インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#129.5
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時は、少し遡る。

 

継戦限界を迎えつつあった海自艦隊と連合IS部隊は突如として現れた二機のISの乱入により息を吹き返しつつあった。

 

上空から降り注ぐ、((天使の羽のようなエネルギー弾|シルバー・ベル))による広域範囲制圧攻撃。

それはいかに屈強なゴーレムであっても手痛い攻撃であるらしく艦隊や疲弊したIS隊を無視した上空への反撃が始まる。

 

その密集陣形の中に「特徴的な白い機影を持つIS」が飛び込み混戦が展開され始める。

 

―その隙にIS隊は一時帰艦して補給、艦隊は陣形再編を行い前衛と後衛の艦艇が入れ替わる。

損傷した艦は、他の脱落艦と合流するべく退避行動に入る。

 

それは、蟷螂の斧に等しい抵抗であろう。

 

だが、((IS隊|彼女たち))には意地がある。

ISに青春をささげ、苦楽を共にしてきた彼女たちは((無人機如き|・・・・・))に負けるなぞ、プライドが許さない。

 

艦隊にも、意地がある。

『通常兵器はISに勝てない』それが、今の世界の常識だ。

だが、水軍も含めれば数百年の歴史を持つ海軍にとって、その程度の革命は日常茶飯事であった。

 

木製帆船が鉄製汽船に一蹴されたように、洋上の城といわれた大戦艦が航空機によって葬り去られたように。

 

そのつど、海軍は時代に対応し続け今日までやってきた。

 

対IS用の対空誘導弾に対IS戦を考慮した小口径速射砲。それらの武装を万全に扱うため対IS用に調整された射撃管制システム。

ISの洋上戦闘を支援するための整備・補給設備だって、海軍がISに対応し、最適化する中で生み出されたものである。

 

その意味で、彼の艦隊は世界初の対IS戦対応型艦隊と言えよう。

それがあっさりと負けることは、水上艦艇はIS全盛の時代に適応できないということを認めることになる。

 

そんなことを、彼らが認められるわけが無い。

 

負けない。負けるにしてもタダで負けてやるわけにはいかない。相応に対価を払わせてやらねば死んでも死に切れない。

そんな狂気に似た熱気が充満する。

 

 

艦隊が態勢を整える時間を稼ぎきった二機に報いるためにも、あの無礼な無人機どもに一矢報いてやらねばならない。

 

 

IS隊を引き受ける輸送艦から再出撃準備完了の報が入る。

同時に、再編された艦隊前衛が攻撃準備完了の報を入れてくる。

 

戦艦もどきで戦場に乗りつけ、いつしか総司令官役に納まっていた幕僚長はわずかに考え、声を上げる。

 

―前衛全艦、艦砲射撃用意。着弾と同時にIS隊は突入せよ。

 

データリンクを通して艦隊が射撃体勢を整える。

艦隊最大火力である幕僚長の座乗艦も例外ではなく、2tを超える鋼鉄塊で今まで散々に嬲ってくれた礼をすべく主砲を回頭させる。

 

散布界設定よし。

主砲装填、諸元入力よし。

甲板上からの退避完了。

 

続々と準備完了の報告が上がってくる。

 

「幕僚長。いえ、今は提督とお呼びすべきですかな?」

 

「はは、それも悪くは無いが、少し背中がむず痒くなるな。さて、やるとしよう。」

 

そんな会話を交わしながら、幕僚長は右手をあげる。

 

ゴーレムと戦闘中の"白いIS"に向けて通信士が退避指示を送り、退避ブザーが鳴り響く。

 

「全艦――撃ち方、」

 

はじめ。

そう手を振り下ろすよりもわずかに早く((電策手|レーダー手))が声を上げた。

 

「敵IS群が突如反転。IS学園の方向へ向かって移動を開始しました!」

「敵ISと乱戦中だった未確認機も戦闘空域を離脱。もう一機はこちらに向かって移動中。」

 

視線が、手を振り下ろし損ねた幕僚長に集まる。

なんとも収まりが悪いが、やれやれといった具合で、帽子の位置を直してごまかしておく。

 

「追撃、しましょうか?」

「いや、やめておこう。弾薬も残り少ないし、IS隊も休ませなければならんしな。」

 

その少し後、艦隊の射程圏内から敵ISが離脱したとの報告が入り、『対空、対IS戦闘用具収め』の号令とともに各艦に戦闘状態解除の命令が下される。

 

 

「突入部隊への連絡は?」

「艦隊と戦闘中だった敵IS群は戦闘を中止してIS学園へ撤退中と伝えてあります。」

「あと、横須賀より補給艦が合流のため移動中との連絡がありました。」

 

「ふう。とりあえずはひと段落か。」

補給物資を満載した補給艦が護衛とともに接近中、突入部隊を送り届けた二隻も間も無く合流地点に到着するという報告にほっと息をつく。

 

先ほど合流、着艦した『天使型』は連合部隊に参加していたIS乗りの知人だったらしく和気藹々としているらしい。

そして、もう一機は…

 

「幕僚長、画像解析が完了しました。あの、白いISは…」

 

「やはり、な。」

 

幕僚長の脳裏に六年前の光景が浮かんできた。

当時はまだ一介の護衛艦艦長であった彼が、絶望的な状況の中で見た、あの姿。

 

「白き((武士|もののふ))はいまだ健在、か。元気そうで何よりじゃないか。」

 

まるで古い友人を懐かしむかのような姿に、年若い面々は怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「幕僚長は、そのISのことをご存知なのですか?」

 

「ん。まあ、な。旧い戦友みたいなものだ。もっとも、こちらの一方通行の可能性が大きいがな。まあ、機会があれば―そうだな、この作戦の"反省会"の時にでも話してやろう。」

 

そういいながら、艦橋の窓の外に広がる空に視線を送る。

 

そこはつい先ほどまで熾烈な戦闘が繰り広げられていたとは思えないくらい、穏やかで広々とした青空と海原が広がっていた。

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インフィニット・ストラトス 絶海 

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