真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 30
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〜天幕〜

 

(北郷……! あの馬鹿の首、斬ってもいいか……!?)

(落ち着いて玄輝! それだけはダメ! 殺気ももう少し抑えて!)

(玄輝さんどうどう!)

 

 なぜ初っ端から俺が首切り衝動に襲われているか。その答えは単純だ。この軍議を無駄に長引かせている張本人が目の前で無駄に優雅な(むしろ行き過ぎて下品とも思える)しぐさで同じようなことを何度も言っていたからだ。

 

「皆さん、何度も言わせていただきますけど、我らが連合軍を効率よく勝利に導くにあたり、決定的に足りないものがありますわ」

(だからその話は6回目だって……!)

(玄輝、どうどう! 気持ちはすっごくわかるけど!)

「……おほん」

 

 今、意味ありげな咳払いをしたのがこの軍議を無駄に長引かせている張本人、袁紹その人だ。無駄に金ぴかな鎧をまとい、鬱陶しいレベルの巻き髪。若干人を小ばかにしているような物言い。

 

(このアマ……! 町中であれば切り捨てているものを……!)

(玄輝さん! 口から出てる! 言葉が口からものすごく小さく出てる!)

「兵力、軍資金、そして装備。まず間違いなく完璧と言えるこの連合軍。ですが、その一つがない以上、動かすには大変な危険が付きまといますわ。それが何かわかる方はいらっしゃいませんの?」

(お前がいないだけで十分機能すると思うが……!)

 

 どうにか今の言葉だけは脳内で収めたが、いつ頭の血管が切れるかわからない。いや、比喩じゃなくて本当に。物理的に。

 

 というか、この馬鹿はどれだけ面倒くさいんだ! というかなんでこんなバカが上に立てるんだ! おかしいだろっ! この世界!

 

(はぁ、まさか、袁紹がこんな人だったなんて……)

 

 隣で北郷もため息交じりで愚痴ってるし! てか、あの表情は完全に何かを諦めてるよ! 希望が完全に打ち砕かれてるよ!

 

(ね、ねぇ、ご主人さま。どうしよう?)

 

 劉備が困った表情で北郷に話しかける。

 

(あの様子だと私たちが言ったところで、変なところで長引きそうなんだけど……)

(う〜ん、完全に俺も予想外だしなぁ……)

 

 なんて二人が今後の対策を考えている間にも目の前の馬鹿は延々と「総大将に必要な要素」とやらを並べ立てていく。

 

「第一に、後世に語られるほどの栄誉、連合軍総大将という任を受けるべき人間はそれ相応の家格が必要ですわ。第二に能力。気高く、誇り高く、あらゆる状況も優雅に、そして華麗に打破できる能力を持った者が相応しいですわ。そして、第三に天に愛されるほどの美しさと可憐さ、まさしく優美の頂点とも言える人物、その3つを兼ね備えた人物こそが総大将として連合軍を率いるべき人物だと思いませんこと?」

 

 最後は笑顔で締めくくるあたり、本当に斬りたい。ぶった斬りたい。

 

「はぁ」

 

 小さく溜息を吐いて口を開いたのは曹操だ。さっきから適当に流していた彼女もいい加減我慢の限界が来たのだろうか。

 

「それで? その並べ立てた御託に合う人材はこの陣にいるのかしら?」

 

 呆れ3割、苛つき2割、嫌み5割といった感じの声色で誰もが思ったであろう言葉を投げつけた。だが、袁紹はその声色の意味を特に考えてないのか、いや、理解できないのかはわからないが、先ほどと何にも変わらない表情と口調で答える。

 

「さぁ? 私にはわかりかねますわね。私もある程度は人を見る目がある、と自負しておりますけど、これといったお方は……。華琳さんはご存知?」

(ん? 今の名前は……?)

 

 たしか、曹操の真名じゃなかったか? なんでこの阿呆が呼んでいるんだ?

 

(まぁ、気にすることじゃねぇか。てか、知り合いならどうにかしろよ、この状況……)

 

 ちょっと真名の件で空気が抜けた俺は外套の中で握っていた棒手裏剣をゆっくりと手放した。

 

「さぁ。私もそんなに見てないから意見は控えさせていただくわ。でも、案外身近にいるかもしれないわね」

「そうでしょうとも。ええ、そうでしょうとも。おーっほっほっほっほ!」

 

 あ、やっぱ握ってよう。いつでも仕留められるようにしておこう。うん。

 

(ねぇ、ご主人さま、玄輝さん、どうしよう?)

