「真・恋姫無双  君の隣に」 第68話
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「一刀様、城が陥ちました。仲王を捕らえ、他の者も投降したとの事です」

これで真に勝敗が決した。

攻城戦前に南皮では逃亡兵が多数、と報告があり戦力は半減していたのだが、予想以上に抵抗が強く一ヶ月の時を費やした。

無理には攻めなかった事もあるが、敵の士気は高く城門は固く閉じられていた。

雛里は多彩な策を駆使したが敵は揺るがず、戦を決めたのは長期用の策であった地下道からの侵攻。

仲国最後の意地だった。

「凪、早急に抵抗残兵の鎮圧を。雛里は報を纏めて統治の段取りを頼む」

「御意」

「わ、分かりました」

「星、仲王を寿春に連行してくれ。沙汰は追って下す」

「承りました」

一刀様は何時もの様に勝利の喜びを見せる事も無く、矢継ぎ早に戦後処理を指示される。

この方にとって戦は手段でしかなく、むしろ忌避の対象なのだ。

それでも剣を取られ自ら戦場に立つ姿は、私達に無上の誇りを感じさせる。

なればこそ如何なる困難であっても私は前に進む、一片の力でも有る限り。

それが私、楽文謙の責務だ。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第68話

 

 

ようやっと陳留に戻ってこれたな。

官渡からの撤退中に賊が戦に乗じて跳ねとったんで、ウチの軍が寄り道して始末してきた。

報告に行こと思たら華琳は不在やった。

とりあえず詠んとこに行こか、確認しときたい事あるし。

城内の慌しい様子の中、お馴染みの執務室を訪ねる。

「霞、戻ってきたのね」

「賊は片付けといたわ。それはそうと、南皮が陥ちて袁紹が捕らえられたてホンマかいな」

「・・ええ、事実みたい。その報が各地に伝わって?や他の城も続々と降服してるそうよ。冀州と青州は既に華の支配下で残るは幽州だけって、もう時間の問題ね」

噂通りやったか。

ウチらがあんだけ難儀しとった仲が僅か数ヶ月でこれかいな、どんだけやねん。

「詠、こないになるなんてアンタにも予想できんかったんか?」

「当たり前よ。華と仲が同時に攻めてきた時は正直覚悟してたわよ。それがどうしてこうなったのか、未だに受け入れられないわよ」

まあ、そやろな。

でもそんだけ予想の埒外やったからこそ、ありえん早さで大国が滅ぶ訳や。

普通は敗戦の一つや二つで大国が一気に領土を失うなんてないもんな。

豊富な兵力と糧食、緻密に組み立てられた戦略。

おそらくは統治の為の計画とかも前もって用意してたんやろ、民の気持ちを出来るだけ早う落ち着かせる為に。

「華の動きは気になるけど、とにかく今は国を立て直さないと。あ〜、もう、頭が痛いわよ。戦で荒れた土地や失った人材の補充、度重なる戦費で圧迫されてる国庫、どれも早急になんとかしなきゃ」

文字通り頭を抱えとる詠には悪いけど、他の事も聞かんとな。

「華琳達はどないしとんや?報告に行ったら誰もおらんかったけど」

「あちこち走り回ってる、留守を任された僕以外はね。動いていない将官なんて一人もいないわよ、それこそ寝食を削ってるわ」

そういう事かいな。

よう見れば詠の奴、化粧が結構濃いな、顔色誤魔化しとるんか?

「帰ってきたばかりで悪いんだけど霞も手伝ってくれない?人手が足りないのよ」

「構わんよ。何すればええねん?」

ウチにもやらなあかん事は当然あるけどお互い様やしな、と思てたけど。

甘う見てた。

持たされたんは両手一杯の仕事に関する資料、手伝いのウチでこの量かいな。

 

面従腹背とはこの事か。

恭しく頭を下げるこの者は、大仰に華と仲の軍勢が全て撤退した事を華琳様の威光と称賛している。

当面の脅威が無くなれば自分の失態などを忘れたように振舞う、姉者が此処にいれば我慢できたかどうか。

従軍を病と称して拒否し、裏で仲と蜜に接していたのは掴んでいるのだが、今の情況では手を下せない。

不愉快な城から出て、私は共に動いている稟に愚痴を漏らす。

「祖先の功を自らのものと勘違いした輩とは、本当に度し難いものだな」

「小人とはそのようなものですよ、秋蘭殿。今は我慢です。中断していました周囲の取り込みは再開していますので、首の挿げ替えにそれ程の時はかけません」

そのような事を行なっていたのか。

「流石だな、私のような武官はそういった駆け引きはどうもな」

「ご謙遜を。とにかく、我々には与えられた時間を有用に使わなければなりません。敵は途轍もなく強大です」

与えられた時間、か。

華が仲全領土を平定するまでの時間はどれ程か。

次に華が攻め込んで来る軍勢は生半可な規模ではないだろう、絶望的な国力差だ。

最早抵抗する事に意味があるのかと、とても口には出せぬ考えが頭を離れない。

我等への攻撃が囮であった事を知った時から、華琳様は実務に関してしか発言されなくなった。

普段のお姿に変わりは無いが、内心は如何なものなのか。

華琳様の進まれる道にお供する事は本望だ、だが華琳様の選ばれる道はご当人にとって良き道なのだろうか。

分からない。

どうすればいいんだ、北郷。

華琳様を追い詰めている者を、そして華琳様を救える者の名に心で問う。

「出来る事は何でもやりましょう。仲国の残存勢力や諸勢力、華国内の不穏分子など利用出来るものは少なくはありません。時を稼げれば事態の変化が無いとは言えないのですから」

