「 水鏡に咲く白き花 」【序章】
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――― 海に囲まれた国『 リエン 』。

 

この世界で唯一の島国であり、大国では無いが世界の中心国のひとつである。

 

 

海域にあるリエン国を地図上で見ると、

まるで、水面に浮かぶ ((蓮|はす))の花のように見える事から別名『 ((蓮|はす))の ((国|くに)) 』とも呼ばれている。

 

 

  

 

 

実際、((蓮|はす))の開花の時期になると あちこちの水場で蓮の花が咲き乱れ、

訪れた異国の者達に『 ((蓮|はす))の ((国|くに)) 』である事を印象付けている。

 

リエン国の人々にとって、((蓮|はす))は昔から身近な植物で

日常の中にあるのが当たり前のような存在なのだ。

 

 

そのことから、王室では 生まれて来た子供の名前に

((蓮|はす))の花にちなんだ名を付ける事が多い。

 

人々に愛される子になるようにと、純粋に願って名付ける者もいるが

本音は『 自分の子供が国王になれるように 』と野心を込めて名付ける者も多い。

 

理由は様々だが、王家にふさわしい人間に育って欲しい想いから

国民に親しまれている蓮の花にあやかるのだ。

 

 

例えば、昨日まで国王だった「((蓮|ハチス))」の名もそういった理由から名付けられた。

 

 

そして、彼の娘で 明日から新国王となる少女の名は「((花蓮|カレン))」だ。

 

 

 

 

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((花蓮|カレン))の父である((蓮|ハチス)) 国王の死は突然だった。

 

 

あまりにも突然で、王宮の人間だけでなく国中が少なからず動揺していた。

((直|じか))に((接|せ))っする機会の無かった国民の中にまで泣き崩れる者もいた。

それだけ、((蓮|ハチス))王は 多くの国民から愛されていたのだ。

 

 

((蓮|ハチス))王の盛大な葬儀が終わったその夜、

((花蓮|カレン))姫は自室の寝台の上に座りこみ 静かに泣いていた。

 

 

父親だけじゃなく、母親もすでに この世にはいない。

 

まだ幼さが残る少女には、その孤独と 父を継いで一国の主になるという

二つの運命の重圧を受け止めることなどできなかった。

 

 

 

――― 本来、リエン国では 王の息子・娘は 十六歳になるまでは

あまり人前に出ることなく過ごす。

 

 

これはリエン国 王家の独特のしきたりで

子供達は十六歳を迎えて、はじめて 国民や他国の王族などにお披露目される。

 

 

十六歳を迎えるまでの間は、自身の親である王と王妃と

身の回りの世話をする従者達と顔をあわせる程度で

基本的に王宮の中に引きこもったように過ごしている。

 

 

兄弟姉妹がいる場合は、

母親が同じであれば幼少の時から交流する事もあるが

そうじゃない場合は、十六歳になるまでは ほとんど顔をあわせる事はない。

 

 

これは、まだ幼いうちから((跡目争|あとめあらそ))いや 敵国などによって

大事な次期国王候補者達が暗殺されたりしないための対策でもあった。

 

 

 

((蓮|ハチス))王は((側室|そくしつ))を持たなかったので、今回、母親達とその子供達による

((醜|みにく))い 後継者争いは避けられそうだが

((花蓮|カレン))姫は、まだ十五歳になったばかりだった。

 

 

((蓮|ハチス))の一人娘なので、次の国王には((花蓮|カレン))姫しかいないのだが

十六歳の「 お披露目の儀式 」をおこなっていない者が

王位を継承した事例はこれまでに無かった。

 

 

そのため、((花蓮|カレン))姫は まだ 王位を継ぐのにふさわしくないと言う意見も

少なからずあった。

事実、((花蓮|カレン))姫には 国王に必要な知識や作法など 全て 欠けている状態だ。

 

 

しかし、一年近くも 国王不在にする事もできない。

そんな事をすれば、すぐにどこかの国が攻め込んで来るだろう。

 

 

例え、十五の少女でも 誰もいないよりかは ((幾分|いくぶん))かマシなのだ。

 

 

 

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息絶えた父王の姿を見た瞬間から、((花蓮|カレン))姫の心の中は

言葉では言い表せないような 様々な感情が渦巻いていた。

 

 

父の代わりを務め、父をきちんと見送るという使命感から

泣く事もできず、((蓮|ハチス))王の葬儀が終わるまでは 冷静そのものだった。

 

 

しかし、全てが終わって、自分の部屋に一人きりになると

涙が溢れて止まらなくなってしまったのだ。

 

 

考えなければならない事が 山積みなのはわかっていたが

何も考える事ができなかった。

 

 

