流星の白虎と暴れ馬のウサギ
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日もすっかり暮れた、とある日の夜。隊長室でミーナは1つのファイルに目を通していた。

「………」

表紙に書かれた英語のタイトルの下には、赤字の英語で「|Because of an absolutely confidential matter, I forbid distribution, the inspection of troops except the person concerned strictly《極秘事項につき、関係者以外の配布・観閲を厳しく禁ずる》」と警告の書かれた、そのファイルを見て、ミーナは時折、顔を酷く顰めていた。

「ミーナ、入るぞ」

「えぇ」

そんなミーナの元にやってきたのは、彼女が一番の信頼する副官にして、最高の相棒であり、親友の美緒だ。

美緒はミーナの居る隊長室へと入るなり、彼女が目を通していたファイルを見て、こう言い放つ。

「またウィーラーの”改造記録”を見ているのか?」

この美緒の指摘に対し、ミーナは「えぇ……」と短く返しながら、言葉を続ける。

「何回見ても、これは信じられないわ……。こんな事が現実で起きるなんて……、まるでSF小説よ……」

ミーナがそう言いながら閉じ、机の上に放り投げたファイルには、先程の警告文の上に白の英語で、この様なタイトルが書かれていた……。

 

『|A record in an operation record for experiment body 1 in the artificial Wizard manufacturing planning and the later follow-up and correspondence in the death.《人工ウィザード製造計画における実験体1号に対する手術記録及び、その後の経過観察等における記録、並びに死亡時における対応》』

 

このミーナが放り投げたファイルの内容は言うなれば、ウィーラーの”製造記録”にして、”壊れて、修理・使用不能なった時の廃棄方法”を示したマニュアルだ……。

そんな信じがたい記録等が書かれたファイルを前にし、苦虫を?み潰した様な表情のミーナを横目で見ながら、美緒は「あぁ……」と呟きながら、言葉を続ける。

「だが……、現実だ……。私も信じたくないがな……」

美緒の言葉に対し、ミーナは「はぁ……」と深くため息をつき、椅子に腰掛けながら、こう言い放つ。

「まさか助けた味方がこんな目に合うなんて、想像もつかなかったわ……」

「あぁ……よく”現実は小説よりも奇なり”とは言うが……。本当なんだな……」

「全くよ……」

そう言いながら、頭を押さえるミーナを見ながら、美緒は彼女の放り投げたファイルを手に取り、ミーナと同様にファイルの中を見て、顔を顰める。

彼女の開いたページには、ウィーラーの内臓をまるで玩具の様に弄り、見た事も聞いた事も無い薬品の数々を点滴する写真が掲載されていた。

間違いなくこう言った物に弱い人が見れば、堪らずその場で嘔吐して、崩れ落ちるであろう写真の数々……。

そんなグロテスクかつ、この世で起きた出来事とは思えない写真に対し、顔を顰めながらも、美緒は絞り出す様に口を開く。

「だが……、今のウィーラーが”飼い殺し”にされる事が無くなったのは救いだな……」

この美緒の言葉に、ミーナは「えぇ」と短く返すと、こう続ける。

「そうじゃなければ、骨が折れる思いをした意味が無いわよ。私も貴方も……。そして”先生”も……」

「あぁ、先生には感謝だな……」

そうミーナの言葉に対し、何処と無く感慨深げに返事を返す美緒。

 

そんな美緒の様子を見ながら、ミーナは思い返す……。ウィーラーを、この501に引き抜く事を決意した日の事を……。

 

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時は少し遡り、場所は303高地の激戦で重傷を負ったウィーラーが運び込まれた病院。

ミーナがウィーラーに部下達の死を告げた所から、物語は動き出す……。

「うわあああああああああああああっ!!」

自身の口から、部下たちの死を告げた瞬間、発狂したように叫ぶウィーラー。

そんな彼の様子を見て、ミーナが「しまった!」と心の中で思ったのも、時すでに遅し、ウィーラーは狂った様に自身につけられた点滴の針や計器のセンサーを引きはがし、白い液体をまき散らしながら、周りに置かれた計器や薬品の瓶やらを次々にひっくり返したり、叩き壊していく。

「しょ、少尉!!落ち着いて、落ち着くのよ!!」

「あああああああああああああっ!!」

「きゃっ!!」

何とか暴れているウィーラーを制止させ、落ち着かせようとするミーナだが、護身術程度の格闘術しか持たないウィッチのミーナでは、素手で人の首をへし折る様な格闘術の持ち主であるコマンド部隊の隊員であるウィーラーを相手に出来る訳も無く軽々と突き飛ばされてしまう。

ウィーラーに突き飛ばされたミーナは近くの壁に激しくぶつかり、小さな声で「うっ!!」と悲鳴を上げる中、ウィーラーは相変わらず狂った様に部屋の中で暴れている。

「おい、何を騒いで……うおっ!!」

そんな騒々しい部屋の様子をおかしいと思ったリベリオン軍の|MP《軍警察》の兵士が飛び込んでくる。

飛び込んできたMPは部屋で暴れ狂うウィーラーを見て、警棒を取り出す。

「う……うう……」

「おい、お前何をやっている!?おとなしくするんだ!!」

警棒を取り出すなり、こう叫んでウィーラーを警棒で制圧しようと殴りかかるMPだが……。

「うわあああっ!!」

「ぬおっ!?」

ウィーラーはその殴りかかってきたMPの警棒を素早く右腕で払いのけるなり、傍にあった台の上に置かれていた花瓶を手に取るなり、それで思いっきりMPの頭を殴りつける。

瞬間、花瓶がバリンという音と共に割れると同時にMPの頭も割れ、真っ赤な血が辺り一面に飛び散る中、ウィーラーは一気にMPに間合いを詰めるなり、胸倉を掴む。

「ああああっ!!」

「うおおっ!?」

そしてウィーラーは叫びながら、MPを思いっきり病室の窓へと投げ飛ばし、投げ飛ばされたMPは何も出来ずに、窓のガラスを突き破り、外へと放り出され、下に駐車してあったジープに落下するなり、ぐしゃっと言う鈍い音と共に、ジープの幌を潰し、更にフロントガラスを粉砕し、車内を真っ赤な血で染め上げ、動かなくなる……。

「っ!?」

この光景を目の当たりにして、ミーナがネウロイとの戦いでさえも感じた事の無い凄まじい恐怖を感じる。

 

 

そんな中、この騒ぎを聞きつけた別のMP達が一斉に駆けつける。

「一体、何の騒ぎだ!!」

「な、なんだこれは!?」

「しゅ、集団で取り押さえるんだ!!」

「かかれーっ!!」

駆け付け、部屋の惨状を目の当たりにしたMP達は一瞬で只事で無い事を悟るなり、一斉に原因であるウィーラーに対して、飛び掛かる。

その数は7人。間違っても、普通なら暴れている少年1人を取り押さえる際に駆り出される人数では無い数字だ。

「うおああああーっ!!」

だが、そんな多数のMP達を相手にウィーラーは怯む事無く、逆にMP達に飛び掛かり、まるで殺人ロボットの様に暴れ狂う。

まず最初に一人のMPをタックルして、押し倒すとそのまま警棒を奪い取り、その奪い取った警棒で思いっきりMPの顔面を殴りつけ、一人ダウンさせる。

「ぎゃっ!!」

「このガキ!!」

「っ!!」

その光景を見て、激怒しながら、殴り掛かってきた別のMPの警棒をウィーラーは、さっき奪い取った警棒で払いのけるなり、強烈な回し蹴りを放つ。

このウィーラーの回し蹴りを食らったMPがくの字になりながら、壁へと叩きつけられたかと思った次の瞬間には、間髪入れずに間合いを詰めたウィーラーが強烈な右ストレートを放つ。

