真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 31
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「ええ。何も難しいことではありませんわ。連合軍の戦闘で勇猛果敢に戦って、皆さんの士気を高めていただきたいのですわ。ああ、もちろん、もしもの時に備え、我が袁家の軍勢が後ろに控えていますから、何も心配いりませんわ」

「……ちょっと待って。それは俺たちに先陣を切れってことかな?」

 

 袁紹の言葉に返事を返したのは北郷だ。

 

「どなたですの? 私が話しているのはそこにいる御剣さんと劉備さんですわよ」

「と、これは失礼。俺の名前は北郷一刀、一応、そこにいる桃香たちの主人をさせてもらってる」

「北郷……? あぁ、そういえば天の御遣いは二人でしたわね。まぁ、どちらにせよ胡散臭いのは変わりありませんわね」

「そうそう。さすがは袁紹さん。で、俺の質問に対しての返答は?」

 

 さらっと北郷が流したのは気にならなかったのか、袁紹は表情一つ変えないで返答する。

 

「ええ。そうですわ。でも、先陣は武人にとって誉、であるなら喜んで引き受けてくださるでしょう? ああ、これは私からのささやかな“お礼”ですわ。お気になさらないでください」

 

 はいはい。お礼ね、お礼。

 

(まぁ、意味合い的には“嫌がらせ”のほうだろうがな)

 

 どうせ、先の意趣返しで捨て石にでも使おうとしているのだろう。そのことは北郷とてわかっているはずだ。

 

「お礼、ねぇ……。断ったら?」

「名誉ある役目、そして、総大将である私からのお願い、受けていただけると信じておりますわ」

 

 北郷の問いに答えた袁紹はにこやかに言い切った。

 

 北郷は少しだけ考えて、もう一度口を開いた。

 

「わかった。でも、それを引き受けるにはいくつか条件を飲んでもらいたい」

「条件? まぁ、いいでしょう。聞くだけは聞いてあげますわ」

「申し訳ないけど、実行してもらわないと困る。まず一点目、俺たちに兵糧を分けてくれ。一月分でいい」

 

 その言葉に袁紹が明らかにいやそうな表情になる。

 

「自分たちの食事ぐらい、自分たちで何とかするのが普通ではなくて?」

「なら、俺たちは先陣には立てない。それに、誉のある役目なんだろ? ならほかの諸侯にお願いすればすぐに引き受けてくれるだろ? 曹操や、え〜とああ、孫策とか、袁術とかにさ」

 

 北郷の話を聞いてますますいやそうな顔になる袁紹。だが、そんなのはお構いなしに北郷は話を続ける。

 

「どうする?」

「……いいでしょう。幸い、わが軍には思わず唸るほどの兵糧がありますし、恵んで差し上げますわ」

「ありがとう。で、二点目。兵士を貸してくれ。数は、そうだな、とりあえず5千」

 

 その言葉にいやそうな表情から驚きの表情へと変わる。

 

「ご、五千ですって!? 何をおっしゃっているの、あなたは! そもそも、あなたたちの兵で戦えばいいではありませんの!」

 

 と、北郷は“待ってました”とばかりにほくそ笑んでから(無論、袁紹には見えないように)、返事をした。

 

「いや、先陣って名誉ある役目だし、俺たちで独り占めするのはどうかなぁって思ってさ」

「うぐ」

「それにさ“先陣を務め切った劉備軍。しかし、その中心には袁紹軍の精鋭部隊が!”なぁんて話が合ったほうがそっちにとってもいいんじゃないかなぁ、と思って」

 

 なんともわかりやすい餌だが、この金髪には……

 

「……いいでしょう。五千ですわね。貸して差し上げますわ」

 

 まぁ、効果抜群なわけで。

 

「さすが。気前がいいね、我らが総大将は。器が違う」

「そ、そうでしょう。まぁ、我が袁家は三国一の名家、そしてその当主である私は間違いなく三国一の器といっても過言ではありませんわ♪ お〜っほっほっほっほ!」

 

(いや、今の皮肉だろ?)

 

 よくもまぁ、あそこまで前向きにとらえられるもんだ。感心する。

 

(ねぇ、ご主人様、玄輝さん)

 

 と、劉備が俺たちに小さい声で話しかけてきた。

 

(袁紹さんってさ、ものすっごく扱いやすくない? 私びっくりしてるんだけど……)

 

 あ〜。

 

(俺も同意見だな)

(うん、俺もそう思う。おかげで楽ができたよ)

 

 とは言った北郷だが、俺に少しだけ目くばせをする。

 

(でも、今の俺たちにこの人は脅威だ。少なくても敵にならないようにしたいから、玄輝はあとで謝っといてよ?)

(うぐ、すまん)

 

 確かに、ちょいとやりすぎたか。

 

(ふふふ、玄輝さんがご主人様に怒られるのってなんか新鮮)

 

 そういった劉備は小さく笑って、すぐに表情を切り替え、いまだ上機嫌の袁紹に話しかける。

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「えっと、じゃあ、先陣の件は私たちが承るけど、作戦は? それがないと動きようがないのだけれど」

 

 だが、その返答はただあきれるしかないものだった。

 

「作戦? そんなもの必要ないでしょう?」

「……はい?」

「……へっ?」

「…………ん?」

 

 俺たち三人ともが別々のリアクションをしてから、もう一度劉備が話しかける。

 

「え、えっと、もう一度お願いします。聞こえなくて、えっと、作戦は?」

「ですから必要ないでしょう。苦戦はするといいましたが、それだけですわ。我が軍の勝利は決まっているようなものですもの。細かい作戦など考える必要はありませんわ」

「か、考えてなかったんですかぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?!?」

 

 なんとも珍しい劉備の大声に驚いた袁紹だが、すぐに気を取り直して咳払いをする。

 

「べ、別に考えていないわけではありませんわ。言ったでしょう“細かい作戦など考える必要がない”と」

「そ、そうだよな。こんな大軍勢を動かすんだから、作戦を考えてないなんて、そんなわけないよな」

「そ、それもそうだよね! 私びっくりしちゃったよ、ご主人様」

 

 なんて二人して乾いた笑いをしているが、俺は笑えなかった。いやな予感しかしないからだ。だって、袁紹だぞ?

