真・恋姫†無双〜江東の花嫁達・娘達〜(七)
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(七)

 

 静寂の中で雪蓮は久しぶりに会う彼女の夫を嬉しそうに見ていた。

 

 そして急な状況変化に固まっている処刑人達の間を通り過ぎていき、腰に下げていた一振りの剣を鞘から抜いて縄を切っていった。

 

「ど、どうして雪蓮がここに?」

 

「あら、私がいたら困ることでもあるのかしら?」

 

「そ、そんなことない」

 

「じゃあ問題ないでしょう?」

 

 雪蓮はそう言いながら久しぶりに一刀を愛しそうに抱きしめた。

 

「もう大丈夫よ」

 

「雪蓮……」

 

 一刀も雪蓮を抱きしめる。

 

 その様子を見ていた厳白虎は我にかえると雪蓮に指をさした。

 

「貴様、孫策!」

 

 その指摘に雪蓮は幸せそうな表情が一変した。

 

「あら、誰かと思えば豚じゃないの」

 

 一刀を抱きしめたまま笑顔を答える雪蓮だが決して目は笑っていなかった。

 

「ぶ、豚だと!わ、儂の名は「豚」……ではない!」

 

 厳白虎は怒りで身体を振るわせる。

 

 だが他に援軍らしい者がいないと気づきすぐに処刑人達に目で合図をした。

 

 処刑人達は雪蓮の後ろに音を立てないで近寄っていく。

 

「雪蓮、危ない!」

 

 一刀が気づいた時には大刀が振りかざされ落ちてきていた。

 

 だが彼が見たのはそんな処刑人達が吹き飛ばされていく姿だった。

 

「やれやれ、こいつら本当に山越か?」

 

「弱すぎる」

 

 そこに現れたのは思春と凪という異色の組み合わせだった。

 

「思春、凪!?」

 

 なぜ二人がここにいるのか理解できない一刀。

 

「ぐわっ」

 

「ぐえっ」

 

 葵と真雪を捕まえていた山越兵が濁音混じりの悲鳴を上げて倒れ、そこに現れたのは明命だった。

 

「明命?」

 

 何がどうなっているのかわからない一刀は雪蓮の方を見ると、彼女はいつもの笑顔でこう言った。

 

「そういうこと♪」

 

 雪蓮の言葉に一刀は不思議と安心できた。

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 そうしている間にも明命が二人を連れて一刀達の方にやってきた。

 

「一刀様」

 

「明命」

 

 これまた久しぶりの再会に今にでも泣きそうな明命だが涙を拭き改めて臨戦態勢をとる。

 

「ふ、ふん。いかに小覇王といえどもたった四人でどうするというのだ」

 

「どうしようかしら♪」

 

「貴様から受けた恥辱をここで晴らしてくれる!」

 

「残念ね。そうさせてあげたいけど無理だわ♪」

 

「な、なんだと?」

 

 それはハッタリでもなんでもなかった。

 

 城から討って出た風達五千がまさに一騎当千のごとく山越の大軍の中へ何の躊躇もなく突撃をしていく。

 

「ふん、たかが五千など踏み潰してくれるわ!」

 

 五千ならば十分に倒せると確信していた厳白虎。

 

 それよりも目の前にいる雪蓮や一刀を倒せば全ては自分の思うがままになると考え、不気味な笑みを浮かべ始めた。

 

「長年の恨みをここで晴らしてくれるわ!」

 

「そう。ならもう二度とそんなことを思わないように楽にしてあげるわ」

 

 手加減をするつもりなど雪蓮にはなかった。

 

「そうそう、言い忘れたけど和平の邪魔をする奴は斬り捨ててもいいのよね?」

 

 雪蓮は一刀の方を見る。

 

「できれば命だけは取らないでほしいんだけど」

 

 どんなに酷い相手でも命までは取るつもりはない一刀の甘さに雪蓮は軽くため息をついた。

 

「わかったわ。でも命をとらない代わりにそれ相応のことはしていいわよね?」

 

「俺がダメだっていってもするつもりなんだろう?」

 

「当然よ♪」

 

 雪連の笑顔に一刀は困った顔をするが、今回ばかりは自分の我侭が優先されすぎたため、この辺りで妥協するしかないと思った。

 

「あとでたくさん話したいことがあるからそれまで休んでいなさい」

 

「そうはいかないさ」

 

 明命が奪還してきた自分の剣を手にすると鞘から抜いた。

 

「そんなボロボロで動かれると迷惑だ」

 

 思春は素っ気無く言うが、その表情はどこか安堵していた。

 

「大丈夫です。一刀様は我々がお守りします」

 

 凪は一刀の傷ついた姿を見て山越兵に手加減など無用だと決め付けた。

 

「いくわよ」

 

 雪蓮の短い合図によって彼女達は一斉に山越兵達に突っ込んでいった。

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 同時刻。

 

 城を攻撃していた一万の山越の軍勢に風達は突撃し乱戦状態になっていた。

 

 先陣を恋と華雄に任せていた京は風と亞莎を守りながら押し寄せてくる山越兵を斬馬刀で薙ぎ払っていた。

 

「向かってくるなら死ぬ覚悟をしてかかってきなよ」

 

 今までの鬱憤を晴らすように斬馬刀を振り回していく。

 

 彼女に付き従う一刀の親衛隊の兵士達も自分達の主である一刀を救わんと懸命に戦っていた。

 

 一人が倒れると別の一人がそれ以上の強さを発揮して山越兵に斬りかかっていく。

 

 一刀の親衛隊という名誉ある部隊に配属されている彼らは自分達をしっかりと見てくれ、同じ立場になって話をしたり一緒に食事をしたりしてくれた一刀が大好きだった。

 

 その彼のためなら自分の命すら安いものだと思っていたが、一刀はその考えを否定した。

 

『死んで英雄になるよりどんなことをしても生きてくれる方が家族のみんなが幸せだ』

 

 命の重さとそれに関わる人の想いを話した一刀を臆病呼ばわりする者はいなかった。

 

 どんなことをしても生き残る。

 

 それが彼らの力となり、決して負けることのないと強く思える所以でもあった。

 

「さすがはお兄さんですね」

 

 そんな兵士達の活躍を見て風は一刀の凄さを改めて賞賛した。

 

「このままいけば山越の前衛を突破するのも時間の問題です」

 

 風を守るように寄り添って馬に乗っている亞莎からの報告を聞いて、風は不思議な感覚に包まれていた。

 

「今頃、山越の本隊も大変でしょうね」

 

 前衛部隊しか戦っていない山越を見ながら風は独り言を漏らした。

 

「亞莎ちゃん」

 

「はい」

 

「恋ちゃんと華雄さんに遠慮なく前に進むように伝令をお願いします」

 

「わかりました」

 

 すぐに亞莎は近くの者に馬を走らせ風の指示を伝えさせに行った。

 

「程cさん」

 

「はいはい?」

 

「オイラ達もこのまま前進だろう?」

 

「もちろんです」

 

 即答する風に京は不敵な笑みを浮かべた。

 

「なら遠慮なんかいらないね」

 

「風達にかまわず行ってください」

 

「そうさせてもらうよ」

 

 嬉しそうに単騎で突撃していく京を風と亞莎は静かに見送っていた。

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 風の伝令を受けて恋と華雄、それに京を加えた呉軍の前衛二千は瞬く間に山越の前衛部隊を突破した。

 

「よし、このまま一気にいくぞ」

 

 華雄の声に恋と京は頷く。

 

 だがそこへ二本の堰月刀が天から恋達目掛けて降り注いできた。

 

 寸前のところで馬を止めた三人の前に現れたのは山越の女将達だった。

 

「ここから先は行かせないんだから」

 

 費桟は手元に二本の堰月刀を戻しながら恋達の行く手を阻む。

 

「この前の続きといこうじゃない」

 

 黄乱は思いっきり地面に鉄棍棒を突き刺して京を見る。

 

「今度は負けない」

 

 尤突は圧倒的な強さを誇る恋に臆することなく拐を構える。

 

