命一家10話〜かぞく〜
[全5ページ]
-1ページ-

命一家 10話 〜かぞく〜

 

【命】

 

「ただいまー」

 

 バイトが終わってからすぐ帰宅していた私は夕ご飯の準備をしていた時、

玄関から少し疲れたような感じの萌黄の声が聞こえたので急いで玄関に向かうと

顔を真っ赤にしてよろよろしていた。

 

「萌黄、どうしたんです!?」

「あぁ…命ちゃん。何か…調子悪くて…」

 

 ここ最近、少しずつ仕事の時間が増えていっているのはわかっていたけれど

ここまで疲労が溜まっていたことに気付かなかったなんて…。

 

「とりあえず上に連れていきますから。ベッドで横に…!」

「うん…」

 

 身長差はけっこうあり、私の方が大きいから萌黄を背負って階段を昇っていく。

子供のように小さい萌黄の体は軽くて運ぶのは苦ではなかったが…。

 

 普段見せないような辛そうな姿を見ている方が苦しかった。

 

 萌黄を部屋まで連れてベッドに寝かせた後、瞳魅に電話をかける。

いつもなら萌黄より少し遅れて帰ってくるから、今日はみきとマナカちゃんのことを

任せようとした。

 

 少し鳴ってから電話に出た瞳魅に状況を説明すると最初こそは驚いていたけど

すぐに理解して今日のところは二人の面倒を見てもらえることになった。

 

 普段から色々と手伝ってくれてるから完全に任せても平気だと思う。

みきも瞳魅には懐いているみたいだし。

 

「ママ〜。萌黄ママだいじょうぶ?」

「あ、うん。大丈夫。今日は瞳魅お姉ちゃんとマナカお姉ちゃんと一緒に遊んでて」

 

「は〜い」

 

 心配そうな顔をしながらも私の言葉を信じて、うるさくない程度に元気良く返事を

してから部屋を出ていった。

 

「萌黄…」

「命ちゃん…」

 

 熱で赤くなっている顔を見ながら萌黄の前髪に触れると萌黄が少し苦しそうな声で

私の名前を呼んだ。

 

「何か食べて薬飲みましょう。何か食べたいものは?」

「んー、いらない…」

 

「そうですか…」

「命ちゃんがここに居てくれれば」

 

 熱のせいか目が潤んでいて私を見る目が小動物のような愛くるしさがあって

ドキドキしてしまう。

 

「でも薬飲まないと」

「飲むから…」

 

 言葉を濁らせた直後、私は不意に萌黄に引き寄せられて抱きしめられた。

 

「ちょっとだけ…甘えさせて…」

 

 きゅんっ

 

 マンガ的な表現じゃなくて本当にそんな感じの音が聞こえそうなくらいに

私はその言葉にやられて力が抜けてしまった。

 

「萌黄の好きなように…」

 

 私もそのまま萌黄を抱きしめて顔をすり寄せた。

そういえばこうして二人きりでいられるってことが最近少なかったから

お互い少し寂しかったのかもしれなかった。

 

 こうしているとほどよく力が抜けて何も考えられなくなる。

普段の生活も幸せでいっぱいだけど、好きな人と触れ合うこの感覚もまた別に幸せで。

こうして萌黄からちょっと子供みたいに甘えてくることがこそばゆくも嬉しくて。

 

 目の前にいる萌黄に集中しているせいか聞こえる音も遠く感じていた。

そして萌黄も同じように私を見ながらそっと口付けをした…。

 

-2ページ-

 

***

 

「おかゆできましたよー」

「ありがとー。命ちゃん」

 

 お互いにさんざんくっつきあった後、私はおかゆを作って萌黄のいる部屋に戻ると

まだ顔は赤くなっているけど微笑みながら言う萌黄を見て少しホッとした。

 

「はい、萌黄。アーンしてください」

「えっ、いいの?」

 

「だって甘えたいんでしょう。なら今日はとことんやりましょう」

「な、何か照れくさいね」

 

