人柄スープ
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 俺はしがないラーメン屋だ、一日中スープを煮込んで客が来たら注文を聞いてそれを作って出す、ただこれだけの日々。しかし俺はこのスープに絶対の自信を持っているなんてったって30年間研究に研究を重ねて見つけ出した言わば秘伝のスープだ、研究のために南米から中東果ては南極まで足を運んで仕上げたのだ、そのかいあってか開業してから毎日少なくとも200杯は出している客の入りはそこらの店には負けない、チェーン店にもしていないからレアリティとか言うのもあるらしくまさに知る人ぞ知るラーメンだ、ウチは硬派だからガイドブックにも載せないし、変な客はお断りだ昨日もウチのラーメンにケチをつけた客を追い出してやった。

まったく自分の知ってる味じゃねえからって文句を言いだす奴なんざ客じゃねえ、だいたいああ言う奴が他人のスープを盗んでチェーン店なんかをバカバカ建てる奴に決まってんだ。おっと客が来た。

「へいらっしゃい」

「おやっさん噂の店ってここ?めちゃくちゃ美味くてハマるって聞いたよ」

「どの噂か知らねえけどウチのはうめぇぜ俺が保証してやる」

「お!その自信いいねぇそんじゃラーメン一杯頼むよ」

「あいよちょっと待ってな!」

やれやれ噂の店かってか、まぁラーメン食いに来たんなら客は客だな。それにしても閉店間際に来るったぁな、いつもなら他の客がいなくなるこの時間から仕込み始めんだけどな。

「へいお待ち!熱いうちに喰いな!今日うちの店ラストのお客さんだからチャーシューサービスしといたぜ!」

「おお!ラッキー!そんじゃいただきます!」

まぁ残ったチャーシューが全部無くせたからよしとすっか、暖簾下げちまうかな

「お客さんごめんよ食ってるとこ悪いけど暖簾下げちまってもいいかな?あれ出してるとまた誰か来ちまうからよ。」

「どうぞどうぞ、いやーそれにしても自信満々なだけあってこのラーメン今まで食べた事なかでも最高の味だ。スープが違うのかな?とにかく美味い!。」

暖簾を下げ終わった俺は扉を閉めると店の厨房に戻った

「おうそうかい、しかしなぁこの味も俺の代で終いよ」

「え、なんでこんなに美味いのに」

「弟子がよ、みんないなくなっちまうんだ俺のやり方が気に入らないだとか仕込みの時間がどうとかでよ根性が足らねえんだよ。」

「根性…おやっさん!俺を弟子にしてくれないか!?」

「は?何言ってんだいお客さん?」

「俺はこのラーメンに魅せられちまったみてえなんだこれ食った後はもう他のラーメンが食えそうにねえんだ!」

こいつの目は…若え頃の俺にそっくりじゃねえか

「おめぇさん仕事は?」

「実を言うと無職でね噂に名高いこのラーメンを食ったら向かいのビルに上がって死のうとしてたんだがよ、俺はこのラーメンをも一回食いたくなっちまったんだ頼む!俺を助けると思って弟子にしてくれ!」

っち何から何まで俺に似てやがる、神様さんよ初めてあんたに感謝するぜありがとよ

「家はどこにあんだ?」

「この店から3駅先の駅前にあるアパート」

「…ほらよ3日で引っ越してこい、この近くにあるぼろ家の鍵だ弟子は全員そこに住むようにしてんだ」

「って事はつまり…」

「ああ、弟子にしてやるいいか、明日の朝9時から開店だ絶対に30分前までに来い一度でも遅刻しやがったらてめぇ許さねえからな!」

「ありがとうございます!俺、死ぬ気で働きます!」

「ったりめえだ!腑抜けた事ぬかしやがったらその場で腹かっさばいてやっからな!」

その日から俺には弟子ができた今までの奴らとは違う何かを俺はそいつに見たんだ。最初の一年は皿洗いだこれで根を上げるやつは最初からダメだ次に麺茹でを2年間完璧にできなきゃ本弟子になんかできやしねえ、次にチャーシューの作り方とメンマのつけ方を2年間意外とこいつは筋がいい、いよいよ最後のスープの作り方だな

「今日の仕事も終わったなほらよまかない飯だ」

「おっす!いただきます!」

こいつはあの日と変わらずこのラーメンを喰いやがる

「オメェがこの店に来て5年か…早かったな」

「もうそんなに立ちますか?しかし5年経ってもこのラーメンの味は変わらず無類ですね。」

「俺はなソロソロだと思ってんだ」

「何がですか?」

「そのスープの仕込み方を教えてやる」

初めてこいつがこのラーメンを食ってる時に箸を置くのを見た

「ほ、本当ですか!このラーメンのスープを俺に伝授してくれるんですか!?」

「馬鹿野郎!伝授するんじゃねえ俺から盗むんだよ!!」

「う、うう、長かった俺はおやっさんが俺の事認めてくれてねえんじゃねえかって思ってたよ」

「馬鹿野郎泣くんじゃねえ…ラーメンが延びちまうだろうが」

「はい!」

こいつになら任せられる俺はこの時そう思った。今までの奴らだってここまで来たやつは何人かいた、しかしなその時には俺のこの味を変えてやろうって腹積りの奴らばっかだったからなだから俺は…

