〜真・恋姫?無双 魏after to after〜三国に咲く、笑顔の花 V 
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〜真・恋姫?無双 魏after to after〜三国に咲く、笑顔の花 

 

 

 

 数日前に振り始めた雨は今も止まないでいる。

 「ふぅ・・・書庫で書物を読み漁るのもそろそろ限界だなぁ」

 書庫で立ち読みをしていた一刀がつまらなさそうに呟く。言ったところで雨がやむわけではないのだが、言わないと気が滅入ってしまいそうになるのだ。

 「んー・・・昨日に比べたら雨脚弱いし、傘でも刺して雨の日の散歩でもしようかな?」

 そうなると誰か一緒に・・・・。

 「やっぱり紗耶かな。気分転換になるといいんだけど」

 最近、考え事ばかりでどこか上の空になっている彼女の気分転換をしてあげようと一刀は思うのだった。

 「うん、行き違いになっても嫌だし・・・さっそく行動に移ろう」

 書物を棚に戻し、立てかけておいた桜華≠腰に差す。

 「いつ晴れてもすぐに素振りできるように持ってきたはいいけど・・・晴れてくれないんだよなぁ」

 

 更に愚痴をこぼし、苦笑して書庫から出ようとした時。

 

 ――縛

 

 声の一言と共に体が言うことをきかなくなる。

 足はおろか、指の一本さえ動かせない。

 (な、なんだ!?体の自由が・・・クソっ!)

 意識を整え、精神を統一し、氣≠練り上げると。

 

 ――操

 

 その一言で一瞬で集中が霧散してしまう。

 かろうじて意識を保っていた一刀に声の主は感嘆する。

 

 ――流石は外史の基点ですね。人形と違って簡単にはいかない・・・ですが、その努力も無駄なことです。

 

 ――操

 

 二度目の声で、一刀の意識は途絶えた。その後に立っていたのは虚ろな瞳の彼だけ。

 すると一刀の前に一人の青年が姿を現す。

 

 ――于吉、紗耶が接触した神仙≠フ道士

 

 「まさか一度目で精神を支配できないとは・・・なるほど、確かに彼は我々の知る北郷一刀≠ナはありませんね。まあ、どうでもよいことですが・・・」

 言葉をいったん区切り、一刀に術がちゃんとかかっているかを確認する。

 反抗の意思のない虚ろな瞳、術が成功している証とも言える状態になっているのを確認してから 言葉の続きを口にする。

 「さて、貴方には今から私が指示する場所に向かっていただきます。気配を殺し、誰にも気付かれぬように・・・いいですね?」

 彼の操り人形と化した一刀は一切の逡巡もなく首肯した。

 「ご安心を、左慈の希望ですから・・・目的地に辿り着いたら術は解いてもらえます」

 一人で一刀は歩き出す。

 

 書庫を出ていき人気のなくなったこの場所で、于吉は呟く。

 「どうやら成功の様ですね。広範囲にわたって自分の気配を悟られぬように術を組むのには苦労しました・・・・・・さて、組んだのはいいのですが効力が短いのが欠点・・・彼女や彼らに気付かれると面倒ですから早々に立ち去るとしましょう」

 こうして于吉は書庫から姿を消した。残ったのは、物音一つしない静寂だった。

 

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 「起きろ、北郷一刀」

 言われて、先程まで虚ろだった一刀の瞳に光が宿ってゆく。

 「!ここは?」

 見渡すとそこには微かに見覚えがあった。確か凪が自分の妻でいていいのかと悩んでたときにいた森の小川だ。

 尤も連日の雨で小川とはとても言えない代物に変貌してしまってはいたが。

 「自分の敵が傍にいるというのに随分と余裕だな」

 「!お前・・・」

 「一応名乗っておいてやろう・・・・俺は名を左慈」

 左慈と名乗った青年はきつく一刀を睨み、殺気を迸らせている。

だが、一刀≠ヘ彼がこれ程の殺気を自分に向けられる覚えが全くなかった。

 「どうして俺の命を狙うんだ?俺は、お前とは初対面の筈だろ」

 「いいや・・・貴様はそうかも知れんが、生憎と俺の方は貴様と初対面ではない」

 殺気に揺らぎは全くない。だが、以前と違いこっちには桜華≠ェある。

 ――だから、簡単に思い通りには行かせない。

 一刀もまた氣≠体に巡らせ、刀を鞘から抜く。

 桜色の刀身に気が通い、花弁のように氣≠ェ舞う。

 「無駄な事を・・・今回は以前の様に邪魔は入らん。助かるとは思わないことだ」

 「どうして俺の命を狙うんだ!」

 「決まっている。貴様が・・・憎いからだ!!」

 言葉と共に恐ろしい速さの中段蹴りが一刀を襲う。

 ――ガッ、ギィィィィン!!

