・・。確かにそれは無きにしろあらずだが・・・、可能性としては限りなく低い。」

  「どうしてです?」

  「どこぞの華雄ならともかく・・・。あの二人の挑発に、彼女が乗って気はしないさ。」

  「そう・・・ですか?でも、城壁の様子を見ると・・・、挑発に乗せられている感じが・・・。」

  そう言われ、党員は改めて城壁を凝視する。城壁の上では、青龍偃月刀片手にいきり立つ愛紗の両腕、両足を

 周囲の兵達が掴み、抑え込んでいるのが見て取れた。

  「あれの何処が挑発に乗っていないですかね・・・?」

  「う〜ん・・・、どうやら俺達は関雲長を過大評価していたのかもな・・・。軍神と謳われているとはいえ、

  彼女も年頃の女の子だから・・・。」

  「・・・・・・。」

  あの二人は一体どんな挑発をしてきたんだろう・・・と、この時姜維は心の中で思った。

 程なくして、舌戦を終え二人が戻って来る。姜維は二人に舌戦の内容を確認する。

 二人は面白おかしく話してくれたが、その内容はおおよそここで話せるものではないので、ここでは省略させていただく。

  「ま、まあ・・・。内容はどうであれ。それはこちらとしては都合が良いな。」

  「と言うと?」

  「怒りで頭に血が上っているのならば、こちらに注意が向く。となればこっちの計画に気付くのが遅くなるだろ?」

  「ああ・・・、成程。」

  党員の説明に、納得する姜維。

  「で、これから俺達はどうしますか?」

  「ああ、俺達はこのまま連中の目を引き付ける。雨が降りだすまで・・・な。」

  「雨・・ですか。降るんですかね・・・。」

  そう言って、上を見上げる。青い空の所々に、雲が浮かんではいるが雨が降る様子はまるでない。

  「廖化さんの言葉を信じろって。」

  「はい。」

  党員の言葉に、頷く姜維であった。

  

  一方、樊城の防衛拠点内の休憩所・・・。

  そこには、水一杯を何度も一気飲みする愛紗がいた。

  「だ、大丈夫ですか・・・関羽様?」

  彼女の側にいた侍女が、赤くほてった顔をする愛紗を心配そうに話しかける。

  「もう一杯!」

  そんな侍女の心配を余所に、愛紗は空になった茶碗を侍女の前に差し出しさらに水を要求する。

  「は、はい・・・。」

  仕方がないと思いながらも、侍女は茶碗を受け取ると水を注ぐ。

  「どうぞ。」

  侍女が茶碗を愛紗に差し出すと。黙ってまた水を飲み干す。

 再び空になった茶碗を無言で侍女に渡すと、何か意を決した様に立ち上がる。

 それでも彼女の顔は未だ赤く火照っていた・・・。

  「関羽将軍!!」

  「!!ど、どうした!」

  突然、大声で呼ばれ愛紗は驚きながらも呼ばれた方を向く。

  「正和党本陣から騎馬兵が攻めてきました!数は三十!」

  「三十?思ったよりも少ないな・・・。よしでは、このまま城壁より迎撃する!弓隊は準備しろ!!」

  「はっ!!!」

  兵達に命令を出す愛紗。そんな時、彼女の手に水滴が落ちる。愛紗を上を見上げる。

  「雨か・・・。」

  わずかながらも、小雨が降って来た・・・。

 

  「廖化さん!廖化さんの言った通り、雨が降ってきましたよ。」

  とある山中、そこに正和党・頭領こと廖化と数人の党員が隠れるように潜んでいた。

  「ああ、だがこれではまだ駄目だな。もっと強く降るまでは・・・。」

  「分かっています。・・・しかし、向こうはこちらに気付いていないですかね?」

  「大丈夫だ。仮に気付いているのなら、すでにこちらに兵が向かって来ているはずだ。それが無いという事は

  向こうは目の前にいる敵にしか目が行っていないという事だろう。」

  「そうですね。姜維達が上手くやってくれているんでしょうね。」

  「ああ。後、関羽将軍が油断してくれているおかげでな・・・。」

  廖化は皮肉の意味をこめながら、そう言った。

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  「良し、弓隊!撃てぇーー!!」

  ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!

  弓を持った兵士達が、愛紗の号令で引いた矢を放つ。

 大量の矢が前方に放たれる。しかし敵は騎馬隊三十と少ないことに加え、雨が降るという悪天候の中も相まって

 上手く討ちとる事が出来ずにいた。

  「おいおい・・・。なんだありゃ?あんなんで俺達を射抜く気かよ?」

  雨でぬかんだ地面であるにも、かかわらず正和党の騎馬隊は上手い事を矢を避けていく。

  「無理に狙う必要はない!連中を近づけさせなければ、それでいい!投石機、放てぇ!!!」

  ドオォーーーン!!!

