飛将†夢想.14
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上党城でのある日のこと。

 

荒廃していた上党城に落ち着きが見え始めた頃、

今日の政務を早く終わらせた呂布は城の中を宛もなく歩いていた。

 

 

「……ーん…」

 

 

そんな呂布の耳に何かが聞こえる。

 

 

「……ふちーん…」

 

 

それは次第に大きくなり、

呂布は立ち止まって耳を頼りに辺りを見渡し始めた。

 

そして、

呂布はその場所を見つける。

 

 

「呂布ちーん」

 

 

呂布の目に映るのは、

庭園にある巨木の根本に座って手を大きく振る霞の姿。

座る霞の近くには杯と酒の入った陶器があった。

 

 

「…非番か?」

 

 

酒の匂いを漂わす霞を見て尋ねる呂布。

霞は呂布の言葉にニッコリ笑うと首を横に振る。

 

それと同時に呂布は霞に歩み寄り、

その首根っこを掴むと宙吊りにして霞を睨んだ。

 

猫のように拳を軽く握り両手を曲げて呂布を見る霞は、

彼の怒りを和らげようとニャーと冗談ぽく鳴いてみせるのだが…

 

 

「………霞、職務放棄は厳罰だ、解っているだろうな?」

 

 

「アカン、増長させたわ」

 

 

そんな事で呂布の怒りが納まるわけもなく、

霞はハハハと苦笑すると、そのまま言葉を続けた。

 

 

「まぁ、仕事ゆうてもウチの部隊と陽炎んとこの部隊の訓練やからなぁ…ウチ居らんでも陽炎がやってくれるって、呂布ちん」

 

 

「…何を開き直っている?早く行け」

 

 

「ん……ハァ、分かった、分かった。酒切れたら行くわ」

 

呂布の圧に観念したのか、

霞は溜め息をつき、呂布に向かって酒の入った陶器を振ってみせる。

チャポチャポと陶器を振るたびに中から音が聞こえた。

 

その音から陶器の中にある酒の量をある程度測った呂布は、

霞の日頃の行いも配慮したのか、

ふてくされた霞をゆっくりと降ろすと、

 

 

「…その量ならば直ぐに飲み終わる。早く飲み干し訓練に戻るんだぞ?」

 

 

霞の言を信じて、

その場を立ち去ろうと霞に背を向けた。

 

だが、

 

 

「よっしゃ、頑張って飲み干ほそか。せやけど…プッ、まだ滅茶苦茶あるやないかぁ。呂布ちーん、ウチだけじゃ“酒”飲み切れんわ、これじゃあ訓練に行けんなぁ〜」

 

 

霞は棒読みで、

しかも途中堪えきれず笑いながら話し始めると、

木の後ろから酒瓶をどんどん取り出して、背中を向ける呂布に手招きをする。

 

呂布は霞の言葉に『騙された』と背中を向けたまま、

顔に手をやって深く溜め息をついた。

 

そんな呂布に手招きしていた霞は待つことに我慢出来なかったのか、

駆け寄って呂布の手を引いくと、

再び木の下へ向かい座らせて杯を手渡しニッと笑う。

 

 

「一緒に飲も、呂布ちん♪」

 

 

霞の満面の笑み。

 

呂布は霞の顔を見ながら、

観念したかのようにゆっくり腰を降ろす。

だが、呂布は簡単に飲もうとはせず、

霞を見て不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「…俺が強いのを知っているだろう?この量、俺とお前ならばあっという間に無くなるぞ」

 

 

「呂布ちんはウチを早く訓練場に行かせたい。ウチは呂布ちんと酒を飲みたい。どっちにしても酒は減る…一石二鳥やないか♪」

 

 

「………」

 

 

脅しで言った自分が馬鹿であったと黙る呂布。

霞はそんな呂布を見ながら、鼻歌を歌い呂布の持つ杯と自身の杯に酒を注いだ。

 

 

「んじゃ、上党での…久し振りの酒宴、楽しもか?」

 

 

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霞のその一言を合図に、

二人の小さな酒宴は始まる。

 

