【MH擬人化】恋人は森丘の火竜 前編【レウライ】
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※注意(必ずお読みください)

 

 

・モンハンの擬人化二次創作

 

・独自の設定あり

 

・文章力皆無(重要)

 

・ライゼクス右固定(重要)

 

・陰湿な暴力あり

 

・腐向け(重要)

 

・あとは、何でもありな方向け。

 

 

かなり私の趣味が全開なため、以上の表現が苦手な方は

 

このままブラウザバックすることを強くお勧めいたします。

 

 

大丈夫な方のみ、次のページへとお進みください。

 

 

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今から数百年前までは、『ニンゲン』という種族が存在し、

俺達『モンスター』の先祖も『現在』とはかなり違った姿をしていたらしい。

 

霞龍の少女から聞いた話によれば、

『ニンゲン』達は何らかの原因で突如絶滅してしまい、

 

それと同時に俺達の先祖であるモンスター達は、

『ニンゲン』によく似た、二本足で立っている『現在の姿』

――彼女曰く『人型』に変わったとのことだ。

 

それ故に、現在の世界には、そんな『人型』の子孫達が数多く存在し、

限りある命の中で今日も懸命に生きている。

 

そして、今から自分の身の上を語ろうとしている俺もまた、

そんな世界に住んでいる『人型』のひとりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今から2年ほど前、

 

『電竜』という雷を操る種族に属し、

『ゼクス』という、電竜の間ではごくありふれた名を持つ俺は、

元々は『沼地』と呼ばれる薄暗い湿地帯の住民だった。

 

この地の大きな特徴といえば、

霧の立ち込めた灰色の味気の無い天井と、そのせいで昼間でも辺りが薄暗いことと、

あとは、降雨が多いが故に常時ぬかるんでいる土くらいだろうか。

 

そんな地に在る、大小さまざまな蓮の葉達が浮いた広い水辺と

とうの昔に枯れ果て、横たわるように倒れている大木がある場所に存在する、

恐らくはかなり大昔に建てられたものと思われる朽ちかけたテントの中で、

 

「が、は…っ!」

「ほらっ、こんなもんで倒れてちゃ駄目だろ?もっと俺を楽しませろ、よっ!」

 

15歳の頃の、簡素な白い服を着せられていた俺は、背中に生えている黒金色の両翼と

自分の後方に生えている、端が鋏のような形状をした尻尾をぐったりとさせ、

傷と痣と汚れにまみれた身体をじっと横たえながら、

 

もう一人の電竜が振るってくる暴力に必死で耐えていた。

 

「あ、がっ…!があああああっ!!」

「いいね、いいねぇっ!やっぱりお前は最高だよっ!」

 

そんな俺を見て嘲笑しているのは、淡く青白い光を放つ翼を生やし、

黒色のレザージャケットと黒のダメージジーンズを着込んだ、

先端が肥大化し、青白く発光した鋏尾を持つ20代前半ほどの同種。

 

電竜の中でも特に強大な力を持つ者に与えられる

『青電主』という二つ名を持つその男は、

 

俺の腹や四肢を蹴ったり踏んだりしながら、異常なほどに歪に笑い、

俺の苦しむ姿を見るたびに恍惚とした表情を浮かべている。

 

やられている側の俺としては、当然ながら堪ったものではなく、

断続的に攻撃を受け、痛みの止まるときがほとんどないため、

身体の方への影響は言うまでもないが、

精神の方も痛苦のせいでかなりボロボロになっていた。

 

それでも、俺はこの場から逃げることができない。

 

何故なら、俺の両手首は後ろ手に太くて固い縄で雁字搦めに、

両足の方も歩くことができないようにきつく密着させられた状態で縛られ、

首の方には、奴が左手に握っている鎖と繋がった布製の輪が巻かれており、

自分の身体の自由をほとんど奪われてしまっていたから。

 

「ぐっ…!」

 

だから、弱弱しくうねる自分の鋏尾を足でぐりぐりと踏みつけられても、

腰まで届くほどに長い、緑がかった黒色をした長髪を思いきり引っ張り上げられたりしても、

 

髪を乱暴に掴まれ無理矢理立たされた状態で、

この日数十回目の鉄拳を腹にまともに食らい、

空の胃袋から強い酸味のある液を吐き出しそうになったとしても、

 

その後、身体を地面に叩きつけられた上に、脇腹に追撃を受けたりしたとしても、

首輪と繋がった鎖を引っ張られたことで、首が締まってしまったとしても、

 

「ほらほらぁ、ゼクス。

さっさと立って、また俺の攻撃に耐えてみて、よっ!」

「ごふっ、ううっ…!」

 

ひたすらに浴びせられる地獄のような拷問を、俺は甘んじて受け続けているしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…」

 

夜になって『一旦は』俺を暴力から解放した年上の電竜は、

一塊の肉を俺の目の前に投げると、さっさとどこかへ行ってしまった。

 

恐らくは明日の朝飯のための狩りに出ただけなので、

そう時間はかからずに帰ってくるとは思うが。

 

…戻ってきたら、またあの地獄が始まるんだろうか。

そう考えると、自分の身体が情けなく震えだしてしまう。

 

 

半年前、加虐趣味を持つ青電主に運悪く目を付けられ、

突如奇襲を受けた俺は、反撃する間もなく

完膚なきまでに叩きのめされてしまう。

 

