北斗の艦これ イチゴ風味 その2
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【 一悶着 の件 】

 

? 場所不明、名称不詳の某鎮守府内 にて ?

 

この鎮守府の朝は早い。 

 

日が昇る前に建物内から聞こえる挨拶の声、慌ただしく響く靴音。 

 

ある艦娘は、艦隊の仲間達と共に朝早くから遠征に出撃し、また別の艦娘は、通常の業務で急ぎ駆け回る。 鎮守府として国防の末端を担う組織として、これに関わる者ゆえ、皆が皆──多忙であるのは当然のこと。

 

そんな喧騒に包まれた忙しい鎮守府で、更に輪をかけて忙しい場所が──実は食堂だ──と、知る者は……ごく僅かに過ぎない。

 

食材の運搬、料理の下ごしらえ、食器類の準備と色々とあり、それを時間までに料理を美味しく完成させては、食堂に群がる人々を順序よく捌かなくてはならない。 まさしく……『阿鼻叫喚』という四字熟語に相応しい場所である。

 

だが、どんなに規則正しい場所でも、必ず自分の意思を貫く覚悟を持ち込む者が存在する。 どんなに相手が大変だとしても、定められた規則を簡単に破って先例を築き上げる、そんな大食艦の艦娘が……二隻。

 

ーー

 

??「──お腹が空きました!」

 

??「………私も………」

 

ーー

 

風の如き早さで廊下を駆け抜け、林の如き静けさで時刻の確認。 

 

普通、空腹時は苛立つ物だが、壁に掛けられた時計の表示を認識し、冷静に今後の行動を考えたのだ。 食堂の営業時間と今の時間との差を。 だが、理性より本能の方が勝ってしまった。 大食艦ゆえに……だ。

 

ーー

 

??「今は………『午前七時』ね」

 

??「『朝食は八時から』と書いてありましたが、それだけで猛る私の食欲は抑えきれません! 今すぐにも出して貰わないと困りますっ!」

 

??「そうね………では、行きましょう!」

 

ーー

 

二隻は、少しだけ意見を交換した後、食欲に導かれるまま食堂に向かう。

 

そして、荷物の運送で開いていた入り口より、火の如き勢いで食堂に侵入、大勢の者が座るテーブル席を通り抜け、カウンターの椅子に腰を下ろし、山の如く泰然自若に構えると、調理の真っ最中である賄い人へと注文の声を上げた。

 

ーー

 

赤城「────おはようございますっ! 早速ですが、本日のお薦め定食を一つ! 勿論、ご飯は赤城盛りで!! おかわりも直ぐに頂きますので、ご飯の準備をお願いします!! 無論、此方も赤城盛り指定ですからね!!」

 

加賀「…………ん、今日も美味しそうな匂い。 私にも赤城さんと同じ物を……」

 

ーー

 

ここの食堂に賄い人は居るが、間宮さんでは無い。 

 

前は、賄いのおばちゃんが厨房に入り、皆の食事を準備してくれたのだが……今は別の者達に替わっている。 この鎮守府の提督から頼まれ、厨房に入った艦娘……いや、容姿はとても見えないが。

 

ーー

 

??「………………………」カタン

 

ーー

 

赤城達の声がすると、調理場の奥で鍋の味見をしていた割烹着姿の人物が、口に付けていた小皿を置くと、ジロリと赤城達を見た。 

 

更に奥では、別の割烹着姿の者がケホケホと咳き込みながら、何かを焼いている様子。 その者も赤城達に気付き近付こうとするが、味見をしていた者に止められ、慌てて自分の仕事に戻った。

 

赤城達に近付く者は、身長が二bを越える逞しい身体の男。 

 

顔は白い帽子とマスクで隠されていたが、劇画調の顔立ち。 調理人に似つかわしくない巨大な覇気。 そして、仕事の邪魔をする不埒な客を、冷たく見下ろす眼光は、艦娘の不知火のものより遥かに超えた迫力を浴びせた。

 

その者の名は──『北斗型 正規戦艦 ネームシップ ラオウ』

 

前の世で『拳王』『世紀末覇者』と恐れられた男である。

 