それがMPの顔面にめり込んだ瞬間、骨が砕け散る鈍い音と共にMPは「ぶおっ!!」と言葉にならない声を上げてダウンする。

 

 

そんな血まみれになったMPを前に、拳をMPの返り血で血まみれにしたウィーラーはただ立ち尽くす。

「………」

「あ……、あぁ……」

「ば、バケモンだ……」

そんなウィーラーの様子を前にして、ミーナはおろか、ウィーラーを取り押さえる為にやってきたMP達も恐怖する中、ウィーラーは肩で大きく息をしながら、鬼の様な形相で、MP達、そしてミーナに顔を向けると……。

「うおああああーっ!!」

まるで獲物を前にした肉食獣か、怪物の咆哮の様な叫び声をあげ、ウィーラーがミーナ、MP達に飛び掛かろうとした瞬間だった。

「うっ、撃て!!」

MP達の指揮官が射撃指示を出し、MP達が一斉に腰からぶら下げていたホルスターから、コルトガバメントを抜くなり、一斉にウィーラーに対して構える。

「だっ、ダメよ!!撃たないで!!」

「撃てぇぇええぇーっ!!

それを見てミーナが止めようとしたが、それよりも先にMP達が一斉にウィーラーに発砲。

その瞬間、病室に多数の銃声が鳴り響くと共に、白い液体が病室一帯に飛び散った……。

「ぶほぉ……、こっ……、っ……!!」

そして、それから数秒後に掠れた様な声を上げ、口や胸にMP達に撃たれた際に出来た銃創から白い液体をまき散らしつつ、ウィーラーは床に崩れ落ちた……。

 

 

この一瞬の出来事をミーナが理解できずに呆然とする中、銃声を聞きつけ、更に多数の人達が駆けつけてくる。

「どうした!?」

「きゃあああああっ!!?」

「医者だ、医者を呼ぶんだ!!」

「………」

この騒々しい病室の中、ミーナはただ呆然とすることしか出来ないで居た……。

そんなミーナの事など知る由も無い医師や看護師達が次々と病室の中に入ってくる中、一人の中年の医師と思われる男が入ってくる。

「容体は!?」

「胸部を中心に銃創多数、それに伴う出血多量!!危険な状態です!!」

「大至急、応急処置として輸血を行います!!」

「くそっ、何でこんな事になったんだ!?」

別の医師、看護師達からの報告を聞きつつ、その男は悪態をつくと、ふと病室の隅に居たミーナを見つけるなり、鬼の様な形相で彼女の元へとやってくるなり、胸ぐらをつかみ、無理やり立たせながら、こう怒鳴り散らした。

「この小娘、この騒ぎは貴様が仕込んだのか!?この貴重な”実験体”をなんだと思ってる!?」

「じっ、実験体……?」

病室のベッドの上で応急処置されるウィーラーを指さしながら、この男の言い放った実験体という言葉に、ミーナは思わず己の耳を疑う。

普通の状況であるならば、ウィーラーは”患者”であるはずなのに、今、目の前で自分の胸ぐらをつかんでいる男はウィーラーのことを”実験体”と言い放った……。

それに先程の白い液体は、ウィーラーの体……、そして銃創から、まるで湧き水の様に大量に噴き出していた……。

 

(一体……、一体……、何が起こっているというの?彼の身に何があったというの?)

 

この二つの点から、ミーナが”何かとんでもない事が起こっている”……と言う事を悟る中、彼女の胸倉を掴んでいた男がミーナに対し、叫ぶ。

「聞いてるのか、この小娘!?いい加減にしないと……」

そう叫んで、ミーナの顔面を殴りつけようとする男だったが、それを別の男の声が制止する。

「モニス博士、今はそんな事をやっている場合では無い!!彼の治療が先だ!!」

この男の制止によって、ミーナの胸ぐらを掴んでいた男は「ちっ!!」と舌打ちをしながら、ミーナを手放すと吐き捨てる様にこう言い放つ。

「さっさと目の前から失せろ、この小娘が!!」

「………」

そう叫びながら、ウィーラーの治療に加わる男の後姿を見ながら、ミーナは病室から退室する。

胸の奥底から感じる只ならぬ胸騒ぎを感じながら……。

 

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それから数時間……。すっかり日も暮れた頃、再びミーナはウィーラーの様子を見る為に、彼の病室へと足を向けていた。

だが、そこに広がる光景は昼間に見た物とは、何もかもが変わり果てていた。

まず病室のドアには、デカデカと「|Visitation denying《面会謝絶》」の張り紙がされ、周囲には7人ものリベリオン軍のMP達が拳銃だけではなく、M1カービンやウィンチェスターM1897散弾銃と言った銃器を携帯し、武装している。

これだけなら、まだ昼間におけるウィーラーの錯乱を受けての対応措置……と言う事でミーナも決して理解出来ない訳では無い。

だが、それだけに限らずドアには、患者が錯乱し、暴れるので、その為の措置……と言う事では理由にならないぐらいに頑丈な鍵……それも軍の弾薬庫等で使う様なタイプだ。それが2つ、3つと複数掛けられていた……。

そして、そのドアの側に憲兵達を引き連れ、立っている男はリベリオン陸軍の制服で少佐の階級章こそつけているが、カールスラント軍人のミーナが知る限りでは、見た事の無い肩パッチや略章がつけられ、とてもリベリオン陸軍の関係者には見えない風貌だ。

そんな怪しさを隠して切れていない男を不審に思いつつ、ミーナがウィーラーのいる病室へ入る為、近づいた瞬間だった。

「貴様、何者だ?ここは立ち入り禁止だぞ」

その男は冷静ながらも強い口調でミーナに対し、警告すると同時にMP達が肩からぶら下げていた銃をミーナに突きつける。

対するミーナも、自身に突きつけられた銃口に対しても、歴戦のウィッチらしく怯みもせずに冷静かつ、強い口調で答える。

「カールスラント空軍 第3戦闘航空団所属のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐よ。入院中のリベリオン陸軍、第1特殊任務旅団・第3中隊・第32小隊の小隊長、ウィーラー・マッカダムス少尉への面会を要求するわ」

「ミーナ中佐、それは許可する事が出来ない」

「貴方、それはリベリオン合衆国の重要な同盟国軍の将校の命令でも……というの?」

自国の重要な同盟国の将校……それも上官であるはずのミーナに対し、敬意を表する所か、門前払いしようとする、その男に対して、ミーナが不信感を隠す事なく、強い口調で問い詰める中、その男は「そうだ」と短くいった後、さらにこう言い放つ。

「ウィーラー少尉は、今現在、我々、OSSの管理の元にある。これはOSS局長から直々に下された指示だ。それに伴い同盟国の将校といえど、面会させることは出来ん」

「OSS……?」

OSSという言葉にミーナは反応した。その存在はミーナもつい最近知ったばかりだが、この戦争が始まってから、リベリオン合衆国が国内外における戦況等の多数の情報を分析し、リベリオンにとって脅威となる物かどうかを判断し、脅威と判断された物に対し、様々な対抗措置を取る……と言った名目で設立された”情報機関”である事を知っていたからだ。

 

(情報機関が一体何の目的で、陸軍に所属する一人のウィザードに対して、ここまで執着するの?)

