艦隊 真・恋姫無双 108話目
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【 動く要塞 の件 】

 

? 司隷 洛陽付近  洛水 にて ?

 

三本の巨大な水柱が上がり、辺り一面に豪雨のような水飛沫が、頭上より降り注ぐ。 濡れ鼠になりながらも、龍驤達は辺りを見渡した。 

 

咄嗟に魚雷攻撃を命じたので、艦載機達が巻き込まれないかと、少し気掛かりしたものの、後方の空を飛び交う様子を確認し………全機の無事が判り、胸を撫で下ろす。

 

ーー

 

愛宕「まだ、気を緩めちゃ駄目よぉ! 相手の轟沈がハッキリするまで、警戒を継続してぇ!! 北上さんと大井さんは……左右に展開して雷撃準備! 扶桑さんや山城さんは後方から砲撃を用意! それから────」

 

高雄「此処から先に、攻撃なんて………させません! 私が必ず………」

 

ーー

 

愛宕は、先程の悲痛な顔も消え失せ、旗艦としての役目を果たすべく、他の艦娘達に指示を飛ばして、包囲網を構築させる。 高雄も、洛陽側を背にして戦艦棲姫達に抗う構えを見せた。

 

誰一隻、戦艦棲姫達が轟沈したなんて………信じない。 

 

昨夜、川内から酸素魚雷を受けた戦艦棲姫が、自分達の目の前に存在する事実。 これが雄弁に警戒の理由を物語っている。

 

そして、水面から顔を出したイクも、珍しく険しい顔で前方を睨み付けた。 

 

ーー

 

イク「……………まだなの。 まだ終わってないの!」

 

龍驤「………伊達に深海棲艦やっておらへん……ちう事やな………」

 

ーー

 

僅か数百bの距離とはいえ、酸素魚雷を龍驤の合図と共に、狙い違わず戦艦棲姫達に連続で撃ち込んだのは、流石に武勲艦の一隻。 深海棲艦の下級クラスなら一発轟沈で済んだ筈なのだ。

 

普段見せる顔とは違い、緊張と獰猛さを併せ持つ顔を横目で軽く眺め、前方の水飛沫より発生した霧を凝視する。 

 

白いベールに覆われたような先には、蠢く機械音と嘲笑う女の声が聞こえて来た。 声の様子から戦艦棲姫のようだが、その声に何故か……歓喜も含んでいるように感じられる。

 

霧が少しずつ晴れていくと………黒い大きな物体が見えた。 声は、その物体の中より聞こえているようである。

 

ーー

 

戦艦棲姫「クックック………変ワランナ………マタ………酸素魚雷………カ! イヤ………コレコソ……アノ時ヲ思イ……オコサレル! コノ命ヲ的ニシタ……刹那ノ感覚! 貴様等ガ……我等ト対等以上……戦イ争ッタ……緊迫シタ日々ヲ!!」

 

ーー

 

そこに現れるのは、16inch三連装砲を盾代りにして酸素魚雷を避けた戦艦棲姫達。 16inch三連装砲の擬装が戦艦棲姫達に覆い被さり、直撃を自分に当てて、戦艦棲姫達には余波だけしか受けなかったのだ。

 

丸く踞る16inch三連装砲がモゾモゾと動き、緩慢な動作で立ち上がる。 頭と両腕に被弾した箇所から黒煙を発しているが、目視で確認しても目立った損害は見当たらない。 幾ら深海棲艦と言っても──異常である。

 

ーー

 

山城「…………なんてぇ悪運が強いの!? もしや……私や姉様が不幸なのは……もしかして、あの戦艦棲姫のせい…………」 

 

天津風「はぁー、まったく。 確かに戦艦棲姫の悪運、羨ましがる山城に少しは貰えれば、両方とも『楽に』なるんだけど………」

 

山城「───へっ? べ、別に……羨ましくも何とも思ってないなわよ!? も、もちろん………運は……欲しいけど。 でも………悪運って………貰っても不幸を回避できるのかしら?」

