紫閃の軌跡
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七耀暦1204年8月末―――現クロスベル市長兼IBC(クロスベル国際銀行)総裁ディーター・クロイスが発起人という形で実現することとなった西ゼムリア通商会議。この地方では初の多国間による国際会議であり、クロスベル自治州とそれを取り囲むように位置している四か国がこの会議に名を連ねている。

 

開催地であるクロスベル自治州からは共同代表であるディーター・クロイス市長とヘンリー・マクダエル議長。

 

北の医療大国『レミフェリア公国』より国家元首アルバート・フォン・バルトロメウス大公。

 

西の軍事大国『エレボニア帝国』より帝国政府代表“鉄血宰相”ギリアス・オズボーン、皇帝名代“放蕩皇子”オリヴァルト・ライゼ・アルノール皇子、そして“紅姫”アルフィン・ライゼ・アルノール皇女。

 

東の多民族国家『カルバード共和国』より国家元首サミュエル・ロックスミス大統領。

 

南の導力先進国『リベール王国』より女王名代クローディア・フォン・アウスレーゼ王太女と王国宰相シュトレオン・フォン・アウスレーゼ王子が出席。

 

いずれも国家元首クラスの面々が集う一大イベント。その中で一際目を引いたのはクロスベル上空を通過して国際空港に降り立ったファルブラント級巡洋戦艦『アルセイユ』とアルセイユ級巡洋艦『カレイジャス』。その二つの艦から降り立った四人の人物―――クローディア王太女とシュトレオン王子、オリヴァルト皇子とアルフィン皇女が挨拶を交わした。

 

「久しぶりだね、二人とも。それに、ユリア准佐にそちらの方々もね」

「以前は大変ご迷惑をお掛けいたしました。その恩はいずれ利子込でしっかりお支払いいたしますわ」

「相変わらずの調子で安心したと言うべきなんだろうか」

「あまり調子に乗ったらその時は遠慮なく言うといい。しっかり説教はしておこう」

「あはは……殿下共々お元気そうで何よりです」

 

積もる話はあるだろうが、四名は話もそこそこに同じく降り立ったアルバート大公のもとへと向かっていくのをアスベルは遠目で見送っていると、背後から声を掛けられた。それは自身にとって身内ともいえるエステルであった。

 

「行かなくてもいいの?」

「あっちのほうはレーヴェとカリンさんがいるから大丈夫だとは思う。三人はこれから支部のほうに顔を出すのか?」

「そういうことになるね。明日のスケジュールやアリオスさんといろいろ話さなきゃいけないし」

 

エステルとヨシュアの二人に関しては『遊撃士協会の要人警護』という位置付けでクロスベル支部の手伝いを行う手筈になっている。なおこの二人、“原作”では不明だがこの世界ではアリオスと一対一の勝負を行い双方ともに勝利を収めている。その影響にはまぎれもなくアスベルらがかかわっているのだが。

 

「つーか、『お茶会』で色々楽しんでたレンにしちゃ珍しいな。明日は槍でも降ってくるのか?」

「ふふふ……明日はいろいろ忙しくなるわけだし、それにルドガーの前でみっともないことはできないもの」

「エステルさんや、同性として一言」

「あー……ルドガー、頑張ってね」

「真正面から言われると結構くるなその台詞」

 

気まぐれな性格ともいえるレンが公式の場に立っているからかもしれないが、それを抜きにしてもかなり礼儀正しい対応をしていることに流石のエステルもうまく気の利いた言葉を返せなかったのが本音、というべきだろう。ルドガーの側にしてもレンの気持ちを知っているだけに下手な答えを返せないのだが。答えを出したら出したで世界がヤバいのも事実だが。

 

「さて、俺らはこのまま真っ直ぐ支援課ビルに向かうか」

「だな」

 

この二人の位置付け的には『護衛』という肩書になっているが、実際には遊軍に近い。ともあれ、時刻的には正午も近いので少し食材を買い込んでからビルに向かうことになっているのだが……その途中でちょっとしたことがあった。

