Nursery White 〜 天使に触れる方法 5章 4節
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 “友達の友達”と会う時の、あのお互いを探り合うような感じ。あれ、辛いですよね……。

 なんでこんな場をセッティングしたんだ、と首謀者を糾弾したくなりますが、その首謀者……共通の友達はいるので、そこからなんとか話を膨らませていければ、上手くいくような気はしています。

 ただ、友達同士でも趣味が完全に合うってことは滅多にないじゃないですか。たとえば、アニメ好きっていうのは共通していても、片方はロボットアニメ好きで、もう片方はいわゆる日常系が好きかもしれません。でも、世間的に見ればどっちも「アニメ好き」「アニメオタク」なんてカテゴライズされますよね。それに、たとえ同ジャンルが好きでも「日常系に男性キャラがほしくない人」と、いや、ほしいよ、という人にも別れたりします。ややこしいのです。

 ええっと、主題から遠ざかっていたような。つまり、共通の友達がいる者同士でも、仲良くなれるかどうかっていうのは、かなり運が絡むと思います。

 だからこそ、もしも気の合いそうな“友達の友達”がいましたら、仲良くしてあげてください。その出会いを運命だと感じ、首謀者に感謝しましょう。

 ――まあ、私とあのお二人の場合、幸運なケースです。立木先輩は常葉さんのそれなりの知り合いで、私も全く面識がない訳ではありません。そして、白羽さんと私は友達です。ただね、常葉さん。

「私に誘えっていうのは無理がありません!?」

「なんでよ?あたしと白羽さんはほとんど面識ないんだし、適任でしょ」

「でも、立木先輩と常葉さんは面識あるじゃないですか。生徒会に誘おうと思ってたぐらいの仲じゃないですか」

 絶賛、小競り合い中でございます。

「なんか、ちょっと前ならともかく、今のあたしが立木さんに会うのはなんていうか……」

「何か不都合でも?」

「……わからない?いや、わかりなさいよ!」

「私は確かに常葉さんのことマジラブですが、エスパーレベルの以心伝心じゃありませんよ……」

「なんて言うか、わかるでしょ!あの二人って仲のいい友達だけど、あたしたちと重なる部分もあるって言うか」

「友達以上恋人未満、な雰囲気はありますよね」

「そう、そうなのよ。白羽さんはああいう感じだし、立木さんも奥手の奥手だけど、何かのきっかけがあれば、あたしたちみたいになると思うの」

「……少なくとも白羽さん側からの好感度はマックスっぽいですからね。友好度ではなく、好感度だと断言できると思います」

「それがね、もどかしいし、微笑ましいし、会ったら絶対、余計なこと言いそうなのよ。ほら、学校でのあたしのキャラってああだし、クサイことの一つでも言わないと我慢できないって言うか」

「常葉さん、キャラを演じてるって言うか、キャラに振り回されてるのですね……というか、なんであのキャラにしたのですか。常葉さんって色々と女性的な人じゃないですか。何が悲しくて、あの中性的なキャラを?」

「…………子役時代のあたしと、一番縁遠いキャラだったから」

「ああ…………」

 愛でられるお姫様ではなく、愛でる王子様……っていう感じでしょうか。

 似合う似合わないを演じる基準にはしないで、自分がやりたいかやりたくないか、を基準にした結果なのでしょう。すごく役者らしい理由かもしれません。

「で、それを私に伝えた上で、私を人柱にする訳ですか」

「あ、あんたはそういうの大丈夫でしょ?メンタル強いんだから」

「絶対に折れないと自称している常葉さんがそれを言います?……後、私はメンタルが強いのではなく、鈍感なのです。人並みに傷つきますよ。ただ、その痛みに気づけないというだけで」

 自分で自分をこう称するっていうのも、結構アレですけどね。

 でも、まあ……常葉さんがやるよりは私の方がマシではあるでしょう。メンタル云々は置いておいて、白羽さんと自然に会えますし、割りと常葉さんに苦手意識を持たれているらしい立木先輩に当たるより、白羽さんの方がやりやすいはずです。……そして、ここは汚いところ。白羽さんがやろうと言えば、立木先輩もイヤとは言えないはず。

 ああ、大人って汚いなぁ、怖いなぁ。大人になるって悲しいことなのです……。

 

