恋姫英雄譚 鎮魂の修羅24の2
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拠点・美花

 

 

 

 

 

 

 

愛紗「せええええい!!!」

 

梨晏「はあああああ!!!」

 

鈴々「うりゃりゃりゃーーー!!!」

 

華雄「おおおおおおおおおお!!!」

 

現在、下?城闘技場では愛紗VS梨晏、鈴々VS華雄の試合が行われていた

 

四角い舞台を半分に分けお互いの武を比べ合う

 

愛紗の冷艶鋸と梨晏の三叉戟がぶつかり合い、鈴々の蛇矛と華雄の金剛爆斧が火花を散らす

 

雷々「うひゃ〜〜、あの二人愛紗と鈴々と互角に渡り合ってるよ〜」

 

電々「愛紗さんと鈴々ちゃんがここに来た時、武官50人抜きをしたのに〜」

 

美花「そうですよ、世の中には雷々さんと電々さんが知らない強〜い人達が沢山いらっしゃるのですから♪」

 

剣戟が響き渡る闘技場の片隅でも、相変わらず侍女としてお茶を淹れる美花

 

コポコポと水が湯呑の中に入っていく耳障りの良い音の隣で、一人憂鬱になっている男がいた

 

一刀「俺は怖くてしょうがないよ、あんな真剣を振り回して、一つ間違えたら致命傷だぞ・・・・・」

 

美花「まあまあ、とてもこれまで素手で戦場を生き延びてきた人の言葉とは思えませんね」

 

一刀「俺だって、怖かったよ・・・・・」

 

美花「あらあら、一刀様でも恐ろしい事があるのですね♪」

 

一刀「ああ・・・・・勢い余って相手を殺してしまうんじゃないかって、凄く怖かった・・・・・」

 

美花「・・・・・・・・・・」

 

一刀「?・・・・・どうした?」

 

美花「うふふふ♪いえいえ、一刀様はどこまでも一刀様なんですね♪」

 

とても一刀らしい回答に自然と美花から笑みが零れる

 

愛紗「くうううう!!」

 

梨晏「どうしたの関羽!!?力が出てないよ!!」

 

三叉戟で冷艶鋸を挟み、間合いを詰める

 

ドンッ!

 

愛紗「ぐっ!!」

 

前蹴りを腹にモロに食らい、愛紗は舞台に仰向けに倒された

 

梨晏「本当にどうしたの?今の関羽だったら、桃饅を食べながらでも倒せちゃうよ」

 

愛紗「くぅ・・・・・」

 

倒れた愛紗に三叉戟が突き付けられ、こちらの勝負は着いた

 

華雄「そらどうした!!?いつもの威勢の良さは何処に行った!!?」

 

ガキイイイイイイイン!!!!

 

鈴々「にゃにゃ〜〜〜〜!!!??」

 

蛇矛を弾かれ鈴々も舞台に転がった

 

華雄「拍子抜けも良いところだ、情けないぞ張飛!!」

 

鈴々「うぅ・・・・・」

 

この試合は、愛紗と鈴々の方が申し出たのだ

 

しかし、完全に返り討ちにされてしまい、恥を晒すだけとなってしまった

 

梨晏「なんて言うか・・・・・二人共心ここにあらずって感じだね」

 

華雄「ああ、心に迷いがあるな、そのような心構えで我に挑もうなど片腹痛い!」

 

鈴々「・・・・・鈴々達が迷っているのは、分かっているのだ」

 

愛紗「ああ、その迷いを振り払わんとする為に、お二方に試合を申し込んだのだが・・・・・」

 

梨晏「原因は、あの東屋での事かな?」

 

華雄「北郷に言われた事が余程堪えた、と言った所か」

 

愛紗「・・・・・・・・・・」

 

鈴々「・・・・・・・・・・」

 

かつて、東屋で一刀に言われた事が胸に突き刺さり離れない

 

正に正論、余りに正しい

 

ちょっと考えれば分かる事だ、自分達がこれから行う事が招く結果など

 

しかし、これまで描いてきた理想を捨てきれずにいるのもまた事実

 

今、この二人は天秤にかけているのだ、桃香の理想か、それとも一刀の正しさか

 

それらの重さがいちいち変化し、天秤を左右に揺らし心を乱す

 

それが思い切り武に出てしまい、本来なら互角かそれ以上に渡り合えるこの二人に一蹴されてしまう

 

