チートでチートな三国志・そして恋姫†無双
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第61話  阿片、薬、麻薬、毒

 

 

 

 

 

村を滅ぼされた相手と医療技術を授けた人物、そしてこの乱の黒幕、それらすべてが同一人物かもしれないという話は天和たちにとってかなりショックな話だったようだ。

 

「なぜ、一刀さんたちはそう思ったのです? 朱里や水晶たちも同じようなことを考えているようですが、それがなぜなのか、教えていただけますかな?」

 

 

「極めて単純な話なのですが、『漢王朝はすばらしい』『漢王朝のやることはすべて正しい』と思っている人が、妹を人質に取られただけで反乱軍の首魁にいる状況を受け入れますか? そういう人なら自ら命を絶つでしょう。妹がいたとして、先に自分で殺すことさえありえます。

 

つまり、『漢は滅ぼせ』とまではいかなくとも『漢のやってることっておかしいよね?』くらいの意識は持っているだろうな、ということです。少なからず思うところがあったからこそ、従っていたのです。ましてや“黄”巾賊ですからね。最初は何の冗談かと思いました」

 

星の疑問に答えたのは水晶だ。ただ漢を盲信している人物ならば反乱を起こした後もずっと従っているはずがない、という当たり前のことだ。しかし、黄色?

 

「え……?」

 

「『黄』は皇帝のみが使える最高の色です。由来はいろいろありますが、一つは五行思想における中心の色が黄色であること、そして私たち全員の先祖である人物「黄帝」の象徴が他ならぬ「黄」色です。つまりこれ以上無いほど明確に、漢王朝へ挑戦しているわけです。というより、自分が皇帝で皇帝直属の軍なのだという意思表示ですか」

 

天和たちは面食らっていたが、藍里が引き継いで説明したそれは俺にとってもかなり驚いた話だった。まさか黄色にそんな深い意味があったとは……。

 

「それなら、私たちも黄色を旗印にしたら危なかったわけですか?」

 

「当たり前でしょう……。黒と赤はまあ問題ないです。というより黒を天の色、赤を縁起の良い色と考えますから、ある意味では良かったでしょう。“相剋”ですから相性は良くないのですが、それを乗り越えるという意味もあるのですよね?」

 

愛紗の問いに答えたのは椿だった。五行思想なんて全く考えていなかったけど、まさかそこまで意味を考えられるとは……。

 

「そんなに深読みできるの?」

 

「聞かなかったことにしましょうか……。何にでも意味を考えるのが思想家の仕事です。どうでもいい人にはどうでもいいのですが、信じる人には大事です。とはいえ“黄”はあまりに不敬です。」

 

「確かに漢のやりかた、というか政治に違和感を覚えていたことは間違いありません。こんなことになるとは思っていませんでしたが、漢が変わるきっかけになるのなら、という考えはありました。」

 

「なるほどね。ところでさ、根本的な質問をするよ。ここで俺たちの配下になって都市の病人を治す医者になって、民衆の病気を治すことはできるの? 水晶の病気は治せるみたいだけど、他はどうなのかな、ということ。」

 

そもそも、民衆が病気にかかったときに天和がそれを治せるのか、それが最も重要な話で、『治せません』ならばここまで危険をおかした意味がなくなってくる。

 

 

「現状でだいたい7割の病人は治せると思います。ただ、残りの病人を治すには『阿片』の使用を許可していただかないと難しいです。」

 

阿片って……。大麻より危ない。イギリスによって清代の中国に阿片がばらまかれて民衆がヤク中になって戦争になった、といういわくつきの麻薬だ。そもそも薬として使えるのだろうか?

 

「阿片、というと、ケシの実からとれる薬ですよね? ただ、ここでは一刀さんによって大麻共々禁止されていますし、阿片は栽培も一切していません。つまり、他から種を輸入して栽培をするかしなければ入手は不可能ですね。」

 

「阿片を使わないと治せない病気もあるの? というか、阿片の危険性はわかっているのかな?」

 

「もちろん、危険性は充分に承知しています。ただ、薬には阿片に限らず良い作用と悪い作用があります。常にその2つを考え、良い作用のほうが大きければ使う、あるいは悪い作用も理解した上で使うことが必要です。特に、阿片には悪い作用も多いですから、使用には厳重な注意が必要なことは間違いありません。」

 

薬には作用と副作用がある。それは確かに当たり前の話ではある。とはいえ、阿片に“副作用”も多いということを理解しているのは“使いたい”人として当然のことだろう。

 

「率直に言って、阿片にどのような作用と危険性があるのか私たちにはわからないので解説していただけますか?」

 

「はい。作用として私が主に使いたいのは下痢と咳と鎮痛、要は痛み止めです。残念ながら、他の薬とは段違いの効き目があります。つまり、阿片を使って治らなければ手の打ちようがない、と言い切れる薬です。ただ、耐性ができやすい、つまり毎日同じ量を飲んでいると、30日たてば効かなくなるので量を増やさなければならなくなります。また、依存性、つまり飲まないとその症状が起きる可能性があります。つまり、咳止めとして40日出せば、だんだん咳は止まらなくなるし、飲まなければまた咳が起きる、という状況に陥ります。

 

また、大量に飲むと毒で死にますし、継続的に使用すれば寿命が縮みます。」

 

「一刀さんでなくても禁止したくなる、というか使う意味が全くわからない薬なのですが、どうして使いたいのですか?」

 

