『舞い踊る季節の中で』 第173話
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真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-

   第173話 〜 草原に舞いし花片に、最期の想いを馳せる 〜

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊、セリフ間違い、設定の違い、誤字脱字があると思いますが温かい目で読んで下さると助かります。

 この話の一刀はチート性能です。オリキャラがあります。どうぞよろしくお願いします。

 

 

【北郷一刀】

  姓:北郷

  名:一刀

  字:なし

 真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

 

 武器:鉄扇("虚空"、"無風"と文字が描かれている) & 普通の扇

   :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(現在予備の糸を僅かに残して破損)

 

 習 :家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、

   :意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

 得 :気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

   :食医、初級医術

 技 :神の手のマッサージ(若い女性は危険)

   :メイクアップアーティスト並みの化粧技術

 術 :(今後順次公開)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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華琳(曹操)視点:

 

 

 見渡すかぎりの荒原。

 もっとも、岩や砂まみれというわけではなく、むしろ草に覆われた部分が多く見られる。

 只、草原と言うには、その土地は広大すぎるし、草原でない部分もそこそこに目立つと言うだけの事。

 

さささささーーーーーっ

 

 大地を駆ける一陣の風が草と草を擦れ合わせ、心地よい音を掻き出してゆくさまを見て、あの男が寄こした書物に書いてあった知識が、脳裏に浮かぶ。

 詳しい理屈は分からないけど、乾期になると、この風と乾燥した草が火事を引き起こすという訳ね。

 旅をする上での注意という割には、あの書物に書かれた知識は多種多様の分野に広がっており。それは逆に考えた場合、あらゆる方面に応用を利かす事が出来ると言う事でもあるわ。

 まず私達のような人種が思い浮かぶのが、こうした戦への利用という利己的でおぞましい考えだと思ってしまうのは人としてはともかく、王としては不徳とするところなのかしら。

 北郷一刀、貴方はどちら側にいるのかしらね。

 

「ふふっ、聞くまでもないわね」

「随分と、楽しそうですね」

 

 近づいてきていた気配から、声の持ち主が誰かなど聞かなくとも分かる事。

 少なくともそれくらい、彼女が私の側にいる事に馴染んでいる証とも言えるわ。

 

「風、私はそんなに楽しそうな顔をしていたかしら」

「ええ、そうですねぇ、風は何となくそう感じたというだけで根拠は特に」

「まるで、遠い地にいる想い人を彷彿させているかのような表情だったぜ」

「これこれ、宝ャ、そんな失礼な事を言っては駄目ですよ」

「……随分と、面白い冗談ね」

 

 想わず大きく溜め息を吐き出す。

 別にこれくらいのことで怒ったりはしないわ。

 周りに兵士達の眼がある中で、戦を前にする顔ではない。と言う事を風……と言うか此処は宝ャと言う事にしておくべきね。なんにしろ言いたい事は理解している以上わね。

 ただ、想像だにしなかった答えに、苦笑が浮かんだだけの事よ。

 

「考えていたのは敵の事よ。

 でも、宿敵と言える程の敵の事を考えるのは、確かに想い人を語る事に似ているのかも知れないわね」

 

 持てる力の全てを賭けて相手の行動を読みきり、相手の半歩先を行き、その喉笛に刃を押し当てる。

 その瞬間を考えると、背筋が続々とするわ。

 ……身体が、

 ……魂が、

 どうしようもなく熱くなる。

 それに対して頭の中は冷め、静かになって行く。

 その相反した差異が益々魂を高ぶらせる。

 我ながら、此ばかりは抑えられない。

 時には、閨において可愛い娘にその熱くなった魂をぶつけるほどに。

 

「でも、今は別の宿敵の事を考えるべき時ね。

 風、状況を説明なさい」

 

 もっとも此方の宿敵も、私が一方的に宿敵と決めただけで、相手は私の事を宿敵だとは想ってはいないでしょうね。せいぜいが漢王朝を我が物にしている小娘と言ったところでしょう。

 

