北斗の艦これ イチゴ風味 その3
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【 初めての出撃 の件 】

 

? ??の海上 にて ?

 

 

あの騒動より数日後。

 

提督からの要請により艦隊が編成され、鎮守府を出撃させる。 

 

目指す海域は──『南西諸島沖』

 

古強者の提督諸兄には懐かしく、新たに拝命された提督諸兄にとっては、誘う通過儀礼の場所になろうと思われる海域。 敵も弱く、誤った指揮さえしなければ、轟沈する事は無い場所である。

 

目的は、低レベルの艦娘達を鍛える事、味方との連携を確認する事。

 

そして……もう一つ。

 

ーー

 

ラオウ「ふむ。 此処が………新たなる戦場……か?」

 

サウザー「フハハハハッ! 青い海、白い雲! このような雄大な景色の中で進軍すれば、我の気分が著しく高揚してしまうではないかっ!!」

 

ーー

 

───鎮守府に突如と現れた、この『二隻』の性能を探る事であった。

 

その注目される一隻、『南斗鳳凰型 1番艦  航空戦艦 サウザー』は、艦娘と同じ様に海面上を滑るように移動している。 

 

鍛えぬいた両腕を発達した胸の前で組み、満面な笑みを浮かべ直立不動の状態で進む。 紫色のタンクトップが日の光に当てられ、何故か輝き眩しい。 さすが南斗最強と言われた将星として面目躍如の動きである。

 

帝王の横では、愛馬『黒王号』に跨がり、風を切りマントを靡かせ駆け抜ける『北斗型 正規戦艦 ネームシップ ラオウ』が居る。

 

巨馬に跨ぐ偉丈夫。 海上を颯爽と駆け抜ける様子は一幅の絵画となりえる程。 その姿を目撃した人が居れば、目を輝かせること請け合いである。 

 

もし──かの秘書艦が、この有り得ない様子を見てしまったら、泣いて喜んだ後で鎮守府の仕事を放り出し、例の布教活動へ更に勇往邁進して行った事だろう。 ────居なくて、本当に良かった。

 

ーー

 

サウザー「………それにしても、クックックック! 貴様ほどの男が、あのような優男と共に──天を目指そうとはな?」

 

ラオウ「…………」

 

ーー

 

サウザーが進みながら顔をラオウに向け、ニヤつきながら話した。 さも滑稽だと言わんばかりに。 そんなサウザーの言葉はラオウの無言で続かず、直ぐにも会話は途切れてしまった。 

 

だが、サウザーには終わらせる意思など無く、無理矢理話しを続ける。

 

ーー

 

サウザー「我等と違い………強靭な肉体、明晰な頭脳、下郎共を狂喜させる人望もなく、それどころか武の極地まで磨き込んだ拳さえ無いでないか!」

 

ラオウ「……………………」

 

サウザー「いつの間に、『下郎』の足元で膝を付くように成り果てのだ? 世紀末覇者と自他とも認め、そして恐怖の象徴まで受け取られていた貴様が? フハハハ……やはり貴様も、この帝王と同じく比叡カレーに屈伏されたか──」

 

ラオウ「…………黙れ」

 

サウザー「───何だと?」

 

ラオウ「黙れと言ったのだ! 貴様のように愛を求めながら……失う事を恐れて逃げ出し距離を取った男など、あの提督の前では足元にも及ばぬ! そんな貴様が己と提督を比べるなど……身の程を知るが良い!!」

 

サウザー「ラオウ! 言うにつけてぇぇぇ!!」

 

ーー

 

馬上より、憐愍の表情で冷たく見下ろす、ラオウ!

 

そのラオウを……怒りと屈辱で上唇を噛みつつ睨み付ける、サウザー!

