異能あふれるこの世界で 第十九話
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【阿知賀女子学院・麻雀部部室】

 

≪南三局・開局前の末原恭子≫

 

 

恭子『……』

 

恭子『上手いことやられたな』

 

恭子『赤土さんの6ソウ。恐らくはあれでイーシャンテンかテンパイ。危ない思うた瞬間に切られたから78ソウで仕掛けてもうたけど、かわし手でいく予定はなかったんや』

 

恭子『配牌がそこそこ良かったからな。手を作ってくる戒能プロの遅さを突いて、面前同士で戦うつもりやった。親の戒能プロからリーチが来たとしても、追っかけたるくらいの気持ちでおった』

 

恭子『戒能プロのテンパイは、赤土さんが勝手に対応すると思うとった。任せとけば親をかわせる可能性は高かった。実際、仕掛けさせられて差し込みまでやってくれた。これはこれで良しと見ることもできる』

 

恭子『けどなあ。あの6ソウ仕掛けんまま私が突っ込んでいったら、赤土さんの予想を外せたはずなんや。予想を外された時にどう打ち回してくるか。直接対決をする前に、それだけは確認しときたかったな。めっちゃ危険な賭けではあるけど、知りたい情報を得られる機会やった。迷ってるとこに絶妙な牌切られて、流されるように仕掛けてもうた』

 

恭子『完全な失策や』

 

恭子『仕掛けた結果、怖い怖い戒能プロの親が流れた。加点もできた。私にも大いに得はあった。けど、狙ろうてたことは全くできんかった。赤土さんの考えは一切わからんまま、対決せなあかんくなった』

 

恭子『対して赤土さんは、少しの失点で唯一と言ってもいい敵の親を潰しとる。戒能プロがトップに立つには、跳満以上のあがりか二回連続のあがり、そうでなければ満貫ツモが必要になった。警戒の度合いを少し下げてもええ状況を作れたってことや』

 

恭子『現時点で上位の私に加点させてでも、戒能プロをより苦しい状況に追い込みたかったんやろな。それはつまり、点数的に上におる私ら相手なら、親込みの二局で確実に逆転できる自信があるっちゅうことや』

 

恭子『……』

 

恭子『たまらんな』

 

恭子『この対局と全く同じことが姫松の麻雀部で起こったんなら、私は現状を有利だと判断する。さっきのあがりも、食わせてもろうて差し込みまでもろうたとは思わん。赤土さんの立ち位置にいる奴の親なんぞ無視でええ。最悪、少々あがられてもオーラスの親が残っとるからな。ただトップだけを狙ろて、いつものようにあがりを目指すはずや』

 

恭子『けど、今は赤土さんが怖あてしゃあない。赤土さんは異常や。いや、むしろ異様とでも言うてやりたいわ』

 

恭子『局面操作能力がやばすぎんねん。赤阪監督もそういうんは得意な方やけど、あの人のは純粋に性質が悪いだけや。上手くみんなを苦しめるきっつい打ち方をしてくるからな。けど、こういうんは他にもちょいちょいおる。さして珍しゅうもない』

 

恭子『赤土さんのは、他の人のと根本から違う。共闘したい人にも得があるような展開にして誘うてくる。普通に打っとったら、気持ちよう乗せられて便利な駒にされてまうんや。操られとることすらに気付かんまま、するっとトップを取られる感じ。たぶん、調子ええと思わされたまま負けていった奴も結構おるんちゃうか。私かて、調べてなかったら気付けたかどうか』

 

恭子『……くそっ』

 

恭子『ほんまどんだけや!お前どんだけ見えとんねん!!人の心理まで見通せるんか?やばすぎるやろ。それは異能持ちと言うてもええんちゃうんか?』

 

恭子『私の今までのあがりかて、だいたいは赤土さんが戒能プロを抑えるためのもんやろ。ええとこで仕掛けたくなる牌を選んで切ってきとったんや。綺麗にあがれすぎとったし、肝んとこを簡単に食わせてくれるからめっちゃ楽にテンパイできとったし。思い返せば、私に対して無警戒って理由だけでは説明できんことが山ほどあったわ』

 

恭子『ああもう……気付くのがもうちょい早かったらなあ。さっきの6ソウまでにこの考えを持てとったら、誘いには乗らんと決めておくことができた。反応せんで済んだんや』

 

恭子『危険を感じて仕掛けるんやない。当初の考えのまま面前に固執するんでもない。危険を感じた上で、腹括って赤土さんの狙いを外しにかかる一手。赤土さんの危険度を読み違えとったことを認めて、戒能プロと共闘を持ちかけつつ赤土さんを叩きにいく。これや。きっとこれが最善やった』

 

恭子『私が食わんかったら、まずは親の戒能プロと赤土さんの戦いが始まっとった。結果はどうなるかわからんけど、戒能プロがあがってもまあ許容範囲ではある。親の跳満までいくと辛いけど、満貫までならなんとかなる点数に収まってくれる』

 

恭子『この二人が争うんなら、紛れがおこる可能性も出てくる。そこへ私が突っ込んだら、三つ巴になってえらい難しゅうなる。運任せのとこはあるけど、そもそも実力が段違いなんや。勝負に持ち込めるだけ御の字ってもんやろ』

 

恭子『赤土さんの警戒を強めるんなら、最悪降りることも視野に入れてええ。二人の戦いにさせるだけでも意味はあるからな。赤土さんは私と共闘する予定で打ってたんやから、予定を外したった後の打ち回しは全て良質の情報や。降りながら情報収集だけしていく、千里山の浩子みたいな打ち方をするんも面白かった』