「軍の展開準備は上々。

 春蘭様達は当然のことながら、兵士さん達、全てにおいて"氣"が満ちていますねえ。

 ……ただ、兵数に若干不安を覚えますが、まぁ((馬騰|ばとう))さんのところは、もっと心保たないでしょう。此方は三万に対して、あちらさんは多く見積もっても二万を遙かに届かないでしょうからね。

 涼州の地を離れた馬超を初めてとする一族達が戻ってこれば話は別でしょうが、そちらの心配はまずはないでしょう。

 それに雨期も終えたばかりのこの時期なら、草原での焼き討ちの心配は不用と言ったところでしょうか」

「これだけしか兵しか連れてこなかった事が不満かしら」

「いえいえ。ただ、戦費を抑えるにしても、もっと連れてこれたはず。

 そして馬騰は病床の身とはいっても、間違いなくこの大陸屈指の英傑。万勝の決意を持って挑むのが上策かと」

 

 でしょうね。風の言う事は当然の理。

 ましてや此方は攻める側。相手の倍の兵数を用意するのが常套手段と言えるわね。

 

「だからこそよ。

 馬騰ほどの英傑を相手に、ただ勝てば良いというものではないわ。

 風、この戦はね、私にとって継承の儀でもあるのよ」

 

 大陸中で知らない者はいないとされる程の英傑。

 だけど、その真価は名声ではなく、その魂。

 馬一族は代々漢の忠臣を名乗り、そして一族共々その言葉通りの人生を歩んできた。

 そのうえ北や西からの蛮族からの侵攻を撃退し続け。更に国内においても、たえず漢王朝のために馳せ参じ、その強力な騎馬民族としての力を天下に示し続けてきた。

 馬騰は、その中でも一際、智勇共に兼ね備えた英傑。

 まず間違いなく、現在において最も秀でた英傑でしょう。

 ……ただし、それは前時代においての話。

 だからこそ継承すべき価値があるのよ。

 漢王朝を見守ってきた一族、その高潔な魂の在り方を。

 戦という全力でのぶつかり合いによる魂の研磨でもってね。

 ならば、圧倒的な戦力差など力など不要というもの。

 なにより、この戦は麗羽とは逆に数日で勝負がつくはず。

 

「病床の身とはいえ相手はあの馬騰よ。

 きっと姑息な策など労せず、魂の最後の灯すべてを燃やしてぶつかってくるに違いないわ。

 風、私はその魂の炎を正面から受けて立つもり。王として、そして次世代たる英傑の一人として。

 この試練を乗り越えれないようでは、この先の試練に打ち勝つことなどできない」

「相手のすべてを飲み込み。更なる高みへですか。

 ならば風は、軍師として、華琳様の御心に沿えるように力を振るうのみですね」

 

 

 

 

 

 

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馬騰視点:

 

 

((?徳|ホウトク)) 字:((令明|レイメイ)) 真名:((菫|スミレ))

 

 

 

「儂等は誇り高き西涼の民。

 中央の腰抜け共と同じと舐めている連中に一泡吹かしてやりましょうぞ」

「そうだ。某達が代々に渡って西の蛮族どもから、漢を守ってきたという事を今一度、奴らに知らしめて見せようではないか」

「馬騰様が来られる頃までには、覇王気取りの小娘の首を刎ねるだけにしておきます」

「……では、我等は先に戦場を温めておきます」

 

 もう、ここで話すべき事はすでになく。

 それぞれ腰を上げ、敵将の首をいかに取るかを談笑しながら部屋をあとにしてゆく。

 ……だが、心強い言葉とは裏腹に、皆すでに分かっている。

 

 この戦に、勝ち目など最初からないことを。

 

 だからこそ、あれだけ晴れ晴れとした顔で部屋を後にすることができる。

 負け戦をいかに楽しむか。奴等の頭の中はそのために巡らしているのだろう。

 死ぬことが怖くないわけではない。

 残してゆく家族のことが気がかりではないわけではない。

 ここにいる者、…いや、参戦する者のほとんどが、それができるだけの猛者であり、儂と供に、多くの戦場を潜り抜けてきた者達だからだ。

 やりたきこと、やり残したきこと、心残りは幾らでもあろう。

 我が子の成長を見守って逝きたい者。

 孫や曾孫をその手に抱き、床の上で最期を見送られたい者。

 そう思わないものは一人たりともおらぬであろう。

 ……だが、それでも儂等は戦わねばならない。

 