 

扶桑「山城、天津風──無駄話など後よ! 遅れないで砲撃準備をっ!!」

 

山城「───はいっ! 姉さまぁ!」

 

天津風「わかってるわ! 今度こそ、風向きを此方に向かわせるわよっ!」

 

ーー

 

那珂「こ、怖いけど……那珂ちゃんは挫けないよ! だって──アイドルには、挫折や成長が付き物なんだからぁ!!」

 

ーー

 

北上「………………酸素魚雷をねぇ? 正直、こんな敵艦と戦いたくないなぁ〜」

 

 

大井「………これだけ頑丈なら、北上さんと重雷装艦へのモデルチェンジした後に、もう一度戦いたいわ。 二人で手を取り合いながら……酸素魚雷を撃ち込むのよ。 何発で轟沈するか数当てしたり…………ああ、楽しみねっ!!」

 

ーー

 

まるで、親鳥が雛を守るような行動を取る16inch三連装砲を……苦々しく見るしかない艦娘達。 一部例外もあるが、殆どが驚異と認めているようなもの。

 

あの艤装の攻撃力が高いのは、昨夜に実地で経験済み。 だが………防護力も酸素魚雷の爆発を耐えきるほど高いとは───思いもしなかったからだ!

 

そんな艦娘達の思惑をよそに、戦艦棲姫は……盾として戦艦棲姫を守った16inch三連装砲の腕を手荒に叩き、その場所から退かせる。 

 

場所が開くと重巡棲姫と一緒に抜け出し、艦娘達に健在を誇示。 その艤装の頑強さ、自分達の対処の早さを見せ付け、数の優位が勝敗の行方を握る訳では無い事を暗に示した。

 

 

◆◇◆

 

【 艤装変化 の件 】

 

? 洛陽付近  洛水 にて ?

 

戦艦棲姫の艤装は、確かに驚異であり警戒を強くせざる得ない。 だが、このまま黙っていても──何も変わらない! 

 

愛宕は、左に北上、右に大井を展開。 真ん中に旗艦である愛宕、扶桑、山城、龍驤、イクと配して戦艦棲姫に対峙。 

 

重巡棲姫に那珂、天津風を当てる。 

 

残りの高雄を遊軍に置き、状況に応じて救援に入るようにと配慮する。

 

ーー

 

愛宕「戦艦棲姫に撃ち込ませちゃ駄目! 三方に展開後、攻撃開始してぇ!」

 

扶桑「了解、扶桑型姉妹──砲撃開始っ!」

 

山城「姉さまに続きますっ! 主砲、てぇーっ!!」

 

ーー

 

戦艦である二隻が、主砲を戦艦棲姫に狙い撃ち込む! 風を切り砲弾が向かうが、戦艦棲姫の顔には焦りなど無い。 16inch三連装砲の艤装に命じれば、艤装が両手を上げ、掌を広げて砲弾を阻む。 

 

掌に衝突した砲弾は、周辺に轟音と少なからずの風圧を残し、本来の役目を果たさぬまま虚しく終わる。

 

ーー

 

北上「………さぁて、アタシの雷撃も受けて貰いましょうかねぇっ……と!」

 

 

大井「北上さんと初の共同作業………砲雷撃戦! 避けたら……思いっきり恨んでやるからっ!」

 

ーー

 

龍驤「………制空権を舐めとったのが運の尽きやな! 大人しく往生せぇ!!」

 

ーー

 

その隙を突いて、北上、大井が魚雷を発射! 左右後方より狙い撃つ! 16inch三連装砲は、直ぐに気が付き対処する為に動き出すが、龍驤が新たに召喚した『九七式艦攻』が、頭上より再度の攻撃を開始した!

