真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 64
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 彼女は悲しみとも憤りとも感じられるような複雑な表情をしながら、精いっぱいの攻撃の色を載せた言葉をぶつけてくる。

 

「この前、留まるっていった後で、こんなの、ひどいと思います……っ!」

「……それは、その通りだと俺も思う」

 

 その言葉を否定せず、肯定してから話を続ける。

 

「だから、アイツには俺に残せるものを残していくつもりだ」

 

 多分、この考えには自分の“甘さ”も混じっているとは思う。それが何かなんて具体的には言えない。でも、だからといって雪華に何かを残そうという気持ちがその甘えのみなんてことはないと思う。

 

「………っ!」

 

 俺の言葉を聞いた雛里はその場を走り去ってしまった。

 

「雛里!」

 

 慌てて追いかけようとするが、そんな俺の頭にドッ! と鈍い衝撃と痛みが走る。

 

「あいやまたれい!」

「せ、星!? 何するんだよ!」

「玄輝殿。何故、雛里があのようなことを言ったか理解されておられるか?」

「いや、なんでそんなことを」

 

 と言ったところでつい最近似たことがあったのを思い出した。

 

「…………星、もしかして俺は鈍い方面でやらかしてるのか?」

「ふむ、やらかしているか否かでいえばぎりぎり否ですな」

 

 その言葉に朱里が“いや、もうやらかしているのでは?”とでも言いたげな目をしているのが気になるがそこは後で非難されることとして。

 

「……なぁ、どうすればいいんだ?」

「正直、ご自分で考えられよと言いたいところではありますが……」

 

 ちらりと愛紗を見てから俺に視線を戻してその続きを話す。

 

「玄輝殿のは色々事情があるもの故、今回ばかりは助言をいたしましょう」

「すまん」

 

 星が手招きしたので近づこうとしたのだが、俺の肩を愛紗が掴んで引き留める。

 

「おい、星。何か変なことを吹き込もうとしているのではあるまいな」

「心外な。今回ばかりは私とて冗談は言わぬ」

「…………それならいいが」

 

 肩から手が離れたので改めて近づくと“耳を貸せ”と手で指示してきたのでその通りにする。

 

(さて、まぁ玄輝殿もさすがにお気づきになられましたでしょうが)

(……正直、物語の主人公に抱くような憧れだろうなって思ってたんだよ)

(憧れから恋心に変わるなどザラでしょうに)

(……………………そうなのか?)

(…………………………………玄輝殿、少しは恋愛話の本を読まれよ。今の玄輝殿は新兵以下ですぞ)

(そうか……)

 

 それは、非常にマズイな。

 

(……で、今回はどうすればいいんだ?)

(玄輝殿が主のように甘い言葉の1つでも囁ければいいのですが)

(……まて、北郷のやつ、そんなことが出来るのか?)

(まぁ、主は気が多かれどそういった心配りは抜かさぬ方ですからな)

「マジか……」

 

 思わずつぶやいてしまった。横目で北郷の方をちらりと見てアイツのすごさを感じていた。

 

(……俺の持ってないものを、アイツも持ってるんだな)

 

 正直、羨ましい。だが、羨んだところで今がどうにかなるわけではない。

 

(俺にできそうなものだったら何がある?)

(そうですな……………)

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

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部屋を飛び出た雛里はそのまま外に出て町をとぼとぼと歩いていた。

 

(……私、悪い娘だ)

 

 自己嫌悪。それは自分の気持ちを他人どころか雪華を使って正当化しようとした自分に対してのものだ。

 

(残ってほしいって、どこにもいかないで欲しいって思っているのは私なのに……)

 

 咄嗟の時ほど人の本性が現れるという話を雛里は聞いた事がある。それが本当なら……

 

(こんな悪い娘、あの人が好きなわけない……)

 

 にじみ出る涙を拭うが、それは止まってくれない。むしろあふれ出る量がどんどん多くなる。

 

(………………や、ぃやだよぅ)

 

 あまりにも止まらない涙に足を止めてそこに立ち尽くしてしまう。だが、嫌なことというのは連鎖的に起きてしまうものである。

 

「こいっ!」

「え? ひゃあ!?」

 

 突然持ち上げられる体。そしてのど元につきつけられる冷たい感触。

 

(え? え? なに、なにぃ!?)