呂布自身、そんな霞に対して呆れてはいたが、

久しく二人で飲んでいなかったので実際悪い気分ではなかった。

 

二人は手に持った杯を直ぐ空にし、

暫くしてニコニコと笑いながら霞が呂布に話しかけてくる。

 

 

「んー、やっぱ外の風を身体に感じながら飲む酒は格別やなぁ。そうは思わんか、呂布ちん?」

 

 

「…そうだな」

 

 

「やろぉ?杯を空にしてカッと熱くなる身体を風がスッと冷やしてくるんや、これが堪らんく…って、今、『…酔ったか?』とか思っとったやろ?」

 

 

熱く語り始めた霞は、呂布の返事を聞いて暫くしてから呂布の態度に気付き、

呂布の声真似をしながら頬を膨らませる。

それに呂布は堪えきれずプッと吹き出すと、

そのまま笑いながら霞の杯に酒を注いだ。

 

呂布に酒を注がれた霞は、

頬を膨らませてはいたが内心喜ぶ。

 

“二人っきりの酒宴”

 

五月雨や音々音、陽炎が仲間になってから気を使って二人で飲む事を我慢していた霞だったので、

今はこの時間を存分に楽しむことにした。

 

それから暫く飲んでいると、

霞は通路を歩いていた侍女を発見。

それを呼び寄せ、食事を運ぶように頼む。

 

“…おいおい”と呂布が止める前に霞はあれこれ指示して直ぐに行かせると、

呂布は慌てて駆ける侍女の背を見ながら頭を下げた。

 

 

「…呂布ちんのそういう所に朱椰は好きになったんやろうなぁ」

 

 

侍女が見ていない中、

頭を軽く下げた呂布を見て霞は杯の中の酒を回しながらしみじみ呟く。

それを呂布は横目で確認し、

杯を再び空にした後に霞に話しかけた。

 

 

「…何故、そう思う?」

 

 

「何故って…」

 

 

霞は回していた杯を止めると、

クッと酒を一気に飲み干し再び呂布を見る。

 

 

「…それを女に尋ねるのは野暮ちゅうもんやで、呂布ちん」

 

 

頬をほのかに赤くして、

フフっと笑う霞の表情は何処か妖艶なものがあった。

呂布はそれを見て霞にも女らしいがあるのだと思いつつ、

 

 

「…野暮かどうかは判らんが…そう言うのならば、すまん」

 

 

呂布は霞に酒を注ぎながら謝罪した。

と、そこに先ほどの侍女が複数の侍女と共に料理を運んでくる。

 

それに霞は自身の手を合わせて、

目を輝かせた。

 

 

「ひゃぁ〜っ、めっちゃ美味しそうやないか。ありがとなぁ、侍女たんたち♪…ご褒美に後で、たぁっーぷり可愛がってやるでぇ…」

 

 

霞は料理を貰うとその料理を賞賛し、

その後に手をワキワキ、顔をニヤニヤとしながら侍女たちを見て言う。

それに侍女たちは苦笑、唖然、顔を赤めるなど、

それぞれ異なった表情を浮かべて、そこから立ち去っていった。

 

それを見ていた呂布は、

敢えて何も言わず。

 

侍女たちが姿を消すと霞は手をワキワキと動かすのを止め、

ため息をついて呂布を見た。

 

 

「…って、実際に言われたら、ウチどうなるんやろな?」

 

 

「…さっきから、どうした?誘ってるのか?」

 

 

呂布は何処かで言ったことのある言葉を頬杖ついて霞に言う。

 

 

「いやぁ…な。まぁ、正直に言うたら、呂布ちんは朱椰が死んでから、しっかりヤルことやってんかなぁ?、って思ってな」

 

 

その台詞に、ブッ!!?と思いっきり吹き出した呂布は、

ゲホゲホと咳き込みながら霞を睨む。

“突然、何を言っているんだ、お前は”と。

 

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「ちょっ、汚いで!?」

 

 

「………お前は俺の何を心配しているんだ」

 

 

呂布が吹き出したものから、

慌てて料理を両手に持って避ける霞。

呂布は暫くしてから腕で口を拭い、霞を見る。

 