 そんなこんなで、白羽さんとナシ付けに来ました。

「白羽さん。最近、どないです?」

 なぜに関西弁。割りとテンパってます。

「未来ちゃん。えっと、そうですね……ゆたかに色々と好きな曲を教えてもらって、演奏していますよ」

「そろそろ夏休みですが、立木先輩とお出かけに行くご予定などあるので?」

「はい!!一緒に海に行こうかなって」

「おおっ、それはビッグイベントですね。私もご一緒したいぐらいです」

「ただ、ゆたかはあんまり乗り気じゃなくて……水着になるのがイヤみたいで」

「でしょうね……」

 正直、普通の格好をしていても、結構な注目を集める人なのだと思います。それが更に脱いで、人も多いであろう海水浴場に……ああ、アレです。二次元だけの出来事だと思っていましたが、割りと真剣にナンパされちゃいそうです。しかも、隣におわす白羽さんもめちゃくちゃ可愛いですからね。

「プライベートビーチならいいと言うんですが、さすがにボクの家にそんなものはないですし」

「いっそ、家の中で水着含めたファッションショーとかにした方が実現性は高そうですね……白羽さんも着せ替え人形にされるリスクを受け入れる必要がありますが」

「ファッションショー……?ゆたかと一緒に色々な服装をできるんですか!?」

「問題は、立木先輩の持っている衣装のレパートリーですね。あんまり攻めた衣装はないでしょうし」

「でも、まだそこまでゆたかと休日には会えていないので、制服以外の衣装ならなんでも新鮮です!制服もすっごく魅力的ですが!!」

 あれ、本題はどこ行ったのでしょう。

「えーと、ですね。そのお話もいずれしたいのですが、少しお願い……と言いますか、ご相談があるのですが」

「はい、なんでしょう?」

「実はですね……」

 さあ、私は語り始めて、ちょっと後悔しましたよ。

 ……白羽さんは、すごく純粋で、無垢で、真っ白な女の子です。つまり、知識に関しても音楽系以外は壊滅的な訳で、ボイスドラマって理解できるのでしょうか、と。

「なるほど、ボクも会長さんをテレビで見たことはありましたよ。そうですか、今は声のお芝居をされているんですね」

「はい!!そうなんですよ!」

 やった、通じた、と思わずガッツポーズ。いやぁ、意思の疎通が取れた時の爽快感ったらないですね。

「ボクはお芝居のことはよくわかりませんが、ゆたかならきっといいアドバイスができると思います。今日にでも話しておきますね」

「はい!!お願いします!」

 ああ、いざ話してみれば、トントン拍子に進んでいきます。案ずるより産むが易し、いい言葉ですね。

 

 最後に、立木先輩の返事がどうか。これが最後の関門でしたが、返ってきた答えは色よいものでした。

 そんな訳で、当日に時間は飛びます。えいっ。

「えー……こほんっ、えっと、その……事情を話した以上、あたしはこういう口調にしとくわね」

「会長の女言葉……なんか変な気持ちですね」

「うぅっ……別にいいでしょ。これが素なのよ」

 集合場所は、校門の前。ここから常葉さんのお家まで行くことになります。

 そして、立木先輩と白羽さんが来ると常葉さんは、意を決して素の口調で話し始めました。それを聞いた立木先輩が微妙な表情をすると、常葉さんは顔を真っ赤にします。

 それを見ていた私は、可愛いな、と思いつつも、なんだか寂しい思いがしました。……今まで、常葉さんのこの口調を知っていたのは、家族以外では月町先輩と私だけでした。ですが、こうして二人にも知られてしまった。

 ――ああ、しょっぼい独占欲ですよね。こんなことぐらいでヤキモチを焼くなんて、しょーもない人間です。

「とにかく、さっさと行きましょ。詳しい話は家に着いてからでいいでしょ。学校の近くにいて、他の生徒に見られても気まずいし」

「姿ぐらいはいいじゃありませんか。常葉さんの私服、可愛いですし」

「……ああいうキャラでやってる手前、見られたくないの。大体お母さんの趣味だけど」

「ボクと一緒ですね!それに服の感じも似ている気がします!」

「まあ、同系列ではあるわね……」

 常葉さんと白羽さん、どちらも軽くロリータの入った、お嬢様っぽい格好です。ただ、白羽さんの場合は本当にお人形さんかお姫様。常葉さんの場合、いわゆるところの女性に免疫のない男性。ぶっちゃければDTを滅殺しちゃう感じの風格があるというのは、不思議なものです。着るものは似ていても、それをまとう人の体型次第で印象は大きく変わる。