「そうだな。出来る限りの事をせねばな」

馬を走らせる道は陳留に繋がっている。

我等魏国の進む道は、果たして何処に繋がっているのだろうか。

 

 

桃香様が冀州と青州の暫定州牧に任命され、補佐として私も働いています。

「朱里ちゃん、戸籍に関しては誰がやってるの?」

「孫乾さんと簡雍さんが取り掛かってます」

「降服した兵士さん達は?」

「武装解除した後は解放して故郷に帰って貰いました。少しではありますが金と食糧も渡してますので無法に走る事は無いかと思います」

「税の見直しと民への説明は?」

「布告の原案は出来ています。説明は陳震さんにお願いするつもりです」

すべき事はまだまだ有ります、勝ち戦の余韻など最早微塵もありません。

平原攻略で御一緒でした明命さんや亞莎さんも既に別の地です。

「しゅ、朱里、出来たのだ。今度こそ、今度こそ認めるのだ」

疲労困憊の鈴々ちゃんから受け取った報告書に目を通します。

これで四度目、ふむふむ、報告書の形には成ってきましたね。

ですが、まだ足りません。

「あと鈴々ちゃんの意見を加えてみて下さい、今後に繋がりますので」

「にゃあーーーーー!」

「が、頑張ろう、鈴々ちゃん」

奇声を上げて膝から崩れ落ちる鈴々ちゃんを桃香様が必死に励まされます。

こ、心が痛みますが成長の為にと愛紗さんに頼まれたのです。

不本意ではありますが、やる気を継続させる為にけいきを人質、といいますか菓子質を取っています。

此処では私しか作れませんので、鈴々ちゃんに抗う術は無いのです。

「桃香様、そろそろお時間では?」

「うん、行ってくるよ♪」

桃香様は毎日のように城下の人達と交流されてます。

そこで聞かれた民の意見を政に反映させる為に。

以前の私は桃香様のそういった行動に好意的ではありましても、政とは別と考えていました。

個人の意見は国全体を見れば相反する事も多く、現実的かつ効率的とはいえないと。

・・恥ずかしながら、何の為に政を行なっているのかを忘れていました。

単に現実を直視しようとしない臆病者の言い訳をして、楽な方に逃げようとしていただけでした。

個人の意見に耳を傾けれない者に、真に国の事を考えられる訳がないのです。

水鏡先生の下を飛び出した時の志。

乱世の中で見失っていた気持ちをようやく取り戻せました。

今の状況が落ち着いたら先生に手紙を出すつもりです。

不肖の生徒は初心に戻って日々頑張っています、と。

 

南皮を陥とした後、俺は続いて降服した?に向かった。

?は今後河北地域の中心となる地なので、逸早く統治体制を整える為に。

兵站の事もあり本軍の侵攻は一旦ストップで、要注意の左慈軍にだけ別働軍を動かしている。

続々届けられる報告から、待ちに待った物が遂に届いた。

よしっ!

かつかつだった糧食を新たに確保出来た報告を貰って、どうにか遠征を持続できる目途がついた。

このまま相手が態勢を整え直す前に一気に決めたい。

「雛里、皆に通達を」

「は、はい」

「凪、兵の再編を。愛紗と華雄に副将をやってもらう」

「御意」

冬が来る前に、決着を付ける。

 

 

見渡す限りの軍勢。

こんなボロい砦と三百足らずの兵に対して、フンッ、念の入った事だ。

おまけに此方の兵糧は残り少ない。

「これ程の兵が回ってきたという事は、おそらく南皮が陥ちたのでしょう。左慈、申し訳ありません。全て私の落ち度でこのような事態を招いてしまいました」

気落ちした于吉の態度が癇に障る。

「俺が決めた事だ、謝罪される謂れはない」

「左慈」

そうだ、俺に悔いなど無い。

仮に心臓が止まったとしても、心が在る限り俺は奴に刃を向け続ける。

 

説明
仲国本拠地 南皮が一刀の手に落ちる
動揺を隠せない魏国に打つ手はあるのか。
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コメント
左慈は降伏せんのか、死んでほしくはないけどなぁ^^;(nao)
相変わらずかっこいい管理者どもめ、しかし華琳様がどんどん精神的に疲弊してるなぁ(未奈兎)
タグ
左慈 朱里 秋蘭   北郷一刀 真・恋姫無双 

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