それくらいに二人の心の迷いは大きかった

 

梨晏「図星みたいだね・・・・・だってさ一刀、二人共一刀のせいでこうなっちゃったみたいだよ」

 

一刀「俺は自分の言った言葉を撤回するつもりはないぞ、間違った事なんて何一つ言ってないんだからな」

 

華雄「しかし、これでは余りに張り合いがない、今のこの二人は一兵卒と大差ないぞ」

 

一刀「俺にとってはいい傾向だよ、二人共俺の言った事を考えてくれている証拠だしな」

 

愛紗「・・・・・・・・・・」

 

鈴々「・・・・・・・・・・」

 

そう、間違っていない、正しい     一刀の言っている事は正しい

 

しかし、その正しさがこの二人を苦しめている事に一刀は気付いていなかった

 

美花「(一刀様も決して悪気がある訳ではないのですが、この場合むしろ悪気があった方がまだましかもしれませんね)」

 

決して一刀の言っている事も的を射ていない訳ではない

 

だが、一刀は自分の正しさを余りに信じ過ぎている

 

もしこれから先、その正しさが破綻した時、はたして彼はその反動に耐えられるのか

 

美花の一番危惧しているのはこれである

 

美花「・・・・・では、皆様の試合は終わりましたから、今度は私と一刀様の番ですね♪」

 

「「「「「・・・・・は?」」」」」

 

いきなりの美花の言動に一同は素っ頓狂な声を上げる

 

愛紗「ちょ、ちょっと待ってくれ美花!!いきなり何を言い出すんだ!!?」

 

鈴々「そうなのだ!!美花お姉ちゃんがお兄ちゃんに勝てる訳ないのだ!!」

 

梨晏「あそうか分かった、お茶を淹れる速さを競うんだね!!?」

 

華雄「そ、そうか!!その為に茶道具を用意したんだな!!流石は劉備殿専属の侍女だけの事はある!!」

 

いくらなんでも美花が一刀と武術で試合をするなど余りに想像がつかないので、一同は何か別の競い合いを想像していたのだが

 

美花「いいえ、文字通りの試合、武の競い合いですよ♪」

 

一刀「美花・・・・・本気で言っているのか?」

 

美花「ええ、こちらの準備はもう整っていますので♪」

 

そう言って、茶道具の中から短剣二本を取り出す

 

普段通りのやんわりとした笑顔のまま舞台に上がり、一刀を招き寄せる

 

梨晏「・・・・・関羽、張飛、これどういう事?」

 

華雄「ああ、まさか孫乾殿もお主達と同等の武の持ち主だとでも言うのか?」

 

愛紗「そんな訳ないだろう!!美花はかつて、賊に捕らえられていた所を私達が助け出したのだから!!」

 

鈴々「美花お姉ちゃん、危ないのだ!!」

 

美花「うふふ、ご心配には及びませんよ♪私にも一応は武の心得はありますので♪」

 

そう言いながら、二対の短剣を掌でヒュンヒュン回しながら構えを取る

 

逆手で短剣を握るその動作は、まさに堂に入った武人のものだった

 

まるで一流のナイフ使いのようである

 

雷々「わ〜〜、美花お姉ちゃんかっこいい〜〜♪」

 

電々「やっちゃえやっちゃえ〜、お姉ちゃん〜♪」

 

舞台の外側ではアホっ子姉妹がお祭りムードを漂わせているが、その他は疑惑を拭い切れていない

 

一刀「・・・・・その気迫、確かに素人ではなさそうだけど、大丈夫なのか?」

 

美花「油断していると、手痛い目を見ますよ♪・・・・・どなたか、合図を出していただけますか♪」

 

華雄「分かった・・・・・よ〜〜〜い、開始!!!」

 

美花「はぁっ!!!」

 

一刀「うおっぉ!!?」

 

いきなり飛んできたのは、短剣ではなく前蹴りだった

 

ほぼ一足飛びだったにも拘らず一刀の顔面目がけて美花の足の裏が迫り、反射的にバク転してやり過ごす

 

完全に油断していて碌な構えも取っていなかったため、出鼻を挫かれる形となった

 

一刀「おいおい、一体どういう事だこれは?」

 

美花「うふふ、一刀様、メイドを甘く見てはいけませんよ♪・・・・・せいやあああ!!!」

 