ーー

 

ラオウ「相変わらず……時間を守らぬ者共だ。 外の看板を良く見るがいい。 ここの準備が始まるまで……時は未だに満ちておらぬ!」

 

赤城「ラオウさん! 私の身体が美味しいご飯を求めて我慢できないんですぅ! 早く私の為に何とかしてくれませんかっ!? ねぇ? ねぇっ!?」

 

加賀「………………………」

 

ーー

 

ラオウの眼光に一切合切怯まず、切実な表情を浮かべ懇願する赤城。 

 

その様子を見守りながら、備えつけられたヤカンよりお茶を湯飲みに注ぎ、音を立てずに呑む加賀。 

 

さすが栄光ある一航戦、怯える事は無いようだ。 しかし、その不敵な態度は誉められるにしろ、その懇願の仕方にラオウの態度が更に硬化する。  

 

ーー

 

ラオウ「…………くどい! 戦士に媚など不要!」

 

赤城「何でですかっ! ここの食堂の売り上げに、私は多大な貢献しているんですよ!? 少しぐらい早めに御飯を食べに来ても、それくらい融通きかしてくれても良いじゃないですか! あんまりな仕打ちです!!」

 

ーー

 

ラオウと赤城の押し問答が始まる。

 

殆ど毎回、同じような行動を繰り返す赤城とラオウ。 何時もなら数回のやり取りの末、ラオウが折れて赤城へ定食が渡るパターンが殆ど。 加賀も、それに便乗(びんじょう)して、早い定食を受け取る事ができた。

 

ただ、今回は何時もより長い。 いや、ラオウの方が折る気が全く無い雰囲気を持っている。 理由が分からなくはないが、今回は加賀にも急ぐ任務がある。 そのため、何時もと違い内面では焦っていた。

 

だから、美味いと評判の定食を食べれないまま、任務に行くのは非常に心残り。 一日の楽しみ上位三位以内に位置するラオウの手作り定食。 『これを逃すかも……』と心配する加賀の心情を、誰が責められるといようか?

 

二人の間に加賀が割り込み慌てる赤城を制して、ラオウに顔を向けた。 加賀の目が何時もより何割か鋭くなり、ラオウへ舌鋒鋭く言い放つ。

 

ーー

 

加賀「………そうね。 しかし、私達は深海棲艦と何時、何処で戦うか定まらぬ身。 時間などと悠長な事を言われても、任務など全う出来ないわ」

 

ラオウ「……………かと言って、時間を蔑ろにする理由なぞ無かろう。 時と場合を弁えて、言葉を選ぶのだな?」 

 

加賀「もし、その間に何かあれば、誰が責任を取ると思うの?」

 

ラオウ「この厨房を預かりし者は、この俺だ。 責任は俺に───」

 

加賀「………違う。 任務の発令が入れば、私達は任務中。 今、正に発令が入っている私達を邪魔をすれば、提督にも責任は行くのが組織よ。 管理不足と任務失敗、二重の責任が被さると理解しても……貴方は私達を止める気?」 

 

ラオウ「…………………………………仕方あるまい……」クルッ

 

ーー

 

長い沈黙の後、ラオウは厨房に戻り準備を進める。 赤城が満面の笑みを浮かべ加賀に御礼を言うが、加賀の反応は何時にも増して鈍い。

 

提督を盾に脅迫した罪悪感か、ラオウの応対の早さに懸念を覚えたのか、はたまた両方か………ラオウの立ち去った後、ボンヤリと見つめる加賀であった。

 

 

◆◇◆

 

【 ラオウの企み の件 】 

 

? 某鎮守府内 食堂 にて ?