 

双方が止まり、二隻の周辺へ空気が集り闘気が高まる。 直ぐにも一触即発しそうな重苦しい雰囲気が漂う。 其々の身体から陽炎が見えるて視界が歪む。

 

ーー

 

??「姿が見えないから来てみれば………二人とも、いい加減になさいっ!!」

 

サウザー「黙れ下郎! 帝王に楯突くという無礼など許可した覚えなどない!! 止めに入ろうが無駄だ!!」

 

ラオウ「…………下がれ。 この戦いに巻き込まれたくなければな………」

 

??「はあ………それだけ元気があるなら、味方に八つ当りなどしないで欲しいものだ。 此処が……どういう場所か分かる筈だろう? 味方を傷付ける事は、敵艦へ御褒美を与えてやるものだと………」

 

??「ほんと……考え方が素人同然。 足を引っ張られる前に深海へちゃっちゃっと沈めた方が理解し易いかもねぇ?」 

 

サウザー「──き、貴様ぁぁぁ!!」

 

??「それだから罵られるのが分かんないの!? 全く馬鹿なんだからぁ!」

 

??「お、お止め下さい! 仲違いなど……利を得るのは敵だけかと! どうか、どうか──双方、お踏み止まりなさいませ!!」

 

ーー

 

非常識な暴発が起きる直前、四隻の艦娘が間に割込み、ラオウとサウザーを止めに掛かる。 そのお陰で二隻の怒りが鎮まり、艦娘達は胸を撫で下ろした。

 

この艦娘達が、ラオウ達を連れ海域へと向かう艦隊を組む仲間。

 

 

 

『伊勢型 1番艦 戦艦 伊勢』

 

『伊勢型 2番艦 戦艦 日向』

 

『朝潮型 3番艦 駆逐艦 満潮』

 

『神風型 3番艦 駆逐艦 春風』

 

───計四隻。 

 

 

ちなみに───旗艦は伊勢であった。

 

 

◆◇◆

 

 

【 内輪揉め の件 】

 

? 南西諸島海域 付近 にて ?

 

 

六隻の艦隊は、複縦陣を取りながら目指す海域へと向かっている。

 

先方は案内役も兼ねて伊勢、日向が入り、最後列を満潮と春風が守る。 

 

美少女達に前後を守られた状態で進行するという、なんとも気恥ずかしい位置だが、口喧嘩を再度起こして進行の妨げにならないように、前後で見張れる配置をしたそうだ。

 

しかし、真ん中に配置されたサウザーは、護衛されていると勘違いして満面な笑みを浮かべ、ラオウはラオウで頭に過る過去の想い出に少しだけ浸り、懐かしそうに眺めながらが進んだ。 

 

ーー

 

サウザー「フハハハッ! うむ、護衛ご苦労! やっと帝王として存在価値を認識したか! フーッハハハハハハッ!!」

 

ラオウ「……………………フッ。 まさか、幼き頃に渡った大海原を、こうして黒王に跨がり駆け巡るとはな……」

 

伊勢「もう、言ってる側から──後輩君達! 幾ら初めての遠征って言って、そんな緊張感が無い姿を見せてると、敵艦から直ぐに轟沈されるわよ!?」

 

サウザー「ふん! 警戒するなど弱者の言い訳に過ぎん。 全ての敵は──下郎! 南斗六聖最強を誇る帝王の前に、ただ無様に平伏せさてやろう!」

 

ラオウ「…………心配など無用。 我が前に立ち塞がる者は、誰であろうと拳で打ち砕くのみ! 例え………神であろうともな!」

 

伊勢「……………はあ〜〜。 だ、だけどねぇ! そんな時に大破とかされると私達の方が大変───こ、こらぁ! 人の話を聞きなさい!!」

 

ーー

 

日向「………提督も甘い。 如何に実力があるとはいえ、建造して演習も受けていない者達を出撃させるとは。 此処が弱い深海棲艦が出現する場所とはいえ、万が一にも私達の足を引っ張りまでしたら、どうするつもりなんだ?」

 

満潮「まったく! なんで、こんな変な艦隊に配属されたのか分かんないわ! もう──最悪!!」

 

春風「………ですが、司令官様直々の御命令。 蔑ろになさるのは流石にどうかと? きっと、司令官様は……このような事態を見越し私達を信じて送り出して下さったのでしょう。 いえ、事態の推移を見れば間違いはありません!」

 

日向「…………あの提督が──か? どうも信じられんが………」

 

満潮「ふん、秘書艦とイチャイチャしてる馬鹿なんて、信用できる訳ないじゃない! 秘書艦も秘書艦で、北斗なんとかなんて広めてるし。 話にならないわよ!」

 