今度は両手に逆手で持った短剣が襲い来る

 

一刀「うっ!!?ちっ!!」

 

なんとかして二対の短剣を折り戦闘不能にしたいが、逆手に持っているため刃よりも柄が先に来て破壊する事は困難である

 

ならば取り上げるなり弾き飛ばすなりしたいが、刃が後ろ向きでスライスするように迫り来るため手を出し辛い

 

ならば懐に飛び込み組技に持ち込んで一気に勝負を決めてしまえばいいのであるが

 

美花「てあっ!!」

 

一刀「うおおっ!!?」

 

しかし、美花もそこは心得ているようだ、短剣と同時に蹴りも繰り出し懐に飛び込ませまいとする

 

少し間違えれば手首をリストカットされてしまう為、一刀は構えを小さくし防御の体勢を取る

 

美花「どうしました、随分と消極的ですね?たった一人のメイドを相手に、それでは天の御遣いの名が廃りますよ♪」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

どうやら兵法も心得ているようで、挑発的な言葉で誘いを促す

 

しかし、出鼻を挫かれた所から冷静さを取り戻した一刀はその誘いに乗らず美花の動向を窺う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛紗「・・・・・信じられん」

 

鈴々「にゃ〜〜〜、美花お姉ちゃん、あんなに強かったのか〜〜」

 

雷々「凄い凄い〜〜、美花お姉ちゃん♪」

 

電々「なんだか御遣いさんって、お話に聞いていたより弱いのかな〜?」

 

梨晏「どう思う?華雄」

 

華雄「ふむ、使っている獲物によるのだろうな」

 

梨晏「やっぱりね、あれだけ短いと小回りが利くから、素手の一刀は相性が悪いよ」

 

華雄「私達は、これまで懐に飛び込まれる前に倒す事ばかり考えていたが、それは誤りだったのかもしれんな」

 

梨晏「うん、獲物が長い分だけ、懐に入られると不利になっちゃうし、かといって殴り合いじゃ絶対に勝てないし」

 

華雄「やはり武というのは奥が深い、なのに何故北郷は武をあそこまで卑下しているんだ」

 

梨晏「うん、あんなに強いのに、本当にもったいないよね〜・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「正直侮っていたよ、人は見かけによらないとはよくいったものだな」

 

美花「うふふ、お褒めに与り光栄ですわ♪」

 

一刀「別に褒めているつもりはないんだけどな」

 

美花「・・・・・やはり、一刀様はこういった事はお嫌いなんですね」

 

一刀「当たり前だろ、試合とはいえ命のやり取りギリギリだからな」

 

美花「でも、こうは考えられませんか?こういった命のやり取りの中でも、人々を感動させる輝きがあり、その生き方に美しさを見出す人も居ると」

 

一刀「俺には理解できない、こんな決闘紛いな事に命を賭ける奴も、それを見て感動や美しさを覚える奴の性根も」

 

美花「しかし、こういった事は日常で起きる通り魔や誘拐とはまた違うんですよ、お互いがお互いの信念を持って闘っているんですから」

 

一刀「同じだよ・・・・・人が殺し殺される・・・・・そこに違いがあってたまるか」

 

美花「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梨晏「う〜〜〜ん、あの考え方は危ないな〜」

 

華雄「うむ、戦と通り魔を同じ罪と断じるなど、あってはならないぞ」

 

そう、一刀の中では日常で起る殺人も戦場で多くの兵が傷付き倒れるのも全てが等しく同じ罪なのである

 

たとえどのような状況や立場であろうと関係が無い、人を殺した者は皆等しく裁かれるべし、これが一刀の考え方である

 

もちろん、一刀もこれまで戦場に立ち続け敵味方問わず多くの人々が殺し殺される所を見てきた

 

出来ればそれらの人間全てを裁きたいところであるが、数が多過ぎるうえにその人物が何人殺したか分からない以上一人で対応できる訳がない

 

ならばせめて、今後同じ過ちを二度と起さない具体的かつ確実な方法を考え、それを実践していこうと決めたのだ

 

これ以上悲しみを増やさない為に、これ以上憎しみを増やさない為に

 

愛紗「・・・・・・・・・・」

 

鈴々「・・・・・・・・・・」

 

雷々「ねぇねぇ、何の事かな?」

 

電々「難し過ぎて分かんないよ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美花「・・・・・やはり、お考えを改めるつもりはないんですね」

