模型戦士ガンプラビルダーズI・B 第51話
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 ツチヤ達のかつての仲間のチーム『ライオン・ハート』これらを下したアイ達はいよいよノドカ達との決勝戦を控える。が、それを祝ってくれると思っていた幼馴染の言葉はアイを拒絶するというあまりにも冷たい反応だった。

 

 

「ねぇ……ノドカ、どうしたの?変だよ」

 

 ノドカの叫びにアリーナ中の空気は凍り付く。さっきまで賑わっていたのが嘘のようだ。広大なアリーナだが、ノドカの叫びはそれを全て黙らせるほどの大きな叫びだった。

 アイはそれを非常に複雑そうな表情で問いただす。拒絶されたショックやそれを認めたくない気持ち。そして「何故」という疑問、それが絡み合った心境の表れだった。

 

「自立……したいんだよ……アタシは、今までアンタを引っ張ってきたつもりだった。アタシがいなきゃアンタは駄目だってずっと思ってた。アンタにガンプラを教えたのアタシじゃん。

アンタにガンプラバトル誘ったのアタシじゃん……。アンタいなくなって気づいたんだよ。アタシが引っ張っていたんじゃなくて、アンタに引っ張られていたなんて」

 

「ノドカ……」

 

「受ける。受けるよな……。アタシは寂しい思いをしてたっていうのに、アイは引っ越してあっという間に友達見つけて、あっさりチームも組んで、自分ばかりいい思いしてたじゃん。そりゃアンタがいなくなった後にアタシ、アンタとまたガンプラバトルしたいって思ってたけど、本当は……ミジメになるんだよ。お前見てると……」

 

 俯きながら、ノドカは下唇をギュッと噛みしめる。さっきの言葉に説得力を持たせる動作だった。しかしアイにはそれが本心なのか解らない。自分に対してこんな事を言う事は今までなかったからだ。

 

「今改めて言わせてもらうぜ。アイ、いやチームI・B、決勝ではお前らを叩き潰す。手加減なんざ最初っからするつもりはねぇ」

 

「て・手加減しないのは当たり前じゃない。でも競うからには楽しくやりたいよ。私とあなたの仲じゃない。ねぇノドカ、そんな変な事言わないでよ」

 

「うるせぇな。……関わりたくねぇんだよ!お前なんかと!」

 

「っ!!」

 

 関わりたくないという言葉にアイは固まる。絶望を現した様な表情だった。

 

「ノドカ……あんた何考えてるのよ」

 

 芯が抜けた様によろけたアイを、ナナが支えながら問い詰める。彼女もノドカの反応に納得がいかない様だった。

 

「ナナ……別に普通の事だろうが、どれだけ仲が良くったって、競い合ってるんだぞアタシらは、トーナメントじゃ潰しあいになるんだからな」

 

「アンタね。んなギスギスした決勝なんてこっちから願い下げよ。こっちは楽しむ事だって目的なんだから」

 

「ハッ!受けるわ!お前自分の実力解ってんのかよ!あんなチンケな実力でアタシと部長達には絶対に勝てねぇ!」

 

「……!」

 

 その発言にナナは言葉を失う。自分の実力がアイに大きく劣るのはその通りだから。それを後ろで見ていた太った部長、ノゾムとユメカが見ていられないとばかりにノドカを止めようとする。

 

「ノドカ!いい加減に……」

 

 だがそれより早く、一人の人影が素早くノドカの前に躍り出る。そして……

 

 パンッ!!