 

この戦いを閲覧している提督から御指摘を受けたが、制空権は艦娘側が制圧。 

洛水の上空を思うがまま龍驤の艦載機が飛び交い、戦艦棲姫達に攻撃を仕掛けている。 戦艦棲姫にも偵察機が搭載されているのに………何故か使用せずに……だ。 制空権は大事、もちろん知っている。

 

──何か考えがあるのか。

 

──それとも制空権を無視して、戦いを挑んでいるのか。 

 

戦艦棲姫側の考えは分からない。

 

ーー

 

重巡棲姫「チョコマカト…………邪魔ダァ!」

 

天津風「煩いわね! アンタが遅いから悪いのよ! あたしの動きは、疾き事───え、えーと……何って言えば……」

 

那珂「───疾き事、島風の如しぃ───だよっ! きゃはっ☆」

 

天津風「そ、そうよ! 疾き事、島風の如………って、違うじゃないっ!? なんでぇ島風なんかが出て来るのよっ!!」

 

重巡棲姫「……………風鈴……花壇………?」

 

天津風「深海棲艦にしては、よく知ってる──えっ!? な、何よ、それっ!? 違うのに………少し気になっちゃうじゃないっっっ!!」

 

ーー

 

少し離れた場所で、重巡棲姫も天津風達に足止め(?)を食わされ、救援に駆けつけられない。

 

左右から九七式艦攻による航空魚雷、前面より戦艦の集中砲撃、斜め後方より北上、大井の魚雷と戦艦棲姫に迫る! 

 

これなら、良くて轟沈、悪くても中破になると踏んでいたのたが──

 

ーー

 

戦艦棲姫「…………無駄……無駄………無駄ァァァ!」

 

16inch三連装砲「────グワァッ!!」

 

ーー

 

戦艦棲姫が直ぐに16inch三連装砲の懐に潜りこみと、16inch三連装砲が身体を直ぐさま前面に押し出し、覆い被さり亀のように固まる。 身体全体の筋肉が一回り大きくなり、強固な要塞として艦娘達の攻撃を受け止めた。

 

 

───★☆★!!!

──★☆!!

────★☆★!!

 

少し間をおいて、爆ぜる轟音! 立ち昇る水柱! 

 

川岸に植えられる多数の柳の木が、風圧で激しく揺れ動き、水面下で活動していた魚が何十匹も浮かび上がる。 爆発の周りが赤と白、白と黒の色彩に目まぐるしく変わった。 

 

立ち昇る爆発の煙が収まれば、そのままの状態で16inch三連装砲が踞る。

 

艦娘達が総攻撃した訳では無い。 それでも八割に近い攻撃で放った物が、こうも簡単に阻まれるとは、思いも知らず。 如何なる攻撃も無様に散らされ、改めて16inch三連装砲の防御力を見せ付けられる事になった。

 

ーー

 

扶桑「ぜ、全弾命中! ───だけど、損害確認出来ず!」

 

山城「………………本当に欲しくなったわ……あの悪運……」

 

愛宕「みんなぁ! 敵艦からの攻撃が来るわ! 急いで転舵の準備!」

 

ーー

 

高雄「提督………御無事で………!!」

 

ーー

 

北上「………うひー、あんな奴どうやって轟沈させるのかねぇー?」

 

 

大井「…………北上さんを狙うなら………許さない………」

 

ーー

 

龍驤「…………ウチらの攻撃が……通じへん! まさか、制空権を放棄したんの、あんのごっつい艤装の護りを信頼してるんかぁ!?」

 

イク「ふふふっ、困難なら……逆に燃えるのねぇ!」

 

ーー

 

高笑いする戦艦棲姫の声が洛水の川岸に響き渡り、艦娘達は予想以上の強固さに目を見張る。 無論、戦艦棲姫、16inch三連装砲も無傷だ。

 

艦娘達の気勢が下がるに対し、戦艦棲姫は上機嫌になり、ほとばしる笑顔が浮かべる。 自分の新たな力に酔いしれているのか、あの頃と同じ命のやり取りに興奮しているのか分からない。

 

ーー

 

