機動戦士ガンダムSEED Destiny 凍て付く翼
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第21話 ゼロ対フリーダム

 

レーダーに反応する機影に識別コードは認識出来ない。

けれどもメインカメラを通して見るあの機体をシンは見間違える事はなかった。

トリコロールカラーの装甲、背部に背負う翼と大型バーニア。

そして今さっき発射したユニウスセブンを消し飛ばし、陽電子リフレクターを貫ける強力なビーム砲。

あまりの光景に操縦するのも忘れて見とれて居ると、謎の機体から通信が繋がって来た。

シンはゆっくりとコンソールパネルに指を伸ばし、敵か味方かもわからぬ相手と接触を図る。

 

『インパルス、聞こえるな?』

 

「その声!? ヒイロなのか!!」

 

『話をして居る時間はない。目標のモビルアーマーを破壊する。邪魔になる、離れて居ろ』

 

ウイングゼロは上空から再びデストロイに狙いを定め、ツインバスターライフルの銃口をその頭部に向けた。

ツインバスターライフルの出力なら陽電子リフレクターを容易に貫き、強固だったデストロイに大ダメージを与える事も出来る。

それでも一撃で仕留められなかったのはバリアにより射線がズレてしまったから。

幾らヒイロといえども初めての機体や武装には反応や対応が遅れてしまう。

照準を合わせ、第1射の時の誤差も含め再び操縦桿のトリガーに指を掛ける。

だがシンはデストロイを破壊する事を良しとはせず、慌てて通信越しに叫んだ。

 

「待って来れ!! あの機体にはステラが乗せられてるんだ!! 本心じゃない!!」

 

『次に動き始めるまで時間がない。どうするつもりだ?』

 

「ステラは俺が止める!! 俺はただ助けたいだけなんだ!!」

 

シンの言葉は答えになって居ない。

それでもヒイロはその言葉を飲み込み、デストロイをツインバスターライフルの照準から外した。

 

『わかった。モビルアーマーはお前に任せる』

 

「ヒイロ……」

 

『だが余裕がある訳ではない。フリーダムは俺が何とかする』

 

言うと背中のバーニアから青白い炎を噴射してウイングゼロは急降下して行く。

進む先はフリーダム。

ウイングゼロの動きはシンだけでなくネオも捉えて居る。

突然の戦闘介入、けれども初めて見る機体の戦闘能力はあの一撃だけでも充分に把握出来た。

 

「フリーダムの次は……今度はなんだ? ややこしい事ばかり起きやがって!!j

 

操縦桿を握るネオは叫ぶ。

現状を把握出来てない為、インパルス以外の機体は敵として認識するしかない。

フリーダムがデストロイに接近して居る状態でシンは動きにくいと判断し、ペダルを踏み込み背後から加速を掛けて接近する。

左手でビームサーベルを握り、空中で静止するフリーダムに不意打ちを掛けた。

 

「悪く思うなよ!!」

 

「ッ!?」

 

振り下ろされたビームサーベル。

だがキラは卓越した反射神経だけでコレに反応しシールドで防いだ。

 

「そう簡単にはいかしてくれないか。ボウズ、早くしろ!!」

 

「やっぱりこの動きは!!」

 

トリガーを引くキラは頭部バルカンを発射し、ウィンダムのメインカメラをズタズタに破壊する。

レンズが割れ、装甲には穴が開きバラバラになった内部パーツがスパークを起こす。

思う所があったキラは機体を後ろに一回転させる事でウィンダムのビームサーベルが空を斬る。

そして回転が終わりかけの所で加速を掛け、通り過ぎざまにウィンダムの両脚部、膝から先を切断した。

姿勢を制御出来なくなるウィンダムに、キラはダメ押しでバックパックを蹴る。

 

「ぐあああっ!!」

 

損傷したネオのウィンダムは何も出来ず、重力に引かれて落ちてしまう。

衝撃を吸収するモノなどなく、落下による激しい衝撃がコクピットを揺らす。

シートベルトは制服の上から肌に食い込みながらも、ネオがシートの上から投げ出されるのを止めてくれる。

だが手は操縦桿から離れてしまい、意識も失ってしまう。

完全に戦闘不能になったウィンダムを上空から見下ろすキラは、コンソールパネルに指を伸ばしアークエンジェルに繋げる。

 

「マリューさん、ウィンダムの回収を」

 

『それは構わないけれど、今は連合のモビルアーマーを』

 

「わかってます。でも、感じたんです。あの機体のパイロット、もしかしたらムウさんかも」

 

『なんですって!?』

 

「ソレを確かめたいんです。だから回収を」

 

キラの言葉を聞いてマリューは目を大きく開けたまま、思わず固まってしまう。

2年前の大戦、アークエンジェルを守る為に自らを犠牲にしたムウ・ラ・フラガ。

戦闘が終結した後に大破したストライクを回収するもパイロットは乗っておらず、捜索するも広い宇宙でたった1人の人間を見つける事など困難を極め、彼はそのまま戦死扱いにされた。

戦いの中に生きる兵士には常に死が付き纏う。

その事をわかっては居るつもりだったが、マリューは愛した男が死んでしまった事に涙を流した。

そんな彼が生きて居たと聞いて、心の中から感情が溢れ出す。

 

「ムウが……生きて……」

 

「艦長、俺が行こう」

 

「バルトフェルドさん……」

 

「まだ戦闘は終わってない。新型とインパルスの動きも気になる。俺はストライクで出る」

 

言うとバルトフェルドはブリッジから出て行ってしまう。

デストロイは未だ活動を続けており、ベルリンの炎は広がるばかり。

 

///

 

片腕を失いながらも立ち上がるデストロイ。

再び攻撃を始めるステラにシンは懸命に呼びかけて居た。

けれどもステラは泣き叫ぶだけで、シンの声は届かない。

 

「ステラ、俺だ!! シン・アスカだ!!」

 

「うわぁぁぁーーーーー!!」

 

デストロイは胸部の3連装大口径ビーム砲をインパルスに放つが、メインスラスターを吹かし機体を上昇させるシンはこれを避けた。

だが反撃は一切せず、それどころか構えを取ることもなくデストロイに近づいて行く。

ウィンダムを退けたキラはインパルスの正気とは思えない行動に驚く。

「何をしてるんだインパルスは!? 死にたいのか!!」

 

キラはインパルスを守ろうとフリーダムで前に出ようとしたが、目の前から高速で接近する機体にレーダーが反応する。

 

「なに?」

「邪魔はさせない」

右肩からビームサーベルを展開し右手に握ったウイングゼロがフリーダムに襲い掛かる。

自らに攻撃して来た事で相手を敵と認識するキラ。

インパルスとデストロイは気になるがこのままやられるわけにもいかず、ウイングゼロに照準を合わしビームライフルのトリガーを引き、続けて背部のバラエーナを発射した。

正確で素早い攻撃は普通のパイロットなら避ける事は難しい。

ヒイロはペダルを踏み込み大型バーニアの強大な推進力を駆使してフリーダムの攻撃を回避した。

 

「避けた!?」

「今までの戦闘でお前の動きは読んで居る」

「どうして邪魔するんだ!!」

 

「お前は俺の敵だ!!」

 

ウイングゼロは握ったビームサーベルで横一閃、フリーダムはこれをシールドで受け止めた。

ラミネート装甲で作られたシールドは強固で、ビーム攻撃を受けても簡単に壊れる事はない。

それが相手のビームサーベルはジワジワとシールドを溶解させて行く。

 

「そんな!? シールドが!?」

 

普通では考えられないビームサーベルの出力に脅威を感じるキラは、ウイングゼロわき腹に蹴りを居れ距離を離す。

そしてその隙にクスィフィアスレールガンを撃つ。

高速で発射されるレールガンの弾は確かに命中するが、その機体には目立った損傷は見当たらない。

 

「実弾が通らない。フェイズシフト装甲か」

 

「障害は取り除く」

 

「くっ!! どうして、アナタはこのまま街が破壊されても良いんですか?」

 

「敵と話す舌は持たん。俺の前に立ち塞がるなら、お前は敵だ」

 

「今の僕達が戦う理由なんて、どこにもない!!」

 

キラの叫びにヒイロは全く耳を貸さない。

シールドにマウントさせたツインバスターライフルを向けると、躊躇なくトリガーを引いた。

発射される膨大なエネルギー。

フリーダムは翼を広げ必要最小限の動きで機体を上昇させビームを回避する。

右脚部のすぐ傍を通り抜けるビーム。

でもそれは、触れてもないフリーダムの足の装甲を溶かし、耐え切れなくなった右足は小さく爆発した。

陽電子リフレクターを貫いたその威力を知るキラだが、改めてその威力に舌を巻く。

 

「かすめただけで、なんて威力なんだ!?」

 

「戦場で、お前達の存在は無意味だ」

 

「僕はただ、オーブを戦闘に巻き込みたくないだけだ」

 

「だからこんな真似をして居るのか。そんな事では何も変わりはしない」

 

「何も出来ないよりは遥かに良い!!」

 

ビームライフルを腰部にマウントさせたキラはサイドスカートからビームサーベルを引き抜く。

翼を広げ、最大加速で詰め寄るフリーダムはウイングゼロにその切っ先を突き立てる。

ヒイロはシールドでビームサーベルを受け止め、なぎ払い、自らもビームサーベルを振り降ろす。

フリーダムの半壊したシールドで防ぐが2回は持たず、真っ二つに分断されると重力に引かれて行く。

 

「くっ!! でも!!」

 

キラは素早く右手のビームサーベルで袈裟斬り。

ヒイロのウイングゼロのそれに合わせてビームサーベルを振るう。

交じり合う2本のビームは両者を眩い閃光で照らす。

だが、勝ったのはウイングゼロだった。

 

「サーベルのパワーが負けてる!?」

 

ニュートロンジャマーキャンセラーにより実現した核エンジン搭載モビルスーツ。

フリーダムはそのお陰で他の機体とは違い、高出力のビーム兵器を事実上無限に使う事が出来る。

開発されたのは2年前だが、未だに他の追随を許さない。

そのフリーダムが一方的に負けた。

ウイングゼロのビームサーベルは、フリーダムのビームサーベルを物ともせずに、左肘から先を切断してしまう。

 

(負ける……このままじゃ、負ける!!)

 

あまりの性能の差にキラは意識を集中させ本気を出す。

プロヴィデンスとの戦い以来、キラは全力を出してウイングゼロと対峙する。

 

「強い、確かにアナタは強い。でも僕にも、譲れないモノがある!!」

 

「ヤツの動きが変わった」

 

「みんなの想いを守る為に、僕は戦う!!」

 

覚醒するキラは残された手にビームサーベルを握らせ再び接近戦を挑む。

一瞬で間合いを詰めるフリーダムは左腕を振り上げ袈裟斬りを繰り出す。

またもシールドに止められてしまうが、ウイングゼロが反撃に移るよりも早くに次の動作に入る。

機体をバレルロールさせ上を取るとバラエーナを展開し、至近距離から頭部に撃ち込んだ。

発射される高出力プラズマビーム、だがその先にウイングゼロは居ない。

 

「僕の反応速度に付いて来る!? でも!!」

 

「ゼロの予測よりも動きが早い。だが!!」

 

ウイングゼロはビームサーベルを振り上げるとフリーダムのバラエーナの右門を切断した。

だがフリーダム本体にはダメージは通ってない。

姿勢を瞬時に戻すフリーダムは左脚部で相手の胸部を蹴った。

 

「グッ!!」

 

態勢を崩すウイングゼロ、コクピットに伝わる衝撃にヒイロは歯を食いしばる。

ヒイロはツインバスターライフルの銃口を向けるが、まだ街で暴れて居るデストロイが放つビームの内の1射が飛んで来てしまう。

スラスター制御で機体の位置を移動させビームを避けるが、視界からフリーダムの姿が消えて居た。

 

「今だ!! 当たれぇぇぇ!!」

 

背後に回り込むフリーダムはウイングゼロの背後からハイマットフルバーストを繰り出した。

ヒイロでも避ける事は出来ず、フリーダムの攻撃を直撃してしまう。

巨大な爆発が機体を襲い、ウイングゼロは重力に引かれて落ちて行く。

それでも、ハイマットフルバーストの直撃を受けても尚、その装甲は原型を保って居た。

 

「なんて装甲だ、ダメージが通ってないのか? でも今は!!」

 

翼を広げ、フリーダムはデストロイを止めるべく飛ぶ。

一方のヒイロのウイングゼロは破壊された建造物の瓦礫に上に横たわって居た。

ガンダニュウム合金はまだ破壊されていない。

ヒイロは地上から飛び立つフリーダムの姿を見上げて居た。

 

「任務失敗か……ゼロの予測では、あの女に未来はない」

 

ゼロシステムが見せる未来には、デストロイのコクピットにビームサーベルを突き刺すフリーダムの姿が見えた。

 

///

 

「ステラ、キミは戦っちゃいけない!!」

 

「うるさァァァイ!!」

 

シンの説得も虚しく、デストロイは町を焼き払う。

それでもヒイロがフリーダムを食い止めて居る間だけはと、懸命に声を出し続ける。

 

「ステラ、止めるんだ!!」

 

「うわあああぁぁぁっ!!」

 

「僕だ、シン・アスカだ!! キミを守るて約束したろ!!」

 

シンの『守る』と言う言葉にステラはわずかに記憶が蘇り操縦桿を握る手の力が弱まる。

わずかな時間ではあるが時を共に過ごした事、約束を交わした事。

 

「シン? マモル……」

 

「そうだよ、約束した!! キミは俺が守る!!」

 

「ヤクソク……」

 

今まで猛威を振るって居たデストロイの攻撃が止まった。

その間は、ベルリンの街にわずかばかり静寂が戻って来る。

 

(意識が戻りかけてる!! もう少し……もう少しで!!)