 

 乾いた強烈な音が響いた。躍り出たのはマコトだ。彼女が無言でノドカの頬をひっぱたいたのだ。それを見ていたアイの関係者全員が固まった。

 

「バカじゃないの?ノドカ」

 

「マコト……」

 

 ノドカ自身ぶたれた事を理解するのに少しの時間を有した。最初は茫然としたノドカだったが、ノドカの顔はまた不機嫌そうな顔に戻る。

 

「ハッ!だ・大好きなアイを馬鹿にされて悔しいってか?よかったな。もうアイはアタシには必要ないからお前らにくれてやるよ」

 

 ノドカの挑発にマコトは表情を変えない。それどころか憐れんだ表情で言う。

 

「友達を物呼ばわり?アイ先輩はどうやらあなたを買い被ってたみたいですねぇ。こんなバカ丸出しな行動を取る上に、思いやり一つ持てないなんてね」

 

「なんだと!」

 

「バカだって言ってるんですよ!自分勝手で!臆病で!」

 

 売り言葉に買い言葉。興奮したノドカはマコトの胸倉を掴む。直後にマコトはノドカの髪を引っ張る。お互いが本気になってるのはすぐに分かった。もうキャットファイト直前だ。

 

「ちょっと落ち着け!二人とも!」

 

「やめて欲しいっス!!大人げない!」

 

 ツチヤがそれを遮りノドカの方を引っぺがす。それに続いてソウイチもマコトの方をひっぺがした。女二人は手首を掴まれた状態だ。ソウイチの方は女性に免疫がないらしく少し頬を赤らめてる。

 

「少年。照れがあるぞ。彼女の怒りを鎮めるには胸を揉m「ユメカ」

 

 ユメカの言葉を鬼の様な形相で遮るノゾム。対して接点のないナナ達ですらゾッとする怖い声だった。ソウイチはマコトといい、ユメカがどうも苦手だった。

 

――このマコトさんといい、ユメカさんといい、どうも下品なオーラが出てるっス……――

 

 とまぁ、そんな事はどうでもいいとして、だ。どうにかツチヤは二人をなだめようとする。

 

「何があったか解らないが、落ち着くんだ二人とも。少し時間を置いて、三人で話し合った方が……」

 

「今更善人面すんじゃねぇよ!サブロウタ!!」

 

 聞き覚えのある声が響く。と同時に誰かがツチヤの横に体当たりをかました。

 

「うわ!なんだ!」

 

 そのまま横倒しになるツチヤとノドカ。倒れこんだ拍子にツチヤはノドカの手を放してしまう。女の子相手に力を込められないと少し手を緩めていたのが災いした。倒れるとすぐさま体当たりをしてきた相手を見る。よく知った顔がそこにあった。

 

「セリト!?お前!」

 

 かつてのツチヤの友達だった男。カモザワ・セリトだった。彼はもう倒れたノドカの手を引いてその場を離れようとしていた。

 

「別にいいだろ?俺たち以外にもう一組位縁を切るような友達がいたってさぁ」

 

「お前がやったのか!お前が彼女に妙な入れ知恵を!」

 

「……あばよ!」

 

 質問に答えずにセリトはその場を後にしようとする。後を追いかけようとするアイ達だったが、走っていくノドカとセリトの後ろ、ツチヤ達の前を何人もの違法ビルダーらしき人物達が壁の様に遮る。その中にはテツとヤスもいた。

 

「あんたら!どけよ!」とソウイチ。

 

「そういうわけにはいかねぇ。俺たち新世代ビルダーのやる事だ。旧世代は黙ってみていやがれ」

 

「そうさ。俺たちの趣向返しも兼ねているからな」

 

「あ?趣向返し?」

 

「そうともさ!お前らの所為であの時俺たちは地獄を見た!俺達はなぁ!大学のレスリング部の合宿に強制的に連れていかれて!雑用と朝から晩までのトレーニングで死ぬ様な目にあってきたんだぞ!(44話参照)」

 

「マツオの奴が言ってたな。合宿に違法ビルダーの奴らを更生の為に雑用で連れて行ったって」とヒロ。マツオとは一度一緒に戦って以降、会う機会が増えたらしい。

 

「てめぇら!中高生だろうが!いまだにやっていい事と悪いことの区別もつかねぇのか!」とブスジマ

 

「なんとでも言いやがれ!あの女は俺達の側へついた。俺達は高みの見物だぁ!どうなるか見物だなぁ!」

 

 そう言って頃合いだと言わんばかりに一目散に違法ビルダー達は逃げて行った。最初から時間稼ぎの為に出てきたらしい。

 

