真・恋姫†無双 外史 〜天の御遣い伝説(side呂布軍)〜 第八十六回 第五章B:御遣い奪還編A・今度は、アタシ達が体を張る番さね
[全6ページ]
-1ページ-

 

 

馬騰「ケホッ、たんぽぽ、翠はまだなのかい?」

 

 

 

地に着くほどの長いウェーブがかった茶色のポニーテイルを風になびかせ、軽い咳をつき、

 

しかしその燃えるような緋色の瞳を、病人とは思えないほど爛々と煌めかせながら、

 

本拠である漢陽郡の居城の門前で仁王立ちしていた馬騰は、出発の時になっても現れない馬超に対して若干イライラしながら、

 

すでに出発の準備が整っている馬岱にどうなっているのか尋ねた。

 

 

 

馬岱「お姉様はまだ厠に・・・・・・おば様、本当に御遣い様は・・・」

 

 

 

対して、馬岱は凛々しい太眉を珍しくへの字に歪ませながら、現在取り込み中であることを告げ、

 

風の噂で耳にした天の御遣いのことについての真偽を逆に尋ねていた。

 

 

 

馬騰「・・・信じたくはないけど、仮に金城から発ったあとの道中で襲われたのなら、処刑の時期とも合致するね・・・」

 

 

 

馬騰は馬岱の質問に対して口を堅く引き結ぶと、可能性は否定できない旨を告げた。

 

 

 

馬騰「とにかく、噂を信じるよりもまずは証拠さね。さすがに曹操軍の領地に乗り込むわけにはいかないからね。どの道、成都へは一度

 

礼に上がるつもりだったんだ。この機に真相を確かめるよ」

 

 

馬岱「けど、もし御遣い様や陳宮さん、高順さんが成都に戻ってなかったら・・・」

 

馬超「その時は報復の手伝いをするだけさ。あたし達はほとんど同盟関係も同じなんだからな。そうだろ、母様?」

 

 

 

すると、馬岱の質問に割って入るように、馬超が城の方から歩いてきた。

 

その表情は険しく、そして若干充血した瞳も相まってどこか辛そうである。

 

 

 

馬騰「・・・あぁ、それについては異存ないよ。たとえ曹操軍と全面戦争になろうとも、群雄達には何とか首を縦に振ってもらうさね」

 

馬岱「・・・お姉様、もう大丈夫なの?」

 

馬超「大丈夫・・・もう支度は済んだよ。さぁ、すぐ成都に行って真相を確かめよう」

 

 

 

馬超が長い時間厠に行っていたその真意を察しているだけに、馬岱は心配そうに尋ねるが、

 

馬超は一呼吸置くと気丈に問題ないと告げ、成都へ向かうべく馬に跨った。

 

 

 

-2ページ-

 

 

 

【益州、成都城】

 

 

張遼「けどまぁ、これで組み分けは出来たわけやけど、いくら強行軍で奇襲かける言ーたかて限界っちゅーもんがあるやろ?やっぱもう

 

少し数がほしいところやな」

 

 

 

北郷救出組・江夏救援組・成都残留組の3つの組み分けが、一時は激しい意見の応酬があったものの何とか決まり、

 

一息ついたところで、誰も口にしようとはしないが、しかしどうしても棚上げすることができない事実を張遼が口にした。

 

 

 

陳宮「それを言われるとつらいのですが、確かに我らの兵力で、しかも分散している状態では、許にたどり着く前にあるいくつかの関を

 

突破するのも一苦労でしょうな」

 

 

鳳統「最悪の場合、関で手間取っている間に、背後を曹操軍寄りの劉表軍や北方の異民族に突かれる事も想定しないといけないかもです」

 

公孫賛「重要なのは速さと突破力、いかに無駄なくいくつもの関所を突破するかってことだな」

 

 

 

曹操軍の本拠であり、恐らく北郷が捕えられているであろう許にたどり着くまでには、

 

長安にある潼関以降はいくつもの曹操軍サイドの関所を通らなければならず、

 