 

突如として出てきた情報機関の名に対し、更なる疑問や不信感が湧いてくる中、そのOSSの将校はミーナに対し、こう言い放つ。

「警告しておくぞ……ミーナ中佐。これ以上、ウィーラー少尉に関して探りを入れるなら、この世から貴官の存在を無かった事にする事も可能であると言う事を忘れるな……」

「……分かったわ。ここは一旦、下がらせてもらうわ」

この上官脅迫とも受け取れる警告を聞き、ミーナは諦めた様な口調でOSSの将校に対し、そう言いながら、その場を立ち去るのだった。

 

 

それから、暫くした後に病院の一角でミーナは頭を押さえながら、先程、そして昼の状況から得られた情報を整理していた。

 

(昼間の錯乱騒ぎで見た、ウィーラー少尉から出ていた”白い液体”に始まり、彼を治療する為に駆け付けた医師の一人が言っていた”実験体”という言葉……。そして、あのOSSの将校が言っていた”OSSが管理している”という発言を繋げるとしたら……。OSSが主導・管理する形で、ウィーラー少尉に何かしらの人体実験を施し、その結果、ウィーラー少尉は白い液体を持つ事になった……って所よね……。だけどそうだとしても……)

 

そこまで推測した所で、ミーナは再び頭を抱えた。

もし自分の推測通りだとしても、何故、何の目的で情報機関であるOSSが人体実験を行っているのか?

そもそもウィーラーに施された人体実験は、一体何を目的とした研究に基づく実験なのか?

考えれば、考える程、沸いてくる疑問に対し、ますますミーナが悩んでいた時だった。

「ここにいたのか、ミーナ」

「美緒?」

……と、突然、話しかけられ、声を掛けられた方に顔を向けたミーナの視界に飛び込んできたのは、彼女の親友にして、相棒の坂本美緒少佐であった。

突然、現れた相棒に対して、驚きながらも、ミーナが美緒に対し、どうやって、此処に来たのかを訪ねる。

「何で、此処にいるの?」

「ちょっと顔を見せようかなと思って、お前の部隊を訪ねたら、お前の部下から此処に聞いていると聞いてな……。303高地の英雄の事が気になっているらしいな……」

「303高地の英雄……?それって、ウィーラー少尉の事?」

ミーナの問いに対し、美緒は短く「あぁ」と答えながら、手に持っていた新聞をミーナに渡す。

それを受け取ったミーナが新聞に目をやると、その新聞には一面の見開きトップで、こう書かれていた……。

 

『|Struggle of the hero in 303 highlands who held a human request and spirits of dead soldiers《人類の希望を守り抜いた303高地の英雄・英霊達の奮闘》』

 

その様な見出しで始まる、その記事の内容としては、303高地防衛線におけるウィーラーを小隊長する”第32小隊の奮闘”及び、彼らの”自己犠牲を躊躇わない精神”を褒め称える内容に始まり、最後は『この防衛線における彼らの戦いぶりこそ、この戦争で戦う全てのウィッチ、ウィザード、兵士達が見習うべき戦いである!!』と言った感じの文章で終わる……と言った感じのミーナと美緒からすれば、何の変哲も無い見慣れた戦意高揚のプロバガンダ的な記事であった……。

「死んでしまったら、名誉も何も無いのに……」

「あぁ、全くだ……。はぁ……」

記事の内容を見て、呆れ果てた様な口調で言い放つミーナのボヤキに対し、美緒も頷き、同意しながら、呆れ交じりのため息をつく。

そんな呆れ果てた様子の美緒を横目で見ながら、ミーナが新聞を畳んでいると、美緒が何かを思い出した様に「あっ」と小さく言いながら、ミーナに問い掛けた。

「そういえば、ミーナ。此処に来るまでに聞いたんだが……ウィーラー少尉の件で、何か妙な事があるって……?」

「……えぇ。妙だし、キナ臭い事よ」

この美緒の問いかけに対し、周りを見渡し、誰も居ない事を確認するなり、ミーナは美緒に全てを話した。

ウィーラーから出ていた白い液体の事、ウィーラーの担当医と思われる男の言っていた実験体と言うワード、OSSが監視・管理している状況……。これらのキーワードから、ミーナが推測した考え……。

それらを全て聞き、美緒は「ふむ……」と呟きながら、こう言い放つ。

「確かに……。妙で、何処かキナ臭いな……」

「そうでしょ……。だけど、確証を得られる証拠が何1つとして手元に無いのよ……」

「情報機関が主導している計画だからな……。情報のプロ集団が相手だ、そう簡単に掴める物じゃないだろうしな……」

「でも、ここのまま、ほったらかしにしていたら、ウィーラー少尉だけでは無いわ……。きっと私達にも関係する何かになる筈よ」

歴戦のウィッチとして、何処か感じる不安な胸騒ぎの感覚を抱きつつ、ミーナがそう言い放つと、美緒も同じ考えなのか「それもそうだな……」と短く言葉を返す。

だが、これ以上は何やっても無駄な感じさえするOSSによる鉄壁の情報管理を前に、二人はもどかしさを感じるしか出来ないでいた。

 

そこへ突如として、声がかけられる。

「そこで何をやっている?」

「「!!」」

驚きと様々な困惑を抱きつつ、ぎこちない動きで声の掛けられた方に二人は顔を向ける。

情報機関が主導する極秘プロジェクトに探りを入れたのだ、最悪の場合は機密保持の為、事故に見せかけて殺害される……と言う事もあり得る話だけに、二人の背筋に緊張が走る。

そんな緊張感を背に、顔を向けた二人の視界に飛び込んできたのは、一人の白衣を着た中年の男性の姿、その姿にミーナは見覚えがあった。

この目の前に立っている男は昼間におけるウィーラーの錯乱騒動の際、MP達によって鎮圧されたウィーラーの治療に駆け付けた医師の一人であり、別の医師が自身の胸倉を掴んできた際に、それを止めさせた医師だったからだ……。

「あ、貴方は……、昼間の……」

「知ってるのか?」

「えぇ……、ウィーラー少尉の担当医の1人……って、所かしら?」

そう問いかけた美緒に対し、今日の昼の記憶を遡りながら、説明するミーナの顔を見て、その男もミーナの事に気づいた様で「あ」と呟くと、続けて、こう言い放つ。

「君は確か、昼間にウィーラー少尉の病室に来ていたウィッチの……」

「カールスラント空軍 第3戦闘航空団所属のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です。で、彼女が……」

