ロイヤルガーデン if 〜非・御子神ハルルコ√〜 『ホワイエ』
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私は部屋のベッドに寝転がりながら、携帯端末を弄っている。

起動しているアプリは、いま流行のソシャゲ。

絶賛ガチャを回転中。

お目当ては、チート並に強いと噂の英雄王。

これの出る確率が、今日限定で3倍増になっているのだ。

23時50分。

ベッドサイドを見やると、時計が静かに時刻を伝えていた。

 

「……本当に3倍なのかしら?」

 

さっきから回しているけど、まったく出ない。

課金額など気にせず、10連ガチャのボタンをトントンと押す。

今も一回。

演出をスキップして結果を見たけど、また空振り。

ここまで来ると、お目当てのキャラが入っているのかすら怪しい。

前にそんなことがあったゲームがあるけど、自分がやってるゲームで起こるのは勘弁してもらいたい。

……また空振り。

でも、私は欲しいものは何としても手に入れる性質。

そしてまた10連ボタンに指を伸ばす…

 

「…………」

 

ふと、ある人の顔が頭を過ぎる。

 

月宮神狗郎

 

何度唱えたか分からない、私の魔法の言葉。

転校の多かった私にとって、ブラウン管越しの彼は初めての友達で、初めての…恋の相手。

そんな彼がテレビから姿を消したのは、突然だった。

当時は訳も分からず、人知れず涙した。

 

サイドボードに目を向ける。

そこには、古びた便箋が一つ。

それは、彼に出せなかった((ファン|ラブ))レター。

 

「はぁ……」

 

ごろりと寝返りを打つ。

そんな彼が今度は突然、私の目の前に現れた。

何故か『異国の王子』として。

 

私は初めて運命に感謝をした。

陳腐な表現だけど、それまでの人生が灰色だったと感じるくらい、世界が明るくなった。

私の((舞台|人生))に、序盤で降りたヒーローが舞い戻ってきた。

絶対、彼を私のものにしてみせる。

ライバルは沢山いたけど、選ばれるのは私…

そう、思っていたのだけれど……

 

結果は、ゲームのように思い通りには行かなかった。

彼の舞台では、私は脇役の一人。

((ヒロイン|恋人))には、なれなかった…

 

私が、世界で一番、神狗郎を想っているはずなのに…

 

「どうして…なんだろう?」

 

ピッという、無機質な電子音が一つ鳴った。

時刻は0時を迎えていた。

私は、端末を放り投げた。

 

 

 

 

 

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次の日。

 

私はなんとなく授業に出る気になれず、かと言って部屋にいるのも嫌だった。

なので、始業を待って学園を抜け出し、お爺さまの別荘に避難することにした。

少し歩くけど仕方がない。

向こうでシャワーでも浴びて、もう一眠りと洒落込もう。

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

「なんじゃハル。こんな時間に」

 

別荘には予想外の、この部屋の持ち主がいた。

 

「…お爺さまこそ、珍しいわね」

 

普段はかけないメガネをかけ、テレビの前のソファーに陣取るお爺さま。

デスクには書類が乱雑に散らばっている。

 

「うむ。最近、ちと遊びすぎて書類が溜まってしまっての。今日は腰をすえて片付けてしまおうと、こう思ったのじゃ」

 

実務は私の両親などに任せてはいるけど、お爺さまは御子神グループの会長。

どうしても目を通さなければならないものもあるのだろう。

 

「それで、ハルはどうしたんじゃ?」

 

書類に目を落としながら、何とはなしに聞いてくる。

 

「えぇ。少し気が乗らなかったから、授業をサボってきたの。シャワー、借りるわね」

 

正直に言うと、おう、と生返事が返ってきた。

まぁ、許可がなくても使うんだけど。

バスルームに足を向ける。

 

「そうじゃ、ハルよ」

「なに?」

「神狗郎くんは元気かね」

 

――――ドクンッ

 

心臓が、大きく脈を打った。

一瞬で背中いっぱいに脂汗が出る。

胸が、苦しい…

全身を巡る血液が真っ黒に染まったみたいだ。

 

