紫閃の軌跡
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〜リベール王国 グランセル城 謁見の間〜

 

西ゼムリア通商会議。エレボニア帝国・カルバード共和国・リベール王国・レミフェリア公国の国家元首クラスがクロスベル自治州に一堂に会し、今後の通商・経済のあり方をめぐる議論…というのは建前であり、今後のクロスベル自治州は無論のこと、その北にあるノルド高原も少なからずかかわってくる案件を話し合うであろう国際会議。その会議の前日に新庁舎の除幕式が執り行われるということで準備が慌ただしくなっている中、

 

「えと、申し訳ありません。仰っている意味が解りませんでしたので、もう一度お願いできないでしょうか?」

 

微笑む女王を眼前に対している一人の少女―――エリゼ・シュバルツァーは先ほど投げかけられた言葉に対して理解が追い付かず、思わずもう一度問いかけてしまうほどの狼狽ぶりであった。というのも、アリシア女王のその言葉というのは

 

「流石に急とは思いましたが、貴女には西ゼムリア通商会議の同行員をお願いしたいのです」

「………なぜ私なのです?」

 

エリゼの疑問は至極尤もである。この国の人間ならばいざ知らず、彼女はれっきとしたエレボニア帝国の人間。しかも皇族アルノール家の分家であるシュバルツァー公爵家の息女。更にはこの国に留学している身である。下手をすれば今回の会議は今後の関係に影響を及ぼすだけに、そのような火種の可能性になりえそうな自身を加えるのは非常にリスクの高い提案ともいえる。その疑問に対して答えたのは、アリシア女王の横に控えていたカシウス・ブライト中将だ。

 

「君を同行させるのはリスクが高いことは重々承知している。とはいえ、この忙しい時期に遊撃士協会の手を極力借りるわけにはいかない。腕利きの騎士も何人かは同行させるが、それ以上に君を両殿下の近衛として同行させるメリットもある」

「メリット、ですか?」

「リベール王国はシュバルツァー家ひいては皇族アルノール家に対して良好な関係を築いている証明を他国に示すこと。それが一番大きい。とはいえ、社交界にデビューしていない君のその役を担わせるのは心苦しく思うが……引き受けてくれるか? ちなみに、君を推挙したのは他でもない両殿下だ」

「………信頼されているならば、お引き受けしない理由がありませんね。未熟ではありますが、お引き受けさせていただきます」

「感謝いたします。ご両親には私から直々にご説明いたしますので」

 

エリゼ自身この留学に大きな意味があるのは理解している。しかも、その留学費用のすべてをアルノール家が負担しているという事実もある。二国間の関係改善という大任を任されている以上、無碍に断るのは印象を悪くしかねない。半ば諦めたような感じではあるが、自分が通っている学園の先輩らの推挙を含めた依頼にエリゼは深々を頭を下げた。

 

(正直驚きましたね。学園が夏休みに入ったので帰省しようとは思っていた矢先の依頼ですけど……兄様やソフィアとは休みが合わないでしょうし、父様や母様も『エリゼが決めるといい』なんて言われてしまいましたから)

 

自身の兄と双子の妹とはそれぞれ通っている学校が違う故長期休みの時期が異なるし、そもそも兄に至っては士官学校という特性上長期休みがない。ちなみに、この間兄がリベールを訪れていたことは知っていたというか、その際に態々休暇申請を出してリィンやその他の知り合いに会っていたことを思い出す。

 

来年社交界のデビューが控えている以上ここらで帰省してその辺りの礼儀作法も学ぶべきなのかもしれないが、知り合いに王族の人間がいるおかげからかその辺りの勉強に困っていないのも事実であった。そう思いつつ城内を歩いていると、エリゼに話しかける声が背後から聞こえて彼女は視線を向ける。

 