霞は呂布の言葉にキョトンとした表情を見せた。

 

 

「そら、今のウチらの主君は呂布ちんなんやし、その身体のこと心配すんのは普通やろ?」

 

 

「…いや、そうではな」

 

 

「あれやったら……ウチが相手してやろか?」

 

 

ヒュンッ。

 

艶やかな顔で唇をペロリと出し、

呂布に迫り寄ろうとする霞。

と、突然その頬の横を何かが空を裂き、

後ろの巨木に突き刺さった。

 

霞は動きを止めると、ゆっくりと後ろの巨木を見る。

そこには煙を上げ巨木に突き刺さる箸が一本。

 

 

「…目が覚めただろう、霞?言っておくが、この世界に来てから、お前たちにそういう感情が湧いたことは一切ない」

 

 

箸の刺さった後ろの巨木を見て冷や汗をかく霞。

それを見ながら、

箸を投げたのだろう、投げた時の構えのまま溜息をついて口を開く呂布。

 

霞はギギギと音が鳴りそうに振り返る。

 

 

「それは、それで、少し傷付くで。呂布ちん…」

 

 

「…ん?」

 

 

「…やっぱ、気にせんでいいわ」

 

 

呂布の理解出来ていない顔を見て霞は諦めた。

 

そして、二人は再び酒を飲み始める。

 

だが、黙ったまま。

 

 

「…陽炎たちと何か話したのか?」

 

 

その沈黙を暫くしてから呂布が破る。

 

どこか顔を青くした霞は、

呂布の言葉に力無く顔を向けた。

 

 

「んー、呂布ちんも一国一城の主になったんやから妻の一人でもーって、話してな…」

 

 

「…だろうと思っていた。お前の“天地が崩壊しそうな”その態度を見ていたら、直ぐに判る」

 

 

「聞き捨てならんで、今の言葉」

 

 

般若のような表情で呂布を見る霞に気にせず、

呂布は杯を空にしてトンっと下に置く。

 

 

「…身体を交えるだけの者は傍に要らんよ。俺はお前たちの笑みがあれば、それだけで良い」

 

 

霞は呂布のその穏やかな表情に杯を持った手を止める。

呂布は言葉を続けた。

 

 

「…霞、朱椰が死んでから俺という存在を最初から知っているのは、お前だけになったな。それだけに、お前だけは皆よりも少しだけ特別な存在だ。だからこそ、お前の笑みに俺は色々と救われる」

 

 

「呂布ちん…」

 

 

「…だから、笑っていてくれ。それが俺の力になる」

 

 

霞は呂布の言葉、更に朱椰を思い出して目に少しの涙を溜める。

それに呂布は何も触れず、

自身の杯と霞の杯に酒を注いで、

 

 

「…簡単に言えば、妻など要らんということだ」

 

 

態とらしく言うと、

コツンと霞の杯と自身の杯を合わせて一気に飲み干した。

 

霞は呂布の気遣いを無駄にしないように、

バッと溜めた涙を拭い笑う。

 

 

「……ん、ハハッ、良い飲みっぷりやな、呂布ちん♪ウチも負けられへんっ」

 

 

呂布に続いて一気に酒を飲み干す霞。

それを見て呂布は目を瞑ったまま微笑した。

 

 

「…相変わらず、良い飲みっぷりだな。これなら直ぐに訓練場に行かせられそうだ」

 

 

「ブッ!!!」

 

 

呂布の台詞に、霞の口から霧状の酒が出される。

 

咳き込む霞と顔が酒塗れになった呂布。

二人は目が合うとお互いの顔を見ながら笑い、

再び酒を注いで杯を交わすのだった。

 

 

拠点フェイズ・霞編1(終)

 

説明
拠点フェイズ『小さき酒宴』

再版してます。。。
作者同一です(´`)
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コメント
陸奥守さま<<外史に来ると誰でもイケメソになります(笑)(Queen@青の英雄)
一体何がどうなったら史実の呂布がこんなイケメンになるんだろうか。(陸奥守)
タグ
三国志 呂布 恋姫 

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