寂しがりやな覇王と御使いの兄 改訂版 39話
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一刀「ふぅ…」

 

月「お疲れ様です、一刀さん。お茶を入れてきました」

 

黄巾党を鎮圧させた一刀は天水に帰還し内政に着手していた。一部では天使とまで言われている月が治めていただけあって、天水の治安の良さ、石高、商業などの発展は目を見張る程だった。一刀はこれまでのやり方を維持しつつも、風・稟・詠などと協議しながら、更に天水を発展させる為に日々内政に取り組んでいた。

その取り組みが功を奏し、利益を上げようとする商人、生きる糧を得ようと民が次々と天水に移り住み、天水全体の人口増加、生産性向上などをもたらし、その発展度は洛陽や長安などに匹敵するほどだ。

 

そんな順風満帆な一刀達の下に、風雲急を告げる状況が舞い込んできた

 

霞「一刀大変や!この手紙を見てみ!」

 

一刀と月が業務を行っていた部屋に飛び込んで来た霞は、手に持っていた手紙をすぐに一刀に手渡した。

霞の慌てぶりから只事じゃないと判断した一刀はすぐに手渡された手紙に目を通し始める。

すべての内容を読み終えた一刀はすぐに謁見の間に集まるように伝令を飛ばし、自らも霞と月を連れて謁見の間へと急ぐ。

各自仕事の持場に就いていて非番の者は居なかったにも関わらず、四半刻以内に主要の将が全員集まっていた。

 

一刀「急な召集ですまない。今後の俺達に影響を及ぼす事件が洛陽で発生してしまった。これから話す事は俺を含む一部の者達にしか解らない事だが、みんな最後まで聞いてくれ。もちろん、後で”俺達に関するすべての事を話す”」

 

事情を知っている将達は黄巾の乱の後に『洛陽』で起きる事件を経験しており、まさか…と険しい表情へと変わり、事情を知らぬ将も普段とは雰囲気が違う一刀の様子から只事ではないと察し、それだけ切羽詰った状況なのを理解した

 

一刀「桂花から緊急の知らせだ…洛陽に居る華琳討伐を掲げ、諸侯が連合を組み洛陽へと向かっている」

 

真桜「ちょ、ちょっと待ち、桂花ならもっと早く知らせる事が出来たはずやろ!?」

 

稟「現在の洛陽は十常侍の監視下にあります。それゆえに、桂花と言えど密偵を放つのも楽ではなかったのでしょう」

 

風「それに加え、恐らく放った密偵も処分されていた可能性が高いですねぇ」

 

都である洛陽を掌握し、権力を意のままに操っているのは十常侍。その十常侍達が本気になれば洛陽すべてを見張る事など容易い事であり、王佐の才を持つ桂花と言えど簡単に出し抜ける相手ではないのだ

 

一刀「陳留に集まった反連合の勢力は『袁紹』『袁術』『孔融』『陶謙』『鮑信』『孔抽』『劉?』。それに加え荊州の『劉表』、益州の『劉焉』も反連合に参加している」

 

参加勢力の名前を聞き、この大陸の有力群雄がほぼすべて参加している現状に、その場の”ほぼ”すべての者が驚愕する。兵法の基礎で相手より多くの兵を集めるとあるが、これだけの諸侯が参加しているとなると、反連合の兵力を上回る事は不可能。大軍の悩みと言えば兵糧だが、河北、揚州、荊州の石高で兵糧の心配も皆無となれば、寡兵で打ち破るしか方法は無い

 

 

 

 

一刀「俺達は華琳救援に動く、この選択は大陸中の諸侯を敵に回すことになるだろう。この選択に納得出来ない者は去ってもいい、咎めはしない」

 

そう一刀はみなに向けて言い放つが、誰一人その場から動く者は居ない。むしろ、何を言い出すんだこいつ…と完全に呆れ顔になっていて…

 

風「以前から馬鹿だ馬鹿だと思ってましたが、ここまで馬鹿だと思わなかったのですよ。この種馬はどうしてくれようか…ふふふふ」

 

風に関しては完全にお仕置きを考えて口調がおかしくなる始末。風以外にも何か言いたそうにしているなか、いち早く口を開いたのは詠だった

 

