異能あふれるこの世界で 第五話(前)
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【 長野・龍門渕系医療グループ某療養所】

 

善野「ん、来たか」

 

恭子「監督、お久しぶりです」

 

善野「監督か。まだそう言うてくれるんは嬉しいけどな」

 

恭子「あ、すんません。じゃあなんとお呼びしたら」

 

善野「そうやな……これ、次会う時のお楽しみにしようか」

 

恭子「は?」

 

善野「今日だけは監督扱いされても許されるやろ。監督っぽいこと、させてもらうからな」

 

恭子「あっ……療養中なのに私の我侭に付きおうてもろて、ホンマに申し訳ないです」

 

善野「言うても無理かもしれんけど、恭子が気にすることはない。こんなただの暇人でよければ、教え子が困っている時くらいは力を貸すよ。もっとも、今の私にできることなんて限られているけどな」

 

恭子「そんな」

 

善野「残念ながら事実や。暇を活かして直に教えてやりたいとは思うけど、施設の麻雀ルーム占領して付きっ切りで教えたとしても成果は出ん」

 

恭子「あかんのですか?」

 

善野「対戦相手がおらん。強うなるためには、段階段階で学んだことを試す場がいるんや。まあ他にもPCに制限があったり、ネット環境が悪かったり、タブレットが禁止やったり……環境が悪すぎて話にならんな」

 

恭子「なら、私はどうしたらええんでしょうか」

 

善野「……郁乃め。なんも言わんかったんか」

 

恭子「えっと、なんか言いましたか?」

 

善野「ああ、なんでもない。とりあえず、いくつか案はある。けど、まずは恭子がこれからどうしたいかを聞きたい」

 

恭子「どうしたいか、ですか」

 

善野「そう。例えば、これからずっと麻雀を打っていくとしても、何を目指して打つんか。どういう方向で実力を伸ばしたいんか。どのくらいの気持ちがあるんか。私がよう知っとった恭子から、どのくらい変わったんか。他にもいろいろ。なんでもいい。細かいことでもいい。じっくり聞かせてや」

 

恭子「なんか、恥ずかしいですけど、じゃあ今の気持ちから順に話していきます。ちょっと長うなるかもしれませんが……」

 

善野「元々、そのつもりでおった。見てみ、この景色。この辺で一番ええところを取って待っとった。ここなら、辛い話になっても、少しくらいは気が紛れるかもしれん思てな」

 

恭子「はは。なんでもお見通しなんですね……ああ、ホンマにええ景色ですわ。山の緑が優しゅうて、なんやもう泣けてきますわ」

 

善野「話す前から泣いてもうてどないすんねん。ああ、そういえば、倒れてからは恭子の泣き顔ばっかりを見とる気がするなあ。私がもっと頑張れとったら、こんな顔させんで済んだんやろか」

 

恭子「どうでしょうね……赤阪監督も、ようやってくれましたから」

 

善野「その言葉、郁乃に聞かせてやりたいなあ。私から言うてもええか?」

 

恭子「ええですけど、私も言うてますよ」

 

善野「あいつ、いっつも恭子が私ばかり慕っとるー言うて文句つけてくんねん。完全に思い込んどるから、たぶん何言われてても信じられんのやろ」

 

恭子「なんですか、それ」

 

善野「言うたら郁乃が怒るから黙っとくわ。さあ、私らの話は置いといて、恭子の話を聞かせてや」

 

 

 

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療養中の、あの人の元へ
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 麻雀 末原恭子 善野一美 

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