「扶桑皇国海軍 遣欧艦隊第24航空戦隊288航空隊所属の坂本美緒だ」

この二人の自己紹介に男は「おぉ」と呟きつつ、敬礼しながら、こう言い放つ。

「私は、リベリオン陸軍第9衛生部の主任軍医を務めるフィリップス・ノートン大佐だ」

「たっ、大佐!?」

「こっ、これは失礼しました!!」

目の前に居る男から、突如として沸いて降って出てきた”大佐”という階級を前にし、二人は慌てた様子で直立し、目の冴える様な敬礼する。

階級社会の軍隊において、階級が上の者を敬わない事は下手したら、自身の立場や命にすら係わる重要な問題だからだ。

それをよく知る2人は、先程とは、違った困惑を胸に敬礼するが、その男……もとい、ノートン大佐は軽く微笑みながら、こう言い放つ。

「あぁ、別に敬礼はしなくて構わんよ。今でこそ、軍医で大佐という立場だが、普段は大学教授で”先生”と呼ばれている。そっちで呼んでくれた方が、気楽で良い」

「はぁ……」

「そ、そうですか……」

そう言って貰えた事に、一瞬、ホッとした二人だが、核心を付く様にノートンにこう言われ、再び緊張が走る。

「……ウィーラー少尉の事を探っていたのかい?」

「「っつっ!!!」」

その通りなだけに反論が出来ない2人に対し、ノートンは深く息を吐きながら、こう言い放つ。

「……付いてきなさい」

「「………」」

そう言って歩き出すノートンの後を付いていく形で、二人は歩き出す。

 

 

こうして二人がやってきたのは、ウィーラーの入院……いや、「監禁されている」と言った方が正しい程の封鎖体制がとられている病室から、そう遠くない場所にあるオフィスだ。

「まぁ、座って楽にして頂戴……。あぁ、君、ちょっとコーヒーを用意してくれないかな?」

「分かりました」

ノートンは、そう言って秘書と思われる女性にコーヒーを用意させながら、ノートンはオフィスの一角にある本棚から、一つのファイルを取り出す。

そんなノートンを見ながら、二人は言葉に甘える形にて、用意された椅子に腰かけると同時に、彼の秘書が用意したコーヒーが出てくる。

ミーナは美緒と軽く会釈しつつ、そのコーヒーを受け取りつつ、ノートンに話しかける。

「先生……、そのファイルは?」

「そうだな……。説明する言葉に困るが……強いて言うなれば、ウィーラー少尉の手術記録もとい……、改造記録……と言った所だな」

「改造……記録……?」

改造記録と言う間違っても人に使う様な言葉では無い言葉が、出てきたことに困惑するミーナと美緒に対し、ノートンは「とりあえず読んでみたまえ」と言って、ファイルを二人に手渡す。

こうしてノートンから、ファイルを受け取った二人は、まるでパンドラの箱を開けるかの様な気持ちで、タイトルに『|A record in an operation record for experiment body 1 in the artificial Wizard manufacturing planning and the later follow-up and correspondence in the death.《人工ウィザード製造計画における実験体1号に対する手術記録及び、その後の経過観察等における記録、並びに死亡時における対応》』と書かれた、ファイルを恐る恐る開くいた……。

 

実験体1号に関する陸軍公式記録及び、OSSによる調査結果。

・本名:ウィーラー・マッカダムス

・性別:男性

・年齢:16歳

・出身:リベリオン合衆国 ニューヨーク州 34番街

・所属:リベリオン陸軍 第1特殊任務旅団 第3中隊 第32小隊

・階級:少尉

 

ファイルは、この様に始まると、次々とウィーラーに関する家族に関してや、軍歴、所属していた第1特殊任務旅団における評価と言った様々な情報が次々と記載されていた。

これに目を通していく二人は、情報機関であるOSSの情報収集能力の高さに驚くと同時に、一種の嫌悪感にも近い物を抱く。

そりゃそうだ、何が悲しくて自分のプライベートな情報まで、赤の他人に全て丸見えにされなければならないのだ。逆にもし自分がされたら……。

考えてくるだけでもうんざりしてくる様な方法で、作られたと思われるウィーラーのプロフィールが暫く続いた後、とあるページを前にし、二人のページをめくる手が止まった。

そして、2人して思わず互いの顔を見合わせたミーナと美緒は、そのページの上に書いてあったタイトルを二人して読み返す。

 

「|Surgery record of remodeling to the first experimental body《実験体1号への改造手術記録》」

 

そうタイトルの書かれたページを前にして、2人はゴクリと唾を飲み込みながら、覚悟を決め、そのページを開いた……。

だが、そこに書かれていたのは二人の予想と覚悟をはるかに上回る想像を超えたグロテスクかつ、残酷な記録の数々だ。

「っ!!」

「くっ!!」

思わず顔を顰めると同時に、襲ってくる強烈な吐き気にこらえつつ、2人はページに目をやる。

そこには、303高地の激戦で、胃や腸と言った内臓が外に飛び出していたり、殆ど切断され、真っ赤に血に染まった骨や筋肉がむき出しになった左腕、額の左側から、左目側面を中心に、肉がむき出しとなり、血に染まった顔面……と言った数々の生々しい瀕死の重傷を負ったウィーラーの写真に始まり、戦闘で負傷し、ボロボロになり機能を完全に失った肺や肝臓、腎臓と言った内臓を戦死や脳死したウィッチやウィザードから移植する手術の様子や、その内臓の提供主であるウィッチや、ウィザードの戦果や階級、戦死、脳死した時の状況……と言た個人情報、見た事も、聞いた事も無い薬の数々の成分表や、それをマウスやモルモットに投与した時のデータ、切断されたウィーラーの左腕に代わる”機械製の腕”の写真や説明、それをウィーラーに取り付ける施術の写真、負傷した左目周辺に埋め込まれる”鉄仮面の様な機械”の写真や説明、それを左腕の機械ど同様にウィーラーの顔面に埋め込んでいく施術の様子等……ウィーラーが人から兵器へと改造されていくのが詳細かつ、淡々と記録されていた……。

「嘘……でしょ……?」

「これが現実の出来事だっていうのか……?」

「残念だが、現実だ……。」

「「………」」

このファイルに書かれている事が、何かの冗談である事を心の底から祈る二人に対し、ノートンが絞り出す様に現実である事を告げると、二人は共に揃って、絶句する事しか出来ないでいた……。

 

 

そんな中、ふとウィーラーの改造手術で使用された薬品の一覧を見ていたミーナが”ある物”に気づく。

「……人工血液?」

「ウィーラー少尉から、”白い液体”が流れるのを見ただろう?あれの正体だよ……」

「「は!?」」

ノートンにそう言われ、二人は驚愕する。

それもそうだろう……。”人体の中を流れる血液を人の手で作り出す”という”自然の摂理を真っ向から否定する”かの様な物が実在しするという、信じがたい事実を突きつけられたのだから。

だが、それをも上回る事実をノートンは二人に告げた……。

「それは私が作り出したものだ……」

「「はいっ!?」」

淡々とそう告げたノートンの発言に二人は思わず、己の耳を疑わずにいられなかった。当然と言えば、当然だ。目の前にいる男が自然の摂理を全否定するかの様なものを作り出したのだから……。

そんな事実を前に、ただただ呆然とする事しか出来ない二人に対し、ノートンの椅子にゆっくりと腰かけながら、自身の開発した人工血液について話し出す……。

「私は第1次ネウロイ対戦の時に、派遣されたリベリオン陸軍の軍医の一人として、最前線で負傷した兵士やウィッチ、ウィザード達の治療に当たっていた。そこで、私が突き付けられのは、輸血用の血液が足りず、満足な治療ができずに死んでいく者たちが居る……と言う事だ。だから、私は戦争が終わって予備役に回ると、大学教授としてハーバードメディカルスクールで教鞭を振ると同時に、生徒達と共に人工血液の研究に取り組んだ……。そして、完成したのが、今、ウィーラー少尉の体に流れている白い液体な訳だ……」