詠「風も言ったけど、本当にあんた馬鹿じゃないの?私達はあんたと一緒に頑張ろうと思えるし、辛い事でも乗り越えて行こうと思えるの。あんたが誰を救いたいのかボク達には解らないけど、大陸中を敵に回す?それが何だって言うのよ!私達に保身に走れ?そこは俺に力を貸してくれなり、打ち破ってみせるから付いて来いとか言ってみなさいよ!」

 

詠の叫びはその場に控えている全員の声を代弁したものだった。それが証拠に、詠の言葉に”うんうん”と頷いている。中には自分で言いたかったという子もちらほらと。それと同時にみんなが驚いた事と言えば

 

霞「それにしても、一刀に向かってボク達を頼れって…賈?っちも一刀の事心配なんやな〜」

 

霞が猫耳、尻尾を生やして完全に茶化しスタイルに変化しながらニヤニヤと悪い笑顔を浮かべ始めると、茶化され対象の詠は『んな!?な、な、なに馬鹿な事言ってるのよ!!だ、誰がこんな奴心配するもんか!』と慌てて否定し始めるが、そんな態度では茶化してくれと言ってるようなもので、風がニヤニヤしながら茶化しに参加し始めた

 

風「普段は好きな相手に”つんつん”と突っかかりながら、実は相手の事が大好きな性質…これが”つんでれ”なのです!」

 

沙和「しかも〜”つんつんが9””デレが1”隊長が言ってた黄金比率なの!」

 

霞「一刀が賈?っちの事をつんつんつん子って例えるのも納得や!」

 

詠「誰がつんつんつん子よ!訳の解らない事言うんじゃないわよ!」

 

以前桂花のツンツンな性格を現代風に例えながらの討論会に風、霞、沙和は参加していて、ツンデレの素晴らしさ、比率などを一刀から教わっていた。残念ながら討論している時の桂花はツン10、デレ0だった為にツンデレと茶化す場面がなかったが、ようやく活用する場面がやって来て、三人はとても生き生きし始めた。

 

さっきまでの重苦しい空気はどこに言ったんだ…と真面目な凪と稟は同時に溜息を吐くが、止める気はないらしい

意図的にやっているのか、偶発的にこの流れになったのか・・・どちらにしろ、一刀の周りでシリアスな空気は長続きしないみたいだ

 

一刀「俺が言うのもあれだけど、今は一刻の猶予を争う状況だって解ってるのか!!」

 

いつまで経っても霞達の戯れが終らず、華琳救援の話しが進まない事に苛立ちを覚えた一刀は思わず大声を挙げてしまった。すぐに大声を挙げてすまない…と謝りはしたが、一刀の表情からは焦りがはっきりと読みとれる

 

稟「はぁ…いいですか一刀殿、こんな状況だからこそ、貴方は慌てず騒がず冷静に対応して頂きたいのです。今の貴方は警備隊隊長よりも多くの民を護る立場に居ます。そんな貴方が一時の感情に支配され、冷静さを欠いたままの状態で判断させるわけにはいきません」

 

月「稟さんの言う通りです。今の一刀さんは”いつも”の一刀さんではありません。一刀さんがどんな思いを抱えているのか…稟さん達との間に何があったのか…それらの事を私達は知りません。けど、私達は一刀さんの人柄に触れ、一刀さんの優しさに包まれてきました。だから…怒りや憎しみに心を支配させてはいけません、一刀さんはいつもの優しい一刀さんのままでいて下さい」

 

 

大丈夫です、一刀さんは1人じゃないんですから。ここに居るみなさんが一刀さんの力となって貴方を支えます。だから・・・なんでも1人で抱え込まず、いつでも私達を頼ってくださいね。貴方の大切な人は…私達全員で必ず助け出しますから

 

一刀「稟…月…」

 

一刀を暴走させまいとした稟の諫言と、月の一刀の事を思いやる心に触れ、心に余裕が生まれた一刀は静かに周りを見渡してみると、ふざけ合っていた風達も、いつもの一刀に戻ったっと嬉しそうに微笑みを浮かべている。

 

普段は何を考えているのか解らず、まったりしている風だが、一刀の心に余裕が無いのをすぐに見抜き、霞に目配せをして先ほどの騒ぎを実行したのだ。霞が風の意図を読み取り、沙和も便乗する事が出来たのは、長い時間を共に過ごして培われた強い絆によって実現出来たのかもしれない。

 

詠を巻き込んで騒ぎを大きくしたのはただの愉快犯の可能性もあるが・・・

何はともあれ、落ち着いた一刀はふぅっと息を吐き、自分が秘密にしてきた事を話す決意を固めた

 