「山越の頭目が揃ってここにくるとは我らをそれなりに評価していると思っていいようだな」

 

 華雄は先日の傷がまだ完全に癒えていなかったが、負けるつもりなどまったくなかった。

 

「もう初めから手加減は必要ないようだし、全力でいかせてもらうよ」

 

 大切な人を救うためにここで時間をかけるつもりなど京にはなかった。

 

「ご主人さま、助ける」

 

 恋は今自分がしなければならないことを明確にしているため、それを阻む者は何人たりとも容赦をするつもりもなかった。

 

「恋、本気で戦う」

 

 二人と同じく大切な人を救うために恋は持てる力を全て解放するつもりだった。

 

「呂布、太史慈。さっさとこいつ等を倒して一刀様のところに行くぞ」

 

「もちろん」

 

「(コクッ)」

 

 それぞれの獲物を握り締める三人。

 

 三対三の緊迫した空気が流れ始める。

 

 どちらかが動けばそれのあわせて動くといった感じで、お互いに隙を見せることなく相手を見据えていた。

 

 と、そこへ。

 

「恋ちゃん、華雄さん、太史慈さん、そちらはお任せしますね」

 

 亞莎と伴った風がその横を通り過ぎながら三人に言ってきた。

 

「な、なんで?」

 

 呉の本隊三千は何事もなかったように通り過ぎていき、山越の本隊の中へと消えていった。

 

「悪いがお前達はここから動かすわけにはいかない」

 

 予め風が立てていた策を出陣前に華雄たちに教えており、その内容は山越の頭目らしき将を足止めしてその間に風と亞莎が本隊へ突撃するものだった。

 

 華雄達は先日のこともあり、それを了承したためこうして再びそれぞれの相手と合い間見えることになった。

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「いいわよ。アタシ達がいかなくてもすぐに踏み潰されるわ」

 

 城攻めに四万を繰り出してもなお本隊には六万の兵力がありたった三千では踏み潰されるのも時間の問題だと費桟達は思っていた。

 

「悪いが我々が負けるということはない」

 

「なんでよ?」

 

「なぜならば我らは天の御遣いに仕えし者だからだ」

 

「はあ?なにいってんのよ?」

 

 呆れるように費桟は言うと、華雄は珍しく大声で笑った。

 

「お前のような目先のことで優劣を決めるような輩にはわかるまい」

 

「わかりたくもないわよ」

 

「ならお前達の負けだ」

 

 ひどくおかしそうに華雄は費桟を見据えると、頭にきた費桟は形振りかまわず馬飛ばして華雄目掛けて二本の堰月刀を投げた。

 

「同じ手に引っかかるほど私は甘くないぞ」

 

 堰月刀を避けることなく金剛爆斧の刃で薙ぎ払った。

 

 その瞬間、二本の堰月刀は地に落ち同時にその柄についてある鎖も力なく落ちていく。

 

「同じ投げるなら許?や典韋のほうがまだ受け応えがあるぞ」

 

 先日の戦いとは違い、堰月刀を投げて隙だらけの費桟に向かっていくことなく、武器を戻すまで間合いを取っていた。

 

「どうした、さっさと武器を自分のところへ引き戻したらどうだ?」

 

 華雄を睨みつけたまま動かない費桟。

 

「どうした?貴様の芸はこれで終わりか?」

 

 挑発する華雄の費桟は不意に二本の堰月刀についている鎖を自分の方へ引き戻した。

 

「じゃあアタシの本気を見せてやる」

 

 そう言って費桟は両手で鎖付き堰月刀を回転させ始めた。

 

「華雄、あんたがどれだけ武勇に優れようともアタシには勝てない!」

 

 馬を飛ばしていく費桟に華雄は金剛爆斧を構える。

 

 費桟は両手に握っている鎖のうち左手に持っていた鎖を勢いよく手放し、その狙い先は華雄の真正面だった。

 

「同じ手は通じないと言ったはずだ」

 

 金剛爆斧を回転させて堰月刀を弾く。

 

 鎖を引き戻すと今度は右手から鎖を離して投げつける。

 

 同じように堰月刀を弾く華雄。

 

 堰月刀を何度も繰り返し投げつけていく費桟は笑みを浮かべていく。

 

「何がおかしい?」

 

 不審に思った華雄だが二十五回目の堰月刀を弾いた。

 

 費桟は二本の堰月刀を同時に投げ、その狙いを馬に変えた。

 

「ちっ」

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 さすがの華雄もそれには対処できず馬に突き刺さった堰月刀を恨めしそうに見た後、馬上から飛び降りた。

 

「馬がなくても負けるつもりはない」

 

「強がりはよくないわよ」

 

 費桟は馬上から両手の堰月刀の柄を握って交互に華雄目掛けて振り下ろしていく。

 

「ほらほらほらほら」

 

 不敵な笑みを浮かべながら激しく華雄の金剛爆斧の柄に撃ちつけていく。

 

 そして、

 

 両手で強力な一撃を放つと金剛爆斧の柄は真っ二つに折られ、その勢いで左右に分かれた堰月刀が華雄の両肩に食い込んだ。

 

「ぐっ」

 

 何度も執拗に堰月刀を投げていたのはこうなることを狙っていたためだった。

 

 片膝をついた華雄は二つに折られた金剛爆斧を気にすることなく馬上の費桟を睨みつけていた。

 

「華雄、あんたは強いわ。でもこれが実力の差というもの」

 

「…………」

 

 費桟はこれで勝負あったといわんばかりに堰月刀を構える。

 

「何か言い残すことがあるなら聞くわ」

 

「そうだな」

 

 華雄は折れた柄の方を費桟に投げつけた。

 

 だがそれはあっさりと避けられた。

 

「自慢の武器もそんな姿になったら何も役に立たないわね」

 

「自慢の武器か……」

 

 華雄はゆっくりと立ち上がり両肩の痛みに耐えながら費桟をまっすぐ見据える。

 

「たしかに優れた武器は武人にとって欲しいものだ。私とてそう思っていた」

 

 それゆえに武器を似合う武を磨くことが華雄の本来望んでいたことだった。

 

「しかしどんなに優れた武器でも使い手が誤ればただの凶器にしかならない。だから私は武器に釣り合う武ではなく、誰かを守るための武器としてこの金剛爆斧を最後まで使う」

 

 一刀と出会い、武器に似合う武ではなく守りたいものを守るための武器として確認した華雄は半分になった金剛爆斧を構える。

 

「アタシには理解できないわ」

 

「だろうな」

 

「じゃあその武器ごと今度こそ華雄、あんたを討ち取ってあげる」

 

 二本の堰月刀についている鎖を握り、回転させ始める。

 

「さようなら、華雄」

 

 費桟は勢いをつけて二本の堰月刀を華雄目掛けて左右から解き放った。

 

「私は死ぬわけにはいかない!」

 

 力の限り華雄はその一撃を受け止めたが両肩に激痛が走り体制を崩した。

 

 そこへすかさず費桟は第二撃を繰り出しもはや防御が間に合わなかった。

「それでこそうちが認めた華雄や」

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 その声と共に二本の堰月刀は上空高々に弾き上げられた。

 

「ち、張遼……」

 

 膝をついている華雄の前に現れたのは飛龍堰月刀を手にしている霞だった。

 

「なんや、華雄。久しぶりの再会やのに、なにぼさーとしとんや?」

 

 何事もなかったように霞は華雄を意地の悪そうな笑みを浮かべて見下ろしていた。

 

「少し油断しただけだ」

 

「その割には随分と苦戦してへんか?」

 

 霞の指摘通り華雄は気づけば全身に切傷があった。

 

「それにその武器もめちゃめちゃやないか」

 

「お前は文句を言いに来たのか?」

 

 多少の苛立ちを覚えた華雄は立ち上がる。

 

「冗談やて」

 

 冗談の通じない奴やなと小声で言いながらも費桟の方を見る。

 

「だ、誰よあんた?」

 

 突然の乱入者に費桟は機嫌を損ねる。

 

「誰といわれたら天の御遣い一の大親友、張文遠や」

 