「「………」」

ゆっくりと語りだしたノートンの過去に二人は聞き耳を立てた。

先のネウロイとの戦いでは、多くの最前線の野戦病院で、輸血用の血液や薬品が不足し、多くの兵士やウィッチ、ウィザードの命が失われた、まさに地獄絵図の様な光景が広がっていた事は二人も知っている。

だからこそ、その地獄絵図を生で見たノートンが、同じ悲劇を繰り返さない為、人工血液を開発した事は2人には痛い程、分かる。

 

 

だが、それと同時に”とある疑問”が2人の脳内に浮かび、ミーナが代表して、ノートンに問い掛ける。

「何故……、何故、先生はその様な立派な意思や考えをお持ちなのに、どうして、こんな狂気じみた計画に……?」

「……情けない話だが、脅されてね」

「脅された?」

この発言に聞き耳を立てる美緒とミーナに対し、ノートンは深くため息をつきながら、自身がこの計画に加わる事になった経緯を話す。

「私がハーバードメディカルスクールで、人工血液の試作品を開発していた頃に、この戦争が始まり、それから間も無くして、私に軍への復帰命令が下ると同時に、この計画が立ち上がった……。その一環でOSSは、私の開発した人工血液を使う事を考え、私に協力を要請……いや、強制してきたんだ。勿論、私は拒否したよ、『命を救う為に開発した人工血液を、そんな人間兵器を作る事には使わせるつもりは無い!!』とか言ってね……。そうして拒否したら、OSSの連中はこう言ったんだ……『それなら、お前の大切な人がすべてこの世から消えるぞ……』ってな……。その数日後に、私の元へ木箱が届いたんだ……。その木箱を開けると、中には『お前が拒否する以上、これと同じ物が増えるぞ』というメモと一緒に”殺害され、切断された、私の大学の教え子の首”が入っていたよ……」

「……くっ、首!?」

「さ、殺人じゃないか!?」

ノートンが伝えた恐るべき事実を前に、2人が驚愕するのは当然だろう……。

いくら、政府直属の情報機関と言えど、民間人を殺害するなど、決して許されるはずの無い愚行だからだ。

そんな驚愕した様子の二人に対し、ノートンは「はぁ……」と深くため息をつきながら、こう告げる。

「|奴ら《OSS》は情報のプロ集団だからな……人を1人、殺した事を無かった事にするなんて、簡単な事だ……」

「「………」」

「兎も角、これで私の家族や教え子の命が危ないと言う事を知った私は、この計画に参加せざるを得なくなったんだ……」

「な……、なるほど」

ノートンが話してくれた自身が、この計画に加わることになった理由と経緯を聞き、OSSがどんな連中であるかを、まじまじと知らされた美緒とミーナ。

 

だが、今度は”別の疑問”が湧いてくる。

それは何故、OSSが殺人を犯してまで、この計画を進めるのか……と言う事だ。

もし世間にバレたら、最悪の場合、組織が解体されても可笑しくない様な内容であることは実行する以上、分かっているはずなのに……。

そんな胸の内に沸いた疑問を今度は美緒がノートンにぶつける。

「しかし、先生……。何故、この様な計画をOSSは実行に移したのですか?この様な計画は、世間では決して受け入れられないはずなのに……」

「……詳しい事は私にもわからないが、この計画は恐らく”この戦争が終わった後における、世界のパワーバランスの為の計画”と言った所だろう……」

「この戦争が終わった後における……」

「世界のパワーバランス……?」

ノートンの言ったことを理解できず、ポカンとした様子の二人に対し、ノートンは自身の発言の意味を解説していく。

「先にも言ったように、詳しい事は私にも分からないが、どうやらここ最近、ブリタニア空軍が”妙な物”を開発している……という情報をOSSは掴んだらしい」

「妙な物?」

「新兵器ですか?」

2人はノートンの言葉に対し、疑問を投げかけると、ノートンは「うむ……」と呟きながら、一回息を吸うとこう述べた。

「私も小耳にはさんだ程度だが……。どうやら、噂では”ネウロイの技術を使った新兵器”……らしい」

「何ですって!?」

「ネウロイの技術を使った新兵器だと!?」

ノートンが述べた”ネウロイの技術を使った新兵器”という言葉に、二人は驚きを隠せない。

当然と言えば、当然だ。憎むべきともいうべきネウロイの技術を使った新兵器なんて、二人には想像も出来ない品物である。

そんなものが研究されているなんて、今まで想像すらしなかった。だからこそ、この予想を遥かに超える事実が、二人に現実として激しく突き刺さった……。

 

 

驚愕と衝撃を隠しきれない表情を浮かべつつ二人は、ノートンに問い掛ける。

「先生……、この話の首謀者って分かっているんですか?」

「分かるのであれば、ぜひ……」

この二人の問いかけに対し、ノートンは指を顎に当てながら、暫し「うーむ……」と唸ると、思い出したらしく「あぁ……」と呟きなら、この計画の首謀者の名を二人に告げる。

「確か……トレヴァー・マロニー大将だったな」

「「!?!?」」

再び驚いたような表情を浮かべ、とっさに顔を見合わせるミーナと美緒。

そんな二人の様子を見て、只事ではないことを悟ったノーマンが、今度は逆に二人に問い掛ける。

「知ってるのかね?」

「えぇ……、知ってるも何もかも……」

「今度、私と美緒が所属する事になっている501統合戦闘航空団の上官になる人です」

「……なんてことだ」

この発言を聞いた瞬間、今度はノーマンが愕然とする。これまた当然と言えば、当然の話である。

目の前にいる二人のウィッチが今度、所属する部隊の上官が、キナ臭ささ溢れる兵器の開発をしているだなんて来たら、それこそ愕然としないで、何で愕然としろと……と言わんばかりの話だからだ。

そんな愕然とした様子のノーマンを見ながら、美緒とミーナはこう言い放つ。

「……確かに大将は反ウィッチ派の筆頭の様な人だからな」

「ウィッチに代わる兵器を開発していたとしても、何ら可笑しくないわよ……」

「ミーナ、これは予想以上にめんどくさい話になりそうだぞ……」

「えぇ……想像しただけで、頭痛がしてくるわ……」

「頭痛薬なら、アスピリンがあるけど……飲むかね?」

うんざりした表情を浮かべる美緒の傍で、ミーナが頭を押さえているとノートンが側にある棚の引き出しから、頭痛薬の定番であるアスピリンの錠剤を出し、ミーナに手渡そうとする。そんなノートンの心遣いを「いえ、結構ですわ。先生」と苦笑いしつつ、ミーナは丁重に断る。

 

 

