おにむす!S 完結
[全1ページ]

「さて、礼を言うぞ。弱いあの子を守ってくれたな」

赤い目をした秋穂は矢崎の前で腕を組む、普段の秋穂からは考えられない不遜な態度である。

「あの子の意識の間で見ていたからな、お前のことはよく知ってるよ」

「秋穂じゃ、ないのか?」

恐る恐る聞く矢崎に少女はやれやれといった様子で首を振る。

「先ほど、そこに転がってる男が言ってたろ?アレは強すぎる力を抑えるために無意識下に作られた別人格だ、自分のことを主人格だと思ってたみたいだがな」

「じゃぁ、秋穂の前の父親を始末したのは?」

アリスも興味深げに口を挟む。

「正当防衛さ、人は自分と違うものに恐怖を覚える生き物だからな、受け入れない=いずれ消される・・・さ。お喋りはここまで、やることがあるんでね」

少女は背を向けて双波の方へ歩を進める。

「待て!!」

矢崎はその小さな背中を呼び止める。

体は反さず、視線だけで矢崎を見る。

「なんだ?」

「秋穂は・・・、どうなった?」

少女は口の端を吊り上げると、視線を進行方向に戻した。

「強いショックで寝てるだけさ、いつ起きるとも知れないがな」

少女は双波の前に立つ。

「姉さん・・・?」

双波の目に映るのは幼き日の姉の面影。

「私、姉さんの仇を取ったのよ?褒めてくれる?」

「何故、いつも一緒にいたのに、今この場であいつを殺した?」

「何かあれば真っ先に疑われちゃうもの、ここなら矢崎君に擦り付けられるわ・・・、だってそうでしょう!?私は仇を取って幸せになるの!!!」

少女が双波の頬を叩いた。

「姉さん?どうして?どうして褒めてくれないの?どうしてぶつの?」

「復讐に身を焦がすだけならまだいい・・・、自身の何一つを賭けずに人を殺したんだぞ!!甘ったれるな!!」

幼い少女からは想像も出来ない怒号が放たれ双波を襲う。

「ごめ・・・ん・・さい」

ぽろぽろと涙を流し双波が消え入りそうな声で謝っていた。

「すごい迫力だな、まるで年寄りの説教だ・・・」

アリスがボソッと呟くと少女がキッと睨みつける。

アリスはビクっと体を震わすとそのまま硬直した。

少女は何事もなかったかのように双波の手を取った。

「私の存在がお前の凶行に拍車をかけてしまったな、すまない」

「私は、姉さんの為なら・・・」

双波の腹部に激痛が走った。

「お前の罪は私が引き受けよう」

秋穂の爪が双波を貫いていた。

「あ・り・・がと・・・ねぇさ・・・」

震える手が少女の頬を撫で、ゆっくりと地面に落ちた。

「これで私も咎人だな」

少女は矢崎の下へと歩いてくる。

「すまないな、酷なものを見せたか?」

矢崎は無言で首を横に振る。

「お前は、優しいな・・・」

少女は矢崎を目線の高さにしゃがませる。

「あの子・・・、秋穂は大切か?」

「あぁ、大切だ」

「なら、私は大切か?」

矢崎は瞬間言葉に詰まった。

この子は秋穂ではない、むしろ秋穂はこの子を怖がっていた。

それを受け入れることが秋穂に申し訳ないという気持ちを駆り立てていた。

助けを求めるようにアリスを見やると真剣な眼差しで一回だけ頷いた。

自身の胸に手を当てて胸中で呟く。

(秋穂、お前はどう思う?)

心臓が大きく一回跳ねた。

自分の気持ちとそれらを統合して、少女の目を真っ直ぐ見つめる。

「大切だ、お前がいなけりゃ俺はいつまでも同じ場所で燻ってたんだからな、秋穂ともども大切な娘だよ」

「そうか」

少女は満足そうに矢崎の首に手を伸ばし唇を奪った。

「!?」

矢崎は慌てて少女を引き剥がす。

「な、なにを・・・!?」

「お・・・父さん?」

「秋穂?」

口調や雰囲気が柔らかくなった少女が顔を赤らめて立っている。

「秋穂なのか!?」

少女は首を小さく首を横に振った。

「もう一つの意識が私の中に溶けたのを感じた、だから私はあの子を含めた新しい秋穂」

「どういうことだ?」

「咎人の私に幸せは遠い、なら代わりに幸せになって欲しい。あの子はそう言ってた」

アリスがポンと矢崎の方に手を置く。

「教える前に人格の統合をやってのけるなんてやるじゃん」

「え?」

「二つの人格を受け入れて同時に愛してやること、それが統合の条件だったんだよ」

矢崎は目を丸くして驚いている。

そんな矢崎の背中をアリスは思い切り叩いた。

「いってぇ!」

「ほら、なんか言うことあるだろ?」

秋穂が何かを期待して待っている。

「・・・お帰り」

「ただいま、お父さん!」

説明
オリジナルの続き物 完結です
拙いところしか見えない作品ですが、支援してくれた方、コメントをくれた方、なによりも読んでくれた方へ
本当にありがとうございました!!

次作は甘々百合恋愛物を構想しております、機会があればよろしくお願いします
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コメント
>華詩さん 拙い文章に最後までお付き合いいただきありがとうございます! これからもちょこちょこと書いていきますので、よろしければお付き合いください。 もう一度 本当にありがとうございました。(瀬領・K・シャオフェイ)
連載お疲れさまでした。『おにむす!』楽しかったです。物語の終わりはやっぱりこういうのがいいです。最後の会話、矢崎は照れていて、秋穂は満面の笑顔で、アリスも優しく微笑んでいる。そんな場面が浮かびました。(華詩)
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