 「!・・・・・ぐっ!く・・・・」

 氣をまとっているせいだろう。刀で防いだにもかかわらず、左慈の足には切り傷一つない。

 それどころか、あれほど金属質な音がしたということは氣の密度も尋常ではないということだ。

 (なんてヤツだ・・・脚甲もないくせに凪よりもずっと蹴りが重い!こんなのくらったらシャレにならない!!)

 再び間合いを詰めてきた左慈に刀を振るう。それを脛で受け止められ、蹴り弾かれる。

 距離が開き、一刀が体制を整えると。

 「シッ」

 驚く事に、左慈は蹴りの斬撃≠繰り出してきた。それを桜華で断ち切ると間合いを詰めてきた左慈が目前に現れ。

 「死ね」

 怨嗟の声と共に先の一撃よりもさらに高密度の氣をまとった蹴りを放ってきた。

 「くそっ!」

 寸前のところで後方にかわすも、衝撃波が一刀を襲い一刀は体勢を崩してしまう。その隙を逃さないように左慈はひたすら距離を詰めてくる。

 一刀は、防戦一方に追い込まれていくのだった。

 

 ――ギィイン!ガッ!!ギンッ!!ガギィィィィンッ!!!

 命を賭けた攻防は終わりがないかのように続いている。

 だが一刀には、徐々に限界が訪れつつあった

 「はっ・・・・はっ・・・はぁ」

 

 ――体力の氣≠フ限界。

 この時代でずっと生きてきたわけではない一刀はこの世界で生きる将たちに比べると体力の限界値が低い。時間をかければかけるほど彼にとって不利になっていくのだ。

 (爺ちゃんや如耶さんのおかげでマシになったとはいえ、長引けばその分俺の方が不利になる・・・・このままじゃ!)

 「この状況で考え事とは随分と余裕だな、北郷!」

 「!しまっ・・・ぐがっ!!」

 一瞬の気の緩みに左慈の蹴りが襲いかかる。ドゴォっ!!という鈍い音と共に、ボキィッ!!という嫌な音が一刀の耳に入り、激痛が全身を駆け巡った。

 (ぐっ!・・・くそ、今のでアバラが二、三本逝った・・・・。起きあがらないと拙いのに・・・体が)

 長時間の氣の使用で一刀の体はもはや限界だった。先の一撃を防ぐのに力を割きすぎたのだ。

 「よく粘ったものだ。褒めてやろう・・・だが、これで終わりだ」

 冷たい言葉が重症の一刀に掛けられる。

 地にうつ伏せている一刀に一歩、また一歩と近づいていく左慈。

 

 ――だが、次の瞬間。

 

 「左慈ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 すさまじい殺気が左慈を襲った後、怒気を孕んだ声が一刀の背後から響いた。

 「ちぃっ!!」

 ――ドゴォォォォンッ!!!!

 振り下ろされた一撃は大地を穿った。

 「貴様・・・・徐晃!!」

 左慈の前に立ちふさがったのは、殺気と怒気を溢れさせている徐晃――紗耶だった。

 

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 ――時は遡り、一刀と左慈が戦い始める前。

 「では、みなさん召し上がってください♪」

 流琉の一声で場が賑やかになる。一番広い玉座の間にテーブルと椅子を並べ、多人数での午後の ティータイムを楽しんでいるのだ。

 桃まん・クッキー、そしてパウンドケーキがそれぞれ一人一人の皿に盛りつけてあるのだが。

 「んむ・・・あぐ・・・・・・もきゅ・・・んく・・・・はむ」

 恋の前にだけは通常の5〜6倍の量が盛り付けてある。

 総量で見れば十人前強はあるだろうか、息を呑む迫力である。

 「恋は相変わらず、よう食べるな〜」

 代表して霞が皆の感想を言うのだった。

 