 一刀の親友であることを誇りにしている霞の表情はどこか楽しそうにしていた。

 

「それよりも張遼」

 

「なんや?」

 

「どうしてここにいるのだ?」

 

 援軍らしき気配など感じなかった華雄に霞は、

 

「うちだけじゃないで」

 

 親指で後ろを指差すと、そこにはいつの間にか呉、魏、蜀といった旗印が力強く風に揺られていた。

 

「風が援軍をよこして欲しいって文を送ってきたんや。あまりにも急なもんやからとりあえず近辺にいた兵力だけを連れてきたわけ」

 

 魏軍は霞が率いてきた一万、呉軍は蓮華自身が率いてきた五万、蜀は紫苑率いる荊州駐留部隊一万、合わせて七万が城を包囲している山越の軍勢とぶつかっていた。

 

「何時の間に……」

 

「国を守るというよりも一人に男を救うためにきたってわけや」

 

 城に残っている悠里と音々音と負傷兵達もそんな援軍に応ずるようにありったけの力を解放するように矢を放って援護していた。

 

「さて、おしゃべりはここまでにして」

 

 霞は飛龍堰月刀の刃を費桟に向けて突き出した。

 

「降伏するなら今のうちやで?」

 

「誰が降伏するもんか」

 

 費桟も負けじと二本の堰月刀を振り回し始めた。

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「あんたも華雄と同じように叩き潰してあげるわ」

 

「だそだ。どうする、張遼?」

 

 華雄の問いに霞に瞳が妖しい光を放った。

 

「答えはこれや」

 

 阿吽の呼吸で二人は左右に別れて費桟に突撃していく。

 

「一人が二人になったからって本気のアタシに勝てないわ」

 

 交差するように二本の堰月刀を投げる費桟。

 

「なんや、武器を投げるんかいな?」

 

 鎖付きの堰月刀はまっすぐ飛んでいき、二人が防御しようとする直前にその角度が変わった。

 

 鎖を自由自在に動かしその攻撃角度を急に変えれば武勇に優れていても避けることは困難かと思われた。

 

「面白い奴やな」

 

 急な角度変更にも動じることなく霞は身体を後ろに逸らして横からやってきた堰月刀を難なくかわした。

 

 華雄も一本だけだったため避けることをせず金剛爆斧で受け止めた。

 

「でも、武器を投げるのはいただけんな」

 

 後ろへ逸らした身体をそのまま回転させて元の姿勢に戻すと、一歩踏み出してがら空きの費桟に向かっていく。

 

「甘いわよ」

 

「張遼!」

 

 華雄は自分が受けたことのある攻撃を霞にもしようとしている費桟に気づき声を荒げて注意を呼びかけようとした。

 

 引き戻されて霞に向かっていく堰月刀。

 

「ええ考えや。でもツメが甘いわ」

 

 霞は鎖の方へ飛び上がり、勢いよく鎖を踏みつけた。

 

 その結果、堰月刀は宙に舞いそれを霞によって繋がれている鎖を一刀両断され地に転がり落ちた。

 

「な、なんでよ!」

 

 状況が飲み込めない費桟に霞は軽く息をついた。

 

「ただ投げつけるだけなら当然、その鎖の部分に隙が出来る。本人に攻撃をするよりも鎖を断ち切れば、あんたのところにこの堰月刀は戻ってこんからな。ただそれだけや」

 

 一本失った費桟だがもう一本が残っているためまだ戦意は落ちていなかった。

 

 だが、もう一本の堰月刀も華雄によって鎖を斬られていた。

 

「なるほど。張遼の言うとおりだ」

 

 完全に武器を失ってしまった費桟は、膝をつき自分があっさりと敗北したことを痛感した。

 

「アタシの負けだよ」

 

 鎖を手放しもはやこれまでと腰に差していた小剣を引き抜いた。

 

 そしてそれを自分の首筋に当てようとするがそれより先に華雄が飛びついてきて、鳩尾に一発打ち込んで気を失わせた。

 

「こんなところで死ぬな、馬鹿者」

 

 自分を苦戦させた相手を抱きとめて華雄はほんの少しだけ力を抜いた。

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 一方、京は黄乱と激しい打撃戦を繰り広げていた。

 

 お互いに大きな獲物のためその一撃の重さは計り知れないものだった。

 

 だがよくみると京の斬馬刀は刃こぼれが酷く、対する黄乱の鉄棍棒はほとんど損害が出ていなかった。

 

「そろそろあんたもあんたの武器も限界じゃない」

 

「そう見えるのなら勘違いもはなはだしいな」

 

 強気の姿勢を崩さない京だが、黄乱の指摘は正しかった。

 

 二十合と打ち合い斬馬刀も京自身にもかなりの疲労していた。

 

「二度も仕損じたのはアンタが初めてだからたっぷりと時間をかけて潰してやるわ」

 

 鉄棍棒をを軽々と振り上げて京めがけて突撃していく。

 

「なら三度めも仕損じて逆にオイラに負けてくれないかな?」

 

 斬馬刀を下に構えて黄乱を迎撃する京。

 

 上下からぶつかり合う二人の闘気溢れる一撃。

 

 火花が散り、お互いの力をそれぞれの武器に込めて押し込んでいく。

 

 そこへ数十人の山越兵が一斉に弓を構えた。

 

「な、なんだよ。オイラを倒すのに弓隊を使うのか?」

 

「正直言うと使いたくないんだけど、あんたは念入りに殺した方がいいと思ったの」

 

「なるほど、己の武勇に自信のない者が考えそうなことだね」

 

 斬馬刀で黄乱を振り払わなければ弓隊の的にしかならなかったが、黄乱は離れようとせず力の限り鉄棍棒で押し続ける。

 

「さっさと楽になりなよ」

 

「だれが!」

 

 そこへ矢が一本、京の肩に刺さった。

 

 痛みにより一瞬、力が抜けそこへ黄乱からの圧力が強くなった。

 

「こ、このやろうーーーーー!」

 

 京は雄叫びを上げながら黄乱の圧力を振りほどいた。

 

 その瞬間、数本の矢が京の膝や腕などに刺さっていく。

 

「倒れん。こんな傷で倒れたら旦那や子敬さんにあわせる顔がない」

 

 自分が守りたかったもの、守って欲しいと望んでいたものがようやく叶うかもしれないというときに、京は倒れるわけにはいかなかった。

 

「オイラは太史慈子義!ここで死ぬつもりはない!」

 

「そんなの知らないっての」

 

 黄乱は一斉に矢を放つように命令する。

 

「戯言なら死んでからいいなさいよ」

 

 数十本の矢が一斉に放たれまっすぐ京めがけてその鋭い死の使者は飛んでいく。

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「まだまだじゃの」

 

 その言葉と同時に数十本の矢は別に飛んできた矢に全て叩き落された。

 

「な、なによ?」

 

 逃げ場もなくもはや討ち取ったと思っていた黄乱は目の前の信じられない光景に絶句した。

 

「やれやれ、異民族の弓矢というものは威力もなければ速さもないな」

 

 京は声のする後ろを振り向くと、弓を持った女将が二人、やれやれといった感じで三本の矢を弦に掛けていた。

 

「こ、黄蓋さん?」

 

 そこに立っていたのは呉の宿将である祭と魏将、夏候淵こと秋蘭だった。

 

「生きておるか、太史慈?」

 

 成熟した大人の笑みを浮かべる祭。

 

「太史慈殿、邪魔な弓は我らが始末するゆえ、全力であの山越の将と対峙されよ」

 

 そう言いながら秋蘭は立て続けに矢を放ち山越の弓隊を的確に射抜いていく。

 

 三人の様子に気を取り直した黄乱は、せっかくの好機を潰されて苛立ちを覚えていた。

 

「卑怯者〜〜〜〜〜!」

 

「それはお互い様だ。今度こそオイラ達だけで決着をつけようじゃない」

 

 大きく息を吸い込んで、それに負けないぐらい息を吐く京の表情に精気が漲っていた。

 

「い、いいわよ。あんたを倒したら後ろの二人もこの鉄棍棒で潰してやるんだから」

 