 

 あまりのことに言葉が出ず、脳内でしか叫べない。

 

「こっちに来るな! コイツの命がどうなってもいいのか!? あぁん!?」

「くっ! 人質をって鳳統将軍!?」

 

 どうやら罪人が追われていて、自分が人質になったのだと理解をした雛里だが警備兵の一言に絶望してしまう。

 

「は、はははっ! コイツが? 将軍!? ならなおさらいいぜ!」

 

 そう。罪人にとっては名馬を得たようなもの。罪人がどんな方法をとってもプラスにしかならない。

 

「俺を見逃せ! それと金だ! コイツに見合うだけの金を用意しな! 早くしろや!」

 

 一度離れた刃が再び首に触れる。どうやら、なまくらのようで触れただけで切れるなんてことはないが恐怖心を植え付けるには十二分すぎる。

 

(こわいこわいこわいこわいこわいこわい……!)

 

 戦場での恐怖は覚悟をしていたことだが、日常の中でのこういったことは考えることがなかった。さらに、追い打ちをかけたのがさっきまでの自己嫌悪だ。落ち込んでいた状態で、さらには覚悟もしてないことが起きればいかなる者でも混乱する。ましてや、普段から前線で剣を振るわない彼女では尚更である。

 

(たす、けてっ……!)

 

 そんな時、彼女の頭には黒い外套をまとった彼の後ろ姿が浮かび上がる。

 

(………………きて、くれないよね)

 

 あんなことをいった自分のところには。これは罰なんだ。そう思うとすっと恐怖心が消えた。そして、一筋の涙を流して目を閉じた。

 

「玄輝さん、ごめんなさい……」

 

 誰に聞かせるつもりのない謝罪。

 

「たく、謝るくらいならもうちょっと注意して町を歩いてほしいもんだな」

「え?」

 

 驚きのあまり、勢いよく目を見開いた。そこには黒い外套を纏って左手を刀に添えた彼女が来てくれないと思っていた男がいた。

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はいどうもおはこんばんにちわ。作者の風猫です。

 

いやはや、急激に暑くなり、梅雨もいつの間にか過ぎ去ってしまいましたが皆さんは元気に過ごされていますか?

 

作者は喉をやられました。いや、もうタンが止まらんのなんのって……

 

……みなさんも、急激な気温の変化に気をつけてお体をご自愛ください。

 

では、こんなところでまた次回。

 

何か間違い等ありましたらコメントの方にお願い致します。

説明
白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。

大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。































ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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コメント
はこざき(仮)さん>>ご無事で何よりです……! 今の自分には安全を祈ることしかできませんが、とにかくお体等々お気を付けください。(風猫)
風猫さん>> ご無沙汰しております、あれから何とか山場を乗り越えまして無事のようです。とはいえ、それ以外の場所が未曾有の集中豪雨でかなりの規模の被害が出てますね、そちらの方々が心配でござる…(はこざき(仮))
はこざき(仮)さん>>ちょ、大丈夫なんですか!? く、くれぐれもお気を付けくださいね…… にしても本当に夏は気をつけなければいけませんね。山も海も生き物が活発になる時期でもありますからね。お互いに気をつけましょう!(風猫)
これは雛里惚れ直しますわ(嫉妬) こちらは現在絶賛嵐の真っ只中でございます。風で家が飛ばされそうです(畏怖) そろそろ夏真っ盛り、熱中症など気を付けない事が事欠きませんね…(はこざき(仮))
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オリジナルキャラクター 鬼子 蜀√ 真・恋姫†無双 

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