ネプFサイドストーリー とある人の日記
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――――彼は帰ってこなかった。

残骸もなければ痕跡もなく、かといって証拠もなくなっていた。

もしかして消滅したのだろうか、何処かに行ってしまったのだろうか、それすら判らない。

ただ一つ言える事は、彼はいなくなってしまったという事だけだった。

だったら出来る限り待とう、他にやることがあるのだから、そのついでに待とう……彼には、夢を託されたわけだから。

 

他国の首領が居なくなった国は、最早無法と言って良いものだった。

崇拝、尊敬、畏怖、敬愛、偏愛、親愛……うん、「神」って付くだけあって損害は馬鹿にならないや。

そういうのは削ぎに削いだ筈だったけど、それを嘘と断じる人やそれでもと信じてくれる人等がいるのは、これまで国を、ひいては世界を護って来た実績が成り立っているんだと思う。

奪われたく無かったがためにそれを殺した僕らだからこそ、その尊さが分かってしまう。

けどもう戻ってこない、返すことは出来ない……僕らは奪ったのではなく消したのだから。

 

彼らの神様を消す前に占領した国への移民は、とてもとても大変だった。

食い違いや差別もあって、元々住んでいた人達との摩擦が物凄くあった……争い合って死人も出た。

治めるのも一苦労で、互いの話に折り合いの付け方すら……あーもー投げ出したい。

関係的にも物理的にも壁が出来てるし、如何にかなるのも何年ぐらい掛かるか……

身内の揉め事よりかは楽って誰かに聞いたけど、僕は孤児だったからな〜……その違いがわからない。

 

気分転換と休憩を兼ねて外に出かけてみたら、僕らが消したはずの神様が現れた……と思いきや人間だった。

恐らくは、元教会役員によって神様そっくりに全身整形をされた孤児、((神子|ミコ))の一人だろうと僕は推測した。

けれど驚くことに、彼女には整形の痕などのような無理やり変えられた痕跡が無かった……身元が分からない為、保護することにした……神子として利用されかねないしね。

分かった事といえば、僕らが占領した国の神様とそっくりだと言う事と、精神年齢がかーなーりー低い事、あとかなりの廃ゲーマーという神様の共通点があると言う事ぐらいだ。

あの国を占拠した当時、元首領の神様を連れて行方をくらませた教祖は一体どこに行ったのだろうか……

 

――事件が起きた。元教会役員で構成された団体による大暴動が勃発した……どうやら僕が保護した女性は神子だったらしい(ナチュラルに神様そっくりとか一体……まさか生まれ変わりか?)

ハッキング、ジャミング、兵器の強奪と乱用、街の破壊、後始末が大変なことばっかりだ。向こうが本気で取り返そうとしている気迫が伝わってくる。

それらを鎮圧する中で捕縛出来た連中から情報を(魔術的に)引き出して見ると、事の真相が解った……なんてことだ、こんなことが普通有り得るのか?

何と僕の保護下にて呑気にネトゲを(無課金ながらに)楽しんでるあの女性は元女神という情報が入った。

普通なら信じられないけど、もしかしたら本当かもしれない……何せ暴動のリーダーは、捕らえ損ねた各国の教祖だった者達だったのだから。

 

元教祖の居場所はあっさり割り出せた……どうやら元教会団体の集まりは、近々神子達を象徴とした国家を立ち上げるつもりのようだ……神様の威を借りた圧制とか嫌気が差す、というか子供を政治利用するのは個人的にいただけない、元孤児として。

……とはいえ人と人では戦争になって泥沼確定、人である限り解決が出来ない……話し合いならと思ったが、思想理想が違いすぎて、対話のテーブルに付けられない。

かといって戦争ともなれば、向こうは「神の名の下に」と特攻しかねない人たちが備えられてる可能性が十分ある。

こうなったら彼らに頼むしかない、人でない彼らに、かつて僕らと共に暮らしていた彼らに……だが連絡手段が何も無い上に、彼らに汚名を被せるような事はしたくない。

……やはり僕には何も出来ないのだろうか、このまま人と人とを争い合わせる事しか出来ないのだろうか。

 

拠点となっている国がモンスターの襲撃に遭った。それも妙に統率の取れたもので、他には目もくれずに僕の住居を襲うというものだ。

指揮を執るも護衛だけでは食い止めるので精一杯だ。応援も来るのに時間が掛かるし万事休すといった所……そしてついに最後の護衛が倒れ、首謀者らしきモンスターと対面することになった……と思ったら僕に国政について叩き込んだ教官じゃないか。

「その場の兵力で追い返せないとは未熟」「平和ボケしたか」「なまってる」と出会い頭に罵倒の嵐……けど最後に「よく持ちこたえた、あらゆるものを食い止められたのはお前の((才能|ぶき))だ」って言うのは反則だよ、緩んで泣いちまうよ馬鹿野郎。

その後は「後は任せろ」と言って一斉に帰って行った……まるで嵐のようだ。

後にこの事で住民は更に混乱する事になったのだが……そこの所も配慮して欲しかった。

 

遂に戦争が勃発した……相手は人間じゃ無かった。まさかあれって宣戦布告!?なんだってそんな事を……と言うか人間との溝深くなるわ!