春風「お腹立ちはごもっとも。 しかし、僭越ながら司令官様の深謀遠慮を図るには、任務を進ませてこそ判明すると思います。 そうでなければ、この場限りの水掛け論になり判断の有無も難しくなるかと、愁うのですが……」 

 

「「 ……………… 」」

 

春風「如何でしょう、ここは御堪忍されて向かうべきかと。 全てが終わり、司令官様に咎あれば皆でお諌めすれば良し。 逆にお間違えなければ、正しい評価で接して頂ければ。 それからの判断でも遅きに非ず……ですよ?」

 

ーー

 

ラオウ達の返答により彼女達は、言わずと知れて不機嫌な表情を浮かべた。

 

伊勢、日向は、この鎮守府内において上位のレベルを持ち、現在解放を目指す北方海域へ何度も足を踏み戦い抜いた強者。 満潮も伊勢達に準じるだけの力がある艦娘。 

 

そして、三隻より少し距離を保つ春風も、最近ドロップして加わったばかりだが、伊勢達の懇切で厳しい指導により、この三隻のレベルに近付けた錬度へと至っている。 

 

だから、ラオウやサウザーの言葉は大言壮語にしか聞こえない。 建造して一月も経ていない新造艦……それも初めての出撃。 北斗や南斗など知らない艦娘からすれば、増上慢して厨二発言している感じにしか思えないのだ。

 

最前線に立つ艦娘からすれば、機嫌が悪くなるのは当然。 それどころか、日向は溜め息を吐いた後で愚痴を溢し、満潮は素直に罵(ののし)った。

 

だが、そんな一癖も二癖もある艦隊が隊として維持できるのも、伊勢と春風を付けた提督の慧眼だ。 勿論、本人に……そんな思惑があったのかは定かでない。 

 

伊勢が何度もラオウ達を注意するのは、慢心の怖さを知り抜いているからこそ。 先の大戦のように、多くの仲間達を失いたくない事もある。 だが、ここまで心配するのも、元々世話好きな伊勢だからこそ出来たのかも知れない。

 

春風は少し狼狽しながらも任務達成を目指し、日向や満潮を説得して任務の継続を優先させた。 姿は美少女、されど心は遥かに歳上の彼女だから、素直に納得し不満を抑えられたのだ。

 

ーー

 

日向「………………ふん。 せいぜい、私達の足手纏いにだけは……なるなよ?」

 

満潮「……………あんなやつら、○ねばいいのに………」

 

サウザー「フハハハッ、そのような蔑み目など、何千何万と見ておるわ! 今さら恐れる事など無い! ………………………………くっ、これしきの事で……帝王の心は折れぬ、挫けぬ、後悔など─────ヒック、グスッ (;つД`)」

 

ラオウ「………………………」

 

伊勢「はい、先を進むよ! 海域も近いんだから警戒を疎かにしないように! 今は任務が最優先なんだから、不満がある者は帰投してから、提督に直接言ってね!! ───それじゃ、出発!!」

 

春風「…………………」

 

ーー

 

春風の説得で日向達は進行するが、日向の捨て台詞、満潮からの冷たい視線がラオウやサウザーに向けられた。 伊勢は、何事も無かったように、海域へと舵を取り艦隊を先導して行く。

 

サウザーは高笑いしながら涙を流すという器用な顔芸を披露し、ラオウは視線を前に見据えたまま微動だにせず、黒王号に跨がり進む。 

 

そして、春風が………ラオウの姿を眺めつつ小さい拳を握りしめる。 何か期待をしているように目を輝かせて、その動きを追っていたのだった。

 

 

◆◇◆

 

【 敵襲 の件 】

 

? 南西諸島海域 カムラン半島付近 にて ?

 

 

 

───クルクルクル……ピタァ!