 

インパルスはデストロイのコクピットのすぐ傍にまでゆっくり近寄る。

シンはステラを救うためコクピットのハッチを開放し、ヘルメットを脱ぎタラップに足を掛けると更に呼び掛けた。

灰に汚れた冬の風がシンの髪の毛を揺らす。

 

「そうだよ、キミを守るって約束した」

 

「約束……星……流れ星さん……」

 

「ステラ、一緒に行こう。一緒にまた星を見よう!!」

 

「シン!! 逃げて!!」

 

遂に記憶が蘇ったステラ。

だがウイングゼロを退けたフリーダムが、デストロイを止めようとこちらに迫って来た。

 

「今を逃したら、もうチャンスはない!!」

 

射撃武器の効かないデストロイにビームサーベルでトドメを刺すべく、フリーダムは翼を広げ懐に潜り込む。

 

「来るなぁぁぁ!!」

 

ステラはシンを助けようと残った右腕でインパルスを守ろうとした。

だが外から見たキラにはインパルスを潰そうとしているようにしか見えない。

 

「もうこれ以上は!!」

 

「フリーダム!? やめろぉぉぉ!!」

 

コクピットに戻るシンはインパルスのシールドでフリーダムのビームサーベルを防ぐ。

だがシールドにはもう耐久力は残って居らず、突き抜けたビームサーベルは左肘を切断した。

シンはバックパックからビームサーベルを引き抜くと同時にフリーダムに袈裟斬りする。

 

「インパスルは何を!?」

 

「はァァァ!!」

 

回避行動に移るキラだが、インパルスのビームサーベルは右脚部に届く。

片足も失い満身創痍の機体で、キラが取れる行動は限られてしまう。

このまま戦闘を続ければデストロイを止めるどころか生きて帰れないかもしれない。

 

「このままだと……え?」

 

突然、警告音がコクピットに鳴り響く。

下方から高出力のビームが発射され回避に移るも間に合わず、フリーダムの右翼が消し飛んだ。

見た先に居るのは戦闘に復帰したウイングゼロ。

 

「直撃を受けたのに、もう来たのか?」

 

「ゼロの予測を超えたか、シン」

 

「くっ!! もうフリーダムは戦えない……」

 

ツインバスターライフルを向けられキラはフリーダムでこの場から離脱を始めた。

ヒイロは背を向けるフリーダムをこれ以上追う事はしない。

戦闘領域から離脱するアークエンジェルとフリーダム。

戦闘は終結し、シンはデストロイのコクピットに乗り移るとコンソールパネルを叩きハッチを開放させる。

広いコクピットの中では、ピンク色のパイロットスーツを着用したステラがシートの上で意識を失って居た。

 

「もう大丈夫だから。ステラ」

 

シンは彼女のシートベルトを外し体を抱えると、足元に置かれたアタッシュケースを目にする。

ネオが言ってた通り、中にはエクステンデッドの資料とデータが入っている。

ステラと一緒にケースも持ち運び、インパルスのコクピットの中に戻った。

ハッチを閉鎖し、パイロットの居なくなったデストロイから距離を離すインパルス。

シンの胸の中で彼女は静かに眠って居る。

 

「終わったな」

 

「ヒイロ、ステラはもう戦わなくて良いんだ。治療が上手く行けば、普通の女の子に戻れるんだ」

 

「あぁ、そうだな。だがそのモビルアーマーは破壊しろ。邪魔になる」

 

「わかってる。こんなモノ!!」

 

操縦桿を握り右手にビームライフルを握らせるとコクピットに狙いを定めトリガーを引く。

エネルギーの続く限り、とにかくビームを発射し続ける。

パイロットが搭乗してないデストロイはもう、陽電子リフレクターは発動しない。

コクピットが破壊され、ビームの直撃を受けた箇所が次々に爆発する。

黒い巨人は音を立てて崩れ落ち、最後に響く地鳴りは断末魔の悲鳴のようにも聞こえた。

デストロイはベルリンの街に沈む。

 

「終わったんだ……もう……」

 

「任務完了。ミネルバに帰還する」

 

1つの戦いが幕を閉じる。

脅威の去ったベルリンで、フリーダムとアークエンジェルも撤退を始めた。

大破したフリーダムのコクピットの中で、キラはウイングゼロの圧倒的な性能に脅威を感じる。

 

「フリーダムでも相手にならなかった。あの機体……」

 

///

 

ミネルバのモビルスーツデッキには新たな機体が格納されて居た。

ヒイロが突然持ち出して来た機体、ウイングゼロ。

新型機に整備班のヴィーノとヨウランは興味津々でフォルムを眺めて居る。

 

「すっげー!! なんだよこれ!? なぁ、これヒイロが乗ってたんだよな?」

 

「そうらしいな。それより持ち出したガイアはどうしたんだよ? 許可もナシで使ったXシリーズを失くした、だなんて始末書で済むのか?」

 

そのコクピット内部には様々なケーブルが繋がれ、機体データを取る為の準備が進められて居た。

整備班の班長であるマッドは他の仕事を部下に任せ、最優先でこの機体の調査に当たる。

 

「良し、コネクターは全部繋げたな。テストはいつでもOKだ、隊長さん」

 

「わかった。シミュレーションのB16をやれば良いんだな?」

 

言うと赤い制服に身を包むアスランがウイングゼロのコクピットの中に潜り込む。

操縦桿を握り軽く動かすと初めて乗る機体の感触を確かめる。

 

「操縦性はそこまで変わらないか。だが変わったコンソールを積んで居る。ジャスティスのマルチロックオンシステムとは違うのか」

 

コクピットの構造に疑問を抱くアスランだが、実際にやってみない事には答えはわからない。

ハッチを開放したまま、マッドに言われたようにシミュレーターを起動させた。

 

「シミュレーター起動。データの採取、お願いします」

 

「任せときな。外で他にも分析を進めとくからよ。終わったらまた呼んでくれ」

 

マッドはコクピット付近から離れて別作業に移り、アスランも始まったシミュレーターに意識を集中させる。

その間、持ち主であるヒイロは艦長室のタリアに呼び出されて居た。

定刻した作戦時間に間に合わなかった事もそうだが、1番の問題はウイングゼロ。

艦長室で座るタリアにヒイロは直立不動で動かない。

 

「どう言う事なのヒイロ。あのモビルスーツは何?」

 

今まで数回遭遇した謎のモビルスーツ、そのいずれも接触する事は出来なかった。

それをヒイロが乗って居る事の納得出来る理由が必要だ。

張り詰めた空気の中でも、ヒイロの表情はいつもと変わらない。

 

「あの機体は譲って貰っただけだ」

 

「そんな言い訳が通じるとでも思っているの? 正直に白状なさい。でないと、アナタは評議に掛けられる事になる」

 

「事実だ、あの機体は譲って貰った。それより前の事は知らない」

 

言う事を変えないヒイロにタリアの表情は険しくなる。

話す言葉の口調も次第に強くなって行く。

 

「では何処で誰に譲って貰ったの? アナタの言う事が事実なら、説明が出来る筈」

 

その質問にヒイロは答えようとはしなかった。

緊迫した部屋の空気が更に重くなり、タリアは目を細める。

 

「答えられないの? ではこの件について正式に議長に報告させて頂きます。それまでは許可ナシにあのモビルスーツに乗らないで」

 

「了解した……」

 

意義を申し立てる事もなく、ヒイロは端的に返事を返すだけ。

すると突然、艦内部から轟音が響く。

数秒後にはモビルスーツデッキから内戦が繋がり、タリアは急いで受話器を取った。

 

「さっきの音は何事? 事故なの?」

 

『いえ、それが……』

 

「ハッキリ言いなさい!! 緊急事態なら人員をすぐに向かわせます」

 

『隊長さんがいきなり暴れ出したんだ!! ヒイロが持って来た機体のデータを取ってる最中に!!』

 

「どう言う事……アスランが? とにかく人を向かわせます。非戦闘員はその場から退避して!!」

 

『了解だ!!』

 

想定外の事態にタリアは頭を悩ませる。

ヒイロはその会話を聞いても尚、鋭い目線を向けるだけ。

 

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第22話 真の敵

 

ウイングゼロのコクピットシートに座るアスランは操縦桿を握り、シミュレーターを起動させ戦闘データを取る。

多少の違いはあるが操作性は従来の機体とそこまで変化はなく、データ上で連合軍のモビルスーツ達と戦闘を繰り広げた。

 

(凄い機体性能だ。パワー、スピード、運動性能、どれも最高水準だ。ジャスティスやセイバーよりも遥かに強い。これならキラのフリーダムに勝てたのも頷ける)

 

両翼を展開しての大型バーニアによる加速は他のどんな機体の追随も許さない。

胸部のマシンキャノンを展開しトリガーを引けば、シールドを構えて居るウィンダムを数秒で粉砕した。

フェイズシフト装甲の備わってない機体では、強固なモビルアーマーでもない限り防ぐ事は出来ない。

 

(武装は少ないがポテンシャルが良い。今までに乗ったどんな機体とも違う。この機体なら俺もキラに……)

 

右肩に収納されたビームサーベルを引き抜き瞬時に加速。

目の前のウィンダムに袈裟斬りし右肩から切断するとそのまま横一閃。

更に振り返るど同時に左腕のシールドで相手のビームサーベルを防ぎ、右手に握るビームサーベルをコクピットに突き立てた。

瞬く間に2機のモビルスーツを撃破し、倒された機体は視界から消える。

 

(このビーム砲を使わなくても、量産機相手ならどれだけの数が居ても勝てる。次は?)

 

上空に現れる新たな機影、それは2年前のあの光景。

対艦刀を両手で振り上げるソードストライクがアスランに迫る。

 

(ストライクだと!? パイロットはキラなのか?)

 

振り下ろされる対艦刀をアスランはシールドで防ぐ。

艦艇やモビルアーマーをも破壊する事を想定して作られた武器だが、ウイングゼロは片腕で難なくソレを受け止める。

マシンキャノンを展開しトリガーを引き弾丸が連射されるが、フェイズシフト装甲のストライクにダメージはない。

それでも右腕の小型シールドで防ぎながら距離を取る。

 

(あの時のアイツは戦闘経験は俺達よりも浅かった。それなのに、優位な立場にありながら負けた。そのせいでニコルが……)

 

(アスラン、下がって!!)

 

声が聞こえる、あの時と同じ声。

右腕を失い、左手にランサーダートを握りソードストライクに走る。

それは未だに鮮明に残る記憶と全く同じ光景。

 

(ニコル!? 止めろ、ソイツは!!)

 

身を引くソードストライクの対艦刀のレーザー刃がコクピットに触れる。

だがブリッツの動きは止まらずに、そのままランサーダートを左脚部に突き立て組み付いた。

 

(今です!! 僕ごとストライクを!!)

 

(そんな!? だが、撃つなら今しか……)

 

左手のバスターライフルの銃口をブリッツとソードストライクに向ける。

だがトリガーに掛けた指は鉛が付いたように重く、アスランは2人を撃ち抜く事が出来なかった。

 

(俺の……俺の敵は?)

 

(アスラン、キミがトールを殺した!!)

 

(キラ!! だったら、だったらお前はどうなんだ!! お前だってニコルを殺した!!)

 

いつの間にか視界からブリッツは消えており、目の前にはエールストライクが立ち塞がる。

振り下ろされたビームサーベルはウイングゼロの左腕を切断した。

 

(グッ!! 俺はお前を……お前を!!)

 

アスランもビームサーベルを振り上げるとエールストライクの左腕を斬った。

態勢はそのままに、ビームサーベルを投げ捨てマニピュレーターでエールストライクの頭部を掴むパワー任せに引き上げる。

ツインアイのレンズが割れ、歪む装甲。

激しいスパークを上げながら伸びるケーブルごと頭部を引きちぎる。

 

(これなら!!)

 

(いいや、こう言う手もあるよ)

 

冷たく呟くキラ、エールストライクはウイングゼロに組み付くとコンソールパネルを叩くとハッチを開放してその場から離脱してしまう。

動けなくなるウイングゼロ。

 

(アイツ、まさか!!)

 

その意図に気が付いた時にはもう遅く、自爆装置の発動したエールストライクにウイングゼロは巻き込まれてしまう。

獄炎の炎の中、アスランは本当に死んでしまったような錯覚に陥る。

 

「あ゛あ゛あ゛あああァァァ!! はぁ、はぁ、はぁ!! 生きてる? 今のは何だったんだ? 俺は……」

 

システムに翻弄されるアスラン。

眼前には再び、フリーダムに乗るキラが現れた。

向けられるビームライフルの銃口、けれどもアスランは心の中で懸命に叫ぶ。

 

(違う、違う違う違う!! キラは敵じゃない!! 俺もアイツもただ戦わされて居ただけだ!! 俺の本当の敵はキラじゃない!!)

 

心でそう叫んだ時、自身に襲い来る幻影は彼方へ消えた。

だがコクピットに居る限り、システムはアスランに戦うべき敵を見定めようとさせる。

兵士として訓練を受けた彼でもゼロシステムに打ち勝つ事は難しい。

 

(言葉は信じれませんか? なら、ご自分でご覧になったモノは?)