 

 

数多くの食材を無造作に持ったラオウは、纏めて俎板へ置くと一瞬目を閉じて集中。 

 

ーー

 

ラオウ「ぬぅおおおおっ!!」

 

??「────!?」

 

ーー

 

裂帛の気合いと共に、右手の菜切り包丁が閃光の如く動き出した。

 

その動きは肉眼では観察できず、これが新たな北斗神拳の奥義だと言われれば、その拳を知る者全て納得すると思われる。 だが、次々と定められた形が出来上がる様子から見れば、間違いなく調理をしているのだろう。

 

切り揃えた食材を、先程味見した鍋の中に投下。 玉葱やら人参やら色々と浮いては沈むが、驚く事に全部皮が剥けられていた。 剥くのが結構時間が掛かる等、厄介な食材なのだが……あの一瞬で行っていたのかと戦慄する。

 

だが…………??はふと思う。 

 

調理中の鍋は二つある。 どちらも同じように煮え立った湯が入っているのであるが、切った食材をラオウが全部入れて行くのだ。 何の躊躇もなく、食材が入った笊を持ち上げて、均等に分けながら……ゆっくり慎重に。

 

違うのは、味見をしたかどうか……だけ。

 

ーー

 

ラオウ「…………疑問があれば口を開け。 拳を教える事以外なら、何時でも答えてやる。 それも、提督よりの指示だからな」

 

??「─────」

 

ーー

 

??は、異なる鍋へ同一の食材を入れる事を尋ねると、ラオウは簡単に説明した。 

 

『途中までは同じ行程の物を用意、最後の部分を変えると別の料理が出来上がる物がある。 これを利用して、選択を増やして客を飽きさず、なおかつ調理時間の短縮を実行するのだ』と。

 

味見をしたのは、だしを確認した味噌汁用。

 

味見をしなかったのは、最後に肉とルーを入れるカレー用の鍋。

 

話を聞いた??も、あまりの手際の良さに口を丸く開け、声が出ない。 

 

これが、短期間に声望が広まった……この鎮守府が誇る艦娘?の実力なのか──と!

 

ーー

 

ラオウ「短縮できる無駄を省けば、このような事も可能。 理解が出来れば、次の機会に生かせ。 だが、今の仕事を忘れるな?」

 

??「───は、はい!」

 

ラオウ「ならば、早く──うぬの料理を皿に乗せるのだ!」

 

??「────!?!?」

 

ーー

 

普段の口調とは少し違った返事。 

 

ラオウの実力を垣間見て驚愕した事も理由だが、自分の未熟な料理を、まさかこんなに早く客へ出す事になろうとは思わなかったのだ。

 

しかし、その緊張感で青ざめる??に、ラオウが嘲笑う。

 

『…………たまの意趣返しも、悪くはなかろう』

 

そう呟くのを聞いて、思わず首を傾げる??だった。

 

 

◆◇◆

 

【 伏兵発動 の件 】

 

? 某鎮守府内 食堂 にて ?

 

少し経ち、準備が終わったのか、ラオウがカウンターにと………戻る。

 

赤城は、定食の到着を今か今かと待っていたので、ラオウの登場に笑みを浮かばせた。 ただ、加賀の場合、若干……申し訳なさそうに顔を俯き、表情に陰が映る。 その表情がラオウに気付くかどうかも……気にもしないで。

 

ーー

 

ラオウ「少し………待たせたか」

 

加賀「………空腹も絶妙な調味料。 このくらいなら支障など……ありません」

 

赤城「早く! 早くぅ!!」

 

ラオウ「─────黙れぇ!!」

 

赤城「────くっ!!」

 

加賀「────!?」

 

ーー

 

ラオウは、急かす赤城達を一瞥すると、覇気を全面に押出し叩き込む。 今まで味わった事の無い強烈無視な氣の衝撃に……二隻は一瞬だけ茫然自失した。  

提督の秘書官が、昼夜を問わずに布教したため、ラオウの恐ろしさは知っているつもりだった。 ただ、何時も無言、もしくは短い言葉の交わりしか行わなかった為、自分の見たラオウを信じてしまったとしても──仕方が無い。

 

その秘書官は、後に提督とラオウ本人から『仕事をしろ!』と苦言を呈される程に実行したと言えば、本人の高揚の具合も本気も分かると思われる。 だが、『百聞一見』の言葉がある通り……自分の目を信じるのが常。

 

だから、今の今まで……ラオウを侮っていたとも言える。

 

しかし、茫然自失したのは一瞬のみ! 次の瞬間には、この鎮守府が誇る歴戦の凛々しい艦娘の顔へと切り返していた。

 