戦艦棲姫「クーッカッカッカッカッ!! 素晴ラシイ………! 素晴ラシイゾォ!! コノ……チカラガ……身体ニ満チル……チカラガ……アレバッ! 貴様等ニ………更ナル……煉獄ヲ……見セテヤレル!!」

 

愛宕「………………くっ!」

 

戦艦棲姫「……次ノターン……私ノ攻撃ダナ? クククッ………受ケテミルガイイ………!! 私ガ……目覚メサセタ………コノチカラ………ヲ!!」

 

16inch三連装砲「───ガッ! アガガガ……ガガッ! ガハッ!!」

 

ーー

 

戦艦棲姫が、後ろを振り向き16inch三連装砲に命じると、艤装が苦しみ出して頭を抱える! だが、その意味も直ぐに理解できた!

 

16inch三連装砲の首が盛り上がり、急激に膨らむ! 始めは拳大、それからサッカーボール大、更に膨らみ………16inch三連装砲の首と同じ大きさになったとき、亀裂が入り───その亀裂から歯と舌が見えて、雄叫びを上げる!

 

ーー

 

16inch三連装砲B「ガアアアアアアァァァァッ!!」

 

ーー

 

愛宕「──────!?」

 

高雄「艤装の首が………もう一つ増えたぁ!?」

 

ーー

 

龍驤「なんやぁ、あの化け物はっ!!」

 

ーー

 

北上「わあー、これ以上強くなって、どうすんのかねぇ?」 

 

大井「北上さぁぁぁん!!!」ドドドドドッ!

 

北上「──って……大井っち、こっち来てぇどうしたの? 任務は──」

 

大井「き、北上さん! 轟沈するんだったら──北上さんの傍でぇ!」 

 

北上「えーと、助けてに来てくれるのは……嬉しいんだけどさぁ………」

 

大井「もう、北上さんたら……二人で誓ったでしょ? 私達は進水した日は違えども、 轟沈するときは同じ日同じ時を願うって!」

 

北上「そんな誓い………大井っちと? う〜ん???」

 

ーー

 

16inch三連装砲の首が二つに別れ、戦艦棲姫が嬉しそうに艤装の顎を撫でた。

 

ただでさえ固い身体を誇る艤装が、攻撃力を倍加させて艦娘達に牙を剥く! これは、正に悪夢としか………言い様が無い。

 

ーー

 

戦艦棲姫「コレナラ……嫌デモ………私ノ……恐ロシサ……ヲ……伴イ………伝ワルダロウ………! 惨ケレバ………惨イ程ニ……ナ………!!」

 

「「「「「 ─────!? 」」」」」

 

戦艦棲姫「貴様等ハ……霧島ヘノ……メッセンジャー……トシテ………轟沈シロ!」

 

ーー

 

『双頭の16inch三連装砲』───ただでさえ驚異の艤装なのに、それを上回る艤装に変化させた戦艦棲姫。 

 

更なる脅威に戦慄が走る艦娘達。

 

その様子を満足そうに笑みを浮かべ、戦艦棲姫は双頭の艤装に次の命令を指示する! 悪夢を現実に変える為に───! 

 

戦艦棲姫「砲撃ヲ……開始! 艦娘ハ勿論……洛陽モ破壊セヨッ!!」

 

 

 

◆◇◆

 

【 洛陽への砲撃 の件 】

 

? 洛陽付近  洛水 にて ?

 

16inch三連装砲が戦艦棲姫に命令に応え、行動を開始。

 

因みに16inch三連装砲Aは、最初からの首になり前面から見ると右、16inch三連装砲Bは、新しく生えてきた首であり、前面から見ると左である。

 

ーー

 

16inch三連装砲A「ガアァァァァ!」

 

16inch三連装砲B「ゴワァァァァ!」

 

ーー

 

双頭の16inch三連装砲が放つ砲弾は、艦娘側中央を狙う! 勿論そこには──最大戦力を誇る扶桑型戦艦や旗艦が居る!! 