そんな事もお構いなく、無差別に人を襲いまくるモンスター軍団。それに対抗した元教会員集団……もとい(自称)神界教団は、ハイテクで殺意高い魔導兵器を駆使して一掃した……時に味方諸共。

各国のその荒れ様、容赦の無さ、次々に出来上がる死体、遺体、残骸、それらを見て、彼らの意図が読めてしまった……「後は任せろ」ってそういうことか。

そして僕は、これまで共存してきたモンスター達を切り捨てる覚悟を決めた。

平定を望み、夢をかなえるその為に……僕は他を欺き、自らを偽り、【世を救った王】になろう。

 

……振り返ってみれば、長い永い二年だった。もしかしたら人より何倍近く老けたのかもしれない。

先頭に立って指揮を執り、かつての同胞を殺し続け恨まれ続け、化け物の((傀儡|にんぎょう))と揶揄されもした、裏切り者と言って死に逝く者もいた。

血に染まった屍の山を踏み越えて、私は国々を統一した王として民を見下ろし続ける……随分と寂しいものだ、人の上に立つと言う事は。

首謀者である教祖だった者達の内、二人は自ら命を絶ったものの、躊躇っていた残りの一人を捕縛することに成功した……占領時、捉え損ねた一人だった。

面会した時、自殺封じに口を塞がれていた彼女は、自ら爪を引き剥がして出した血で「お姉さまに会わせて」と面会窓に書いて私に見せた……私が保護していた女性と会わせた瞬間、彼女は涙を流した。

 

私が元教祖の拘束を解くと、彼女は保護していた女性の招待を語りだした。

保護していた女性の正体は人間となってしまった神様で、繋がっていた世界の書き換えの影響を受けて精神を崩壊し、これまでの記憶を殆ど失ってしまったらしい。

どうやら彼女らの神子は元神様だったらしく、孤児の全身整形をやったのは彼女らを真似て掲げようとした輩がやった事らしい……彼女らはそれらの粛清も行っていたようだ。

保護した三人の女性は教祖達の教育が行き届いていたため、我々を未だに敵視している……私が保護していた神子が、その当初ゲームとかばかり覚えていたのは彼女が利用したくなかったからだという。

……恐らく神だった頃、心身ともに深く傷ついて引き篭っていた所を間近で見て来たからだろう。戦いとか争いとか知らずに生きていて欲しかったからだろう。

「【お姉さま】を宜しくお願いします」と私に言ったその翌日、彼女は自ら命を絶っていた……ちゃんとした教育を経て育っていた神子を見て、もう思い残す事がなくなったのだろう

……或いは今すぐにでも死にたかったのかもしれない、【お姉さま】を見る度に負い目を感じ続け、かといって【お姉さま】を置いて行く訳には行かない、そんなジレンマから抜け出したかったのだろう……私も抜け出したいよ

 

神界教団を壊滅させ、神が抜けた事で起きた動乱が粗方静まったと言うのに、私の脳裏には死んでいった者達や殺していった者達の幻影に苦しむ日々を送っていた。

もっといい方法があったのではないかと考えるようになり、毎度悪夢にうなされて夜も眠れなかった……かといって頼りも頼みも縋る事さえも出来ないから打ち明ける者もいない。

民衆は私を英雄視する者が出て来ているが、過大評価にも程がある。寧ろ他者を何食わぬ顔で使い潰す最低なクズと罵られている方がまだ合っている。

だがそんな愚痴も弁解もすることが出来ない、寧ろ民衆の評価と期待に実績と結果で応えねばならない……そもそも私には果たさねばならない((目的|ユメ))がある。その為ならば何だってやると【誓った筈だ】

重責、使命、過去、私を押しつぶしてくるそれらから一時でも逃れたいそれだけの為に、私は私の保護下にあった神子に溜まりに溜まっていたモノを夜な夜なぶつけるようになった。

 

夜に神子の体を悪夢や鬱憤のはけ口にしてからというものの、心は以前と比べて大分落ち着いている気がした。

初めは衝動的にやって後から来る罪悪感に押しつぶされそうになったが、それも段々薄まってきた……と思いきやその記憶が積み重なり、その事を業務中関係なく突発的に思い出してしまうようになった。

そしてそんな状況を乗り切った後の夜には、決まってその罪悪感を紛らわそうと神子の体を求め、己の劣情をぶつけていった。

そしてまた思い出した時にはまた求めを繰り返す……我ながら最低な((悪循環|サイクル))だ、だが一旦止めると今度は夜にやった事の罪悪感に押し潰されてしまう。

私はまだ終われなかった。叶えなければならないものがあった。その為に折れるわけには行かなかった……そうして昼は国政、夜は性交というサイクルを行っている内に、四人の神子は私との子を身篭った。

 