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 違法ビルダー達が引き揚げた後、ブスジマやノゾム達を含めたナナ達はノドカを探しに、室内、屋外を問わずアリーナの敷地中を探し回った。時刻はちょうど昼。真夏の太陽はそんな中を容赦なく照り付けた。動くだけで汗が噴き出るも気にせず、外担当のソウイチ達男子は一心不乱に探し回る。しかしやはりというかノドカもセリトも姿は無い。

 しばらくして全員が玄関口で集合する。

 

「いたっスか?」

 

「ううん。てことはそっちもか」

 

「やっぱり帰っちゃったんでしょうね」

 

 アリーナの玄関口で合流したナナ達は結果を報告しあう。ナナはエントランス内のベンチに座ったアイに目をやった。座ったアイは未だにうなだれていた。近くにはカナコが寄り添っている。相当ショックだったらしい。

 

「よぉ、観客席から見てたぜ。面倒な事になっちまったな」

 

「マツオ」

 

 と、集合していたナナ達の所へマツオが歩いてきた。会ったことの無いマコトは訝しげな眼で彼を見る。妹のチトセはいない。

 

「こっちもそのノドカって女には会えなかったが収穫はあったぜ」

 

「……どうしたんだそれ」

 

 マツオの左右の手それぞれには首筋を掴まれた猫よろしく、ヤスとテツの二人がぶら下がっていた。ヒロは意外な手土産を見て驚愕。他の全員も声には出してないが同じ感想だった。

 

「離せ!離せよぉ!!」

 

「野蛮人めぇ、俺達をどうするつもりだぁ」

 

 手足をばたつかせて逃げようとするヤスとテツだが、その度にマツオは腕に力を込める。その度に首筋の服が二人の首を絞まり「うっ」とうめき声と共に大人しくさせた。

 

「さっき帰る途中で違法ビルダーの集まりに出くわしてな。顔を知ってるこいつら二人を捕まえといたぜ。まぁちょいと乱暴なやり方かもしれねぇが」

 

「意外だけどありがたいわ。さぁ!!言いなさい!!あんたノドカに何したの!!」

 

 二人に詰め寄るナナ、他の全員も無言の圧力で二人に迫る。

 

「し!知らねぇ!俺達はあのセリトって人にあぁやって並ぶ様言われただけだぁ!!あのノドカとかいう女を仲間に加えるとか言って!」

 

「本当だろうな!!」

 

「マジだって!!信じてくれよぉ!!」

 

「さっき俺も問いただしたけど同じ答えだったぜ。正直こいつらに重要な情報を教えてるとも思えねぇがな。さっきこいつら捕まえたらこいつらの仲間一目散に見捨てて逃げ出してやんの」

 

「う!うるせぇ!どのみちお前ら旧世代は終わりだ!これだから野蛮なサル共は!!」

 

「……とりあえず、折角捕まえたんだから当分こっちのレスリング部でこき使うことにするぜ。根性叩き直るまでやっとくからなぁ」

 

 マツオの発言に二人の顔は青ざめる。以前の合宿で相当きつい目にあったらしい。

 

「まぁ、あのノドカって子に連中がいらん知恵回したのは確実だろうが、どうにかなると思ってるぜ。気を落さないようヤタテに伝えてくれよ……ヒロ、お前も今日はキツイことがあったろうが、気を落すなよ」

 

「有難う。マツオ、やっぱり君はいい人だ」

 

「ケッ!んな簡単に人を信用すんじゃねぇよ!……じゃあな」

 

 そのまま「ほら行くぞ」とテツとヤスを引きずっていくマツオ。「助けてぇぇ!!」という二人の悲鳴だけが木霊した。

 

――もうすっかりあいつもアタシ達の味方だなぁ――とナナは思う。……さて、それからアイに駆け寄るナナ。

 

「アイ……大丈夫?」

 

「ナナちゃん……うん、少し落ち着いた」

 

 エントランスのベンチに座っていたアイにナナは問いかける。

 

「先輩……。ごめんなさい!」

 

 マコトがかなりの勢いでアイに頭を下げた。その拍子に揺れる胸。

 

「マコトちゃん……」

 