 曹孟徳、あの小娘が小娘なりにもこの大陸の未来を憂い、生意気にも大陸に覇を唱え。その力を天下に示し治めようとする考えは分からんでもない。

 かつてあの小娘が洛陽北部尉に就いていた時は、たとえ身内であろうと禁に対しては厳罰に処していたが。おそらく愚物共から栄転を口実に都から追い出された時に、見限ったのであろうな。中央の愚物共にな。

 そして至ったのであろう。故に浄化をせねば、この大陸に未来はないという答えにな。

 まぁ、尻の青い小娘の考えそうな事だ。だが、小娘には覇王を唱えるだけの血も、能力も、そして天運もあったのであろう。

 黄巾の乱後、力を蓄え、そして、あの袁家をついには抑え。大陸の三分の一を手に収めた今、この地に僅か三万程度の兵でもって進軍してきたその意図は単純明快。

 圧倒的な数ではなく、持てる智勇でもって戦い勝つことで、この地に住まう者達全てに己が天分を示すこと。 

 なにより、小娘は選んだのであろう。この戦を己を磨き、更なる高みへと押し上げる場へとな。

 ((古強者|ふるつわもの))であり、英傑と謳われた儂と、儂の仲間をその身に喰らうことでな。

 ふん、如何にも生意気な小娘らしい考えだ。

 だが、自ら覇王を名乗るのであれば、それくらいでなければならん。

 

 そして儂等が負け戦に命をとさねばならぬ理由。

 それはそんな小娘に、教えてやらねばならぬからだ。

 古き時代を壊そうという事がどれほどの事なのか。

 そして新たな時代を築き上げようという事が、どれほどの死山血河を築き、踏みつけた者達の呪いを受ける事になるかをな。

 なにより、儂等は示さねばならぬ。

 漢の忠臣として生きてきた我が一族が治めてきたこの地に土足で踏み入れることの意味を。

 その代償がいかに大きいという事かを示さねばならぬ。

 この地に残された者達の後々のためにもな。

 

「((菫|すみれ))」

 

 殆どの者が退出する中、多くいる((強者|つわもの))達の中で一番年下故に一番最後に退出しようとした者を呼び止める。

 青味の掛かった銀髪は頭の両脇の高い位置に止めているため、振り向けばまるで馬の尻尾のように大きく揺れる。

 年の頃は、我が((馬鹿娘|すい))と同じだが、馬鹿笑いが似合う((馬鹿娘|すい))と違い、再び儂に顔を向けたその表情は冷淡。

 だが、今はその美しい瞳に浮かぶのは不満の色。

 おそらく儂が何を言いたいのか察しているのであろう。

 だから……。

 

「残りません」

 

 皆が部屋を切ったのを確認してから、儂が何かを言うより先に、はっきりとそう告げる。

 その事実というか、彼女の決意に儂は深い溜息が漏れ出るのを最早隠せん。

 この様子では、すでに周りの者達から言われてはおるのじゃろう。

 

 オヌシは、この戦に参加すべきではないとな。

 

 一族の誇りと尊厳、そしてこの西涼の民の価値を守り抜くための戦とはいえ、負け戦は避けられぬ。

 いや、負け戦などというものではなく、死にゆくための戦とさえ言えるこの戦に、若い者達を巻き込むのはさすがに忍びない。

 なにより……。

 

「オヌシはそれでよかろう。」

 だが、オヌシを信じてついてゆく若い者達はどう考える。

 まだ婚儀を上げたばかりの者や、親になったばかりの者もいよう」

「皆、私と同じ覚悟ができております」

 

 だろうな。

 義侠心に厚く、血気溢れん者ばかり。

 残れと言うたところで、残ると言う者はおりはせんだろう。

 将として『残れ』と命じぬ限りはな。

 

「残された民はどうなる」

「残される事などありません!