ーー

 

ラオウ「一つだけ誓え! 今から貴様らに定食を配膳するが、この拳王が手ずから調理した物を残して捨てる事など──許さぬ! その覚悟が無き者は、早々に食堂から立ち去るがいい!!」

 

赤城「この私を誰だと思っているんですか! 此処で出される食事は、今まで全て完食を貫いている『赤城型 1番艦 正規空母 赤城』なんですよ!? そんな面白くない前口上を聞くより、私は朝御飯を食べたいんですっ!!」

 

加賀「私も同じく。 正規空母にして一航戦を担う『加賀型 1番艦 正規空母 加賀』に、そんな注意など無意味。 あんな……美味しそうな料理を目前にして、此処を立ち去れなど……笑止千万。 鎧袖一触で完食してみせるわ!」

 

ラオウ「………フッ! ───そこまで言うのなら!!」

 

ーー

 

真剣な一航戦達の抗議を聞くと……ラオウの顔は一瞬、口角を上げる。 そして次の瞬間──疾風の如く手を上げた! 後ろで待機していた??は、その動きと共に、トレイに乗せて運び込んだ定食を持ち込む! 

 

ーー

 

ラオウ「ならば、受けてみよ!! 我が全霊の──お薦め定食を!!」

 

赤城「────!?」

 

加賀「──こ、これは!!」

 

ーー

 

カウンターの上に置かれた定食を見て、二隻の目が見開き、唖然とする! 

 

 

────そこに忽然と現れた物は───

 

 

香ばしい味噌の香る、具が盛り沢山の味噌汁。 

 

ふっくらと……見事に炊き上げられた銀舎利。  

 

見事な色合いの沢庵も、小皿に二切れ添えてある。

 

 

そして、メインになる物は………白い大根おろしが隅に添えられた………真っ黒く細長い………『何か』?

 

 

ーー

 

加賀「…………………『炭』?」

 

赤城「…………た、確か………今朝のお薦めは……焼き魚定食じゃぁ……?」

 

ラオウ「うむ、その通り。 その皿に乗っている物が……メインの秋刀魚だ! 遠慮など要らぬ。 替わりも準備してある故、存分に食せ!!」

 

「「 ─────えっ!?!? 」」

 

ーー

 

赤城と加賀は、出された物に顔を近付けて確認する。 

 

よく見れば、確かに………先が尖っている周辺で、辛うじて眼窩の跡を確認。 それに……魚の焦げた匂いが、その炭より発せられる。 また、その炭を半分に折ると、中に骨と内臓もあり、確かに元秋刀魚だったと認めざる得ない。 

 

だが、食すとなると別の話。

 

乗っている物は、少し揺らすだけで炭がポロポロと落ちる。 焼けた身が飛び出ている所もあるが、既に確認通り………中まで炭化している様子。 

 

ーー

 

赤城「そ、そんな! 幾らなんでも炭は──」

 

ラオウ「…………俺の面白くない前口上を聞くより、朝御飯を食べたいのだろう? 冷める前に完食しろ。 料理は出来立てが旨いのだ」

 

加賀「……………………うっ、幾ら何でも……」

 

ラオウ「…………鎧袖一触で完食してみせると断言したのだ。 その言葉を身を持って実行するのだな。 それとも……先程の言葉、嘘偽りか?」

 

加賀「────!」

 

ーー

 

赤城と加賀は…………悩んだ。

 

───これをどうやって食べればいいのか?

 

───本当に食べても大丈夫なのか?

 

赤城と加賀は、目の前に置かれた定食の前で、汗を吹き出しながら眺めるしかない。 しかし、時は無駄に過ぎ、ラオウの死刑宣告に等しい声が、頭上より降り注ぐ。 

 

ーー

 

ラオウ「───うぬらは、このラオウと誓ったのだ! ならば、その誓いを果たす為、しかと完食して見せよ!!」

 

赤城「………………ぁ、ぁぁぁ……」

 

加賀「………………」

 

ーー

 

ラオウは、俯く赤城と加賀を見据えながら……秘かに??へ指示を出す。 ラオウ自身が焼き上げた秋刀魚を……持って来るようにと。

 

 

◆◇◆

 

【 顛末 の件 】

 

? 某鎮守府内 食堂 にて ?