 

一刀「改めるも何も、改める箇所が一つも無いからな」

 

美花「そうですか・・・・・はぁっ!!!」

 

一刀「うわっ!!!?」

 

またもや短剣が襲ってきて身を翻し躱すが、その一撃は今までのそれとはわけが違った

 

首筋、右頸動脈を狙った、あきらかに殺意ある攻撃だった

 

一刀「おいっ!!いくらなんでも悪ふざけが過ぎるぞ、美花!!」

 

美花「一刀様、一刀様のお考えも決して間違っている訳ではありません・・・・・しかし、そのお考えはいつか御身を滅ぼします」

 

一刀「意味が分からないな、平和を守る事がなんで滅びに繋がるんだ?」

 

美花「ふぅ・・・・・これは教育が必要なようですね・・・・・はあああああ!!!!」

 

一刀「なんで言葉じゃなくて刃が飛んでくるんだ!!?」

 

みねや腹撃ちではなく正真正銘の刃による殺撃が容赦なく襲ってくる

 

それらの連撃を躱し受流すも、一刀は美花の動向が全く理解出来ずにいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷々「うわわわわぁ〜〜、美花お姉ちゃん、恐いよぉ〜〜・・・・・」

 

電々「あんなお姉ちゃん、見た事ないよぉ〜〜・・・・・」

 

鈴々「鈴々もなのだぁ〜〜・・・・・」

 

愛紗「美花殿・・・・・」

 

梨晏「まぁ、今の一刀にはあれくらいの灸は必要かな」

 

華雄「うむ、時に人は残酷にならねばやっていけはしないと知る良い機会だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美花「一刀様、一刀様の想いは本物です!!しかし、どんなに強い想いも、儚く、脆いものです!!」

 

一刀「俺の想いが本物だって言うなら、なんでこんな野蛮な事をするんだ!!?」

 

美花「強過ぎる想いは、心の視界を極端に狭めてしまいます!!今のあなた様の様に!!」

 

一刀「俺の視界が狭いだって!!?俺は何事も客観的に考えているつもりだ!!」

 

美花「その通りです!!だからこそ狭いのです、あなた様の視野は!!」

 

一刀「客観的に考えてなんで視野が狭くなるんだ、むしろ逆だろう!!?」

 

美花「客観的であるがゆえに、あなた様は、他の人達の想いを蔑ろにしているのです!!」

 

一刀「蔑ろにしているのは人の迷惑を省みない、英雄とか呼ばれている野蛮人共だ!!」

 

美花「その野蛮人の想いをあなた様は蔑ろにしているのです!!」

 

一刀「当たり前だろう!!蔑ろにされて当然な行いを散々にしている連中だぞ!!美花だって、そんな身勝手な人間を好きになれるのか!!?」

 

美花「身勝手などではありません!!歴代の英雄達も決して戦を望んでいた訳ではありません、戦をせざるを得ない情勢に追い込まれた結果なのです!!」

 

一刀「そんなものは言い訳だ!!望んでいないんだったら、決して戦争を起こさない努力をして然るべきだ!!そういった努力もしないで無意味な闘争を起こし、巻き込まれる人達の迷惑を省みないような奴らが、ただの人殺しじゃなかったらなんだって言うんだ!!?」

 

美花「そういった現実を受け止め、乗り越えた者を英雄と言うのです!!」

 

一刀「その英雄とやらに殺された人達はどうなる!!?美花がその人達の立場だったら、その人物を英雄だなんて呼べるのか!!?」

 

美花「っ!!?・・・・・それは・・・・・」

 

思いもよらない言葉にハッとさせられ、それまでずっと振るっていた短剣の猛威が止まる

 

そう、美花は考えていなかったのだ、自分が殺される側の人間になった時の事を

 

一刀「俺の事をどれだけ批判しても、結局美花も傷付けられる人達の立場を蔑ろにしているじゃないか、それで俺の視野が狭いだなんて、よくも言えるな!?」

 

美花「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梨晏「あちゃ〜、言い負かされちゃうかな?」

 

華雄「むぅ、孫乾殿でも北郷を改心させることは出来ないか・・・・・」

 

電々「ねぇねぇ、さっきから何の話をしているのかな〜?」

 

雷々「さっぱりわかんないよ〜」

 

愛紗「・・・・・・・・・・」

 

鈴々「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「分かったか?視野が狭いのはどっちか・・・・・美花こそ、自分の考え方を改めるべきだ」

 

そう吐き捨て、踵を返そうとするが

 

美花「・・・・・っ!!」

 

一刀「うっ!!?」

 

バシィッ!!!

