VS愛佳
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「納得がいきません!」

 バンッとテーブルを叩きながら、愛佳は俺を睨んだ。

「確かに、お菓子を持ち出しすぎたのは認めます! でも、没収は酷すぎます!」

 キーッと悔しそうにポッキーを食べながら頭を掻きむしる愛佳に俺は心の中で深く突っ込んだ!

(食いながら、怒るなよ……)

「貴明くん! 何を他人事みたいに達観してるんですか!?」

 ビシッと指差され俺は呆れ口調で愛佳に言った。

「たかがお菓子くらいでそこまで、怒らなくっても……?」

「たかがですって〜〜〜〜〜!?」

 またもや、悔しそうにポッキーを食べる愛佳に俺は三十分前の事を思い出した。

 

 

 その日は図書委員長が珍しく史書室に遊びにきた日であった。

「さあ、どうぞ! おいしいお茶です!」

「ありがとう」

 軽く笑みを浮かべながら優雅に紅茶のコップを手に取る図書委員長の姿に俺は心の中で感嘆してしまった。

 ハッキリ言って、ここまで紅茶の似合う男は俺の知るかぎりじゃ、図書委員長だけだ。

 雄二じゃ……想像がつかん!

 でも、十波の所のジジイだったら……少しは?

「ふぅ〜……美味しいお茶だ! 小牧くんは才能があるな?」

「そ、そんな〜〜〜? カワイイだけじゃなくお茶もおいしいなんて?」

「誰もそこまで言っとらん!」

「……」

 図書委員長の鋭い突っ込みに愛佳は悔しそうに目を三角にして彼を睨んだ。

 はっきり言ってこの二人、よくここまで仲良く話せるな?

 この前の一件で、俺なんか図書委員長と顔を合わせるだけで気まずくなるのに……

 あくまで、俺だけだが……!

「さてっ!」

 紅茶を飲み終えると図書委員長はおもむろに立ち上がり愛佳を見た。

「はい? もう帰るんですか?」

 不思議そうに首を横に傾ける愛佳に図書委員長はキッと目を鋭くした。

「いや、今回はただ、遊びにきただけじゃない! 河野くん、君にも話がある! よく聞きたまえ!」

「は、はぁ……」

 いきなり話を振られ、俺も愛佳も不思議そうに目を合わせた。

「うむ……まずは……」

 部屋をキョロキョロ見渡すと図書委員長はおもむろに流しの下の引出しを探り出した。

「ちょ、ちょっと!?」

 それにはさすがの愛佳も驚いたのか、慌てて図書委員長の腕を掴み引っ張り出した。

「何やってるんですか!?」

 無理やり引き出しから、引きずり出すと(ギャグじゃないよ♪)愛佳は語気を荒げ叫びだした。

「見損ないました! いくら、図書委員長だからって、人の部屋を物色するのは……」

「これでも、そんな口を叩けるかい?」

「え!?」

 愛佳の目が丸くなった。

 図書委員長が手に持っているのはポテトチップス!

 しかも、食の基本にして王道のうすしお味!

 愛佳の首筋にツーと嫌な汗が流れた。

「僕は生徒会や風紀委員じゃないから、お菓子を校内に持ち込むのは許そう……」

 図書委員長の鬼も殺しそうな鋭い眼差しに愛佳は蛇に睨まれた蛙のようにダラダラと嫌な汗を顔全体に流した。

「だが! 神聖なる史書室でお菓子を……ましてや、大量に置いとくとは言語道断!」

 お〜〜! さすが、元は対立していたとはいえ、図書委員長!

 本の事には厳しい!

 ん?

 お菓子を大量に……?

「ちょっと、待ってください!」

「ん? なんだね、河野くん?」

 うっ!?

 俺にも厳しい視線を……

 まあ、愛佳の行動に便乗して、たくさんお菓子を食べたのは事実だけど……

 って!? そんな事でなく!

「あんたが手に持っているお菓子は一つなのに、なんでたくさんお菓子があるのがわかるんだ?」

「フッ……!」

 うわっ!? 嫌な含み笑い!

 きっと、次はお決まりのセリフを言うぞ!

「簡単な推理だよ! ワトソン君!」

「言うと思ったよ!」

「なにか言ったかね?」

「いえ! それよりも推理を!」

 こっそり、ポテトチップスを取り返そうとする愛佳の頭を軽く小突きながら、図書委員長は呆れた目で俺の座っているイスの前のテーブルを指差した。

「まず、テーブルに残された大量のお菓子のクズに僅かに部屋に漂う甘菓子の甘い匂い……究めつけはこっそり隠されたこのポテトチップス! 少し探せば部屋にまだあるんじゃないのかは小学生でも思いつくことだ!」

「あ……あはは……」

 図星なのだろう!

