紫閃の軌跡
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〜クロスベル自治州 オルキスタワー〜

 

「―――それでは、これより『西ゼムリア通商会議』を行います。議事進行は私、ヘンリー・マクダエルが僭越ながら行わせていただきます」

 

そう挨拶をしたのはエリィの祖父にして現クロスベル自治州議会議長ヘンリー・マクダエル。今回の西ゼムリア通商会議の司会進行を取り仕切る。会議予定時間は5時間だが、場合によっては延長も想定される。その流れで今回の会議を保証するために同席しているオブザーバーの面々が紹介される。

 

「イアン・グリムウッド弁護士。周辺諸国で多大な功績を挙げており、また国際法・国内法に精通していることから本会議の開催に当たってオブザーバーとして参加を要請いたしました」

「はじめまして、ご紹介にあずかりましたイアン・グリムウッドです。どうぞよろしくお願いします」

「ほう、貴方がかの有名な『熊ヒゲ先生』とは」

「お噂はかねがね聞いております。人権問題にも積極的に関わっておられるとか」

 

法律に詳しい専門家としてイアンがオブザーバーとして参加しており、アルバート大公やクローディア王太女も面識があるほどに顔は広いことから適任と判断されたのだろう。

 

「そして遊撃士協会よりA級正遊撃士アリオス・マクレイン。こちらも国内外で多大な功績を挙げていることに加え、遊撃士協会という中立的立場から今回の会議を保証してもらうべく警備としてお願いをいたしました」

「アリオス・マクレインです。お見知りおきを」

「ハハ、君がかの<風の剣聖>だったか。噂は共和国でも耳にしておるよ」

「帝都でもたまに聞きますな。かのクロスベルの地に風を纏う剣聖ありと」

 

VIPの警護と遊撃士協会の中立性より会議の保障を担うべくA級正遊撃士であるアリオスが呼ばれている。さらには、

 

「さらに、今回の会議の正当性を保障してもらうべくアルテリア法国より特使が派遣されております」

「ライナス・レイン・エルディールと申します。若輩者ではありますが、今回の会議に際して法王猊下の特使という形で参加させていただきます」

「貴方が特使とは、これは心強いですね」

 

確かに見るからには二十代ぐらいの風貌なのだが、これでも参加者の中ではオリヴァルト皇子よりも年上であるライナス。彼と顔見知りである一部の会議参加者は思わず笑みを零すほどであった。

 

その会議の様子を36Fの渡り廊下のガラス越しに見ているロイド達。アリオスが会議に参加していることは聞いていたが、イアンが参加していることに加えてライナスの存在にも驚きを隠せなかった。

 

「アリオスさんは聞いていたけれど、イアン先生まで呼ばれていたなんてな。それに、ライナスさんがアルテリアの特使だなんて」

「ロイド、知ってるのか?」

「その言い方からすると、ランディも?」

「ああ。あの御仁は<百日事変>の最終メンバーの一人だ。実力はレヴァイスのおっさんと互角以上じゃねえかと思う」

「俺の場合はとある縁で偶然一緒に行動することがあってね。ランディの言う通り実力はかなりのものだよ」

 

ランディは<百日事変>、そしてロイドは<影の国>にて一緒に行動していたことがある。それはともかくとして、イアンが呼ばれた理由は簡単。今回のような国際会議では様々な協定や合意が交わされることとなるが、その際に既存の国際法・国際慣習法に照らし合わせて妥当かを判断する必要がある。そういった意味での法律のエキスパートとしてのオブザーバー参加ということだ。

 

「いずれにせよ、会議内容は我々の関知するところではない。お前たちは予定通り34Fから36Fの各フロアの巡回を頼む。何かあれば連絡するがいい」

 

そう言ってその場を後にしたダドリー。そしてロイドらもその場を離れて各階の巡回を始めた。まずはVIPフロアの36Fの東側最奥の部屋―――オズボーン宰相の控室にいたレクター・アランドール特務大尉。そして35F西側控室にいたキリカ・ロウラン。この二人については話をはぐらかされた感じで終わったものの、ある程度の警備協力はできるという話を通せただけでもよしとしつつ、反対側の東側控室―――エレボニア帝国とリベール王国の護衛が控えている部屋に入った。