「萌黄から言ったんでしょう?」

「それもそうだね。じゃあ…あーん」

 

 湯気立つおかゆを冷ましてからゆっくりと萌黄の口の中に運ぶと萌黄はそれを

美味しそうに食べる。その様子を見てるとつい微笑んでしまう。

 

 この時間が幸せだから。少し前のことを思い出す。

初めて二人の想いが一緒ことを知ったときもこうやって向かい合っていたっけ。

それが今ではこんなに家族がいて、みんな優しくて。

 

 思えば思うほど口元が緩みそうになる。

 

「ごちそうさま」

「はい、おそまつさまでした」

 

 おかゆを食べて薬を飲んだ萌黄は布団の中に入った後、

ちょいちょいと私に手招きをしていた。

 

 何が言いたいか何となくわかったけど、私は敢えて萌黄に聞いてみることにした。

 

「他に何かして欲しいことあります?」

「一緒に寝てくれないかな…」

 

「はい」

 

 思った通りの反応で私は笑顔で返事をした。

何でこんなに嬉しかったのか。傍で萌黄を感じられるからかもしれない。

私はおかゆの入っていた器を簡単に洗ってから部屋に戻って布団の中に潜り

少し目が赤くなっている萌黄と見つめあってお互いに笑みがこぼれた。

 

 それから少しだけおしゃべりした後、萌黄が眠りに就いたのを確認すると

私も眠くなってそのまま寝てしまった。

 

-3ページ-

 

***

 

【瞳魅】

 

 命からの連絡を受けて今日は二人を連れて外食に行くことにした。

久しぶりの外食に興奮気味のみきと人がそれなりにいる場所だから憂鬱そうにしている

マナカ。対照的な二人だけど仲良く会話をしながら店に向かう。

 

 家の一番近くにあるファミレスに入るとみきはさっきよりもテンションを上げて

席に座るとマナカが静かにって小さい声で注意をすると素直にごめんなさいするみきが

可愛かった。

 

「さぁ、好きなの頼みな〜。どんな高いのでもいいよ」

 

 普段からお金を使うのって最低限必要なもの以外には使わないし役職もそれなりに

高かったからお金はそれなりに多く蓄えている。こういう時くらいは奮発しないとね。

 

「みきはね、これとこれ」

 

 萌黄が熱を出したって聞いてみきが心配してるかなって思っていたけど

そうは感じさせないほどの明るさに驚いていた。

 

 だから注文の後、食事をしながらそれとなく聞いてみた。

 

「萌黄の調子ってどうだった?」

「んー、ちゃんとは見てないけど。命ママがだいじょうぶっていうから」

 

「心配じゃない?」

「ちょっとは。でも萌黄ママには命ママがついてるし。みきにはみんながいてくれるから」

 

 言って眩しいくらいの笑顔を見せるみき。みんなっていうことは私達も入ってるのか。

マナカの方に視線を移すとマナカもちょっと驚いた顔をしつつも自然を装ってご飯を

食べていた。

 

「みきは私たちのことも好きでいてくれるの?」

 

 後で考えたら変な質問したなって思うようなことをみきに聞くと不思議そうに

首を傾げると何を当たり前とばかりに笑顔で答えた。

 

「ママたちと同じくらいヒトミおねえちゃんもマナカおねえちゃんもだいすきだよ」

 

 その言葉を聞いて私の頭の中にあった不安が一気に晴れたような感覚があった。

まるで今のみきに命の姿が重なってそう言ったように見えたから。

 

 みきが産まれてから本当の子供、家族が出来てどこかで私は…多分マナカも

他人のような気がして前までのように一緒にいられないんじゃないかって思いこんでいた。

 

「命ママ、いつもそう話してくれるよ。優しくて暖かい家族に囲まれてうれしいって」

「私もみきのこと好きだよ」

 