当然北郷軍をすんなりと通してくれるわけもなく、結果衝突は避けられず、また、その時南方からは劉表軍、

 

北方からは烏垣族などの異民族というように、曹操軍寄りの軍団からの妨害を受けることも想定できるだけに、

 

少ない兵力の中では、並み以上の速さと突破力が求められる状況であった。

 

 

 

高順「・・・こうなれば、涼州に援軍を求めてはどうでしょうか?ちょうど同盟の話もあったことですし」

 

 

 

すると、高順は少し考え込むと、現状の兵力差を少しでも補うべく、涼州勢に援軍を求めてはどうかと提案した。

 

 

 

張遼「同盟?なんやそれ聞いてへんで?」

 

 

 

高順から突然同盟などという話題を出され、初耳の張遼は詳しい説明を求めた。

 

 

 

陳宮「あぁ、そういえば色々ありすぎて言いそびれていたです。実は一刀殿が涼州に招待されたのは、同盟の話があったからなのです」

 

 

 

北郷の誘拐、そして処刑を目の当たりにしてからの、実は処刑されたのは偽物で本物は生きているという事実の確認という、

 

あらゆる絶叫マシーンもかくやというほどの目まぐるしいスピードでの衝撃を受け続けた陳宮と高順にとって、

 

馬騰から同盟の話を持ち掛けられたという、極めて重要だがそれらに比べればインパクトに欠ける情報を皆に伝え損ねたことは、

 

誰にも責められないだろう。

 

 

 

高順「現状涼州の力だけでは曹操軍を抑えられない。今回の戦いがいい例だ、と馬騰様は仰っていました」

 

魏延「それで、お館はどう返事したんだ?」

 

 

陳宮「こちらとしても望むところでしたし、この前の軍議でも同盟の話については、我らの上層部で反対する者はいないと分かっていた

 

ので、受ける方向で返事はしたのです。ただ、涼州側がまだ群雄間で意見の調整が取れていないようだったので、それが取れ次第正式に

 

と申し添えてあるのです」

 

 

厳顔「ふむ、涼州勢は曹操軍とは敵対しておるし、先日我らが援軍を出したという借りもある。さらにそのような同盟話もあるとなれば、

 

馬騰殿なら応じてくれるやもしれぬな」

 

 

 

確かに、涼州勢にとって曹操軍を叩くことに何のためらいもないし、借りを返せるという意味でも利害が一致する。

 

さらに、馬騰が涼州内で同盟の話を上手くまとめ上げているならば、

 

それが一部だけであっても、それらを味方につけられるのなら心強いことこの上なかった。

 

 

 

呂布「・・・・・・誰か来た」

 

 

 

そのように馬騰軍に援軍を求めるべきではという話がちらほら出始めていたその時、

 

いつも通り黙って話を聞いていた呂布が突然、何かの気配を感じ取ったのか、扉の方を見つめた。

 

 

 

兵士「軍議中失礼します!たった今涼州より馬騰殿がお見えになられました!」

 

 

 

そして、呂布が反応してから数秒後、扉が開け放たれ、兵士が馬騰の来訪を告げた。

 

 

 

厳顔「噂をすれば何とやらだな」

 

 

 

-3ページ-

 

 

 

兵士に案内され、部屋に入ってきたのは、馬騰、馬超、馬岱の三人である。

 

 

 

陳宮「お三方、思いのほか早くの再会になりましたな」

 

高順「まさかこんなにも早くいらっしゃるとは思いもしませんでした」

 

 

 

先日金城での別れ際に、改めて挨拶に伺うと告げられ別れたとはいうものの、

 

すぐに行動に起こすとはつゆほども思っておらず、陳宮と高順は驚いていたが、それよりも、

 

北郷の置かされている現状をどこまで説明したものかということの方が二人の頭の中を占めていた。

 

 

 

馬騰「ケホッ、陳宮殿と高順殿はここにおられるか・・・御遣い殿は不在かい?」

 

 

 

そして、北郷サイドが恐れていた、そして同時に当然来るだろう質問を馬騰は投げかけた。

 