 

ーー

 

扶桑「山城、逃げてぇぇぇ───キャアアアアッ!!」

 

山城「姉さまぁぁぁ───あっ! キャアァァァ!!」

 

ーー

 

放たれた砲撃は、愛宕達より少し離れて、後方で停止していた扶桑型姉妹に落ちる。 待避行動を早めに入っていたので、直撃こそ避けられたが、二発も附近で爆発されて、二隻とも風圧で吹き飛ばされた!

 

艦娘達も攻撃が来れば、直ぐに避ける準備をしていたが、相手の行動が予想外過ぎて対処が遅れてしまった、左右両方に撃ち込まれた為、互いに庇いあった結果という理由がある。 

 

逆に言えば、敵の策略に掛かったようなものだ。

 

近くに居た龍驤が駆けつけると、二隻の艤装は損壊が酷い。 砲塔が飴のように曲がり、艤装に幾つかの破損と大小の穴が開く。 そして、着ていた着衣にもボロボロになり、色々な所が露出している。

 

ーー

 

龍驤「──扶桑、山城っ! いけるかいなぁ? しっかりせ──!?」

 

山城「…………ふ、不幸………だわ……」

 

扶桑「こ、こんな姿じゃ……参戦は無理ね……」

 

龍驤「……………………グハッ!」バタッ

 

ーー

 

龍驤は、精神的損壊を受け………(精神的に)中破した。

 

 

★☆☆

 

 

愛宕「幾ら何でも…………反則よぉ! だけど、諦めるつもりは無いわぁ!」

 

高雄「今は少しでも──敵艦を叩いてぇ!!」

 

ーー

 

北上「………仕方ないねー、雷撃戦準備してぇ!」

 

大井「き、北上さん………?」 

 

北上「あたしだって………大井っちにカッコいいとこ、見せたいからねぇ。 大井っちは、あたしの後ろで……最後の奮戦をさぁ? 見物してくれれば……」

 

大井「い、嫌ぁ! 幾ら北上さんの言葉でも……それは断りますっ!」

 

北上「…………お、大井っち?」

 

大井「私も………北上さんの横で雷撃戦を行ないます! 二人で共に!!」

 

北上「……………は、はははっ。 そうだねぇ……大井っちと組めば最強……だよねー! うん…………頼むよ、大井っち!」

 

大井「…………はいっ!!」

 

ーー

 

愛宕達は、自分達の全力を持ち……戦艦棲姫に挑む。 

 

敵艦の轟沈は正直──無理。 ならば大破を……いや、大破も無理なら………少しでも破損箇所を増やし、最悪の洛陽攻撃を阻止しなければ………そう考えて砲撃、雷撃を与える!!

 

しかし、双頭の16inch三連装砲が放つ砲撃は、愛宕達に的確な場所を狙わせず

被害を軽微に抑え、逆に艦娘達の損害ばかりを増やさしていく。 

 

16inch三連装砲にも死角無し! 愛宕達の艤装も損害が目立ち、砲弾の残数や燃料も少ない。 それに比べ16inch三連装砲には、ありありと余裕が窺える。

 

天津風達も救援に駆けつけたかったが、今度は逆に重巡棲姫が引き離さない。

 

こちらも、双方に決定打を与えられず、膠着状態になっている。

 

ーー

 

天津風「な、何なのよ………あれって………」

 

那珂「す、凄い………」

 

重巡棲姫「…………コレデ………貴様等………全滅………」

 

那珂「あ、あんな……パフォーマンスを仕掛けられるなんてぇ! これは、那珂ちゃんへの挑戦? ううん、成功すれば……センターどころか、アイドル不動の座まで明け渡す事になるかもっ!? 戦艦棲姫………なんて恐ろしい子!」

 

天津風「アンタの驚く箇所は、どうしてぇそこなのよぉぉぉっ!?」

 

ーー

 

艦娘達の踏ん張りも空しく、艤装の損壊、燃料、砲弾の減少、疲労困憊。 これ以上の戦闘継続も無理だと思われる時、戦艦棲姫が更なる動きを開始した。

 

愛宕達が大破に近い状態だと覚った戦艦棲姫は、16inch三連装砲に最悪の事態を命じる。 愛宕や高雄が恐れていた事を!

