鳥姫
説明
酉年だなーと思いながら風呂入っている時に浮かんだお話です。
高橋葉介の『魔女の右腕』の影響があるかもしれない。



ある若い領主は、同じ年頃の美しい姫様を娶りました。
姫様の長く麗しい髪は、しばしば濡羽色と称されました。
けれど姫様はその誉められ方を嬉しくは思いません。
濡羽色とはカラスの羽の色のこと。
カラスなんて不気味で浅ましく、なにより鳴き声が汚らしい。そんなものには喩えられたくないのです。
幼子のように声音が高く、話すとまるで小鳥のさえずりのようだと言われる姫様は、自分でもその声を気に入っていました。
同じ鳥でも小鳥は嬉しくて、カラスは嫌でした。
やがて姫様は領主の御子を授かりました。
二人はもちろん、家族も臣下も皆が喜びました。
しかし身重となった姫様は肥立ちの悪さに悩まされました。
元から小鳥のように小食だった姫様は気分の悪さからますます食欲を失い、けれども栄養は確実に御子へと渡り、血色を失いやつれていきました。
おしとやかだった姫様はすっかりと心を病み荒み、以前はただ好きではないと思っていただけのカラスの声が嘲りのように聞こえて憎悪に駆られました。
そしてカラスのあの黒い羽。
栄養が足りずに美しかった髪が色艶を失い、急激に抜けていく。そんな恐怖を味わっていた姫様はカラスに嫉妬すら抱きました。
憎らしや、と姫様はカラスに石を投げました。
いくつも投げた石のうちの一つは、まだ飛ぶのもおぼつかない小さな仔ガラスに当たり、その命を奪いました。
黒い体から赤い血を流す姿に、姫様は我に返って申し訳なく思いましたが、もう遅かったのです。
姫様は気づけば、人間の肉体を失いカラスになっていました。
頭だけは姫様のままです。
カラスの黒々とした体に、姫様の真白いお顔が乗っているのです。
みんながびっくりしました。姫様もびっくりしました。
姫様が癇癪を起こしてカラスを殺したところに居合わせた者は、きっとカラスの祟りでしょうと言いました。
姫様の体は、お腹に宿った御子はどこに行ってしまったのでしょう。
さまざめと泣く姫様の涙に濡れて、今は姫様の体の一部となったカラスの羽は濡羽色にきらめきました。
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 カラス  

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