 

 でも、話を聞かない限り、終わりはない。俺は意を決して袁紹に聞いた。

「そ、それで、その作戦は?」

「雄々しく! 勇ましく! 華麗に進軍せよ! ですわ!」

「“…………”」

 

 俺たち全員が絶句した。

 

「な、なんですの? そんな間の抜けた顔をして……」

 

 こいつ、本気でこれを、こんなのを作戦だと思っているのか……?

 

 二人を見れば、俺と同じような表情をして、袁紹を見ていた。そう、まさしく“呆れ”というお手本とでもいえるべき表情だ。

 

「……はっ! あ、あ〜、ご、ごめんなさい。その、予想外すぎる作戦だったからつい、その、思考が止まっちゃって」

「まぁ、私の素晴らしい作戦に絶句してしまったのですね。でも、仕方ありませんわね。このわたくし自身、まるで雷に打たれたかのような衝撃でしたもの、この作戦を思いついたときは」

 

 うん、俺も今、同じ衝撃を受けていると思う。

 

 北郷もようやくいつもの思考に戻ったのか、首を一度だけ振って、袁紹に確認をとる。

「えっと、つまり、雄々しく、勇ましく、そして華麗に前進さえしていればこっちの好きなように動いていいってことだよな?」

「ええ、それで構いませんわ。そもそも、個々の動きを総大将が考える必要なんてありませんわ。私の作戦通りに戦っていただければ結構ですわ」

「了解。つまり、事に当たっての作戦は、各々の部隊で考えるということで。じゃあ、俺たちは陣に戻らせてもらうよ。あ、あと、兵糧と兵の手配、頼むよ」

「言われなくともやりますわ」

 

 そう不満げに言った袁紹に北郷が念を押した後、俺たちはようやく天幕を後にした。

 

 その帰り道、盛大なため息交じりに劉備が自身の気持ちを吐露した。

 

「私すっごく不安なんだけどぉ〜。ご主人様と玄輝さんは?」

「俺も不安。総大将があれだもんなぁ……」

「まさか、“ただ”総大将になりたかっただけなんて、誰も思わねぇよな……。俺も劉備と同意見だ」

「だよねぇ。あんなので大丈夫なのかぁ……」

 

 おそらく、駄目だろうなぁ……。

 

「……総大将より、ほかの諸侯のほうが頼りになるだろうな」

「そうだね。例えばだけど、曹操とか……」

 

 北郷のその意見に劉備は考えるそぶりをしながら答える。

 

「う〜ん、でも、曹操さん、あんまり乗り気じゃなかったように見えたよ? あんまりまじめに戦うつもりはない気がする……」

「桃香もそう思う?」

「うん。たぶん、いかに自分に有利な状況を作って、最大限の結果を得られるかを考えているんじゃないかな、曹操さんは」

「そう、だね。曹操ならそう考えると俺も思う」

 

 確かに、あの曹操ならそう考えていてもおかしくはない。

 

 と、ここであることを思い出した。

 

「……あ、そういや、洛陽に放った細作、そろそろ着くんじゃないか?」

 

 出発する2,3日前に放ったから、そろそろここに合流してもおかしくはないはずだ。

 

「そうだね。もしかしたら、もう陣にいるかも!」

「なら、早く戻るか」

「うん!」

 

 そういって劉備は一足先に駆け出した。北郷も一緒に駆け出そうとするが、俺はそれを引き止める。

 

「すまん、先に行っててくれ。あの金髪に頭下げてくる」

「あ、じゃあ俺も一緒に行こうか?」

「いいさ。扱い方はさっきので学んだ」

 

 それだけ言うと、俺は袁紹がいる天幕に戻った。

 

 まぁ、特段言うことなく謝罪は受け入れてもらった。もらったのだが、その話の途中で俺は思わぬ話を袁紹から聞くことになる。

 

「そういえば、あなた白装束の軍団について何かご存じ?」

「……今、何て言った? 白装束?」

「ええ。なんでも董卓さんの軍にいるようですのよ。見たこともない奇怪な武器で戦っているようなのですけど……」

「……いや、わからんな」

「そうですの? 案外役に立ちませんわね、天の情報とやらも」

 

 そのあとも延々と皮肉を聞かされた気がするが、俺にはどうでもよかった。それ以上の、俺にとって喜ばしい情報が手に入ったのだから。

 

(あいつらが、この世界にいる……!)

 

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はい、どうも風猫です。

 

そんなこんなで31話目です。はい。

 

相も変わらず不定期更新ですが、長い目で見てもらえればと思います。

 

それでは、また次回。

説明
真・恋姫†無双の蜀√のお話です。

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。


























大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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コメント
玄輝は必要とあらば頭を下げることに抵抗はない人間です。ただ、頭より先に刀を振るうこともありますがw(風猫)
玄輝が麗羽に頭を下げた、だと…(ゴゴゴゴゴ) お、白装束さんここにはいるんですね、玄輝とどんな因縁があるのやら…(はこざき(仮))
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オリジナルキャラクター 鬼子 蜀√ 真・恋姫†無双 

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