 

ーー

 

戦艦棲姫「モウ………イイダロウ。 観客ガ……居ナケレバ……張リ合イモ無イ。 艦娘達ハ……警戒ト威嚇ダケ行エ……」

 

16inch三連装砲A「………」コクリ

 

戦艦棲姫「クククッ……待タセナ……? 今カラ……命ジヨウ………アノ洛陽ヘノ………砲撃準備ヲ!」

 

16inch三連装砲B「───コォォッ!!」

 

ーー

 

戦艦棲姫が行う事。 

 

それは………洛陽への砲撃! 

 

先程は威嚇だけかと思えたのだが、実際に行動へ移そうと準備を始める!

 

ーー

 

戦艦棲姫「………『アノ時』ト同ジヨウニ……阿鼻叫喚ノ坩堝ヘ……追イ込モウ! 日ノ本ノ………『カマイシ』………『ハママツ』………ノ如ク………!!」

 

ーー

 

そう、冷たい笑みを見せながら、艦娘達に語るのであった。

 

 

◆◇◆

 

【 強さへの決意 の件 】

 

? 洛陽付近  洛水 にて ?

 

その時、戦艦棲姫に問い掛ける艦娘が居た。

 

疲労やら損壊で弱々しい動きだったが、戦艦棲姫の話が耳に入ると豹変。 普段の態度とは明らかに違い、殺気を込めた目付きで戦艦棲姫を睨む。 

 

顔も若干赤いが、言葉は努めて冷静でハッキリと響き渡る声で問い質す。

 

ーー

 

??「…………今の言葉、聞捨てならない……ねぇ。 もしかして、釜石に艦砲射撃を食らわしたのって……アンタなの?」

 

戦艦棲姫「ダッタラ………ドウスルノダ? 今デモ……鮮ヤカニ……再生デキル。 砲撃デ……破壊サレ……粉砕サレル建物! 蟻ノヨウニ……逃ゲ惑ウ……人間ヲ眺メ……ソノ先ヲ狙イ……退路ヲ断ッタ絶望シタ顔ヲ。 愉快……愉快……」

 

??「……………ふーん、そうかい。 あたしはねぇ、生まれは佐世保だけど、名前は東北の北上川から命名されたんだよ。 だから………アンタを轟沈させる……釜石の恨みを少しでも晴らす。 これは北上さまの役目なんだよねぇ」

 

ーー

 

その艦娘は───『球磨型 3番艦 軽巡洋艦 北上』だった。

 

傍らには、北上の腕を掴み横に寄り添う……大井の姿も!

 

ーー

 

戦艦棲姫「面白イ事ヲ……コノ状況デ……勝テルトデモ………」

 

北上「まあ……今は無理しょ。 だけど、覚えて置きなよ。 アタシを轟沈しないで、このままにしておくと……次に出会った時、アンタを……ギッタギッタに殺られるまで、力を付けて強くなってるんだからねぇ!」

 

戦艦棲姫「…………ホウ………?」

 

大井「北上さんだけじゃないわ。 私……『大井』も……そうよ! 命名地は、浜松市の隣合せの川なんですから! 北上さんと同じような立場であるけど、それ以上に……アンタの態度が気に食わないのよぉ!!」

 

北上「アタシ達は、今こそ貧弱な艦だけどさぁ……近代化改修を繰り返せば、必ずお前を凌駕できる力を得られる。 そんときになったら、覚悟しな!!」

 

ーー

 

戦艦棲姫は、北上と大井の口上を楽しげに聞くと………ひと言返す。

 

その言葉に北上が、些か逆上し、大井が止めに入る!

