艦これ エンジニアの提督業2
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「えーっと……改めまして、ここの提督に任命された丁海です」

 翌日、食堂に集まったみんなに改めて自己紹介。まさかあの監査官が、国軍本部のお偉いさんだとは思わなかった。一連の書類に目を通し、一応内容は理解した。で、問題なのは俺の戸籍やらだった。

 

 

 

「あの、俺戸籍とか身元を保証できるものがないんですけど………」

「そこは私がどうにかしますから」

 

 

 

 なんてよく分からない返しをされたが、まぁ大丈夫だろう。

 

「どうぞよろしくお願いします」

 特に何もない挨拶だが、艦娘たちは拍手をしてくれた。

 

「こちらこそよろしくね。提督♪私は長門型戦艦二番艦の陸奥よ」

「航空母艦、加賀です。それなりに期待はしているわ」

「高速戦艦、榛名です。よろしくお願い致します」

「オレの名は天龍だ」

「龍田だよ。天龍ちゃん共々、よろしくお願いしますね?」

「アタシ、摩耶ってんだ、よろしくな」

「不知火です。ご指導ご鞭撻、よろしくです」

「吹雪です。よろしくお願いいたします!」

 

 全員の自己紹介が終わったところで、本日の任務(?)の説明をする。

「よし。では、記念すべき初の作戦について説明する」

 ………もう何人かは気付いてるみたいだな。

 

 

 

 

「地下に収容した資材を、工廠に戻すこと」

 

 

 分かっていなかった奴は、盛大にずっこけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「さて」

 みんなが資材を運んでいる間、俺は提督としての仕事をやらなくてならない。事務仕事と出撃時の作戦を練ったりするのがメインになる。

 

「毎日書類仕事かよ……」

 決してできないわけじゃないが、仕事の種類のなかで、事務・書類仕事が一番嫌いだ。学生の頃は一切の宿題を提出せずに、何度補習や説教を受けてきたことか。

「………がんばろ」

 彼女たちに仕事をさせておきながら自分だけやるべきことを放棄するのは、さすがに良心が痛む。

 

 

 

 

 

 

 

「司令官、資材の片付けが………って大丈夫ですか!?」

 

 あれから約六時間。俺は執務室の机の上で干からびていた。

「燃えたよ………真っ白に………燃え尽きた………真っ白な灰に………」

「ここは明日のジ◯ーの世界じゃないですよ!」

「もう疲れたよ………パトラ◯シュ……」

 干物と化した俺は、しばらく意味わからないことを言いながら復活までに二時間ほどかかった。

 

 

 

「まったく、ここまで仕事嫌いだったなんて………」

 

 夕食時。みんなが集まっている中、いつかのように正座させられていた。いや、正確には自分からしている。

「着任早々情けないことはわかってる」

「まぁ、あなたがここの提督になった責任は私たちにもあるし、サポートしてあげなくちゃね」

 という陸奥の計らいで、日替わりで秘書艦となり、書類やらの仕事の手伝いをしてくれることとなった。

「じゃ、早速明日から指揮を取ってね」

「わかった。ちゃんと考えておくよ」

 これ以上補助をしてもらうわけにはいかない。その日の予定くらいは自分で立てよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず今週はみんなの力を見ながら、少しずつ資材を集めたいと思う。今日は駆逐・軽巡メンバーは遠征に、戦艦、空母メンバーは出撃。重巡メンバー…って摩耶しかいないけど休みだ」

 はい、という元気のいい返事で各々準備に取り掛かった。

 

「………」

 俺も出撃組の戦闘を見学するために準備をしていると、摩耶がジッとにらんでくる。

「どうしたんだ?」

「なんで私は休みなんだよ!初日なんだから暴れさせろよな!」

 ビシっと指差して抗議してきた。

「うん、そう言われても俺はどうしたらいいかわからんのだが………」

 俺、一応異世界人なんです、ええ。そんな勝手なんて知りません。

「んなもん適当に出撃させるなりでいいだろ」

「でももう決めちまったし…本当に申し訳ないが、今日は待機で頼む。明日からちゃんとその辺も考えるからさ」

「わかったよ……しゃーねーな」

 摩耶は頬を膨らませながら出て行った。その仕草がちょっと可愛く思えて、ニヤニヤしながら支度を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、ついて行きたいんだけど」