 「へ〜・・・これが天の国のお菓子なのね、凄く美味しいわ。亞莎、折角だから作り方でも教わったら?」

 「是非教わりたいです」

 「雛里、お主はどうなのだ?朱里への土産にちょうどいいと思うのだが・・・」

 「わ、私もそう思いましゅ・・・・噛みました」

 微笑ましい光景の中、魏のメンツは当然だとどこか誇らしげな顔をしている。

 だが、その中で一つだけ席が開いていた。

 「・・・・・・あの、華琳様・・・・旦那様は?」

 「私も知らないわ。でもその内フラフラと匂いにつられてくるでしょうから心配ないでしょう」

 この瞬間、紗耶の心が微かにざわついた。

 それは、とても小さな不安である筈なのに心の芯を掴んで放してくれない。

 そして、それを確かな形にする切っ掛けがこの場を訪れた。

 「ごめんなさいね。ちょっとお邪魔するわ」

 「何者!・・・・・・・ひっ!?」

 華琳が声の主の容姿に言葉を失くしてしまった瞬間とほぼ同時に、紗耶が駆けだした。

 表情は緊張で張りつめて、まるで余裕がなくなっていた。

 「待ちなさい、徐晃ちゃん」

 「邪魔するなっ!貂蝉!!」

 激昂した声が怪物(←華琳たちみんなの率直な感想)を一喝し、紗耶は部屋から姿を消した。

 「追うぞ、貂蝉」

 「待ちなさい」

 もう一人現れた怪物が貂蝉と呼ばれた巨漢に声をかけた後、去ろうとする二人を華琳の声が阻んだ。

 「お前たちは一体何を知っているの?紗耶のあんな顔は、私たちも初めて見るわ」

 「・・・・・・貂蝉、儂はあ奴を追う。この場は任せるぞ」

 「わかっ・・・」

 

 ――ドゴォォォオオォォンッ!!

 

 貂蝉が返事をしようとした瞬間、城門の方から、破壊音が響いた。

 「むぅ・・・于吉め、あ奴の神経を逆撫でしおったな」

 「い、今のは一体!?」

 春蘭が不安を孕んだ声で聞いてきた。

 「夏侯惇よ、お主は・・・いや、魏の者たちは気付いておるのではないのか?先のは徐晃の仕業よ」

 「「「「「!!!!!」」」」」

 意識的に外そうとしていた現実を突き付けられて言葉を失くす。

 「まぁ、詳しい話は後よ。今は彼女を追うのが先決じゃないのかしらん?」

 若干引きながらも、貂蝉の真剣な声に、一同は頷くのであった。

 

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 そして、一同が訪れた所には穿たれた大地と一人の青年が立っていた。

 不思議だったのは、これだけの騒ぎにもかかわらず、誰一人として駆け付けていない事であった。

 「人払いはしていますから、私が術を解かぬ限りは誰も気付きはしません。もっとも、貴女がたの様な英傑にはやはり無駄のようですが・・・」

 やれやれと頭を振る青年は、静かに華琳たちを見据える。

 「お久しぶりです曹操殿」

 「?生憎とお前のような得体の知れない輩に知り合いはいないわ」

 殺気を持って青年を睨む華琳。

 「ああ、この外史≠ノおける貴女とは初対面でしたね。これは失礼を・・・・では自己紹介といきましょう。私の名は于吉・・・以後お見知りおきを」

 仰々しく詫びながら于吉は名乗りを上げた。駆けつけた一同はすでに臨戦態勢になっている。

 と、そこで華琳は一部の者を制した。

 「凪、真桜、沙和、それと風は下がりなさい。貴女達にもしもの事があってはいけないわ・・・城に戻りなさい。雨は、今のその子たちにはただの毒よ・・・風、貴女はお腹の子に障るわ」

 覇王としての覇気を込めた声で四人につげた。彼女たちとて紗耶の事が心配なのは充分に理解していたが、それでも彼女たちは今は母と母になろうとしている者たちなのだ。

 「おや、心配なのは徐晃だけなのですか?思っていた以上に北郷殿は貴女方にとって重要な存在ではないようですね・・・・・・・!!」

 一刀の名を口にした瞬間、全身が震え上がるような悪寒が包みこんだ。

 それは、呉や蜀の面々ですら息を呑むほどの威圧感だった。

 「どうやら詳しく聞く必要がありそうね・・・」

 華琳が絶≠構えると他の者たちもそれに倣う。まぁ、劉備や三国の軍師、そして魏の三羽鳥たちは睨みつけるだけなのだが。

 「華琳この男、どうするの?」

 「捕えて一刀殿の居場所を聞き出すのが上策でしょうな」

 全員が得物を構えると、于吉は虚空を睨みつけた。

 そして溜息をついた後、一同を睥睨し言葉を呟く。

 「どうやら、徐晃が間に合ったようです。間一髪と言ったところでしょうか・・・。流石は神仙≠フ中でも指折りの武闘派・・・・まったく、物事とは思う通りにはいかないものですね」

