真・恋姫無双外史〜沈まない太陽〜 第12話
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「そうですか、分りました。引き続きお願いしますよ」

 

「…ああ、……任せておけ」

 

「よりよい未来のためです。迷いは捨ててください」

 

「…そうだな」

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

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「何でこんなことに………」

 

「あら、似合ってるわよ?」

 

「うむ、そこまで似合うとは思わなかったぞ、なぁ姉者」

 

「あ、あぁ。(こ、これは…華琳様に勝るとも劣らぬ…)」

 

「にいちゃ♪かぁいい♪」

 

「…褒められても全然嬉しくない」

 

「ほらほら、暗い顔してないの。久々に会えたんだからもう少しいい顔しなさいな」

 

「誰のせいだと思ってるのさ?こんなとこかか様に見られたら…ブルブル」

 

「あら、仕方ないじゃない? まさか普段のままで行くわけにもいかないでしょう?」

 

「……まぁそうなんだけどさ」

 

「にいちゃかぁいいよ?」

 

「…ありがとう向日葵…  ぅゎーん」

 

まっすぐキラキラと澄んだ目で朝陽を見つめる向日葵。純粋な目が逆に痛い。

走って逃げようとするもすぐに追いつかれる

 

「こら朝陽、馬術はまだ不慣れなんだから速度は抑えておけ」

 

「ふふっ春蘭の言うとおりね。おとなしく邑に着くまで玩具におなりなさい♪」

 

「……うぅぅ」

 

「しかし、華琳様。朝陽に見せたいものとは一体なんなのですか?」

 

「見ればわかるわよ。先にばらしちゃったら面白くないでしょう?」

 

 

あれから1年ほど時がすぎた。

華佗は薬草の知識や怪我の治療法などを教えてくれた。すでに隠れ家を離れ旅に出ている。

何進は時々フラッと現れては朝陽と手合わせしたり、向日葵と遊んでいた。

何皇后も時々現れ、ドタバタと騒動をおこしていた。

帝は立場上さすがに訪れることはなく、麗羽もまた最近の治安の乱れから、地元を離れるわけにいかずに訪れていない。

華琳は半年ほど前からちょくちょく姿を見せるようになったのだが、今日2週間ぶりに来たと思ったら、見せたいものがあるからと皆を連れ出したのだった。

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───これは余談だが、半年振りに朝陽と会ったときは大変だった。

 

「…あらあら? 随分と春蘭たちと…仲良く…なった…ようね?」

 

「……う……くる…し……ゲホ………首……しま……る………」

 

「か、華琳様? そのままでは朝陽が死んでしまいますが…」

 

「しゅんらぁん? いつの間に『あさひ』なんて呼び捨てにする様な仲になったのかしら?」

 

「っは、いえ、あ、あの……しゅうらぁあん」

 

「秋蘭も……朝陽と一緒にお風呂に入ってる、とか?」

 

「っは、まぁそれは…男と言えどまだ子供ですので…。 それより華琳様、そろそろ解放しないと朝陽が本当に危険ですが…」

 

見れば顔色が紫にかわり、ブクブクと泡をふいている朝陽の姿。

 

「あらいけない。朝陽、おきなさい。……朝陽? 朝陽!?」

 

「これは…まずい! 華佗! 来てくれ華佗!」

 

秋蘭が呼んだ華佗がすぐに駆けつけてくれたおかげで朝陽はなんとか助かった。

 

「いつつ……それにしても久々に食らったきがするなぁ、華琳お姉ちゃんの髪攻撃(なんかパワーアップした気がするけど)」

 

「わ、悪かったわよ。そこまでするつもりは無かったんだから」

 

「分かってるよ。春蘭と秋蘭の言葉づかいだけどさ、余がお願いしたんだ。一緒に生活するのに堅っ苦しい口調じゃ落ち着かないからさ。だから叱らないでほしい」

 

「まぁそんなことだと思ったわよ。…貴方らしいわ」

 

「余らしさってのもよく分からないけどね。これからまたよろしくね、華琳お姉ちゃん」

 

「はいはい。私は貴方の教育係ですからね、いやだと言ってもビシビシいくわよ。春蘭、秋蘭、しっかり守ってくれてたのね。礼を言うわ、ありがとう」

 

「「っは。華琳様のご命令なれば!」」

 

「……さて、それはそうと朝陽? 私がここに来るまでの半年間、遊んでいたわけじゃないのよね?」

 

「ギク!」

 

