ゼロの使い魔 AOS 第41話 憧れと相反と
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 早朝のトリスタニア。

 

 才人は自宅であり事務所でもある家の台所で朝食の準備をしていた。

 

 同居人のロングヒルとエレオノールはまだ自分の部屋で寝ている最中である。

 

 作るのは3人前の食事とお昼ご飯のぶんのお弁当だ。

 

 才人が暮らしていた日本とは違いここには電子レンジもガスコンロ無いので暖かいものを作る時は早起きしないと朝食の時間に間に合わない。

 

 最初の頃は非常に不便に感じたものだが2ヶ月近くこっちで暮らしているうちに特に不便とも思わなくなっていた。

 

 才人は毎日これを繰り返している。

 

 (母さん…残したり食べなかったりしてごめんな…そして、ありがとう。 俺、がんばるから)

 

 だれしも幼い頃に母に毎日ご飯を作ってもらった事を感謝する日が来るものだが、彼がこの感謝を感じたのは同年代よりは比較的早いのだろう。

 

 今日もどこかでお母さんたちが家族のために朝食を作っている。

 

 そんなトリステインの朝の風景でこの街の1日は始まるのであった。

 

 

 

 「う〜……サイト……おはよう」

 

 平賀家で2番手に起きてきたのはエレオノール。

 

 だいたいが、才人→エレオノール→ロングヒルの順番で起床するので今日もいつも通りだ。

 

 「おはよう、エレオノール。調子悪そうだな」

 

 「……頭痛い」

 

 そう言って、非常に重そうな足取りで洗面所のほうに向かうエレオノール。

 

 「大丈夫か? 昨日はだいぶお酒が入ってたみたいだったけど」

 

 昨晩は大変だった。才人はベロンベロンに酔っ払っているエレオノールを介抱してなんとか寝付かせたのだが暴走したエレオノールに大苦戦を強いられたのだ。

 

 「ううっ…醜態だわ。 まさかあんな……サイト、その…昨日の事覚えてる?」

 

 エレオノールは何かを思い出したようで才人に昨日の事とやらを尋ねるのだが。

 

 「お風呂沸いてるよ。 入ってきちゃいなよ。 昨日入ってないだろ」

 

 「えっ?…あっ……そうね、じゃあいただくわ」

 

 「朝ごはんが用意できるまだ時間があるからゆっくり入ってきてよ」

 

 昨日の事には触れずにお風呂に入ってくるように促す。

 

 エレオノールはどうやら昨晩の記憶があるらしい。アレは完全に黒歴史だった……おたがい無かった事にするのが吉だろう。

 

 聞こえないふりをしつつ他の話題を振って華麗にスルー。

 

 黙々と朝食とお弁当作りに精を出すのであった。

 

 「おはよう〜…ふああ〜…眠っむ〜…」

 

 「あ、姉さんおはよう。もうご飯出来てるから」

 

 エレオノールが起きてから1時間ぐらいだろうか。この家1番のお寝坊さんがようやく起きてきた。

 

 さきほどのエレオノールもそうなのだが、ロングヒルも寝起きはボサボサの髪とノーメイク、そして下着姿で家の中を闊歩する事が多い。

 

 いい意味でも悪い意味でも所帯じみてるお姉ちゃんズ、もうこの2人にはドキドキもムラムラは微塵も無い。これが家族って事か……。

 

 「あふぅ…サイトは朝から元気ね。コーヒー貰える?」

 

 「オッケー!」

 

 注文をしながら食卓に付くロングヒル、隣にはいまだに重そうな表情でパンをかじっているエレオノールがいた。

 

 「……ん? エレオノール、まだ酒が抜けてないのかい?」

 

 「ええ……頭がガンガンするわ。完全に2日酔いね……ううっ」

 

 「ああ、やっぱりね」

 

 「姉さん、お待たせ!」

 

 才人が元気いっぱいにコーヒーを運んでくる。そこで2人の会話は終わった。

 

 各々、朝食を済ませて出かける仕度に取り掛かる。さあ、今日も仕事だ。

 

 ロングヒルとエレオノールは自室に戻って身だしなみを整え、才人は台所で洗い物を片つける。

 

 いつも通りの世話しない朝の光景、今日も仕事の1日が始まる。

 

 ただし、今日はいつもより出かける時間が少し早かった。

 

 

 