 

(ラクス!?)

 

(戦場で、久しぶりにお戻りになったプラントで、一体何を見て来たのですか?)

 

(それはキミ達にだって言える事だろ? 2年前の大戦は何だったんだ? 俺達は平和の為に戦った筈なのに、どうしてこんな事をするんだ!!)

 

(信じるモノの為に。アスランが信じるモノは何ですか? 頂いた勲章ですか? それとも、今は亡きお父様の幻影ですか? 信じるモノも、守るべきモノもないと言うのに、どうして戦うのですか?)

 

(キミ達にはあるのか? 信じるモノ、守るべきモノが?)

 

(はい、それがなければキラは再びアナタの敵になるかもしれません。わたくしもそうです)

 

(敵になるのか? ラクスが敵?)

 

悩むアスランにラクスは微笑み掛けるだけ。

以前にも見た光景、アスランは無意識に右手を突き出すと握った銃をラクスに向けた。

でもそれは強がりでしかない。

威嚇のつもりで向けてるだけで本当に撃つつもりはなかった。

けれども震える指はフレームではなくトリガーに掛かっており、力んだ彼は引いてしまう。

閃光が視界に広がる。

 

(ラクス!? ウソだ、こんな……)

 

血に染まるラクスの体。

殺したのは紛れも無く自分自身。

混乱するアスランの元に武装した黒服達が現れた。

これも以前に見た事がある。

 

(アスラン・ザラ、よくぞやってくれました。彼女は国家反逆罪に問われる身。ザフトの障害です)

 

(違う、これは幻覚だ!! ラクスは生きて居る!! 俺は彼女を殺してない!!)

 

叫ぶアスラン。

すると黒服達の姿が霞みと消える。

場面は再び彼女と対面した時へと戻った。

 

(アスラン・ザラ。アナタは何を信じるのですか? 信じるモノがないのに戦うのですか?)

 

(俺はこの戦争を終わらせる為に、プラントの為に!!)

 

(では、わたくし達に手を貸して下さいませんか? キラも一緒です)

 

手を差し伸べるラクス、銃を突き付けるアスランの手は震えて居る。

だが一瞬の躊躇が、彼女の肌を再び血に染めた。

響き渡る銃声。

地面に倒れるラクス。

振り向いた先に居たのはかつての父、パトリック・ザラ。

 

(どうして、何故アナタがココに居る!?)

 

(未だに迷いを振り切れんか。哀れだな)

 

(クッ!? アナタにそんな事を言われる筋合いはない!! 2年前の大戦で、どれだけの人間が巻き込まれたと思って居るんだ!!)

 

(それがコーディネーターの、プラントの未来の為)

 

(戯れ言を!! そんな事では何も変わりはしない!!)

 

アスランの叫びにパトリック・ザラはギルバード・デュランダルに姿を変えた。

 

(ならば私に手を貸して欲しい。その為にキミをザフトに呼び戻したのだ)

 

(議長……)

 

(父上の幻影を振り払いたいのだろう? だったら私の言葉に耳を貸すんだ。プラントの真の平和を勝ち取る為に、敵を撃つんだ)

 

(敵……俺の敵……)

 

(そうだ。私達の真の敵は地球連合軍の裏に潜む闇の商人、ロゴス。そして、戦場をかき乱し新たな動乱を生むアークエンジェルとフリーダム)

 

(キラが……敵?)

 

(私達の前に障害として立ち塞がるなら敵として見るしかない。キミはその為にザフトに居る)

 

デュランダムの言葉が頭に響く。

もうろうとする意識に中で、アスランは1つの答えを導き出す。

 

「議長、キラは敵じゃない!! アナタがキラを撃つと言うのなら、俺はアナタを撃つ!!」

 

アスランはコンソールパネルに指を伸ばしシミュレーターを強制終了させ、機体のエンジンを起動させる。

活動を停止して居たウイングゼロのツインアイとサーチアイが緑に輝き、ハンガーに固定された状態がら強引に動き出す。

鉄の骨組みが軋み、鉄が擦れる激しい音が響き渡る。

傍で別作業をしてたマッドは突然の事に驚き、大声でコクピットのアスランに呼び掛けた。

 

「どうした!! 何があったんだ!!」

 

「俺は倒さなくちゃダメなんだ!! 俺の敵を!!」

 

「マズイぞ、コイツは!? 全員持ち場から離れろ!! 退避しろ!!」

 

他の技術スタッフに呼び掛けながら逃げるマッド。

ウイングゼロによって破壊されたハンガーは重力に引かれて落下し、激しい金属音と衝撃を発生させる。

動き出したモビルスーツ相手に生身の人間では手が付けられず、マッドは壁に設置された内線を取り艦長室のタリアに急いで繋げた。

 

『さっきの音は何事? 事故なの?』

 

「いえ、それが……」

 

『ハッキリ言いなさい!! 緊急事態なら人員をすぐに向かわせます』

 

「隊長さんがいきなり暴れ出したんだ!! ヒイロが持って来た機体のデータを取ってる最中に!!」

 

『どう言う事……アスランが? とにかく人を向かわせます。非戦闘員はその場から退避して!!』

 

「了解だ!!」

 

受話器を戻すマッドはとにかく現場から走った。

動き始めたウイングゼロはカタパルトに繋がるエレベーターに向かって歩き出す。

だがそこに、白いザクが立ち塞がった。

 

「やれ、ルナマリア!!」

 

「行っけェェェ!!」

 

コクピットに座るルナマリアはザクを操縦し、動くウイングゼロへ強引に組み付いた。

マニピュレーターで腕を掴み、動けないように機体を壁に押さえ付ける。

その間にコクピットハッチを開放させ、中からレイが現れた。

 

「そのまま押さえて居るんだ」

 

「わかってる!! でも何秒も保たないかも」

 

ルナマリアは全力で両手の操縦桿を押し込んで居るが、ウイングゼロは簡単にそれを押し返そうとして来る。

更には胸部のマシンキャノンを展開するとアスランは躊躇なくトリガーを引く。

 

「アスラン、ウソでしょ!?」

 

だがマシンキャノンは稼働するも残弾がなく、カタカタと音を立てて回転するだけだった。

 

「弾切れだと? クッ、ならビーム砲で!!」

 

ザクのマニピュレーターに押さえ付けられる左腕を動かすアスラン。

ルナマリアも懸命に操縦桿を押さえ付けたが敵わず、耐久限度を超えたザクの腕は根本から引きちぎられた。

 

「そんな!? 保たないなんて」

 

衝撃に倒れるザク。

レイは密着した距離から離れる前に開放されたままのウイングゼロのコクピットに飛び移った。

背後では倒れたザクの甲高い音が響く。

 

「アスラン、どうしてこの様な事を!!」

 

「敵だ!! デュランダル議長は俺の敵だ!!」

 

「何を言って居る? 気でも狂ったか!!」

 

「議長を倒す事が平和への道だ!! 父の思想をこの世から消す。お前もだ、レイ!! ラウ・ル・クルーゼをこの世界に残して置く訳にはいかない!!」

 

「何!? アスラン、何故知って居る!! 貴様は何を−−」

 

コクピットに入り込みアスランを取り押さえようとするレイ。

けれども不意に、頭の中に情報が流れ込んで来る。

思わず動きを止めてしまうレイ。

そして彼も見る、システムが導き出す未来を。

 

(この感覚はなんだ? 俺は何を見てるんだ?)

 

レイにまで干渉するシステムの幻影。

しっかりと開いてる筈の目から見えるのはコクピットに座るアスランではなく、2年前の大戦で敗北したプロヴィデンス。

マスクを付けたラウ・ル・クルーゼの姿。

 

(ラウ!?)

 

(これが定めさ。知りながら突き進んだ道。どの道、私は長くはなかった。最後は自分にまとわりつく忌々しい輪廻を断ち切るくらいしか出来ない。だがそれも失敗に終わったがね)

 

(輪廻……俺を生み出し、そしてヤツへと繋がる遺伝子!!)

 

ラウ・ル・クルーゼが搭乗するプロヴィデンスはフリーダムのビームサーベルにコクピットを貫かれる。

そして発射されるジェネシスのガンマ線により機体は焦土と化す。

 

(それでも!! 力だけが、僕の全てじゃない!!)

 

(違うな、誰もそんな事をわかりはしない。やはり貴様は俺の敵だ!! 輪廻は俺が断ち切る、スーパーコーディネーター、キラ・ヤマト!! そして……)

 

レイが見る先に居るのは青い翼を広げるフリーダムと、寄り添うように立つジャスティスの姿。

 

(アスラン・ザラ!!)

 

レイはコンソールパネルに手を伸ばし、稼働したウイングゼロのエンジンを強制的にストップさせる。

倒れるザクにツインバスターライフルを向けるウイングゼロだが、突如として動きが止まりツインアイの輝きも消えた。

コクピットに座るルナマリアは背中から冷たい汗を流しながらも、ギリギリの所でウイングゼロが止まった事に安堵し、口から大きく息を吐く。

 

「止まった? はぁ、何とかなったわね。あんなの撃たれたらミネルバごと吹っ飛ぶわよ。でもアスラン、どうして……」

 

ルナマリアが見つめる先、ウイングゼロのコクピットの中でアスランは気を失って居た。

レイもまだ意識がハッキリとしないが、シートに座るアスランを担ぎ出しタラップへと出る。

 

「ルナマリア!! 無事か!!」

 

『コッチは何とかね。すぐに降ろすわ』

 

ザクを立ち上がらせ、残った右手をハッチに添える。

マニピュレーターに飛び移ったレイは、少しずつ遠ざかるウイングゼロの姿を睨んだ。

 

(あの機体に積み込まれたシステム……アスランがこうなったのはそれが原因か。そして俺も……)

 

片膝を付くザクはマニピュレーターを床に付けレイとアスランを地上に降ろす。

安全が確保されたのを確認した彼女もコクピットから降り、アスランを抱えるレイの元へ走った。

 

「レイ!! アスランは?」

 

「ひとまずは無事だ。だが医務室へ運んで検査をする必要はあるな」

 

「あのビーム砲、アスランは本気で撃とうとして来た。FAITHにも選ばれた人が裏切っただなんて考えたくないけれど……」

 

「詳しい事はまだわからない。取り敢えず出来る事から始めよう。俺はアスランを連れて行く。ルナマリアは艦長に報告だ。それと、あの機体には絶対に乗るな」

 

「それはわかったけど、どうして?」

 

「上手く言葉では説明出来ない。ともかく、あの機体に無防備に近づくのは危険だ。ヒイロに任せるしかない」

 

言うとレイはその場から離れて行く。

艦長室では事態の収拾を聞いたタリアが受話器を手に持つ。

ヒイロは未だに直立不動のまま、彼女の前に立ち続けて居る。

 

「えぇ、わかりました。調査は中断、指示があるまでは誰も近寄らせないで。彼の処分は追って連絡します」

 

受話器を戻すタリアはヒイロに向き直ると、鋭い視線を向けた。

 

「アナタが持って来た機体、ウイングゼロのデータ収集を行って居たアスランが突然暴れ出したみたい。今は落ち着いたけれど、あのビーム砲を撃たれて居ればこのミネルバは簡単に沈んだでしょうね。何か仕掛けでもあるの?」

 

「言った筈だ、俺は何も知らないと」

 

「ここまで来ても白を切るつもり? アナタがそう言うのならわかりました。艦長権限によりヒイロ・ユイ、アナタに営倉入りを命じます。従わなければ最悪の場合、銃殺刑も有り得る」

 

「了解した」

 

抵抗する事もなく、ヒイロはタリアの命令に従った。

この事件によりウイングゼロに触れる事は整備スタッフでも許されず、タリアの許可があるまでは何人たりとも近づく事すら許されない。

意識を失ったアスランから事情を聞くまでは。

 

///

 

ベルリンの戦いから数時間後、ギルバード・デュランダルはある決断をした。

地球圏、プラント全域の各メディアにジャックし、デュランダルは今起こってる戦いの根源を世界に流す。

無許可によるメディアジャックは許されるモノではなく、その後に多大な責任を要求されるが、それでも彼はソレを選んだ。

設置されたカメラのレンズの前に用意されたデスクに座り、デュランダルは声を上げる。

 

「皆さん、突然の無礼をお許し下さい。私はプラント最高評議会議長、ギルバード・デュランダルです。本来ならこのようなメディアの活用は禁止されております。ですが、このような愚行に打って出ても言いたい事がある。聞いて貰いたい事があるのです。我々プラントと地球連合軍は、現在対立状態にある。また2年前の悲劇が繰り返えされて居ます。ですが戦争と言えどもルールはある。数時間前、地球のベルリンが連合軍の兵器により破壊されました。今から流れる映像がソレです」

 

言うと、放送されて居る映像にはベルリンでデストロイが暴れる映像が映し出される。

あまりに突然の事に民間人は避難する時間もなく、灼熱のビームは建物ごと人々を焼き払った。

鳴り響く怒号、悲鳴、流れる血。

炎は街全体を包み込み、昇る煙は空を黒く染める。

ザフトのモビルスーツが防衛網を貼るも、デストロイの火力の前には無力。

 

「地球と宇宙、住む場所が違えば主義や考えが違うのは当然の事。それにより時には対立してしまう事もあるでしょう。本来ならそうななりたくない、ですが人間はそれ程万能ではない。その時の為に我々は力を、武器を手に取り、兵を、軍を作った。覚悟を持った人間が国の為に戦う。今と言う時代にはまだ必要な犠牲と考えます。ですが、コレはナンセンスだ!! 主義主張の為に関係のない人まで虐殺する事が許される筈がない!!」