「その反応は何かしら? まさか、半年もあったのに課題が終わってないなんてこと…ないわよね? 秋蘭、倉庫から纏めてある書簡を持ってきてちょうだい」

 

すぐさま秋蘭が取りに行き、山のような書簡の束を持って戻ってきた。

 

「……ふむ…ふむ…こっちは……ふむ。…一応全部纏めてあるみたいね?」

 

「う、うん」

 

「でもね、一応やってあるだけ。字の汚さには目をつぶるとしても、纏め方が分かりづらいし、間違った解釈をしてる箇所も少なくないわ。これでは合格とは言えないわね」

 

「…うぅ…やっぱり?」

 

「…まぁ今日のところはいいわ。また課題を出しておくから次はもっとしっかりやるように。あと報告によれば武の鍛練も始めたそうね?」

 

「うん。春蘭と秋蘭、それに時々聖羅叔母さんにも教わってるんだ」

 

「そ、師は申し分ないようね。ではどの程度になったか私もみてあげるわ。鍛練用の剣を持ってらっしゃい」

 

朝陽はそう言われ、倉庫へ剣をとりにいく。

 

「秋蘭、この朝陽が纏めた書簡、見たことはある?」

 

「いえ、華琳様が出されている課題ですので、華琳様に最初にお見せするべきかと」

 

「そ、じゃあ見てみなさい」

 

「………こ、これは!? 華琳様これは一体?」

 

「ふふふっ♪ 面白いでしょう? わずか4歳の子供が並みの文官なら数年かける作業を、半年でここまで纏めてるなんてね」

 

「し、信じられません……鍛錬も休まず華佗の授業や向日葵と遊んだりと時間もそれほどあったわけでもないのに… 朝陽は…あの子は一体…」

 

「それでこそこの曹孟徳が主と仰ぐに相応しい器だわ。春蘭、秋蘭、これからもしっかり朝陽のこと、頼んだわよ?」

 

「「っはい!」」

 

そしてそのあと、鍛錬で華琳にボロボロにされる朝陽だった。

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「今日の目的地、見えてきたわよ」

 

華琳が指を差す方向を皆一斉に見る

 

「あれは……邑、だよね? 変わったところもなさそうだけど……?」

 

「ふふふ、まぁ着いてみればわかるわよ♪」

 

それから暫く馬を走らせ近くまで来ると、邑の長老と思しき人物に出迎えを受けた。

 

「これはこれは曹操様。遠路はるばるようこそお越し下さいました。村民一同歓迎させて頂きますぞ」

 

「出迎え御苦労。例の件は順調かしら?」

 

「はい、おかげさまで賊に悩まされることもなく、順調に成果が出始めておりますじゃ。ありがたいことですじゃ」

 

「そ。 とりあえず遠乗りで連れが疲れているわ。一旦休ませてもらえるかしら?」

 

「はい、用意して御座います。おぉ、これはまた可愛らしいお連れ様でございますなぁ」

 

「こちらの二人が私の部下、こちらの子が私の教え子で、そちらの子はその妹よ」

 

「夏候惇だ。よろしく頼む」「夏候淵だ」「曹弁です。こちらが妹の曹協。宜しくお願いします、長老」「じいちゃ♪」

 

「はい、宜しくお願いしますじゃ。では皆様、ご案内しますでな、ついてきて下され」

 

長老の指示で村人が馬を預かってくれ、そのまま長老の家に案内された。

 

「ではどうぞごゆっくり。お出かけになる際は案内を付けますでな、お声をかけてくだされ」

 

「ええ、ありがとう。そのときはまた頼むわね」

 

お茶やらお菓子やらが用意された部屋へ着くと、長老は下がっていき、5人が残された。

すかさず向日葵がトテテテ〜っとお気に入りの朝陽の膝の上に座った。朝陽はそんな向日葵の頭を撫でながら

 

「向日葵はお馬さんに乗るのも久しぶりだから疲れたろ? お尻痛くないか?」

 

「だいじょぶ〜♪」

 

「そっか、偉いぞぅ向日葵ぃ〜♪」

 

「えへへへ〜♪」

 

にぱ〜♪っと笑う向日葵に癒され自分の疲れも吹き飛んでしまうのだった。

 

「二人とも大丈夫そうね。一休みしたら行きましょう」

 

「…この邑が目的地ってのは分かったけど、名前を変えるのはいいとして、こんな恰好する必要があったの?」

 

「あら、似合ってるじゃない、とっても可愛いわよ♪」

 

「かぁいいよ〜♪」

 