その後、奴に歪んだ意味で一目惚れされてしまい、

ボロボロのテントのある場所まで連れてこられた俺は、

以降、縄と首輪で管理され、奴専用の『ストレス解消用の玩具』として

惨めに嬲られる日々を送っている…。

 

当然、俺も最初はどうにかして逃げようと必死に様々な策を考えた。

 

ある時は、縄で縛られた両手首を柱に叩きつけて拘束を解こうとしたり、

またある時は、腹這いになって移動することを試みてみたり、

また別のある時は、偶然通りがかった同種に助けを求めてみたりなど、

とにかく様々な方法を駆使して、あの青電主から逃亡しようとしていた。

 

だが、残忍で鬼畜な性格の持ち主であった青い電竜は、

当然ながら俺のそんな行動を許さず、俺が脱走を図ろうとする度に、

いつもよりも凄まじい暴力を俺に浴びせてくる。

 

同種に助けを乞うた時に至っては、そいつと一緒になって俺の腹を勢いよく蹴ったり、

そいつに俺の両腕を掴ませ、自分はそれを的に思いきり拳を飛ばしたりといった、

苛烈という言葉すら生易しく感じてしまうほどの激しく執拗な攻撃で俺の身体と心を責め苛んでいき、

 

そんな仕打ちを三日三晩受け続けた俺は、逃亡への意欲を完全に失ってしまっていた。

 

おまけに、かなり昔、電竜に自分たちの土地を深刻この上ないくらいに荒らされたことで、

電竜という種族自体をかなり嫌悪していた沼地の住民達の多くは、

同じ種である俺のことも当然の如く見捨て、少しも助けようとしてくれない。

 

誰からも手を差し伸べられず、ただただ暴力を受け続ける、

そんな日々の中で考える気力すらも亡くしつつあった俺は、

 

自分に残されたものは、暴力と嘲笑に汚された地獄だけなのだと、

この時はそう思い込み、恐怖を覚えながらも、もう殆ど諦めかけていた。

 

絶望に染まりかけた心を抱えながら、淡々と食事を終えた俺は、

 

再び始まるであろう奴の『遊び』に備え、

体力を温存しておくためにも、少しだけ仮眠をとろうとする。

 

ぐったりとした鋏尾と、腰まで届くほどに長く伸びた髪と、

鈍い痛みの残る身体を泥だらけの地べたに横たえた後、目を瞑り、

奴の帰りが少しでも遅くなることを祈りながら、夢の世界に身を委ねようとした、そんな時、

 

「…なあ、お前。大丈夫か?」

 

不意に、知らない誰かの声が、俺の耳朶を打ってくる。

 

 

 

 

 

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「…なあ、お前。大丈夫か?」

 

絶望と諦観に覆われつつある精神を背負い込んだまま、

しばしの眠りに就こうとした俺の耳に届いたのは、

全く聞いたこともない『知らない男』の声だった。

 

「…?」

 

突然聞こえてきたそれに驚き、一気に眠気を覚ました俺は、

腹這いの状態に戻り、声の主を探すために頭を上げてみると、

 

『そいつ』は案外近く――それも俺の目の前に立っていた。

 

まず最初に見えたのは、太い木の枝の天辺で燃え盛る炎。

その次に見えたのは、炎に照らされている青年の端正な顔と、

後ろの方にある、大きく立派な翼と巨大な棘の生えた太くて長い尻尾。

 

俺より年上に見える、蒼く澄んだ眼をしたそいつは、

拘束された状態の俺の姿を見て、ひどく気遣わしげな表情を浮かべていた。

 

「これは…、酷いな…。」

 

そんな言葉数の少なくなった、燃え上がるような赤い髪とを持つ見知らぬ男に対して、

俺は強い戒心を抱きながら、トーンを少々低くした声で尋ねる。

 

「…誰だ、お前?」

 

すると、一瞬我を忘れていたのか、そいつは「はっ」と数秒ほど驚いた後、

それからすぐにまた真面目な顔に戻って、俺の眼を凝視しつつ口を開きだす。

 

「…すまん、自己紹介が先だったな。

俺の名は『レウス』。森丘という場所に居を構え、

今は気紛れにこの地に来ている、しがない『火竜』さ。お前は?」

 

「……ゼクス。見りゃ分かると思うが一応電竜だ。」

「そうか、お前はゼクスというのか…」

 

名前を聞いて何故か微笑みを浮かべる目の前の青年をよそに、

こいつが丁寧に明かした素性に対し、俺は心の中だけで深く溜息を吐く。

 

というのも、こいつの属する種族と俺達電竜は、

『全体的に見て』種族間で非常に仲が険悪だからだ。

 

『火竜』は、その名の通り自らの体内で作り出した火炎を武器とし、

背中に生えた翼を利用して、空を自由に飛ぶことが出来る種族であり、

その飛行能力が他種よりも優れていることから、

他のモンスター達からは『空の王者』もしくは『大空の王』などと呼ばれている。

 

しかし、『王』という大層立派な名で呼ばれているために、

そんな彼らのことを気に入らない、もしくは嫌悪している輩も多く、

勝負を挑んだり、奇襲をかけたりする奴も決して珍しくはない。

 

そして、俺の属している『電竜』という種族も、

俺のご先祖様が生まれるよりも遥か昔から

その多くが火竜への強い敵愾心を抱いていたりする。

 

