夏祭りへの誘い
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 季節は初夏、リムサ・ロミンサが賑わいをます季節。

 冒険の合間にちょっと暇ができたので尋ねたキャンプ・ドラゴンヘッドにも、遅めの夏が到来していた。

 夏というよりは短い春といったほうが適切かもしれない、雪が程々に溶けて草原が少しだけ芽吹く頃合い、そんなクルザスをオルシュファンと一緒に歩いていた。

 目的地も何もない、散策という名の短い逢瀬である。

 竜詩戦争が終わりを告げたとはいえ、場所が場所だけに武器の携帯は怠れないのが少々色気に欠けるが……。

 

「クルザスは夏でも涼しいわね」

「やはり他の地域は暑いのか?」

「そりゃもう、グリダニアは木陰があるけどその分湿気があるし、ウルダハは言わずもがな、ね……この季節にあの灼熱の太陽を浴びたくはないわ」

「どうせどこにいってもその黒渦団のコートを着たままなのだろう? そんなだから暑いのではないか?」

「……否定はしないけど」

 

 確かに、場所に合わせた格好をすればもう少し過ごしやすくはなるだろう。

 だからこそ、私はいつもコートとかそういった服を好むということを、きっと彼はわかっていない。

 クルザスではこれぐらいで丁度いい、ということを……。

 

「しかし夏か……そういえばリムサ・ロミンサのほうでは催し物があるそうだな」

「ああ、紅蓮祭のこと? 確かにそろそろね……レドレントが新作の水着をデザインしてたっけ」

「ほう……新作の水着か、それはイイな……」

 

 ぐっと力を込めて語る彼に、いつもの癖が始まったなぁと思う。

 鍛え上げられた冒険者達の肉体美が見れる、とか思っているのだろう、まったく。

 

「着ないからね」

「む、なぜだ? おまえにならきっとよく似合う。いや、お前ならなんでもよく似合うと思うぞ」

「肌を晒すのは好きじゃないって、前から言ってるでしょう」

「確かにそうだが、そうした場に合わせた衣装を着るのもダメなのか?」

「人が多く集まるから余計に無理。ミコッテ族らしくはない……と思うけどね」

 

 

 私のアイデンティティは長い旅を経て未だに絶賛行方不明中、ミコッテ族として育った記憶がないから仕方がない。

 ただ、どうにもミコッテ族の衣装は露出が多すぎると思うのだけど。

 

 オルシュファンが見たいというからカミーズの上ぐらいは着れるようになったが、それも落ち着かない。

 水着など着れるものか。

 

「残念だな……何か別の予定を考えるべきか」

「何か予定を入れるつもりだったの?」

「いや、なに。コランティオから休みを取れとせっつかれていてな……私が休まねば部下が休みを取りづらいらしい。クルザスの夏は短いからな、一通り休みを回しておきたいのだそうだ」

「ああ、コランティオも大変ね……」

 

 休む必要性を理解しているはずなのに、何故か仕事を黙々とこなしてあまり自分の休みを取らないオルシュファンを如何に休ませるか、あの手この手を考えるのに必死なのだろう。

 本当に、英雄にも休める場所が必要だろう、とか言う割に自分のことが相変わらず抜けているんだから。

 

「うむ、それでな……リムサ・ロミンサの祭りにお前を誘ってはどうかと提案されてな」

「……」

 

 コランティオ、有能だが手段を選ばぬ男よ……。

 オルシュファンなら二つ返事で「それはイイな!」とか言いそうだ、いや絶対に言った、言ったに決っている。

 

「私もそれはイイ休暇になるかと思ったのだが……」

 

 そんな風に言われると、断りづらいじゃないか。

 いや、それもまたコランティオの策の一つなのだが……あ、だめだこれ。

 回避方法がないわ。

 ヤツの思惑に乗るのは少々尺だが……一緒に過ごしたいと思っているのは、私も同じ。

 これはもう、正面から耐えるしか無いか。

 

「……わかったわよ。お祭り、行きましょうか」

「おお! それでは戻ったら早速いろいろと手配するとしよう」

 

 どうか、彼の選ぶ水着が露出の少なめなものでありますようにと、私は祈るしか無いのだった。

 

 

 待ち合わせ場所はコスタ・デル・ソルのビーチ。

 迎えに行くから待っていてくれと二人だけの直通リンクパールで告げられて、私はなれない水着で肌を晒しながら、早く来てと思わずにはいられなかった。

 さっさと彼を捕まえてどこかに逃げ込みたい……さっきから周りの視線が──おそらく意識しすぎなのだろうが──すごく気になって落ち着かないのだ。

 彼の用意した水着はビキニタイプにパーカーがついたもので、上半身の露出が比較的少ないのが救いだろうか。

 流れていく人の群れの中に、必死に彼の姿を探す。

 待ち人の姿は……まだない。

 

 