 

赤城「───もうちょっと止めるのが遅かったら、本気で丸ごと食べていましたよ!! ちょっと、そこぉ! 笑い事じゃありませんっ!!」

 

加賀「じぃぃぃ………本気で頭にきました………!」

 

??「あはは……おっと、すまん、すまん! だが、まさか……この『磯風』の失敗作を定食のオカズとして、そのまま出して食わせるとは思わなかったのでな! あの一航戦を前にして、とんでもない戯れをするもんだな……師よ?」

 

ラオウ「フッ………何度も同じ事をされれば、灸の一つや二つ据えてやろうと考えるのは当然ではないか。 それに……磯風よ。 いつの間に俺は、貴様の師などと呼ばれるのだ? 教えたのは……厨房の仕事だけぞ……?」

 

磯風「………この磯風が何故、遠方の此処へ配属を願ったのか、まだ御理解頂けないとは。 ふむ、どうやら……司令官の説明が足らなかったようだな?」

 

ーー

 

朝の配膳が済んだ後、四人がテーブルに集り話を始める。 他の三人に湯呑みと茶、菓子を用意して貰い、ラオウは食器の片付けを済ます為に厨房へと入る。 

 

後を追う磯風だが、『食器を洗うのも片付けるのも、着任した艦娘に行わせる仕事では無い。 赤城達に説明をしておくのが、今の任務だ』と──やんわり断られた。 

 

ーー

 

磯風「──改めて着任の御挨拶をさせて貰う。 本日付けで着任した『陽炎型駆逐艦十二番艦、磯風』と言う。 他の鎮守府で働いていたが、この鎮守府で何でもトンデモナイ艦娘が現れたと聞いて、こちらに配属を願った次第さ!」

 

赤城「そうですねぇ………男だけど『艦娘』って区切りでいいのか、今も疑問に思ってますし。 確かに型破りってとこは認めますよ」

 

加賀「その前に…………本来、私が貴艦を迎えに行く予定だったのが………この有り様は、どういう事?」

 

ーー

 

本日の加賀の任務は、他の鎮守府から移動になる磯風を迎えに行く予定だった。 しかし、磯風本人は既に着任しているどころか、ラオウの考えた謀の片棒を担いでいる。 

 

もう少しで………炭を丸かじりするという、前代未聞の暴挙を起こす手前だった一航戦にとって、磯風の行動は看過できない。

ーー

 

磯風「ウチの司令がな………初めの掴みが大事だと言って、此方への到着を一日遅く報告したのさ。 サプライスが好きだった事もあるが、この鎮守府は何かと目立つ艦娘が多い故、没個性にならぬように気を使ってくれたのだよ……」

 

加賀「…………すると、上では話が済んでいると………」

 

磯風「で、なければ……此処に居ないな……」

 

加賀「分かりました。 取り合えず、後で提督に意見を申し上げておきましょう。 あの人は、ラオウが着任してから浮かれている様子。 二時間ぐらい……私の愚痴を聞いて貰っても許可される筈……」

 

赤城「──その後は私もぉ! それでぇ! 鳳翔さんの店で磯風さんの歓迎会を開かせましょう! パアッと盛大にーっ!!」

 

磯風「そうか──それは楽しみだ! おっ? 仕事は終わりましたかな、師よ? 弟子である磯風にも手伝わせて貰えば───!?」

 

ーー

 

話の途中でラオウが戻ってきたのだが、三隻の目はラオウの割烹着が黒く汚れているのに気付く。

 

ーー

 

加賀「───やはり、食べれないと分かり処分したようね?」

 

赤城「当然ですよ! 幾ら私といえども……『勝手に納得して貰っても困る』───へっ?」

 

ラオウ「───しっかり料理の食材に使わせて貰った。 俺は、その下準備も行ったきたまでだ」

 

磯風「自分で作った料理とはいえ、ア、アレを………ですか!?」

 

ラオウ「言った筈だ。 俺の作った料理を残す事は許さないと。 しかし、赤城も加賀も、磯風も食べたくないだろう?」

 