とある問題に直面した……跡取りがいない、それと妃もいない。かといって神子は表向きには死んでしまった事になっているから出来ない。

選挙で決める首領もあるが、割とややこしい国政と事情の軸として適応できる素質を持つ者なんて探して出てくるものではないが故に、子が跡取りとなる王族形式を取らざるを得なかったのだが、国を纏めたりするので手一杯だったが為に後回しになっていた。

私は悩んだ末に、神子が産んだばかりの子を形式上養子として国で引き取り、跡取りとして国で育てる事になった。

母としてわが子を育てる間もなく引き離された神子達は、ある者は私に嘆き、ある者は私を睨み、ある者は私に縋り、ある者は私を只見つめた。

もう後戻りなど出来ない、なりふり構ってなどいられない、これまで泣かせて来た、憎まれてきた、怨まれてきた……それらを殺し、潰し、踏み躙って来た以上、私が折れるわけには行かない。

 

幾多の((養子|じっし))を跡取りとし、国を整え、神の実在証拠を全て隠蔽し、その他諸々をやり切って人が治める人の国の仕組みを完成させた今、もうすべき事は無い。

居場所は作った、防衛線を張りつつ人と魔物が手を取り合う遥か未来の布石も立てた、王としての私はもう潮時だ。

とはいえすべき事はまだあった。友の夢を叶えると誓っている。その証として託された彼の資金(値打ちモノ)は国造りにつかっても尚山のようにあった……遊園地だ、遊園地を建てるんだ。

老若男女にエンターテイメントを、統一の記念碑とも言える物を打ち立てるべく、私は王の権力とから送られた資金を用いて、中央街に遊園地の設計をした。

記念として建てられた物が後世に長く残るためには先ず初めに興味本位で見に来る者の心を掴む事から始まる。その為適当に作るわけにはいかない……まだまだ何かに依存する日々は続きそうだ。

 

統一記念と評して建てた遊園地が成功した後、私は王の座を退いて早々に国政から退去した……その後名前を以前のものに戻し、友から送られた資材の残りで風俗業を開いた。

今更利用してきた神子や跡取りどころか重役にすらなれなかった子を調教して商売道具にするのに抵抗がなくなってしまう程に、私は変わってしまったようだ。

私を王をしていた事を知ってる者と会ったが、気づかれる事は無かった……判別できないぐらいに老け込んだらしい。

思いもよらぬ繁盛ぶりで、中にはかつて居た神や王族に似ている女を抱いて優越感に浸る為に来る者もいた……本物とも知らずに。

そんな所を見ていた私は、神の存在が幻想に落ちた事を実感した。

 

話は変わるが、元は神であった神子は神の力を持ってはいないが老化が遅く、寿命も長いようで、その子供達も同様に若々しかった。

人が国を治めるという概念的基盤を打ち建てる為の長い年月を生きるべく、私は彼女らの身体を研究し、寿命を延ばして身体の老化を抑える事に成功した。

ただし心身双方から来る疲労によって顔の老けにはあまり効果は無かった為、王の座についていた当時は年相応に老いているのにやたら元気なジジイと跡取りの子達に言われた……少しショックだった。

世間では私が古代遺跡の秘薬を飲んでおり、その子孫もそれで若いと噂されるようになり、数々の冒険者がそれを求めて無茶無謀をする事態が勃発していた……まあ秘薬なのは間違いないが。

あらゆる手を用いて己の命を繋ぎ、余裕もなく生きてきて幾年、百代越えを達成したこの身はとうとう限界を迎えたようで、二足歩行出来ない位に衰え出した。

 

経営していた風俗業も本当の養子に跡を継がせて退いた私はようやく隠居した。

過去にやってきた行いが悪夢として現れうなされる日々を送っているが、それを悔やみ改める機会はもうない……もう取り返しがつかない。

((約束|ケイヤク))は果たした、その過程で((目的|ユメ))も叶えた、けれども未だ私にはやるべき事がある。この命が尽きるまでやり続ける事がある……待つ事だ。

私は去っていく友を見たあの時自分に誓った、「彼が帰ってくるその日まで、命の限り待ち続ける」と。これは彼を忘れないために、約束と夢を達成する為に自分に課した制約だ。

私は待ち続ける、何故なら私は彼の友なのだから、自分を知る者が同じ人間の中にいないという私と同様の孤独を負わせたくなかったから。

世は乱れようとも、これまでの国家が滅び新たな国家が生まれようとも、人と人とが争おうとも、私のやるべき事が、出来る事が変わる事などない……再開するその日まで待とう。

それが成された時こそ、私が真に終わる時だ。

 

かつてゲイムギョウ界と呼ばれ、今はインターセンターと呼ばれるようになったかの地にて友を待つ

この命尽きようとも、魂だけになろうとも、再び会うその日まで

説明
国を背負い、この世の全てを信じ疑い欺き縋り頼り使い、神を隠蔽した一人の普通の人間のお話。

悩みながら荒みながら磨耗しながら押し潰されながら進まなきゃいけなかっただろうなと思い、残された彼の人生はこうだったろうなと色々考えながらほぼ衝動的に書きました。
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