 遠目からでも彼女の姿はすぐに解った。

 普段の取り繕ってすましたような様子は何処にもなく、どこか不安げに垂れた耳が庇護欲をそそる反面、このまましばらく彼女らしくないところを眺めていたいとも思わせた。

 おそらく私の姿を探してしきりにキョロキョロしているそのさまがなんとも愛らしい。

 あまり待たせても文句を言われるだろうからと広場へ足を踏み込むと、彼女はすぐに気がついたのか可愛らしい耳と尻尾をぴんと立ててこちらへと駆け寄ってきた。

「遅い!」

 開口一番にこれで、怒っているのかとおもいきや尻尾が大きく振られている。

 これは怒っているわけではないなと苦笑し抱きしめてやると、珍しくそのまま抱きついてくるあたり、本当にこういう格好はだめなようだ。

「すまん、人が多くてな」

「まったくもう……で、何処にいくのよ」

 パーカーを胸元で抑えながら、周りを気にしつつそんなことを言う彼女を少しだけ困らせたくて、人気の多い屋台の方へと促す。

 普段強気に振舞っている彼女が恥ずかしそうにし、耳がうなだれるのを見ながら、そっとエスコートを始めるのだった。

 

 

 肌を晒すことばかり気にしていた自分を叱りつけたい。

 さっきから、私がちょっと串焼きを買いに行ったり、氷菓子を買いに行ったりしてオルシュファンのそばを離れる度に、彼の側に人だかり──それも女の子ばっかり──ができているのだ。

 考えてみれば当然のことだろうに、なぜ私は今に至るまでこの考えに至らなかったのだろう。

 当たり前だと……自惚れてでもいたのだろうか。

 整った顔立ちのエレゼン族で綺麗な空色の銀髪、鍛え上げられた体、多少言動に気になる点があるとしても、それを差し引いて余りある……モテて当然なのだ。

 おかげで私は彼の側に戻ろうとする度にややこしい事になる始末である。

 というかオルシュファンも、なんで寄せたままにしているのか……断ればいいじゃないの!

 なんて、口にだすのもなんだか悔しくて言えないわけだけど。

「はい、串焼き」

 紙でくくられた串焼きの束を渡し、手近なベンチへと彼を引っ張る。

 どこかに腰を落ち着けていないと串が尖っているから危ないというのが半分、せめて背後ぐらい壁にしておきたいという気持ちが半分。

「しかし凄い人だかりだな」

「……そうね」

 貴方の周りは特にすごかったわね、女の子が。

「何か、怒っているのか?」

「……別に」

 オルシュファンの言葉に返事をしつつ、こっちを見て近寄ってくる女に殺意こそ込めないもののじろりと視線を向けて追い返す。

 回りにいるのは冒険者ばかりで、だからか知らないがどいつもこいつもアクティブがすぎる、隣に居るぐらいではダメらしい。

 それとも……私ではやはり不釣り合いなのだろうか。

 

 

 串焼きを買って戻ってきた彼女が私に群がる女性達を見て、尻尾をぴんと立て毛を一瞬で逆立てる様は、普段の冷静な──少なくとも本人はそのつもりで居る──彼女には非常に珍しいものだった。

 怒っているかそれに類するものだろうと思ったのだが、どうにも正直に話すつもりはないらしく、別にとだけ答えてそっぽを向かれる。

 ベンチに腰を下ろした今でも毛並みは逆立ったままで、たまに近寄ってくる女性に殺気混じりの視線を送っているところがとても微笑ましいのだが、私が他の女に目移りするとでも思われているのなら少々不本意だ。

 おそらく、無自覚な嫉妬なのだろうとはおもうが。

 そんな中、腕にふわりとした感触がまとわりついた。

 何かと思えばそれは彼女の尻尾だった。

 ミコッテ族の愛情表現に、相手に対して尾を絡めるというものがあるのは知っていたが、まさか普段素直にならない彼女がそんなことをしてくるとは思わずまじまじとその様子を見入ってしまう。

 彼女はそんなこと気づきもせずに周囲を睨んでいるのだが……。

 言動も行動も素直でない、そんな彼女にとって唯一素直に感情が出る場所が耳と尻尾なのだが、本人はそれに気づいていないフシがある。

 つまりこれは、彼女の無自覚な自己主張、独占欲か何かの現れなのだろう、そう思うと、たまらなく愛しかった。

 今なら抱き寄せても断られるまいと腰に手を回すと、めずらしくも彼女はそっと体を預けてきた。

 ああ、これは、イイ休暇になりそうだ。

説明
2016-07-30にぷらいべったーに投稿したものの転載となります。
NL光受けお題(現在は #FF14光の戦士NLお題)の企画に参加したものになります。
お題「水着」で一本。オル光です。
視点変更がちょろちょろ入る感じでアレかなと思ったけどこれ以上まとまりませんでした!
光♀がミコッテなのはいつもの事。
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FF14 ff14 FFXIV NL オルシュファン オル光 小説 二次創作 ミコッテ 

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