「引っ越す前、ワタシにノドカが孤立しない様に託してくれたのに!ワタシがもっとアイツの事を見ていれば!」

 

「マコトちゃんの所為じゃないよ……」

 

「そうだよ〜。あれはどう考えても違法ビルダーが噛んでるよ。普通不満はあってもあんな風に言うとは思えないもん。きっと言った後に後悔してると思うよ〜」

 

「タカコの言う通りだよアイちゃん……。ノドカの事は詳しいとは言えないボク達だけど。でもアイちゃんと気の合う親友だったわけだもの。悪い人なもんか……。自分が間違っていたって後で気づくはずだよ……」

 

 タカコとムツミもそれに続く。

 

「二人とも……ありがとう。でも……わかんないよ。昔はね。いつも私とノドカは一緒だったんだ。その時は何でもノドカの事は解るって思ってたのに……、仮に私から自立したいといっても、あんな違法ビルダーについていくなんて……本当にバカだよ。アイツ……」

 

「アイ……」

 

「……わかんなくなっちゃった。ノドカの気持ち……」

 

 その時だった。馴染みの無い声がアイ達の耳に入る。ただし聞き覚えのある声だった。

 

「事情は大体呑み込めましたわ。このタイミングでそういう展開になるとは、辛いですわね」

 

 ナナは真っ先にその声に反応する。

 

「ん?まさか!」

 

 ナナは声のした方を見る。三人の女子がそこにいる。声を出したのは真ん中の少女だろう。閉じた扇子を持ったウェーブのかかった銀髪の少女。ナナは、アイ達はその姿の少女をよく知っていた。

 

「イモエ!イモエじゃん!!」

 

「って!会って早々大声でその名前呼ばないでくださいまし!!」

 

 自信のありそうな端正な表情が一気に崩れた。サツマ・イモエ(薩摩妹江)、以前アイ達とバトルし、ナナと因縁がついた少女。プライドの高い彼女は下の名前で呼ばれる事を嫌がる。

 

「あーごめんごめん、で、そちらの二人は?」ナナはイモエの左右に連れている少女の事を聞く。両脇の少女はあった事がない。フクロウかペンギンの雛を擬人化させた様なかなり太った少女と、その少女に隠れるようにこちらを伺う少女の二人だ。隠れてる方は後生大事そうにうさぎのぬいぐるみを抱えてる。二人ともイモエと同世代らしい。

 

「前に言ってた友達ですわよ。……この度、ワタクシの地域では見事ワタクシが県内予選を優勝した事を言いたくて、今日ここまで来たんですの」

 

 軽く会釈する二人の少女。二人の紹介はおいおいとしてだ。

 

「え!じゃあサツマさん!」アイが打って変わってのテンションで食いついた。サツマは申し訳ない気持ちを持ちながらも、待ってましたと反応する。

 

「えぇ。全国大会に出ますわ。そして……アイさん。あなた達の県はあなた達が優勝すると思い、視察も兼ねてこちらにきたのですが……」

 

 こんな事態になってしまうとは、と、サツマは付け加えた。

 

「見苦しいところを見せちゃいましたね」

 

「……ねぇ、もっちゃん。明日のルジャーナ主催のガンプラバトル大会、アイさん達を呼ぼうよ」

 

 太った少女がイモエにそう言った。ルジャーナとはサツマ達が拠点にしてる模型店だ。

 

「?!何言ってますのよチヨコ!このタイミングで!」

 

「ガンプラバトル大会?そっちで明日あんの?」

 

「えぇ、サバイバル形式の奴がね。誘うつもりではあったんですけれど、正直言って今日の有り様では」

 

「わ……私も誘った方が……いいと思う」

 

 隠れてる少女がそれに続く、「スグリまで」とイモエ。慌ててチヨコと呼ばれた少女の後ろに隠れたスグリという少女。

 

「だ……だって元々招待するのも目的だったんだよ……?少しでもアイさんに気分転換になって欲しいし……それに……ゴニョゴニョ」

 

「はい?ちょっと、後半解りませんわよスグリ」

 