 

 

陳宮「・・・一刀殿は今は不在なのです。間が悪かったですな・・・」

 

 

 

結果、陳宮は一瞬思考を高速回転させたのち、本当のことは言わず、シラを切る選択をした。

 

いくら馬騰が信用にたる人物とはいえ、言ってしまえば一度共闘し、

 

宴の席を共にし、同盟の話を受けた、まだそれだけの間柄なのである。

 

情報がいつどこで漏れるかもしれない。

 

馬騰自身が何の問題がなくとも、馬騰の部下からその情報が漏れるかもしれない。

 

もちろん考え出したらきりがないが、そのような状況の中、北郷が生きているという情報をつかんでいるという、

 

奪還作戦に必須のアドバンテージを失わないためにも、陳宮が情報を隠そうとした選択は軍師として正しかった。

 

もちろん共闘の話を持ち掛けるなら本当のことを言うのが筋なのだが、敵を欺くならまず味方からではないが、

 

北郷が健在なことを知らなかった態で話を進めることも一つの選択であった。

 

 

 

馬騰「ケホッ、ここは腹を割って話そうさね。アタシたちがただ挨拶に来たわけでないのは察しがついているだろうに」

 

高順「馬騰様・・・」

 

 

 

しかし、馬騰はそれらの事情をすべて理解したうえで、真実を語ってほしいと訴えかけた。

 

はぐらかしの類は一切不要。

 

見ると、馬騰、馬超、馬岱の表情は、つい先日別れ際に見たそれとは似ても似つかない険しく真剣そのものであった。

 

 

 

馬騰「ケホッ、御遣い殿処刑の報は涼州にも届いている。ケホッ、万が一、陳宮殿と高順殿が成都に戻っていなければ最悪の状況を受け

 

入れるしかなかったけど、ケホッ、そうじゃないってことは、何か込み入った話があるってことなんじゃないのかい?」

 

 

陳宮「・・・・・・・・・」

 

 

 

馬騰の言いたいことは痛いほどわかる。

 

しかし、陳宮は未だ真実を言うべきか決めあぐねていた。

 

それは、自身の発言が、現在の北郷の状態を作っているといっても過言ではないと自認しているからなのかもしれない。

 

 

 

馬超「あたし達馬一門は成都に全面協力するつもりだ。他の涼州の群雄も説得して協力させてみせる。それが御遣いさんの弔い合戦でも、

 

奪還戦でもだ」

 

 

馬岱「お願い!御遣い様がどうなったのか教えて!」

 

 

 

さらに、馬超と馬岱も真実を教えてほしいと前のめり気味に懇願してきた。

 

そのような馬一族の意気に、陳宮は思わずたじろいでしまう。

 

 

 

呂布「・・・・・・一刀は、生きてる」

 

 

 

すると、馬騰たちの言葉を聞き、その思いを受け取ったのか、呂布が静かに、そしてはっきりと北郷が生きていると告げた。

 

 

 

陳宮「恋殿・・・」

 

 

 

自身が苦悩しながら言いあぐねていた北郷健在の情報をあっさりと明かしてしまった呂布に対して、

 

陳宮は唖然と呂布の名前をつぶやいていた。

 

 

 

呂布「・・・これから助けてって、お願いする・・・嘘をつくの、よくない」

 

 

厳顔「ふむ、ねねよ。心配する気持ちは分かるが、馬騰殿は他言無用と頼めばしっかりと守ってくれるお方だ。それに、我らに全面協力

 

してくれると言っておられるのだ。上層部だけでも情報は共有しておいた方が何かと策も立てられ易かろう」

 

 

張遼「もうねねのせいで、なんてしょーもないことは言わへん。ここで決めたことは、みんなで決めたことや」

 

鳳統「ねねちゃん」

 

陳宮「みんな・・・」

 

 

 

そして、呂布だけでなく、厳顔、張遼と、次々に本当のことを言うべきだと告げた。

 

重責は一人で背負うものではない。

 

皆で背負ってこその仲間である。

 