凶暴で残忍な性格を持つ者が大半を占めるこの種は、

元より他種はもちろんのこと、同種に対してさえ、

一切の情けや容赦もなく攻撃を加えているが、

 

理由は分からないものの火竜達に対しては殊の外害意が沸くようで、

ひとたび彼らと遭遇すると、躊躇なく襲い掛かり、執拗に殴り続け、

場合によっては命を奪ってしまうこともあるほどらしい。

 

そういったことが理由で、火竜達の方も俺達電竜のことをかなり敵視しており、

『どうせやられるなら』と先手を打って電竜に襲い掛かる奴や

仲間や友人、家族などがやられたりして、

その復讐のために電竜達を沢山討ち果たしたりする奴も少なくはないそうで、

 

そういう話を小さい頃から何度も聞いてきた俺は、

それ故に、自ら火竜と名乗った目の前の青年のことも極度に警戒していた。

 

「…で、火竜が俺に何の用なんだ?」

 

何をされるか予測のつかない状況であったが故に、

内心かなりの恐怖を覚えていたが、

 

「俺の身体を痛めつけたいのか?それとも、俺の命が欲しいのか?」

 

しかし、敵対種族に対して極力情けない姿を見せたくなかった俺は、

至って冷静な風を装いながら尋ね、この男の出方を伺うことにした。

 

心臓は既にバクバクと激しい音を出していたが、

それを誤魔化すように、音の主である『感情』を見せないように、

俺はどうにかして平常心を保とうとする。

 

しかし、左手に持っている松明で俺の顔を照らしていた

火竜から帰ってきた返事は、俺の想像の斜め上を行くものだった。

 

「別にお前を傷つけるつもりはないさ。

ただ、俺はお前に頼みたいことがあって来ただけだ。」

「…何だよ?」

 

次に出てくる言葉に身構えていた俺に対して、そいつは明確にこんな答えを発してくる。

 

「単刀直入に言おう。俺の恋人になってくれないか?」

 

………………………

 

………………………………

 

………………………………………は?

 

「…なっ…?お前、いきなり何言ってんだ…?」

「いや、だから…、お前に俺の恋人になってもらいたいと…」

 

いやいやいやいやいやいやいやいや!!待てよ!ちょっと待てってっ!!

 

「お、お前、その台詞ちゃんと分かって言ってんのか!?

俺は火竜が嫌っている電竜の一人で、それもれっきとした男なんだぞっ!?」

 

初対面の奴に、それも電竜の敵視しているはずの種族の男に、

予想だにもしていなかった愛の告白を受けてしまったことで、

俺の頭の中はあっという間に散らかった部屋のような乱雑さで埋め尽くされてしまっていた。

 

いや、もう、ホントどういう状況なんだよ、これ!?

急展開すぎて正直ついていけねえんだけどっ!?

 

しかし、そんな俺とは対照的に火竜の青年は、

 

「ああ、分かっているさ。」

 

至って真面目な表情を浮かべたまま、真剣に言葉を投げかけてくる。

 

「だが、それでも俺はお前に惚れてしまった。」

 

火竜は、周囲を照らしている松明をぬかるんだ地面にぶっ刺した後、

衣服が汚れることも構わずに俺の目の前で座り込むと、俺の眼をじっと見つめながら話を始めた。

 

「…昨日の昼間にな、此処の奴らから話を聞いたんだ。

『青電主と呼ばれる同種に苛められている電竜がいる』、と。

何故だかは分からなかったがそのことが少し気になった俺は、

そいつのことをより詳しく聞いてみることにした」

 

夜闇の中で踊るように揺らめく炎は、語り続ける青年の整ったな顔を淡く照らしている。

 

「彼らから聞いた話を頼りに、そいつの居る場所まで辿り着き、

そこにあるテントの傍まで近づいた俺が見たのが、」

「…俺ってことか?」

「ああ。そして、眠っていたお前の姿を一目見たその瞬間に、

俺は突然、自分の身体が稲妻に打たれたような感覚に襲われたんだ」

 

昨日の昼頃というと、青電主が沼地の小型モンスターを狩りに行って、

俺は自分の気力を癒すためにつかの間の休眠に入っていた、あの時のことだろうか?

 

「気がつけば、俺の眼はずっとお前だけを映しだしていた。

青電主とやらが戻ってくる気配を感じてその場から立ち去った後も、

お前のことがどうしても忘れられなかった」

「……。」

 

…一体何なんだ、この火竜?

 

傷と痣だらけで横たわってる男を一目見ただけで、

勝手に恋心抱くとか、こいつの頭絶対どうかしてんだろ…。

 

「…それで、また俺のところへわざわざ告白しに来たってか?」

「ああ。だから、もし良かったら…、俺の恋人になってくれないか?」

「……」

 

…ひょっとしてこいつ、救いようのないほどの変人なんじゃねえのか?

火竜が電竜に恋をするなんて馬鹿げた話、一度たりとも聞いたことねえぞ?