 

ーー

 

伊勢「さぁて、どう行こうかな……?」

 

日向「…………資材も枯渇までとは言わんが、かなり減っていたが……」

 

満潮「だからって、こんな艦を連れて行くのは反対! こんな所で大破するなんて、笑われたくないんだからね!」

 

春風「…………………」

 

ーー

 

南西諸島沖に入ったと知った伊勢は、羅針盤を取り出し方向を確認。 日向達と相談して、海路をどのように進むか考えている。 

 

敵艦も弱く、ルート分岐地点海域も多い海域ゆえ、資材確保も比較的容易な場所であるため、この時期に資材を集めたいと思うのが自然だ。 しかし、今回《お荷物》が多く、自分達の行動に少なくない制限を付けられている。 

 

ここは無理せず、海域内を軽く駆逐して、鎮守府に戻り改めて向かうべきか? それとも、分岐は必ず立ち寄って資材を取りながら、ボスまで向かうべきなのか? 

 

思案に暮れる伊勢達の前へ、巨大な影が急に落ちた。

 

ーー

 

ラオウ「…………………………」

 

伊勢「あっ、駄目だよ! まだ行き先が決まってないのに──」

 

ラオウ「───静かに下がれ。 この地は既に……死地と化している!」 

 

伊勢「えっ?」

 

日向「いい加減にしろっ! この海域は低級の深海棲艦しか出ない所だぞ! それを、君の都合の良いように脳内変換するのなら勝手にすればいい! しかし私達は暇じゃない! 早く其処を退いて任務を始めさせてくれ!」

 

満潮「最低な奴! そこまで邪魔するのなら、もう知らないわ! アンタを砲撃してでも通らせて貰うから!」

 

ーー

 

ラオウが黒王号に跨がり、伊勢達の行く手を阻む。

 

伊勢が驚くと同時に、日向と満潮が抗議の声を挙げるが、ラオウは無視する。 いや、密かに黒王号に命じて、海面を前脚を上げては下ろす事を──数回繰り返えさせる。 その度に黒王号の両耳がピクピクと動く。

 

ラオウは、日向達を一瞥した後、前方の海面に体勢を向き直し片手を伸ばすと、掌に闘気を集中させて掌全体を輝かせた! 

 

ーー

 

ラオウ「………うぬらが潜んでいる事など……先刻承知よ! 『北斗剛掌波』!!」

 

「「「 ───!? 」」」

 

ーー

 

──────!!

 

ラオウの掌から圧縮された闘気が、光線状になり海面上に衝突! 大きな爆発、大量の水飛沫、粉末状の霧に変化した海水が、辺りを覆い隠す!

 

伊勢達は思わず片手を顔の前に掲げ、衝撃と閃光から逃れようとしたが、ラオウと黒王号が丁度良く壁となり、あまり衝撃等受けずに済んだ。

 

ーー

 

??「─────ガァアアアアッ!?!?」

 

??「ゴボッ! ゴボゴボッ! ゴボッゴボッ──」

 

ーー

 

だが、霧の中からは──苦しそうな音、海面に広く拡散される重油、浮かび上がる流線形の黒い物体。 直前まで海面下へ隠れていたのを、簡単に見破られたと思えば、自分を急襲する未知な衝撃。

 

余りにも予想外な事が多すぎて、黒い物体の赤い目が慌ただしく点滅しながら浮かび上がると、腹を上に向けて──動かなくなった。

 

伊勢達は、ラオウが放った攻撃に驚いたが、その浮かび上がた物にも驚愕の表情を浮かべる。 

 

それは───

 

ーー

 

日向「し、深海棲艦………? いや、ちょ、ちょっと待てぇ!! こいつは──!?」

 

満潮「どういう事!? なんでぇ『駆逐ニ級elite』が、こんな海域に居るのよ!? こいつらの存在する海域は、まだもっと遠くの海域でしょう!!」

 

伊勢「だけど……あの『駆逐ニ級elite』を……たった一撃で轟沈させるなんて──貴方って何なの? その馬鹿げた威力の火力、隠れていた敵艦を見破る索敵能力、レベルが結構上がってる私達だって、こんな非常識な真似なんて出来ないわよ!!」

 

ーー

 

伊勢達が口々に意見や質問をぶつけて来るが、未だに前方を注視して微動だにしない。 後方では、サウザーがニヤニヤと笑いながら見ている。 今のラオウの力を探ろうとしているようだ。 

 

この戦いは始まったばかり。 

 

この後、更なる敵艦が──ラオウ達に襲い掛からんと牙を剥き出した。

 

 

◆◇◆

 

【 誰だっけ? の件 】

 

? 南西諸島海域 カムラン半島付近 にて ?