そんなミーナとノートンの傍で、再び美緒が怪訝な表情を浮かつつ、こう述べる。

「……しかし、分からんな」

「何が?」

「マロニー大将が、ウィッチに代わる新兵器を作る事が、何でウィーラー少尉の人体改造実験に繋がって来るんだ……?」

「それこそ、さっき言った”この戦争が終わった後における、世界のパワーバランスの為”さ」

そんな美緒の問いかけに、そう言いつつ、ノートンは立ち上がると側にある黒板に向かい、チョークを手に取りつつ、二人に向けて、解説していく。

「今の戦争は強力な破壊力を持つネウロイとの戦争だ。その為なら、遠慮なく軍事予算が使える。つまり、軍拡には持って来いの状況だ」

そう言って戦車や戦艦の絵を書き、その上にドルマークを描きつつ、さっき書いた戦車と戦艦の絵を囲みながら、更にノートンは説明を続ける。

「だから、今の内に強力な兵器を持つことで、この戦争が終わった後、国同士の外交……更に戦争の切り札となるのだ」

「それは……、扶桑がブリタニアと戦争する様な状況になる……と言った感じの事ですか?」

ノートンの説明に対し、細かく質問するミーナに対し、ノートンが「その通り」と返すのを聞き、美緒は苦虫を?み潰した様な表情を浮かべて、こう言い放つ。

「考えたくもないな……」

「あぁ、そうだな。それを踏まえたうえで、この計画の本質を説明していこう……」

そう言ってノートンが、再び黒板にチョークを走らせ、黒板に書いたのは、簡単に棒人間で表現されたウィッチとウィザードの絵だ。

「現在、ウィッチとウィザードは、普通の人間では出せないパワーや能力、シールドと言った能力があり、強力なネウロイに対抗できる存在であるが、お母さんの体から生まれてくる以外で誕生しない……。つまり自然に生まれてくる以外、誕生する術は無い。だが、それを人工的に作ることができたとしたら……」

「ウィッチやウィザードの量産が出来る……と言う事ですか?」

「そうだ。私の人工血液を使う理由も、量産化に必須な”一定の共通規格化、互換性を持たせる”為だ……。それで量産体制が整い、ウィッチやウィザードが次々と作られたら、ネウロイへの対抗策としてだけではなく……」

「”人間同士の戦争における有効な兵器”に……」

「まさか……」

そこまで言って愕然とするミーナ同様、この計画の本質を知った美緒も愕然とする。

 

そう……この計画の本当の目的は”ウィッチやウィザードの兵器化”を目指した計画なのだ。

 

人知を上回る強力な敵であるネウロイに対抗できるウィッチやウィザードは、確かに人類にとって、強力な戦力である事に間違いない。

特にミーナは昼間におけるウィーラーの錯乱騒ぎで、その一面を垣間見ている。

16歳の少年であるウィーラーが大の大人であるMP達をバッタバタを殴り倒していく様子は、まさに彼が強力な戦力である事を余す事無く示している。

だからと言って、それを人類同士の戦争における兵器として使う事……。

ウィッチとウィザード通しによる殺し合いなんて、二人には想像も出来ない……したくもない光景だ。

それの為の計画だなんて、現役ウィッチの2人が許せる訳が無い……。

 

 

2人は激しい怒りを抱きながら、こう言い放つ。

「ウィッチやウィザード……いや、人の命をなんだと思っているの!?」

「全くだ……。こんな計画、絶対に許せるものか……」

怒りで握りしめた拳が震える2人に対し、ノートンはゆっくりとこう言い放つ。

「この話には続きがあってな……。彼は”第1段階”に過ぎんのだよ……、この狂った計画のな……」

「っ!?」

「ま、まだ続くっていうんですか!?」

ノートンの発言にさらに驚きを隠せない二人に対し、ゆっくりとノートンは詳しい説明をしていく。

「今現在、この戦争を戦っているウィザードの数は約6000人前後と言われているが、その殆どが、ウィーラー少尉の様に特殊部隊の隊員として、従軍している。これはウィザードの魔力が、ウィッチに比べて、弱く、ストライカーユニットを稼働させるだけの魔力に達しないからだ。言うなれば、ウィッチの魔力を10とすれば、ウィザードは3と言った所だ。しかし、魔力を発動させる事に関しては、精神状態に左右され、発動できなくなる事があるウィッチとは違って、どんな精神状態でも安定して魔力を発揮できるのがウィザードの特性にして、強味だろう。だから、ウィザードの殆どが過酷な特殊任務に従事してるのだ。それで、今回、|彼《ウィーラー》に施された手術の目的は、このウィザードの特性と強みを生かししつつ、ウィッチを上回る強力な魔力を持たせる事を目的に行われたものだ……。これを見たまえ……」

そう言って、ノートンは先程のファイルの1ページを開き、ミーナと美緒に見せる。

ページに書かれていたのは、今回の手術前……リベリオン陸軍に入隊した際の行われたウィーラーの魔力測定のデータに始まり、今現在、リベリオン陸軍・海軍・海兵隊に従軍している全てのウィッチ、ウィザード達の魔力測定値の平均、そして改造手術後に測定されたウィーラーの魔力のデータが書かれ、手術前の測定値はおろか、今現在、リベリオン陸軍・海軍・海兵隊で従軍しているウィッチ、ウィザードの魔力の平均測定値を遥かに上回る強力な魔力の持ち主にウィーラーがなった事を示していた。

「「………」」

このデータを呆然と見つめる二人に対し、ノートンは、この手術の次の計画を二人に説明していく。

「今回の手術で、ウィザードにウィッチ並みか、それ以上の魔力を持たせる……という目的の第1段階は完了した。その次の計画としては、彼と同じ状態のウィザードに対し、今現在、戦死及び脳死したウィッチやウィザードから移植した内臓で補っている魔力を、内臓から、機械部品に変えて、同様に補い、発揮できるかを検証する……というのが、第2段階だ」

「それが、成功したら……第3段階は何をやるんですか?」

第2段階の内容を説明するノートンに対し、そうミーナが恐る恐る第3段階の内容を問い掛けると、暫し、黙り込んだ後、ゆっくりと第3段階について話し出す。

「第3段階は、第1、第2段階で得られたデータ等を参考にして、魔力を持たない一般人に機械部品を埋め込み、ウィッチやウィザードと同様の能力を発揮できるか検証する……という物だ」

「一般人を改造するって事!?」

「狂ってるにも、程があるぞ!!」

ノートンの説明した第3段階の内容に再び怒りを爆発させるミーナと美緒。

ウィッチやウィザードだけではなく、普通の人までも巻き込んでも、進められる、この計画の狂気じみた内容に怒らない人の方が居ないだろう……。

そんな二人の反応を見ながら、ノートンは深くため息をつきながら、こう言い放つ。

「もう既にOSS内部でも、この計画の有効性を疑問視する声が上がっている。コスト面で見れば、確実に失敗だよ……。現に彼一人に、既に”180億円に近い予算”が投入されている……」

「ひゃ……180億だって!?」

「聞いただけで、意識が飛びそうになるわね……」

ノートンから告げられた、この計画に使われている飛んでもない額の予算を前に、思わず目眩がしてくる2人。

そりゃそうだろう、普通に生活していれば、間違っても180億円なんて金額を一度に使うシチュエーションなんて、一生縁が無いだろう。

ここに守銭奴な人物が居れば、間違いなく、即座に口から泡を吹きつつ、卒倒する事に間違い無いだろう……。

 

 

そんな考えが脳内に浮かぶ中、ふとミーナの脳内に”1つの疑問”が浮かぶ。

「先生……。こんな事を聞くのは、なんだと思うのですが……、もし計画が中止された場合、彼はどうなってしまうのでしょうか?それに、彼が何かしらの原因で急死した場合とかは……?」