「そいつは無理な相談だな」

 

 京は斬馬刀をまっすぐ黄乱のほうへ向け、両手で構えた。

 

 それは一切余分なことをせず、ただ一点集中する突きだった。

 

「この一撃にすべてをぶつける」

 

 京の気迫に黄乱はもはや真正面から彼女を倒すしか道はないと感じ取り、鉄棍棒を両手で持ち、後ろで構えた。

 

 その間にも祭と秋蘭の的確かつ神速の弓矢によって弓隊は倒されていく。

 

「黄乱」

 

「なによ?」

 

「オイラは心の中で守りたい人が別の人に守られるのならいつ死んでもいいと思ってた。でも、今は違う」

 

「どう違うのよ?」

 

「オイラみたいなガサツな女でも好いてくれる人がいる。だからその人の為にも死ねないってことだよ」

 

 そのために黄乱をここで倒す。

 

 今の京はそれしか頭になかった。

 

 矢の刺さった身体の痛みなどまるで感じないように全ての神経を斬馬刀に向けていた。

 

「いくよ」

 

 二人は雄叫びを上げながら目の前の敵に突っ込んでいく。

 

 それを見守る祭と秋蘭。

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 斬馬刀と鉄棍棒の激しくぶつかり合う音が戦場に広がっていく。

 

 一瞬の静寂の中へ粉々に砕け散った鉄棍棒が力なく地に落ちていき、黄乱の目の前で斬馬刀の切っ先が止まった。

 

「オイラの勝ちだ」

 

「…………」

 

 自分の武器をただ一点集中で砕かれた黄乱は自分の敗北を認めることができなかった。

 

 認めたくなかったが今、うかつに動けば斬馬刀が自分の顔に食い込んでいくことになり完璧は敗北をその身で体感しなければならなかった。

 

「あんたは強い。でもオイラには死ねない理由がある」

 

「そ、そんなのアタシにもあるわよ」

 

「大人しく降伏してくれたらこれ以上、無益な戦はなくなるよ?」

 

 降伏しないのであればこのまま斬馬刀の餌食になると、ある意味脅迫しているように思えた京の発言に黄乱は言葉が出てこなかった。

 

「若いの」

 

 そこへ祭が歩み寄ってきて斬馬刀と突きつけられている黄乱の方を見る。

 

「これ以上の無用な血を流すのは儂らとて望んでおらぬ。それでもお主は自分の敗北を受け入れることをせず、血を流そうというのか?」

 

 祭と秋蘭は山越兵を射抜いたが、どれも肩を射抜いているだけであり命に別状はなかった。

 

「ご、呉の者に情けなどかけられたくない!」

 

「たわけ。儂らはいつまでもいがみおっておいたら時代に取り残されるだけぞ?」

 

 すでに争いがあるのは呉と山越だけであり、これ以上の争いを望むのであれば三国すべてを相手しなければならなくなる。

 

 それでは呉にも山越にも何一つ良いことなどなかった。

 

「もう戦などする必要はないんじゃ」

 

「そうだぞ。山越だけがいつまでも過去に縛られていては何もよくはならない」

 

 祭の言葉に秋蘭も賛同する。

 

「…………」

 

 黄乱は鉄棍棒を握っていた力を抜き膝をついて悔し涙を流した。

 

 斬馬刀を引くと、まるで今まで耐えていたかのように斬馬刀が根元から折れて地に沈んでいった。

 

「そうだ。黄蓋さん、旦那が危ないんだ」

 

「わかっておる。もう向こうにも援軍が着いているはずじゃ。それよりもお主の傷の手当ての方が先じゃ」

 

 ボロボロの京の姿に笑みを浮かべる祭は膝をついて泣いている黄乱の肩を叩いた。

 

「お主も一緒にどうじゃ?」

 

 祭の言葉に黄乱は戸惑いながらも小さく頷いた。

 

「黄蓋殿。ここは私が引き受ける。後方に下がられて太史慈殿の傷の手当てを」

 

「頼むぞ」

 

 秋蘭は霞と率いてきた魏軍一万のうち直属の三千に指令を出して山越の軍勢に攻勢に堅固な防御陣を組んでいった。

 

 黄乱が降伏したことによってその周辺の山越の戦意は急速に縮小していった。

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 最後の山越の将である尤突は恋の攻勢を軽く避けていた。

 

 一度の対戦で恋に正面からぶつかることは愚かだと悟り速さで翻弄しながら小さな打撃を繰り返していた。

 

 そんな彼女の攻撃すら恋は寸分の隙も見せることなく受け止めていた。

 

 尤突は拐を回転させながら巧みに恋の一撃を受け流していく。

 

 二人には言葉など不要なほどお互いの武を思う存分にぶつけ合っていた。

 

「お前の名は?」

 

「……恋」

 

 何の躊躇もなく恋は自分の真名を口にする。

 

「恋、強いな」

 

 尤突は速さにおいては梅花を凌ぐものがあり、その速度に反応できている恋に感心させられていた。

 

 間合いを取って一気に詰めていき、恋の一撃を寸前で交わして懐に潜り込み強力な一撃を与えようとしたが、恋は左手で尤突の顔面を掴んで天高々に放り投げる。

 

 上空に飛ばされた尤突はそこで身体を回転させて、恋に向かって飛び蹴りをお見舞いする。

 

 その一撃を避けることをせず恋は左手で受け止めた。

 

 速さと重みのある蹴りに両足に力を入れて踏ん張る恋。

 

 尤突はそれを踏み台にしてさらに拐による二段攻撃を恋の顔に向けて放った。

 

 至近距離からの攻撃に避けられるはずはないと勝利を確信した尤突だが、不意に鋭い何かが恋と彼女の間から抜き出てきた。

 

「!?」

 

 即座に攻撃を中止しようと恋から飛び退いた。

 

 そして自分の頬から一筋の雫が滴り落ちていくことに気がついた。

 

 恋の方天画戟による攻撃を完全に避け切ることが出来なかった証拠がそこにあった。

 

「恋……ご主人さま助ける」

 

 そのためにもここで時間をかけている暇など恋にはなかった。

 

「だからもう終わりにする」

 

 その言葉どおりに恋は先日の怒りと悲しみに満ちた力とはまったく別の力を尤突に感じさせていた。

 

 ただ純粋に誰かを救いたい。

 

 その為ならば自分の持てる全ての力を解放することすら躊躇しない。

 

 恋は一度瞼を閉じて小さく息を吸い込んでいく。

 

 やがて長くも短い時間が過ぎていきゆっくりと恋は瞼を開けていった。

 

 その瞳には一切の雑念などなく、ただまっすぐに尤突だけを見ていた。

 

「いく」

 

 一歩踏み出しだかと思えば瞬く間に尤突の目の前までいった恋は、右手からこれまでにない速さで方天画戟を尤突に突き出していく。

-13ページ-

 余りの速さに尤突は避けれずとっさに左手に持っていた拐で防ぐが、先日とはまったく違う力に押し上げられていく。

 

 方天画戟と拐が激しい火花を散らしていくが恋の力はさらに強くなり、やがて拐の表面にひび割れが起きはじめた。

 

「こ、こいつ!」

 

 左だけで恋の攻撃を防いでいた尤突だが、それもやがて限界を迎えた。

 

 ひび割れはだんだん大きくなっていき最後には粉々に砕かれてしまい、籠手ごと方天画戟が彼女の腕を斬り裂いた。

 

 その勢いは止まらず尤突の肩へ食い込ませていく恋。

 

「まだだ!」

 

 残っていた右の拐を回転させ恋の顔にぶつけようとする尤突。

 

 方天画戟を引き戻そうとするが自分の肩にその刃を食い込ませ、手で柄を掴んで離さない尤突に恋は躊躇うことなく自分の武器を手放した。

 

 そして回転しながら迫ってきていた拐を紙一重で避け、後ろに回転しながら下がった。

 

 その隙に尤突は肩に食い込ませていた方天画戟を剥ぎ取り地に転がした。

 

 肩に重傷を負ったが武器を奪ったことは尤突にとって逆転したと思えた。

 

 彼女にはまだ拐が一本残っており、多少の痛みがあろうとも素手の恋になら負けることはないと確信した。

 

「勝った」

 

 短くつぶやくと拐を構えて恋に向かっていく。

 

 対する恋は構えることもなく向かってくる尤突を見ていた。

 

 繰り出される尤突の右腕。

 

 全くの無防備の恋に拐を放つ。

 

(捉えた!)