 言葉を続けているうちにどんどん言葉が小さくなっていくスグリ、イモエはもう一度言う様に耳を向ける。

 

「お気持ちは嬉しいですけど……でも」

 

「いや、行った方がいいと思うよ」

 

 断ろうとするアイだったがノゾムが意外な言葉を口にした。ユメカも「そうだな」と同調する。

 

「ノドカの方も時間が経てば自分が何をしたか自覚はするはずだよ。今はアイちゃんもノドカの方も落ち着く時間は必要なはずだ」

 

「そうだな。折角の地域チャンピオンの誘いなんだ。無下にする必要もあるまい」

 

「先輩、ノドカの方はワタシ達に任せて下さい。アイツには文句は言わせませんよ。アイ先輩は一刻も早く元気になって」

 

 アイは弱りつつも思案する。確かにそうだ。次の相手はノドカ、自分が勝てなかったブスジマでさえ勝利した。おそらく今まで以上に厳しい戦いになるだろうから。ノドカとは来週までにどうにか和解しておきたいが、来週には嫌でも会う。しかしイモエの誘いは今だけだ。何か参考になるかもしれない。

 

「うん……。じゃあ明日は、お邪魔しちゃおっかな」

 

「決まりですわね。では明日」

 

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 そして翌日、イモエ達のホームグラウンドの街、その市民体育館にて再びアイ達チーム『I・B』とイモエ達は再会する。エントランスの時計は午前十時を指していた。

 

「改めまして、ようこそおいでくださいました」

 

「久しぶりねここも、以前はここでガンプラの素組でサバイバルをやったんだっけ?」

 

「えぇ、あの時は買ってその場で組んだガンプラをそのままバトルに投入していましたが、今回は普通のサバイバルですわ。自分のとっておきの作品で挑めるというわけですわね」

 

「と、言うことはアンタのチームメイトも出るんだ」

 

「えぇ、紹介しますわ。こちら(太ってる方)が『ヒルガオ・チヨコ(昼顔千代子)』そしてこちら(隠れてる方)が『ルコウ・スグリ(流紅直里)』」

 

「二回目だけど初めまして。もっちゃんからは話は聞いてますよ」

 ニコニコ笑いながらチヨコは握手として右手を差し出して来る。快くアイは握手に応じた。

 

「それにしてもアンタ、もっちゃんなんて呼ばれてるのね〜。そんなナリして」

 

 意地悪そうに笑うナナ、

 

「いいじゃないですの。小さい頃からのあだ名ですわよ」

 

「じゃあ今日のバトルで私達『スウィートポテト』の実力をお見せしますね」

 

「スウィートポテト……サツマイモ」とナナ

 

「何が言いたいんですのよ……いいじゃないですの……。そうしたいってあの二人が言ったんですから……」

 

 赤面するイモエ。チーム名をそれに許可したのはチームを一度捨てた事による後ろめたさがあるからか。とナナは予想した。

 

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 そして三十分後、会場内での手続きと開会式を済ませたアイ達ビルダー一同は体育館のコートに並べられたGポッドに入っていく。そして愛機をスキャンすると共にサバイバル戦が始まった。

 

 アイは眼下に一面の森が広がっている中を飛ぶ。今回のアイの機体は『スタービルドストライクガンダム』『ガンダムビルドファイターズ』後半の主人公機で主人公のイオリ・セイは相棒のレイジと共にこの機体で世界大会に殴り込みをかけた。

 

「今回はカサレリアか……綺麗なフィールド」

 

 アイは少し元気の無い調子で感想を述べる。『ポイント・カサレリア』『Vガンダム』に登場した地域で山や谷、深い森といった自然豊かな地域だ。名前はポリネシアの言葉で「こんにちは・さようなら」の意味がある。CGによるバーチャルな空間ではあるが高度なグラフィック技術は自然の雄大さを上手く描いており、圧倒されそうな映像だった。しかし今のアイにはそれも心に引っ掛からない。

 

「ちょっとアイ、本当に大丈夫?」

 

 並行して飛んでいるストライクフリーダムに乗ったナナが問う。一日時間は置いたがどうにもアイの元気は戻り切ってない様に感じる。

 