 

不意打ち気味に美花の攻撃が襲い掛かった

 

しかし、襲い掛かったのは短剣ではなく、右の拳だった

 

その鋭い正拳突きを、振り向きざまに掌で受け掴む

 

一刀「おい!!いったい何がしたいんだ!!?」

 

どうにも美花の動向が理解出来なく、一刀は混乱する

 

美花「もし・・・・・もしこのように、どこかの国が一刀様の国に攻め込んで来た時は、どうするのですか?」

 

一刀「分からない奴だな、そういった事が起らない様に、俺はこうして各国と同盟を結ぼうとしているんじゃないか」

 

美花「それはあなた様の理屈です、この世の全てが、あなた様の理屈の通りに動くとでも思ったのですか?」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

美花「あなた様の言いたい事も分からなくはありません・・・・・しかし、世の中というものは一つの概念で固定出来るようなものではない事は、分かるでしょう」

 

一刀「・・・・・確かにその通りだ、世の中はそんな単純じゃない、お互いがお互いの主義主張を振り回し、不安定で乱れてばかりだ・・・・・だからこそ俺は、お互いがお互いの立場を尊重し合える仕組みを作りたいんだ、それを個人に留まらせず国同士でも助け合い支え合う、外交をただの駆け引きにせず、争い合う事も奪い合う事も無い、両者の利益を分かち合い持続的に発展を促す・・・・・俺が目指しているのは、そんな世の中だ」

 

美花「・・・・・・・・・・」

 

余りに理想、余りに絵空事

 

基本的に温和でたわやかな性格をしている美花でも、一刀の目指しているものが余りに現実離れしている事が分かる

 

この大陸を統一するより更に上、もはや狂人と言っても差し支えないものである

 

今が三国志の時代だからではない、たとえ現代であろうとも一刀は狂人として扱われてもおかしくない

 

下手をしたら、共産主義者と見られてしまうかもしれない

 

もちろん一刀にそんなつもりはサラサラ無い、共産主義に走れば待っているのは今を遥かに凌ぐ地獄だけだという事は歴史が証明しているのだから

 

美花は不思議で仕方ない、一体どうして、この人はそんな事を本気で、平然と言えるのか

 

しかし、そんな青臭い理想論を熱弁する間、彼の目は針の先程も泳がず真っ直ぐにこちらの目を見ていた

 

恐ろしいほどに純粋、狂おしいほどに誠実、この世一とも言ってもいいくらいの大きな大志を胸に抱き、本当の意味でこの大陸の、人の世の現状を憂いているのだ

 

握られた拳からも一刀の思いが伝わってくるようで、自然と力が抜けていく

 

美花「・・・・・お気持ちは、分かりました」

 

そして、根負けしたかのように美花は突き出した拳を降ろし、短剣をしまった

 

一刀「分かってくれたのなら、いい」

 

そして、納得してくれたと思い舞台から降りようと踵を返すが

 

美花「しかし、一つだけ教えて下さい、一刀様!」

 

一刀「なんだ?」

 

美花「一刀様のその想いは、何処から来るのですか!?」

 

一刀「何処からって・・・・・一体何を言っているんだ?俺は戦争の無い世の中を作りたいだけだ」

 

美花「戦の無い世の中、それは私も素晴らしい事だと思います・・・・・しかし、私には一刀様をそこまでの行動に駆り立てる力の源が、清きものを纏ったものには感じられないのです、まるで人の世そのものを憎んでいるかの様な、そんな禍々しい感情が渦巻いているように思えてならないんです!どうか答えて下さい、一刀様!」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

その哀しそうに、訴えかける様な美花の質問に、一刀は一瞬渋い表情を見せるも答える事なく俯いたまま闘技場から去って行った

 

美花「・・・・・一刀様ぁ」

 

闘技場から去っていく一刀の後ろ姿は余りに儚く、今にも消えてしまいそうだった

 

まるで、この世の全てを背負い込んだかのような痛々しい背中に、美花は込み上げてくる感情を必死に抑えていた

 

雷々「う〜〜〜ん、なんだかスッキリしないな〜・・・・・」

 