 という旨を陸奥、榛名、加賀さんに伝えたところ、

「「「却下(です)」」」

 満場一致で却下された。ちょっと悲しいぞおい。

「せっかく私たちの提督になってくれたのに、万が一のことがあったら困るのよ」

「いや、だからついていくには」

「ついて来るな、と言っているのがわかりませんか?」

「俺はみんなの力を」

「榛名は心配です………」

 ジョブがクリーンヒットし、そこに思わぬフックが襲いかかり、最後は黄金の右ストレートで止めを食らった。よって、俺は鎮守府に戻ることを余儀なくされ、おとなしく双眼鏡で戦闘の様子を眺めていた。

 

「さすが戦艦、と言ったところか………加賀さんも自分の役割をよくわかってるな………」

 陸奥、榛名の戦艦コンビは、まさに一撃必殺。瞬く間に死屍累々の山を築いていく。対して加賀さんは、少し離れた場所から、艦載機による爆撃を行っていた。戦艦コンビの死角や敵が集中している場所を重点的に狙っている。

 近海は弱い敵しか出会うことがないため、そんなに苦戦を強いられることもない。よって、存外早く鎮守府に戻ってきた。

 

「終わりました」

「いやいや。もっと報告すべきことがあるだろ」

 任務の報告書を書かなくてはいけないのに、ぞんざいな報告をし始めた加賀さん。……仕事とかを真面目にする人だと思ったのに。

「冗談です」

「あ、ああ、そうか」

 ということで、ちゃんとした任務報告を受けた。今日の戦績は駆逐イ級8隻、駆逐ロ級5隻、駆逐ハ級4隻を轟沈させ、こちらは榛名が一発掠っただけであった。

「以上で報告を終わります」

 俺が報告内容を書き終わらないうちに、加賀さんは執務室から出て行った。

「………よし。って、どうしたんだ?」

「いえ、加賀さんが冗談を言うなんて信じられなくて………」

「そうね。いつもそんな無駄なことはしないのにね」

 冗談を言うのがそんなに珍しいのか………

「でもそれって、いい変化じゃないのか?」

「そうね」

 三人で笑いあったところで、俺の腹がなった。

「もうお腹空いたの?お昼にはまだ早いわよ?」

「ちゃんと朝飯食ったんだけどなぁ」

「よかったら私が用意をしましょうか?」

「いや、それくらいは自分でやるさ」

 せっかくの榛名からの申し出だが、久々に料理をしたかった俺はそれを断った。というのは嘘で、本当は一刻も早く報告書をまとめる仕事から逃げたかった。

 

 

 

 

 

 

 

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 キッチンについたところで、材料の確認をする。といってもそんなに手の込んだものを作る気がないため、野菜と肉を適当に見繕って野菜炒めを作った。

 

「…食べ物とかは大きく変わらないのか」

 料理を食べながら、ここ数日のことを思い出す。バタバタしたまま吹雪への礼としてここの提督(クズ野郎)を追放し、ここの提督になってしまった。全く異世界のことなのに、すでに順応している自分が怖い。

「ま、考えても仕方ないか」

 昼食をさっさと平らげ、片付けも済ませたところで、街に出てみることにした。前にクズ野郎の尾行をした時に見つけたジャンクパーツを売ってる店に行こう。金ならここに着任すると決まった時に、例の監査官から初任給と謝礼金として結構な額を貰っているから問題ない。

 

 

 

 

 

 

 

 ということで、鎮守府を出てから二十分。目的の店までやってきた。街は依然として穏やかな感じで、昼時だというのにそんなに騒がしくはない。

 ジャンクパーツ店に入ると、オイルやガスの独特な匂いがして、つい前の世界を思い出すと同時に、開発者としての血が騒いだ。

 

「すみません」

 迷うことなく店員に突撃し、

「ここで部品類に関して一番詳しい人はどなたですか?」

 半分道場破りのような気分でショッピングを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということは、ここではマイナーなパーツを主に扱っていると?」

「そうなんだよ。一部の客には欠かせねぇもんだが、世間様の中じゃあ買う人は少ねぇ」

 あれから約二時間ほど、店長とジャンクパーツ談義を繰り広げていた。目に付いた物を手に取り、その都度質問をぶつけた。店で一番詳しいということで、一つ一つ丁寧に答えてくれる。

「あんた、なかなかできるな」

「店長こそ」

「今度、新しいパーツを入荷するんだ。使ってみないか?安くしとくよ」

 お互いマイナーパーツを通じて交わされた友情。それにより、一日目にしてお得意様ポジションにたどり着けた。

「いいですね。あ、そういえば今日は少しパーツを買いに来たんですけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました」