 

てか、こいつほど顔の整った奴なら

火竜の女の一人や二人ぐらい容易く捕まえられそうな気がするのに、

なんでわざわざ俺なんかに惚れちまったんだか…

 

そんなことを思いつつも、俺の頭の中にはある『良い考え』が浮かんできていた。

 

「…あんた、本気で俺のことモノにしたいって思ってるか?」

「あ、ああ…」

 

目の前にいる青年の馬鹿みたいな恋心を利用した作戦。

もし仮にこれを成功させることが出来れば…

 

「だったら…、今すぐ俺を此処から連れ出してみろ。」

 

晴れた空のような蒼い色をした両眼を凝視しながら、俺は火竜に命令する。

 

俺の考えついた作戦とは、人の好さそうな性格をしたこいつをうまく騙して、

あの青電主の手が及ばない程遠い場所へ連れて行ってもらうことだった。

 

聞いた話じゃ、空の王者はその気になれば、

三日間も飛び続けることが出来るらしいし、逃亡に利用するのにはもってこいだと思う。

 

それに、目の前の青年のようなアホなお人好しであれば、丸め込むことだってそう難しくはないだろう。

 

「そうしたら、恋人になってくれるのか?」

 

こいつが来たことを千載一遇のチャンスだと感じていた俺は、

絶対に逃すまいと火竜の期待するような応えを投げかける。

 

「…ああ、考えとく。」

 

無論、嘘である。

こういう状態じゃなければ、すぐに「NO」と突き返していたつもりだ。

 

だが、この時の俺はあの青電主から一刻も早く逃れてしまいたかったし、

そのためなら、利用できそうなものは何であろうと利用してやろうと、そう考えていた。

 

「分かった。それじゃ、まずは縄と首輪を解いておかないとな。

今からちょっとだけ痛くなるかもしれないが、我慢はできるか?」

「んなの別に平気だっつーの。解けるんならさっさと解けよ。」

 

「ああ、分かった。すぐに終わらせる。」

 

俺の提示した偽りの条件をあっさりと承諾した火竜は

声色一つ変えないまま発したその一言を合図にして、

最初に手首の縄を両手で掴み、同時に足首の縄に歯を立てると、

 

ブ、チィィィィッ!!

 

四肢の自由を奪っていた強固な縄をいとも簡単に引き千切ってしまう。

それを構成していた細い紐の一部が細く散らばり、解放された俺の手と脚の上に落ちてくる。

 

「え…?」

 

そのあまりにも強引な解き方に思わず絶句してしまった俺を尻目に、

テントの柱に繋がっていた首輪もまた、火竜の手によって真っ二つに引き裂かれてしまった。

 

俺が半年もの間壊すことのできなかった拘束具を

瞬時に、しかもこんなにもあっさりと破壊してしまうなんて、こいつ結構力強い方なんじゃ…

 

なんてことを思いながら、ただただ唖然としていると、

平然とした表情を浮かべていた火竜に手を差し出される。

 

そうだよな、早く行かねえと。

そう思って立ち上がろうとする俺だったが、

 

半年間使っていなかった両足には全くと言っていいほど力が入らなかった。

 

「くそ…っ!」

 

せっかく拘束から解放されたというのに、歩き出すことはおろか、

身体を立たせることすらできない自分の足に、俺は苛立ちを覚える。

 

自らの両翼で飛ぶことも考えたが、

奴の暴力に体力を大きく削られたこの身体では、それすら叶わない。

 

それでも急いで逃げるために、立ち上がるために必死に力を入れようとして、

 

 

不意に、自分の身体が宙に浮いたような感覚に見舞われた。

 

「うわあっ!?」

 

突然のことに驚き、素っ頓狂な声を上げた後に、

先程の感覚の正体が俺を見下ろしている赤い髪の青年によるものだと気づく。

 

火竜は、俺の身体を易々と持ち上げた後、そのまま両の腕で抱き込んでいた。

 

「これでいいか?」

「お…、おう……」

 

至極平気そうな声で短く問いかけてくるこいつに、俺はまだ少しだけ戸惑いながらも応える。

 

…つーかこいつ、間近で見て改めて思うが、ほんとイケメンだな。

別に惚れたわけじゃねーけど。

 

それはともかくとして、俺が移動できないという問題は解消された。

あとは、奴が戻ってくる前に此処から飛び立てばいいだけだ。

 

「…てめえ、俺のことうっかり落としたりすんなよ?」

「ああ、約束する。」

 

俺が地上へと落下しないように、釘を刺された火竜は俺の身体を少し強めに抱きしめ、

俺もまた体力が少ないながらもそいつの身体にしっかりとしがみつく。

 

それから、俺がしっかりと掴まっていることを確認したように頷きの声を小さく発した青年は、

地面に突き刺したままの松明の炎を足で倒し、踏み消してしまうと、

 

「じゃあ、行くぞ」

 

その言葉を合図に、水辺にある大きな蓮の葉に向けて助走を始めた。

 

不安定な足場故に首を少々ばかり揺らされている状態で、

飛翔するために駆ける火竜の顔を覗き込みながら、

俺は久方ぶりに当たる風の感触にほんの少しだけ喜びの感情を覚える。

 

小さい頃、俺は秘境や背丈の高い草むらの中で走り回ることが何よりも好きで、

頬に当たる風や、草や水の匂いを感じられていたあの頃はとても幸せだった。

 

だが、電竜を嫌う者達にお気に入りの場所を荒らされ、奪われてしまうとともに、

その幸せも跡形もなく消えて無くなってしまった。

 

青電主に囚われてからは、俺自身も幸福の存在を忘れかけていた。

 

しかし、だからこそ、此処から逃げようとしているこの瞬間が少しだけでも喜ばしく感じられたのだろう。

俺の心の中では小さな興奮が真ん中に立って飛び跳ねているように思えた。

 

赤色の青年は広げた自分の両翼を羽ばたかせながら駆け続け、

人一人が載れるくらいの大きな蓮の葉のある場所まで辿り着くとともに、大きく飛び上がった瞬間、

 

二人の身体は地上から遠く離れた場所に向かって、一気に上昇していった。

 

 

 

 

 

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こんなにも心地の良い気分に浸れるのは、一体いつ以来のことだろうか?