電々「これってどっちが勝ったの〜?鈴々ちゃん〜」

 

鈴々「鈴々にも分からないのだ・・・・・」

 

愛紗「・・・・・・・・・・」

 

梨晏「釈然としない結果になったね〜・・・・・」

 

華雄「むぅ・・・・・」

 

ここに居る一同が、今の一刀と美花のやり取りに思いを巡らす

 

確かに一刀の思想は青臭く、理想論である事は否めない

 

しかし、その想いは気高く、芯と理屈の通ったもので、かつ尊いもので、誰もそれを否定する権利など持ち合わせていない

 

やはり、誰も一刀の考え方を改めさせる事は出来ないのかと、半ば諦めかけていた一同だったが

 

美花「・・・・・さあ、くよくよしていても仕方ありません、皆様に美味しいお茶をお淹れしますね♪」

 

半ば強引に暗くなった雰囲気を明るくし、美花は茶の湯を沸かし始めた

 

梨晏「それにしても、一体何がしたかったの?」

 

華雄「ああ、まさか本気で北郷を倒そうと思っていたのか?」

 

美花「まさか、私如きが一刀様に触れる事も出来ない事は、最初から分かっていましたよ♪」

 

雷々「じゃあ、なんで試合なんてしたの〜?」

 

電々「うんうん、説明してほしいよ〜」

 

美花「私は、一刀様に分かって欲しかったのです、人の世の本質というものを・・・・・そして、愛紗様と鈴々様には武人の本懐を思い出して欲しかったのです」

 

愛紗「武人の本懐・・・・・」

 

美花「はい、一刀様の言う通り戦というものは哀しいものです、多くの人々の命を奪い、その関係者全てを不幸にしてしまいます、武人の役目というのも人を殺める事でも戦をする事でも決してありません・・・・・しかし、結果的にそうなってしまう事は多々あります、特に乱世という大いなるうねりの中では、ならばたとえ多くの人を殺め戦場で死する事になったとしても、せめてその志を一つの物語として後世の人々に伝える事は出来るはずです」

 

鈴々「志・・・・・」

 

華雄「なるほど・・・・・ならば何故それを北郷に告げなかったのだ?」

 

梨晏「無駄でしょ、今の一刀にそんな事を言っても、かっこつけだの自己満足だの下らない意地の張り合いだの言って、切り捨てるだけだよ」

 

美花「そうですね、それも戦の本質には違いありません・・・・・しかし、一刀様は戦をその面でしか計っていません、己の体をギリギリまで鍛え上げた武人達がお互いの信念をぶつけ合う、その想いを、魂を、見逃しているのです」

 

雷々「う〜〜〜ん、まだよく分かんないけど・・・・・美花お姉ちゃんがあの人に言いたい事があるのはなんとなく分かったよ〜」

 

電々「美花お姉ちゃんって、御遣いさんのことが嫌いなのかと思ったよ〜」

 

美花「そんなことはありません、むしろ私は桃香様と同じくらい一刀様をお慕いしているんです、なんというか・・・・・どちらも放っておけないんです♪」

 

梨晏「あ、それ分かる♪な〜んか一刀って危なっかしくてほっとけないんだよね〜♪」

 

華雄「確かに、北郷も董卓様と似ている所があるのは分かるがな」

 

鈴々「・・・・・それにしても、美花お姉ちゃん、なんであんなに強いのだ?」

 

愛紗「ああ、あれほどの武を持っていながら、なぜお主は山賊に捕らえられていたのだ?」

 

尤もな疑問である、一刀も手加減していたとはいえ、あれだけ闘えれば数人の賊くらいなら相手にならないはずである

 

美花「お恥ずかしい話ですが、私はあるお使いの為に東海を訪れていたのですが、その道中・・・・・////////」

 

梨晏「・・・・・?、どうしたの?」

 

華雄「ああ、はっきり言わなければ分からないぞ」

 

途端に口篭もり、頬を赤らめる美花に一同は頭に?を浮かべる

 

美花「はい・・・・・そのお使いの道中、真昼の昼下がりにお日様がとても気持ち良くて、道端で眠ってしまったのです、そして目が覚めたら・・・・・檻の中に居たのです/////////」

 

愛紗「はああああああ!!!??」

 

鈴々「それって只のドジッ子なのだ!!!」

 