 「紗耶が神仙=H」

 「ええ。彼女は私やそこにいる貂蝉や卑弥呼と同じ存在でした・・・まあ細かい事は彼女本人に聞くとよいでしょう。私は左慈を迎えに行かねばなりませんのでこれにて・・・・」

 「な!?消えた?」

 于吉は、最初からいなかったかのように音もなくその場から姿を消す。残された皆が唖然としていると、卑弥呼が口を開いた。

 「貂蝉、儂はだぁりんをつれてくる。この場、任せるぞ」

 「わかったわん。さ、お城の中に戻りましょう?」

 「貂蝉、といったわね?貴方は知っているの?」

 華琳が覇王として問いかけると少しつらそうな顔でほほ笑んだ。

 「ええ、曹操ちゃんの考えてる通りよ。でも・・・」

 「紗耶と一刀に聞いた方がいいのね・・・わかったわ。でも貴方にもいてもらうわ・・・紗耶はともかく、貴方や卑弥呼とかいうのも含めて、信じたわけではないのだから」

 華琳の言葉に、貂蝉は何も言わずに頷くのであった。

 

 ――雨は、知らぬ間に止んでいた。

 

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〜epilogue〜

 

 

 

 降り続ける雨の中、左慈と紗耶は何もすることなく対峙していた。

 紗耶が来た事に安堵したのか、一刀はすでに意識を手放していて小さな寝息が聞こえた。だが、急いで手当を施さねばならない状態であることは、苦痛に歪む顔を見れば一目瞭然だ。

 だが、そのためには目の前の男を倒さねばならない。

 (私一人ならいざ知らず・・・怪我を負って意識を失くされている旦那様を守りながらでは)

 状況は紗耶にとって圧倒的に不利だった。

 こちらから攻めれば一瞬の隙が致命的になってしまう。これは防御に廻ったとしても同じと言える。

 「・・・・・・ふん、北郷が予想以上に粘ったせいで俺としても貴様と対峙しながらそいつを殺すのは些か面倒だ。つくづくこの男は運がいい・・・」

 声には憎しみがあった。それもかなり深い憎しみが――。

 「そいつに伝えておけ、どんな手を使っても必ず貴様を殺すとな・・・」

 そう告げて紗耶から距離をとる左慈、その隣には于吉の姿があった。

 「退きますよ・・・それでは徐晃、またいずれ・・・・・・」

 「待ちなさい!左慈、于吉!!」

 声を張り上げるも二人はすでにそこにいなかった。

 「・・・・・・探すだけきっと無駄なのでしょうね。それ以前に旦那様の手当てが最優先ですけど」

 一刀の隣で膝をつき、胸の上に手を置く。

 「・・・・・・治癒功掌」

 紗耶の掌が淡い蒼色に輝く。

 「貴方を死なせはしません・・・必ず助けてみせます、旦那様・・・・・・」

 

 ――紗耶の手当てが終わった時、雨は止み・・・夕暮れに染まりゆく茜色の空が顔を見せていた。

 

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〜あとがき〜

 

 

 

 第四弾を御送りしました。

 前回からは一転して一貫してシリアス(?)なお話になりましたが・・・いかがでしょう?

 Side春蘭やside華琳(前・後)の時にも戦闘描写は使いましたが、やはり表現が難しいです。

 さて、次回の予定ですが・・・次が三国に咲く、笑顔の花″ナ終章の予定です。

楽しみにしていただけたなら嬉しい限りです。

 では次回作でまた――。

 Kanadeでした。

 

 

説明
第四弾です。
今回はシリアス(?)です。
楽しんでいただけたら嬉しい限りです
それではどうぞ――。
感想・コメント・誤字報告等お待ちしております。

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コメント
ワクワク(readman )
たのしみw(リンドウ)
次が楽しみです。(ブックマン)
てか、母になるといろいろたいへんよね〜(motomaru)
愉しみだよ! 頑張ってね^^w(Poussiere)
誤字を指摘してくださったお二方、ありがとうございますm(__)m修正しました(kanade)
楽しく読ませていただきました。(黒猫)
本格的に対アンチ外史神仙編に突入かwktk あとは4p呉や蜀の面々でする→すら かな(nanashiの人)
2P・・言葉と共に恐ろしい速さの中断蹴りが・・中段蹴り・・漢字違い?(st205gt4)
楽しみにしています。頑張ってください!(st205gt4)
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〜真・恋姫?無双  アフター    オリジナル 一刀 徐晃 

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