 

 俺を抑えなくてもよくなったからか、劉備が小さな声で話を切り出した。

 

(このままだとまずいよ。絶対に進展なんてしないよこのままじゃ)

 

 それに北郷が同じような声で答える。

 

(うん、そうだね。袁紹と同規模の力を持つ曹操が発言を控えている以上は誰も発言なんてしないと思うし、この辺りで切り出してみようか)

(わかった。じゃあ、行くね?)

 

 と、劉備が少しだけ深呼吸をした後で、意を決し、その手を上げて口を開いた。

 

「すみません! 少しいいですか?」

 

 途端に天幕の中の視線が一気に劉備へと集まった。それに少しだけたじろいだ劉備だったが、その目に力を宿して話を続けた。

 

「今、私たちが話をしている間にも董卓軍はどんどん力をつけちゃいますよ!」

「あら、あなた、どこの方かしら? 見ない顔ですわね……」

「平原の相、劉備です。皆さんはあの手紙を見て集まったんですよね? なら、こんなところで総大将がどうのこうの話しているなんておかしいですよ! こうしている間にも董卓さんは力を溜めて、何の罪もない人が苦しんでいるんですよ!」

(……ほぉ)

 

 驚いた。話し始めた劉備が何とも堂々とした態度で話していることに。普段はなんとも頼りない雰囲気を醸し出しているのに。

 

(案外、土壇場に強い人間なのかもな……)

 

 そう思いながら俺は劉備の話に耳を傾ける。

 

「それに、董卓さんが力を溜めるってことは私たちに付いてきている兵隊さんたちの被害も増えるんですよ。そんなことがわからない皆さんじゃありませんよね?」

 

 その言葉に周りの諸侯の目に攻撃の色が宿る。だが、その諸侯より金髪馬鹿のほうが言葉を出すのが早かった。

 

「まぁ、新参者は良いことをおっしゃいますわね。では、あなたはご存じなのね? この連合を率いるべき人間がだれなのか、を」

 

 その言葉に劉備はため息交じりに言葉を返した。

 

「ふさわしいかどうかは別にして、袁紹さんでいいんじゃないですか? 袁紹さんご自身はそう思われているのでしょ? ほかにやりたいって人がいない以上は問題ないと思いますけど」

 

 劉備はそういうと、今まで口を開かなかった諸侯たちをぐるりと見渡す。

 

「……反対の人はいないみたいですね。あとは袁紹さんご自身の判断です」

 

 その言葉に眉を吊り上げる袁紹だったが、一度咳払いをしてさっきまでの表情に戻してその返事を返す。

 

「そこまでおっしゃるのでしたら、このわたくしが総大将になって差し上げても構いませんわよ?」

 

 だが、その返事の仕方は色々と突っ込みどころが満載だった。これにはさすがに俺も反論せざるを得ない。

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「袁紹殿、失礼を承知で言わせていただきたい」

「……あなたは?」

 

 袁紹のやつがいかにも見下したような表情を作ったが、それは無視して話を続ける。

 

「劉備殿とともに戦っている、御剣と申します。先ほど、劉備殿は“袁紹殿ご自身の判断”と言いました。ですので、誰もあなたに“なってほしい”とは一言もおっしゃっておりませぬ。もし、いやだとおっしゃるのであれば、断っていただいても何ら問題ありませぬ」

 

 そこで一度話を切って劉備を見る。彼女は一瞬きょとんとしたが、俺の視線にうなずいてくれた。

 

「もし、引き受けていただけないのであれば、言った手前、このわたくしが総大将の任をお引き受け足しましょう」

 

 この言葉に全員が驚いていた。まぁ、当然といえば当然だろう。いきなりぽっと出てきたやつで、しかも大した兵力を持っていない奴がこの連合を率いる、なんて言い出したのだ。驚かないはずはない。

 

「先ほど袁紹殿がおっしゃっていた条件、3の条件に関しては少々お時間をいただきたいところではありますが、1に関しては私、天の御遣いの護衛である以上、それなりの地位にいた人間です。それに、2の条件も、天の国では百万の軍勢を引いたこともあります」

 

 と、嘘八百を並び立てると、袁紹は下瞼のところをひくつかせながら、自身の意見を述べる。

 