「エリゼ。まだ城内にいてくれたか」

「カシウスさん」

「先ほどはすまなかったな。急なお願いとはいえ引き受けさせてしまった」

「いえ、私は大丈夫ですが……どうかなさいましたか?」

「とりあえず、空いている部屋で話そう」

 

声をかけたのはカシウス中将その人。彼の導きでエリゼは適当な部屋に入った。周囲に人の気配がないことを確認すると、カシウスは白い封筒と一つの細長い袋をテーブルの上に置いた。

 

「えと、これは?」

「アスベルからの餞別だ。兄より一足先に“極式”に至った君からすれば色々複雑だろうが……」

「大丈夫です。兄様は少し足踏みしているだけで、きっと私の想像を簡単に超えてくれると信じていますので……開けても、よろしいですか?」

「ああ」

 

エリゼはまず細長い袋の封を開けると、その中に入っていたのは真新しい太刀。自分が今使っている得物では感じたことのないような不思議な力を秘めているのが納刀した状態でもわかるほどに。それはひとまず置いておき、封筒を開けると一枚の便箋があり、それに目を通したエリゼの言葉は

 

「私のような未熟者が“皆伝”ですか。とはいえ、実質的に“師範”みたいなアスベルさんに認められたのですから、より精進せねばなりませんね」

「やれやれ、若いころの俺なら負かされそうな実力を持ってもなおその謙虚さとはな」

 

“筆頭伝承者”であるアスベルには目録を渡すだけの力を持ち得ている。というのもその辺のこともユン・カーファイからすべて任されてしまったことには流石のアスベルも頭を抱えることになったのは言うまでもないことなのだが。それはともかく、エリゼはその祝いとして受け取ることになった新たな武器を手に取り、抜き放った。

 

「―――凄く軽く感じますね。それに、触るのすら初めてなのに凄く手に馴染みます」

「クラトス曰く『渾身の自信作』と言っていたからな。その武器で両殿下を……ひいては、己の信ずる大切なものを守ってほしい」

「はい。私の力がどこまで及ぶか解りませんが、護衛の任誠心誠意努めさせていただきます」

 

 

〜クロスベル自治州クロスベル市 クロスベル警察特務支援課ビル〜

 

それから時間は経過して同日の夜、特務支援課ビルの課長室もとい特務支援課主任室に集まっているメンバーたち。現メンバーであるロイド・バニングス、ランディ・オルランド、そしてワジ・ヘミスフィアの三人は先程まで高級クラブ『ノイエ=ブラン』にまで足を運んでいた。この面子の組み合わせからすれば『嫌がるロイドをランディとワジが共謀して連れまわした』とみられがちであるが、実際にはそうでない事実を支援課の女性メンバーは把握している。そもそもロイド自身の性格ゆえのこともあるのだが。なお、支援課で預かっている形となる身寄りのいない子ども―――キーアに関しては、流石に夜遅い時間ということもあってすでに寝かしつけている。

 

「ふむ、よもや<((赤の戦鬼|オーガ・ロッソ))>直々の呼び出しに<((血塗れの|ブラッディ))シャーリィ>をけしかけてくるとはな……大丈夫だったか?」

「まぁ、なんとかな」

「とはいえ、ランディのことだから図星をつかれて狼狽していただろうが」

「お、まさしくその通りだよ局長」

「お、おいワジ!」

「構わねぇよ、ロイド。つーか、アンタはエスパーか何かかよ。事実だったのは否定できねえけどな」

 

支援課主任のセルゲイに対して投げかけられた側のランディは誤魔化そうとしたが、支援課全体にとっての上司であるマリク・スヴェンド局長とワジの鋭い指摘をリーダーであるロイド・バニングスは諌めようとした。しかし、この場合の責は自らにあるのだとランディはその場で宣言するように言い放った。自らが情けなかったがゆえに今の状況になってしまったことは、他ならぬ自分自身の今までやってきたことに対しての結果なのだと言い放つかのように。

 