「「「 ───コクリ 」」」

 

ラオウ「───ならば、食える奴に食わせるだけだ!」

 

「「「 ────??? 」」」

 

ーー

 

ラオウは、そう言って磯風より湯呑みを貰うと飲み干した。 磯風は、その様子を見て頬笑みながら、急須を持ち上げて茶を注ぐ。

 

『男の艦娘ながら、その料理の腕は鳳翔や間宮に匹敵すると聞く。 このラオウに師事すれば、必ず磯風の料理も上手になるだろう。 その時まで、磯風はラオウを──我が師を守り抜く覚悟!』

 

心の中で磯風は、ラオウへ……そう声を掛けると、更に愛らしく頬笑む。

 

その様子を見た赤城は首を傾げ、加賀は密かに溜息を吐いた、という。

 

 

◆◇◆

 

【 再利用 の件 】

 

? 某鎮守府内 食堂 にて ?

 

───次の日

 

サウザー「フハハハッ! ラオウよ、今日は帝王にとって大事な日だという事を忘れてはおるまい! 毎週土日は──カレーの日、である事を!!」

 

磯風「(………ほう! あれが師と同じ高みに居る艦娘?か。 とくと観察させて貰おう………)」

 

ラオウ「無論………貴様だけの特別定食だ。 よく味わうがいい!」サッ!

 

サウザー「───な、何だとぉ!? カ、カレーが………黒い………!?」

 

磯風「(まさか……磯風の失敗作を粉々にし、カレーの残りに入れて色を変えるとは………さすが、この磯風が師と仰ぐ方だ!)」

 

ラオウ「………帝王と自称する割りには、知らんと見える。 これぞ世に出回る『ブラックカレー』だ。 普通のカレーより数倍旨いそうだぞ?」

 

サウザー「……………ラオウ。 何故、貴様が……この俺に、ここまで施そうとする? 俺と貴様は……どちらも天を目指した男! それが、憐れみで行うのなら──」

 

磯風「(秘書艦『吹雪』の話だと……敵対していたそうだが。 北斗と南斗と言われても………うむぅぅぅ)」

 

ラオウ「サウザーよ……『敵に塩を贈る』という言葉を知らぬか?」

 

サウザー「───な、何だとぉ!?」

 

ラオウ「その様子では知らぬようだな。 古の将は、塩の欠乏で窮地に陥る宿敵に情けで塩を贈り、戦での決着を願ったという。 ならば、拳王である俺が、うぬに情けを掛けるのも当然ではないのか?」

 

サウザー「フッ、フハハハッ! ──だが、貴様が俺を害する気があったのなら……どうするのだ? 我は南斗最強の将! 毒殺など枚挙に暇がないわ!」

 

磯風「(う〜ん、言っている事は普通に分かる。 しかし、何故その敵である者が……この師が賄いしている食堂に来て、普通に食事を取ろうとしているのだ?)」

 

ラオウ「…………そうか。 ならば、このブラックカレーは処分するしかないな。 俺の矜恃に反するが………貴様が嫌がるのなら仕方あるまい……」

 

サウザー「───捨てるのか? そ、そのカレーを捨てるのかぁぁぁ!?」

 

磯風「(───食い付き、早ぁぁぁっ!?)」

 

ラオウ「ん? 仕方なかろう……これは、うぬの為に煮込んだ特別なカレーだ。 ただの一口も他の者に譲り渡す気など──無い!!」

 

サウザー「────!?」

 

ラオウ「一晩寝かせて熟成したからには……さぞかし旨味も浸透しているだろう。 流石に俺も……味見をするのを躊躇ったからな………」

 

磯風「( ……………………… )」

 

サウザー「フハハハッ! そ、そこまで言うのなら、貰ってやっても良いのだぞ? あくまで、仕方なく仕方なくだ! べ、別に食べたいとか……勿体無いとか……そんな貧乏性じゃなく! そ、そう! お師さんの教えだ!」

 

ラオウ「ほう………?」

 