「うう、向日葵まで…… まさか自分が女装するときが来るとは思わなかったよ…」

 

そう、弁皇子とばれるわけにはいかないと華琳が言いだし、ひらひらとした女物の服を着せられたのだ。

元々朝陽は生れてこのかた髪を一度も切っていないので肩よりも髪が長い。そして父親譲りの優しげでぱっちりした目元、キリリとした鼻筋など、美形なのだ。声変りもしていないので女装してしまえば脱がさない限り見破られることはないだろう。それぐらい反則的にまで似合っていた。

 

「……でもさ…下着まで女物にする必要なかったんじゃないの?」

 

「男なら終わったことをグチグチと言わない。…まぁ別の下着がいいって言うなら、色々持ってきてるわよ?ふふふふ♪」

 

「だーっわかった!余が悪かったから、手をワキワキさせながら近寄らないで」

 

チッと軽く舌打ちしつつも華琳はおとなしくひいた。

 

「まぁいいわ。それよりそろそろ行きましょう。秋蘭、長老を呼んできてちょうだい」

 

すぐさま秋蘭に連れられ長老がきた。

ご案内しますと言われ連れて行かれると、邑を少し離れた場所に大きな建物が見えてきた。周りを柵に覆われ、その周囲には多数の兵士の姿があった。

 

「ここは?…随分と警備がものものしい感じだけど…」

 

「最初に見せたかった場所よ。あなたは想像がつくんじゃないの朝陽?」

 

近づくにつれて音が聞こえてくる。

───ガシャコン ガシャコン コロコロコロコロ ガシャコン───

 

「この音は……まさか?」

 

「ふふふ♪ さぁ着いたわ、中へ入りましょう」

 

中へ入るとそこには───

 

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「か、華琳様……これは一体…? 全て機織り機のようですが?」

 

「ふふふふ♪ 分からないかしら秋蘭? 朝陽は分かるわね? 説明してあげなさい♪」

 

「う、うん。…ここは機織り『工場』だよ、秋蘭」

 

「『工場』…だと? 一体何なんだそれは?」

 

「ここはね、秋蘭。 以前、朝陽が言ったことを実際に行っている試験場、といったものよ。邑全体に協力してもらってるわ。勿論それだけの給金は払っているけれどね」

 

「朝陽が!? どういうことか説明してもらえるか朝陽? そこで混乱してる姉者にも分かるようにな」

 

「うん… 実際こんなことしてるのを初めて知ったから余も驚いてるんだけど。『工場』っていうのはね、簡単にいえば均一の品質の物を安い経費で大量に生産できる場所なんだ」

 

「なぜそんなことを?」

 

「…こういう仕組みがあれば雇用対策にもなるし、経済政策の一環となるかなって、以前華琳お姉ちゃんにだされた課題に対して答えたんだ」

 

「…なるほど……手に職を持たず土地もない…そんな人間でも覚えさえすれば働ける、か。 姉者は分かるか?」

 

「も、もちろんわかるぞ。あれだ、つまり皆で一緒に食べる飯の方がうまいってことだろう?」

 

「「「姉者(春蘭)……」」」

 

「うっ、そ、そんな可哀そうなものを見るような目で私を見るな!」

 

「つまりさ、例をあげるとね、働き口のない若者を遊ばせておくくらいなら、兵士として集めて鍛えれば有意義だろう? でも老人や力のない女性なんかのために、こうやって働き口を作ってあげようってことなんだ」

 

「なるほど、それならわかるぞ」

 

「でもまさか華琳お姉ちゃんがこんなことをやってるなんて…」

 

「私は優れた意見は何であろうと、誰の発案であろうと受け入れるわよ。今回は突飛だったから試験という形をとっているけれどね」

 

「…ぅわ…、なんか初めて褒められた気がする…」

 

「あら失礼ね。人のことを鬼みたいに。私だって評価に値すると認めたことは、きちんと評価するわよ。…それより、今回連れてきた目的を果たしてもらわないとね。ここの責任者の話を聞きに行くわよ」

 

「だって鬼そのものじゃな「何か言ったかしら?」…イイエ、ナニモイッテマセンヨ?(相変わらず怖ぇよ)」

 

ギロリと華琳に睨まれつつ、ここの責任者である初老の女性のもとへ近寄る

 

「そ、曹操様! 御壮健そうで何よりでございます。本日はどのような御用で?」

 

「今日はこの連れにここの話を聞かせてもらおうと思ってね。私の親戚でありここの発案者、曹弁よ」 

 