 

 

ラオウが攻撃した事により、海原に潜んでいた深海棲艦達が浮上し始める。

 

姿を見せ始めたのは──数十隻の大艦隊。 

 

駆逐ニ級eliteは勿論、本来この海域に居ない空母ヲ級、軽母ヌ級、重巡リ級、戦艦ル級という、目を黄色に光らせた……本来の海域で現れる事の無い深海棲艦まで現れた。

 

ーー

 

伊勢「そんな………うそ……!」

 

日向「何が起きているっ!? あんな『flagship』の深海棲艦達が、この海域に纏まって現れるなど!!」

 

満潮「一体全体………どうなってるの!?」

 

ーー

 

普段は、新造艦の良き狩り場である南西諸島沖。 

 

オリョールでの伊58達による潜水艦の無限回遊は、良く知られた名勝だ。 稀に単艦でも挑む者が居るが、その行為は普通の海域ではあり得ない。 それは──敵艦が比較的弱いという事を示す証拠である。 

 

その入り口になるカムラン半島で、こんな奴等が出現されれば『オリョールクルージング』なんか出来ない。 

 

日向達も初めの頃は、世話になった海域だからこそ余裕もあり、新造艦を連れての出撃も可となったのだが、相手が北方海域に出現する深海棲艦の上位種『flagship』まで出て来られては、全艦全滅もあり得る。

 

慌てる伊勢達率いる艦隊に対して、深海棲艦達は複数の単縦陣を編成し直し、轟沈させる事を目的として繰り出す。 

 

空母ヲ級、軽母ヌ級からは艦載機を発して制空権を易々と制覇、空から艦隊を狙う! 重巡リ級、戦艦ル級は強大な火力を放ち、確実な損傷を狙いつつ、誰一隻たりとも逃がさぬように展開を始める。

 

これだけの状況が揃えば、この艦隊は完全に全滅となっていた。

 

だが、驚くのは───それだけではない!

 

少しずつ晴れて行く霧の中から、海面上に立つ者が二人。 深海棲艦の艦隊中央から現れる。 それは………深海棲艦には珍しい『男性』の姿。

 

一人は水色の軽装で身を固め、片腕を前に突き出したと思うと、腕の付け根にある『五つの星』の入墨を自慢気に掲げる。 口角が上がり、かなり優越感を持っている事が端からでも良く理解できた。

 

もう一人は、朱色の統一された鎧を着用し、口を一文字に結びつつ、ラオウに視線を捉えると一切動かす事はしない。 もう一人とは違い、この大艦隊を有しても、微塵も油断する気などなさそうだ。 

 

通常の深海棲艦は、異質な形態な物か完全な女性の姿、もしくは女性に近い形を常態としている。 今の今まで、男性の姿をした深海棲艦など、報告には上がっていない。 

 

しかし、現に男達が手を上げると、敵艦隊は中央で割れて男達が通行できるように道を出現させた。 この様子を見れば、この男達は深海棲艦の中でも、かなりの上位を持つ者だと予想できる。 

 

もしかしたら………『鬼』や『姫』並みの力を持つ実力者。 伊勢達艦娘達は、敵艦隊の異様な存在に戦慄が走る。 

 

そして、男達は艦娘達の思惑を読んだように、明らかに敵対する者であると言わんばかりに濃厚な殺気を放ちながら睨み、艦娘達を萎縮させる。 

 

そして、その中に『とある男』を見つけ出し、声高らかに宣戦布告した。

 

ーー

 

??「地獄で待っていたぞ──拳王! 今度こそ、我らが南斗五車星が、貴様を倒してみせる!!」

 

??「拳王………貴様の進行は、ここで終わりだ! 我らに敵する北斗の死拳、この場で滅せよ!!」

 

ーー

 

艦娘の横に騎乗する男に、二人の男は闘気を高めて構えた。

 

過去に……身命を捧げた将の為、世紀末覇者の暴進を阻止する事に命を懸けた者達。 自分達の実力では到底敵う事など無いと知りつつも、暴星に立ち向かい、南斗六星最後の将に殉じた守護星達。 