「……これを見たまえ」

ミーナの問いかけに、ノートンは表情を曇らしながら、三度、マニュアルを開いていく。

こうして、ノートンが開いたページを見て、美緒とミーナは2人揃って、絶句した……。

そのページのタイトルには、こう書かれていた……。

 

『|Correspondence at the time of the death of the first experimental body《実験体1号の死亡時における対応》』

 

”悪趣味”とも言うべき様なタイトルで始まる、そのページの内容に2人は更に言葉を失っていく。

内容としては、要約すると以下の様な物になる……。

 

・実験体1号が死亡した場合、速やかに特定施設へ遺体を搬送の上で、解剖を行い、データを収集すること。

・解剖を行うにあたり、移植手術の行われた肺や肝臓、腎臓と言った臓器は全て摘出の上、状態を問わず、ホルマリン漬けにすること。

・解剖を行った遺体は、速やかに24時間以内に火葬処分を行うこと。

・マスコミ等の追及が予想される場合、遺体をTNT爆薬によって爆破処理し、完全に粉砕せよ。

・その際におけるマスコミへの対応として、「実戦を想定した実弾訓練における事故」として発表すること。

 

……と言った感じで、ウィーラーが死亡した際における対応が事細かく書かれている、そのページを前にし、ミーナは怒りと悲しみが混じった感情を爆発させる。

「何が悲しくて、死んだ後に、体を切り刻まれた上で、焼かれたり、爆破されないといけないのよ!?」

「……落ち着け、ミーナ」

「………」

死んでさえも、安らかに眠る事さえ許さない計画を前に怒りを爆発させるミーナ。

土葬文化が一般的である欧州の人間であるミーナからすれば、この計画で行われる火葬という方法には、欧州で育った人として、証拠を隠滅し、全てを無かった事にしようとするOSSの汚いやり方に対して……と言った様々な点で激しい怒りを覚えた。

彼女を宥める美緒も口調こそ、冷静だが、その胸の奥底で怒りを静かに燃やし、拳をギュッと握りしめ、震わせていた。

そんな二人を見ながら、ノートンも胸の奥底で0SSへの怒りと、この計画に参加してしまったことへの後悔が混じり合った、複雑かつ、言葉で説明の出来ない感情を胸に只々、立ち尽くすことしか出来なかった……。

 

 

そんなノートンの傍で、深くため息を付いたミーナは、ゆっくりとノートンの方に顔を向け、こう言い放つ。

「先生……。もし可能なら……、彼に合わせてくれませんか?うまく説明は出来ないんですけど、彼に合えば、何か彼を助ける方法が思いつくと……」

「ミーナ……。気持ちはわかるが、無茶を言うな……」

ノートンに懇願するミーナを止めようする美緒だが、彼女にも、ミーナの気持ちは痛い程、分かった。

そもそも、この計画は、ミーナが303高地で負傷したウィーラーを発見し、蘇生させた所から、始まった様な物なのだ。

だから、せめてものケジメとして、懺悔として、ウィーラーを何としてでも、この”残酷な運命から救いたい”と言うミーナの気持ちは理解できるし、本音を言えば、美緒自身も同じ考えだ。

しかし、相手は強力な権力を持った情報機関のOSSである、下手したら、この計画に関する真相を知ったと言う事で、ミーナと美緒は勿論、その情報をばらしたノートンも揃って抹殺される可能性がある事を、美緒は心配していた。

だが、そんな美緒の心配をよそに、ノートンは一回息を吸うと、二人に向け、こう言い放った。

「良いだろう……」

「だ、大丈夫なんですか……先生!?」

「私も人間だ……。良心の呵責って物があるからね……。ついてきたまえ」

そう言って、己の良心に従い行動するノートンに少なからず淡い希望を抱きながら、二人はノートンの案内に従い、医療スタッフ用の通路を使って、目的の場所へと向かう。

「……ここだよ」

そうしてやってきたのは、昼頃にやってきたウィーラーの入院している病室……と言っても、一部の医療スタッフのみが使用できる裏口のドアの前だが……。

表のドアとは違い、警備こそいないが、昼間の錯乱騒ぎを受けて、急遽、設置された多数のチェーンと南京錠でロックされたドアを前にして、ノートンは二人に問い掛ける。

「……覚悟は良いかね?」

「「はい……」」

「……では、あけるぞ」

ノートンのを問いかけに、唾をゴクリと飲み込みながら、了承の返事を返す二人の言葉を聞き、ノートンは南京錠に鍵をさし、ロックを解除した上で、チェーンをどかす。

そして、まるでパンドラの箱を開ける様に、ゆっくりと病室のドアを開けた……。

 

 

そうして空いたウィーラーの病室へと恐る恐る入室した二人は、遂にウィーラーと対面し、そこに居たウィーラーの姿に、二人は思わず目を逸らしてしまう……。

「「っ!!」」

「………」

そこには、昼間の錯乱騒動を受けて、手足を鎖と手枷、足枷で拘束され、口には自殺防止の為の猿轡代わりの布が突っ込まれたウィーラーの姿があった。

更にウィーラーは、これらの拘束具に加え、心電図やら、魔力の測定措置やらのセンサーがびっしりと体中に取り付けられ、ノートンが開発した人工血液の輸血パックに加え、更に見た事も無い原色の赤や黄色、青色の薬品の点滴の針が腕に幾つも刺さり、尚且つ、生気無き虚ろな目で天井を見上げ、まるで”生きながらして、死んでいる”かの様な状態だからだ……。

おまけに、昼間の錯乱騒ぎにおけるMP達の銃撃による銃創の治療の為に、人工皮膚で出来たカバーが取り除かれたのか、先程、ノートンが見せてくれたマニュアルの中に書かれてあった機械製の左腕や、視力増強装置などがむき出しなっていた……。

「「………」」

「……はぁ」

前もってノートンから教わった知識もあり、予想もしていたとはいえど、この様な光景を前にして、やはり呆然とする事しか出来ないミーナと美緒の傍では、そんな二人とベッドに横たわるウィーラーを見ながら、本日何度目になるか分からない溜息をつくノートンの姿があった。

そんな3人の存在に気付いたのか、ウィーラーは拘束され、自由の利かない体……さらに言えば、首をゆっくりと動かし、生気無き瞳で3人を見つめ、こう訴えかける……。

 

『頼む……、殺してくれ……、俺を殺してくれ……、俺を殺して、この悪夢を終わらせてくれ……』

「「「………」」」

 

猿轡を口に突っ込まれているが故に、話す事こそ出来ないが、3人を見つめるウィーラーの生気無き、絶望に支配された瞳を見れば、その様な事を言いたいのが、3人には、痛い程、分かった。

このウィーラーの訴えを前にし、美緒とノートンが、ただ立ち尽くすことしか出来ない中、ミーナがゆっくりとウィーラーの元へと歩いていく。

「ミーナ……、何をするんだ?」

「美緒、ちょっと静かにして……」

そう問い掛ける美緒を制止しつつ、ウィーラーの元へとやって来たミーナは、ゆっくりと跪く。

そして、そっと優しくウィーラーを抱きしめた……。

「………」

抱きしめられてもなぉ、感情無く、ただ生気無き瞳をだらんとさせるウィーラーに対し、ミーナは目から一筋の涙を流しながら、優しく我が子をあやす母親の様に、ウィーラーにこう言い放つ。