陳宮は周囲を見回すと、高順、魏延、公孫賛と、残りの者も無言でしっかりと頷き、促した。

 

 

 

陳宮「・・・わかったのです。それでは、今までの経過を端的に説明するのです」

 

 

 

結果、意を決した陳宮は、北郷健在を知ることになった経緯を語り始めた。

 

その瞳に、もはや迷いの色は一切ない。

 

 

 

-4ページ-

 

 

 

馬騰「・・・ケホッ、なるほど、つまり処刑されたというのは御遣い殿ではない全くの別人のいうわけだね」

 

馬超「よ、よかったぁ・・・・・・」

 

 

 

北郷の無事を聞き、安心したのか、馬超は凛とした様子から一転、へなへなと膝から崩れ落ちてしまった。

 

 

 

馬岱「もう、お姉様!安心する気持ちは分かるけど、御遣い様が生きてるってわかったからってそんな気を抜くのはまだ早いよっ!」

 

馬超「な、何変なこと言ってるんだよ!別にそんなんじゃない!」

 

馬岱「えー、私そんな変なこと言ってないじゃん」

 

 

 

そのような情けない馬超の様子に、馬岱はいつもの調子でのからかい半分、

 

真面目な気持ち半分で馬超を鼓舞するが、日頃の行いのせいか、完全に馬超にからかいと捉えられ、

 

照れ隠しの逆ギレで対応されてしまったため、馬岱は心外と言わんばかりに頬を膨らませた。

 

 

 

馬騰「ケホッ、とにかく、御遣い殿が生きていて、曹操軍にさらわれているのであれば、アタシ達は全力で御遣い殿を奪還する手助けを

 

するだけさね」

 

 

 

そのような姉妹の通常運転のやりとりに対して特に何も言うことなく、馬騰は話を進めていく。

 

 

 

高順「しかし、このようなことを聞くのは無粋かもしれませんが、本当によろしいのですか?たとえ曹操軍の主軍が不在で手薄とはいえ、

 

厳しい戦いになるのは間違いありませんが・・・」

 

 

馬騰「ケホッ、勿論だよ。この前は御遣い殿がアタシ達涼州を救ってくれたんだ。今度は、アタシ達が体を張る番さね」

 

 

 

高順の一抹の懸念に、しかし馬騰は一切ためらうことなく協力すると公言した。

 

北郷の体を張った行動が、涼州という一国に値する者たちを動かす原動力となったのである。

 

もちろん、そもそも北郷が出陣しなければさらわれることもなかったし、

 

涼州軍が援軍を送る必要はなかったではないかと言われればその通りなのだが、

 

これらの一連の出来事が、結果後々の深い信頼関係を生むことにつながるのである。

 

 

 

呂布「・・・ありがとう」

 

陳宮「涼州の騎馬軍が味方に付くとなれば心強いのです」

 

公孫賛「わ、私だって負けてないぞ!」

 

高順「勿論、白蓮様のことも頼りにしていますよ」

 

 

 

やはり騎馬を得意とするものとして最低限の対抗意識があるのか、涼州の騎馬軍がという限定的な高評価の発言を受け、

 

公孫賛は妙な対抗心を燃やすが、すかさず高順がなだめにかかった。

 

 

 

張遼「よっしゃ、なんか盛り上がってきたで!ええ空気や!このままの勢いでさっさと一刀助けに行くで!」

 

魏延「その意気だ霞!ワタシもみんなの分まで全力で曹操軍を引っ掻き回してきてやる!」

 

 

 

すると、張遼は涼州軍が味方に付くことによる北郷奪還の機運の高まりから、拳を握りしめながら立ち上がり、

 

そのままの勢いですぐさま出陣しようと宣言し、魏延も張遼同様興奮した様子で江夏での活躍を表明した。

 

 

 

鳳統「あわわ、お二人とも落ち着いてください。ご主人様奪還組が動き出すのは曹操軍が動きを見せてからです」

 

厳顔「それに、馬騰殿らにも準備の期間が必要であろう。他の群雄達の協力も仰いでいただかねばならないのだしな」

 