 

声を荒げるデュランダル。

ミネルバに居るシンは、自室でこの放送を見て居た。

 

「地球連合軍のこの巨大兵器は、数時間後に大勢の犠牲者を出しながらも止める事が出来ました。勧告もなしに攻撃して来た地球連合、そして攻撃された場所は地球の都市です。何故今、我々は戦うのか? それは人類が地球から飛び立つ前の時のような、領土や権力争いとは違う。2年前の大戦、ナチュラルとコーディネーターとの違いでもない。我々プラントは、迫り来る火の粉から身を守りたいだけなのです。では戦いはいつまで続くのか? 地球連合の主張はザフトに占領された地域の開放と言ってますが、このベルリンの惨劇を見てもそう言えるでしょうか? 地球に住む、善良な一般市民を街ごと焼き払う事が、彼らの言う主張として正しいのでしょうか?」

 

映像は切り替わり、画面の向こうに映るのは星の髪飾りを付けたラクス・クラインの姿。

 

「確かに、この戦争の火種は私達コーディネーターの一部の過激派が引き起こした惨劇です。工業用プラント、ユニウスセブンの落下。幸いにも地球に落ちる事はありませんでしたが、この事件によりコーディネーターやプラントに不信感を抱く人も居るでしょう。これを事前に止められなかった事が、新たなる戦いの引き金になってしまいまったのかもしれません。ですが、今のような戦争を繰り返した先に何がるのでしょうか? 多くの血と涙が流される戦争で、一体何が残るのでしょうか? この戦いからは何も産まれない、残りません。それは2年前の大戦で、わたくし達は充分に理解した筈です。憎しみの感情を断ち切り、涙を拭い前を歩く。それが平和への第1歩だと思います。わたくし達にはそれが出来ます。それが、皆が信じる平和へと繋がる事を信じます。光りある、希望溢れる未来に向かって、共に歩んで行きましょう」

 

ラクスの言葉は絶大だった。

透き通る声から来るその言葉は人々の心を癒やし、そして希望を与える。

プラントでカリスマ的存在でもあり人望もある彼女だから出来た事。

場面は再びデュランダルへと切り替わる。

 

「ですが我々の言葉には耳を貸さず、どうあっても戦争を続けようと考えるモノが居る。コーディネーターは間違った存在だと忌み嫌うブルーコスモスも、彼らが作り上げた存在。地球連合、ブル―コスモス、その背後に隠れ戦いを牛耳り、戦争を商業として操って居る存在。利益の為に世界を戦いに巻き込もうとする存在。その組織の名はロゴス!! 彼らが居る限り、この戦争は終わらない。平和を望む我々の真の敵!!」

 

デュランダルの宣言と同時に画面にはロゴスに関係する人物達の顔写真リストが公開された。

それは地球連合にもプラントにも、世界のあらゆる国や地域で潜んで居る。

デュランダルは同じプラントでも身を切る覚悟だ。

 

「我々プラントが戦うべき相手は地球連合ではない。ロゴスこそ滅ぼさんと戦う事を、私はここに宣言します!!」

 

地球圏全土、プラント全土に流されたこの映像により、時代の影に隠れて居たロゴスの存在が浮き彫りになる。

ロゴスの一員であるロード・ジブリールは潜んで居た地球から逃げるべくいち早く動き出す。

 

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第23話 動き出す運命

 

アークエンジェルはベルリンでの戦闘の後、海底へと身を隠して居た。

戦闘の最中に鹵獲した機体、紫のウィンダムのパイロットであるネオ・ロアノークは医務室で目を覚ます。

 

「っ!? ったく、どこだここは? 見た事のない場所だな」

 

周囲を見渡す彼は自分の腕に点滴のチューブが繋がってるのを目にした。

医務室には自分しか居らず、心拍数を計測する機械だけが無機質の電子音を鳴らす。

そこでようやく思い出した。

自分がどこに居て、何をして居たのかを。

 

「そうか……あの時、フリーダムに負けた俺はアークエンジェルに。デストロイはどうなったんだ? ステラは……」

 

途中で意識を失ったネオには、ベルリンでの戦闘の結末がどうなったのかを知らない。

インパルスのパイロットであるシンがどう動いたのか、ステラがどうなったのか。

けれども考えてもわかる筈もなく、長時間寝たきりであったが為に空腹が悲鳴を上げる。

 

「取り敢えずメシだな。ここまでご丁寧にしてくれてるんだから、目を覚ました途端に尋問とかはしないだろ。食い物くらい寄こしてくれんだろ」

 

ネオはベッドに用意されたスイッチを手に取りボタンを押し込んだ。

数分もすると、呼び出しコールを聞き付けて誰から医務室の扉を開放した。

ベッドに寝たままの状態で顔だけを向けた先に居たのは1人の少年と、ウェーブの掛かった長髪の女性。

女性は目を覚ました彼の顔を見た途端、瞳から涙をこぼした。

 

「ムウ……生きて……」

 

「ムウ……だと?」

 

感情が溢れだした彼女はネオの胸に抱き付き顔をうずめた。

けれどもネオは状況を把握する事が出来ず、彼女に何をしてあげる事も出来ないままもう1人の少年に視線を向ける。

 

「ご婦人に抱かれるのは嬉しいけどね、そう涙を流されても困るんだが。オイ、そこのボウズ。悪いが何とかしてくれ」

 

「ムウさん、覚えてないんですか?」

 

「覚えてないって何を? それにな、ムウって何だよ?」

 

「何って、アナタの名前じゃないですか!? ムウ・ラ・フラガ、2年前に僕達と一緒に戦った」

 

「知らねぇよ、そんな奴。俺はネオ・ロアノーク。ムウ・ラ・フラガだなんて名前は聞いた事もないね」

 

「そんな……」

 

昔の記憶がない事にキラは愕然とする。

それどころか自分が何者なのかさえ覚えて居ない。

全くの別人と、目の前のムウ・ラ・フラガは言う。

 

「ずっとこうしてるのも悪くはないが、女が泣いてるのを見るのは好きじゃない」

 

「ムウ……」

 

「あ〜、取り敢えず落ち着いた方が良い。こんな事をしてても何にもならないしな。それに俺、腹減ってるんだよ。贅沢言わないから食えるモノがあると嬉しいんだが?」

 

ネオの言葉にマリューは返事を返さず、何も言わず口元を手で隠しながら医務室から出て行ってしまう。

瞳から涙は流れたままだ。

残るキラは彼女の背中を見送ると、ネオの顔に向き直る。

久しぶりに見る彼の顔、鼻元には一筋の傷跡。

 

「アナタが寝てる間に少し調べさせて貰いました。アナタの血、DNAは、この艦のメディカルデータと完全に一致してます。今は何かが原因で記憶を失くして思い出せないかもしれないけれど、アナタは間違いなくムウさんです。僕達が知ってるムウさんで間違いないんです」

 

「そうは言われてもね、思い出す以前に記憶にないんだが?」

 

「それでも、アナタはムウ・ラ・フラガだ!!」

 

声を荒げるキラだがネオはそれを感じ取ってはくれない。

いつまでも同じ事は言われていい加減にネオは嫌気がさしていた。

 

「はいはい、わかりましたよ。わかったからメシ、持って来てくれないのか?」

 

「わかりました。少し待ってて下さい」

 

言われてキラも医務室を後にする。

残された部屋で1人ベッドの上で考えるのは、シンとした約束とステラの事。

 

///

 

戦闘を終えたミネルバは修理と補給の為に、ザフトのジブラルタル基地へと入港する。

地球へと降下してから、目的地であるここまでようやく辿り着く事が出来た。

現在、ジブラルタル基地は先のデュランダルの放送もあり、ロゴス打倒の為に戦闘準備を進めて居る。

基地では作業員が慌ただしく動いており、物資や生産されたモビルスーツが次々と艦艇に積み込まれて居た。

あの放送の後、公開されたロゴスのメンバーは各地のレジスタンスや武器を手に取る民衆により次々に捕らえられる、もしくは有無を言わさず殺されて居る。

中でも逃げ出したモノはロード・ジブリールを筆頭にアイスランド島にあるヘブンズベースに逃げ込んだ。

そしてザフト、民衆の手から逃れる為に脱出する準備を進めて居る。

ジブラルタル基地はこのヘブンズベースのすぐ近くに建造されており、彼らを逃さんと大規模な戦闘準備が行われて居た。

シン、レイ、ルナマリアは基地へ上陸出来るようになるまで休憩室に待機し、ミネルバが入港するのを待つ。

シンはここに居ないアスランとヒイロの事が気になった。

 

「ヒイロは営倉入りで、アスランは医務室か。レイとルナは見てたんだろ? 何があったんだ?」

 

「データ採取をして居た。ヒイロが持って来た機体のな。その時に乗って居たのがアスランだ」

 

「だから、それがどうしてあんな事になるんだ?」

 

「上手く口では説明出来ない。けれどもはっきりとしてるのは、普通の人間にはあの機体を乗りこなす事は出来ない」

 

「何か、レイにしてはややこしい言い方だな。あの機体、そんなにピーキーなのか?」

 

「そう言う意味ではない」

 

「ならどう言う意味なんだよ? ルナも見てたんだろ? 教えてくれよ」

 

必要以上に話そうとしないレイの言葉をシンは理解出来ない。

すぐ傍に居る彼女にも質問を投げ掛けるが、ウイングゼロに搭乗した事のある人間はヒイロとアスラン、そしてレイだけだ。

 

「私にだってわかんないわよ。いつの間にかあんな事になって。あの機体、ウイングゼロって言うんだって」

 

「ウイングゼロ……」

 

「艦長からの命令で指示があるまでは誰もあの機体に近づくなって。アスランが目を覚まして、事情を聞いてからでないと。流石にあのビーム砲を所構わず撃たれたらたまったもんじゃないわ」

 

「そうなのか。なら本人に聞くしかないな」

 

「やめといた方が良いわよ。もうすぐ大きな作戦が始まるし、みんなピリピリしてる。変な事してるってバレたら艦長が酷いわよ」

 

ルナマリアの忠告で踏み止まるシン。

けれどもやはり、あの機体はモビルスーツのパイロットとしてどうしても気になる。

そうこうしてる内に、ミネルバはジブラルタル基地へと入港した。

 

『ミネルバ、着艦を確認。作業員は速やかに所定の作業に入って下さい。ミネルバはこれより修理、補給作業に入ります』

 

艦内放送が全域に流される。

ミネルバで動かせる機体はインパルスしかなく、他の機体は損傷により大規模な修理をしなければ動かす事は出来ない。

そのインパルスも機体構造のお陰で何かをする必要はなく、3人はその場に留まった。

 

「ジブラルタル入って、次はどうすんのかな? 動ける機体はインパルスしかないし、作戦までにレイやルナの機体を間に合わせてくれるのか?」

 

「さぁな、だが先日の議長の言葉に沿った形での作戦が展開されるだろう。今の俺達に出来るのは、その時に備えて万全の態勢を整える事だ。その為に最善の事をする」

 

「そんな先の事考えるなんて、シンらしくないわよ」

 

「良いだろ!! 俺だって考える事くらいあるんだ!!」

 

「議長はベルリンの惨劇を見てロゴスを撃つと決心なさったのだろう。あの悲惨な状況を見られて」

 

レイの言う通り、ベルリンでのデストロイの被害は甚大だ。

日に日に死者は増え、未だに復旧の目途も立たない。

勧告もなしに行われた無差別攻撃に親や兄弟を亡くした人がたくさん居る。

2年前の大戦で家族を亡くしたシンには、その気持ちが良くわかった。

流される血と涙、悲鳴と叫びは残されたモノの心の中に深く刻まれる事だろう。

 

「議長が言うロゴスを撃てば、この戦争は終わる。もうこんな悲劇は繰り返しちゃいけないんだ。これ以上、ステラのような人を増やさない為にも、俺はロゴスを撃つ。最後まで戦い抜く。それが、この戦争を終わらせる唯一の方法だから」

 

確固たる決意を言うシン。

その鋭く赤い瞳に、ルナマリアはいつの間にか自分より成長した事に驚く。

 

(いつまでも子どもみたいに思ってたけど、少しは成長したのかな)

 

『シン・アスカ、アスラン・ザラ。両名は速やかに3番格納庫に来られたし。繰り返す。シン・アスカ、アスラン・ザラ。両名は――』

 

「何かしら? 急に呼び出し、しかも格納庫だなんて」

 

「取り敢えず行くしかないだろ。でもアスランは……」

 

「シン、俺も行こう。誰かはわからないが事情を説明する必要はある。1人で行くよりは良い筈だ」

 

「そうだな。3番格納庫か……レイ、行こう」

 

言うと2人はミネルバの休憩室から出て行く。

残されたルナマリアは設置された自販機のボタンを押し、紙コップにコーヒーが注がれるのを待った。

 

///

 

エレカに乗り放送で言われた3番格納庫にまで来たシンとレイ。

モビルスーツの搬入作業に忙しい事もあり、周囲からは甲高い機械音がひっきりなしに響く。

そこでは銃を装備した護衛兵が2人待機しており、シンがすぐ傍にエレカを止める。

 

「ここだよな?」

 

「間違ってはない。降りるぞ」

 