「おう!またいつでもきてくれ」

 しっかし、結構買っちまったな。それにもう夜になるし。でも、これで結構開発も捗るな。今度からここに来ることにしよう。

 

 

「ただいまー」

 執務室に入ると、陸奥と龍田と不知火がいた。

「お、こんなところで何してんだ?」

「あら、おかえりなさい」

 陸奥がいい笑顔で振り向いた。その瞬間、なぜか冷や汗が溢れ出す。

「こんな時間まで何をしていたのかしら?」

「あら??その袋に入っているのって、執務に関係する物なのかしらね??」

「執務を放り出しておきながら、自分は街に出て買い物をしていた、と?私たちを出撃・遠征させておきながら?」

 うん、自分が何をやらかしたかはよーくわかった。ここでとることのできる策は二つ。謝るか、逃げるか、だ。

 

 

 

 

「誠に申し訳ございませんでした」

 

 

 

 逃げたら死ぬと判断した俺は、おとなしく謝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「て?い?と?く??」

 翌日。朝から工廠に籠もろうかとしたところを龍田に見つかった。

「早起きなのは感心ですけどぉ?、まさか執務をせずに、なんて考えてないわよねぇ??」

「ソレハモチロン」

 天龍の妹なのに、姉よりも数百倍怖いのはどうしてだろう。

「それならいいんだけど?。あ、今日は私がサポートをする日だったね?」

「It,s a bad day…」

 

 今日はもう諦めた方がいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ、間違えてるわよ?」

「マジか………」

 龍田に手伝ってもらいながら書類を片付けていく。龍田はのんびりした話し方に似合わず、仕事が早い。同じような書類をやっているはずなのに、俺の三倍くらいは終わらせている。

「やっぱ書類仕事は向いてないな………工廠に篭ってなんか弄ってる方がよっぽど性に合ってるよ………」

「ふふ。確かにそんな感じがするわね?。自分の好きなことしか頑張ろうとしない感じ?」

「う………何気にひどいこと言ってくれたな」

「事実だから仕方ないんじゃないかしら??それと、これ、書く内容間違えてるわよ?」

 それはそうなんだが……という言葉は、新たな指摘によって飲み込まざるをえなかった。

 

 

 

「提督」

 ふと、龍田が手を止めた。

「なんだ?」

「提督は、この世界の人ではないんですよね?」

「そうだけど、それがどうかしたか?」

 聞き返すと、龍田は深く息を吐いた。

「提督のことですから、ちゃんと書類を確認していないでしょう。なので、私から一応言っておきますね」

 聞きなれた間延びした話し方とは一転、まるで別人のように見えた。

 

 

 

「私たち艦娘は、一般的に兵器として扱われます。つまり、人に非ず。そのため、人として扱われることがなく、人間で言う“死”は“轟沈”と言われ、一兵器が破壊されただけという扱いになります」

 

 

 無表情な声の響の中、俺は内心ほっとした。初日に渡された書類には全て目を通したから、その注意事項も知っている。それを見た時から、すでに心は決めていた。

「あのなぁ…いくら書類が嫌いでも、注意事項やら規定やらの書類は全部目を通してるっての」

 前の世界でいろんなものを作ってきたせいか、機械とは、兵器とは何か。それに対しての答えははっきりとしていた。

「その上で言っておく。お前たちは間違いなく兵器じゃない。ちょっと変わった人間ってだけだ」

 

 

 

「ふふ♪」

 しばしの沈黙の後、龍田は楽しそうに笑った。

「やっぱり、あなたって変わってるわね?」

「よく言われる」

 普段と変わらないような感じがするが、不思議と龍田が嬉しそうにしているようにも感じた。

「ま、そういうことだから。次からはそんなふざけたことは聞いてくんじゃねーぞ」

 俺は立ち上がって、龍田に手を差し出した。

「というわけで、改めてよろしく」

「えぇ」

 柔和な笑みと共に差し出された手には、機械や兵器のそれにはない温もりがあった。

 

 

 

 

「でも、ちゃんと書類仕事くらいはできるようにならないとね?」

「おま、………いい感じだったのがぶち壊しじゃねーか」

 ここでの生活は、案外楽しくなるかもしれない。そんな予感がしていた。

 

 

 

 