 我らは勝ちます!勝てばいいんです!」

 

 ……馬鹿者が。

 本来、現実が見えぬ娘ではない。 

 ましてや命を粗末にする娘ではない。

 ただ、守りたいだけ。

 この地の民を、……そして西涼の誇りを。

 この娘がここまで決意するに至った原因。

 それは全て儂にある。

 

「オヌシには、あの((馬鹿|すい))を補佐してやってほしかったのだがな」

「あの裏切り者の話はやめていただきたい」

 この地の民を見捨てて出ていった臆病者の話など聞きたくもありません」

 

 幼き頃よりの親友同士。

 互いに切磋琢磨し武術の腕も互角。

 あの((馬鹿娘|すい))と違って冷静な分、菫の方が紙一重で上回ることが多い。

 民からの信望は((馬鹿娘|すい))の方があったが、その実、((馬鹿娘|すい))の横で抑え役であることを進んで演じてきたと言っていい。

 それが、あの一件でこの通りだ。

 もっと冷静な娘だとばかり思いこんでおった儂の罪。

 この娘のこの地への想いを見誤った儂の責任と言えよう。

 

「……わかった。オヌシ等の気持ち有難く受け取ろう。

 ただし、これだけは命じるぞ。決して死に逸るな。

 無駄死になど、我等が民の誇りを守るどころか、地に落とすだけど覚えておくがよい」

 オヌシの部隊全員にも、今の儂の((言|げん))を心に刻ませておけ」

 

 これ以上、此処で言い合ったところで、もはや此奴の心が変わることはあるまい。

 いや、そんなことは、もうこの部屋に入ってきた時より分かっていた。

 この娘の眼を見た時からな。

 

「一番槍は任せたぞ」

「はっ!」

 

 初激で命を落とす者もいよう。

 だが、これが一番、被害は少ない。

 本隊同士が衝突すれば、アヤツ等の部隊には最早出番はない。

 いくら腕が立とうとも、血気盛んな若さがあろうとも、他の部隊に比べたら経験など無いに等しい若輩者達。

 アヤツ等の入り込む隙などありはしないし、我等もアヤツ等を入り込ませる気など無い。

 もしもアヤツ等が再び前線に入り込めたとしたならば、もはや勝敗の決着がついたころ。

 それでも死に急ぐ阿呆ならば、所詮はそれだけの器だったということ。

 そのような者に残った民を守り導く事など望むことなどありはせぬ。

 願わくは、あの意固地になった哀れな娘が、手遅れにならぬうちに目を覚ますことを祈らんばかりだ。

 

「誰ぞ」

「此処に」

 

 そのためには儂もやるべきことをやらねばならぬ。

 この残り少ない命を全てを費やしてでも、次世代の芽は残さねばならぬ。

 

「儂の槍と戦装束を」

 それと、あの薬を持ってまいれ」

「……まさかっ!

 いけません! あの薬だけは! あれを使えば主の命は」

「二度は言わぬ」

 

 もう十年以上もの付き合いとなる儂付きの傍女、((彩芽|あやめ))の言いたい事は分かる。

 一緒に過ごした時間だけを言うのならば、娘達より多いかも知れぬほどの付き合いだ。分からぬ訳がない。

 確かにあの薬を使えば、儂は確実に三日目の日没を待つ事無く儂の命を尽きるであろう。

 だが、この病に伏した身体を……。

 半ば生ける屍と化したこの身体に……。

 一時であろうとも、息を吹き込む事が出来る。

 例え、それが本来の十分の一以下の力しか取り戻すことが出来ないとしても……。

 この身体を思い通りに動かす事が出来るのが、僅か一日程だとしても……。

 穴の青い小娘に、この地に攻め入る事の愚かさを知らしめるには……。

 この西涼の地の民が、如何に高潔で、得がたい民であるかを奴等の魂に刻んでやるには…。

 それだけの刻があれば十分じゃ。

 

「…分かりました」

 

