命一家8話〜かみさまといっしょ。 |
命一家〜8話〜かみさまといっしょ
【萌黄】
たまの休みにみきと遊ぼうかと思ったのに不在の件。
「ねー、命ちゃ〜ん。みきどこ行ったの〜?」
「お友達の子と散歩に行くっていってましたけど」
「うぇ〜…せっかく遊ぼうと思ってたのにぃ…」
ソファーにだらんっと力が抜けてだらしない格好でだるっとした声で
やる気を失っていると命ちゃんが私を見て微笑んでいた。
「ふふ、子供苦手だったのに。みきが生まれてから随分慣れた感じですね」
言われてみれば…。みきの友達とか遊びに来ていても普通に接することが
できているし、昔は苦手だったんだけどな…。今これくらいだったら
当時のマナカちゃんともう少し仲良くできていたかもなのに。
あ、でも今は普通に仲良くなれています。最初はお互いピリピリしていて
どうなるかと思ったけど。
「そっか、じゃあ今日は命ちゃんとイチャイチャする〜」
「もう、萌黄ったら」
「よーし、じゃあ私も混ぜてもらおうか〜」
隣に座っていた命ちゃんの膝に頭を乗せて甘えようとするとその近くから
私の顔を覗き込むようにして瞳魅も混ざってきた。
「邪魔するなよ〜」
「いいじゃん、別に」
「じゃあ今日は3人で何かしましょうか」
マナカちゃんも学校通うようになってからみきがいないと基本この3人で
休日を過ごすようになっていた。慣れたけどたまにイラッとする。
***
【儚(はかな)】
「儚ちゃーん、こっちこっち!」
私はみきちゃんに呼ばれて早歩きで近づいていく。体があまり丈夫じゃないから
元気いっぱいのみきちゃんに合わせるのはけっこう大変。
でも私に向けるその笑顔を見ると疲れも少しの間だけでもとれる気がして
ついつい、付いていってしまうのだった。普段は私達以外にも男子が一人いるんだけど
今日は二人きり。そのせいもあってか私のやる気もいつもよりみなぎっていたりする。
「だいじょうぶ?」
「う、うん…。みきちゃん元気いっぱいだね…」
「うん!」
荒れている息を整えながら私もがんばって笑顔で返す。
すると、みきちゃんは私の手を握ってきた。
「え?」
「こうしていれば歩きやすいかなって思って。もう少しだけ見て回ったら帰ろう?」
「うん…」
見て回るといっても周りは畑や田んぼだらけの何もない場所。
木々もたくさん生えていて自然はたっぷりなんだけどこれといって注目できる場所が
ないのに一体…みきちゃんは私に何を見せたいのだろうと不安な気持ちもあった。
けど、その天使のような笑顔に釣られて知らない所にまで来てしまったのである。
「あ、あそこ見てみよう」
「う、うん…」
みきちゃんが指を差した場所は細い道に雑草がいっぱい生えていて
いかにも人が来てませんよっていう雰囲気が漂っていて怖かった。
けどそんなことおかまいなしとばかりにみきちゃんは鼻歌混じり歩いて向かった。
当然、手を繋いでる私も向かうことになったのだけど。
人はいなくて寂しい感じがする古びた神社があった。
大きさはそれなりで人が出入りできるくらいはあった。
「誰かいますかー!」
そこにいきなり大きな声で言うみきちゃんに私はびっくりした。
「い、いるわけないでしょー…」
いたらお化けとかなんとか…私そういうの苦手なんだからぁ…。
いつも深めに被るように巻いてるマフラーを更に顔全体を埋めるように上げた。
するとさっきまで誰もいなかったのにすごくめんどくさそうな言い方で
返事が来ていた。
「なによー…」
「お姉さんここに住んでるの?」
「え、あなた私が見えるの?」
「ん? そうだよ」
み、みきちゃーん!?
相手の人が見えるの?って聞いてる時点でお化けかなんかだよぉ!
みきちゃんを連れて帰りたかったけど怖くて私はマフラー被りすぎたまんまで
話している相手を見ることができずにいた。
「へぇ、珍しい…というかお隣の友達。マフラーのお化けみたいになってるんだけど」
「儚ちゃんは恥ずかしがりやで寒がりやなのです!」
「なるほどね」
可笑しそうに笑う相手の人の声を聞いてると不思議と緊張感が少しずつ解けてきて…。
私は顔を出して正面を見ると着物を着ている綺麗なお姉さんが私達を優しい目をして
見ていたのを確認できた。
優しい人なのだろうか…。そんな疑念もみきちゃんの質問によって。
「お姉さんここで働いてる巫女さんか何か?」
「ううん。私、神様なの」
前言撤回、ただの変な人だった…。
でも綺麗な人だなぁって思った。綺麗に整っている白髪で陽の光に反射して
キラキラしていた。
あとここにいると何だか隣にみきちゃんがいて、声を聞くだけでいつもの
何倍もドキドキしているような気がした。
「あれ、はかなちゃん。顔赤いけど大丈夫?」
お姉さんに聞かれてどもりながらも返事をすると。
「ここ、女の子同士の縁結びの場所だからそういう子は好きな子の前だと
ドキドキしやすくなるんだよ〜」
私のことそういう風に見てるんだ…。いや、合ってるけど…。でも神様だとか
そういうご利益があるとか私は信じないから…!