 

雄大に広がっている夜の闇と分厚い雲に覆われた空を

自分の眼に映しながら、俺はそんなことを考える。

 

自分が生まれた場所ではあるが、今ではもう地獄にしか感じない沼地から逃避行中であった俺は、

自分を運びながら飛行している火竜の青年の身体にしがみつきつつ、内心では割と興奮していた。

 

このまま行けば、奴の手の届かない新天地で自由に暮らせるかもしれない。

そう思うと、心が躍りだしそうになる。

 

「で、どこ行くんだよ?」

「森丘。さっきも言ったが、俺が住んでいる所だ。」

 

…なるほど、そう来るか。

 

『森丘』という地名は聞いたことはなかったが、

この火竜が本気で俺を恋人(モノ)にしたいと考えているなら、

自分の住んでいる地に連れて行こうとするのは至極当然なのかもしれない。

 

けどまあ、奴から逃れることができるなら、何処へ行こうが構わなかった。

元よりそのつもりでこの火竜を利用してやったんだし。

 

未だ見ぬその場所に対しては期待の気持ちの方が大きく、

沼地から随分と離れた場所で火竜の翼がゆったりとはためく音を聞きながら、

俺はただただ到着を心待ちにしていた。

 

しかし、現実というものはそう甘くはなく…

 

 

「ひっ…!」

「ん。どうした、ゼクス?」

 

飛んでいる俺達の遥か後方に現れたのは青白い光。

遠目から見れば、小さな星のように見えなくもなく、

平時であれば、眩い光を放つ、とても綺麗な姿のそれに目を奪われていただろう。

 

だが、急速に大きくなるその光の正体を知っていた俺は、

この時に限っては並々ならぬ危機感を抱いていた。

 

「青電主っ…!」

 

青白い雷光の正体である電竜も俺達に気づいたのか、

遠くに居たのであれば流れ星と見紛うほどの尋常ではない速さで一気にこちらへ近づいてくる。

 

「ゼ〜クス♪俺に内緒で、一体どこへ行くつもりなのかなぁ?」

 

声色こそ愉しく笑っているようだが、青い光に照らされたその表情には、

俺と俺を運んでいる火竜に対するどす黒い感情を包み隠さず溢れさせていた。

 

「玩具が許可もなく俺から逃げちゃあダメだって、

前にも言ったはずなんだけど、お前には学習能力ってモンが無いのかな、あぁっ!?」

 

俺にとっては理不尽この上ない怒りを思いきりぶつけると、

青電主は体内で生成させた蛍光色で包まれた青白い雷の弾を口内から放つ。

 

しかし、火竜は躊躇なく向かってきたそれを難なく回避しつつ、飛行速度を上げていく。

 

「逃がすかっ!」

 

当然、青い電竜もその後を追ってくる。

言葉に表すのもためらうほどの危険を示しているような黄の色に光るその両眼は、

恐らくは、視線の先で逃げ続ける電竜と火竜をじっと映し出しているのだろう。

 

奴は俺達を狙って正確に、複数の雷球を放ち続け、

火竜はそれらをどうにか避けていきながら、奴との距離を稼ぐために両翼を素早く羽ばたかせる。

 

「とっととゼクスを返しやがれっ、このクソ火竜が!!」

だが、全身を青白く光らせた電竜は、凄まじい程の強い怒気を纏いながら、

少しずつ、かつ確実にこちらへと近づいてきていた。

 

 

『怖い』

 

青白い光に照らされた奴の怒りの形相を自分の眼に映してしまった俺の頭の中は、

そんな短い一つの言葉で殆ど埋め尽くされてしまっていた。

 

心臓もまた、呼応するようにバクバクと大きな音を立てて暴れている。

 

俺は、あの青電主が怖かった。

暴力を振るってきたり、俺を縛り付けたりするあいつのことが何よりも嫌いだった。

 

だから、もう二度と戻りたくはない。

連れ戻されてしまえば、今までよりももっと酷い仕打ちを受けることは

火を見るよりも明らかだったから。

 

だが、奴がそれを決して許さないことを嫌という程に知っていた俺は、

それ故に、自分を追ってくる青い電竜に猛烈な恐怖を抱いていた。

 

嫌だ…、嫌だ…っ!

あんな奴のもとに戻るなんて、絶対に嫌だっ!!