「経験がない方にはわからないと思いますが、咳が全く止まらなくて眠れない人もいます。あるいはひどい下痢で命を落とす人も。そういう人に症状を見極めた上で一時的に数日分出すのならば利益のほうが大きいんです。

 

たとえばこれ。砂糖と塩です。ここには山ほどあって驚きましたし、薬というよりは調味料として使っているようですが、少なくとも砂糖は薬として売られていますよね? この二つだって、毎日大量にとれば間違いなく寿命は縮みます。一方で、これを買える財力がないから死んでいく人が少なからずいました。」

 

「砂糖と塩で?」

 

「はい。高熱を出し、下痢は止まらず、お粥さえ吐いてしまう病人がいますよね? そういう人に、きれいな水を沸騰させてから塩と砂糖を一定の量溶かした水を飲ませるんです。これが飲める病人はほぼ確実に回復します。しかし、ご存じの通り砂糖は高価ですから到底買えない人もたくさんいます。果物の汁などで代用するか、お湯だけか。いずれにせよ回復力がぜんぜん違います。

 

お粥などの固形物はもちろん、お湯に溶かした薬さえも吐いてしまう人もいます。そして、下痢はただ止めればいいというものではありませんから、下手に薬は使えません。ここでただのお湯を飲むか砂糖と塩を溶かしたお湯を飲むかの違い、ただそれだけなのですが。」

 

 

要するにスポーツドリンクのようなものを自分で作って水分のかわりに飲むことで栄養補給にもなる、ということなのかな。下痢のときには水分補給でもただの水よりスポーツドリンクのほうが、あるいは下痢止めを感染性の下痢のときに飲まない、ということを言っているんだろう。しかし……。金がなくて砂糖と塩を買えないから落とす命がある、とは……。

 

 

「使用は天和のみ。処方日数は2日が限度。処方者以外の使用は厳禁、が条件かな。ちなみに、大麻なり阿片なりを使っている人って見分けられる?」

 

「私なら見分けられます。薬を常用している人は常人とは明らかに違うので。

 

大麻にせよ阿片にせよ、頭痛や咳といった症状に効く成分だけを手に入れることができれば話は変わるのですが、そんなことはできないので、短期に限定して処方するのが安全を確保する唯一の方法だと思います。」

 

 

なるほど……。そういえば“医療用麻薬”というのを聞いたことがあるような……。癌の患者に使ったりするらしいけど、それは阿片とかなのだろうか……?

 

「先ほど、どんな薬にも良い作用と悪い作用がある、と言いましたが、他にはたとえばどんな薬があるのですか?」

 

「そうですね……。確実に皆さんも知っているし、あるいは飲んだこともありそうなのは“甘草”でしょうか。」

 

「え!?」

 

「甘草にも悪い作用があるのですか?」

 

皆がかなり驚いているけど、そもそもカンゾウとは何なのか……? 漢方薬とかあんまり飲んだことないしなあ……。

 

「もちろんです。体がむくんだりします。」

 

「甘草って何?」

 

「“甘い草”と書き、その名の通り甘い草なのですが、これの根を煮たお湯を薬として飲むんです。値段も安いですし、のどの痛みなどで飲むことが多いです。悪い作用なんて聞いたこともありませんでしたが……。一刀さんは飲んだことがないのですか?」

 

「漢方薬とかあんまり飲まないしなあ……。風邪の時に葛根湯飲まされたくらい?」

 

「甘草、入っていますよ?」

 

「本当!?」

 

「葛根湯、はその名の通り、葛根、つまり葛の根を基本に、麻黄、桂皮、芍薬、大棗、生姜、そして甘草の7つを合わせた薬です。」

 

「いろいろ混ざっているんだ?」

 

「単独で使うよりも相乗効果でより良い作用を生ませるのが生薬の良さです。どういう配合にするかが腕の見せ所でもありますね。」

 

「なるほど……。ということは、ここで病人の体を治すのはそこまで問題にはならない、ということでいいのかな?」

 

「はい。皆さんが私たちをどうするのか、それによる、というだけです。」

 

「それは、これからの話を聞いてからかな。病気を治し、“華北の桃髪”と言われ、少し漢への違和感を感じていたあと、どうなったのかをきちんと教えて。」

 

 

 

 

 

 

日々の報道が某人の薬物で揺れるなか、この話を投稿するのは多少の勇気が必要でした。何の関係もないので問題ないだろう、と思って投稿しております。

 

 

多少の補足を。

 

“阿片”から有効成分のみをとったものは今でも医療用でいろいろと使われています。もちろん、医師の処方のもとでつかうのであれば、法的にも問題ありません。作用副作用に関しては処方した医師に聞いてください。

 

一刀は知りませんが「コデイン」という成分が咳止めに入っていて、それは麻薬由来の成分なので実は飲んだことがあったりします。

 

なお、“甘草”の副作用は「偽アルドステロン症」というものです。気になった方は調べてみてください。

 

薬物使用、ダメ!! ゼッタイ!! 

説明
第5章 “貞観の治


あけましておめでとうございます、が2月になってしまいました。遅くなりすぎまして申し訳ありません。
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コメント
未奈兎様> 公式の資料に残っているのかは私はわかりませんが、大麻やケシは当時もあったでしょうから薬物中毒の人がいたであろうことは想像がつきますよね。「たまたま」葉を燃やした、あるいは種に傷がついた、そういうきっかけから広まったのかもしれません。(山縣 悠明)
三國志にも薬物中毒は普通に居たんですよね(未奈兎)
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恋姫†無双 真・恋姫†無双 三国志 

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