  投石機が設置された岩を放つ。

 数個の岩が飛んでいく。地面に勢いよく落ちるが、敵の騎馬隊に当たる事は無かった。

  「城攻めに使うから攻城兵器なんだ。動くものに通用するわけ無いって!」

  そんな事を繰り返す中、雨は時が経つにつれ増していった。

  そんな時であった・・・。

  「関羽将軍!」

  「ん?・・・またお前か。今度は何だ?」

  自分の名を呼んだのは、先程の若い兵士であった。愛紗は呆れながら、慌てている彼の話を聞く。

  「はっ!雨が降ってきましたので、念のため河川の様子を見て来たのですが・・・。」

  「何だ・・・、またその話か・・・。先程言ったであろうに・・・万が一に備えすでに堤防を・・・。」

  同じ事を繰り返すのかと、呆れ返る。雨が降って来たせいでまた増水でもしたのだろうと、思っていた。

 だが・・・、彼の話は違っていた・・・。

  「いや・・・、そうでは無くてですね!」

  「では何だ!」

  「河川の水量が・・・逆に減っているんです!」

  「はぁ・・・?」

  一体何を言っているのだ?と言いたそうな顔をする愛紗。それに構わず、兵士は話を続ける。

  「ですから、河川の水量が雨が降る前よりも減っているんですって!雨が降れば、水量が増えるはず

  なのに・・・。逆に降る前よりも極端に下がっているんです!」

  「何だと・・・?!」

  しかし、事態はそれだけに留まらなかった・・・。

  「関羽将軍!敵の騎馬隊が後退していきます!」

  「・・・っ!?何!?」

  兵士に言われ、前方を振り返る。騎馬隊全員が先頭領域から離脱していく。

 ちなみに、彼等が布陣した所はこの拠点よりも高台のところであった・・・。

 この時、愛紗は理解した。彼女の頭に二文字が浮かぶ。だが、全ては遅かった。

  「急ぎ、高台に登るように下にいる者達に伝令するんだ!」

  「は・・・?」

  「いいから、早く行け!!奴等は水攻めを仕掛けて来るはずだ!!急いで高台に移動するんだ!!!」

  「は、はっ・・・!!!」

  若い兵士は慌てて下にいる者達に、高台に登る様進言する。

 

  「廖化さん!!!」

  「うむ!今だ!!堰を切れぇ!!!」

  廖化の命令に一人の党員が剣を振り落とした。

  ザシュッ!!!

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  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・!!!!!!!

  「な、何だこの音!?」

  拠点内で地響きが鳴る・・・。地震かと誰もが思った。その時であった。

  「お前達、逃げろーーー!!!」

  愛紗の叫びが届いた時には、すでに遅かった・・・。

  ドゴオォォォォォォオオオオオン!!!!!

  突然の出来事であった。

 拠点の、数十人がかりでやっと開く、巨大な扉が独りでに開いた・・・、否、独りでではない。

 扉を開けたそれは、開いた扉の隙間から怒涛の勢いで入り込んできた。水であった・・・。

 扉を開けたのは大量の濁った水であったのだ。大量の水が下にいた者達を飲み込んで行く。

  そして高台である城壁にも水の脅威が襲いかかる。勢い余った水達が城壁の兵士達と

 投石機を連れ去って行く。河川から溢れ出した水によって堤防を決壊し、

 そのまま拠点内、その周囲を浸水していった。

  水の勢いが収まった頃には、水量は拠点の城壁のやや下まできていた。

 水中には逃げ遅れた兵達や侍女などが漂っていた・・・。

  「・・・・・・・・・。」

  あまりにも一瞬の出来事に言葉を失う愛紗。

  「関羽将軍!正和党の軍勢が船団を組んでこちらに向かってきています!!」

  正和党達は数隻の小型船に乗り、この拠点へと進んでくる。布で隠していたのは、兵器では無く

 船だったことに今さら気付く・・・。

  「関羽将軍!ここは急ぎ後方の麦城に撤退すべきです!ここにいては正和党が・・・!!」

  「・・・くぅっ!止むを得ない・・・。皆の者!急ぎ船団を構成し、麦城に撤退する!」

  「「「「応っ!!!」」」」

  正和党が到着する前に、愛紗達はこの拠点にあらかじめ用意されていた船に乗ると、そのまま拠点を離脱した。  

 

  「上手くいきましたね・・・。」

  「そうだな。」

  「正直に言うと、この作戦を聞いた時はどうかなって思っていました。」

  「そうか・・・。実は俺もそう思っていた。」

  「やっぱりそうですよね。」

  「だが、ここからだ。ここから彼女達をどこまで追いつめられるか・・・。」

  「そうですね・・・。」

  姜維ともう一人の党員がそんな会話を船の上でしていた。

 

  『いえ・・・、大したことでは無いのですが、ここ最近の悪天候が続き、河川の水量が増加しているのが

  少し気になりまして・・・。』

  ふと、あの時の若い兵士の言葉を思い出す。

 この時に気が付きべきだった・・・。水攻めの可能性を!

 迂闊だった・・・、何故こんな簡単な事に気が付かなかったのか!

 向こうが一枚上手・・・、いや、向こうからして見れば、これほど

 のおいしい状況を利用しない手はない・・・。向こうの立場に立って考えれば、至極当然のことだ!

 となれば、これは・・・私自身が招いたもの・・・。

 奴等を一介の傭兵集団と端から過小評価し、わずかばかりの油断を見せてしまった・・・

 私の自身の愚かさが招いた結果・・・!

  「くそっ・・・!」

  小舟の先端を拳で叩く。悔しさから口から一筋の血が流れる。

 関羽の船軍は急ぎ、河川の向こう麦城へと進める。そこでの惨劇を知るはずもなく・・・。

 

説明
 こんばんわ、アンドレカンドレです。
やっと十一章・・・。
 しかし、この愛紗・・・本当に無能過ぎます・・・。おかしいな原作はこんなに無能では無いはずなのに・・・。
 愛紗ファンの皆さん、申し訳ありません。このあと彼女にも見せ場があるのでそれで勘弁して下さい。
 そう言う事なので、魏・外史伝 第十一章〜青き龍は正義の一刃に討たれん・前編〜をどうぞ!!
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コメント
おお・・・・・。 ここから・・・・・・どう打って出て来るのだろうか・・・・愉しみです。(Poussiere)
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