 

気がつけば俺は、火竜の身体を強く抱きしめながら、着ている服を引っ張り、ぎゅっと握りしめている。

 

相手のことを完全に信用していたわけじゃないのに、むしろ利用するだけの存在だと思っていたのに、

それでも、俺はこいつに縋らずにはいられなかった。

 

そんな風にすっかり怯えきっていた俺を、

火竜は一切咎めようとはせず、かといって無視をするようなこともせず、

 

黙ったまま、ただ、俺の後頭部をそっと撫でていた。

 

「え…?」

これまで殆ど受けたことのなかったこの行為に、俺は目を丸くしながらそいつの顔を見やる。

 

周囲は暗かったものの、比較的夜目の効く方である俺の瞳は、

火竜が自分に向けて優しく微笑んでいる様をはっきりと映し出していた。

 

まるで『大丈夫だ』と言い聞かせるような、

その感触が肌の奥にまで伝わってくるほどの優しい手つきにあるのは、

身体全体を温かいもので包み込むかのような柔らかい安心感。

 

まだ出会って少ししか経っていない見知らぬ男だというのに、

不思議とホッとしてしまうのは、こいつの身体の温度のせいだろうか。それとも…

 

「――いい加減止まれ、っつってんだろうがっ!!」

「…っ!」

追跡者である青電主の発したその声で、

俺の意識は一気に現実へと引き戻され、思考は再び奴への恐怖で覆われ始める。

 

やはり安心なんてしている場合じゃなかった。

この状況でそんなことしたって何にもならないのに、そう思ったその直後に、

 

ふと、俺を運んでいる青年の身体が後退していることに気づく。

 

「おい、何やって――っ!?」

そいつに問い質そうとしたところで、

俺は後ろの方に浮いている『あるもの』を見て、絶望した。

 

『超電磁球』

 

青電主に到達した力の強い電竜のみが放つことが出来るこの青白い球は、

周囲に存在する磁力の影響を受けるものを吸い寄せるという恐ろしい性質を持つ。

 

一体どんな素材を使っているかは知らなかったが、

火竜の着用している服もどうやらあの球に引き寄せられやすい代物らしく、

俺達二人は後方で青白く輝きながら待ち受ける光に向かって徐々に逆行していく。

 

遥か上方では、高く飛び上がった青電主が、

身動きの取れない火竜と電竜を捕えるためにこちらを目指して急降下してきている。

 

それでも、背中に持つ大きく立派な翼を素早くはためかせ、

どうにかしてこの場から逃げ切ろうとする青年だったが、

超電磁球の強すぎる吸引力の前ではそれも無駄な努力に他ならなかった。

 

こうしている間にも、俺に破滅的な未来を示してくる青白い球はどんどん近づいてきている。

それに比例するように、俺の脳内と心はどんどん絶望でいっぱいになっていく。

 

やっぱり、あいつからは逃げられないのか…?

 

奴の歪んだ笑みと嘲るように佇む磁力の球が

いよいよ間近に迫ってきていた姿を見てしまった俺は、

完全に諦めの境地に陥り、そのまま目を閉じてしまう。

 

 

だが、青い電竜のその手が俺に届くことはなかった。

 

「ぐああああっ…!あつい…、熱いいいいいいいっ!!」

代わりに聞こえてきたのは、耳を劈くほどに甲高い悲鳴。

 

俺の発したものでなく、火竜のものだとしても少し距離があると思った俺は、

その正体を知るために恐る恐る両目を開いていく。

 

星ひとつない夜空を背に映し出された光景は、

光に包まれた全身を振り乱しながら大層苦しげに息を吐いている青い電竜と、

俺に触れようとした奴の右手をすっぽりと覆い、まるで食い尽くすかのように燃やしている紅い炎だった。

 

夜闇の中で控えめに小さく輝く紅色は、体内で生成したそれを口から放出しながら

奴の利き手に噛みついている火竜の極めて沈着した面持ちを僅かながらに照らし出している。

 

「うう…、く、そっ…!離せ、はなしやがれえええええええええええっ!!」

 

右の手を覆う炎があまりにも高い温度を持っているためか、

先程俺達を追いかけていた時とは打って変わって悲鳴にも似た情けない叫び声を上げてしまう青電主。

辺りを見回してみると、俺達を吸い寄せていた青白い球もいつの間にか消失している。

 

ここから先は、空の王者の独壇場だった。

 

まず最初に、火竜は焼いていた奴の片手から自分の歯を離す。

やけにあっさり解放されたことに戸惑う素振りを見せる青い電竜だったが、

俺を運びながら空を悠々と飛行する王者はそんなことにもお構いなしのようだ。

 

そのほんの僅かな隙を突いて、瞬く間に奴の後ろに回り込んだ青年。

青電主もまたそれに気づいて、早急に後ろに振り向こうとするが、遅かった。

 

背後に回り込んだ直後に自らの右足を少し後ろに引き、

奴が自分の方に振り向いてきたその一瞬の間に、青白い光を放つ電竜の腹部を目掛けて、

 

空の王者は、思い切り、かつ一気に蹴りを入れた。

 

「が、あぁ……っ!?」

 

突然襲い掛かった痛みに表情を歪ませ、飛行バランスを崩した青電主の身体は、

蹴られた勢いが残ったまま、遥か下の方へと急速に落ちていく。

 

なおも反抗の意思を示すかのように青白く輝く姿は、しかし、

俺の視界の中でどんどん小さくなっていき、やがて暗闇に消えてしまった。

 

磁力をも操るほどの強大な力を持つ青い電竜の、余りにもあっけない敗北。

その様子を見ていた俺は少しの間言葉も発することが出来ずに、ただただ唖然としていた。

 

いや、だって、いくらなんでも信じらんねえよ!