 

 

すかさず鳳統はオロオロしながらストップをかけ、厳顔もそれに続いた。

 

 

 

馬騰「ケホッ、はっはっは、その意気やよし。アタシ達もすぐに対応できるよう、すぐに説得に取り掛かろうかね」

 

馬超「大丈夫、みんないい人たちばっかりだし、絶対協力してくれるぜ」

 

馬岱「たんぽぽもはりきっちゃうよ♪」

 

 

 

そのようなやり取りを見た馬騰は、咳き込みながらも豪快な笑い声をあげ、張遼や魏延のやる気を買って、

 

出来る限り早急に対応してみせようと豪語し、馬超は自信に満ちた表情で、馬岱はニコニコとした表情で気合を入れた。

 

 

 

陳宮「詳しくは断定できないですが、ここ最近の曹操軍の動向から推察するに、恐らく翌月頃に動き出すはずなのです。それまでに内部

 

分裂の偽情報を流すことも含め、こちらの戦闘準備を万端にしてから合流するということで・・・そうですな、3週間後、天水で落合い、

 

曹操軍が南下を開始後、すぐに許を目指すということでどうです?」

 

 

馬騰「ケホッ、3週間だね・・・十分だ、それでいこうかね」

 

 

 

最後に陳宮が最近の曹操軍の動きからその行動時期を予測し、

 

3週間後という期間を設けて各々戦闘準備をしたのち、再び合流することを提案し、馬騰も同意した。

 

許までの長期遠征ということを考えれば、3週間という期間が十分な期間なのかと言えば決してそうとは言えないが、

 

曹操軍の南征開始という限られた時間の中、無理などと言ってはいられない。

 

期限内にやれと言われたらやる。

 

武器兵糧の準備しかり。

 

群雄の説得しかり。

 

それらのことを分かったうえでの、十分という馬騰の感想は、決して見栄などという次元の話ではなかった。

 

信念。

 

同盟者として、助けられた恩を返すという絶対的な強い意志。

 

それは馬騰の病弱とは思えない堂々たる佇まいから窺い知ることができた。

 

 

 

-5ページ-

 

 

 

【荊州、樊口、劉備軍陣営】

 

 

呂布たちは、馬騰たちと密談を交わした後、すぐに諸葛亮の元に使者を送り、援軍要請に応える旨を伝えに行っていた。

 

向かった使者は鳳統と魏延である。

 

ただし、ただ援軍要請に応えると言うだけではなく、鳳統は一つの策を弄した。

 

 

 

劉備「そんな・・・酷いよ曹操さん・・・御遣い様はみんなの希望の光なのに・・・」

 

趙雲「ふむ、やはりあの噂は真であったか・・・いやはや、曹操も思い切った行動に出たものだな・・・」

 

諸葛亮「・・・そうですか、御遣い様が・・・・・・」

 

 

 

つまり、鳳統は北郷健在という情報は一切伝えず、一般に出回っている、

 

曹操によって天の御遣いが処刑されたという情報だけを伝えたのであった。

 

 

 

諸葛亮「・・・・・・・・・」

 

劉備「それじゃあ、援軍なんて無理ですよね・・・それどころじゃないでしょうし・・・」

 

鳳統「いえ、むしろ私は援軍要請をありがたいものと思っています」

 

劉備「え?」

 

 

 

君主が倒されたような状況の中、当然他国のことなど構っていられるはずはなく、

 

今回の鳳統の訪問もその旨を伝えるものだと思っただけに、鳳統が援軍要請をありがたいと表現したことを劉備は理解できなかった。

 

 

 

趙雲「・・・仇討ですかな?」

 

鳳統「はい、この際どのように醜く思われようとも構いません。仰る通り、援軍要請に応える一番の要因は、ご主人様の仇討にあります」

 

 

 

しかし、趙雲はすぐさまその意図するところを指摘してみせ、趙雲の指摘を、鳳統は臆することなく肯定した。

 

その幼さを残した普段の様子からは想像もつかないような冷たく鋭い瞳は、軍師鳳士元の本来の姿か。

 