「……元気よ。毎日女を侍らせる程度にはね」

 

私は逃げ込むようにバスルームへと駆け込んだ。

嫌な汗はシャワーで流せたけど、胸のモヤモヤまでは流せなかった。

 

 

 

 

 

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――――――

――――

――

 

 

 

お爺さまの仕事を邪魔をするのも気が引けるし、何より、また何か言われるのが怖くて早々に別荘を後にした。

ぶらぶらと時間を潰しながら、結局、まだ陽の高いうちに学園へと戻ってきてしまった。

わざわざ暑いとき外に出て、暑いうちに帰ってくる…

 

「何やってるんだろう、私」

 

思わず一人ごちる。

 

「本当、何をしてらっしゃるのでしょうね?」

「っ!?」

 

独り言に介入され、思わず身構える。

いつの間にか目の前には、学園の門を背にして、一人の女が立っていた。

 

「灯花…」

 

全てを見透かしたような目でこちらを見ている、クラスメイトの秋月灯花だった。

 

「授業に出ず、また部屋でお籠もりかと思っていたら…まったく、悪い子ですね。ハルルコさん?」

「…あなたこそ、人のこと言えるのかしら?まだ授業中じゃない。不良学生さん?」

「あなたと一緒にしないで下さいますか?私はこれから…」

 

そう言うと灯花は左手をそっと胸に当てる。

言われてみれば、彼女は制服ではなく和服を着ていた。

灯花は華道の家元をしている。

授業を早退して弟子の指導に行くこともままあった。

恐らく、今日もそうなのだろう。

私は早速攻め手を失った。

 

「ふふっ…」

 

顔に出ていたのか、灯花は満足そうに笑う。

 

「最近は真面目に授業に出ていらしたのに、今日はまたどういう風の吹き回しですか?」

「…別に。最近の私の方がおかしかったんじゃない?元に戻っ…」

「そうですよね。神狗郎さんが他の女性と仲良くしている姿は、見たくありませんよね」

「――っ!」

 

心の奥底に隠してある傷口に、刃が突き立てられる。

それを再び隠すように灯花を睨みつけるけど…

 

「…………」

 

人を小馬鹿にしたような微笑はまったく崩れない。

かくなる上は…

 

「あらあら。図星を突かれてだんまりですか?」

 

口を一文字に結び、灯花を『いないもの』として歩き出す。

何も見えないし、何も聞こえない。

これが、唯一の防衛策。

 

「そうですよね。本当に神狗郎さんのことが好きなのであれば、今の状況は耐えられませんもの」

 

横を通り過ぎる私にだけ聞こえるように囁いてくる。

 

――――聞こえない、聞こえない――――

 

「そのお気持ち、私も良く分かります――」

 

――――聞こえない、聞こ

 

「――――え」

 

耳と心の間のシャッターを潜り抜けてきた言葉に、思わず身体が反応して振り返る。

だけど、灯花は既に歩き出しており、その背中は小さくなっていた。

 

「何を…言っていたの?」

 

心を閉じていたから、聞こえなかった。

でも、確かに『何か』言っていた。

思い出そうとしても、言の葉を象れない。

私はモヤモヤとした気持ち悪さを抱えたまま、部屋に帰るしかなかった。

 

 

 

 

 

説明
DTKです。
普段は恋姫夢想と戦国恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI(仮)という外史を主に紡いでいます。

今回は、恋姫を製作しているBaseSonと同じネクストンブランド、あざらしそふとの作品『ロイヤルガーデン』の二次創作を投稿します。

ヒロインの一人である御子神ハルルコ。
もし彼女が選ばれなかったら…
これは、そんな悲しい『外史』の物語です。

主題歌の『Welcome☆Garden』を聞いていて、ふと頭に流れた欠片を紡ぎました。
物語のここに入る、という訳ではありません。
でももしかしたら、この世界のどこかであった、一場面。

この『外史』に興味があるという人のみ、この扉を開いて下さい…
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ロイヤルガーデン 御子神ハルルコ 御子神豪劍 秋月灯花 

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