 

恭子『私を操れん時もあると思わせることも意味あるし、戒能プロとの共闘を辞さない姿勢を見せるんも意味あるし。赤土さんの親、オーラスの私の親と迎える上で、赤土さんの思考に迷いを産み付けることができてたかもしれん』

 

恭子『これ、絶好の機会逃してもうたんちゃうか?』

 

恭子『……』

 

恭子『ああああああああっ!』

 

恭子『よう考えたら致命傷やないか!遅いわ。遅すぎんねん!』

 

恭子『なーんもせんと赤土さんの親とか迎えてもうて、どうするつもりや!早あがりしようにも上家は赤土さん。ほいほい食わせてくれるわけないやんけ』

 

恭子『他の二人に期待、と言いたいけどこれもあかん』

 

恭子『戒能プロはこの局で手を作りにくる。オーラスに手を作るんは、トップ目が私か赤土さんになる可能性が濃厚なこの状況では厳しい。ここで満貫級をあがって、オーラスの速度勝負に参加したいやろ』

 

恭子『ならこの局もまた手が遅うなる。配牌が良かったら別やけど、それならそれで捨て牌に出るしな。そんなん見せたら赤土さんに対処されてまうわ』

 

恭子『小走さんは終わってもうてる。ああなったらあがれん。どんだけ頑張っても無駄や』

 

恭子『話には聞いとったけど、インハイでほんまの意味を体験したわ。それまでは心が折れたら負けなんは麻雀の摂理。歯あ食いしばるんが麻雀や、と思うとった』

 

恭子『けど、そんな甘いもんちゃう』

 

恭子『そこにおるだけで重圧をかけてくるような化物を相手にするんなら、正面からぶつかるんは避けなあかん。心に重圧を受け続けたら、そのうち折れてんのと同じくらい心を削られてまうからな。凡人が化物相手に競り合い続けたら、待ってるのは確実な敗北や』

 

恭子『あの人らの重圧を受けた小走さんは、もう動けん。あれは食ろうたらあかんのや。私は小走さんのように点差をつけるつもりは端からなかった。最後のちょい差し、または微差トップでの逃げ切り。勝ち目はこれしかないと思うとった』

 

恭子『正しかったんや。私はまだまだ戦える位置におる。善戦してると言うてええ』

 

恭子『だからこそ、この局。赤土さんの親。ここで赤土さんと直接戦わなあかんくなった。今、赤土さんとまともにトップ争いができるんは私だけになってしもた』

 

恭子『正直言うたら、オーラス勝負に持ち込みたかった。直接対決で勝てる気せえへんもん。仕掛けが得意な私が、上家の透け透けお化けと戦うんやで?ははっ、そんなん一つ勝つだけでも奇跡やろ。二つ続けて勝てるわけないやん。笑わせんな』

 

恭子『……』

 

恭子『ああもう、逃げたい止めたい帰りたい。なんでこんなやばい面子と打たなあかんねん。小走さんだけでもきついのに、プロとセミプロ交えて相手にするとかぜんっぜん聞いてへんわ』

 

恭子『進路に迷って監督頼ったら、他の学校の監督に麻雀教われー言われて放り出されて。初めての学校にお邪魔したらいきなりこの豪華な面子で対局?こちとら何の準備もできてへんっちゅうねん』

 

恭子『そもそも私は大阪出てから緊張しっぱなしなんや。戒能プロ来た時は限界越えて手え震えてもうたし。考えんようにしてたけど、たぶんもうずっと前からテンパってもうてる。私は今、まともに打てとるんか?まともに考えられとるんか?』

 

恭子『なんかもう、なんもかんも、ようわからんくなってきてないか?こんなんでやれるんか?あの赤土さんの親に向かっていけるんか?』

 

恭子『私は麻雀を打ち続けられるんか?』

 

恭子『……』

 

恭子『……』

 

恭子『……』

 

恭子『わかっとる』

 

恭子『やるしかないねん』

 

恭子『この局や。作戦とかなんもないけど、ここ勝ち切らんと勝負が終わる。オーラス行く前に勝負ついてまう。この対局を、そんなつまらん麻雀にしとうない』

 

恭子『勝てるとか思うてへんわ。もうな、ほんのちょっとでええ。ほんのちょっとでええから、あの人らにあれっと思わせたらそれで満足や』

 

恭子『びびらせてやりたいな。私にトップを取られるかもっちゅう考えが、ちらっとでも頭をよぎってくれたら最高やないか。私が負けるんはもうわかっとる』

 

恭子『善野さんが部員集めて言うてたわ。お前ら相手ならオーラスの親で千点しかなくても負ける気せえへん、て。ほな試そか言うて先輩方が千点対三万三千点で打ってみてたけど、あっさり飛ばされて抜け殻みたいになっとった』

 

恭子『たぶん、監督になった善野さんよりもこの人らの方が強いんやろ。んなもん勝てるかい。畏れ多うて笑ろてまうわ』

 

恭子『そんくらいの差がある相手なんや。勝ち目なんてなくてええ。今できること全部ぶつけたる』

 

恭子『この局、全力でいく!』

 

 

 

説明
思考、判断、覚悟など(末原恭子視点) 
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 麻雀 末原恭子 赤土晴絵 小走やえ 戒能良子 新子憧 

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