「大丈夫だよナナちゃん。昨日よりはずっと楽になったから」

 

 ナナの心配。今までの勝利はアイありきの勝利だった。今の自分達の実力不足をアイの実力でうまくカバーしてきたが、アイの調子が崩れてしまうと今までの調子すらうまくいかないだろう。この心配はそんな打算的な物もあったが大部分は友達としての純粋な心配だった。

 

「アサダの奴は別の所で戦ってるか。イモエ達の方は……」

 

「それならここにいましてよ!!」

 

 自信にあふれた声がする。アイ達が声のした方、上を目にすると太陽を背にした機体が突っ込んできた。二人に向けてビームライフルを乱射してくる。

 

「うわっ!イモエ?!」

 

 ビームシールドで防御をするナナ、反撃しようと背中のドラグーンを飛ばすもドラグーンが撃つ前に影はドラグーンを撃ち抜き破壊。

 

「ドラグーンが!!」

 

「ハジメさん!乗り換えたばっかりみたいですわね!!複雑な機構のストフリを簡単に使いこなせると思わないでくださいまし!!」

 

 そのまま影は左腕の袖部からビームサーベルを発生させてストライクフリ−ダム(以下ストフリ)に斬りかかる。慌ててビームサーベルで迎え撃とうとするナナだったが向こうの方が早い。

 

「どれほど腕を上げたのかと思いきや!ふがいないですわ!ハジメさん!!」

 

「は!早い!」

 

 焦るナナ、しかしストフリの前に躍り出たアイのストライクが、ビームサーベルで相手のビームサーベルを受け止める。鍔迫り合いによる激しいスパークにより影の正体が照らされる。

 

「イージスガンダム!」

 

 ナナが叫ぶと同時にイージスとストライクは一度離れる。『イージスガンダム』『ガンダムSEED』に登場したガンダムでストライクのライバル機だ。独特な変形機構を持っておりまるで四本指の手の様な形態へと変形できる。

 

「落ち込んでいたとはいえさすがの反応速度ですわね!ヤタテさん!」

 

「それが県内予選を勝ち抜いた機体ってわけですか?!」

 

「その通り!名づけて『メテオビルドイージスガンダム』!スタービルドストライクのイージス版といった所ですわね!」

 そしてイージスはすぐさまライフルを向けてストライクへと放つ。盾と銃の武器類はスタービルドストライクからの流用だ。

 

「ッ!」

 

 アイはすぐさま左手のアブソーブシールドを構え展開、ビームを吸収する。吸収したビームはストライクにエネルギーとして還元される。

 

「スタービルドストライクのシステム流用なら!特徴や癖は解ってますよ!」

 

 そのまま得たエネルギーでストライクのモードを切り替え変えようとするアイ。しかしその時だ。眼下の森から何条ものビームが撃たれてくる。線の様に細いビームだが直撃すれば致命傷は確実。

 

「っ!」

 

 モードを切り替えようとしていたアイはとっさに回避。しかし射撃は休みなく続く。撃たれている範疇はアイ達のいる近辺のみなあたり、アイ達の撃墜が狙いなのだろう。ナナのストフリもビームシールドで防御、サツマのイージスも細かい動きで回避しているのが見えた。

 

「何ですのよこれは!」

 

「イモエ!あんたの仕業じゃなさそうね!」

 

「そんなわけないでしょう!!」と、しのぎながらの問答をするナナとイモエ、

 

「コソコソと隠れちゃって!!出てきなさいよ!!」

 

 射撃が途切れた瞬間を狙ってナナはストフリを上空に急上昇させる。森からのビームはナナを狙って一層激しくなるが、それをサツマとアイがアブソーブシールドで援護防御。

 

「イモエ!?アンタまで!」アイの援護防御はともかく敵対チームのイモエの援護は予想してなかったため驚くナナ。

 

「イモエ言うな!ともかく何か考えがありそうですわね!やるならさっさとやって下さいまし!!」

 

「恩に着るわ!」

 