青電主を蹴り一つで墜とした奴なんて一度も見たことねえし!!

 

そりゃあ火竜の男は蹴り技が得意らしいとは言われてるけど、

それでもあの電竜をここまで一撃必殺で倒せるもんなのかと思うといささか疑問に思わざるを得ない。

 

沼地で松明に照らされて見えていた髪は、

話に聞いていた黒炎王や銀火竜のものとは違う感じに思えたし、

一応普通の火竜なんだと考えてはいるが、それにしてはどうも…

 

 

「思ったよりも強かったな、あいつ」

一方、当の空の王者は、追い掛け回される前と全く変わらない落ち着いた声で呟いた後、

青電主の墜落した地点とは真逆の方向に身体の向きを変え、

 

それから、自分の腕の中に居る俺に対してこう言ってきた。

 

「…とりあえず、さっさと逃げるぞ。

早くしないと、またあの青いのが追いかけてくる。」

 

…まあ、あの男はそう簡単に死ぬような奴じゃねえもんな。

さっき落ちた時も木々が薙ぎ倒される音が聞こえたし、恐らく高確率で生きているだろう。

 

だったら、さっさと逃げねえとな。

そう思った俺は、迷わず火竜の言葉に頷いた。

「ああ。」

 

俺の返事を聞いた蒼い眼の青年は、再び前方へ真っ直ぐに進み始める。

 

青電主が追いかけてこなくなった俺達の周囲に再び訪れたのは、

翼のはためきと風切り音を除けば、殆ど何も聞こえてこない静寂。

 

星の見えない暗い空の中に存在するのは、

飛行している火竜と、その腕に抱かれている電竜の二人だけ。

 

「うう…」

そんな事実を認識してようやく安心感に浸れるようになった俺は、

それと同時に自分の精神と身体が疲労を訴えていたことに気づく。

 

瞼が重い。

 

どうやら遅れてやってきた強い睡魔が、俺の脳内機能の全てを牛耳っているようで、

執拗に追跡されたせいで疲れていた俺の身体は少しずつ眠りに就こうとしていた。

 

けど、こんな状態で寝てしまったら、確実に腕を放してしまいそうな気がするし、

もしかすると別の奴が俺達に襲い掛かってくるかもしれない。

 

青電主の脅威が去ったというのに、また別の不安に駆られてしまった俺は

どうにか眠気に耐え、改めて火竜の身体にしっかりと両腕でしがみつくが、

 

「…眠いのなら、別に寝たって構わない。」

「…え?」

 

そんな俺の耳に届いたのは、

柔らかな声色と、その音吐に載せられた優しさだった。

 

「あの青い奴に追いかけられて疲れているんだろう?だったら眠ったっていい。

お前のことは落ちないように俺がしっかりと掴まえておくから」

 

俺のことを気遣うように発せられた言葉を、

それでも俺はまだ受け入れることが出来なかった。

 

…いきなりそんなこと言われたって心配は全く拭えねえし、

そもそもお前のこと、まだ信用しきったわけじゃねえんだからな。

 

そんな文句を込めた眼差しを発言主である赤毛の青年に向ける俺。

その直後だった、

 

ぎゅっ

 

「うわっ!?」

火竜の両腕が俺の身体をより一層強めに抱きしめたのは。

 

突然のことに驚いた俺は思わず「何すんだよ」と怒鳴りつけようとした。

しかし、俺を運んでいる青年の方が先に口を開く。

 

「大丈夫、何があろうとお前のことは絶対に守ってみせるから。」

 

穏やかながらも力強い口調で発せられた誓い。

 

不思議なことに、その言葉に俺は嘘や偽りを微塵も感じず、

むしろ自分だけを柔らかく包んだ硬い障壁に守られているかのような

絶対的な安堵感すら覚えていた。

 

それとともに、まるで火竜の言葉に甘えるかのように、

俺の身体は急速に眠りに落ちていく。

 

…初対面で、しかも男好きの変わり者なのに、

なんで俺はこいつの前で安心できているんだろうか。

 

火竜は、電竜の絶対的な敵なのに、

俺達にとって一番信頼するに値しない種族であるはずなのに、

目の前の青年が俺を手にかけない保障があるわけでもないのに…

 

俺は、一体……

 

一体、どうして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-5ページ-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

……………

 

……………………

 

…………………………んん…っ。

 

…………………………なんつーか……、すげえ、眩しい……。

 

………そうか…、もう…朝が来たのか……。

俺の、『一番嫌いな』……、朝が…。

 

…………………。

 

……っ!だったら、早く起きねえと…!

寝坊したら、また余計に殴られることになる!

 

「…っ!」

 

そう思い、心臓が握りつぶされるかのような強い恐怖に襲われた俺は、その場で急いで飛び起きた。

つけられた傷と痣のせいで身体が痛むが、そんなことにも構っている暇はない。

 

早くっ、あいつが起きる前に早くしないと…っ!!