要するに、居眠りをしている最中に賊に攫われてしまったという事である

 

梨晏「あはははははは♪♪♪なにそれおっかし〜〜〜♪♪♪」

 

華雄「お主、いくらそれなりの武を持っていたとしても、軽率も良いところだぞ・・・・・」

 

美花「ですからお恥ずかしいと言ったではありませんか〜!////////////」

 

自分でも間抜けな話である自覚はあるので更に赤面してしまう美花だった

 

雷々「でも、美花お姉ちゃんが無事で本当に良かったよ〜」

 

電々「うん、帰りが遅くて心配したんだよ〜」

 

愛紗「?・・・・・帰りだと?話の内容からすると、美花とお主達は知り合いだったということか?」

 

雷々「あれ?言ってないの?美花お姉ちゃん」

 

美花「言っていませんでしたか?私は桃香様にお仕えする前は、この徐州の前代刺史、陶謙様にお仕えしていたんですよ♪」

 

鈴々「ええええええええ!!!??初耳なのだ!!!」

 

愛紗「それでは、お主はどうして我々に付いてきたのだ!!?」

 

鈴々「そうなのだ!!お使いはどうなったのだ!!?」

 

美花「そのお使いというのは、陶謙様がお飲みになる薬の補充だったのですが、それも賊に奪われてしまいました・・・・・その後、桃香様達に助けて頂いたのですが、捕まって数日が経ってしまっていましたし、旅の途中で陶謙様の訃報を耳にしたのですが、助けて頂いたご恩もありますし、そのまま桃香様に付いて行こうと決めたのです」

 

電々「そうだったんだ〜・・・・・陶謙おばあちゃんも美花お姉ちゃんを心配していたよ〜」

 

雷々「でもでも、陶謙おばあちゃんは、受けた恩は必ず返す様にっていつも言っていたからね〜」

 

美花「はい、あそこで桃香様達に付いて行かなかったらきっと怒られていたでしょう・・・・・それにどんな因果か、桃香様は陶謙様の後を継ぎ、この徐州の刺史となられましたし、これもきっと陶謙様のお導きに違いありません♪」

 

そして、その後暫く一同はこの徐州の話に花を咲かせ、愛紗と鈴々はかつて一刀に言われた事を忘れ話に没頭していったのだった

説明
徐州拠点(パート2)
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コメント
非難することは大切。間違っているなら正しくしないといけない。しかし、非難される側からみたら嫌な人だと思われるのは当たり前。正しくし過ぎると人望を失う。石田三成も朝鮮出兵の際正しく違反を処罰したが皆んな彼が嫌いになった。それが敗因になった。一刀は乱世を止めて平和な世を創りたいそうだけど 嫌われたら意味が無いと思う(戦記好きな視聴者)
とどのつまり一刀の考えが完璧なんてあり得ないと言うことですね、説教洗脳マインドコントロールが正しいとしている彼には分からない、一刀は正しいと盲信している人には受け入れられないでしょうけど(禁玉⇒金球)
一刀の求めている人物像って、障害を悉く退ける力量(恐らく恋レベル)を持ちつつ、持った力に溺れず殺戮衝動に呑まれない心の持ち主って事かな?…もしそんな人物が仮に居たとしたら、その精神性は人間とは呼べない物な気がする、他人からしたら不気味でしか無いだろう…。(クラスター・ジャドウ)
一刀の英雄嫌い、正確には「人を死に追いやる者」を憎悪しているのは、案外自分もそれをやった事がある同族嫌悪の様な気がしてきました。だからこそ、一方的な視点でしか人を見ずに一方的に弾劾しているのではないかと。(h995)
もしもこの一刀君と衛宮士郎(アーチャー)を出会わせたら一体どうなっちゃうだろうな〜?・・・混ぜるな危険としか思えないや;(スターダスト)
一刀頑固すぎだろう^^;もう誰も一刀の考えを変える事はできないのかねぇ〜(nao)
痛いところを突かれましたね、一刀は。同時に、傷付けられる側の立場を忘れがちな「力を持つ側」の痛いところも突きましたが。確かに一刀の思想はあまりに完璧すぎて逆に大きな綻び、言ってしまえば血の通った温かみが感じられないように思うのです。理由がわからないから、理解されないとも言えますが。(Jack Tlam)
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阿修羅伝 恋姫英雄譚 恋姫†無双 北郷一刀 

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