 

 

〜クロスベル市 中央広場〜

 

「……よし、ロイド達でも呼んで連行してもらうか」

「何もしてないからね!?」

「恨みを変なところでぶつけるな」

「???」

 

アスベルとルドガーが丁度であったのは医師のヨアヒム・ギュンター。その実態は“転生者”の一人でもある。彼が幼い少女の手を引いて歩いていたので、声をかけた時のルドガーの第一声がそれであった。反論するヨアヒムに対して少女のほうは疑問符を浮かべているのが分かるほどに首をかしげていた。

 

転生前のヨアヒムもかなりモテており、その様相には流石のルドガーも『爆発しろ』と包み隠さず言い放つほどであった。とはいえ、人のことは全く言えなかったのは述べるまでもないのだが。

 

「この子は目が見えなくてね。今日の除幕式は友達と見たいということだったんだけど、シズクちゃんのお父さんはただでさえ忙しいからね。それで担当医であり偶々暇だった僕に白羽の矢が立ったわけさ」

「えと、シズク・マクレインといいます」

 

簡単な自己紹介をしたところでそこに近づいてきたのはキーアと警察犬のツァイト。三人と一匹(?)はそのまま除幕式を見ようとデパートに向けて歩いて行った。

 

「……てっちんも災難だわな。六人と関係持っちまうなんて」

「“も”か。違ってないからなお困る」

 

過ぎてしまったことというか、確定事項に目を瞑りたくともどうしようもないので二人はそのまま目的地である特務支援課ビルへと足を運ぶ。流石に新庁舎の除幕式ということでほとんどのメンバーはいなかったが、二人ほどビルに残っていた。

 

「―――お、どうやら頼もしい来客のようだ」

「誰かと思えばホームズ君にワトソン君じゃないですか」

「「おい、そこのド天然」」

 

特務支援課主任セルゲイ・ロウ、そして支援課メンバーであるルヴィアゼリッタ・ロックスミスの二人であった。ビルの留守を預かっているセルゲイはまぁ分かるのだが、なぜルヴィアゼリッタが残っていたのか……その理由は本人が述べた。

 

「今間違いなくお父さんの顔なんか見たら、いの一番でクレーターに仕上げちゃう自信があるからねー。キリカっちにはそう伝えてあるし。なのでルヴィアさんはお留守番なのですよ」

「実の父親に言う台詞じゃねーな、それ」

「十中八九今回の会議絡みだとは思うけどな」

「まぁ、大体合っている」

 

卓越した演奏技術、武術に関してはかつて『神童』と呼ばれるほどの実力。それに加えて父親譲りの聡明な頭脳や判断力を持ち合わせている。聞けば今夜の晩餐会にて演奏のお手伝いをするとのことだ。ただでさえ親離れしたい年頃なのに、素直にそうさせてくれないことにやきもきしているところがあるのも否定できないが。

 

「で、明日のスケジュール……ルヴィアはどっちの側に?」

「ルヴィアさんは<黒月>の担当をするのですよ。特に<銀>という人ですねー」

「てことだと俺はあの御仁相手か。そうなるとアスベルは“戦鬼”相手になりそうだが」

「俺ら以外誰もいないとはいえ、昼間に話す内容じゃないけれどな」

「時間の問題ではないと思うぞ、お前ら」

 

物騒な話をしていることは否定しない。ともあれ、そろそろ正午なのでルドガー主導のもとアスベルとルヴィアゼリッタが協力して三人で昼食づくりとなった。丁度完成したころにロイドら特務支援課メンバーが帰ってきた。

 

「ただいま戻りました」

「おう、おかえり。丁度昼食の支度をしてくれているから、準備するといい」

「完成したぞー。っと、ロイド達じゃないか。二日程だけどお世話になるぞ」

「ア、アスベルさん!?」

「って、その後ろにルドガーもかよ!?」

「なんだ“赤い親不孝者”。俺がいちゃいけねーのか」

「って、ルヴィアさんって料理できたんですか!?」

「なめては困るのだよクロエ君。天下無敵のルヴィアさんなのだよ」

「いや、誰だよ……」

 