 

 勝利を確信した瞬間、尤突の視界がぐるりと回転していった。

 

 気が付けば地面に横たわり真上には恋のいつにない真剣な表情があった。

 

「……なに?」

 

 何が起こったのか理解できない尤突。

 

「ご主人さまに教えてもらった」

 

 恋がしたのは一刀から教えられた『柔道』の一本背負いだった。

 

 繰り出された尤突の右腕を掴んでそのまま身体を回転させて背負い、勢いよく背中から叩きつけていた。

 

「まけ……た?」

 

 自分の渾身の一撃をかわされ、たった数瞬の出来事で逆転された尤突は拐を手放して無条件降伏をした。

 

「……大丈夫?」

 

「少し」

 

 二人にはそれ以上の交戦は必要なかった。

 

「恋の勝ちだ」

-14ページ-

「(フルフル)」

 

 恋は顔を横に振るってそれを否定した。

 

「ご主人さまが恋を助けてくれた」

 

 柔道を教えてもらっていなければ恋は人生において最初で最後の敗北を味わう事になっていた。

 

 それを救ったのは一刀であると恋は信じていた。

 

「ご主人さま?」

 

 尤突はそれが誰のことなのかわからなかったが、恋にとってとても大切な人であるということは理解できた。

 

「尤突」

 

「?」

 

「恋、ご主人さま助けに行く」

 

「助けに?」

 

 彼女の大切な人もこの戦に参加しているのかと思っていると、先日の音々音が叫びながら恋に主人がいなくなったことを知らせた時、彼女の様子が一変したことを思い出した。

 

「だからもういく」

 

 このまま放置しておくのは恋も気が引けるが、今はそれ以上に大切な人を救いたいという想いの方が強かった。

 

「恋」

 

「?」

 

「また会おう」

 

「……(コクッ)」

 

 恋は方天画戟を拾い上げるとゆっくりと歩き出す。

 

 向かってくる山越兵は恋の闘気にあてられて近づけず自然と道が出来ていく。

 

 そこへ、一本の矢が彼女の背中に刺さった。

 

「……邪魔」

 

 矢が刺さったまま恋は進んでいく。

 

 邪魔をすれば容赦などするつもりは恋にはなかった。

 

 後ろから弓を持った山越兵がもう一本射掛けようとすると、それを尤突が満身創痍の身体を起こして止めた。

 

「もういい」

 

 これ以上何かをすればこの場にいる山越兵は全員討ち取られる。

 

 なぜかそう感じた尤突に山越兵も従った。

 

 たった一人で山越兵の開いていく道を歩き、そして少しずつ速度を上げて駆け抜けていく。

 

「まってて……ご主人さま」

 

 恋も尤突の攻撃を受けた時にすでに左腕が折れており、万全の体調ではなかったがそれ以上の気力が彼女を動かしていた。

 

「ご主人さま」

 

 彼女の中にはもはや一刀のことしかなかった。

-15ページ-

 その頃、山越の本隊では数十人もの山越兵がうめき声を上げて倒れていた。

 

「あらあら、山越ってこんなに弱かったかしら?」

 

 息切れひとつせず雪蓮と思春、凪は遠巻きに囲んでいる山越兵を眺めていた。

 

「まったくです。これが我らが苦戦した山越だと思うと情けなく思えます」

 

「まだ五胡の方が強いですね」

 

 思春と凪は手ごたえのなさにどこか呆れていたが隙を見せることはまったくなかった。

 

「王が代わるとこんなにも惰弱になるわね」

 

「ぐっ……」

 

 厳白虎は自分が王になったことを馬鹿にしている雪蓮が許せなかったが一人では勝てないことは十分にわかっていただけに、周りの山越兵に激をを飛ばす。

 

「この者達を討ち取れば恩賞は思いのままぞ。望む物があれば儂がなんでも叶えてやる。女でも金でも食糧でもなんでもだ」

 

 大盤振る舞いをしてまで雪蓮達を倒そうとする厳白虎に雪蓮は呆れ顔で見据える。

 

 だが山越兵はその欲望をちらつかされて放っておくことはせず、戦意を取り戻して一斉に彼女達に襲い掛かっていく。

 

「あら、真面目な兵士もいるのね」

 

 一人、また一人と攻撃をかわしては打撃と蹴りで叩き伏せていくが数だけは多かったため、きりがなかった。

 

「雪蓮」

 

 一刀もたった四人の援軍だけでどうにかできる状況ではないことを悟ったが、傷ついている自分が戦えば彼女達を今以上の危険を与えてしまうため、明命と葵、それに梅花に守られていた。

 

 真雪も必死になって一刀にしがみついていた。

 

「いくらこようが我らが夫に傷一つつけさせん」

 

「あれ〜?思春ったら大胆なんだから♪」

 

「し、雪蓮様!」

 

 顔を真っ赤にする思春に一瞬の隙ができ、そこへ一本の槍が突き出していく。

 

「余所見をするな」

 

 その槍を拳で叩き折った凪は思春の油断を叱責した。

 

 凪の動きもそのせいでとまり、今度は彼女に槍が突き出されていきそれを思春が同じように拳で叩き折った。

 

「それはお互い様だ、楽進」

 

 お互い背あわせにして山越兵を薙ぎ倒していく。

 

 息のあった連携に山越兵は次々と倒されていくが、周りを見るだけでまだ何千という山越兵がいてさすがの二人も焦りの影が見え始めた。

 

 時間が過ぎていく中で山越兵の命を取らない戦いをしていただけに少しずつ押され始めた雪蓮達。

 

「ああもう、まどろっこしいわね」

 

 雪蓮は息を切らしてはないもののその表情はさすがに嫌気を浮かべていた。

 

「わっははははは。貴様らは簡単に殺しはしない。たっぷりと嬲り殺してやる」

 

 余裕を取り戻していく厳白虎。

-16ページ-

 一刀を守るように円陣を組んでいく雪蓮を囲むように数百人の山越兵が槍や剣を手にしていた。

 

 気を失っていた者も気が付き、再び武器を手にしているため雪蓮達の体力だけが消費していった。

 

「あ〜もう。一刀、どうにかしなさいよ」

 

「ど、どうになって……」

 

 会談すらもはや出来ない状況で一刀には残された手は何もなかった。

 

「厳白虎!」

 

 そこへ武器を奪って斬りかかってくる者を蹴散らしていた梅花が厳白虎に向かって大声を上げた。

 

「貴様にこれ以上、山越を好きにはさせない」

 

 剣を片手に傷ついた身体で厳白虎に向かっていく。

 

「梅花、やめろ!」

 

 一刀の制止も聞かずに斬りかかっていく梅花に厳白虎はただ力任せに剣を振るい、彼女の繰り出した剣を叩き落して首を掴んで持ち上げた。

 

「ふん、小娘の分際で王である儂にはむかうとは恥知らずめ」

 

 梅花を乱暴に地に叩きつけると何度も蹴りを食らわせていく。

 

「やめろ!」

 

 雪蓮達の円陣から飛び出していく一刀は梅花の代わりに重たい一撃を背中に受けた。

 

「がはっ」

 

「「「一刀「一刀様」「かずさま」!」」」

 

 容赦ない蹴りを何度も背中で受けながらも横たわっている梅花を必死になって守る一刀。

 

「か、かずと……」

 

 自分を守ってくれている一刀の表情は苦痛の中でも笑みを浮かべていた。

 

「だ……だいじょ……ぶ……だから……」

 

 その余裕も度重なる衝撃に打ち砕かれ、力なく梅花の上に堕ちた。

 

「かずと!」

 