 

ところが、いざ目覚めてみると、あの青電主の姿はどこにもなかった。

 

「あれ…?」

 

それどころか俺が寝ていた場所は、いつもの沼地のぬかるんだ地面ではなく、

あのテントにあったものとは全く違う、真っ白でふかふかな一人用のベッドの上だった。

 

環境が変わったことを疑問に思いながら両腕を見てみれば、

手が出てきていない程長い黒一色の袖があり、

胸元に目を向ければ、いつもの簡素でぼろぼろな白い服ではなく、

チャック部分に赤のラインが入ったジャンパーを着せられていることに気づく。

 

様変わりした自分の周辺をきょろきょろと見回してみれば、

周りは岩壁に囲まれ、天井には大きな穴が開いている。

 

普段よりも視界が明るく感じたのは、

穴の向こうでさんさんと輝いている太陽というやつのせいだろう。

 

地面の方には恐らく何者かに食われたであろう草食竜

(後で聞いたことだが、こいつらのような小型のモンスター達は人型にならずに

昔のままの姿で生きているらしい)の骨があちこちに散乱していた。

 

ここは、もしかして…

 

と、そこまで考えた時、

 

「お、起きたか。」

 

唐突に、聞き覚えのあるような声が、俺の思考に割って入ってくる。

 

驚きつつも、その声の主の方へ振り向いてみれば、

燃えるような赤色の髪をした青年が、大きな肉塊を脇に抱えながら

巣の出口の前に立っているのが眼に映った。

 

鮮やかなワインレッドのレザージャケットを裸にした上半身にそのまま着込み、

下半身には灰色のジーンズを履き、茶色の皮ベルトを巻いているそいつは、

俺の姿をまじまじと眺めながら、起床するのを待っていたと言わんばかりに端正な顔をほころばせている。

 

「ほら、朝食だ。昨日は沢山寝たから、腹も減ってるだろう?」

 

そんな赤毛の男の屈託のない声音と言葉を聞いてから、

俺はようやく昨夜のことをすべて思い出した。

 

…そうか、ここはもうあの青電主の居る地獄なんかじゃないんだ。

 

そう悟るに伴って青電主が近くにいないことを認識でき、やっと『半分だけ』安心した俺は、

今度は目の前の男から逃げるために立ち上がろうとする。

 

昨日の夜、傷だらけだった俺に、いきなり愛の告白を投げかけてきたおかしな火竜。

無論、こいつの気持ちを受け取る気なんて俺には毛頭なかった。

むしろ火竜と、それも男と恋仲になるなんて、まっぴらごめんだった。

 

どうしても恋人がほしいって言うなら、そのイケメンフェイスフル活用して、

同種の女の一人や二人ぐらい軽く捕まえてくりゃいいだろうが…。

 

そんな文句を口の中だけで垂れつつ、両脚を地に着けようとするが、

 

「ぐっ…!」

その瞬間、突如自分の周囲がぐらりと揺れたような感覚に襲われてしまう。

 

「ゼクスっ!」

そんな俺の耳に届いたのは、火竜の慌てたような声。

倒れかけた俺の身体は、素早く近づいてきたそいつに優しく抱き留められた。

両腕が空だったのは、持っていた肉を放って来たからなのかもしれない。

 

俺の五体を容易く持ち上げ、ゆっくりとベッドへと戻した火竜は、

穏やかだが、まるで宥めるかのような口ぶりで俺に話しかけてくる。

 

「今はまだ、動かない方がいい。」

 

…どうやら俺の脚と翼は、まだまともに言うことを聞いてくれる気はないらしい。

先程寝ていた時と同じように仰向けの状態で布団を掛けられた俺は、

思い通りに動けないもどかしさに心の内側で深く溜息を吐いた。

 

すると、温度のある片手がそっと俺の額に落ちる。

 

大事なものを壊さないように注意を払うかの如く丁寧に触れてくるその感覚に、

未だ慣れてなかった俺は思わず動揺してしまう。

 

だが、それと同時に俺は、胸の内に何か温かいものが在ることに気づく。

 

まるで陽だまりにいるかのような柔和な温もりを含んだ、

俺のよりも一回りも二回りも大きな火竜の右手は、

やんわりと指を動かしながら、俺の前額部を小幅に往復していた。

 

「大丈夫。ここにいる限り、お前の安全は保障するから。」

 

俺をここに引き留めておくためなのか、あるいは安心させるためなのか、

心地良いくらい柔らかな声色で投げかけられた懇ろな言葉。

 

親しげに微笑みを浮かべる火竜のその口舌に、

俺の心臓は意図せずトクン、と小さく返事をしてしまう。

 

…なんつーか、こいつの顔見てると、頭の中が蕩けそうになるし…、

心なしか身体全体が熱いような感じもするような…。

 

…っ!何やってんだよ、俺!相手は俺達電竜の敵対種族なんだぞ!

ちょっと親切そうな言葉掛けられたからって簡単に警戒解いてんじゃねえよっ!!

 

自分にそう言い聞かせ、甘い考えを打ち消すために、首をぶんぶんと激しく横に振る俺。

そんな姿に異常を察知したらしい火竜は、戸惑いながらも声をかけてくる。

 

「ど、どうした、ゼクスっ!?」

「うるせえな!別に何ともねえよっ!」

 

…兎にも角にも、身体を自由に動かすことのできなかった俺は、

これまでとはまた違う意味でも危険視すべき相手である火竜の巣で

しばしの時を過ごすことを余儀なくされたのであった。

 

 

<続く>

説明
自給自足のために書いたリオレウス×ライゼクスの腐向け小説です。
せっかくなので、こちらの方にも投稿してみました。

ライゼクス可愛いよ可愛い
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ボーイズラブ モンハン 擬人化 リオレウス ライゼクス 

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