 トリステインの街から少し離れた所に新都建設予定地がある。

 

 今日は才人、ロングヒル、エレオノールの3人が勢ぞろい。いつもなら才人とロングヒルの2人だけかロングヒル1人だけなのだが今日は違った。

 

 いや、正確に言えば3人では無い。才人たちのほかに土木関係の労働者が50人ほど集まっていた。

 

 そう、今日からロングヒルの魔法だけではなく人の手を入れての作業が始まる。

 

 今日はその初日、その下準備もあっていつもより1時間ほど早めに現場に入ったのだった。

 

 「おお……こんなに人がいるなんて。やっとこっちにも人手が集まったか」

 

 「私としては取り分が少なくなるから、あんまり人を増やされるのもイヤなんだけどね」

 

 「いや、いや…ここからは人の手が無いと無理だからさ。家を建てたり、用水路とかを設置したりとかさ」

 

 「そいつはわかってるんだけどね〜…こいつらに流れるお金がね……ああ、もったいない!」

 

 ロングヒルは才人が提案した魔法工事で本来なら月単位かかる地ならしや道路の設置作業をわずか1週間で終えたのだ。

 

 その報酬として5000エキューを得る事となり、わずか1週間にしてお金持ちになったロングヒルだったが彼女の金欲はまだまだ止まらないらしい。

 

 「魔法で家とかをボンッて出せるんだったらね……魔法も万能じゃないんだな」

 

 このハルケギニアには魔法という人知を超えた力がある、ただしカボチャを馬とセットの馬車に変えるようなファンタジックなものでは無いらしい。

 

 家と言うのは木材や石材などを組み合わせて、なおかつ生活機能を発揮出来るように器具を色々と設置しなければならない。

 

 ロングヒルとエレオノールは石や木材などを土魔法で作り出す事は出来るのだが、あくまで単品でしか作り出せない。

 

 残念だがここらへんがこの世界の魔法の限界らしい。

 

 1回だけ魔法で家を建てるのにチャレンジしてみたのだが、半日以上の時間を費やして物凄く不安定な1軒家を作るのが精一杯だった。

 

 「サイト……たしか、まだまだ魔法を使ってお金を稼げる場面があるからって言ってなかったかい?」

 

 「石材とか木材とか鉄とか色々必要だからさ、姉さんの魔法は使える場面だらけじゃん」

 

 「そうじゃ無くって、一気に100人分ぐらいの仕事をあたしの魔法でパーとこなせるようなやつで…」

 

 ちなみに今日からはロングヒル他の労働者と同じ日給1エキューである。

 

 前回の100人分の3カ月で9000エキューを貰える所を才人の説得で5000エキューにするという条件を飲んだロングヒルとしては不満タラタラなのも無理は無い。

 

 「う〜ん…それは工事の進行状況を見ながら考えてみるから、もしかしたら何か出来る事があるかもしれないし…」

 

 「本当に?信じていいんだね」

 

 「おう!まかせてくれよ!」

 

 根拠のない自信に満ちた返事をする才人だった。

 

 

 

 そして、作業開始の時間が始まり工事にみんなで工事に取り掛かった。

 

 基本的な事は才人がいままで働いていた大工仕事と変わりない。区画ごとに1軒1軒家を建てていくだけだ。

 

 今日、集めた人たちはほぼ全員が大工で仕事をする上での大まかな意思の疎通も問題は無かった。

 

 そしてこれが才人の初監督となった。2カ月前は大工の見習いだったのがいわいる親方の様な仕事をしているのだから人生というものは何があるか解らないものである。

 

 「ん……このペースだと1週間で5軒って所か……もう少し速度を上げたいよな」

 

 作業の進行状況を見ながら完成までの時間を計算する。

 

 本来なら完成まで3年かかる予定だったがロングヒルの魔法工事を取り入れたおかげでだいぶ早くはなりそうだった。

 

 実際に建設に必要な材料などをロングヒルがその場に用意した土で作ってくれるので通常よりも無駄な時間がかからない。

 

 それでも、まだ何か魔法を有効活用出来そうな気はするのだ。

 

 才人は現場を駆け回りながら、必死にその方法を考えていた。

 

 各々が目まぐるしい作業をこなしようやく、一段落してお昼になる。

 

 「つっ…疲れた…こんなに連続で魔法を使うなんて……もうヘトヘトなんだけど……」

 