「まぁ、三人とも無事で何よりだ。お前が<闘神>を継ぐという話はともかくとして、収穫はあったみたいだからな」

「はい。実は―――」

 

ロイドはシグムントが少しばかり話した内容―――本人曰く『ビジネス』の話でありその詳細は秘匿事項ということで話はそらされてしまったが、その大まかな部分を報告した。

 

「そんなことが……」

「本当にとんでもない連中みたいですね」

「しっかし、そこまで仄めかすということは警察や警備隊を簡単に出し抜ける、という自信の表れかもね」

「……話を聞くに一億ミラ相当の報酬。その契約相手が帝国政府というのは話の流れからしてほぼ間違いねぇだろう」

「それと、明日から忙しくなると言っていたから……通商会議中に何かアクションを起こすことは確実だろうね」

「ふむ……その一億ミラ相当の依頼ということだが、ロイド。お前はどう思う?」

 

深刻そうな表情を滲ませるエリィ・マクダエルとノエル・シーカー、それに同調するように真剣な表情を垣間見せるルヴィアゼリッタ・ロックスミス。それに続くかの形でランディとワジは得られた情報をもとに現時点の確定事項を述べた。マリク・スヴェンドは真剣な表情を浮かべ、セルゲイはそれを聞いたうえでロイドに尋ねた。それに対して、ロイドは申し訳なさそうな表情を見せたことにいつもの彼らしからぬと、彼の近くにいたティーダ・スタンフィールドと執務机に座っているセルゲイ・ロウは首をかしげた。

 

「……ロイド?」

「局長に課長。確実に警察官らしからぬ発言をしてしまうことになると思いますが、よろしいですか?」

「ロイド?」

「ふむ…局長は?」

「構わない。ここでの発言で確定というわけではあるまいし、様々な可能性を捨て去るのは宜しくない。常に最悪を想定して動くのが治安組織を担うものの務めだからな」

「確かに……ロイド、話してくれるか?」

 

マリクの言い分も尤もである、とセルゲイは一息吐き……目の前にいるロイドに対し、発言の許可をした。これから彼が述べた発言の内容は……その部屋にいる誰しもを驚愕させることとなる。

 

「ありがとうございます。恐らく帝国宰相の護衛、というのは表向きの理由だと思います」

「表向き? じゃあ裏があるというのか?」

「ああ。以前局長がテロリストに関しての情報を俺たちに話しただろう? ……それと、以前レイアさんに猟兵のことをいろいろ教わったんだ」

「へ? アイツにか?」

「ああ。そこから考えた俺なりの結論は、もしかしたら宰相を付け狙うテロリストを排除するためなのかもしれない」

「なっ!?」

 

テロリストの殲滅。それを宗主国とはいえ表向き軍を動かせばテロリスト側とて気が付かないはずはない。そのために、裏側で強大な力をもって殲滅する力―――すなわち猟兵団への依頼。その推測を述べたロイドに対しての反応はといえば、驚きというほかなかった。

 

「で、ですが、そのようなことをすれば周辺からの批判が強くなる……って、待ってください。たしか、共和国政府も<黒月>と交渉していると言っていましたよね?」

「……同じような敵対勢力があれば、似たようなことを共和国がしていても何ら不思議ではないでしょうね。それに、“自治州法”には宗主国の権限を用いれば合法的にできてしまう条項があるのも事実……」

 

ロイドらがシグムントらと接触する前、遊撃士協会クロスベル支部にて“風の剣聖”アリオス・マクレインから共和国政府と<黒月>が交渉しているという情報を聞いたのだ。元々帝国と勢力を争っていた共和国にもそういった火種がないとは限らない。

 

「考えられなくもないってところがね。ロイドの推測も案外あたってるかもしれないし」

「うんうん、流石ろっくん」

「いや、あくまで推測だから……」

 