 

 

鳳統「もちろん今国は非常に危うい状況です。主君を失った今、幹部の多くが生気を失っているに等しい状況にあります」

 

劉備「・・・・・・ぁ、それってもしかして、呂布さんたち・・・?」

 

 

 

幹部の多くというのに思い当たる節があったのか、劉備は恐る恐るといった様子でその想像する名前を口にした。

 

 

 

鳳統「はい、お察しの通り、呂布さん達はかつて主君である董卓さんを討たれたという苦い思い出があります。その後しばらくの状況は

 

私も伝聞程度しか知りませんが、それはひどいものだったと聞いています」

 

 

 

董卓が虎牢関で曹操に討たれたのち、呂布軍は長安で内部分裂を経て各地を転々、その先々でかつての姿など見る影もない醜態をさらし、

 

末期である下?での八健将たる幹部の魏続や宋憲らの裏切りを見ても分かるように、

 

呂布の求心力は地に落ち、誰もが飛将軍の最期かと思ったものである。

 

 

 

鳳統「そのようなどん底の中、目の前にご主人様が現れたそうです。ご主人様はそれは頼もしく、そして優しく、呂布さん達の心の穴を

 

埋めるのに、そう時間はかからなかったことでしょう。呂布さんたちにとってはまさに希望の光。再び生気を取り戻した呂布さんたちの

 

躍進は、益州平定などの実績を見れば一目瞭然です。呂布さん達にとって、ご主人様は、普通の主従の関係とは比べ物にならないほどの、

 

とても強い絆で結ばれていたんだと思います」

 

 

 

呂布のどん底時代を知るものにとっては、誰も呂布軍が再起するなど考えなかったが、それを可能にしたのが北郷であった。

 

呂布軍にとって北郷はかけがえのない存在。

 

もちろん、呂布たちが北郷のことを主君に対する忠誠や信頼といった類の感情以上のものを抱いているという事実を抜きにしても、

 

北郷の存在は呂布軍にとって非常に大きなものであった。

 

 

 

鳳統「そのようなご主人様が討たれたとなれば、もはや立ち上がることができないほどの精神的傷を負うのも分かります。ですが、泣き

 

寝入りなど私は絶対に認めません。大切なものが奪われたのなら、相手にもそれ相応の喪失を味わわせるべきだと私は考えています」

 

 

 

その刹那、鳳統の冷たい瞳に炎が灯った。

 

それはイメージするなら氷の炎とでも称するべきか。

 

見るものを震撼させる凄みがそこにはあった。

 

因果応報。

 

やられたらやり返す。

 

普段の鳳統を知っているものが見たら、いったいどうしたことかと混乱するかもしれないが、

 

それが逆に、鳳統が本気であると言うことを悟らせた。

 

 

 

諸葛亮「・・・・・・つまり、全員が全員援軍要請に応えているわけではない、言い方は不適切かもしれませんが、一部の者による対応と

 

いうことですか?」

 

 

 

諸葛亮も最初は鳳統の言葉をどう解釈するべきか思案しながら余計なことはしゃべらず、

 

慎重に話を聞くに徹していたが、やがて徐々に発言するようになっていった。

 

 

 

鳳統「はい、援軍要請に応じる意思のある幹部は私と今日ここに来ている魏延、そして厳顔という将の三人だけです。そして、元董卓軍

 

の皆さんが戦意を喪失している今、南蛮族の侵攻に備え、成都の守りも考えて厳顔さんには残ってもらうつもりでいます」

 

 

趙雲「厳顔・・・なるほど、益州が誇る鬼将軍殿か・・・それなら一国の留守を任せられると言うわけですな」

 

諸葛亮「・・・・・・要するに、援軍要請に応じることができるのは、実質鳳統殿と魏延殿だけということですか?」

 

 

 

しかし、諸葛亮は発言するようになったとはいえ、鳳統の話の100%全てを信じるということはせず、

 

話の裏を探るべく慎重に言葉を選びながら話を進めていく。

 

 

 