とはいえお姉さんの言う通りの状態になってるから拒みきれずにいた。
「ここに来るまで私が連れまわしちゃったから疲れちゃったんだよね。
ごめんね、儚ちゃん…」
「う、ううん。そんなことない!私は嬉しいよ!」
「ふふ、若いっていいね〜」
私達を見て嬉しそうに…っていうよりニヤニヤしながら見ているお姉さん。
「だから今日はもう帰るね。また遊びにきます!」
「うん、待ってるよ」
そう言って私の手をとって帰ろうとする途中私は必死になってお姉さんに言った。
「こ、これはそういうのとは違いますから!」
聞こえただろうか、それでもお姉さんは優しい笑顔を浮かべながら私達に
手を振って見送ってくれたのだった。
***
それから何度か怪しい神社に通うものだから私は思い切ってみきちゃんに
嫌いになるよって嘘を吐いてまで行かせたくなかった。
私の言葉をそのまま信じて落ち込んでしまったみきちゃん。
私の中で悪いと思う気持ちが強くなっていって、もやもやしていた。
それから数日後、いつものように私がみきちゃんの家に着くと
家の前で知らない白髪の女性がジッと玄関の扉を眺めていた。
「あ、あの・・・不審者さんですか・・・?」
「え、違うよ。私はここに用事があったんだけど・・・、あれ貴女あの時の」
「え?」
帽子を深めに被ってTシャツにジーンズ姿に見覚えがなく、首を傾げていると
女性は苦笑しながら「ほら、神社の」って言った時に思い出した。
今目の前にいる人が同じ人物だとわからなかったのだ。服も全然違ってるし
長い髪も下のほうで縛っていたから。
「ス、ストーカー…?」
「もっと悪くなってる…」
「だ、大体場所も教えてないのに何でここがわかるんですか…!?」
「あぁ、みきちゃんだっけ? あの子の残り香辿ってきたの」
「えぇ…変態さん…」
「ち、違うから!匂いの方じゃなくて魔力的なものの残り香だから!」
「魔力って…私そんなファンタジーなの信じない方なので」
「くっ、こんな不思議な力が満載の場所にいて気付かないとか。逆にすごいわ」
褒めてるのかバカにしてるのかわからないような言い方をする神社の人。
私達のそのやりとりが中まで聞こえたのか中から出てくるみきちゃんと
みきちゃんのお母さん。
「あー、儚ちゃんいらっしゃ〜い」
みきちゃんは私を見ながらそういうと近くにいた女性にも目を向けて笑いかけていた。
「ひさしぶり〜」
***
【命】
初めて会った人を家へ招きいれるのは振り返っても一度もなかった気がする。
ただみきと顔見知りみたいだし、悪い感じがしないのと今日は萌黄もいてくれるので
何かあったら萌黄に頼めるということもあった。
「あー、初めまして。すみません、いきなりお邪魔しちゃって」
「いえいえ」
私はみんなの分のお茶を淹れてその人の向かい側に座って見つめる。
白髪でややラフな格好をしている。その中にあるのは優しい笑みと変わった雰囲気に
包まれているという印象。
「あの、みきが何か?」
「いやー、いつも娘さんに話し相手になってもらってるからたまには外でも
会いたいなぁって思っていて。あ、紹介忘れてました。私ここの神社の
神様をしていまして〜」
思い出したかのように女性はポケットに手を入れて何かの紙を取り出した。
まるで名刺を差し出すかのような動きに笑いそうになった。
神様と名乗って営業をしているように見せているせいだろうか…。
何かと判断し辛い部分は多いけど悪い人ではなさそうだった。
「えーと…鵜呑みにはできないことなので詳しい話を」
「ええ〜…」
私の反応を見て不安な表情をする儚ちゃん。
それもそうよね。一般人からしたらこういう人はすぐ追い出されるものだから。
でもあの子には言えないことだけど、ウチにはけっこう人外の人が来るもので…ね。
「儚ちゃんはみきと遊んでてくれる?」
「は、はい」
なるべく不安を和らげたいため、普段通りの笑みを浮かべて対応すると
ちょっと引っかかるという顔をしながらもみきと別の部屋に遊びにいってくれた。
「ごめんなさい、警戒させちゃって」
「あの…それで本当の目的は何ですか?」
何かごまかされてる感じがして嫌だったから単刀直入に聞いてみると
向かい合ってる女性はきょとんとした顔をしていた。
「言葉通りですよ。ランクとしてはかなり底辺にいる神様です」
「はぁ…」
「どういう神様かというと…恋愛関連のことをしていまして。女性同士専門の」
「え?」
予想外の言葉が出てきてびっくりした。女性同士専門とかそういうのあるのかと
思ったからだ。そんな私の頭を覗いたかのように彼女は一言付け足した。
「あっ、ちなみに友達に男性同士の恋愛成就させる神様もいますよ。
お互いに信仰を得られなくて参ってたところだったんです。
それでみきちゃんから話を聞いて、一度来てみたかったんですよね〜」
明るい口調でそう言うと隣にいた萌黄が興味津々で身を乗り出し気味で聞いた。
「何て言っていたんです?」
「ママ達、毎日ずっと仲良くて見ていて嬉しくなるって。
来てみただけでわかりました。これはとても良い上質な百合オーラに満ちていると!