 気を失っている一刀を梅花は残された力で抱きしめる。

 

「きさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 雪蓮は堪忍袋が切れ一目散に厳白虎に向かっていく。

 

「う、う、討ち取れ!」

 

 厳白虎はすぐさま自分の前に山越兵の壁を作るがそれも怒りが頂点に達した雪蓮からすればただの肉壁でしかなかった。

 

 一切の容赦なく山越兵の頸を落としていく雪蓮に見習うように思春と凪、それに葵も手加減などすることはなくなった。

 

 瞬く間に血の洗礼を受けることになった山越兵だが逃げることも許されず、次々と討ち取られていく。

 

 断末魔が聞こえる中で真雪は勇気を振り絞って一刀と梅花のもとに行くと、気を失っている一刀を心配そうに手を伸ばして頬に触れた。

-17ページ-

「かずさま!」

 

「かずと!」

 

 二人の声にも反応せず、一刀は意識を取り戻さない。

 

「しっかりしてくださいでしゅ」

 

「目を覚ましなさいよ」

 

 必死になって一刀を呼び起こす二人に何人かの山越兵が迫ってきた。

 

 真雪は近くに転がっていた一刀の青スの剣を手にして振るえながらも構えた。

 

「ば、ばか……!」

 

「か、かずさまと梅花さんはわ、わたしが守るでしゅ」

 

 二人に比べて傷という傷がない真雪はこれまで守られていたのだから、今度は自分が命を掛けて守ると震えながらも気丈に山越兵を見た。

 

 もちろん自分の手柄になり思いのままの恩賞が目の前に無防備に近い状態で置かれているため、山越兵は容赦するつもりもなく剣を振り上げて真雪に斬りかかる。

 

 剣など持ったことのない真雪はなんとか防ごうと青スの剣を構えたがたった一撃で叩き落されてしまい、小さな身体も一緒に倒れてしまった。

 

「あ、あ、あっ……………」

 

 一時の勇気は消え去り残されたのは絶望だけの真雪は逃げる事すらできなくなった。

 

「し、死ね!」

 

 もう一度振り上げた剣を真雪に振り下ろす山越兵。

 

「ましろ!」

 

 助けにいこうにも一刀を抱きしめており、さらに身体中の痛みが梅花の自由を奪った。

 

「ましろ!」

 

 ただ叫ぶだけで目の前で初めて出来た呉の友人を失うという絶望が梅花を包み込んでいく。

 

 そのとき、奇跡というものが起こったと後に梅花が書き記した本に載っていた。

 

 大地を揺るがす地震のようなものが真雪の命を救った。

 

 大きな揺れで手元が狂い、真雪の横に振り下ろした山越兵。

 

「な、何事だ!」

 

 厳白虎は周り見るが何が起こっているのか理解できなかった。

 

 雪蓮も思春、凪に葵も何が起こったのかわからずその動きを止めて周りを見た。

 

「パォォォォォォォォォォォォォン!」

 

 近づいてくる地鳴りと森が揺れる中、その姿を現したのは数百等の象と南蛮兵達だった。

 

「「「「「にゃーーーーーーーーーーーーー!」」」」」

 

 ミケ、トラ、シャムの量産南蛮兵達は象と共にゆっくりと山越の本隊へ突撃していく。

 

 あまりにも突然で途方もないものが現れたために山越兵は唖然としてその様子をただ見守っていた。

 

 そんな象と南蛮兵達の中で一頭の白い象が現れそこには美以と南蛮衣装を身に着けた小蓮が乗っていた。

 

「兄〜〜〜〜〜!」

 

「一刀〜〜〜〜〜!」

 

 美以と小蓮はありったけの大声を出して一刀の名を呼ぶ。

-18ページ-

「一刀さ〜〜〜〜〜ん!」

 

 その南蛮兵と共に蜀の主力五万を率いてきたのは桃香とそれに付き従う主だった蜀将達だった。

 

「今です。全軍突撃してください」

 

 朱里と雛里は的確な指示を出して全軍を動かしていく。

 

 その蜀軍の先陣を切ったのは武神関羽こと愛紗、燕人張飛こと鈴々、常山の趙雲こと星、そして錦馬超こと翠といった精鋭部隊だった。

 

「桃香達に遅れるにゃ!全軍突撃にゃ!」

 

 美以の指示のもと南蛮兵は一斉に駆け出していく。

 

「な、な、なんだあれは!」

 

 またしても自分の想像を超えるものが現れてしまい、せっかく取り戻した余裕は今度こそ完膚なきまでに叩き潰された。

 

 さらに城の方からも蓮華率いる三国の連合軍七万が城を包囲していた山越の軍勢四万を蹴散らし本隊へなだれ込んできた。

 

「だ、大王様!」

 

 ここまで命令に従ってきた山越兵は厳白虎に指示を求めた。

 

 このままここにいては全滅すると感じた厳白虎はもはや雪蓮達に構っていられなかった。

 

「た、た、退却だ!」

 

 大声で叫びながら厳白虎は逃げ出すと一斉に山越兵もそれに続いていったため、山越の本隊は大混乱に陥った。

 

「やっときたの?遅いわよ」

 

 雪蓮は自分が弄した策がようやく実ったことに不満を表せながらも来てくれたことに心から感謝をした。

 

「雪蓮様、これはいったい……?」

 

 思春と凪もここまでの援軍がくるとは思っていなかったようでその説明を雪蓮に求めたが、雪蓮は笑みを浮かべるだけで答えなかった。

 

 それよりも一刀が気になり、彼らのもとに走っていく。

 

「一刀!」

 

 駆けつけると梅花に抱かれて意識を失っている一刀を見て表情を曇らせた。

 

「魯粛様、ご無事ですか」

 

 膝をついて身体を震わせている真雪に思春は心配そうに声を掛けると、真雪は彼女にしがみついてきた。

 

「もう大丈夫です。ご安心ください」

 

 自分よりも年上なのに小さな身体で必死になって一刀を守ってくれた真雪に思春は感謝の気持ちをもった。

 

「一刀、さっさと起きなさい!」

 

 ボロボロの一刀に容赦のない鉄拳を落とすと、気が付いたのか一刀はいきなり悶絶してのた打ち回った。

 

「全く世話のかかる旦那様ね」

 

 心底呆れたように雪蓮は一刀を見下ろす。

 

「な、殴ることないだろう!」

-19ページ-

 悶絶から何とか脱した一刀は一番に文句を言うと、雪蓮は問答無用と言わんばかりに思いっきり彼の頬をひっぱ叩いた。

 

「馬鹿!私はどれだけ心配したかわかっているの?」

 

 一刀の態度が気に入らなかったのか雪蓮は往復ビンタを食らわす。

 

「馬鹿!バカ!ばか!」

 

「あ、あの……雪蓮様、その辺にしないと一刀様が本当に死んでしまいます」

 

 凪の申し訳なさそうな声に雪蓮は頬を赤く膨らませている一刀が堕ちかけている姿を見て困った笑みを浮かべた。

 

「自業自得だ」

 

 思春はどちらかといえば雪蓮の行動に賛同していた。

 

 もし雪蓮が叩かなければ自分が叩いていただけに、頬が晴れ上がるぐらいで止められたことに感謝しろと心の中でつぶやいた。

 

「こんなにボロボロになって……。今回ばかりは許さないわよ」

 

 雪蓮ですらここまで一刀の命の危険があるとは想像もしていなかっただけに、もっと早く出てくるべきだったと激しく後悔していた。

 

「雪蓮……」

 

「一刀なんて知らないわよ」

 

 涙を必死になって我慢している雪蓮に一刀は手を伸ばして、久しぶりに触れる彼女の頬を優しく撫でる。

 

「みんなのおかげで助かったよ」

 

 ここにいる全員が自分を助けてくれた。

 

 それだけで一刀は嬉しかった。

 

「一刀……」

 

 梅花も心配そうに一刀を見ていた。

 

「梅花もごめん。こんなに傷つけてしまって」

 

 もっと自分が上手く動いていれば彼女にも苦労をさせる事もなかったが、現実はその反対で自分と同じぐらいボロボロになっていた。

 