鳳統「はい、もし信じがたいと言うのならご覧いただいてもかまいません」

 

劉備「え、で、でもそれって・・・」

 

趙雲「正気か?」

 

 

 

諸葛亮が何度も援軍に応じる規模を確認するものだから、未だ話を信じてもらえていないと感じた鳳統は、

 

実際に成都に来てその目で確かめればよいと提案するが、その刹那、劉備サイドが驚愕の声を漏らした。

 

 

 

鳳統「もちろん、自国が疲弊している様子など、まして、主力が使い物にならない状況などを他国に見せるなどということは自殺行為に

 

他なりません。しかし、そのような危険を冒してでも、私たちはご主人様の仇を討ちたいのです」

 

 

 

鳳統の、あたかも成都に攻め込む好機ですよと言わんばかりの発言は、ある意味では捨て身の発言であった。

 

もちろん、実際は呂布たちには事前に偽情報を流す際、劉備軍が確認しに来るかもしれないため、

 

その時は演技対応よろしくと伝えてはいるのだが、それでもいつボロが出るか分からない危険など極力避けるべきであるので、

 

ある意味では鳳統の発言は藪蛇とも言えるかもしれなかった。

 

 

 

趙雲「しかし、そなた達二人しか出陣できないのは分かったが、実際の兵力となるといかほどになるのかな?」

 

 

 

しかし、鳳統の気迫籠る演技の甲斐あってか、なんとか劉備軍を納得させることに成功したようであった。

 

 

 

鳳統「恐らく率いる兵も5000ほどになると思います」

 

劉備「5000・・・」

 

 

魏延「安心しろ。数は少なくとも皆優秀な兵ばかりだ。それにお館の敵討ちだ。一人でも多くの曹操軍を嬲殺しにして戦に貢献してやる。

 

ワタシ一人で万人の働きは保障しよう」

 

 

 

余計なことを話して策を台無しにしてはと、なるべく話さないでおこうとずっと黙っていた魏延であったが、

 

劉備の不安げな言葉に対して、絶妙のタイミングで握り拳をミシリときしませながら、鋭い表情で自信をみなぎらせた。

 

 

 

鳳統「現状、私達も色々手一杯の中、これが精一杯の答えです。劉備さん達にとっては、一人でも多くの兵が欲しいところでしょうし、

 

私達はご主人様の仇を取りたい。お互い利害も一致していると思います」

 

 

諸葛亮「・・・・・・現状は分かりました。もちろんたとえ少数でも援軍要請に応えて頂けるのならこちらとしてはありがたいことです。

 

孫策軍には私から伝えておきます」

 

 

 

そして、鳳統の最後の一押しを聞き終え、今までの話の内容を慎重かつ高速で咀嚼した諸葛亮は、

 

やがてゆっくりと鳳統の語った現状を受け入れ、孫策軍に伝えると告げた。

 

 

 

劉備「鳳統さん、魏延さん、本当にありがとう」

 

魏延「ふん」

 

 

 

劉備は頭を深々と下げながら謝意を示したが、魏延はボロを出すまいと仏頂面でそっぽを向いたが、

 

逆にその行動が魏延のピリピリしている心情を表している風に映ったのか、劉備は悲しげな表情で魏延のことを見ていた。

 

 

 

鳳統「それでは、こちらは準備ができ次第すぐに合流するということでよろしいですか?」

 

諸葛亮「はい、よろしくお願いします」

 

 

 

諸葛亮と鳳統。

 

臥竜鳳雛と称される、かつて共に席を並べて学んだ稀代の軍師たちの、知己や学友としてではなく、

 

各国の軍師として、それぞれ違った立ち位置での邂逅が、今様々な思惑を孕んだまま静かに幕を閉じた。

 

 

 

【第八十六回 第五章B:御遣い奪還編A・今度は、アタシ達が体を張る番さね 終】

 

 

 

-6ページ-

 

 

 

あとがき

 

 

第八十六回終了しましたがいかがだったでしょうか。

 

馬騰さんたちの合流はある程度想像がついたかなと思います。

 

一方、朱里ちゃんに対して真正面から情報戦を仕掛ける雛里ちゃん。

 

自国のためならためらいなく知己であろうと利用する。これぞ軍師の本領ですね。

 

 

それでは、また次回お会いしましょう!