 

その悲願は空しく終わったが……その生き様だけは、後世に伝えられた。

 

───その者達の名は───

 

 

 

 

 

ラオウ「………前座の二人か。 この拳王も、かなり舐められたようだな……」

 

ヒューイ「おぉいっ! 格好良く決めたのに、その投げ槍な態度は何だよ!! それも前座扱いって酷くねぇ!?」

 

シュレン「おのれぇ! 俺達を侮った事、あの世で後悔させてやろう!!」

 

ーー

 

ラオウが前座と一区切りで纏めたが、正式の名称は『風のヒューイ』『炎のシュレン』となる。 決して、お笑い芸人では無い。

 

彼らは『南斗五車星』と言われる集団の一員であり、他にも『海』『山』『雲』と連なり、南斗極星を陰ながら支えている。

 

扱いが酷いとか、他の三人より影が薄いとか、雑魚キャラより少し強いだけとか思われるが、敵役の強さを引き立てる役として、非常に優秀なキャラ達であるという事だけ付け加えておこう。

 

ーー

 

伊勢「ま、待って! 新造艦が無茶なんかしちゃ駄目! ここは、私達が食い止める! 後輩君達は、速やかに離脱して鎮守府まで逃げて!!」

 

ラオウ「俺の事なら心配いらぬ。 だが、貴様らは………このままだと間違いなく轟沈するのだぞ?」

 

ーー

 

ラオウが静かに伊勢へ呟くと、伊勢の後ろから別の艦娘が返事を返す。

 

伊勢に似ているが、先程の驚愕した表情は既に無く、武人の気高さを持つ者として、しっかりと自分の意思を言葉に出して、ラオウに伝えた。 

 

ーー

 

日向「…………先程の攻撃には驚いたが、私達にも意地がある。 後輩達を先に死地に赴かせ、自分達は背後で高みの見物なんぞ──御免蒙る(ごめんこうむる)! 伊勢、指揮はお前に任す! ラオウ達は後ろに下がって離脱のタイミングを計れ! ────ここは私達が、出る!!」

 

満潮「…………ふん、侮って悪かったわね。 今度は私達が頑張るから、後ろで隠れてなさいよ。 もう一隻の変態と共に。 心配しなくても、必ず防いであげるから……」

 

春風「──合戦準備、完了です。 ………ご、御覧になっていて下さい。 貴方に無様な真似など……晒したくなどありません!」

 

ーー

 

ラオウに声を掛けながら、前に出て攻撃態勢を整える艦娘達。 最後に伊勢が、ラオウの背中を軽く叩くと、ニッコリと笑って話し出す。

 

ーー

 

伊勢「──という訳で、ごめんね。 せっかく心配してくれたけど……私達も艦娘なんだよ。 敵艦を目前にして、何もしない内に後輩君から庇われたままだなんて……ちょとカッコ悪いじゃない?」 

 

ラオウ「…………信念に命を捨てるのもいいだろう。 だか、それが一体何になる? お前達の帰投を待つ提督が……哀しむのだぞ?」

 

伊勢「うん。 だけどね………反対に聞くけど、私達が逃げてどうなるの? 後輩君には勝てる自信がありそうだけど、もし万が一、後輩君が轟沈したら、敵う艦娘は居なくなるんだよ? 提督にまで……危険に晒しちゃうんだよ?」

 

ラオウ「…………………」

 

伊勢「だから、私達が食い止める。 そうしたら、後輩君達が後で何とかしてくれると思うし。 私達が死物狂いで攻撃すれば、必ず敵艦に隙ができる。 そこから離脱して貰えば、私達の犠牲も無駄じゃないと思う!」 

 

ラオウ「………………」

 

伊勢「───それに、あの日向がね? あんなにやる気出してくれるところなんか、つい最近見てないの。 後輩君を気に入ったんだよ、きっと──」 

 

ラオウ「…………………」

 

伊勢「も、もちろん、私も頑張るんだからね! それなら、もしかすると……後輩君達の出番、全く無くなるかもしれないよ? 私達が無双して、あの艦隊を全部、轟沈しちゃうかも…………ね?」