 ううん、実に女子高生としてノーマルな服装に、アブノーマルなぐらい色気のない体型の私については、自分でも何の感想も持てませんね。まあ、私はそういう人間だからいいのです。主役じゃなくて脇役万歳。ナレーションという生き方は実に私に合っています。

 なお、立木先輩に関してはすっごいです。かなりマニッシュな服装ですが、それが逆に落ち着いた大人の女性の色気を醸し出しています。というか、スタイルのよさの時点で反則ですよ、反則。何着ても抜群に目を惹きます。思うに、可愛い系もばっちりですね。ただ、可愛いっていうよりはセクシー、エロいという印象を持たれちゃうかもですが。

 ……なんといいますか、こうやって個性あふれるお三方と同じ場にいると、私の普通さに自分で安心できる反面、半数が素晴らしいお山をお持ちなので、どうしても意識してしまいます。

「未来ちゃん、どうしました?」

「いえ……」

 そして、唯一の同志は学年も同じこちらの方。ああ、お人形さんルックが最高に似合っておられる……ああもう、私から見てもめっちゃ可愛くて、妹にしたいのですが、もう!

「大千氏ちゃんは会長さんの家によく行ってるんだよね」

「え、ええ。それなりにたしなむ程度には」

 何をたしなんどるんねや。

「やっぱりそういうものなのかな……ううむ、莉沙とはそういうのがなかったからよくわからないな……」

 どうやら、立木先輩は白羽さんとの距離感に悩んでおられる様子……?

 そんなの適当でいい、と思うのは私と常葉さんが既に行くところまで行っているから、ですね。ただ、白羽さんに関しては自由にやっちゃえばいいのでは、と思ってしまいます。むしろその方が白羽さん、喜びそうですし。

「もしかして、ゆたかのお家に招いてもらえるって話ですか?」

「ちゃいます」

 断言。白羽さんも小さく「あぅっ」と言ってのけぞっております。意外とリアクション大きい……芸人気質?

「大千氏ちゃんと会長さんって、古くからの付き合いって訳じゃないんですよね」

「はい。私が学校に入ってからの付き合いですね」

「……後、あたしのことはいい加減に会長じゃなくて、常葉でいいわよ。未来のことも、名字じゃなくて名前で呼べば」

「わ、わかりました。常葉さ……ううん、やっぱり常葉会長!」

「余計に距離感を覚えるのはなぜかしら……」

「ボクも常葉会長の方が言いやすいので、そっちがいいです!」

「あんたら、人の言うことを素直に聞けない子!?逆に未来の従順さが際立つんだけど!?」

 二人ともキャラ濃ゆいですから。個性はぶつかると喧嘩するものなのでしょう。難しいところですね。

「それで、えっと……大千氏ちゃん」

「だからなんで名字なのよ!?やたらといかつくて、未来のイメージに合わないでしょ!」

 常葉さん。それ、軽く私の名字ディスってませんか?

「立木先輩は私のことを大千氏としか呼べない病なので、勘弁してあげてください……」

「何よその奇病!?」

「なんか、名字が印象的で響きもいいから、そっちを使いたくて……大千氏ちゃんも許してくれてるから、それに甘えてるんですけど」

「割りと妙なこだわりあるのね、あなたって……」

「そ、そうですか?」

「自覚がないのが一番問題よ……」

 突然ですが、人にはボケとツッコミの二種類がいます。どちらもやれる人もいますが、まあ、どちらかが専門であると私は思う訳です。

 一応、私と常葉さんなら、常葉さんがボケで、私がツッコミ。白羽さんと立木先輩なら、白羽さんがボケで立木先輩がツッコミ。これは疑いようがないでしょう。

 では、この二組が合流した場合は?はい、ご覧の通りに常葉さんが全てのボケに対処しております。立木先輩には以前、天然疑惑をかけていましたが、ここに疑惑が確信へと変わったことを明言させていただきます。この方、白羽さん相手なら相対的にツッコミに見えていましたが、絶対的にはボケの人です。

 そして常葉さん、私の前では可愛い面を見せてくれていますが、基本、真面目も真面目な方なので、ボケを目の前にするとツッコミに回らざるを得ない訳です。そして、私はそれを眺めるのが好きだから、ツッコミを彼女に一任して傍でニヤニヤするのに徹してしまう、と。