「よし!それじゃこっちに来な」

俺は厨房の奥に奴を呼んだ

「こっちは開かずの間だっておやっさん言ってましたね」

「黙って付いて来い、おい入る前に俺に…いやこのスープに誓えここで見た事は全部ここから外には漏らさないっていいか!?」

「わかりました!俺はこのおやっさんのスープにかけて誓う!もしも破った時は俺をこのスープで煮込んでくれ」

「…よし、今の誓いはシャレじぇねえ肝に銘じろ」

おやっさんが開けたその部屋に広がった光景はあまりにも酷くしかし、あまりにも魅力的だった。

中はでかい冷凍庫だったそこに吊るされているのは"人"首にT字のフックが掛けられていて横に皮が伸びているおやっさんはその中から一つを選ぶと俺に言った

「いいか、いいスープをとるには油が乗りすぎてちゃいけねえしかしな、乗らな過ぎってのもダメだこいつらはチャーシューにもなるそこで使うのがこの機械だ」

そこにあったのは大きなスライサーのようなものが付いた中世の拷問器具のようなものだった

「いいか、よく見ておけよこの機械のこの部分とこの部分とに両足をセットするそしたらこいつの腕をこっちにそうだな"貼り付け"る感じだこの作業を早くやらねえといけねえ俺たちが凍っちまうからな。」

おやっさんは冗談を言っているのだろうけれど俺には何一つ冗談に思えなかった。

「よし、っとおい、ちゃんと見てんのか?これはおめえが明日っからやってく事だぞしっかり覚えろ!…ったくまだ早かったか」

俺はとんでもないことに加担してるのかも知れないそんな葛藤をしているうちに向こうの準備が終わった

「よし、そんじゃやるぞまぁこうしたら後は簡単だなこのスイッチを押すと後ろのノコがこっち側に来るあの4枚で腕と足を付け根からぶった切るそれが終わったら下のボタンを押す、すると今度は返す手で手と足の先を切り取ってくれるって寸法よ切り終わった胴体とか手足はその場に落ちるすると下のコンロが程よく温まり解凍を手伝ってくれるちょうど人肌の温度だコレを6時間だな今の時間からやったら明日の朝にはちょうど良い塩梅に仕上がってる」

おやっさんの淡々とした説明はその作業に慣れている風だった

「お、おやっさんもしかして今まで俺が食ってきたスープってのは…」

俺が聞くとおやっさんはいつもの調子で答えた

「おう、俺が作ってきたのは人間で出汁とったラーメンよ」

ひどい吐き気がしたが俺は我慢した、人間でとった出汁を人間が食うなんて道理に反しているそれは頭の中で分かっていたしかしあの味がそんな道理よりも優先されてしまっている自分がいた。

冷凍庫を出た俺達は一旦店の椅子に座って一息つく事にした。

「そ、そうだったのか人間で作った味…これがおやっさんがたどり着いた究極のスープ」

俺の様子を見てやれやれと首を振ると肩に手が置かれる

「おめえの言いてえことは分かる人間が人間喰うなんざお天道さんが許しちゃくれねえってな。でもな考えてもみろこの世の中で一番良いもん食ってんのは人間だそいつらは死んだら灰になったり土にうもったりで何にもなりゃしねえ。目の前に最高の食材が溢れてんのにそいつを喰ったらバチあたりだなんて俺には意味が分からなかった。だから俺はこのスープを作った。俺も美味いもんが好きだからよ世界一美味いもんを自分の手でこの世に残したかったのよ」

そう語るおやっさんの目には涙が溜まっていた俺も感極まって泣きまくった誰かが見たら異様な光景に目を反らすかもしれないがそんなことは気にせず男2人1つ屋根の下で涙を流した一通り泣き終えると俺はおやっさんに言った

「俺はやるよこの最高のスープを俺が継ぐそんで次にまた次に渡していくよそんでいつか世界中の奴らに喰わせてみせるよおやっさんのラーメンをさ!」

鼻をすすり袖で涙を拭くと初めておやっさんの笑った顔を見る

「デケェことぬかす前に俺のスープしっかり盗みやがれ!」

今度は2人で笑いあったその声はいつまでも続くそんな気がした

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30年後

あの後おやっさんは一年も経たずに死んだ多分自分の寿命をおやっさんは分かってたんだなんてたって人を喰ったような人だからその位分かって当然だ、

その後店は取り壊されたあの地下の冷凍庫も見つかってしまって地元の新聞にそれはデカデカと載せられていた俺はあのスープの事を誰にも話さず守り通した。

おやっさんは俺に遺産を残していたスープのレシピと修行のためにとかなりの額の金だった俺はそれを使って世界中を飛んだ以外にもおやっさんは一部の国で名前が知られていた不名誉な名ばかりだったけどでもその国々でおやっさんのラーメンを作るとだいたい上手くいった俺は世界中であのラーメンを作って食べてもらった。

そして5年前日本に戻った、またあの場所にラーメン屋を立てたしばらくは上手くいってたけど噂が飛び過ぎて調査が入ってしまい俺は捕まったそして…

鳴り響く木槌の音

「主文被告を極刑に処す」

俺の裁判が終わった

3年間留置された後絞首台に行く最後のメシにおやっさんのラーメンを頼んだけど結局出てきたのは普通の醤油ラーメンだった、俺はそれをゆっくりと味わいながら食べた。

時間になって最後に言い残すことあるかと聞かれたので俺は

「もしも叶うなら俺をおやっさんのレシピのスープにしてくれそしてできるならそれを食べて欲しい」

と伝えた瞬間体が宙に浮いた

説明
ラーメンがお好き?結構ではますます好きになりますよ。
さぁどうぞ新作のラーメンです。
美味しいでしょう?ああ、仰らないで、
チャーシューが薄い?。でも厚切りなんて歯には挟まるし、すぐ飽きるわ、ろくなことがない
スープもたっぷりありますよ。どんな猫舌の人でも大丈夫、どうぞ飲んでください
…いい味でしょう?秘伝の出汁だ!年季が違いますよ。
1番気に入ってるのは
なんです?
…メンマだ
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