運転席から見上げる格納庫はモビルスーツが何機も入れる程に巨大で無骨だ。

エンジンを止めドアを開けて降りる2人は待機する護衛兵の所にまで歩く。

 

「シン・アスカだな。アスラン・ザラはどうした?」

 

「彼は現在、戦闘により負傷して動ける状態ではありません。代わりに私が来ました」

 

「名前は?」

 

「レイ・ザ・バレルです」

 

「わかった。少し待て」

 

言うと護衛兵は通信機を手に取りどこかに繋げ後ろを向いてしまう。

声を聞き取り会話内容を盗み聞きする事は出来ず、2人は背を向ける護衛兵の通信が終わるのを待った。

 

「わかりました。レイ・ザ・バレル、許可が降りた。シン・アスカと共に内部に入る事を許可する」

 

「ありがとうございます。それで、中には誰が?」

 

「行けばわかる。くれぐれも失礼のないように」

 

護衛兵は道を開け、シンとレイは言われた通りに格納庫内部へと歩いて行く。

運搬作業の行われてる他の格納庫とは違い、この3番格納庫は驚く程に静かだ。

薄暗い通路を進む2人、扉を抜け進んだ先に居たのはプラント最高評議会議長のギルバード・デュランダル。

シンはデュランダルを目にすると驚くと共に敬礼を取る。

 

「お久しぶりです議長。先日のメッセージ、感動しました」

 

「ありがとう、私もキミの活躍は聞いているよ。良く頑張ってくれた」

 

「ありがとうございます」

 

シンは喜んで返事を返す。

隣に立つレイは敬礼を解くと、この場にアスランが居ない事を説明する。

 

「お久しぶりです、議長」

 

「レイ、キミも良くやってくれて居る。ミネルバには随分無理をさせてしまった」

 

「いえ、命令を遂行するのが我々の仕事です。アスランの件なのですが」

 

「あぁ、彼にも来るように伝えたのだがね。負傷したと聞いたが大丈夫なのかい?」

 

「はい、今の所は。後で詳しく報告させて頂きます」

 

「頼む。さて、もう知っている事だと思うが、私は全世界にロゴスの存在を露呈させた。これにより出口の見えなかったこの戦争も、ようやく終わらせる事が出来る」

 

「自分は議長の言葉を信じます。一刻も早く、この戦争を終わらせましょう」

 

「期待してるよ、シン・アスカ君。さて、まだ話したい事はいろいろあるが、まずは見てくれたまえ」

 

デュランダルが視線を向ける先には2機のモビルスーツが立って居た。

薄暗い格納庫では詳しい全貌を見る事は出来ないが、数秒後にはライトが照らされる。

用意されて居たのは、見た事のない新型モビルスーツ。

2人はそれを見て息を呑んだ。

 

「ZGMF-X42Sデスティニー、ZGMF-X666Sレジェンドだ。激化する戦闘に合わせて開発された新型モビルスーツ。先日のベルリンの件と良い、連合はモビルアーマーの開発に力を入れて居る。モビルアーマーはコストは掛かるが、単機で戦況を変えられるだけの戦闘力がある。デスティニーはそれに対抗すべく作られた機体だ。この機体はシン・アスカ君、キミに乗って貰う」

 

「自分にですか? ですがインパルスは?」

 

「インパルスはレイかルナマリア君に乗って貰う。デスティニーはキミの今までの戦闘データを組み込んで調整されて居る。キミの為の、新しい機体だ。使ってくれるね?」

 

「俺の……新しい機体……」

 

デスティニーを見上げるシンは喜びの表情を浮かべる。

一方のレイはレジェンドと呼ばれる機体に因縁めいたモノを感じ取った。

 

「議長、もう1つの機体。レジェンドのパイロットは?」

 

「レジェンドにはアスランに乗って貰う。ここに呼んだのは最後の微調整をして欲しかったからだ。デスティニーは出来るが、レジェンドは彼の回復を待つしかない。この新しい機体、デスティニーとレジェンドが新しい時代を切り開く」

 

「議長にはそれが出来る。私達はその為に戦います」

 

「戦いを終わらせる為に戦うと言うのも矛盾した話だがね。しかしこの戦争が終われば、私は人々が幸福に過ごす事の出来る世界を作って行く。シン・アスカ君、デスティニーをキミに託す」

 

デュランダルの綺麗な言葉にシンは心を奪われる。

 

「レイ、行こうか」

 

「はい、議長」

 

役目を終えたデュランダルはレイと共にこの場から立ち去ってしまう。

 

///

 

格納庫から移動したレイは、デュランダルの為に用意された部屋まで来た。

デュランダルはソファーの上に腰を降ろし、レイも向かいに座る。

レイは口を開けると、アスランが来なかった理由を話し始めた。

 

「ギル、アスランは危険です」

 

「穏やかな話ではないな。どう言う事だ?」

 

「あの男は2年前の大戦でアークエンジェルと共に行動してました。その時の感情をまだ引きずって居ます」

 

「そうか、期待して居たのだがね。やはりダメかな?」

 

「彼のアークエンジェルとフリーダムに対する思いは強いです。このままでは裏切る事も」

 

「裏切り……そうなってしまうか。パイロットとしての技術がどれだけあろうと、彼もまた1人の兵士でしかない。戦いが終わった後の世界を作るのは政治家だ。余計な事を考え過ぎるのは良くない。そのせいで、折角の力を充分に使えない。フリーダムのパイロット、キラ・ヤマトと言ったか?」

 

「はい、奴が居なければこうはならなかったかもしれません」

 

「彼との出会いが不幸と言う事か。今更その運命は変えられない」

 

アスランの今までの経緯はデュランダルに筒抜けだった。

2年前から今に至るまで全て。

ミネルバに乗船してからも、フリーダムを意識するあまり戦果を上げられなかった事も。

けれどもそれさえなければアスランはパイロットとして最上位の存在だ。

そんな彼が再びザフトを裏切り敵に付けば、こちらの損害は計り知れない。

 

「アスランの事は私に任せて貰えますか? こちらの不利益になるような事はさせません」

 

「頼む。私はこれからの事で忙しい。後で艦長にも伝えるが、ミネルバには宇宙へ行って貰う」

 

「宇宙……ヘブンズベースの攻略は?」

 

「他の部隊に任せる。ミネルバはもしも逃げられた時の為に宇宙へ先回りして貰う。だがそれも、修理と補給を終わらせた後だ。もしも逃げられ、その上間に合わなかったら、また別の指示を与える。レイ、アスランの事は頼んだ。罪状はある、拘束も許可する。裏切りだけはあってはならん」

 

「了解しました」

 

立ち上がるレイはデュランダルに敬礼する。

向かう先は、アスランが眠るミネルバの医務室。

 

///

 

ゆっくり開けたまぶたから光りが差し込む。

目を覚ましたアスランは自身の身に何が起こったのかを思い出す。

 

(そうだ、俺は……あの機体に搭載されたシステムなのか? どちらにしても、ここにはもう居られない。アークエンジェルと合流する。それしか)

 

白いベッドから起き上がるアスランは急いでカーテンを開けた。

出た先には酸素マスクを付けて眠るステラと軍医の姿。

音に気が付いた軍医は振り返り、彼の様態を確かめようとする。

 

「あぁ、目が覚めたのか。気分はどうだい?」

 

「もう大丈夫です。急ぐので失礼します」

 

「急ぐって、艦長から――」

 

軍医の話も聞かずにアスランはこの場から立ち去ろうとする。

扉を開け通路に出た先で待って居るのは、鋭い視線を向けるレイの姿。

 

「アスラン、気が付いたのですね。今回の件、覚えて居ますか?」

 

「ルナマリア、彼女には悪い事をした。それに関係のないクルーにも。俺がしてしまった事は自覚して居る」

 

「ならばどうするべきか、わかる筈ですね?」

 

「レイ、キミもあの機体で見たのか?」

 

探るように、アスランは静かに問い掛ける。

これ以上の言葉は必要なく、レイもその意味を理解して居た。

 

「見ましたよ。アナタは――」

 

「やはりお前は――」

 

レイは素早く手を腰にホルスターに伸ばし銃を抜くと銃口をアスランに向けた。

アスランも殺気を感じ取り素早く走り抜ける。

 

「俺の敵だ!!」

 

銃声が響く。

アスランは発射される弾丸を避け、銃を構えるレイに組み付いた。

2人分の体重が背中に掛かり背後から倒れるレイ。

衝撃が体に伝わり、握ってた銃を手放してしまう。

レイよりも早くに態勢を立て直すアスランは、逃げる為に通路を走る。

 

「ぐっ!! 逃がすモノか!!」

 

 

投げ出された銃を拾い再び銃口を向けるが、アスランの姿は通路の角へと消える。

追い掛けるレイ。

だが角を曲がった先には幾つかの扉があるだけで誰の姿もない。

 

「中に隠れたか。だが武器もない状態では袋のネズミだ」

 

壁に設置されたコンソールを叩き1つ目の扉を開放させる。

中に光りはなく、ベッドが1つ用意されてるだけ。

レイは銃口をベッドに向けトリガーを引くと、マズルフラッシュが部屋を照らす。

弾丸により穴が開くがそれだけだ。

室内に入り込み逃げ込んでないか探すレイだが、人が隠れてる様子はない。

 

「ここには居ない。次だ」

 

部屋から出るレイはすぐ隣の部屋のコンソールパネルに指を伸ばす。

アスランは逃げ込んだ部屋の中で次の行動を模索して居た。

中は殺風景で、配給されたばかりのように何もない部屋。

唯一あるのは部屋の隅に置かれたカバンだけ。

中を確かめると、そこにあったのは何丁かの銃とマガジンだった。

 

「誰の部屋なんだココは? でもこれで対抗出来る」

 

銃を右手に持ち、左手にはカバンを持つアスランは警戒しながらも扉を開放させる。

出ると同時に銃を構え、視線の先には同じ様に武器を構えるレイの姿。

生死の境目に立たされ、躊躇なく引かれるトリガー。

レイが放つ弾丸は髪の毛をかすめる。

もう1つの弾丸は一直線にレイの元に向かい、握ってた銃に直撃した。

衝撃に銃は弾け飛び指を挫く。

 

「ぐっ!? アイツめ!!」

 

(あのシステムを見たのなら、レイにとって俺は敵だ。そして俺にとっても)

 

アスランはミネルバから、ジブラルタル基地から脱出する為に走る。

レイは一旦追跡を諦め、壁に設置された通信機で司令本部に繋げた。

 

「脱走だ、裏切り者が脱走した!! シェルターを閉鎖、モビルスーツデッキには行かせるな!!」

 

叫ぶレイ、数秒後には艦内全域に警告音が響き渡る。

走るアスランはゼロシステムで次に怒る事を既に見ており、モビルスーツデッキには向かわずミネルバから降りた。

今なら大量にモビルスーツは用意されており、隙さえ付ければ簡単に奪う事が出来る。

外は闇に包まれており、激しい雷光と雨が降り注ぐ。

 

(すぐに追手が来る。モビルスーツを奪うなら水陸両用、空からだと逃げられない。ゾノを探すんだ)

 

システムで未来を見た恩恵は大きい。

この状況になれば自分に味方するモノなど居らず、目に映る人間全てが敵だ。

それでもアスランは的確に逃走ルートを見定め、脱出に使うゾノを見つける。

ワイヤーに足を掛け、開放されたハッチにまで上昇するとコクピットに乗り込む。

流れるようにコンソールパネルを叩きOSを起動させバッテリー電力を供給。

ピンクに光るモノアイがギョロリと動き、周囲の状況を視界に入れる。

 

「まだ防衛部隊は展開してないな。今なら逃げられる」

 

ハンガーを解除し動き出すゾノ。

丸みを帯び緑の装甲をした機体は海に向かって歩き出す。

モビルスーツはまだ展開されてないが、それでも武器を携帯した兵が異常に気付きライフルの向けて来た。

 

「こちらB-19区画。脱走者を発見した。ゾノを強奪、海から逃げるつもりだ。至急、応援を要請する」

 

「撃ち方用意!! 撃てぇ!!」

 

無数に飛び交う弾丸。

けれどもモビルスーツの前には豆玉も等しい。

居場所を知られた以上、長居は無用。

操縦桿を両手に握り機体を操作するアスランだが、レーダーに新たな反応が映し出される。

 

「追手が来たにしては早過ぎる。何だ、データにない機体」

 

現れたのは血の涙を流し、赤い翼を持つ機体。

 

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第24話 雷光の夜

 

ミネルバ、そしてジブラルタル基地全域に鳴る警告音。

アスランの脱走により動ける兵は緊急事態に騒いで居るが、薄暗い営倉の中に居るヒイロは慌てる事もなくただジッとして居た。

そんな中で通路に繋がる扉が開放され強い光りが差し込む。

素早く視線だけを向けた先に居たのは、トレーに乗せられた食事を運ぶメイリンの姿。

彼女はそのまま檻の前にまで来ると床下に作られたわずかな隙間からトレーを中に入れる。

 

「ヒイロ、ご飯持って来たよ」

 

「そうか……」

 

「脱走者が出たんだって、お姉ちゃんも急いで走ってったよ。もうミネルバも基地も大騒ぎ。みんなで血眼になって探してる。でも逃げ出すなんて誰がしたんだろ? こんな事してもすぐに捕まっちゃうのに」

 

何も語らないヒイロはトレーを受け取り、置かれて居るパンを掴みひと口頬張る。

 