 ああ、今ならもう嫉妬なんてしょーもないことはしませんよ。この布陣、むしろベストであると断言させていただきましょう。常葉さんが輝く黄金のトライアングル(ただしツッコミは一方向、ボケの可能性は無限大の常葉さんに無限の負担を強いる形)、夏の空にも冬の空にも輝いていませんが、私の目の前では確かに輝いています。

 私はしばらく、そんな幸せな光景を楽しむことを許されました。常葉さんのお家、学校から徒歩で行けるとはいえ、それなりの距離がありますからね。その移動にかかる時間こそが私にとっては黄金の時間です。ああ、生きててよかった。

「それで、ね」

 お家に着いて、私にとってはいつもの。お二人にとってはもちろん初めてとなる、常葉さんの収録部屋に向かい、そこでそれぞれが楽な姿勢でくつろぎ始めます。さすが、白羽さんはくつろぐだけでも優雅なものですね。というか、くつろいでいるようには見えないレベルです。

 そんな中、常葉さんは大きく柏手を打って自分に注目を集めさせます。

「道中、いくらか話したけど、今、あたしと未来でボイスドラマを録っているのよ。それが中々難しい内容でね……立木さんはアニメにも詳しいってことで、ちょっと聴いてみて感想やダメ出しをしてもらいたいという訳」

「……否定はしませんけど、アニメオタ代表として呼ばれたってことになるんですよね」

「後はまあ、女の子だから家にも上げやすいし。さすがに男の子は難しいでしょ?」

「たぶん、めっちゃ勘違いされますね。学校で噂になるかも」

「そういうこと。あなたなら口も硬いでしょ?」

「秘密を漏らすような趣味は持ってないつもりですけど。でも、割りと難しいことですよね。私もそんな、演技を聴いて的確な意見をできるほどの能力があるとは思えませんし」

「ですから、常識的な範疇でのご意見で大丈夫ですよ。公開を前提としたドラマですが、聴く相手もまたプロじゃないのですから。なので、素人目線でここはこの方がいいんじゃないか、というご意見をいただければ、と。それに白羽さんも、音の乱れなんかには敏感ですよね。やはり聴いていてすんなりと入ってくるものって、音としても美しいものだと思います。なので、白羽さんにも感想をいただきたくて」

 お二人とも真面目ですから、必要以上に気を張ってしまっていることと思います。

 なので、とにかく気楽にやってもらいたいという旨を伝えました。というか、はい……究極これ、録音物を聴かせて、っていう感じでもよかったのですよね。

 でも、私も常葉さんも、今回はとことん調整していくつもりですから、リアルタイムでお付き合い願えれば、と考えています。

「ボク、お芝居を生で見るのって初めてなので、緊張します……」

「あなたが緊張することないわよ」

「でも、常葉さんは緊張しませんよね。テレビに出ていたぐらいですし」

「……まあ、ね。声の演技と体の動きのある演技は違うけど、いざ人前で演じるとなっても、落ち着いているわ。――こんなの、久しぶり。また、人に見られながら演技をする、か」

「あのー、さらっと私のこと、人として見てません?」

「あんたは他人じゃないから、カウントしなくていいでしょ」

「……ですね」

 えへへっ、さらっとおノロケをば。

「私は何を見せられているのだ……」

「お二人とも、すごく仲がいいんですね」

 反応はそれぞれ。というか白羽さん、あなたに“そういうの”はないので?

「と、とにかく、始めるわ。――未来」

「はい。あっ、台本はこちらになります。私がこっちのさやかちゃんですね」

 お二人に台本をプリントしたものも配りまして、いざや行かん。とりあえず立木先輩には「普通の人」に見せた時の、「わー!女優さんみたーい!すごーい!」以外の、いい感じのご感想をお待ちしております。まあ、立木先輩がそんな凡コメをするようなトーシローだとは思っていませんが。

 白羽さんは、案外そういう反応をしてしまうかもしれませんね。でも、その筋の専門家らしいものもいただければ、と思っています。

 ――さあ、常葉さん。たった二名ですが、お客さんの前で演じてみせましょうじゃないですか。

説明
ゆたかは本人が自覚しているよりもずっとよく目立つ子なんだと思います

※原則として、毎週金曜日の21時以降に更新されます
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