「いいわよ。あんたのためならこんな傷ぐらいたいしたことないわよ」

 

「梅花……」

 

「ふ〜〜〜〜〜ん」

 

 一刀と梅花がお互いを見詰め合っている間に雪蓮は面白くなさそうな表情を浮かべていた。

 

「やっぱり一刀ったら他に女をつくったのね」

 

「「えっ?」」

 

 雪蓮の嫉妬に棘が刺さったものをぶつけられる一刀とそのととばっちりを受ける梅花。

 

「い、い、いやこれはその」

 

「そ、そうよ。アタシと一刀はなんでもないわよ」

 

「一刀?ふ〜〜〜〜〜ん」

 

 ますます面白くなさそうな表情をしていく雪蓮は、

 

「思春」

 

「はっ」

 

 雪蓮の命を受けた思春は鈴音を一刀の前にちらつかせた。

-20ページ-

「覚悟は出来ているな、一刀?」

 

「だ、だから誤解だって!」

 

「言い訳が通じると思っているのか?」

 

 思春も自分達に散々心配をさせた上に新しい女を作っていると思うと怒りを納めることは不可能だった。

 

「あ、アタシと一刀はそんな関係じゃない」

 

 救いの手を差し伸べたのは梅花だった。

 

「一刀はアタシ達山越のことを考えてくれている。この戦を無用な血を流さないように頑張ってくれた功労者だ。それを非難するのならアタシがその責めを受ける」

 

 結果的には多くの血が流れてしまったがそれでも和平を結ぶために、危険を冒してここまできた一刀を梅花からすればくだらない理由で処断されるのは許せなかった。

 

 一刀と同じようにボロボロな梅花を見据える雪蓮はしばらくそのままでいたが、やがて笑みを浮かべた。

 

「へぇ〜。山越にも貴女みたいな者がいるのね」

 

 戦うことしかなかった山越の中でも平和を望む者がいるということに、雪蓮は一刀がしようとしていたことが無駄ではないこと確認した。

 

「思春」

 

「はっ」

 

 鈴音を引いてゆっくりと一刀の前に座ると、睨みつけるように彼を見る。

 

「これ以上、我々を心配させるな」

 

 それだけを言って立ち上がり背を向けた。

 

 思春も一刀のことが心配でならなかったが、それを正直に言うほどまだ素直ではなかった。

 

「ごめん……」

 

 いくら自分の考えた策でも今回ばかりは本当に命を落としかねなかっただけに、一刀は申し訳ない気持ちになっていく。

 

「いいわよ。でも自分のしたことは最後までしないと、そっちは許さないわよ?」

 

「ああ」

 

 雪蓮は誰の目も気にすることなく一刀を抱きしめ、自分の唇と一刀の唇を重ねた。

 

「そうだ。皆からもらったお守り、凄く役に立ったよ」

 

 蓮華の髪、子供達からの文、そして雪蓮への愛の言葉を記した文。

 

 その全てが一刀を支えていた。

 

「当然でしょう?私達が心を込めて渡したのだから♪」

 

「うん」

 

 一刀はそのお礼にと自分から唇を重ねた。

 

「コホン」

 

 さすがに山越兵がほとんど逃げたとはいえ戦場のど真ん中でアツアツなところを見せ付けられると他の者はどうしたらいいのかわからず、すかさず思春が注意を促した。

-21ページ-

「そうだ、アイツが逃げたなら追わないと」

 

 厳白虎が山越の本拠地にでも逃げられたらまた無用な血が流れかねない懸念する一刀に雪蓮は大丈夫と答えた。

 

「そろそろよね?」

 

「はい。さすがに今回ばかりは華琳様も話を聞いてすぐに軍を起こされましたので」

 

「なんのことだ?」

 

 置いてけぼりをくらう一刀に凪が答えた。

 

「あの山越の王の逃げ込む場所はどこにもないということです」

 

 その言葉どおり、銅鑼が激しく鳴り響いてきた。

 

「噂をすればね」

 

 雪蓮もどこか嬉しそうに言う。

 

「一刀さん、あれを」

 

 葵に言われた方向を見ると、そこには青く染め上げられた中に『魏』と『曹』、それにたくさんの魏将の旗印が所狭しと並んでいた。

 

「華琳?」

 

「そうよ。華琳には海上から動いてもらって手薄な山越の本拠地をくまなく探したの」

 

 そして一刀が望む和平を掲げ、それに賛同する山越の者と協力してここまでやってきた。

 

 魏軍五万と山越の和平を望む者達は退却していく厳白虎とそれに付き従う山越兵達の前に立ちはだかった。

 

「みんな一刀を助けたいから形振り構わずここにきたわけなの」

 

 一人の男の為に大軍を率いてきたそれぞれの王達。

 

「一刀様のなさろうとしていることは華琳様にも十分伝わっております」

 

 だからこそここに凪がおり、雪蓮達と共に一刀を守った。

 

「お膳立てはしてあげたわ。あとは一刀次第よ」

 

 口ではそういいつつも雪蓮はもし一刀を助けられなかったら山越を滅ぼすつもりでいた。

 

 それは蓮華と同じ気持ちだったが、それ以上に怒りと憎しみをぶつけて女子供といえども見逃すつもりはなかった。

 

 だが寸前で助けることができ、これ以上の無用な血が流れることなく戦は終息へ向かっていく。

 

「みんな、ありがとう」

 

「まだその言葉は早いでしょう?」

 

「……そうだな」

 

 雪蓮に支えられながら立ち上がる一刀。

 

 振り向くと連合軍が数多の旗を靡かせて向かってきていた。

 

 その先頭には十文字の旗があり、風と亞莎がやってくるのが見えたとき一刀もようやく安堵の笑みがこぼれた。

-22ページ-

「お兄さん」

 

 風達が合流したてまず一言めに風が遠慮なく前に立って一刀を見上げた。

 

「風、今まで辛かっただろう?」

 

 自分の立てた策によって風がどれほど苦しい気持ちになったかを思うと、何を言っても慰めにはならないと一刀は思った。

 

「風はお兄さんが望んだことをただしただけですよ。でも」

 

 そっと一刀にしがみく風は身体を震わせていた。

 

「今だけは泣いてもいいですか?」

 

「ああ」

 

 一刀も風を優しく抱きしめると風は声を上げて泣いた。

 

 今まで我慢していたものを吐き出すようにただ泣いた。

 

 その姿に亞莎も涙を我慢することが出来ず、涙を流しそれを思春が受け止めた。

 

「ご主人さま」

 

 そこへボロボロの恋がゆっくりとした歩調で一刀達の前に現れた。

 

「恋!」

 

 長いこと夢見ていた人を見つけ、嬉しそうに抱きついていく恋を一刀はしっかりと受け止めた。

 

 そして風と同じように涙を流して辛かった日々からようやく解放された。

 

 この戦においてこの二人は誰よりも苦しみ悲しみに支配されていただけに、一時も離れようとしなかった。

 

「恋、怪我してるじゃないか」

 

 矢を背中に刺したまま来ていた恋に一刀は驚き、慌ててその矢を抜くと一瞬、恋の表情が歪んだ。

 

 背中は赤く染まり、かなりの出血をしているにも関わらず恋は一刀にしがみついて離れなかった。

 

 左腕の痛みも一刀と再会できた喜びの前では消えたかのように恋はただ甘えた。

 

「ごめんな」

 

 自分のせいで彼女達が傷ついたことが悔しく、いくら謝っても足りないぐらいだったがそう言うしかなかった。

 

「感動の再会はその辺にしてさっさと終わらせるわよ」

 

 雪蓮ももう少し風と恋に甘えさせてやりたいと思っていたがまだ全てが終わったわけではなかった。

 

「そうだな」

 

 風と恋を慰めながら一刀はまだ自分がするべきことが残っていることを思い出した。

 

「さあ、大都督殿。ご命令を」

 

 雪蓮は笑みを浮かべながら大都督である一刀に指示を仰いだ。

 