 そのままナナのストフリは天高く上り、両手にライフル。腰のレールガン、腹部ビーム砲、全てを前面に展開。最大出力で眼下の森に放つ。ハイマットフルバーストだ。

 

「いっけぇぇっっ!!」

 

 放たれた何条ものビームは森林地帯を直撃。着弾地点の至る所を爆発で吹き飛ばす。

 

「どうよ!こういったコソコソした戦法は前も見たもん!対策位!!」得意げに話すナナだが

 

「バカ!!確実な撃墜も確認できないで動きを止めちゃ!!……危ないっ!」

 

「え!?」

 

 サツマの叫ぶ中再びビームは放たれていく、今度は油断していたストフリに集中してだ。ナナはビームシールドで防御しようとするが間に合わない、全ては防ぎきれずビームに晒されたストフリは瞬く間にボロボロになっていく。

 

「く!ううぅっ!シールドを発生させる前に!」

 

「ハジメさんっ!見てられませんわっ!!」

 

 すぐさまサツマはイージスを変形させる。と同時にイージスから青い翼が現れる。

 

「イージスにプラフスキーウイングが?!」

 

「今のビームでたらふく吸収できましたからね!!スピードモード!!」

 そのままイージスは高速でストフリめがけて上昇、これも下からのビームは狙うが当たらない。ロックしても撃った頃にはイージスはその先だ。瞬く間にイージスはストフリの真上に付くと、四隅のクローを展開、爪先だけをそれぞれ中心部に合わせるとイージス腹部のビーム、スキュラを発射させようとする。しかし目の前にはナナのストフリがいる。

 

「ちょっとイモエ!アタシが目の前に!!」

 

「アタックモード!!発射!!」

 

――あ、もしかしてイモエ言い過ぎて怒らせた?――

 

 ナナが冷静にずれたことを考えながらも、お構いなしにサツマは最大出力でスキュラを発射、そのまま自分はスキュラで破壊されると思ったナナだが、ビームはストフリを避ける様にドーム状に拡散していく。

 

「何これ!ビームが避けてる!」

 

 と驚愕するもナナは目の前のイージスを見た。スキュラから撃たれたビームは合わさった爪の部分にぶつかり、拡散されたのだ。これによりナナはスキュラがストフリを避けていると錯覚したわけだ。

 

 拡散されたビームはストフリのフルバースト同様着弾地点で爆発する。しかし爆発の大きさはストフリの物より大きい。程無くして三機の機影が森から飛び出してきた。鳥の様な顔、大柄な体躯、左右の肩に三つずつ積んだ筒状の武器。

 

「ヤクト・ドーガ!ギュネイ機が一体!そしてクエス機二機の三体構成ですわね!」

 

 そういうや否や、サツマはイージスを再び人型に変形させ、プラフスキーウイングを展開、ヤクトドーガに突っ込んでいった。ヤクトの方は迎撃しようと肩の筒、小型遠隔操作式ビーム砲、ファンネルを用いて迎撃しようとする。

 が、イージスのスピードはすさまじい。瞬く間に三機に接近、まず両袖のビームサーベルを発生させるとギュネイ機に突撃、ギュネイ機もビームサーベルで迎え撃とうとする。すれ違いざまにお互いが剣を振るう。直後、ギュネイ機の胴体は寸断されて爆発。

 それを見て警戒したクエス機二機は距離を置いて迎撃しようとする。イージスの上下と前後左右からから何条ものビームがイージスを襲う。イージスの周りにファンネルを配置していたわけだ。シールドで吸収出来ない分で倒せばいいという算段だろう。しかしイモエは余裕だ。

 

「愚策!」

 

 イモエはイージスを真下の森へと突っ込ませた。さっきと逆だ。イージスが潜った地点をファンネルで集中的に撃つヤクトドーガだったが、直後別の場所で放たれた三条の大型ビームにヤクトは二体とも撃ち抜かれる。森から撃ったイージスのスキュラとユニバースブースターのパーツのビーム砲だ。主を失ったファンネルも、そのまま無力化し落ちていく。

 

「ふぅっ!……ハジメさん、生きてますか?」

 