 

ラオウ「…………フッ、そうかもな………」

 

伊勢「───じゃあ、後はお願いね! 後輩君、くれぐれも私達を見捨てて帰投するのよ。 全艦轟沈しました──なんてぇ提督へ報告が行ったら、あの世まで来て怒られちゃう。 提督はあれでも……怒らせると怖いんだよ?」

 

ラオウ「………そうか。 俺も気を付けよう」

 

伊勢「えへっ───だから、無事で帰投して。 提督や皆を……守ってあげてね………!」

 

ーー

 

伊勢は、ラオウに最後の願いを伝えた後、ラオウの目の前で攻撃態勢に入る。

 

そこでは、日向達が攻撃態勢を構えていたのだが、伊勢が近付くと苦笑を浮かべる。 首を傾げる伊勢に、日向は視線で原因を示した。

 

そこには、ヒューイとシュレンが黙して立っている。 それどころか深海棲艦も二人と同じく動かないままだ。 当然、攻撃などは一切行わずに沈黙しているという、珍しく相手を重んじた姿勢を取って居た事。

 

これには伊勢も驚きを禁じ得ない。 本能のままで動く深海棲艦が、こんな規律を守るとは……自分の目さえ疑うしかなかった。

 

ーー

 

ヒューイ「…………話は終わったか?」

 

伊勢「……………意外ね。 深海棲艦だから、問答無用に攻撃してくると思っていたのに……」

 

ヒューイ「ふん、拳王につく者は──皆殺し! それは、ここでも変わらぬ信条だ。 でも、お前達は恐怖で拳王に従っているとは思えん。 だから、束の間の別れの挨拶をさせただけだ……戦いでは容赦などせん!!」

 

伊勢「……意思の疎通が出来るのなら、話し合う余地もあるんじゃない?」

 

シュレン「愚問だな。 我らには守護する主が居ると同じく、貴様らには越えられない矜恃があるのだろう。 どちらも尊く気高いものだが………譲る気がなければ無駄だ。 可哀相だが………我が拳に焼かれて死ぬがいい!!」

 

ーー

 

話が決裂したと分かると、伊勢は今居る艦隊へ密かに最後の指令を命じる。 小声で語る為、向こうには聞こえていない事を信じ、日向達へ話す。

 

ヒューイ達の態度は変わらずのまま。 余程、自信があるのか……艦娘達の内緒話に興味も示さず、終わるまで攻撃せずに待つ姿勢を貫くようだ。 

 

伊勢達は、それを幸いとして幾つかの作戦を決める。 自分達が生き残る作戦ではなく、ラオウ達を無事に逃がすために、どう戦うかを。

 

ーー

 

伊勢「まず、相手の頭を同時に潰すわ。 青いのを私と満潮、赤いのを日向と春風で集中砲撃! そうすれば、ほんの少し時間が稼げる。 その後は乱戦になるから、各自の判断に任せるから、なるべく一隻でも多く轟沈させて!」

 

日向「───面白い。 ならば、私が全部殲滅してもいいんだな?」

 

満潮「………やれるもんなら、やってみればいいじゃない! その前に私が敵艦をボロクソにしてやるわよ!」

 

春風「…………うふふふっ」

 

伊勢「───じゃあ、皆! 今度会う時になったら………桜花咲く鎮守府の門で……提督の傍で再会しましょう!! 砲撃開始、てぇーっ!!」

 

ーー

 

伊勢は砲撃を開始する指令を艦隊に伝えた後、満潮の傍により砲撃を撃ち込んだ。 青い軍装に被われた敵旗艦とおぼしき男に……だ!