 

ーー

 

戦艦棲姫「『聞コエテイタラ……君ノ生マレノ……不幸ヲ……呪ウガイイ』」

 

北上「何を………ほざいていやがるっ!?」

 

大井「北上さん、近付き過ぎては──!!」

 

戦艦棲姫「ソンナ……些細ナ事デ……再ビ授カリシ命ヲ……捨テルカ………。 私ノ復讐ノ前デハ………ツマラヌ……寸劇ニ過ギン。 イイダロウ……洛陽ヘノ砲撃ガ……終リシ時ニ……再度ホザケ。 ソレナラ……聞キ届ケヨウ………」

 

北上「……………」ギュッ

 

戦艦棲姫「私ノ復讐デ………培ワレタ……コノ……チカラ。 ソノ眼(まなこ)ヲ見開キ……見定メテカラ………戯言ヲ告ゲヨ!」

 

ーー

 

戦艦棲姫は、北上達を一瞥して、16inch三連装砲Bに命じる!

 

ーー

 

戦艦棲姫「サア……今度モ聴カセテ……クレ! 破壊ト殺戮ノ……ハーモニーヲ! 洛陽ニ……私ノ果タス……復讐ノ刃ノ傷痕ヲ……残セェェェェ!!」

 

愛宕「───や、止めてぇ! 私はどうなってもいいからぁ! 提督やみんなを助けてぇ!!」

 

高雄「………誰かぁ! 誰かぁ……止めさせてぇ! 止めさせてぇぇぇ!!」

 

ーー

 

命じらた艤装は……軽く頷くと、洛陽に角度と方角を向き直し………砲撃を開始! 戦艦棲姫は歪に嗤い、愛宕と高雄は泣き叫ぶ!

 

無論、他の艦娘達も手の打ちようがなかった。 戦艦棲姫の防御力、攻撃力は他の深海棲艦と比では無い。 あまりにも桁外れ。

 

扶桑、山城も大破に近く艤装はボロボロ、足も膝まで着いている。 

 

北上、大井も復讐の念を抱き強くなると宣言したものの、戦艦棲姫が見逃した訳ではない。 自分と同じ、復讐心で強くなると聞いて、一時的に気に入られたという事だろう。 おかしな真似をすれば、すぐに轟沈させるに違いない。

 

那加と天津風は、重巡棲姫と何か言い合いをしている。

 

龍驤は様子を窺い、イクと話をしている。 その内容は………不明だ。

 

援軍である磯風達は、軽巡棲姫を相手に戦闘中か未だに到着しない。

 

即ち───何も出来る事は無かった。 黙って洛陽が崩壊する様を見ているしか無かったのだ!

 

ーー

 

戦艦棲姫「洛陽ノ変ワリザマ………トクト……見ロッ! ───ヤレッ!」

 

16inch三連装砲B「───ゴガアァァァッ!!」

 

ーー

 

戦艦棲姫の無情なる合図により、砲撃は無情にも洛陽の上空へと飛翔する! 

 

誰もが、洛陽に壊滅的被害に───陥ると信じていた───!!

 

 

◆◇◆

 

【 ───? の件 】

 

? 洛陽付近  洛水 にて ?

 

───その時、別の方角から奇声が上がり、砲弾に向かう者が一人! 川岸に側で繁る森の中より飛び上がり、跳躍して砲弾へ取り付いた!

 

 

??「ぶうるぅわぁぁぁぁ───!!」

 

 

 

ーー

 

戦艦棲姫「…………ムッ? 何奴───ハッ!?」

 

ーー

 

愛宕「あ、あれは……………」

 

高雄「え、えーと───」

 

ーー

 

突然、野太い声が響き渡り……謎の怪人物が砲弾に張り付く。

 

戦艦棲姫が興味深げに眺めるが──何かに気づき動きが止まった!