「なんとか……アイの方は?」

 

「別のところで戦ってますわ」とサツマ、見ればアイのスタービルドストライクが複数の改造されたハイモックと戦ってるのが見えた。ミサイルポッドが全身に追加され、弾幕を張りながらストライクを追い詰めようとする三機、しかしアイはこれまたスピードモードで弾幕を突破しハイモックに接近、瞬く間にハイモックを撃墜していく。

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「ヤタテさんの方はあまり深刻というわけではないみたいですわね……反面あなたは行き詰ってる感じですけど……」

 

「……何よ」

 

「あなたと最初に会った時の事を思い出すって感じですわね」

 

 色々と言葉に含みを持たせた様な口調だった。最初に会ったとき、というのはサツマがアイを自分のチームに勧誘しようとした時だ。その時自分の実力に自信を持てないナナはサツマにとって眼中の無い人間だったが、どういうわけか彼女はナナに対し意識し始めてる。

 

「焦ってるって?あの時みたいに」

 

「そう見えますわね。正直見苦しい」

 

「なっ!!」

 

「だからこそ、ワタクシとしましては歯がゆいですのよ。あなたがこの程度で止まるなんて」

 

「……イモエ」

 

「こんな時くらいサツマと言いなさいまし。だからこそ、残りの一週間、ワタクシ達が特訓付けてあげますわ。ヤタテさんとの、そしてあなたとの決着は全国大会こそが望ましいですもの」

 

 いつの間にかナナにとって気安い仲になっていたサツマだ。しかし今この申し出は自信を失いかけていたナナにとってあまりにもありがたい話だった。

 

『ありがとう』そうナナが言おうとした時だったが、突如二人のGポッドに警告音が走る。

 

「危ない!」とサツマはナナのストフリにとびかかりお互い吹っ飛ぶ。二体の真後ろを大型ビームが通り過ぎた。ただのビームではない。泡をまとった様なビーム、ナナにはそれが見覚えがあった。

 

「あのビーム!確かifsユニットとかいう奴!てことは!」

 

「見つけたぜぇ!『スウィートポテト』のイモエさんよぉ!!」

 

 木々をなぎ倒しながら一体のガンプラが現れる。ただの機体では無い。変形したイージスのボディを下半身とし、上半身にゼダス、肩にケルベロスウィザード、頭部にアルケーを使用したという節操のない組み合わせだ。そして体には五角系のパーツがついている。ifsユニットだ。

 

「何ですのよ!あの悪趣味な機体は!しかもあの大きさは!!」大きさは優に200mを超えている。通常では有り得ないサイズだ。撃ったであろう違法機体は見上げなければ全身が確認できない。

「違法ビルダーだわ!あんな感じの機体にアタシ達も戦ったもん!」

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四か月も待たせてしまい御免なさい。言い訳ではありますが、去年年末に咳喘息にかかってしまい、休めない仕事との板挟みで、二カ月で完治したのですが、モチベーションが直らずここまで時間がかかってしまいました。いい加減自分も焦ってきたので、今後どうにかしないと……

 

説明
第51話「流転とスウィートポテト(前編)」
 ツチヤ達のかつての仲間のチーム『ライオン・ハート』これらを下したアイ達はいよいよノドカ達との決勝戦を控える。が、それを祝ってくれると思っていた幼馴染の言葉はアイを拒絶するというあまりにも冷たい反応だった。
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コメント
mokiti1976-2010さん>お久しぶりです!読んで頂き、そしてご心配有難うございます!テツとヤスはあれです。普通にバトルで倒しても本人のダメージ0ですから、だからアイのどS対応とマツオの地獄の特訓ですね。これで少しは見てる側もスッキリする…ハズ。暴力で痛めつけるわけにもいきませんし。一応この二人も着地点考えてあります。(コマネチ)
大病の後は本調子に戻るまでどうしても時間がかかりますよね。無理のないペースで行かれれば良いのではと。そして…とりあえずテツとヤスは心の底から更生するまでレスリング部でお世話になっていた方がこの後の人生にも良さそうな気がする。(mokiti1976-2010)
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