 ましてや、あの((馬鹿者|すみれ))の目を覚まさすのに、この死にかけた年寄りの命を賭けるのに、なんの躊躇いがあろうか。

 もはや零れる涙を隠そうともしない彩芽の手を借りて、力の入らぬ腕で戦装束に袖を通し。震える手で帯を止めるのに酷く苦労するとしても、儂は行かねばならぬ。

 

「彩芽よ。

 今まで、この我が儘な儂に付き合ってくれたこと、心より感謝するぞ」

「……あ、((主|あるじ))」

「言うでない。

 せっかくの別れが台無しになる」

 

 彩芽は行かせたくないのであろう。

 この涼州の地と民を導き。

 あの何を考えているか分からぬ南蛮より漢を守り。

 大地と戦場を駆け続けた儂に、せめて最期は安らかな刻をと。そう想っておるのであろう。

 だが、槍を持ったときより…。

 いいや、始めて他者の命をこの手で奪ったときより…。

 安らかな死など叶わぬ事だと覚悟している。

 誰かの命を殺めると言う事はそう言う事だ。

 

「オヌシは孫や曾孫に囲まれる最期を送れ。儂のような道は決して歩むな」

 

 最後の言葉を交わす。

 最早これ以上、交わす言葉はない。

 これ以上、刻を無駄にするわけにはいかぬ。

 儂は手の平のそれを口に運び。

 

ごくっ

 

「さらば………げふっ!」

 

 目の前が眩む。

 咽せるたびに力が抜けてゆく。

 くっ、こんな時に発作が!。

 

「((主|あるじ))よ。どうか寝床に」

 

 っ、……まさかっ!

 湧いた疑念を確かめようと彩芽に振り返るが、ぼやける視界がそれを邪魔をする。

 だが、儂のふらつく身体を支えながら寝床へと導く彩芽の手が教えてくれる。

 儂ではなく、彩芽の震える手が……。

 嗚咽しながらも、言葉にならない謝罪の声が……。

 儂の身に何が起こっているかを教えてくれる。

 

「…な、…((何故|なにゆえ))だ」

 

 横になる頃には咳は治まり、苦しくは無くなった。むしろ心地よさに包まれていると言っていいだろう。

 その代わり、闇に堕ちて行く感覚が強くなって行く中で、儂は彩芽に訪ねる。

 最早、この身体が動く事はなかろう。

 だが、せめて理由だけは問いたかった。

 あの彩芽が此処までしたのだ。想像はつく。

 だが、それでもせめて、親友でもある彩芽の口から理由を知りたかった。

 やがて嗚咽まみれに彩芽は謝罪しながら儂に応えてくれる。

 ((主|あるじ))の最期を利用されたくなかったのだと。

 自分達を必死に守り、導いてきた儂の頚を晒し者にされる事だけは我慢ならなかったのだと。

 叶う事ならば、馬鹿娘達に囲まれて逝かせたかったのだと。

 

「……そうか」

 

 遠くなりそうな意識の中で、儂はそう答える。

 彩芽、一人に出来る事では無い。

 これだけの薬を儂の耳に触れる事無く得るのにはな。

 儂の知らぬところで、彩芽を唆したか、彩芽の意見に賛同した者がいたと言う事に他ならぬ。

 

「申し訳ございません。 私にはこうするしか」

「……構わぬ。オヌシが考えぬいた結果なのであろう」

「…はい。

 ですが((主|あるじ))一人に逝かせはいたしませぬ。

 不肖、この彩芽もお供いたします」

 

「っ!」

がらんっ!