「だからって係の人まで行く事ないのにね。たまたま食堂でご飯食べてたら全員居なくなっちゃって。私も行くか迷ったけど、基地総出で探してるって聞いたからコッチに来ちゃった」

 

メイリンが話してる最中もヒイロは目すら合わせず黙々と食事を取る。

 

「でもまた営倉入りだなんて。やっぱり艦長、あの機体の事許してくれなかったの?」

 

「あぁ、そうだ」

 

「ヴィーノも言ってたけど、あの機体は何なの? 装甲が普通のモビルスーツとは違うって。でもそれを調べるだけの機材がないからミネルバではわからないって言ってた。ヒイロ、もしかして連合軍から……」

 

疑惑の眼差しを向けるメイリンに、ヒイロは初めて口を開く。

それでも、言える情報は極僅かだ。

 

「あの機体は連合のモノでもザフトのモノでもない」

 

「だったらどうしたの?」

 

「俺は譲って貰っただけだ」

 

「譲るって、モビルスーツだよ? 普通そんなの貰えないよ?」

 

「同じ事を2度言うつもりはない。俺はこれ以上の事は知らない」

 

「ヒイロ……」

 

だんまりを決め込むヒイロにメイリンはもう追求出来ない。

静かで薄暗い営倉では咀嚼する微かな音だけしか聞こえる。

暫く食べ続けるヒイロを眺めるメイリン、するとようやく向こうから口を開き話題を出す。

 

「ザフトは大規模作戦に打って出るか。アイツの言うようにロゴスを倒せば、この戦争は終わる」

 

「あの放送があってから各地で暴動が起きてるって。リストに上がってた人達が次々に捕まって、それでも逃げたメンバーがヘブンズベースに立て籠こもってる。でもあそこも大きな基地だから、急がないとどこかに逃げられちゃう」

 

「逃げるとしたら宇宙だ。地続きの地球では逃げる場所も限られる」

 

「だから絶対に失敗出来ないんでしょ。それなのに脱走者だなんて……」

 

「連合も戦力を強化して居る。またあの時のモビルアーマーが投入される可能性もある。そうなれば苦戦は免れない。だが、仮に上手く行って戦争が終わったとしても平和になるとは限らない」

 

「どう言う事? その為に議長はあそこまでしたのに。ならどうしたら世界は平和になると思うの?」

 

メイリンもギルバードの放送を聞いた1人であり、彼の言葉に感化されそれ以外に平和になる方法はないと信じて居る。

異論を唱えるヒイロは、過去の経験からプラントの未来を考えた。

 

「ロゴスと連合を倒す。その次はザフトだ」

 

「ザフトって、味方なのにどうして!?」

 

「この世にモビルスーツがある限り世界は平和にはならない。兵器がある限り、また俺達のような兵士が必要となって来る」

 

「だったらモビルスーツを失くすだけでザフトを倒す必要は無いんじゃない?」

 

「平和に必要なのは主義や主張ではなく平和を望む心だ。それが実現出来ればザフトは必要ない。この戦争が終わった後の事、少しは考えておけ」

 

ヒイロの言う通り、デュランダルは戦争後の統治をどうするのかを一切言葉にしてない。

けれども今の目標はロゴスを撃つ事であり、その後の事は誰にもわかる筈がなかった。

言われてメイリンはプラントで過ごす両親の事を思い出す。

 

///

 

警告音が響き渡る中で、デスティニーの調整作業を進めて居たシンはコクピットに乗り込んだ。

コンソールパネルに指を伸ばしOSを起動させる。

バッテリー電力を供給させ、司令部に通信を繋げた。

 

「こちらミネルバ隊のシン・アスカです。何があったのですか?」

 

『脱走者だ。今居場所を突き止めてる』

 

『脱走だって!? こんな時に!! それで、誰が逃げ出したのですか?」

 

怒りをあらわにするシン。

裏切り者をこのまま逃がすつもりはなく、許すつもりもない。

司令部に聞き返すが、突然他の通信が割り込んで来る。

繋げると戦闘画面に『SOUND ONLY』の文字が現れ、レイの声が聞こえて来た。

 

『シン、聞こえるな?』

 

「レイ、どうした? 脱走者が――」

 

『その脱走者はアスランだ!!』

 

声を上げるレイにシンは息を呑む。

考えは同調出来なかったがまさか敵になるなどとは想像出来ない。

自分達を裏切った事に怒りがこみ上げるシン、は操縦桿を強く握り締め歯を食いしばる。

 

『俺は地上から奴を追い掛ける。シンはもしもの為にモビルスーツの準備を』

 

「わかった。デスティニーを使う」

 

『頼む』

 

端的に言うレイは通信を切る。

シンも体にシートベルトを通すとヴァリアブルフェイズシフト装甲を展開させた。

灰色だった装甲がトリコロールカラーに変わり、ツインアイに光が灯る。

その瞳からは赤い血の涙が流れてるかのよう。

 

「司令部へ、ハッチを開放してくれ」

 

装甲の至る所に付けられて居たケーブルがカットされ、ゆっくり歩き出すデスティニーは開放されたハッチから格納庫を出る。

外は夜の闇に覆われ、雷光と雨が吹き荒れて居た。

 

『こちらB-19区画。脱走者を発見した。ゾノを強奪、海から逃げるつもりだ。至急、応援を要請する』

 

「レーダー確認、そう遠くないな。武器は……」

 

初めての機体に操作がまだ完璧ではない。

マニュアルを確認し、背部にマウントされた大型ビームソード、アロンダイトを選択しマニピュレーターを伸ばす。

グリップを掴み前に構えるデスティニー。

折り畳まれた刀身が展開され、全長を上回る刀身があらわになる。

シンはペダルを踏み込みメインスラスターを吹かし、赤い翼を広げデスティニーを空に飛ばす。

大空にはばたくデスティニーは海へ逃げようとするゾノを視認した。

 

「見つけた、アイツだな!!」

 

敵を見つけてからの行動は早かった。

加速する機体は雨を振り払い、空気を斬り裂くように突き進みゾノの頭上を取る。

アロンダイトを両手で握り大きく振り上げ、急降下と同時に振り下ろす。

 

「はあああァァァッ!!」

 

鋭い切っ先は空気を裂き、エネルギー刃は触れるモノ全てを焼く。

だがそれも、ゾノはスラスターを駆使して前方に飛び付くようにして何とか回避する。

頭部に付けられて居た白いアンテナは半分に切断された。

コクピットに座るアスランは、見た事のない新型機に舌を巻く。

 

「ヘブンズベース攻略用に開発された新型か。ともかく今は、海に逃げるしかない」

 

アスランにはこの機体で海に逃げる他選択肢がない。

何とか外を目指すが、目の前にはデスティニーが立ち塞がる。

 

「くっ!? もう少しの所で」

 

「抵抗せずに投降しろ!! もう逃げられないぞ!!」

 

「その声は……シンなのか!?」

 

外部音声から聞こえて来るのは一緒に戦って来た仲間のシンの声。

相手であるシンにもその声は届いて居た。

 

「アスラン!? どうしてアンタがこんな所に居るんだ!!」

 

「止めろシン!! 俺はもうここには居られない。議長の言葉には従えない!!」

 

「なに!?」

 

「俺はもうオーブとは戦わない。アークエンジェルともだ。本当の敵が誰なのかがわかった」

 

「本当の敵だって……」

 

「俺はザフトには居られない。お前だって、オーブとは戦いたくない筈だ。ロゴスにはオーブの政治家も関与して居る。また戦うかもしれないんだぞ」

 

その言葉にシンは息を呑み、そしてトダカに言われた言葉を思い出す。

 

(認めなくてはならない。オーブの理念はこの時代に必要なくなったのだ。だからシン君、時代を受け入れるんだ。強く−−)

 

強く胸に刻まれた言葉。

彼の最後の声は今のシンを強く奮い立たせる。

怒りではなく、確固たる信念で。

 

「俺は自分の意思で戦って来た。またオーブと戦う事になっても、それが平和へと繋がるのなら誰だろうと戦う!! アンタとだって!!」

 

「くっ!!」

 

海へ逃げようとするアスランのゾノはアスファルトの上からスラスターを全開にして滑るように突き進む。

装甲と擦れ合い飛び散る火花は濡れた路面に消える。

足元へ突き進んで来るゾノに、シンは反射的にメインスラスターを吹かし飛び上がった。

加速し突き進むゾノは反転し視界を確保すると、両腕に内蔵されたビーム砲をデスティニーに向ける。

トリガーが引かれ、細かなビームが連続して発射されるが、左腕のシールドに防がれてしまう。

 

「アスラン。アンタが敵になるのなら、俺は撃つ!!」

 

戦いながら思い出すのは、ローエングリンゲート攻略作戦後に言われたアスランの言葉。

初めて乗る最新鋭機を動かしながらも、シンの頭の中にはその時の記憶が鮮明に蘇る。

 

(はい。でも1つだけ聞かせて下さい。俺がした事は本当に間違いだったんですか?)

 

(命令違反、規則として見たらキミの行動は間違ってた。事は政治にも関与してる。軽率な行動と言わざるを得ない。けれどもキミは言った、誰かを助けたいと。助ける為にやったと。その感情は絶対に忘れてはダメだ)

 

シールドを構えビームを防ぎながら加速するデスティニー。

最新鋭のデスティニーの機動力を前に、水陸両用のゾノでは相手にならず簡単に追い付かれてしまう。

ビームの中を掻い潜りアロンダイトで横一閃。

一瞬にして溶解する装甲。

ちぎれ飛ぶゾノの右腕は駐車されて居たエリカの真上に落下しボディーを押し潰す。

それでもまだスラスターを全開にしてアスファルトの上を滑るように移動する。

逃すまいとシンは機体を加速させ、右マニピュレーターをズングリしたゾノの頭部へ伸ばした。

 

「もう迷いはない!! プラントの平和の為に、俺は戦う!!」

 

「シン!! 議長は――」

 

裏切ったアスランの言葉がシンに届く事はない。

伸ばされたマニピュレーターは、残されたゾノの大型クローを掴んだ。

ビーム砲の銃口をアスランはデスティニーに向けようとするが、マニピュレーターに内蔵されたむき出しのビームジェネレーターから光りが発生し、ゾノの左腕を吹き飛ばす。

 

「ぐぅぅぅっ!! だが退路は見えた!!」

 

損傷するゾノにはもう満足な戦闘能力は備わってないが、損傷による爆発をも利用してアスランは機体を動かす。

残って居るスラスター出力を全開にし、装甲を擦り付けながら滑る先には、小型船舶の港がある。

ボロボロになりながらも、ゾノは海中へと逃げこんだ。

レーダーにも探知されず、真夜中の海ともなれば視認も出来ない。

デスティニーと言えども水中での動きは汎用機と大差がなくなってしまい、損傷してるゾノに追い付く事は出来ず、雨が吹き荒れる中でシンはずっと眺めて居た。

 

「アスラン……コレが俺の導き出した答えだ」

 

///

 

嵐は過ぎ、翌日にはデュランダルからタリアにアスランが脱走したと伝えられた。

原因は未だ不明だが軍として彼を許すわけにはいかず、アスランはザフトから除名される。

突然の事で混乱するクルーも居るが、そんな事を言って居る時間はない。

デュランダルはジブラルタル基地の戦力を集結させ、ロゴスの逃げ込んだヘブンスベースの攻略作戦を言い渡す。

けれどもミネルバはこの作戦には参加せず、マスドライバーで宇宙に上がる準備を進めて居た。

艦のモビルスーツデッキには2機の新型が運び込まれ、ハンガーに固定された状態で最終調整に入る。

デスティニーのパイロットはシン、レジェンドのパイロットはアスランの代わりにレイが任命された。

残るインパルスはルナマリアが搭乗する事となり、ヒイロは営倉に入れられたまま。

3人はデッキに集まり、今後の事に付いて話し合った。

 

「俺達はこの作戦に参加出来ないのか。ロゴスを撃てるかもしれないのに」

 

「シン、これも作戦の内だ。もしも逃げられた時の事を想定して宇宙にも部隊は必要だ。地上は気にせずとも他の部隊がやってくれる。今は目の前の事に集中するんだ」

 

「わかってる。この戦いでロゴスを撃てれば、世界から戦争は失くなるんだ」

 

「あぁ。この戦いが終われば、議長が導いて下さるだろう」

 

刻一刻と時間が過ぎる中で、ルナマリアは窓から外の様子を見た。

準備された100を超えるモビルスーツや艦隊を前にして、あまりの迫力に息を呑む。

 

「凄い!! これじゃ制圧されるのも時間の問題ね」

「だが向こうも戦力を整えてる筈だ。一筋縄では行かない。あの時のモビルアーマー、デストロイが配備されてる可能性もある」

 

「デストロイ……そう言えばシン、あの子はどうなったの?」

 

あの子、ステラ・ルーシェはミネルバに救助され医務室で眠って居る。

ネオが用意したデータのお陰で治療はスムーズに進んで居るが、それでも数日で治るようなモノではない。

今もまだ、呼吸器を付けた状態のまま動けないで居る。

 

「ステラはもう大丈夫。すぐには無理でも、体は確実に良くなってる。時期に動ける日も来るって先生は言ってた」

 

「そう。ロゴスを倒せは、ステラみたいな子も居なくなるよね? その為に戦うのは、充分な理由になると思う」

 

「こんな事は繰り返えさせちゃダメなんだ。絶対に」

 