ともあれそのままなし崩し的に昼食と相成り、その時間を使って今後の簡単なスケジュールをセルゲイが説明し始める。

 

「アスベル・フォストレイト、ルドガー・ローゼスレイヴの両名は特務支援課に一時加入。今日は支援要請の手伝いをしてもらう形となる。明日は局長らが二人を使いたいということでそちらに回される運びとなる」

「ティーダのことがあるとはいえ、こういった形で遊撃士の人に見られるというのは……」

「俺は気にしてないよ。ただでさえ莫大な人口を抱えてるのに遊撃士の数が圧倒的に足りない現状では特務支援課の助け自体ありがたいと思う。っと、クロスベル所属じゃない俺が言うのもなんだけど。そういや、ハルトマン元議長の絡みってあの後どうなりました?」

「ああ、あの件か。汚職とかの罪状の絡みで罰金が最低でも億単位という凄まじいことになってな。一応局長の執り成しはあったが、懲役で数年は確定とのことだ。迎賓館も没収され、今回の招待客の宿泊先となっている」

 

トップであったマルコーニ会長は現在も拘置所にいるが、<キリングベア>ガルシア・ロッシ以下の元<ルバーチェ>メンバーは警備隊司令であるレヴァイス・クラウゼルからの交換条件ということで現在は厳重な監視下のもと新たな裏治安組織という形で活動させている。そんな超法規的措置を宗主国である二国が追及することも想定しており、というかそうした直後には表に見えない圧力もあった。

 

だが、それはすぐに却下された。

 

理由は至極簡単。現在のクロスベルに下手に圧力をかければ、クロスベルと経済的繋がりが強く三大国の一角を担うリベール王国、そして医療関係でクロスベルと提携関係にあるレミフェリア公国からの非難を受けるのは確実。万が一鉄道の流通を止めたとしてもすぐれた航空技術を持つリベールからの取扱量が増えるだけ。キャパシティが足りなくなったとしてもその増発が可能な余地を残している状態。何よりクロスベルからの税収の恩恵を受けているエレボニアとカルバードが露骨な圧力をかけようものなら、それ即ち自らの首を絞めるのと同義。金の卵を産む鶏を自らの手で殺めるのは誰だって躊躇うことなだけに。

 

「へー、あのバカでかい屋敷がそんな使われ方してるのかよ」

「一度泊まったことはあるけど、紛れもなくVIP専用の屋敷と言ってもいいな」

「ひょっとして、この間クロスベルに来た時に?」

「ああ」

「なるほどな。そういや、ロイド達は国家元首クラスの面々を見たんだろ? 正直どうだった?」

 

ここにいるメンバーの中で今回の参加者をいちばん多く知っているのはアスベルに他ならない。彼が直接会ったことがないのはギリアス・オズボーンとサミュエル・ロックスミス、そしてディーター・クロイスの三人ぐらい。理由は下手に目をつけられないためでもあり、そのために記憶改竄やカシウス・ブライトに功績を上積みしたりとやってきたからだ。結果的にはその積み上げた功績の一部のせいで自らにも面倒事がのしかかってきているのだが。

 

「<鉄血宰相>の顔は雑誌で何度も見てるが、軍出身ということもあってか相当ガタイがいいな。オーラからしてもただものじゃねえぞ」

「ロックスミス大統領のほうは親しみやすい雰囲気は出てたな。ただ、隣にあのキリカさんがいるというのはただならないが」

「クローディア姫は本当に気品を感じられましたし、ユリア准佐もあの凛とした佇まいが素敵ですねー」

「そのそばにシュトレオン王子もいたけれど、あの立ち振る舞いは本当に隙がないねー。お付きの人も相当の実力者っぽかったし」

「オリヴァルト皇子だっけか。それとアルフィン皇女も実際には初めて見たな。パッと見似た者同士に見えたけれど」

 