「こ、このような幼い方が… お初にお目にかかります。ここの責任者をしている者です。何なりとお申し付けくださいましね」

 

「曹弁です。大した者でもありませんので、そう畏まらないでください」

 

「そんなことありません! あっ大声ですみません。でも、村の皆も喜んでるんですよ? 作物が不作でも冬を乗り切れるかもしれないって。こんなことを考え付いた方はどんな素敵な方なんだろうって噂してたんです」

 

「そ、そうですか」

 

「ご自分を卑下なさらないでください。この邑の者全てが貴方様を尊敬しているのです」

 

「まぁその辺りにしておいてちょうだい。この子は褒められるのに慣れてないのよ。それよりも折角発案者を連れてきたのだから、ここを始めてから1年近く、問題点もあるのでしょう? 彼に聞かせてみてちょうだい」

 

「…はぁ、左様でございますか。…こんなことをお耳に入れるのもどうかとは思うのですが…」

 

「いいわよ、何でも言ってちょうだい」

 

「はい。…この工場とかいう仕組みですと、全員が働いた日数分の給金を頂けることになってるのですが、仕事の早い者遅い者、織物の出来の良し悪しなど差がありまして。その為か出来る者ほどやる気を失くし、不出来な者も出来る者に負担を負わせるように。今はまだ目立つほどのこともないのですが、いずれこのままでは、と思うのですが」

 

「やる気のない者など辞めさせればよかろう!」

 

「ひぃっ」

 

「おやめなさい春蘭。彼女を怯えさせても仕方ないでしょう」

 

「し、しかし華琳様…「春蘭?」…申し訳ありません」

 

「でも春蘭の言うとおり辞めさせるのもひとつの手ね。朝陽はどう思う?」

 

「…そうだな、これは共産主義の弊害ってやつかな。解決するには競争意識を持ってもらうのがいいと思うよ。…具体的にはそうだな……個人または数人の班を作って、その出来高に応じて給金に差をつけたらどうだろう? それと品質が均一になるように、一定の基準を設けるんだ。ある程度の水準に達していない物は製品として認めない。どうかな?」

 

「なんたら主義っていうのはよく分からないけれど、競争意識ね。でも差をつけるとなると経費が増えそうね? それと認められない織物はどうするのかしら? 材料の糸も染料も無料じゃないのよ?」

 

「給金の増加に関しては、やる気を出せばその分生産量があがるから十分補填できると思う。 品質不足な製品はどちらにしろ信用問題になるから市場には出せない。 でも他の事には利用できるんじゃないか? 雑巾にするなり柄や品質に拘らない物に変えて製品化すればいい」

 

「…なるほど、ね。秋蘭はどう思うかしら?」

 

「っは。こういったやり方は何分前例がないものではっきりとは申し上げられませんが… 検討する価値があるかと」

 

「そうね。当の責任者としてはどうかしら? これで解決できそう?」

 

「……はい。素晴らしいご提案かと存じます。早速試用させて頂きたいと存じます。宜しいでしょうか?」

 

「だ、そうよ朝陽? 他にまだあるかしら?」

 

「他かぁ。…そうだ、ここで働いてる人達ってどのくらいの時間働いてるのかな?」

 

「そうですねぇ…毎日50刻ほどでしょうか。日の出てる時間にもよりますので時期によって変わりますが」

 

「50刻というと…(1刻が14,5分だったよな。ってことは10時間弱か)…う〜ん。毎日それだと働き過ぎだと思うんだ。8刻には1回休憩をいれて、一人の働く時間は32刻ほどに抑えてほしい。それと6日働いたら1日休ませてあげたいね。仕事を覚えたなら健康を維持してもらわないと長続きしないからね。あと少ない時間でも働けるようにしたいね。短い時間でも働きたい人はいると思うんだ。その場合は時間に応じて給金を出すといった形でさ。それから…」

 

「はい、そこまで。まだありそうね。それは書簡に纏めて私にちょうだい。出来そうなものから順に実施させるわ」

 

「わかった。戻ってすぐ纏める事にするよ」

 

「では次に行くとしましょう。御苦労様、貴方は仕事に戻っていいわよ。引き続きよろしく頼むわね」

 

「は、はい。では失礼いたします」

 

ぺこりと頭を下げ、女性は下がっていった。

 

「で、華琳お姉ちゃん。次って?」

 

「ついてくれば分かるわよ」

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再び長老の案内についていく一行。飽きてぐずるかと思われた向日葵は道中朝陽に肩車してもらってご機嫌だった。