あ、百合っていうのは女性同士の恋愛のあだ名みたいなものですが」
その言葉をみきが言ったのだと思うと口元がニヤけそうになってしまう。
嬉しくて、胸がいっぱいになるような気持ち。
それは多分萌黄も同じ気持ちなのだろう、すごく嬉しそうに頷いていた。
「で、もしよかったら。このおウチの隅っこでもいいのでウチの分社を
置いていただけないかと!迷惑はかけませんので!」
「それは…力を得るためですか」
いい話だけで終わるわけではないだろう。頼むからには何か言いにくいことの
一つや二つくらいありそうなものだが…。
「それも…ありますが。もう何百年も百合なエネルギーを味わってなかったもので…」
切実そうに話しているのを見てると少しかわいそうになってくる。
でも分社とかよくわからないから物知りな瞳魅さんに聞いてみないと何とも言えないかな。
私がそう考え込んでいるとまた別の声が横から入ってきた。
「命〜、いる〜? ラーメンつくってぇ〜」
堂々と玄関に入って私達がいるリビングに顔を出してきたみゅーずちゃん。
するとみゅーずちゃんを見た女性は一瞬誰だかわからなそうにしていたけれど
すぐに目を輝かせてみゅーずちゃんの手を取ってぶんぶん振っていた。
「貴女、ミューズ様ですか? キャー、外国の神様だ〜」
「え、何よあんた」
「あ、私近所に棲んでる百合の神様なんです。とはいっても今にも消えてしまいそうな
ほど人気ないですが」
「ふーん…」
素っ気無い反応をしたみゅーずちゃんは女性の手を振りほどくと私の傍まで
行ってから小さく囁くように一言。
「私のは後で作ってくれればいいから。いい返事しときなさいよ」
「え…は、はい」
それからみき達がいる部屋に消えてから私は少しの間考えて答えを出した。
本当はもっと家族と相談してから決めたかったけど。
今断るともう会えないような気がしたから…。
「いいですよ。ただよくわからないから教えてもらいながらになりますが」
「ええ!もちろん手取り足取りお教えします!そしてがんばってお仕事もします!」
女性は立ち上がりひとしきりはしゃいで息を切らせて、整えてからもう一度私の傍まで
来て手を握りながら。
「私、百合ノ香神社の百合ノ香ノ命(ゆりのかのみこと)と申します!」
「な、長い名前ですね…」
しかも最後の方私の名前と被るし…。と思っていると途中で飲み物を取りに部屋を出て
私達の方を様子見に来たみきが嬉しそうに話しに加わっていた。
「じゃあ、ゆりかお姉ちゃんだね」
「ちょっと、みき…」
「あら、いいお名前。よろしくね、みきちゃん」
「うん、よろしくー」
そう言って部屋に戻った後、百合ノ香ノ命さん改め。百合香さんは手を頭の後ろに
当てた後、私達にお礼を改めて言ってくれた。
「私の家は神社にあるので普段はそこで暮らしています。分社があるとここまで来るのに
直通で行けるようになるんですよね。一つあるだけでもランクも変わりますし、
みなさまの幸せに繋げられるよう、がんばりますね」
そうしてまた一人、家族とは違うけれど変わった人…?が知り合いに加わった。
生活にどう関わって変化するか不安もなくはないけれど害はなさそうだし
何より真面目そうだし、私と萌黄は彼女を受け入れたのだった。
そして今回のことで一番喜んでいるのはみきで、
終始困惑していた儚ちゃんにはちょっとかわいそうかなって思った。
続。
説明 | ||
探検が大好きなみきが向かったのは寂れた神社。 そこで不思議な人と出会って…? 人外多めのほのぼのシリーズ8話目。 |
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