 

 

 

翠が厠に行っているとネタに見える不思議

 

説明
みなさんどうもお久しぶりです!初めましてな方はどうも初めまして!

今回はあの人たちと早くも再会の予感、、、?


それでは我が拙稿の極み、とくと御覧あれ・・・


※第七十二回 第五章A:御遣処刑編@・御遣い殿は真正の大馬鹿者と言えます<http://www.tinami.com/view/799206>


総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
3575 3127 11
コメント
>ラオチュー様  雪蓮の殺し手をどういう立場の存在にするかとか、華琳が兵を引く理由づけとか、恐らく演出とか見せ方でどう読み手に印象付けたいかの問題なんでしょうけど、今SSを書いている自分にとってもシナリオの作り方って難しいなと思い知らされます。(sts)
>h995様  この外史の曹操なら間違いなく天命は我にありと言いそうですね(sts)
>がちょんぱ様  私も今拝見してきました。私の外史だと仲の良い描写が多いだけにつらいものがありますね。特に私は翠贔屓なので余計に、、、(sts)
>Jack Tlam 様  きっと孫劉同盟も互いのどろどろした思惑で渦巻いているでしょうしね。全方位憂いな群雄割拠の中、涼州を引き込めたのは運が良かったと言えます。(sts)
>神木ヒカリ様  今回の一刀君奪還の大前提は曹操軍が大規模南下によって長期間本拠を留守にすることがありますしね(sts)
>未奈兎様  本当に実情知らなければ益州も終わりかと思える惨状です。(sts)
>nao様  呉蜀を利用する感じですけど曲者が多いことがやや引っかかるところでもあったり(sts)
>?華様  私も翠びいきだからかはわかりませんがなぜか馬騰さんはいい感じで描きたくなります(sts)
というかあの暗殺イベントを曹操のせいにしたのって展開に無理がありすぎたよね。普通に孫策への復讐にして曹操は喪に服して兵を引くってすればよかったのにシナリオライターは何を考えていたのか(ラオチュー)
>暗殺イベント この物語の曹操であれば、むしろルビコン川を越えたカサエルよろしく「王が報復の刃に倒れし孫呉に天命なし」と宣言して一気に攻め掛かりそうですけどね。その分、救出作戦の成功率が上がりますが。(h995)
さっきラオチューさんの投稿を見たばかりだから馬一族を見ると複雑な気分だ・・・(がちょんぱ)
いやあ、暗殺イベント絶対に起きるでしょう。でもって、雛里の策で足止めされて大損害……まで見えた。でも、この戦の後で呉と劉の間で何か一悶着ありそうなのがまた怖いよなあ。雛里と焔耶がそれに巻き込まれなければ良いのですが。どっちを向いても憂いしかないのがこの時代ですよね(もう涼州は心配無いだろうけど)。(Jack Tlam)
そういえば、暗殺イベントが発生しちゃうと、魏はすぐに帰っちゃうから一刀奪還作戦も失敗しちゃうね。王の警護を増やして、イベントフラグを折らなきゃ。(神木ヒカリ)
情報だけ聞けば末期的にすら聞こえるレベル、問題は呉の勘娘な訳ですが、てーか今の魏だと南下したとき呉の例のイベント起きそうで怖い、今のところ風評に加えてあれ起きたら曹操今度こそ暴君の汚名着るぞ・・・。(未奈兎)
涼州の協力も得て、蜀と呉は利用する感じか〜奪還の成功率があがったな!(nao)
どの外史を読んでも馬騰さんの生き様って惹かれるんですよね。ここではどうなるのか...! (まぁ翠だからね、仕方ないね(?華)
タグ
真・恋姫†無双 オリキャラ 音々音 高順 雛里 馬騰  蒲公英 桃香 朱里 

stsさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com