 

「にいちゃ♪あっちあっち♪」

 

「はいはいお姫様。仰せのままに」

 

「5歳になったばかりだというのに大した力ね。重くないの?」

 

「まぁこれでも鍛えてるからね。妹の一人や二人軽いもんだよ」

 

「そ、じゃあ今度私もやって貰おうかしら?」

 

「え゛!? 華琳お姉ちゃんも?」

 

「ふふふ、冗談よ。そう目の前で仲良くされると妬けるじゃない?」

 

「な、なに言ってるんだよまったく…」

 

「にいちゃ〜 ぶ〜 あっち〜」

 

「あーはいはい。こっちだな向日葵」

 

微笑ましい会話をしながら歩いて行くと今度は農地がみえてきた。隣にはまた大きな建物がたっている。

 

「今度はまぁ言うまでもないわね?朝陽」

 

「うん、畑が均一の大きさになってるし…あの建物は肥料の研究所かな?」

 

「正解。家畜の育成は資金がかかりすぎるから始めてないわ。あそこは肥料の研究施設よ。色々畑ごとに種類を変えて成果を確かめてるわ」

 

「今度はここで意見を言えばいいのかな?」

 

「そうよ、頼むわね」

 

案内されて一通り見回り、研究所の人たちに助言をする。

 

鶏卵のカラも栄養があるから、粉砕して肥料に混ぜるといい。

鳥よけのために人型の人形を立ててみてはどうか?

害虫よけ、病気予防のために木酢液の作り方を教える。

病気に強い稲を掛け合わせた品種改良。

etc

 

村人たちは驚いたような感心したような様子で朝陽の話に食い入るように聞き入った。

 

 

「今日のところはこんなところね。遅くなってしまったし今日は邑に泊まりましょう」

 

「贅沢な物はありませんが精一杯もてなさせて頂きますじゃ」

 

皆で宿に戻り、歓迎の宴を楽しんだ。

この邑で収穫されたばかりの野菜は実に美味しかった。

向日葵は疲れたのか食べながら寝てしまいそうだったので、一足先に布団で寝かせた。

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そして人心地ついた頃に華琳が朝陽に言いだした。

 

「朝陽、ちょっと付き合いなさい」

 

「どこへいくのさ?」

 

「まぁ着いてからのお楽しみよ」

 

山を少し登っていくと、硫黄の匂いがしてきた。

 

「この匂いは…温泉?」

 

「そうよ。今日は汗かいたでしょう? そのまま寝るのも気持ち悪いでしょう? 久しぶりに洗ってあげるわ♪」

 

「い、いいよ。 今日は体を拭けばそれだけで」

 

「駄目よ。 貴方は今女の子なのよ? どこに人の目があるかわからないっていうのに邑の中で裸になる気?」

 

「……うぅ…、でも山の中だって…」

 

「大丈夫よ。春蘭に先回りして見張ってもらってるから。誰も来ないわ」

 

「…逃げ場はないってことか」

 

「観念なさいな。(なによ……春蘭や秋蘭とはよくお風呂一緒に入ってるくせに。そんなに嫌がらなくてもいいじゃない)」

 

少し拗ねた感じの華琳の横顔を見て、可愛いなぁなんて思いつつ覚悟をきめた朝陽だった。

 

風呂に到着すると、ひょいっと服を脱がされ、昔の様に隅から隅まで華琳に洗われた。

 

「うぅ……もうお婿にいけない…」

 

「何を言ってるのよ。そもそも皇子のあなたが婿入りなんてあり得ないでしょうに」

 

「そりゃそうだけどさ… うぅ…そうだ!」

 

その時朝陽が何かをひらめいた。

 

「どれだけ恥ずかしいか教えてあげるよ。いつものお礼を兼ねて、今度は余が洗ってあげるよ♪」

 

「な、何言ってるのよ!このスケベ!私はいいわよ」

 

「スケベって酷いなぁ。いつもお世話になってるお姉ちゃんに弟がお礼をしたいってだけじゃないか。…それとも触れられるのが怖いの?」

 

「怖いってなによ。あなたの顔がスケベだって言ってるのよ」

 

「ああ、いいよいいよ、そういうことで。…まさか曹孟徳ともあろう人が逃げるなんてね…」

 

「ばっ……いいわよ。洗ってもらおうじゃない。そのかわり半端は許さないわよ。きっちり綺麗にしてもらおうかしら」

 

「うん、任せてよ♪ それじゃ失礼しま〜す♪」

 