サウザー「幼き俺とお師さんは……食べ物に窮する時もあり、食事での残しを決して許さなかった。 だから──そのカレーは、帝王である俺様が喰らう! だ、だから──早く寄越せぇぇぇ!!」

 

ラオウ「…………そうか?」ニヤッ

 

サウザー「こ、これが………ブラックカレー! フフッ、フハハハハッ!! フハハハハハハッ!! ────いただきますっ!!!」パクッ

 

ラオウ「───それから、残すのは禁止。 替わりもあるから……むぅ! 感動のあまりに舌が麻痺したか。 凄い勢いで食しておる!」

 

磯風「………………………」

 

ーーー

 

その後、数日苦しみながら……至福の表情を見せるサウザーに、同情の念が集まったとか集まらなかったとか…………

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

あとがき

 

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

 

前作、前々作が終わらぬまに、新たな作品を出していまい、申し訳ありません。 ネタが詰まると遅滞が長くなるため、こうして頭の切り替えと次回の作品を投稿する為の意欲をあげています。

 

この作品は、そんな関係で亀更新の可能性が高い作品ですので、もし続編を待たれる方がいらっしゃれば、どうか気長にお待ち下さい。

 

 

下のは、途中で生れた余話です。 

 

本編の裏話にあたりますので、読まれなくても大丈夫……のはず。

 

次回も、よろしくお願いします。

 

 

 

 

◆◇◆

 

【 余話 の件 】

 

 

☆再度準備した定食を食べた赤城、加賀

 

ーー

 

赤城「ふうー! ご馳走さまでした! 今日も……昨日に比べて、調理の腕が上がっていますね!?」

 

ラオウ「──愚問だ。 一日慢心すれば、数日掛けて元の腕には戻らぬ。 生涯、これ鍛練を絶やさず己を鍛えるのみ!」

 

加賀「……………ご馳走さま。 相変わらず……流石の味付けだわ。 朝の弱い私でも……気分が高揚するわね………」

 

ラオウ「調理とは食べて貰い、美味しいと言われるのが最高の褒美。 皆が満足するよう、この俺も精進を欠かす事など出来ぬわ!」

 

加賀「…………五航戦の妹の方も、貴方を見習い演習に励めば……すぐに私を追い抜ける実力が付けるのに。 ………それが残念……」

 

赤城「加賀さん! せっかく豪華な食事を味わったのに、そんな顔なんかしていたら、ラオウさんに失礼ですよ! 今日も元気に頑張りましょう!」

 

加賀「………そうね。 次の晩御飯が楽しみ……」

 

ラオウ「晩の定食は、未だに決まってはいない。 だが、今朝よりは美味しい物だと……このラオウが保障しよう!」

 

赤城「うわぁ! ラオウさんなら間違いないですね!」

 

加賀「…………そうね!」

 

ラオウ「────フッ」

 

ーー

 

 

☆朝の定食を食べた、とある艦娘。

 

ーー

 

??『ああ──面倒くさいっ! どうして、もっと簡単な焼き魚にして──いっ!? 翔鶴姉ぇ! いいよ、いいってばぁ! 子供じゃないんだから、自分で骨ぐらい外すから! ほ、ほら──自分の食べて、ねぇ?』

 

??『オウッ!? 骨が上手く取れなぁ〜い! これじゃあ、朝食〜早く食べられないよぉー!!』

 

ーー

 

 

 

説明
前作と比べてシリアスです?
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コメント
スネーク提督 コメントありがとうございます! ラオウ、サウザーですので、年齢がどうみても艦オッサ……おや、後ろから誰か来たよう──(いた)
サウザーwwwうーん、艦娘じゃないなら…艦隊息子で艦息?(スネーク)
げんぶ提督 コメントありがとうございます! 此処の艦娘は、他にも出番を待っている子がいるんですよ。 次回は遠征ですので……その時に出撃予定です。 伊○とか日○とか。(いた)
mokiti1976-2010提督 コメントありがとうございます! 三途の川で《お師さん》に出会い、極星十字拳を受けて戻って来たようです。 次回も活躍してくれる…筈?(いた)
サウザーはこの後どうなったのでしょう…普通に無事だったら凄いですけどね。(mokiti1976-2010)
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