 「私も……魔法を使って息切れするなんて思わなかったわ……昨日のお酒なんて全部流れちゃたわ……」

 

 「ははっ、姉さんもエレオノールもお疲れさま」

 

 そう言って、ぐったりしているお姉ちゃんたちにお茶を差し入れる才人。

 

 「ったく……サイトは全然疲れてないんだね。 ゴクゴク……ふぅ〜…生き返った」

 

 「いや〜、一応、これが俺の本業なんでね」

 

 へばっているお姉ちゃんズとは対照的にピンピンしている才人、さすがは伝説の大工と謳われるだけの事はある。

 

 「ああ……地ならしするだけならゴーレムを1体作るだけで後は楽だったのに……あの頃にもどりたいよ」

 

 「へえ、魔法ってそういうものなんだ。 でっかいゴーレムを作るほうがMPを消費するもんだと思ってたんだけどな」

 

 「えむぴぃ?」

 

 「あ、MPっていうのは魔法を使うのに必要な……魔力……体力みたいなものかな」

 

 「魔力って……サイトは魔法が無い世界から来たんじゃないのかい?」

 

 「ああ、俺の世界では魔法は誰も使えないよ。 その……ロープレっていうか、ええっと、空想の世界を舞台にした物語が人気があるんだ」

 

 MPは家庭用ゲーム機のRPG(ロールプレイングゲーム)などで魔法を使う時に消費するポイントで一番有名な単位の事だ。

 

 才人はこう見えても中々のオタクだった。イノセントな小中学校時代はスーファミや64、プレステやサターンなどで育ったゆとり世代だ。

 

 (そういえばこの世界って魔法とかあるくせにモンスターがいないっぽいんだよな。スライムやオークとかいても良さそうな世界観なんだけどな)

 

 「へぇ、空想の世界の物語ね。 そいつは少し興味があるねぇ、サイトはどんな本を読んでいたのかしら?」

 

 ロープレは基本的には本じゃなくって家庭用ゲーム機なのだが……説明するのがめんどくさいのでそこは割愛。

 

 「そうだなぁ……武器や魔法を使ってモンスターたちを倒していって、最後に人類の敵の魔王みたいのを倒して世界を救うみたいなのが売れ筋だったかな」

 

 「こっちの男の子向けの冒険小説とあまり変わらないんだね」

 

 「う〜ん……後はそうだな〜…色んな種族が仲間になったりするやつもあったかな、ドラクエ5とかその走りだったし……」

 

 「こっちではメイジが使い魔を召喚できるから、他の種族を仲間にするなんて話はあんまり無いわね。そこはこっちのとは違いがあるかもね」

 

 ロングヒルの話ではどうやらこちらの世界にも同じようなジャンルの小説はあるらしい、やはり世界が違えども男の子は冒険ものが好きなのは変わりないようだ。

 

 「そういや、こっちで俺以外の使い魔って見た事ないんだけどどんなのがいるんだ。もしかして俺みたいに地球から来たやつとかもいたりすんの?」

 

 「いや、サイトは特別だと思うわよ。 そもそも使い魔って人間じゃないのが普通だしね。 竜とか動物とか虫とかさ……」

 

 「竜って…マジかよ!やっぱりモンスターがいるんだなこの世界」

 

 「才人の世界では竜の事をモンスターって呼ぶの?」

 

 「空想の生き物は大体ね……あっ、それじゃあさ……」

 

 ファンタジーな世界に来てモンスターを見かけなかったことに少しがっかりしていたが、いるとわかってちょっとだけテンションが上がっていた。

 

 だから聞いてみたくなったのかもしれない、ロープレの中で…ファンタジー物の中で男性に絶大な人気を誇るあの娘がいるのかを。

 

 

 

 「……エルフの姫騎士っているのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 ロングヒルは才人の質問を聞いて固まっていた。

 

 (今、エルフって言ったのかい?その後に言った姫騎士というのはよく分からないけど……エルフか……)

 

 「姉さん?どうかした」

 

 「いや……何でもないよ。エルフだったっけ……まあ、いる事はいるよ」

 

 「……マジで?」

 

 「……ああ、それがどうしたんだい?」

 

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 「なっ!?ちょっ…サイト?」

 

 目の前でいきなり雄たけびを上げる弟……予期せぬ反応に戸惑うロングヒル。

 