 

 その言葉に、死んだ身体が((一時|ひととき))の奇跡を起こす。

 儂自身、信じられん程の動きを身体が反応した。

 いや、違うな。儂の魂が反応したのだ。

 

「あ、((主|あるじ))っ!?」

「こんな下らぬ事で死ぬなど許さんっ」

 

 鞘の侭投げつけた護身刀に腕に打たれ、己が首に突き立てようとした短刀を弾き飛ばされた彩芽に儂は怒鳴りつける。

 これが本当に最期の力。最早、指一本動かす事は出来ん。

 だが、それでもやらねばならぬ。

 例え望まぬ最期であろうとも、儂にしか出来ぬ事があることを思い出したわい。

 彩芽よ。オヌシが其処まで覚悟しているのならば、その命、儂が貰おう。

 

「彩芽にはやって貰わねばならぬ事がある。

 この儂に毒を盛ったオヌシにしか出来ぬことだ。

 この儂に、其処まで恩義を感じるのならば、儂のために死ね。

 儂の望みのために、その命を賭けるが良い」

 

 だから儂は最期の力を絞って彩花に命ずる。

 彩花にしか出来ない事を……。

 その命、散らすのであるならば、儂なんかのためではなく、この大陸の未来のために。

 

 

 

 

 

-4ページ-

 

 

 やがて、彩花が儂の命の侭に部屋を出た後、儂はそっと目を閉じる。

 ……もはや、儂の命は半刻も保たぬであろう。

 先程ので正真正銘、最期の力だったのであろうな。

 指一つ動かす事も叶わぬし、目を開ける気力でさえも沸いてきはせぬ。

 こうして静かな最期の時を迎えてみれば、思い残す事は山ほどある。

 後悔など、最早数えきれぬほど在ると言ってもいい。

 ……だが、それでも、脳裏に浮かぶのは、((馬鹿娘|すい))達のこと。

 そして、あの((馬鹿者|すみれ))のこと。

 せめて、どちらかが生き残り、この大陸の抑止力になればよいのだがな。

 

 ふはははははっ、

 

 声に上がらぬ((嘲笑|こえ))がわく。

 当然だ。今際の際にこのような事を浮かぶ儂が、望む最期を迎えれるわけがない。

 娘と、娘同様に可愛がり育ててきた者の幸せではなく、儂の我が儘に応えてくれん事を望むようでわな。

 我ながら度し難い腐った心だ。

 だが、それでも儂は望む。

 あの馬鹿者達が、その苦難の人生の中で、多くの友の笑顔に囲まれる事を。

 友の笑顔に応え、友の笑顔を大切にする者にならん事を。

 なにより、そのために命を賭けれる者にならん事を。

 

 

 

 翠よ。皆を頼む。

 

 

 

 菫よ。この地を頼む。

 

 

 

 勝手な事ばかり言うようだが、この我が儘な母の最期の望みと想ってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

-5ページ-

あとがき みたいなもの

 

 

 こんにちは、書いた馬鹿こと、うたまるです。

 第173話 〜 草原に舞いし花片に、最期の想いを馳せる 〜を此処にお送りしました。

 

 今回は魏ルートにおいて、謎のままだった馬騰の下りをこの外資風に描いてみましたが皆様いかがでしたでしょうか。

 むろん、馬騰の最期には色々とついて回ってきますが、それは今後に描いてゆきたいと思います。

 

 ?徳のイラストは、毎度ながら、金髪のグゥレイトゥ様より拝借させていただいております。この場をお借りいたしまして、お礼申し上げます。

 

 

 では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。

説明
『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 涼州へと軍を進める曹操軍。
 馬超達を失った馬騰は………。

拙い文ですが、面白いと思ってくれた方、一言でもコメントをいただけたら僥倖です。
※登場人物の口調が可笑しい所が在る事を御了承ください。
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コメント
たっつー様、本当に、ままならない世の中だと思います。 でも実際に、こういうすれ違いは起こり得る事だと思います。(うたまる)
mokiti様、まぁ、互いに信頼している親友だったからこそというのもありますから。・゚・(ノД`)・゚・  これも翠に課せられた試練と思ってくだされば(うたまる)
劉邦柾棟様、そりゃあ華琳が知ったら、あの展開しかないでしょう。どう加筆されているかをお楽しみください。(うたまる)
翠と菫が再会した時が色々と怖いですね…。(mokiti1976-2010)
華琳が知ったらどんな反応をするやら・・・・。 翠と菫の和解も無事になれば良いけどね(劉邦柾棟)
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