「ちょ、こんな体制で洗うの?(これじゃ丸見えじゃないの!)」

 

華琳の後頭部を膝の上に乗せ、仰向けで寝かせて、まずは髪から、と指で丁寧に梳くように洗っていく。華琳は気持ちいいのか、はじめはカチコチに力んでいた体の力も抜けて、すっかり朝陽に任せていた。

 

「…結構上手じゃない…手慣れてるのが気になるところね…(裸をみても何も反応しないの!?)」

 

「ん?ああ、向日葵の髪をいつも洗ってあげてるからね。春蘭もやってほしそうにしてたから時々洗ってあげるんだ」

 

「!! …そうだったわね。一緒に住んでるのですものね…(こんなときに春蘭の話?やっぱり胸なのね?) うひゃう! ん、くすぐった…んん…な、なにするのよ!」

 

「いや、肩こってるかな〜って思ってさ。…二人でいるときくらい肩肘はらずにいこうよ、お姉ちゃん」

 

ニコ〜っといつもの明るい笑顔をむける朝陽。

 

「まったくもう…(一人で怒ってるのが馬鹿みたいじゃない、まったくこの子は…)…肩凝りする年でもないわ。そろそろ体を洗ってちょうだいな」

 

「畏まりました、お姫様」

 

手拭を香油で濡らし、腕、肩、背中と血流を促すように丁寧に擦っていく。そのまま太もも、足先へと洗おうとしたところで

 

「あら、丁寧で上手なのはいいけれど、体の前面は洗ってくれないのかしら? 全身を綺麗にしてくれるはずだったわよね?」

 

「う… も、もちろん洗うさ」

 

(くそう、さすがに鋭いな。女の子の体ってなんでこんなに柔らかいんだよ。いい加減抑えるのきついぞ)

 

そう、朝陽も健全な男の子。8歳の少女とはいえ、超がつくほどの美少女の裸を見るだけじゃなく、直接触れて洗ってるのだ。暴れん坊が反応する年ではないのが救いだが、頭は完全にのぼせあがっていつ鼻血を吹いてもおかしくない。それを自分の主観では20歳を超えてるんだ、俺はロリコンなんかじゃねぇ!変態の及川なんかとは違うんだ!という気持ちでなんとか抑えつけている状態だった。

 

「前面は繊細な部分が多いから、そんな布じゃなくて、朝陽の手で洗ってもらえるかしら?」

 

「手…手で?」

 

「そうよ、早くしてちょうだい。風邪をひいてしまうわ」

 

華琳がそう言うと、朝陽はじっと自分の手を見つめ脳内会議を始めた。

 

『脳内及川:美少女が自分から触ってくれ言うとんのや。何を考える余地があるねん。うらやましいで〜かずピー。

脳内爺ちゃん:女の子の孫もええのぅ。

脳内不動先輩:……………(じっと睨んでる)』

 

やがて手をワキワキさせながら華琳の胸にその手を近づけ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいませんでした。勘弁して下さい」

 

その手を地べたに付けて頭を下げた。所謂土下座である。

 

「……これに懲りたらお姉ちゃんに刃向うなんてやめることね。(なによ。意気地なし)」

 

「はい、ごめんなさい」

 

朝陽の完敗だった。

二人は少し体が冷えてきたので、再び湯船に浸かり星空を眺めた。

朝陽には星空に浮かぶ及川が「なんやねん、このヘタレ」と言ってるのが見えたとなんとか。

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二人で静かに温まっていると、ふいに華琳が切り出した。

 

「ねぇ朝陽、今日一日邑をまわってみてどう思った?」

 

「うん、華琳お姉ちゃんはやっぱり凄いよ。話を聞いただけで実行できるなんてさ」

 

「あら、実行するだけなら資金さえあればどうにでもなるわよ? 凄いのは発案者のあなたなのよ」

 

「大したことは言ってないよ。それにしてもあんなに喜んでもらえるとは思わなかったなぁ」

 

「……………」

 

返事が返ってこないので気になり、華琳の方を向いてみると、朝陽を真剣な目で睨みつけていた。

 

「ど、どうしたの? 何か気に障ること言っちゃったかな?」

 

「……大したことない…ね。どの口がそう言うのかしら? あなたの発案したこと、実際にやってみて有効なのは疑いようがないわ。それは素晴らしいこと。…問題はね、朝陽。あなたがどうしてそういう発想に至ったか、なのよ。是非とも教えてもらえるかしら?」

 