 「ちょっと!あなたたち、さっきからなにふざけてるのよ!」

 

 先ほどから会話に加わらずにへばっていたエレオノールも才人の奇行にはさすがに反応してしまった。

 

 「いや……サイトが急に叫んでるみたいでね。私にも意味がわからないよ……」

 

 「おおおおおおおぉぉ………ふう……姉さん……ちょっとお聞きしたい事が」

 

 ひとしきり叫んだ後に急に畏まった態度になる才人。そして、真剣な顔つきになりロングヒルに問いかける。

 

 (いったい何なんだいこの子は……すごい真っ直ぐな目で。ちょっと怖いわよ…)

 

 「エルフってお耳がとんがってて、この世のものとは思えないような美しさでレイピアとか装備をしているんですよね?」

 

 「はあっ?エルフって……ちょっとあなたたちさっきから何の話をしてるの!?」

 

 「あ…ええっと…耳はとがっているわね。美形なのが多いとは聞くけど詳しくは知らないね……エルフがレイピアを使うのか?」

 

 「くっ…うひょ……じゃあさ、ディード○ットって名前のエルフっていたりする?」

 

 「さあ……私は知らないね」

 

 「くっ…じゃあさ、セル○アって名前のエルフは?犬とかパンダとかに変身出来たりするんだけど?」

 

 「いや……犬の姿をしたエルフなんて初耳なんだけど」

 

 「マジかよ……いや、でも可愛くて綺麗でナイスバディなエルフが存在するってだけマシか……くっ〜…俺、この世界に来て良かった……ううっ…」

 

 ついに泣き出してしまったよ……マジかこの人?

 

 才人は日本にいた時はオタクだった。

 

 アニメも見るし、漫画も読むし、ゲームも大好きだった。

 

 ルイズにハルケギニアに召喚されてからはオタク趣味をたしなむ事もできず、若いながらも手に職を持ち年上の綺麗なお姉さんたちと同居するというリア充っぷりを発揮している。

 

 しかし、基本的に才人はオタクなのだ。リア充になったとは言え長年培ってきたJapanese cultureの呪いからは逃れられなかった……恐るべし。

 

 「ちょっと!何、サイトの事泣かしているのよ!」

 

 「知るか!私だって意味がわからないわよ!……それよりも、ねえサイト?」

 

 「グス……うっ……何、姉さん?……ひっく……」

 

 「あんたさ……もしかしてエルフに知り合いでもいるのかい?」

 

 「えっ!?エルフに知り合いって……なんでサイトがエルフたちと知り合いになってるのよ!?恐ろしい事言わないでよ!」

 

 「ああ!もううるさいわね。 あんたには後で説明するからちょっと黙ってなさいよ!で、どうなのサイト?」

 

 泣くは喚くはの大パニック。この騒ぎに周りも何だ何だと注目してくる。

 

 だが今はそんなのは後回しだ。才人の答えのほうが気になるしロングヒルとしては重要な事だった。

 

 「知り合いなんていねえよ。 そもそもエルフがいるって姉さんから初めて聞いたんだぜ……くっ…会ってみたいな」

 

 「サイト!バカな事をいわないでちょうだい!ロングヒルあなたもよ…サイトはともかくあなたなら私の言っている意味が分かるわよね?」

 

 「……そうだね。 悪かったわよ、サイト……この話はこれでお終いよ」

 

 ロングヒルはそう言って話を終えた。

 

 このハルニギニアという世界にはまだまだ才人の知らない不文律があるのだろうか?エルフもその不文律の中の1つなのだろうか?

 

 さっきの話から空気が重い。まだ休憩時間はたっぷり残っている中でいつも賑やかな3人はとても静かになっていた。

 

 だが…この沈黙はそう長くは続かなかった。それは…。

 

 

 「サイト!こんな所にいたの!?探したわよ。それと……エレオノール姉さまとミス・ロングヒルも」

 

 

 桃色の髪をした少女が目の前に現れたからだった。

 

 

 

 次回 第42話 誰って始めては怖いし不安なんだよ、勇気を出して頑張るなら応援するから。

 

 

説明
新都計画も順調に進んでいき次のフェイズに
その最中に才人はハルケギニア予期せぬ理を知ることになります
今回はちょっと短いです
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ゼロの使い魔 ゼロ魔 異世界 平賀才人 ルイズ ロングヒル エレオノール エルフ 

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