" もう二度と 母にも父にも会えない "

 

 

頭の中にあるのは、その事だけだった。

 

 

 

できる事ならば、今すぐにでも 父と母がいる場所に自分も行きたかった。

この宮殿は高台にあるため、どこからか飛び降りれば

きっと、全ての事から解放されるだろう。

 

 

でも、そんな方法では父と母に会えるはずがない事もわかっているし

そんな事をするために自分は生まれて来たのではない。

自分にはリエン国のために生きる義務があると自分の心に言い聞かせた。

 

 

ひとしきり泣いて、なんとか自分の心を落ち着かせようとしていた その時、

部屋の外から音がした。

 

 

それはすぐ近く・・・((寝室|へや))の扉のすぐ向こうから聞こえたので

泣きながらも、気にならずにはいられなかった。

 

 

 

全ての リエン王家の人間の部屋に共通する作りなのだが、

まず、部屋への通路の入り口となる場所に門番のような見張りが立っていて、

その見張りが許可した者しか先に進むことはできない。

 

 

基本的に通過できるのは、部屋の持ち主と 持ち主の一親等と従者であり

あとは、全ての部屋に入室できる国王くらいだ。

 

 

その入り口から 少し歩くと一つ目の扉が現れる。

 

 

 

 

 

 

一つ目の扉は((花蓮|カレン))姫が不在の時や、就寝時は鍵が閉まっていて

外から扉を開けられる鍵を持つのは、((花蓮|カレン))姫本人と

親である王と王妃、身の回りの世話をする((女官|にょかん))の四人だけである。

 

 

その扉を開けると、少し離れた所に 二つ目の扉があり

その二つ目の扉の向こうに、ようやく椅子や本棚など置かれた部屋と呼べるような場所が現れる。

 

―――― その部屋にある右側の扉が、今 ((花蓮|カレン))姫がいる寝室へ通じる扉である。

 

 

 

以上の理由から、寝室の横の部屋まで誰か来られるとするなら

それは 父、母、 世話係の((蓮葉|ハスハ))の三人しか ありえない。

 

 

現実的に考えれば、((蓮葉|ハスハ))が来たのだろうが

彼女が こんな夜更けに入って来るのは珍しい事だった。

 

 

国や王宮で何かあったのだろうか・・・?

自分にうまく対処できるだろうかと緊張も走る。

((蓮葉|ハスハ))に泣き顔は見せられないので、((花蓮|カレン))姫は急いで涙を((拭|ぬぐ))った。

 

 

しかし、一向に((蓮葉|ハスハ))が自分を起こす気配が無いし

さっきから何の音も聞こえてこない。

 

 

違和感を感じ始めた((花蓮|カレン))姫は、少し不安に思いながら((蓮葉|ハスハ))の名前を呼んでみた。

 

「 ……((蓮葉|ハスハ))? 」

 

 

――― 返事は無い。

 

 

 

音は間違いなく隣の部屋からだったので、((花蓮|カレン))姫は 音の正体をつきとめるべく

寝台から立ち上がり、恐る恐る 自分が今いる寝室の扉を開いた。

 

昔、死者が幽体になって会いに来るという伝承を聞いたことがあったので

もしかしたら、父か母ではないかと淡い期待も抱きながら・・・―――。

 

 

 

 

 

 

――――― 扉を開けると、そこには 顔を隠すように黒い布をまとっている者が二人立っていた。

 

 

月明かりだけで暗く、((花蓮|カレン))姫からは二人の顔は良く見えなかったが

二人組は花蓮姫を見るなり、ニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

※ここまでお読み頂きありがとうございました。

小説の続きは別サイト様にありますので、良かったら続きもよろしくお願いいたします。(´▽`)

 

(少々改稿しています。)

http://ncode.syosetu.com/n8235dv/

 

 

説明
小説投稿サイト様にてオリジナル小説を投稿中です。
この投稿は、序章の部分です。
ご興味ございましたらよろしくお願いします。
 
少女漫画と乙女ゲームの皮を被ったミステリー小説みたいな感じではないかと思います。(^^;
暴力・流血・残酷描写などあるので【R15】です。( 実際はPG12くらい。 )
拙い文章ではありますが、お好みに合いそうでしたらよろしくお願いします。


■小説の続きは・・・
「小説家になろう」
http://ncode.syosetu.com/n8235dv/
→ 挿絵無し・文字だけで進行。

TINAMI
→ 未定です。投稿する場合はお気に入り限定になるかも?
イラストは投稿予定です。


どこかで挿絵付き版を公開予定です。(某サイトへの投稿は辞めました。)
決まり次第、TINAMIも含めた各ページで御案内させて頂きます。
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