「これより逃げた山越の王を追う。ただし降伏する者や負傷した者は丁重に扱うこと。また刃向かってきても決して命だけは取ったらダメだ」

 

 どこまでも甘い一刀の命令だが、ここにいたってはもはや無用な血は流れることなどないと誰もが確信していた。

 

 一刀は梅花のほうを向いてこう言った。

-23ページ-

「降伏した山越の兵士を任せてもいいかな?」

 

 そのまま捕虜にするのではなく、山越の将である梅花に任せることで呉がこれ以上の戦を望まないという意思表示を示すことになる。

 

「心得た。呉の大都督殿が望まれるのであれば我が命にかけて従うまで」

 

 呉そのものではなく一刀個人に忠節を誓うかのようなその返答に、一刀は雪連の方を見ると、

 

「いいんじゃないかしら」

 

 と短く答えた。

 

「梅花」

 

「うん?」

 

「これからは呉や山越としてではなく一人の人として共に生きていこう」

 

 やがて国は一つになっていくだろうが、人が変わるというわけではない。

 

 同じ命を持つものとして、同じ志を持つものとして一刀は梅花達を受け入れることに何の躊躇いもなかった。

 

「うん。一刀がそういうのならアタシもあんた達と一緒に生きていたい」

 

 そう答える梅花に一刀は手を差し出した。

 

 梅花もそれに応えるように手を差し出し二人は固く握り合った。

 

「それじゃあ、最後の大仕事だ。みんないこう!」

 

「「「「「「お〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」」」」」」

 

 新しい時代の風が彼らの辿る道を示すかのように穏やかに流れていった。

-24ページ-

(座談)

 

水無月:ようやく山越編も佳境を迎えました。今回も長くなりましたがここまで読んでいただいて感謝にたえません。

 

雪蓮 :やほ〜♪久しぶりに戻ってきたわよ♪

 

穏  :本当にお久しぶりですね〜。

 

亞莎 :戻ってこられたということは代理の私達も今回で終わりですか?

 

水無月:山越編での座談参加は今回で終わりですが、その次にある新しいお話ではその回になればまた出ていただくことになりますのでご安心を。

 

雪蓮 :そうね。この山越編が終わればお楽しみの時間だったかしら?

 

水無月:そうですね。それにつきまして読んで頂いている皆さんから応募したいと思います。

 

穏  :応募ですか?

 

水無月:そうです。つまり順番ですね。それによって最終話が変わるというシステムです。

 

雪蓮 :なによそれ?

 

水無月:まぁぶっちゃけるとどの娘達の話を先にするかによってその後の最終話にも影響が出るかもしれないというものです。

 

亞莎 :でも、以前に孫紹様と周循さんのお話をしましたしそれに老女のお話もありましたが、大丈夫なのですか?

 

水無月:ノープロブレム。それもすでに織り込み済みなので大丈夫です。

 

雪蓮 :そういうわけだから次回の山越編完結したあとに募集をするみたいだから、それまでに順番を決めておいてね♪

 

水無月:大まかな詳細はこのあとの告知でいたしますのでそちらもご覧ください。それではまた次回お会いしましょう〜。

-25ページ-

(お知らせ)

 

いつも「江東の花嫁」シリーズを読んでいただきありがとうございます。

 

ここまでこれたのはひとえに皆様のおかげだと思っており心から感謝しております。

 

つきましてはささやかですがそのお礼といたしまして、雪蓮達の娘達のお話を書かせていただこうと思っています。

 

時代的には山越編終了から十年ほど過ぎた頃にしております。

 

ちなみに候補は一刀と結ばれている人達の娘達(もしくは息子達?)なので、もし忘れてしまった方は本編を読み返していただければ幸いです。

 

票が少ない順に書かせていただくのでその辺りもご了承のほどよろしくお願いいたします。

 

最後まで頑張っていきますので今度ともよろしくお願いいたします。

説明
山越編もいよいよ終わりに近づいてきました。
予想通りに八話完結になります。

一刀の望む平和への道。
そしてそれを叶えさせたいという雪蓮達の想い。

生きる意味。

そういったものを思いながら今回も長編になりましたが最後までお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
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コメント
今回の一刀バカなだけじゃね? その場の最高指導者が単独行動とか戦略以前じゃないか(coinbe)
よかった〜この頃恋が死んでしまう物語ばかり読んでたからちょっとびびった(sink6)
p18 常山の趙雲→常山の昇り龍だったような?(コウガ)
17p数百等→数百頭では?(COMBAT02)
めっさおもしろかったです><(motomaru)
志築 刀麻様>華雄と恋、きっと感じ的には母親と同じでしょうね(^^)(minazuki)
天神 流様>誤字報告ありがとうございます(><)(minazuki)
jackry様>全員は書きますがその順番が重要です!(minazuki)
本郷様>思春の子供の話もいいですね〜。(minazuki)
kanade様>なんとかいけました♪(minazuki)
ユウ様>誤字報告ありがとうございます(><)(minazuki)
munimuni様>長かったです!(minazuki)
ダメ猫様>遠征軍に参加した者にはご褒美ですね(^^)(minazuki)
まーくん様>言われて気づきました!(;゜▽゜)(minazuki)
村正様>頑張ります!(minazuki)
トーヤ様>ありがとうございます。山越編最終話もよろしくお願いします。(minazuki)
キラ・リョウ様>一同に会しました!(minazuki)
闇羽様>顔が腫れていても一刀ですから(^^)(minazuki)
Poussiere様>全員は書くつもりですが問題はその順番です。(^^;)(minazuki)
st205gt4様>種馬ではもはや語れませんね(^^)(minazuki)
フィル様>まさに子沢山ですね。問題は男子が何人いるか!(minazuki)
nanashiの人様>手加減してそうでしていないと思いますよ。(^^;)(minazuki)
刀様>愛されていますね。羨ましい限りです。(^^)(minazuki)
sion様>長かった山越編も次回で最後です。娘の話はどうなるかは皆さん次第です。(^^;)(minazuki)
山越編更新お疲れ様でした。みんなに愛されている一刀に乾杯。アフターストーリーも期待しています。娘達の話は・・・あえて華雄や恋を推してみたり(ダメですかね?)(石川カナタ)
誤字9p 死の死者→死の使者 でしょうか?(天神 流)
山越編お疲れです^^ 後一回で山越編も終了ですか。さて、どうなることやらw 子供の話では思春の子供の話を希望します。(本郷)
盛り上がりました♪(kanade)
誤字3p 遠慮なんかいわないね→いらないね 6p 肩膝をついた→片膝 12p 間合いと取って→間合いを取って 16p 雪を振り絞って→勇気を振り絞って では?(ユウ)
山越編も終了かぁ。 頑張った人達にしっかりご褒美を上げて下さいな>一刀(ダメ猫)
なんか、もののけ姫のラストみたいな終わり方やねwww(まーくん)
乙です!最終話楽しみにしてます(゚∀゚)(温泉まんじゅう)
更新お疲れ様でした。最終話楽しみにしております。(トーヤ)
三国全員そろいましたね、一刀は愛されていて羨ましいですね。(キラ・リョウ)
よー考えたら顔がハレタ状態で風や恋と抱き合ってたのか…何そのギャグ漫画(ぇ(闇羽)
え?全員分のお話書くのでは無いのか?www ってことで、無理を承知でそれで!(ぇw) 愉しみにしてますよ〜( =w=)(Poussiere)
おお・たのしみにしています・それにしても一刀みんなに愛されいますなー2828(st205gt4)
お疲れ様です!最終話で一体何人の子供がいるのか、またその内の男女比が10:0かなど注目して待ってますwww(フィル)
乙彼ー しかし雪蓮のマッハビンタだけは貰いたくないな・・確実に末路はアンパソマソ・・^p^(nanashiの人)
やっぱり一刀はみんなに愛されてますね〜w(刀)
お疲れ様です、次で最終話ですね!そして其れからの娘の話も期待しつつ・・・希望を言えばもう一回周循が!(sion)
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真・恋姫無双 江東の花嫁達・娘達 雪蓮 一刀   華雄  平和 

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