 

こちらも現状に関しては特に問題はないとしつつ、警戒は緩めないという答えが返ってきた。そして次は34F。まずはここの報道関係者控室に足を運ぶと、ロイド達にしてみれば腐れ縁に近い人物―――クロスベルタイムズの報道記者グレイス・リンがとある人物と会話していた。

 

「って、あら? ロイド君達じゃない。貴方達も会場の警備に?」

「ええ。詳しいお話は流石にできませんが」

「むー、それは残念ね」

「あからさまに残念そうな表情を浮かべないでください」

 

今回は国際会議ゆえ様々な秘密事項も少なからずある。それがどこにあるかわからないのでうかつに話すこともできないのだが。するとグレイスと話していた男性が顔見知りに気づいて声をかけた。

 

「お、見た顔がいると思えばフュリッセラ技術工房のお嬢ちゃんにランディじゃねえか」

「えと、貴方は確か以前リベールで……」

「誰かと思えばナイアルのおっさんじゃねえか。あのお嬢ちゃんは一緒じゃねえのか?」

「おっさん言うな! ドロシーに関しては別の場所の取材に行ってもらってる」

「って、知り合いなの?」

 

リベール王国の報道記者ナイアル・バーンズ。昨年最も優れた記者に贈られる『フューリッツァ賞』を受賞した片割れだ。もう一人はグレイスをはじめとした他の記者から『天才』と謳われたカメラマンのドロシー・ハイアット。

 

「先日の事件の話は少しばかりエステルやヨシュアから聞いていたが、その功労者があの二人とそんなに年が変わらないぐらいの連中だったのには驚きだ」

「いや、それほどでもないですよ」

 

その後ナイアルやグレイスからは共和国方面の動きを少しばかり聞くことができただけでもよしということとなり、次は特務警護隊の控室に入ると見知った人物がいた。

 

「って、あら? 支援課の面々じゃない。ティオちゃんも戻ってきたのね」

「はい。お久しぶりですミレイユさん」

「しっかし、馬子にも衣裳と言うべきか。なんだかんだ似合ってるじゃねえか」

「お、大きなお世話よ!!」

「あはは……(ランディ、解っててやってるのだろうか……)」

 

ランディとミレイユの傍から見れば微笑ましいやり取りに周囲の人々は苦笑を浮かべたが、ひとまず現状を確認することとした。

 

「それは置いといて、今のところの動きは?」

「ここの警備はもとよりベルガード門、タングラム門双方に今のところ異常はないわ。まぁ、あの司令のことでしょうから何が来ても追い返しそうではあるけれど」

「あはは………」

「それにしても、そこまで緊張しているというふうには見られないね」

「あー……あの『教団』の事件後、新司令のもとで3週間みっちりサバイバル訓練漬けでね。その時置かれた状況に比べたらかなりマシなぐらいよ。まぁ、私や他の隊員に対しての訓練はそこのバカよりまだ優しかったけれど」

「それは比較すんな。ったくあのオッサン、ガチで潰しにかかってきやがって」

「というか、ランディさんの場合は怠け癖があるから、あえて本気を出させるためにそうしたのではと思いますが」

「ぐっ、否定できねえ」

 

それはもうリハビリの領域すら超えた先の鍛錬。その結果が約一か月後の『演習結果』に繋がり、警備隊全体の向上意欲の底上げに繋がったのは言うまでもない。その煽りを受ける形となったランディであるが、半分自業自得であるというティオの言葉に押し黙るほかなかった。そこにどのような事情があるのかはロイドらとて知る由もないし、今の警備隊司令も同様なのだろう。だが、これから迫り来る状況に対して甘えてなどいられないとランディ自身感じていた。

 

「こちらは司令から一通りの指示は受けているから、何か動きがあれば遠慮せずに連絡するわね」

「ええ、助かります」

 

これでひとまずは一通りの巡回は終えたものの、未だテロの兆候は見えず。そのことも気にかかるが、

 

「…会議のほうはどうなっているかしら」

「そうだな。市長や議長が頑張っているとは思うけれど」

「問題は<鉄血宰相>とロックスミス大統領の二人ですね」

「ま、休憩時間になったら誰かに聞けばいいんじゃないの?」

「だとすると、一番聞きやすそうなのは……イアン先生あたりか」

「だな」

 

