これはどこかの異世界の物語。

　あるところに、とても正直者な木こりがおりました。

　この世に嘘をついた者は居ないと言われているが、彼は世界で一番それに近い。そう人々に言われるほどの、嘘をつくことのできない超のつく正直者でした。

　ある日、木つこりが木を切っていたら、斧を振り上げた拍子に手が滑って斧を川に落としてしまいました。

　川に入って取りに行くこともできず途方に暮れていると、川の中から金色の音を持った女神が現れて木こりに尋ねました。

「あなたが落としたのはこの斧ですか？」

それを聞いて、馬鹿がつくほど正直な木こりは反射的に

「いえ、この斧ではありません。」

と答えました。

　すると女神は水中に消え、しばらくすると銀色の斧を持って現れて再び尋ねました。

「あなたが落としたのはこの斧ですか？」

それを聞いて、正直過ぎるこの木こりは

「いえ、この斧ではありません。」

と再びこたえました。

　再び川の中へと消えた女神は、今度は木こりの使っていた鉄の斧を持って現れ、尋ねました。

「あなたが落としたのはこの斧ですか？」

それを聞いた木こりは、

「そうです。それが私の斧です。」

と答えました。

「よく正直に答えましたね。褒美にあなたの斧に加えて、金色の斧と銀色の斧もあなたに差し上げましょう。」

　こうして3つの斧を手に入れた木こりは、自分の体験を村の人々に話して回りました。

　正直者な木こりは正直者故に、思わぬ褒美を手に入れ、家族は皆喜び、喜び、喜びましたが…

　この前日に川の上流で小規模の火山噴火があり、川には多量の硫黄分を含んでいたため、鉄の斧は腐食して使い物にならなくなりました。

　金色の斧と銀色の斧はしばらく無事でしたが、実は金色の斧は真鍮、銀色の斧は白銅で出来ていたため、最終的には同様に腐食してしまいました。

　それを聞いたもう一人の木こりは、家の物置に仕舞ってあった、歯こぼれし使い物にならなくなっていた斧を数本持って川へ行きました。

　これらの斧をゴミに出すには多額の費用がかかるためどうしようか日頃から悩んでおり、どうせ捨てるなら、金の斧と交換してやろうと考えたのです。

　この木こり、別に昔話でよく出てくるように特に嘘つき者や腹黒というわけでもなく、良くも悪くもそこら辺にいる一般人の木こりでした。

　この木こりは川にやってきて、斧を全て投げ捨てて女神が現れるのを待ちました。

　しばらくすると、

「あなたが落としたのはこれらの斧ですか？」

と、金銀の斧を数本持った女神が出てきて尋ねました。

　この木こりは、

「ああ、全部俺の斧だ。」

と答えて、全ての斧を渡すように要求しました。

　すると、

「あなたは嘘をつきましたね。あなたのような嘘つき者にはこの斧は渡しません。」

と言って女神は姿を消してしまいました。

　この木こりは金銀の斧をもらえなかったことを悔しがりました。しかし、最初の歯こぼれした斧も消えてしまったので、処理費用が浮いただけでも良かったと考えて満足して家に帰りました。

　こうして、正直者の木こりは手持ちの斧まで無くすという損をして、もう一人の木こりは、嘘をついたのにも関わらず結果的に得をしました。

　世の中、正直なだけでは渡って行けないということです。

　めでたし　めでたし