 

愛宕と高雄も薄々正体は判る。 だが、違和感を感じたのは、頭に浮かぶ人物と今の人物とに大きく乖離(かいり)していたからだ。

 

それは、遠目でも分かる『巫女服風』の衣装。 

 

『何故、こんな時に面倒な事を持って来たのだろう』──二隻は思うのだが、実力的には頼れる人には間違いない。 今は、仲間を救う力を持つ者が参戦した事を、素直に喜ぶべきだろう。

 

本来なら、洛陽は破壊され──愛しき男も信頼し合った仲間達も失う筈だったのだ。 そう考え、静かに見守る事にした。

 

ーー

 

??「霧島流数え貫手! ゴー、シィー、サン、ツー、ワン! ………あらぁ〜ん、意外と固くて黒光りして、なかなか魅惑的ぃ。 折角、中身の信管外そうと思ったけど、駄目だわぁん! それじゃ……方向だけでもぉっ!!」

 

ーー

 

その人影は、砲弾に張り付くと……腰で構えていた貫手を、砲弾へ数えながら突き込んでいく! 最初は普通の五指で、それから指の数を四本、三本、ニ本と減らして行き、一本貫手で貫こうとするが……途中で遮られたようだ。

 

だが、貫手で破壊できないらしく直ぐに諦め、両手を砲弾の一番固いところに添えると、闘気を高めて技を砲弾にぶちこんだ!

 

ーー

 

??「んもう、特別よぉん───外史暗殺拳奥義『北斗一点鐘』!!」

 

ーー

 

────★☆♪

 

───極大な金属衝突音が───空に響いた!

 

轟音と共に砲弾が、軌道を洛陽より遠く逸れた場所に移動した。 勿論、件の人物も、軌道が外れた瞬間に数十b下に音も無く着陸。 直ぐに立ち上り、機敏な動きで、服に付いた埃を払い、此方に向かい歩み寄る。

 

そして、少し後に背後では先程の砲弾が着弾。 かなり離れた場所なのだが、激しい爆発の火炎、その爆発音の反響が洛水でも確認できた。 その威力に青ざめながら洛陽が無事だった事に、艦娘達は一様に安堵の表情を浮かべる。 

 

───しかし──

 

ーー

 

??「良かったわぁん! 急いで駆け付けたから……何とか間に合ったわぁ」

 

「「「「「「 ……………………… 」」」」」」

 

ーー

 

だが、砲弾を排除した者を改めて確認し、艦娘達は囁き合う。

 

『今度のコスプレは、誰にしたんだ?』…………と。

 

 

 

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あとがき

 

最期まで読んでいただき、ありがとうございます!

 

今回……書きたかった事が一つあり、それが釜石と浜松に向けられた艦砲射撃の事でした。 どちらもサウスダコタの関係してましたし、二回続けて空襲や艦砲射撃を受けていると聞いておりました。

 

そのため、『そのような事実があったんだよ』……みたいな事を物語に入れてみた次第です。 戦争の記憶として覚えていただければと。

 

そんな理由もあり、少し長めで笑いを取ろうと必死になってる小説ですが、こんな真面目な理由も含まれています。 

 

また、よろしければ………お付き合いのほどを。

 

説明
戦いの続きです。
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コメント
雪風提督 コメントありがとうございます! ついでに言えば……魅力は測定不能? 巫女衣装もそうですが実は眼鏡も掛けているんです。 これで浮かぶのは…… (いた)
??の数値をコーエー風に表すなら、統率:95・武:95・知:95・政:90のほぼ万能かな。なぜ今回は巫女衣装?(雪風)
天龍焔提督 コメントありがとうございます! 金剛型に艤装した何かですよ。 あの人が出ると、ほぼ笑いにしかなりませんが。(いた)
miri提督 初コメントありがとうございます! とうとう米艦娘が実装ですね。サウスの実装も夢で無いかも。 実装されましたら是非かわいがってほしいですね。いろんな意味で。 (いた)
アイオワも春イベで来るようですし、早くサウスダコタも来ませんかね〜。東北出身の自分としては霧島と一緒にお礼参りしたい相手ですし(miri)
スネーク提督 コメントありがとうございます! シリアスをやろうとする度に、コッチに向かいたくなります。(いた)
あっ、コメディ回の予感…(スネーク)
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真・恋姫†無双 艦隊これくしょん 

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