 必死に誤魔化し笑いを浮かべてこの場をやり過ごそうとする彼女の姿は恋人の俺から見ても見苦しかった。

「小牧くん!」

「はいっ!」

 ビクッと、直立不動をして立ち上がる愛佳に図書委員長は冷たく言い下した。

「今すぐに、ここの部屋にあるお菓子を全部出したまえ! 没収だ!」

「そ、そんな!?」

 よっぽどショックだったのか、愛佳は涙目で図書委員長に抗議した。

「お願いします、お菓子だけはご勘弁を!」

 必死に図書委員長の腕を掴みながら涙目で懇願する愛佳の姿に俺はちょっとだけ悲しくなってきた。

 こいつ、そのうちお菓子で人を売るんじゃないのか?

「その代わりに貴明くん差し上げます!」

「え!?」

 愛佳さん、今なんと?

「トイレ掃除の代わりから、購買のパンを自腹で買うくらいしか能が無い男の子ですが、どうか、これでお菓子の没収だけはご勘弁を!」

 おいっ待て!

 俺の価値はお菓子以下なのか!?

 というよりも、お前ってそんなキャラかよ!

 おい! 図書委員長!

 なに真面目に考えてるんだ!

 注意しろよ!

「小牧くん……」

 よしっ! そうだ、そこで注意するんだ!

「今回、君がしたことは彼が学校にいる間だけで済む問題じゃない!」

「え!?」

 おい! 何言ってるんだ?

「まことに惜しいが、僕も既に家にペットを飼っている、これ以上の無駄飯食いは飼えない……」

 おい! 俺は犬畜生並みか!?

 愛佳! 黙ってないで何か言えよ!

「図書委員長!」

 お! 愛佳! 恋人が侮辱されたんだ! 言い返してやれ!

「貴明くんを犬みたいに言わないでください!」

 そうだそうだ!

「そんなの……」

 言ったれ!

「犬に失礼です!」

 ズザーーーーーーーーーーーーーーーー!

「どうしたんです、貴明くん? 逆イナバウアーなんかして?」

「……」

 彼女の目は全然悪びれていなかった……

 というよりも、マジな目をしている!

 俺って、犬以下なの?

「まあ、貴明くんのことなんか後で結構です!」

 なんか、イジケたくなってきた……

「それより、どうすれば許してくれますか? 何でもしますから、お菓子の募集だけは……」

 必死に図書委員長に哀願する愛佳に図書委員長はクイッとメガネを上げた。

「一ヶ月の図書室の掃除!」

「!!!!!」

 愛佳の目が大きく見開かれた。

「もちろん! 毎日!」

「〜〜〜〜〜〜」

 口の端がヒクヒクと揺れだした……

「一日でもサボれば、お菓子は前面没収!」

「ッッッッッッッ!」

 怒りで顔が真っ赤に充血し始め……

「もし出来れば、お菓子代は僕のポケットマネーから一部負担しよう!」

「あうっ〜〜〜〜〜〜!」

 愛佳の心の何かが切れた音を俺は感じた。

 そして、時は戻り現在!

「納得がいきません! なんで私は図書室のお掃除をしてるんですか!」

 バンッとまたテーブルを連打する愛佳に俺はジトーとした目で彼女を睨んだ。

「あんたが、図書委員長の言葉巧みに負けたからだろう……しかも、あんたサボってるじゃん!」

 そう、愛佳はさっきから、怒鳴ってポッキーを食ってるだけで、何もしていない!

 しかも、そのポッキーは図書委員長の出した条件の『ポケットマネーで出されたお菓子』である!

「ク〜〜ッ! 騙された!」

 まるで八ッ当たりをしてるようにポッキー食べ続ける、愛佳に俺は図書委員長の頭の良さを呪った。

 そう! あの後、愛佳は図書委員長の甘い罠にはまり、見事に首を縦に振った。

 その後は……

「こんなの詐欺です! ポッキーだけ置いて、全部没収なんて!」

 そう、図書委員長が許したのは、あくまで『ポケットマネーで出されたお菓子』だけであって愛佳がこっそり貯めていたお菓子は全部募集されてしまったのである。

 これはさすがの愛佳も怒ったが、図書委員長は何一つウソをついていないのだ……

 お菓子も残ってるし、お金は図書委員長が出している。

 しかも、今回のお菓子の大量持ち出しの件は図書委員長が内々で打ち消してくれることになったのだ。

 ウソどころか、良くしてもらっている部分ばかりである。

 おかげで、しわ寄せがこっちに来てしまったが……

「貴明くん! ここ汚れてます! しっかり拭いてください!」

「はいはい……」

 愛佳の指差したの窓の枠の隅を丁寧に拭きながら俺は思った。

 俺たちって本当に恋人?

 ● 戦績……図書委員長の要領勝ちにより、愛佳の全敗!

 

 

あとがき

 

 今回は愛佳VS図書委員長になりましたが……

 相変わらず、僕の愛佳はファンにケンカを売っているような状態ですな?

 しかも、今回は愛佳はかなり痛い目にあってますし……(どちらかというと貴明?)

 暴走愛佳に対するリクエストがあればドシドシ送ってください!

 実現できるかは、不明ですが……

説明
前回の黒い愛佳の続きです。
今回は、図書委員長との壮絶な戦いを繰り広げます。
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その前に飯じゃ! 腹が減っては戦ができん!(スーサン)
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ToHeart2 小牧愛佳 河野貴明 図書委員長 コメディ 

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