敵を倒し、戦闘を失くし、世界に平和を呼び戻す。

3人は決意を新たにして宇宙へと上がる。

 

///

 

ジブラルタル基地から無事に逃げたアスランは、クライン派のメンバーに保護され海底基地で修理をしているアークエンジェルに行く。

アークエンジェルは今までの戦闘のダメージの蓄積と、フリーダムが動けない状態では戦力が圧倒的に下がる為に動けないで居た。

モビルスーツデッキには破損したままの状態でハンガーに固定されたままのフリーダムと、逃げ出す時に使用したゾノ、そしてストライクした配備されてない。

 

「だいぶ酷くやられているな」

 

アークエンジェルの現状を把握するアスランはデッキで機体を眺めて居ると、奥から艦長であるマリューがやって来た。

久しぶりに見るアークエンジェルのクルーを見てアスランは安堵する。

 

「ラミアス艦長!! お久しぶりです」

 

「アスランこそ久しぶりね。でも急にどうしてこんな事を?」

 

「このまま議長の指示に従うのは危険だと感じました。確かに彼の言う事は正しい様に聞こえますが、その為に邪魔となるモノは強引にねじ伏せています。このままではまたオーブと戦う事になる。それが嫌で……」

 

「そう、わかった。でも見ての通り、今はどうする事も出来ない。デュランダル議長の宣言で世界の動きも気になるし、戦力が整ったとしても迂闊には出ては行けない」

 

「わかってます。だから出来る事から始めて行きます」

 

「なら医務室に行ってくれる?」

 

「医務室……ですか?」

 

素っ頓狂な声を上げるアスランに、マリューは意地悪く笑みを浮かべるだけ。

それ以上は何も言わずに、アスランは黙って医務室に向かうしかなかった。

久しぶりに歩くアークエンジェルの内部はどこも変わっておらず、アスランは懐かしさを噛み締める。

向かった先にある医務室の扉、壁に設置されたパネルを触りエアロックを解除すると中に足を踏み入れた。

中に居たのは親友であるキラの姿。

 

「ムウさん。水、持って来ましたよ」

 

「何回言えば分かるんだ? 俺はネオ・ロアノークだっつてんだろ!!」

 

「今はまだ思い出せてないだけです。暫くすれば元に――」

 

エアロックの音に言葉を切り振り返るキラ。

視線を合わせる2人は、久しぶりの再開に心から喜んだ。

 

「キラ、数カ月ぶりだな」

 

「アスランも。あの時より、少し痩せたんじゃない?」

 

「いろいろあったからな」

 

皮肉を込めて言うアスランにキラは微笑むだけ。

その様子を傍から見てたネオは、キラが持つ水の入ったチューブを奪い取り喉を潤す。

 

「あっ!?」

 

「フン、お前がさっさと渡さねぇからだよ」

 

アスランはベッドに座る人物を見て息を呑んだ。

それは2年前の大戦で戦死したと思われたムウ・ラ・フラガの姿だから。

驚きに目を見開き、そして早足で彼に駆け寄る。

 

「フラガ大尉、生きて居たのですか!?」

 

「あん、誰だお前? それとな、俺の名前はネオ・ロアノークだ。1回で覚えろよ」

 

「ネオ? 何を言って。アナタは――」

 

驚くアスランだが、そこでキラに肩を掴まれてしまう。

無言で頭を左右に振る彼に、アスランは口を閉じた。

 

「行こう。この事は部屋で説明するから。まだキミの部屋は残したままなんだ。ムウさん、飲み終わったらちゃんと自分で捨てて下さいね」

 

「チッ、わかってるよ。ガキじゃねぇんだぞ」

 

名前を間違われて舌打ちするも、諦めたネオは渋々返事を返す。

キラもそれを確認すると、アスランと一緒に医務室を出た。

通路を歩き向かう先は、昔と変わらない場所に割り振られたアスランの部屋。

エアロックを解除して、2人は部屋の中に入った。

 

「本当に何も変わってないな」

 

「そうだよ。それよりもさっきの事だけど」

 

「あぁ、まさか生きてるとは思わなかった。2年もどうやって……」

 

「あの後にどうなったのかはわからない。けれどもムウさんは記憶を失くして連合軍に入ってた」

 

「連合軍に?」

 

「うん、記憶が失くなっても操縦の感覚は残ってるのかも。それでパイロットを。今は自分の事をネオ・ロアノークだと思ってる」

 

「そうか、そんな事が」

 

ようやく現状を把握出来たアスラン。

生きて居た事を喜ぶも記憶の事はどうしようもなく、時間が解決するのを待つしかない。

アスランは動けないアークエンジェルでこれからどうするのかをキラに聞く。

 

「だいたいの事は理解した。フリーダムは大破、いくらお前でも旧型のストライクで戦うのは無理がある。これからどうする?」

 

「ラクスが宇宙に上がって新しい機体を準備してくれて居る。アスラン、キミのもね。でもロールアウトするのがいつになるかまでは僕にもわからない。ラクスも急いでくれてるけど」

 

「ザフトと言う強大な戦力を持っている議長が連合とロゴスを撃った後にどうするのか。強大な権力や力は人を狂わせる、議長もその1人なのかもしれない」

 

「ザフトはロゴスを撃つと世界に放送したけれど、リストの中にはオーブの政治家も居た。このままだと、オーブはまた戦闘に巻き込まれるかもしれない。悔しいけどどうする事も出来ない。カガリを信じるしか」

 

「カガリ……」

 

部屋の雰囲気が重くなり、それに気が付いたキラはなんとか場を和ませようと周囲に視線を巡らす。

アスランの部屋にはゾノのコクピットに入ってたカバンが持ち込まれており、キラはその中身が気になった。

部屋の隅に置かれたカバンに指を指す。

 

「ねぇ、アスラン。そのカバン何が入ってるの?」

 

「あぁ、たいした物なんかじゃない。ここに来る前に使った銃が入ってるだけだ。ロックは掛かってると思うが注意してくれ」

 

言うとアスランはカバンに近寄り中を開け武器を取り出した。

使用した銃、そのマガジン。

手榴弾も数個入って居た。

取り出した武器を床に並べていくが、その中で1つだけ異彩を放つ物が入って居る。

 

「これは……」

 

「クマの人形? どうしてこんなのが?」

 

「そもそも俺のカバンではないからな。誰のかもわからない部屋に入ったら置いてあったんだ」

 

無骨な武器ばかりが並ぶ中で、手触りも柔らかい人形がアスランの手に。

疑問に感じるアスランだが、あの時は必死でカバンの中に人形が入ってる意味は考えてもわからない。

部屋のインテリアにするつもりもなくどうするか悩んでると、キラはその人形を手に取った。

 

「ラクスはこうゆうの好きだろうから。貰っても良いかな?」

 

「あぁ、彼女なら喜ぶだろ」

 

「ありがとう、大事にするよ」

 

一時的ではあるが訪れる安息の時間。

それでも今、世界は激動の時代の流れに飲み込まれて居た。

 

-5ページ-

 

第25話 決戦の宇宙

 

遂に始まるロゴス殲滅作戦。

連合のヘブンズベースに逃げ込んだメンバーを捕まえる為に、ザフトは大規模部隊をジブラルタル基地から送り込む。

けれどもそこにロード・ジブリールの姿はない。

数時間にも及ぶ激闘の末にヘブンズベースは陥落。

ロゴスのメンバーも多数捕まるが、本命であるジブリールが居なくては意味がなかった。

捕まえたモノ達の証言から、ジブリールはオーブに逃げた事がわかる。

この事はザフト全軍に伝えられ、ヘブンズベース攻略後に行き着く間もなくオーブ本島へとザフトは向かう。

オーブ連合首長国代表首長のカガリ・ユラ・アスハは、自国に亡命して来たジブリールと謁見する事となる。

スーツを身に纏い会議室に向かうカガリ。

大きな木製の扉を開けた先には、長机と幾つもの椅子を挟んだ向こう側に彼が居た。

カーキ色のスーツ、唇には紫の口紅。

気を引き締めるカガリは大きく口を開け声を張る。

 

「ロード・ジブリール氏、お待たせした。オーブ連合首長国代表首長のカガリ・ユラ・アスハだ」

 

「代表自ら来て下さるとは」

 

「今の世界の状況をおわかりか? 世界中がアナタを狙ってる」

 

「それで? 指示は届いてる筈ですよ。太平洋連合と協力しザフトを退けろ、と。オーブはもう連合と同盟を結んだ。オーブだけ独自に動くなどしたらそれなりのペナルティはある。最悪の場合、同盟を解き連合とザフトに板挟みにされる。それでも良いのですか?」

 

「それは……」

 

カガリの心情では、このままジブリールを野放しにして置く事など出来ない。

だか彼の言う通り現在オーブは連合と同盟を結んでおり、たった1人の私情で相手国の通達を無視など出来る筈がなかった。

苦虫を噛み潰した表情になるカガリだが、ジブリールの言葉に逆らえない。

 

「代表、アナタは自分の責務を真っ当して下さい。私はマスドライバーで宇宙に上がる。それまでザフトの相手は任せます。心配せずとも大丈夫、私が宇宙に上がればレクイエムが流れる」

 

「レクイエム?」

 

「えぇ、そうすればザフトなど恐るるに足りません。勝てるのです、この戦争に。その時こちら側に居たければ、何をすべきかはおわかりですね?」

 

ヘブンズベースが陥落した事で連合軍の増援は期待出来ない。

これから数時間後には来るであろうザフトを前に、オーブは自国の戦力のみでジブリールを逃がす為に戦わなくてはならなかった。

オーブの戦力だけでザフトに勝てる可能性は低く、ジブリールは自分が逃げる為だけの捨て駒程度にしか思ってない。

その事が余計に悔しく、爪が食い込む程に両手を握り締め震えるが、ジブリールは見透かしたように鼻で笑うだけ。

 

「では、私は失礼するよ。悠長にしてられる程の時間はないのでね。アナタも急いだ方が良い。でないと、オーブは再び戦火に飲まれる事になる。もうすぐザフトが来る」

 

言うとジブリールは1人この場から去ってしまう。

残されたカガリもこのままここに居る訳にはいかず、市民の誘導や現場を把握する為に作戦司令部に向かおうと振り返る。

扉を開け会議室を出ると、そこに居たのはユウナの姿。

 

「ユウナ……」

 

「悔しいかい? 1番の悪が逃げてくなんて」

 

「デュランダル議長の言う事が正しいのなら、アイツがこの戦争を引き起こした。利益の為だけに大勢の人間を巻き込んで。その上まだ自分だけは逃げようとして。許せるもんか」

 

「でも彼の言う通りオーブは同盟を結んでる。通達も来た。数時間後には来るザフトを何としても退けろ、とね。僕だって別にアイツの肩を持つつもりはないけれど、そう言う風なシステムになってしまってる」

 

「このままアイツの思い通りに事を進めるしかないのか? 私は……」

 

「いいや、やりようはあるさ。幸いにも連合はヘブンズベースをやられたせいで戦力は乏しい。本土の防衛はこちらの軍だけでやらなくてはならない」

 

「それが何だと言うんだ? どちらにしても戦闘は避けられない。連合に加担しても、裏切っても、その先にあるモノは……」

 

悔しさを滲ませるカガリの肩にユウナはそっと手を乗せた。

 

「状況を良く考えるんだ、カガリ。連合を裏で牛耳って居たロゴスが失くなれば、向こうは存続の維持に立たされる程の危機だ。何と言っても連合だってロゴスの商業システムにハマってるんだ。彼らが居なくなれば資金源も失くなる。そして戦う意味も意義も失ってしまう。そうなれば解体だって視野に出る」

 

「連合が……解体……」

 

「そうさ。連合は設立されてまだ日が浅い。各国の首脳も、そこまで思い入れがあるものか。まずは自国を優先させる。僕達だってそうだよ。ロゴスなんて後回しさ」

 

「でも……そうすればオーブは連合から報復されるぞ?」

 

「オーブが同盟を結んだのは連合とだ。それなりの形にはするさ。その為には、軍の配置を少し変える必要がある。手伝ってくれるね?」

 

提案するユウナの言葉にカガリは力強く頷く。

さっきまでの弱気は奥底に押し込み、2人は基地司令部へと急いだ。

数時間後、オーブ海域にはザフトの艦隊が押し寄せて来る。

デュランダルはジブラルタル基地から、むかわせた艦艇と通して現場の状況を見て居た。

 

「この配置……どう思う、艦長?」

 

「どう、と言われましても。基地を守る気がないとしか……」

 

基地司令部で、デュランダルの隣に立つ白服の男は言う。

レーダーに反応するのはオーブ本島に建設された基地。

ところが防衛部隊は1機たりとも居らず、殆どの機体が線を引いたように民間居住区を守る為に横並びで立って居る。

そして残る機体はマスドライバーをグルリと囲んで居た。

 

「地下シェルターに残りの戦力を隠して居るとも考えにくい。やはり気になるのはマスドライバーだな。艦長、念の為に私からオーブに最終勧告を行う。繋げてくれ」

 

「はい、わかりました」

 

デュランダルは少し歩き通信士の座る通信機にまで足を運び、使ってたインカムを受け取るとマイクに向かって声を出す。

 

「私はプラント最高評議会議長のギルバード・デュランダル。オーブ連合首長国代表のカガリ・ユラ・アスハと話がしたい。応答願う」

 