「き、聞いたことがありますわ。天の御遣いがこの世界に降り立っていると。ですが、ここは天ではありませんわ。天での地位がこの世界で通じるとは……」

「ふむ、ということは袁紹殿が引き受けてくださるということですな」

「なっ」

「そうでしょう? 私が出したのは“引き受けてくださらない場合の意見”です。それを否定されるということは“引き受けてくださる”ということですよね?」

「べ、別にそういう意味で言ったわけではありませんわ! 曲解を……」

「では、どのような意味なのです? そして、結局、受けるのですか、受けないのですか? あまり時間がないのです。早急な説明と返答を願います」

 

 早口でまくしたて、反論を許さない口調で急き立てると“うぐぐ……”といった表情になって、一度目を閉じてから、返事を返した。

 

「いいでしょう。そこまでおっしゃるのでしたらこの袁紹、総大将の任を引き受けて差し上げますわ! 感謝なさい!」

(いや、する道理がないんだが)

 

 なんてことを思っていると、曹操が椅子から立ち上がった。

 

「決まりね。では袁紹が総大将ということで兵には伝えるわ」

 

 そう言って足早に天幕を後にする。だが、その時、一瞬だけ俺と目が合った。

 

「ん?」

 

 その時見せた表情は何とも愉快そうな表情だったのが印象的だった。

 

「……私もそう兵に伝えよう。袁紹殿、よろしく頼む」

 

 そういって、褐色の肌の女性も同じように天幕を出ていこうとするが、

 

「ん? 曹操? 軍議は終わったのか?」

 

 休憩を終えた公孫賛がちょうど天幕から出て行った曹操に話しかける。

 

「あら、公孫賛。そうよ、袁紹が総大将をやってくれるそうよ」

「ほぉ。で、作戦は? 天幕を出るってことはそれも決まったんだろ?」

「いいえ。あぁ、私としたことが忘れてたわ」

 

 そういって、曹操が再び天幕に顔だけ見せた。

 

「作戦はあとで教えて頂戴。総大将の妙案、期待しているわ」

 

 そう告げて再び出て行ってしまった。

 

「私も曹操と同じように頼む。兵たちに少々、話さねばならんことがあってな」

 

 それだけ言うと、褐色の女性も出て行ってしまった。

 

「なんじゃ、あの二人は。身勝手じゃのぅ……」

 

 そう言ったのは袁紹に似た雰囲気の少女だ。おそらく、袁術だろう。

 

「前途多難だなぁ、おい。で、本初、どうするんだ?」

 

 曹操と褐色の女性を見送った公孫賛が袁紹に話しかける。

 

「……ふんっ。私に期待している、頼むといった以上は従ってもらうまでですわ」

 

 そんな捨て台詞を吐いた袁紹は俺たちに向き合う。

 

「さて、御剣さんとやら。あなたの発言で私、総大将という責任の重い仕事を引き受けたわけなのですけれど……」

(まっ、そう来るよなぁ)

 

 まぁ、こうやって“責任はお前たちにもあるぞ”みたいなことを言ってくるのはある程度、予想していたことだ。

 

 そんなことは露知らず、袁紹は言葉と続ける。

 

「洛陽を不法に占拠している董卓の軍勢はわが連合軍とほぼ同等。そうなれば、いかに私と、いえ、いかに優れた総大将だとしても、苦戦は必至、そうではありませんこと?」

「まぁ、そうでしょう」

 

 これに関してはおかしいことではない。同等の戦力で、城を守る側と攻める側、どちらが有利と言われたら、守る側だ。

 

 これは師匠の受け売りだが、城やら関を攻めるには3倍以上の戦力が必要だ。そうなれば、同等の戦力であるならば、苦戦するのは目に見えている。それに、董卓軍にもし、援軍が来るのであれば、こっちが危うくなる。

 

「そ・こ・で! 先ほどああもおっしゃった御剣さん、そしてともに戦っている劉備さんにお願いがあるのですけれど……」

「お願い、ですか……」

 

 その言葉に劉備は眉をひそめる。

 

 そして、袁紹はニタリと笑いながら”お願い”を口にした。

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はい、やっとこさ30回でございまする。

 

この董卓編、無事に乗り切れるか不安でございます……

 

次回更新は例のごとく、不定期ですので、のんびりと待っていただければと思います。

 

では、また次回。

 

説明
白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話

真・恋姫†無双の蜀√のお話です。

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。

























大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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コメント
さて、本当に大丈夫でしょうか……?(風猫)
玄輝よく我慢できたな…w これから先陣切ることになるでしょうが、玄輝がいるなら大丈夫でしょう(虎牢関は心配ですが…)(はこざき(仮))
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鬼子 蜀√ 真・恋姫†無双 オリジナルキャラクター 

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