「…それは、華琳お姉ちゃんに教わっ「私は教えた覚えはないわよ」… 書簡で読んだりしたのを参考にしただけだよ」

 

「…書簡…ね。出来たらその書簡の名前を教えてくれないかしら?」

 

「そ、そんなの覚えてないよ」

 

「朝陽、貴方は誘拐事件まで外出したことはなかったわね。ということは宮廷内の書簡に限られる。…でもそれだとおかしいのよ。何が、と言わなくてもわかるわよね?朝陽」

 

「…………そう、だね」

 

「あんなことを書いてある書簡なんてどこにもない。恐らく歴史上前例なんてないわね。……それを大したことはないという朝陽、あなたは一体何者なのかしら?

 

華琳に鋭く追及され、焦りを隠せない朝陽だったが、ここまで言われてしまえば、もう隠してはおけなかった。

 

「流石華琳お姉ちゃん……いや、曹操孟徳だ。乱世の奸雄として歴史にその名を知らしめる実力は本物だね。もう隠してはおけないみたいだ」

 

「…歴史に? どういうことかしら?」

 

「うん。荒唐無稽な話だから信じてはもらえないだろうけど… 余、いや、俺は今からおよそ1800年後の世界で生活していた記憶を持っているんだ。学生として、ね」

 

「1800年後…」

 

「その世界の歴史では、今の時代は物語になるほどでね、その中で魏王曹操といえば超有名人なんだ。まぁその世界の曹孟徳は男なんだけどね」

 

華琳は真剣な表情で聞き入っている

 

「俺が発案したっていうけどさ。そのことだって俺のいた歴史上で300年も前に行われたことだったり、誰でも知ってるようなことを言っただけにすぎないんだ。だから大したことはしてないのさ」

 

「…そう、それで…。 なるほどね。で、何故そんなあなたがこの時代にいるのかしら?」

 

「前の人生で俺は事故に遭って死にかけてたんだ。そこに通りがかった奴が、死産で終わるはずだった弁皇子の体に俺の魂を飛ばして植え付けたんだそうだ。…どうやったかは俺も知らない」

 

「そう……命の恩人ってわけね……」

 

「ああ。まぁこんな話信じろってほうが無理かもしれないけどね」

 

「……信じるわよ」

 

「え?で、でもさ」

 

「信じるって言ってるの。あなたがそんな顔をして話すことをこの私が疑うわけないでしょう!」

 

華琳はそう言うと優しく朝陽を抱きしめた。朝陽自身気づいてなかったが、その両目からは涙がこぼれていた。

 

「はは…は… なんか勝手に涙が… なんだろう…ほっとしたのかな? ずっと誰かに聞いてほしかったきがするよ」

 

「…………」

 

「でも、これで俺は罪人確定かな? 弁皇子の体を勝手に乗っ取って好き勝手してたんだもんな」

 

「…………」

 

「さ、もういいよ。話して気が楽になった。役人にでも引き渡してくれて構わないよ。世話になった華琳の手で捕まるなら本望だよ」

 

 

 

<<パシィンッ!>>

 

 

朝陽がそこまで口にした直後、静かな山間に乾いた音が響き渡った。

 

「華…琳……?」

 

先程まで優しく抱かれていた華琳に頬を叩かれ、反射的に華琳の顔を見上げると、彼女もまた泣いていた

 

「…朝陽…あなたが見てきた華琳とは…曹孟徳とはどういう存在なの? 皇子と別人だったと分かった途端に手のひらを返したような態度をとる人間なのかしら?」

 

「……ちがう…ね」

 

「捕えて役人に引き渡せですって? 弟のように思ってきた子にそんな仕打ちをする人間にみえるのかしら?」

 

「……ちがうよ…そうじゃない」

 

「なら言ってみなさい! あなたから見て曹孟徳がどんな人物なのかを!」

 

「誇り高く、高潔で、厳しいけれどそれでいて誰よりも優しい。凄く頼りになる自慢のお姉ちゃんだ」

 

「そうよ。あなたの正体が誰であろうと、あなたがあなたである限り、あなたの姉であり、臣である私の存在が変わることなどあり得ない!」

 

一切の迷いもなく、澄んだ瞳でそう宣言する華琳の姿は、満点の星空のもと、とても幻想的で美しかった。

 

「……ありがとう……ありがとう…大好きな…俺のお姉ちゃん」

 

「ふふふ♪ こんな可愛い弟、誰が手放すもんですか♪」

 

心底楽しそうに笑う少女。その笑顔に朝陽は見惚れてしまうのだった。

 