 隣にいたマナカがみきに微笑を向けて話しかけるとみきは嬉しそうにしていた。

そっか、ずっと本当の家族だと思ってくれていたのか。ただの「ごっこ」ではないのか。

最初は命とは恋愛の方で追っかけていて家族という枠のことを全く考えていなかった。

 

 私に振り返ってもらうことが私の幸せだと思っていたけど…。

単純だな…、家族の好きという言葉でもこんなに嬉しいと胸から感情が

込みあがってきそうになる。

 

「そっか」

 

 誰に言うでもなく、呟いて納得した。そうか…なら命が望むまでは私たちはずっと

本当の家族であろう。いや、今はそれが自然にできることなんだ…。

 

 そりゃ恋の方でも完全に諦める気はしないけど。

何だろう、この気持ち。まるで悪くない。それどころかすごく心地良かった。

 

 私の実家、本当の家族の中にいても感じられなかったこの心地良さ。

それはマナカも味わっていることだろう。みきの優しさが命の優しさが直に心に

染み渡っていくようなこの感覚…。

 

「そうか」

「そうだよ〜」

 

 ここは店の中。なるべく感情に出さないように私はいつもの笑顔を浮かべた。

 

-4ページ-

 

***

 

 すっかり暗くなって家に戻るといつもは点っている灯りに迎えられるが今は真っ暗。

電気を点けてみきはマナカに任せて私は命たちの部屋に入ると暗い中静かに寝息が

聞こえてくる。

 

 少し暗さに目が慣れてきた私は音を立てずにベッドに近づいて萌黄とくっつくように

寝ている命の頬に軽く口付けをした。いつも私達のことも想ってくれている感謝の気持ち。

それと未だ残る命に対する恋の気持ちも乗せて。

 

「ありがとう…」

 

 薄いカーテンの隙間から月明かりがこぼれて命の顔を照らし出す。

まるで宝石のように美しく見えたその顔を少し見つめてから私は部屋を出た。

 

「…」

 

 部屋を出た私は少し立ち止まって一筋の汗をかいた。

出る前、命にキスして見つめてた後に萌黄の方に視線を向けてたら目が合ってしまった。

お、起きていたのか…。

 

「何か…すっごい気まずい…」

 

 感動の気持ちも軽率な行動によって薄れてしまって、私は反省した。

 

「これからはもっと気をつけて行動しよう」

 

 そう呟いてから気分転換にみきとマナカを愛でにいこう。

思いついたらなんとやら、私はすぐに実行することにした。

そしてその癒しを糧にまた仕事に専念するか。家族のために!

 

 私の中に今まで曖昧だったものが明確になってこれまでにないくらい

やる気に溢れるのであった。

 

-5ページ-

 

***

 

【命】

 

 それから二日ほど経ってすっかり治った萌黄は再び仕事に戻ることになった。

いつも以上に元気になった萌黄と瞳魅が仲良く視線の間で火花を散らせながら

出勤するのでした。

 

 マナカちゃんも何だかいつもより嬉しそうにしていたし、みきが何か言ったのかな。

みんな嬉しそうにしていると私も嬉しいし良かった良かった。

 

 そう思いながらみきを保育園に預けてバイトに出かけてと考えていると

体が妙にふらつく。

 

 変だなと思って熱を計ると…。

 

「…」

 

 この日はマナカちゃんにみきのことを頼むことになったのだった。

仕事も電話で休ませてもらって、と色々していると自分が情けなく感じる。

けど…引き受けたときのマナカちゃんが嬉しそうにしていたからそれは良かったかな。

 

 そして早く治すために私は薬を飲んで寝ることに専念することにした。

萌黄から移ったのか、自分から風邪を引いたのかはわからなかった。とほほ。

 

続。

 

説明
血は繋がってなくても一緒にいて想いあえれば家族だよっていう命の気持ち。
それが瞳魅の身に沁みるようなそんなお話。
後は萌黄があまえんぼになって命とイチャつくのとか最高ですね!(書き手得
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
470 470 0
タグ
オリジナル 命一家 百合 キス 

初音軍さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com