そして会議の前半が終わり、各国首脳の合同取材が行われている同時間、先に休憩に入ったイアンと改めて話をする機会が得られた。その際にロイド達が今回の警備に参加する経緯を少しばかり説明はした。ただ、マリクやレヴァイスの動きに関しては本人らから釘を刺されているために口にしていない。

 

「そうか、君たちが警備に参加したのにはそういった事情があったのか」

「ええ、正直気休め程度にしかならないとは思いますが」

「いや、市長暗殺を未然に防いだ大金星を挙げた君たちだ。この場にいてくれるだけでもありがたいことだよ」

 

確かに気休めかもしれないが、ロイドらとて幾多の場を潜り抜けてきた実力を併せ持っている。何より当時の市長暗殺を防いだという実績は無視できるようなことではない。そういった意味でも『誰かがいる安心感』は大きいのだとイアンは口にした。

 

「それで先生、会議のほうはどうです? さほど荒れたような印象は見受けられませんでしたが」

「ああ、今のところは概ね順調だよ。いくつかの通商協定には各国の合意も得られたし、ディーター市長の呼びかけも無駄にはならなかったようだね」

「そうですか……」

「それはちょっと安心ですね」

 

元々リベールとクロスベルの間で長年培ってきた経済協定を発展させた形とはいえ、幾つかの通商協定に合意を得られたのは会議としての成果は十分。だが、含みを持たせるようなイアンの言い方に引っ掛かりを感じたワジが問いかけの言葉を投げかけた。

 

「しかし、“今のところ概ね”ってことは……何か気にかかることでもあるのかな?」

「うむ。オブザーバーである私の口から言うのもなんだが……前半は殆ど経済関連の議題―――主に通商・金融の議題だったんだ。しかし、会議の後半は各国首脳からの議題提起。しかもどうやら、クロスベルの安全保障に関する議題が出るらしい」

 

今回の会議の議題予定は法律の観点からオブザーバーであるイアンにも少なからず伝えられている。その仔細までは解らないが、後半の議題は各国からの提案議題―――クロスベルの安全保障に関わる議題になるであろうと呟いた。これにはロイドらも驚きを隠せない。

 

「安全保障ってことは、軍事の話も入るってことか」

「で、でも、二年前に締結された<不戦条約>もありますよね?」

「あれは当時のクロスベルの危機的状況を回避するためにリベールのアリシア女王陛下とレミフェリアのアルバート大公閣下が共同提起したものだ。とはいえ、そこまでの法的拘束力を持っていないのが現状であり、それに代わる新たな安全保障の枠組みが求められているのは確かでね」

 

確かに<不戦条約>の調印式の際、クロスベル自治州代表として当時市長であったマクダエル議長が招かれ、各国首脳と肩を並べる形で存在感を示しはした。だが、クロスベルはあくまでも『自治州』であり、その枠組みの中にクロスベル自治州は含まれていない以上完全な法的拘束力を発揮できていない、とイアンは述べた。

 

「…確かに、それは祖父も懸念していました。危機的状況は回避できたとはいえ、未だに火種は燻っていると」

「なら、クロスベルを加えた新たなる条約を……あっ」

「ティオっちの思った通りだ。クロスベルは『国家』じゃない」

「ああ。エレボニア帝国とカルバード共和国の二国によって成立している『自治州』でしかない……」

「そう。自治州は国家主権を持たない。それを持っていないが故に二年前の<不戦条約>にも調印できていないのがこのクロスベルに置かれた現状なんだ」

「そんな……」

 

国家主権に近しい人物を知るエリィやティオはすぐに理解できたことだが、このクロスベルを取り巻く現状が安全保障の土台すら危うくさせてしまっているという状況に繋がっている。経済的な『協定』は結べても、国家主権が絡む『国際条約』に参加することはできない。

 

例外はある。一部の自治州―――例えば、オレド自治州・ノーザンブリア自治州・レマン自治州などの自治州・自由都市はアルテリア法国より国家主権を移譲される形で一つの国家としての主権機能を成している。だが、クロスベル自治州は本来ならばありえない『二つの宗主国』を持つ歴史的背景がある上、この地のもたらす利益を手放すという選択肢など持ち合わせていないのが現状だ。それが故に様々な『悲劇』を生んでしまったことも。