困惑や驚愕もさることながら、現在の自治州における状況を考えれば的外れともいえない。とはいえ確定要素がまだ足りない中での推測なのでロイド自身確証には至っていない。だが、それを聞いたマリクは真剣な表情を浮かべてロイドを見つめていた。

 

「えと、局長? その、失礼なことを述べてしまってすみません」

「いや、あの兄にしてこの弟あり、と思ってな。見事な洞察力だ……」

「ふむ。局長はどう考えていますか?」

「そうだな……概ねロイドの推測通りとにらんでいる」

「えっ……」

 

マリクの言葉にはロイドらは無論のこと、隣にいたセルゲイも真剣な表情をマリクに向けていた。治安組織のトップと同じ推測に至ったロイドの力もさることながら、それを前提としていることに警察の杓子定規からかけ離れている、と思うのも無理はないだろう。それを気付いたのかマリクはこう述べた。

 

「“鉄血宰相”と謳われるほどの人物だ。表向きは平民の人気を集めておいて、裏では情け容赦ない政策を打ち出す―――施政者としてないわけではないし、元々軍出身ということならばそういった権謀術数にも長けているだろう。その御仁が一億ミラという大金を投げ打ってでも猟兵を雇い入れるデメリットを打ち消すほどの大きいメリット―――この場合で言うならばクロスベルの完全支配とかな」

 

国家予算からすれば微々、ともいえるが一般大衆からすればかなりの大金。それをはたいてでも年間億〜兆単位のミラという金の卵を産み続ける鶏を自分の手中に収めることができるのならば一億ミラなど“一時の安い出費”と言えるのは間違いないであろう。

 

「叔父貴をよく知るアンタが言うと洒落にすらなってねえな……流石に突拍子もねえぞ」

「猟兵のあり方やかの御仁の経歴を調べた結果から述べた推測だ。ま、今の状況からいけば確定とは言えないが。ま、明日のオルキスタワー除幕式に参加してもらうこととなるからそのつもりでな」

「えっ!?」

「テロ対策や防諜は本来お前らの仕事じゃねえからな。ここいらで気を切り替えてもらうぞ。そのついでに各国の首脳らの空気を感じ取ってくるといい」

「あはは……」

「痛い所をつかれたな、これは」

 

とりあえずはお開きとなって明日のために就寝するメンバーたち。残ったのはセルゲイとマリクの二人……すると、扉を静かにノックする音が聞こえ、入室を促すと一人の女性―――レイア・オルランドが姿を見せた。

 

「すまないな、レイア。流石にここいらのことは現時点でアイツらに話すわけにはいかないからな」

「でしょうね。私にもあの権限を出したということはそういうことなのでしょうし……セルゲイさんはよろしいのですか?」

「ま、治安組織のやることじゃないとは思うが、汚れ役をやるのは今に始まったことではないからな。各所への連絡を取り持つ以上覚悟はしている。というわけで、局長」

「ああ。誰かが聞き耳立てても聞こえはしないだろうが、手早く済ませるか」

 

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というわけで、久々の碧の面子登場というわけですが……地味にロイドがパワーアップしています。推理能力もさることながら……まぁ、うん(遠い目) その辺は後々明かしていく予定はありますw

 

で、今回の章結構えげつないことしでかします。物理的・精神的・社会的という多方面からのデンプシーロールばりのラッシュを畳みかけます。誰にって?まぁ、それは、ね?(黒笑)結構言葉選びというか展開をどうするかは先駆者がいますので、変化球的な展開をしていく予定です。

 

 

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コメント
感想ありがとうございます。 ジン様 ある程度形になってはいますが、クラフトとしてどう進化させるかは未定なところはありますw(kelvin)
エリゼが言ったように個々のリィンは完全に陰の気を制御し更に原作以上の覚醒をらしいからそうしたらアスベルクラス条件次第ではそれ以上になるらしいからなぁ〜めっちゃ楽しみです。(ジン)
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閃の軌跡 神様転生要素あり ご都合主義あり オリキャラ多数 

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