 

勿論、此処に居る艦娘全員が、自分達より同格か、遥かに格上の相手をするに対して、全くの勝ち目など…………………ある筈が無い。

 

もし、ラオウが参戦すれば、この戦いの勝敗は非常に有利な状況になるのも理解できる。 何回も『手伝って欲しい』と言いたくなり喉まで出て来るが、それは無理だと理解していたからこそ、全部呑み込んだ。

 

『足手纏いと嫌った自分達が………足を引っ張り、ラオウの実力を十全に発しできなければ、鎮守府や仲間、提督は………どうなるのか?』

 

今の艦隊は比較的近い海域に来ているとはいえ、燃料も使用したし疲れも溜まる。 しかも、相手の高い実力に比べ、身の丈が合わぬ艦娘ばかり。 ラオウも同じく、幾ら強くても新造艦ゆえに経験も少ない。

 

つまり、自分達が早々に轟沈すれば包囲されて、ラオウも轟沈。 もし、拿捕でもされれば、ラオウが不利になり、結局轟沈の憂き目になる。

 

だから、戦力になるラオウを離脱させ、自分達を犠牲として事を成そうとしたのだ。

 

 

 

しかし、その覚悟を見て素知らぬ振りをする──ラオウではない。 艦娘達の様子を探った後、サウザーと交渉を始めた。

 

ーー

 

ラオウ「…………サウザーよ……」

 

サウザー「フハハハハッ──俺は貴様達と手を組む気は無いぞ? あの下郎の催しに興味を抱いてな? ちょうど、俺も退屈していたから、あのムカつく艦娘がボコられる様子を見学させて貰うとしよう。 帝王ゆえ、場所も目立つ特別席で、指を差して笑ってやろうじゃないか!」

 

ラオウ「………あのくらいの敵など、俺一人でも片が付くが、あの艦娘達を失うのは非常に惜しい。 貴様に頭を下げるなど業腹だが、仕方あるまい。 帰投したら、晩飯に好きな物を調理して振る舞ってやろう。 ただ、俺が調理できる物だけだからな?」

 

サウザー「──ほ、本当かぁぁぁ!?」

 

ラオウ「この場に置いて戯れ言などほざく……俺だと思うか?」

 

サウザー「………ま、まま、まさか………土日以外にカレーが食べれる日が来ようとは! ならば………ビーフカレー、ビーフカレーを用意しろ! 勿論、中身の肉は牛だぞ!? 豚肉などで誤魔化せれると思うなよ!?」

 

ラオウ「…………約束する。 更にトッピングも出来るよう選択できる準備をもしておこう。 タコさんウインナーや唐揚げとか………どうだ?」

 

サウザー「フッ、フフッ、フハハハハハハハ──ッ!! 深海棲艦共め、この帝王自ら纏めて相手をしてやろう! 潔く我が晩飯の糧になれぇぇぇ!!」

 

ラオウ「では、俺は伏兵を始末して来る。 ああ………言っておくが、これは成功報酬だ。 失敗したら……比叡ブラックカレーを強制的に──」

 

サウザー「フ……フハハハハッ!! この俺が……そのような子悪党みたいな真似を………フハハハハッ! 奥義も出し惜しみせず守り抜いてやろう!!」

 

ーー

 

こうして、高度な駆け引きでサウザーから助力を得た後、ラオウは黒王と共に更に詳しく海域を確認して、少しずつ潰していった。 

 

リハクの準備したと思われる『伏兵』達を───

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

あとがき

 

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

 

先の二作の続きが浮かばず、やむ得ず此方を書いてましたら、こんな長い話になろうとは思わず、一週間一回の投稿が間に合わず恐縮の限りです。

 

ちなみに、今回登場の『神風型3番艦 春風』はイベント限定ですので、本来は通常海域にも建造でも出てきません。 

 

だけど、どうして出したのかというと………『書けば出るよ』と聞いたから。

 

勿論、艦これを未だにやってない作者が、該当する訳がないのですが、その分この小説を読んでくだされた方のところに来てくれれば……と思っています。

 

次こそは、艦隊 真・恋姫無双の続きを書きたいと思いますので、よろしくお願いします。

 

 

説明
予定じゃなかったのですが……前作の続きです。
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コメント
スネーク提督 コメントありがとうございます! ラオウが活躍しそうな終わり方ですが、次回はサウザーも大活躍しますw(いた)
チョロインサウザーwさて、ラオウの無双が楽しみですw(スネーク)
mokiti1976-2010提督 コメントありがとうございます! サウザーは、イチゴ味をベースにしているので、こんな具合いです。 次の戦闘シーンでは大活躍ですよ………多分。(いた)
サウザーが何かちょろいですな。(mokiti1976-2010)
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