 

「少し話が逸れてしまったね。どうやらオズボーン宰相とロックスミス大統領、それとシュトレオン宰相はそれぞれ安全保障に関する提案があるらしい。シュトレオン宰相のほうは解らないが、前者の提案に関しては対等な条約を各国が結ぶものではないだろうと市長や議長らは警戒を強めているだろうね……っと、すまない。不安にさせてしまったね」

 

西ゼムリアの“三大国”―――エレボニアとカルバードに加え、リベールまでクロスベルの安全保障に関する議題提起を行う。それがいかなる意味を持つのかということはロイドらも薄々は理解していた。その後、イアンからはディーター市長が何やら腹案があるらしいとのことだが、その仔細はイアンですら解らないとのことだ。すると突如ロイドのENIGMAUが鳴りだし、一言断って通話に出る。

 

「はい。こちら特務支援課、ロイド・バニングスです」

『―――バニングス。こちらは今記者会見が終わった。お前たちは今どこにいる?』

「あ、はい。34Fの休憩室ですが。…何かありましたか?」

『実は、オズボーン宰相とロックスミス大統領、それにシュトレオン宰相からそれぞれ申し入れがあった。―――休憩時間中に、お前たちと直接話がしたいそうだ』

「……えっ、それは本当ですか!?」

『ああ。相手が相手なだけに断ることもできん』

 

ロイドの通話相手はダドリーであった。そして彼から伝えられた内容に流石のロイドも驚きを隠せなかった。まさか先程会話の中に出てきた三大国の首脳やそれに準ずる人物が特務支援課の面々と話がしたいなどと夢にも思わなかったことだが、その該当人物に近しい面々が浮かび、ロイドは一息吐いて真剣な表情を浮かべた。

 

「―――解りました。首脳達はどちらに?」

『36FのVIP控室だ。左翼の最奥がロックスミス大統領、その手前がシュトレオン宰相とクローディア王太女、そして右翼の最奥がオズボーン宰相となっている……てっきり狼狽えると思えば、切り替えが早いな』

「それはもう、ダドリーさんをはじめとした捜査一課の皆さんに鍛えていただきましたので」

『フッ……何かあればエリィ嬢を頼るといい。VIP相手の経験は慣れているはずだ。話が終わり次第報告に来い』

 

そう言って通信を切ると、さっそく尋ねられたのでロイドはダドリーとの通信で休憩時間中に各国首脳から話がしたいという申し入れがあったことをイアンと他の面々に伝えた。

 

「“三大国”のそれぞれから申し入れが来るとは……特務支援課の名はそこまで知られているということか」

「いえ、それぞれ近しい人に知り合いがいるんです。それで興味を持たれただけなのかもしれませんが」

 

ともかく休憩時間も限られている。動くのならば早いほうがいいということに加え、エレベーター方面が立て込んでいたため、階段に近いところを考慮してロックスミス大統領、シュトレオン宰相、オズボーン宰相の順で訪問することとした。

 

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会議の前半部分はまだ穏便な進行です、はい。

圧縮した感は否めないですが。

 

ダドリーとの通話では原作ならば狼狽えているシーンなのですが、ロイドも成長しているというところを示したかったので、思い切って改変しました。本人自身『得体の知れない力』を保持している以上、それと向き合いつつ成長していっている感じですね。そして、この力でとんでもないことをやらかす予定なのですが……気が向いたら外伝にて書く予定です(メインはあくまでもリィン側ですので)

 

そして、ガレリア要塞絡みのほうもちょっとテコ入れしてみようかなと思います。敵のほうはちょこっとテコ入れしてるので味方側にスポット参戦させます。

ヒントは『覚えている限りにおいてPC側で操作できていないキャラ』

でないと、原作にちょこっと描写書き足した程度になってしまうためですw

 

あと、この後の進行としては

 

通商会議→テロリスト絡み(タワー・ジオフロント)→列車砲(ガレリア要塞)→ジオフロント戦闘後(オルキスタワー)

 

の流れとなりますのでご了承ください。

 

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外伝〜西ゼムリア通商会議@〜
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