デュランダルの言葉から数秒後、重苦しい空気が漂う中でモニターの映像が切り替わる。

そこに映るのは代表であるカガリと補佐を務めるユウナの姿。

デスクに座る彼女の視線はモニター越しでも鋭い。

 

『私はオーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハだ。議長自らとは、如何な事情か?』

 

「通達は行いました。そちらのオーブに我々が求める人物が逃げ込んで居る。付きましては無条件でこちらに引き渡して貰いたい』

 

息を呑む音。

覚悟を決めるカガリはデュランダルに対して答えを言う。

 

『現在、オーブは連合と同盟関係にある。その連合から、彼を宇宙に逃がすようにと指示があった。同盟国であるオーブは、その指示に従う必要がある』

 

「では私の言葉は聞き入れるつもりはないと?」

 

『オーブは彼を宇宙に逃がす。ザフトがそれの邪魔をすると言うのなら、戦闘行為も止む終えない』

 

「そうですか。わかりました」

 

言うとデュランダルはインカムを通信士に返し、通信が途切れると同時にモニターに映る彼女の姿も消えた。

顎に手を添えて考える彼は、数カ月前のカガリを思い出す。

 

(あの時と比べれば、少しは成長したと言う事か。被害は最小限に、表面上はこちらの要求を跳ね除け、同盟を結んだ連合の指示に従う。ロゴスが居なくなれば連合の存続も危うい。問題はそれまでの間、自国の戦力だけで持ち堪える事が出来るかどうか。そこは彼女の力次第か)

 

デュランダルはカガリが言った、ジブリールが宇宙に逃げると言う言葉を信用した。

レーダーに映るオーブ軍の配置を再度確認し、前線部隊に指示を出す。

 

「ジブリールはマスドライバーで宇宙に逃げるつもりだ。全軍、シャトルの発射前に奴を叩け!!」

 

デュランダルの宣言に従い、前線部隊は行動を開始する。

領海内にまで侵攻するザフトに対し、オーブ軍は一切の攻撃をしなかった。

その行為はシャトルで脱出を図るジブリールにも伝わり、彼は心底怒り狂う。

 

「何を考えてる!! これではここに居る事が丸わかりではないか!! あの小娘、私を売ったな!!」

 

叫ぶジブリール、それでも状況が変わる事はない。

迫り来るザフト軍にオーブ軍は抵抗らしい抵抗をしなかった。

ビームや砲撃をしても威嚇や牽制のみで本気で当てるつもりはない。

近づいて来ればすぐに後退し、完全なる出来レースが行われて居た。

カガリはユウナと共に基地司令部で事の成り行きを見守りながら、これからに付いて考える。

 

「いよいよ始まったのか。これで被害を抑えられれば良いのだが」

 

「こちらの意図は相手にも伝わってる筈です。現にザフトの殆どの部隊がマスドライバーに向かって居る。問題はシャトルの準備は全て向こう側が進めてると言う事。急いでくれないと間に合わないかも」

 

「だが、もしも逃げられたら……」

 

「その時はまた別の行動を取るまでだ。カガリ、相手の動きを見てから動いて居たのでは遅すぎる。その為の準備、2手3手先を読んで作戦を考える必要がある。市民の避難準備も進めて居る。それに思惑通りに行こうが行くまいが、連合とザフトとは会合する必要がある。キミはそこまで考えて動かなくてはダメだ」

 

今のカガリには目先の現実に対処するのが精一杯で、この後の事まで考えられる余裕はない。

そう言われても、目の前に起こるザフトの侵攻とジブリールの脱出が気になって、他の事を考えてる場合ではなかった。

侵攻から暫く時間が経過すると、マスドライバーに動きが見える。

1隻のシャトルがマスドライバーのレールの上に乗った。

 

「もう準備が出来たのか? 早すぎる」

 

カガリの声にユウナは目を細める。

映像に映るのはオーブで用意したシャトルではあるが、何か違和感を感じた。

けれども答えを導き出すよりも早くに、ブースターを装着したシャトルはレールから動き出す。

ザフト軍も当然シャトルを見つけ出し攻撃に移る。

ブースターから点火したシャトルは速度を上げて空を飛ぼうとするが、推進剤の量が少なく本来よりも遅く、レールから飛び立つ前に撃破された。

 

「アレはジブリールが乗ったシャトルだったのか?」

 

「わからない。でも何か変だ。彼がこんな無謀な事をして死ぬような人間には思えない。何か他に……」

 

シャトル撃墜によりザフト軍の侵攻も緩やかとなる。

ジブリールは既にマスドライバーから移動して居た。

カガリの思惑を知ったジブリールはこのままでの脱出は困難と判断し、セイラン家が独自に所持する地下施設へ向かう。

そこにあるのはいつでも宇宙に上がれるように準備された別のシャトル。

 

「あるではないか。これで逃げられる。すぐに準備しろ、遅くなればここで死ぬだけだ!!」

 

言われてジブリールの護衛に当たる複数の連合兵はシャトルのコクピットに乗り込んだ。

今の基地は被害を最小限に留める為にもぬけの殻にして居た。

その事が仇となり、ジブリールにシャトルの存在を知られてしまう。

 

「ふふふ!! 私さえ生きて居れば状況は立て直せる。そしてレクイエム!! オーブ……カガリ・ユラ・アスハ!! まずは貴様に生け贄になって貰うぞ!! この怒り、2度と忘れん!!」

 

ジブリールを乗せたシャトルは動き出す。

外では戦闘の音は鳴り止んでおり、波の音が聞こえるくらいに静まり返る。

発進したモビルスーツも武器を収め周囲の索敵に務めており、あまりに呆気無い結末にザフトも警戒して居た。

オーブのカガリも正確な状況が把握出来ず、軍に指示を出す事が出来ない。

 

「残骸を回収するしかないな。マスドライバーもシャトルもオーブのモノだ。ザフトも干渉して来ないだろう」

 

「現状ではそれしか出来ないけれど……」

 

疑問を浮かべるユウナだが、出来る事は限られて居る。

カガリの言うように破壊したシャトルの残骸を確かめるしかないと考えて居ると、突如として地下シェルターが開放された。

そこにはセイラン家が独自に用意したシャトルが配備されており、ジブリールはそこに居る。

だが気が付いた時にはブースターに点火しており、加速するシャトルは重力から解き放たれた。

高々と上がる白い雲、もはや止める術はない。

 

///

 

宇宙へと上がったミネルバ。

もしもの時の為と準備して居たが、その状況が本当に起こってしまう。

ブリッジでは宇宙に上がる1隻のシャトルをレーダーで確認し、逃すまいとタリアは進路を取る。

 

「ミネルバ面舵50、オーブのシャトルを追います」

 

「艦長、あの方角は月に向かってるのでは?」

 

「わかってます。月には連合のダイダロス基地もある。防衛部隊が展開されれば我々だけでは太刀打ち出来ない。その前に追い付けなければ、また取り逃がす事になる。だから急いで!!」

 

「了解です!!」

 

返事を返すアーサーはレーダーにもう1度視線を移す。

ダイダロスの防衛圏内にシャトルが到達するまでに間に合うかどうかはギリギリの所だった。

ミネルバが作戦を開始する中で、ルナマリアは自室でアスランが脱走した事に心痛めて居る。

仲間として、上官として信用して居た彼が理由もわからずに居なくなり、彼女の精神状態は酷く不安定だ。

ジブラルタル基地からミネルバに戻ってからはずっと自室に引き篭って居る。

 

「アスラン、私どうしたら……」

 

電気も付けずベットのシーツに包まる。

メイリンは自分の業務がありまだ部屋に戻れない。

何もやる気が起こらず、このまま寝てしまおうと思って居ると、突然部屋のブザーが鳴った。

 

「今はそんな気分じゃないの……」

 

居留守を使おうとするがブザーは鳴り止まない。

いつまでも鳴り続けるブザーに耳が痛くなり、我慢出来なくなったルナマリアがベットから出る。

 

「わかったわよ、うるさいわね」

 

ゆっくりと歩きながら部屋のドアを開けると、そこには意外な人物が立って居た。

 

「ヒイロ!?」

 

「メイリン・ホークは居るか?」

 

「今は部屋には居ない。ブリッジじゃない?」

 

「そうか、ならコレを頼む」

 

そう言ってヒイロは手に持った物を渡す。

それはラクス・クラインの映像ディスクのパッケージ。

ルナマリアは手渡されたソレを見て、妹の行為に呆れてしまう。

 

「この前メイリン・ホークが部屋に来たときに置いていった」

 

「そう……ありがと。後で渡しておくから」

「話はそれだけだ」

 

ヒイロは用が済むとルナマリアの部屋から出て行こうとする。

背を向けるヒイロにルナマリアは大声で呼び止めると感情をぶつけた。

 

「待って!! ヒイロはアスランの事どう思ってるの?」

 

「またモビルスーツに乗って戦場に来れば、アイツは俺の敵だ。許される行為ではない」

 

「そう……そうよね」

 

「アスランはまた戦場に来る。そうなったらお前は戦う事が出来るのか?」

 

ルナマリアはその質問に答える事が出来ず下唇を噛む。

アスランの脱走はあまりに突然の事で気持ちの整理がまだ付いてない。

 

「あと少しで戦闘が始まる。気持ちに迷いがあると死ぬぞ」

 

言い捨てるヒイロはルナマリアの部屋を立ち去る。

ヒイロの言葉をルナマリアはただ呆然と聞くしか出来なかった。

ジブリールが宇宙に逃げた事で、ジブラルタル基地のデュランダルとラクスもシャトルで上がる準備を進める。

ザフトの機動要塞メサイアに戻り、地球連合軍、ロゴスと最後の戦闘を行う。

メサイアに指示を送るデュランダル。

そしてラクスは宇宙に集結しつつあるザフト軍に通信越しにエールを送った。

 

「ラクス・クラインです。長きに渡るロゴスとの戦いも終わろうとして居ます。ロゴスがこの世から無くなる事で、世界は平和への第1歩を踏み出す事が出来る事でしょう。平和を望むプラントの人々の為にも、ロード・ジブリールなる人物を許しておく訳には参りません。ザフト軍の兵士の皆様、勇気と誇りを胸に最後まで戦い抜いて下さい。今の私に出来る事はコレぐらいしかありません。ですが、平和を望む気持ちは皆様と同じです。せめてもの祈りを捧げます」

 

目をつむり両手を握り締めるラクス、その姿を見て兵の士気が高まる。

数秒後には画面が切り替わり、今度はデュランダル議長が映し出された。

 

「諸君、通達した通りロゴスのロード・ジブリールは宇宙へ逃げた。今はミネルバ隊が彼を追ってるが、もしも間に合わなければ月のダイダロス基地との戦闘になるかもしれん。だが、どんなに辛く厳しい戦いであろうとも、彼を撃つ事が出来ればこの戦争は終わる。もうこれ以上ロゴスの暗躍は許しておく事は出来ない。よって次が最後の戦場となる!! 地球とプラント。ナチュラルとコーディネーター。ロゴスが居る限りは、この両者がわかりあう事もない。諸君らの力を今一度貸して欲しい。そして私は、プラント最高評議会議長として、今の世界をより良い世界に変えると約束しよう!!」

 

各地で上がる歓声。

シンはステラの眠る病室で議長の宣言を見て居た。

彼女の隣でモニターを鋭く見つめるシン。

 

「戦争が終わる。今度こそ本当に……」

 

デュランダルが宣言したより良い世界、シンはこの言葉の意味を考えて居た。

 

(戦争が終わったら、世界はどう変わるんだ? そして戦争が終わっても、俺は軍に居るのか?)

 

ポケットのマユの携帯電話を握り締める。

震える怒りと悲しみは今の戦争が終わっただけでは収まらない。

家族を殺した青い翼を持つモビルスーツ、フリーダムだけは許す訳には行かなかった。

 

「けれど戦争が終わっても、アイツだけは!!」

 

「シン……顔怖い……」

 

「えっ!?」

 

驚きながらも視線を向けると、ベッドに眠るステラが目を覚ました。

まだ血色は悪く、まぶたを開けるのも弱々しい。

震えるステラを見て、シンは瞳に涙を溜めて彼女を強く抱き締めた。

 

「ゴメン、ステラ。もう大丈夫だから、安心して」

 

「シン?」

 

(そうだ、ステラを守る為にも俺は戦わなくてはならない。今度こそ倒す、絶対に!!)

 

ステラはこれ以上は何も言わず、ゆっくりシンの背中に両腕を回すとそのまま眠ってしまった。

説明
コズミック・イラ73年10月。
地球連合軍とザフト軍による大戦から2年が経過し地球圏、プラント、共に平和な日々が続くかに思われた。
しかし、人類が戦いを辞める事はない。
地球へ向かって降下するユニウスセブンを止めるべくザフトの新造艦ミネルバは動く。
そこに所属するシン・アスカも新型モビルスーツ、インパルスへ搭乗しユニウスセブン落下を阻止するべく行動に移る。
激戦の最中、彼は地球へ進む一筋の流星を目にした。
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コメント
気が付いたのですが、ヒイロはタリア艦長に嘘ついてませんね!?ウイングゼロは(ゼクスから)貰った!間違ってない!!(心は永遠の中学二年生)
誤字報告を1P目:「インパスルは何を!?」 →インパルス 投稿乙でした。アスランの離反やシンの決意が原作以上に自然な形となっていたのは見事だったと思います。これで終盤に向けての役者は揃いましたね。あとはイレギュラーであるヒイロがどう行動するのか。続きをお待ちしてます。(田吾作)
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