各々見た目から感じられた印象を率直に述べていた。一部は原作よりも実力が磨き上げられていたためか、その言葉が非常に的を得た形となっていることにルドガーも感心した様子でその言葉を聞いていた。

 

「ティーダは気になった人物とかいなかったの?」

「んー? 強いて言うならシュトレオン王子の隣にいた女の子かな。パッと見る限りにおいてあの中にいた面々ではトップクラスで強いんじゃないかな、とは率直に感じたが」

「というと、黒髪の女の子か? いやー、あれは将来が楽しみだぜ」

「ランディ、貴方ね……」

「あー、こなをかけるつもりならやめておけ。義理とはいえあの子リィンの妹だから。というか、ランディ知ってて言ったよな?」

「へっ!?」

 

アスベルはティーダが気になった少女―――エリゼ・シュバルツァーのことを知る範囲内で話しておいた。これぐらい情報を伝えてもこちら側の不利になるようなことはないからだ。

 

「本来の筋ならばエレボニア帝国側のほうで出席すべきだろうが、リベール側が要請したんだ。念のため今回の出席者でもあるオリヴァルト皇子とアルフィン皇女には伝えてあるが」

「……なぁ、アスベル。あの嬢ちゃん二年前より強くなってる気がしたんだが、お前みたいなチートじゃないよな?」

「チートとかいうな。確かに十五歳という年齢からすれば異常だが、あの子は奥義皆伝―――“剣聖”の領域に達している」

「なんだか、若者の人間離れって言葉が真っ先に思い浮かんだんだが」

 

エリゼに関しては、元々武術を齧っていただけに素質はあった。だが、それ以上に彼女をそこまで押し上げたのは偏に……自身の出自にかかわること。自身の兄のこともあるが、シュバルツァー家そのものにかかわる部分もあった。

 

『―――お願いします。私を弟子にしてください!』

 

大分前ユミルを訪れた時―――リィンが例の力に目覚めたきっかけの時であった。流石に若すぎるということもあったのだが、それ以上にアスベル自身が歩んできた道と同じまでとは行かなくとも、それに近しい苦難の道を歩むことになる。だからこそ、アスベルも正直弟子にすることに抵抗を感じていた。ただ、生まれの親は兄と違えども頑固さは似てしまったようで、結果的にはアスベルのほうが折れる形となった。一応条件としては

 

『しかるべき時まで、八葉のきちんとした修行は行わない』

 

ということ。下手な負荷は身体や精神の成長に支障を来たすのはアスベル自身よくわかっていたからだ。これにはエリゼも渋々認めることとなった。あくまでも話自体内密……下手なことをすれば兄が不審に思うだろう。なので、日常生活の範囲内においてほんのちょっと強めの負荷を掛ける程度に留めた。

 

達人クラスならば力の配分を0か100の二段階ではなく、それらを100個以上のギアに見立てて変幻自在の剣速や身体捌きを引き出す……そこまでの動きができるのは本当に一握りの人物に限られるが。エリゼに留学を勧めたのも八葉一刀流の修行を心置きなくできる利点があったからこそであった。幸いにも数人ほど達人クラスの人間がいたという点も大きい。

 

「昼食会の後、招待客の中にはクロスベル各地を訪れる者もいるようだ。できればそちらにも気を配ってほしい」

「了解です。てなわけで、一時的とはいえよろしく頼むよ」

「実力的にレイア以上のお前さんにルドガーとか反則もいいところだろ」

「お前もその気になりゃ十分強いとは思うんだがな、“赤いバカ”」

「おう、喧嘩売ってるんなら買ってやるぜ?」

「はぁ、頼むから騒ぎはやめてくれ」

「同感ね」

「おうおう、さっそく惚気ですかー?」

「「ランディ!!!」」

 

慌ただしい二日間が始まろうとしていた。

 

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外伝〜静かな幕開け〜
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閃の軌跡 神様転生要素あり ご都合主義あり オリキャラ多数 

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