一刀「みんな心配をかけてすまない。先ほどまで冷静さを失っていた理由を…みんなに話したい」

 

今まで一刀の陣営は秘密を知る者、知らない者に別れている。知らない子達は、一刀が簡単には話せない秘密を抱えているのは理解していて、一刀が話してくれるまで待つと決めていた。だから、今から一刀が秘密を自分達に話してくれるのが嬉しく高揚を隠せずにいた

 

彼女達が内心嬉しがってる一方、一刀がここまで言うに言えなかったのは、”前世の記憶があります”、”2000年先の未来からやってきました”なんて与太話、いくら良い子だと解っていても、付き合いが浅い人達に言っても、普通は信じてもらう所か狂言師と言われてもおかしくはない。だから、もしかしたら信じてもらえないのではないか…そんな不安を捨てきれずに時間が過ぎてしまっていたが、これ程まで自分の事を思い、慕ってくれる彼女達になら話せる、そう思えたのだ。

 

一刀「まず俺の本当の名を明かす。俺の姓は曹、名を仁、字を子孝。洛陽で窮地に立たされている曹孟徳の…兄だ」

 

十常侍によって討ち取られたはずの曹仁が生きている。しかも、自分達が主と仰いでいた人物だったと告げられ、驚きで誰一人言葉を発せずにいる。

更に一刀は『2000年先の未来から、この戦乱の世にやって来た』、『曹孟徳の覇道を支え乱世を戦い抜いたこと』、『曹孟徳とその仲間達とたくさんの愛情を育んだこと』、『大陸統一を果たし、平和な世を迎えたこと』、そして……愛しい人達との別れが待っていたことをすべて・・・包み隠さず語った。天の国への帰還途中に、変態達磨と出会い、曹孟徳を助ける為に再び乱世に身を投じた事も忘れずに話しきった

 

詠「筋肉達磨とか、未来からやって来たとか色々言いたい事はあるけれど…あんたが何を抱えていたのか、ようやく解ったわ。正直、あんたの話しは突拍子も無さ過ぎて理解が追いつけないけど・・・あんたが嘘を付けない性格なのは解ってるから」

 

稟「貴方も回りくどい言い方をしますね、一刀殿の言った事は信じると言えばいいものを」

 

詠「…うるさい」

 

素直になれず、ツンツンする態度の詠を見て、月は詠ちゃん可愛いっと発言した後、一刀に視線を向ける

 

月「一刀さん、私は詠ちゃんみたく頭が良くないので、すべてを理解したとは言えません。ですが、一刀さんから曹操さん、曹操さんのお仲間を大切に思っているのは伝わってきました。私は一刀さんが話してくれた事を信じます」

 

愛紗「私も月と同じ意見です、一刀様があの場に居なければ、今頃賊共の慰み者になっていたかもしれません。そんな状況から一刀様は私を救ってくれました。その時から、私は貴方様に尽くすと心に決めました。それは一刀様が何者であっても変わる事はありません」

 

恋「恋はにぃにの妹、曹操もにぃにの妹なら・・・恋が助ける」

 

明命「私も難しいお話は解りませんが、一刀様には数え切れないほどのご恩を頂きました!今度は私がご恩を返す番です!」

 

一刀の説明を疑う子は一人も居ない。みんなが口にするのは一刀への感謝の思いと力を尽くすとの言葉だけ。一刀は目頭が熱くなりそっと指で押さえ込んだ

 

一刀「ありがと・・・みんな。俺の話しを信じてくれて・・・」

 

自分は1人じゃない、みんなが支えてくれてるんだ……みんなの笑顔に包まれ、この子達に出会えて良かった・・・と一刀は幸せを噛みしめる。

 

風「お兄さん、幸せを噛みしめるのは華琳様を助けた後、風との閨で感じて欲しいのです」

 

こんな状況も利用するあたり、風の強かさ、抜け目の無さは健在。この時、ちゃっかりと一刀の傍を独占し、必ず華琳様を助け出しましょう!と一刀を励ましている凪も流石であった

 

稟「さぁ、一刀殿!みなに命を・・・華琳様を救えとの命をお告げ下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「みんな・・・華琳を救い出す為に俺に力を貸してくれ。出陣だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待ってろ華琳、今助けに行く。お前を…死なせはしない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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一刀への親愛
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