「ふふ。今度の提督は信頼できそうね♪」

「龍田に面と向かって言えるってこたぁ、嘘じゃないだろ」

「にしても、入るタイミング見逃しちまったな………」

 部屋の外で出撃から帰ってきた陸奥、天龍、摩耶が二人の会話に聞き耳を立てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日。書類仕事がひと段落ついたため、俺は工廠に引き籠ることにした。

「さて」

 全ての道具を引っ張り出して、先日購入したジャンクパーツを床に広げる。結構な種類と数を買い込んだおかげで、いろいろ作れそうだ。

「手始めにみんなの分の目覚まし時計でも作るか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの?……」

 開発に没頭していると、榛名が顔を出してきた。

「おう、どうした?」

「えっと、不知火さんが怒っているみたいです………書類の不備がありすぎると………」

「あ、うん。そういうのは不知火が引き受けてくれるって言ってたんだけど……」

 だから怒られる理由がわからない。

「『今日に限って済ませた書類が全て不備有りとはどういうことですか』っと言ってました………」

「Oh…」

 マジかよ。これでもだいぶやり方を覚えたと思ったんだが………後で不知火に謝っておこう。

「それと、もうお昼過ぎなんですけど、どうされますか?」

「あー、まだいいよ。ひと段落ついたら自分で作るから」

「そうですか……」

 俺の言葉に何故か榛名はしょんぼりした。

「どうした?」

「いえ…榛名は大丈夫です」

 そう言って工廠から立ち去ってしまった。………本当にどうしたんだ?

「まぁ、無理に聞かなくていいか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんでしょうか。……不知火に落ち度でも?」

 執務室に入って声をかけた途端これである。こりゃ相当怒ってるな………

「いや、落ち度とかの話じゃなくて………不甲斐なくてスンマセン」

「全くです。自覚できたのならもっときちんとできるようにしてください」

 頭を下げた俺に目もくれず、手元の書類を片付けていく不知火。

「なぁ不知火。昼飯はもう食べたのか?」

「この状況を見てよくそんなことが言えますね。司令の目は節穴ですか?蟻の巣の方がまだまともな気がしますね」

「普通そこまで言うか?………よかったら不知火の分も作ろうかと思ってるんだが」

「ではお願いします。といっても期待はしませんが」

「一言多いぞ。……まあとりあえず待っててくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「できたぞー」

 作ったのは超簡単なオムライス。見た目も味も普通なはず。

「オムライスですか」

「我ながらに自信作だ」

 そう言いながらスプーンを手渡し、俺は接客用のソファーに座った。

 

「いただきます」

 不知火が一口食べ、俺はその様子をじっと見ている。

「………」

 よく噛んで飲み込み、そこで動きが止まった。…もしかして不味かった?それか不知火の好みには合わなかったか?

 

 そんなことを思っていると、

「………っ!」

 ものすごい勢いでオムライスを食べ進めた。何日も飯を食っていないかのような様子に、若干引いてしまったのはここだけの話。

 

「ふぅ……」

 あっという間に皿を空にした不知火は、ゆっくりとスプーンを置いた。

「あー…どうだった?」

「お代わり」

 なんともわかりやすい表現だった。まぁ、不知火の口に合っていたようで、内心ホッとした。

「すまんがお代わりはない」

「………」

 無言の圧力をかけてくる不知火に申し訳ないと思いなら、俺は遅めの昼食をとることにした。

 

 

 

 

 

 

「そしてここは……そのように書くのが普通です」

「あー、なるほど」

 それから俺は、なぜ書類が不備なのかを不知火に教えてもらいながら修正していた。というか、全て手書きであるため全部書き直した。

「本当にごめんな。苦労かけて」

「別に構いません。それに、司令は着任して日が浅いのですから、ミスをしない方がおかしいです」

 クールながらも優しい言葉をかけてくれた不知火。自分よりも年下であろう外見なせいで、なんだか奇妙な感じがする。

「なんか変な感じだな」

「何がですか?」

 無表情で首をかしげる不知火。

「多分俺の方が年上だろ?なのに不知火から怒られてダメ出しされて………ハイスペックな妹を持った気分だ」

 多分出来の良すぎる妹がいたらこんな感じなのかもしれない、なんて思っていると、

 

「チッ……妹止まりですか……」

 

 と、なんかつぶやいた気がするが、深くは聞かないでおこう。

 

説明
 に話目。

 とりあえず厄介ごとが片付いた後、正式に着任しました。
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エンジニア 二次創作 男性提督 艦これ 艦隊これくしょん 不知火(艦隊これくしょん) 

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