 

──秘密を打ち明け、更に親密になる二人を満天の星空が、涼しげに鳴く虫たちの声が祝福しているようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、以前の人生って何歳くらいだったの?」

 

「ん〜、17歳だね。高校2年生」

 

「ってことは今と足して22歳なのね。…それで、私の裸を触った感想は?」

 

「っげ!勘弁してくれ〜〜〜!」

 

「あ、こら!待ちなさ〜〜いっ!」

 

相変わらずシマラナイ主人公だったとさ。

-9ページ-

 

(あとがき)

 

なんか最近仕事が忙しくなりはじめまして。

 

考えながら書くので、執筆に時間がかかるため、忙しいとなかなか更新できなくなりそうです。

 

これからちょいちょい遅れがちになりそうですが、それでも良かったら読んでやってください。

 

 

 

ではまた次回で(・ω・)ノシ

 

 

説明
北郷一刀が弁皇子に憑依転生する話です

ちょいと遅くなりましたが更新です。
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コメント
滅茶苦茶面白いね。他のSSにはない治世の能臣が見れるのは貴重。能臣華琳に全く違和感をわかないのが凄いと思う。敵役の用意に苦労して話をつくりにくそうだけど(ドーパドーパ)
次の更新を楽しみにしております。(ポンチキ)
次の更新がとても楽しみです(ミドラ)
楽しいですね!気長に待ってます(ぷちとまと)
憑依転生というのも何か怖い。。。(thule)
更新をゆっくり待っています(副はぐれ)
じぺさん、この話好きなので続きを早く書いてください!お願いします。(劉炎)
お仕事のほうを大切にしてください。小説はゆっくりと書いてください(aoirann)
同じく持ってます。(solomon4)
続きを待ってます(tokitoki)
続きを楽しみに待ってます。(鳥羽莉)
後漢王朝を復興させたヘタレな名君になりそうだ・・・(拾参拾伍拾)
種馬なのにヘタレた・・・。これから、もっと心から通じ合える人が増えていくといいですね!!ママさんが好きです!大好きです!!はやく逢いたい!!!(雪蓮の虜)
華琳も麗羽も臣下って形で進むとすると……反董卓連合はひょっとして弁太子争奪戦?w(リアルG)
麗羽、最近出番少ないですね。なんかでないとさみしいですね。(ブックマン)
22歳(精神年齢)の男を誘惑する8歳の女の子か……どんなシチュだよ(笑) しかし、ここで華琳にばれるのか。どうつなぐのか楽しみです。(伏宮真華)
このヘタr(†`・д ・)≡〇 ) д ° ) ノ ゴハッ・・・ボクノホウガヘタレデス……(cielo spada)
すげぇ、ヘタレだ・・・。あの親父の息子か?更新は気にしないでも良いのでは? 次作期待(クォーツ)
このヘタレ野郎が!!! っと、最後の最後で思うじゃねぇかwwww だが、面白いからおkwwww 次回も愉しみですよ^^w(Poussiere)
はははは、ヘタレめッ!!!!(フィル)
華琳あっさりと認めたもんだ、おどろかないんかな?(キラ・リョウ)
まぁやっぱり華琳メインで関わっていくんでしょうね。先が楽しみです。(kazuki)
ついにカミングアウトwww今後の展開が楽しみです。(夜の荒鷲)
馬鹿な華琳様に嫉妬する妹が見れると思ったのに!なぜ嫉妬化しないのだ、そうか妹が味方を作って包囲網を作っているんですねわかりましたよ。(降下猟兵)
次回から華琳が積極的行動に出て、姉弟関係崩壊が始まります(ぁ(cheat)
先が楽しみでねw(ななや)
更新お疲れ様です。イイ話ヤ・そして、そろそろHANAJIもでそうだ(st205gt4)
ついに話して今後の物語がどう動くかww(ルーデル)
何か反対に華琳が積極的に猛チャージ掛けてきそうな気が・・・・・・・・・・(トーヤ)
これで絆もぐっと強くなったな!!ナイスオチ!!(motomaru)
ついに正体バラしましたね、華琳も内心驚いてるでしょうねww華琳sideからの今回の告白見てみたいですね(`・ω・´) (悪来)
一刀君ついに吐露したか。それでも姉弟関係が変わらないのが何か良いですねw成長した後が楽しみです(ナニ(sion)
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恋姫無双 真・恋姫無双 劉弁 北郷一刀 春蘭 秋蘭 向日葵 華琳 

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