「大丈夫……、必ず……、貴方を助けるわ……。だから、待っていて……」

「……ミーナ」

そう言って優しくウィーラーを寝かしつける様に、ベッドの上に横にするミーナを見ながら、美緒が話しかけるとミーナはゆっくりと息を吸いながら、瞳を暫く閉じると、覚悟を決めた様な表情を浮かべ、美緒に向けて、瞳を開きながらこう言い放つ。

「美緒、決めたわ……。彼を”501に引き抜く”事にするわ」

「なっ……本気か!?」

このミーナの提案には、流石に美緒でさえも驚きを隠しきれない……。

それもそうだ……当初の予定として、501統合航空団は”ミーナの過去の経験”から、そこに所属するウィッチ達には、整備兵を始めとする男性兵士との交流を基本的に禁止する規定にする予定だってからだ。

しかも、それは何を隠そう、ミーナ自身が決めたものだからだ。だからこそ、ミーナが「ウィーラーを引き抜く」と言うのは、この自ら決めた規定を、自ら放棄すると言う事になる。

古くからの友人にして、戦友である美緒からすれば、今回のミーナの行動は予想もしない行動であり、驚きを隠せなかった……。

そんな胸の内の美緒は、再びミーナに向けて、こう言い放つ。

「ミーナ……お前の気持ちが分からない訳でもないが、必ずしも、彼を501に入れた所で、この問題が片付く訳では無い……。それに、この問題自体、彼自身が答えを見つけ、解決するべき問題だ……」

「えぇ、わかってるわ……。でも、このまま何もしないでいたら、彼自身が答えを出す前に、計画に沿ってOSSによって飼い殺しにされるわ……そんなの黙ってみてられないわ!!せめて、身の安全だけでも確保するべきよ。彼が答えを見つける為にも!!」

「……」

口調を強めながら、そう告げるミーナの言葉を聞き、美緒はベッドに横たわるウィーラーに目をやり、深く溜息をつき、暫し、迷走するかの様に目を瞑ると、覚悟と子悪党が混じった笑みを「ふっ」と浮かべつつ、こう言い放つ。

「確かにその通りだな……。やるか、ミーナ。このバカみたいな博打をな……」

「えぇ……そう、来なくっちゃ」

この二人のやり取りを見ていたノートンも、美緒とミーナに対し、こう言い放つ。

「そういう事なら、私も一口乗らせて貰おう……」

「えぇ……、喜んで」

「お手巣をおかけしますが、よろしく頼みますね……」

そう言って握手を交わす3人は共に揃って、悪い笑みを浮かべているのだった……。

 

-4ページ-

 

<ウィーラーSide>

|あれ《303高地の戦い》から、随分と長い時が経った様な気がする……。

 

 

体感時間にして、約2か月……と言った所だろうか……。まぁ、何方も今となってはどうでも良い事だ……。

もう今の俺には何も残っちゃいない……帰る国はあっても、場所は無いし、迎えてくれる家族や恋人も居ない……。

そして共に戦い、生きてきた戦友……いや、兄弟達も……。何1つ、俺の手元から全て消えていった……。

 

そもそも、今の俺はもう”普通の人間”じゃない……。

 

他人から引っこ抜いた臓物を突っ込まれ、更に体の血と言う血を、全て白い血液に入れ替えられ、更に機械製の左目と左腕をドッキングときたもんだ……。

おまけに手術の影響か、妙に髪が伸びる様になっちまったもんだから、今じゃ、女みたいに髪を後ろで結ばにゃあならん……。みっともないったら、ありゃしないぜ、全く……。

っていうか、俺は何なんだ?バケモンか、機械か、そのどっちでもない第3の存在なのか?もはや自分自身が何なのかすら、分かんなくなっちまったぜ……。

 

誰か、教えてくれよ……今の俺は一体どうして、こんな運命を背負ったんだ?

どうして、あの時、死ぬと誓った仲間達と死ねなかったんだ……?

誰でも良い……、誰か……、誰か教えてくれ……。

 

そんな、誰にも説明出来ない感情や疑問を抱きつつ、ベッドの上で寝るだけの生活を過ごしていた俺に対して、0SSの野郎から、突然告げられたのは「実戦部隊への配属が決まった」と言う事だった。

そのOSSの野郎曰く、「貴様に施した改造手術の有効性を検証並びに実証するためには、実戦配備の上で、テストするのが確実……と専門家及び医師達の会議で決まった事を受けての措置」らしい……。

どうやら、俺の”実戦テスト”と言う訳か……。どうやら、0SSと医者達は俺の事を”人型兵器”としか見てないらしいな、コノヤロー……。

ま……、それでも一生をベッドの上で過ごすよりはマシなのかもな……。もう一生分寝たような気分だからな……。

 

 

そんな、”入院生活”と言う名の”監禁生活”から、おさらば出来る喜びも何処か胸の内で感じながら、リベリオン議会名誉勲章に始まり、ロマーニャ王室勲章やら、ファラウェイランド勲章と言った勲章の授与やら、それに伴う各国将軍、マリア公女を始めとするロマーニャ王室関係者の表敬訪問を受けたりした上で、中尉への昇進という”おまけ”と共に、病院を後にした俺が飛ばされたのは、ロマーニャ南部に設立された、各地の前線から引き揚げてきたリベリオン軍のウィッチ達が再訓練や、機種転換訓練を行う為のブートキャンプだ。

此処で俺は航空歩兵としての訓練を1から受けた上で、どっかの前線行きの部隊に配属されるらしい……。ご苦労なこった……。

そこで俺に支給された鋼鉄製の相棒……もとい、ストライカーユニットは、”パブリック社”のストライカーユニットである”P-47 サンダーボルト”だ。

最初は、てっきり練習機の”T-6テキサン”辺りが支給されるのかと思っていただけに、まさかの戦闘爆撃機が支給されるなんて思いもしなかった物だから、担当のウィッチに理由を聞いてみたら、どうやら、|こいつ《P-47》の前の主がアフリカに居たのだが、そこでくたばったらしく、紆余曲折あった上で、俺の下にやってきたらしい……。要は”曰く付き”って事ですな……泣けるぜ、バーロー。

 

まぁ、そんな曰く付きの品物でも、初めて”自分自身の意思や力で空を飛んだ時の感動”はハッキリと覚えているさ……。

 

今まで、見上げ、どんなに手を伸ばしても決して届かなかった大空……。

それを悠々と飛んでいくウィッチ達と同じ様に、俺が肩で風を切り、今までに感じた事も、出した事も無いスピードを出し、それと同時に感じた事の無い爽快感と共に地上で這い蹲り、見上げる事しか出来なった俺が、彼女達と同じ様に空を飛んでいると知った瞬間、|あれ以来《303高地》、すっかり冷めきっちまった胸の内を、心の底から感動せてくれたよ……。

 

 

だが、それも一瞬だけの事……。直ぐに”非情な現実”とやらが、俺に突き刺さったよ……。

なんせ、俺は公式に記録されている”人類初となるストライカーユニットによる飛行が可能なウィザード”だ……。

これだけも、十分に否が応でも、注目される立場だっていうのに、俺が監禁されている内に、世間は俺の事を「303高地の英雄」と呼んで、讃えていると来たもんだ……。

もう周りにふと目をやれば、尊敬やら、怪訝やら、軽蔑やら……ありとあらゆる感情が混じった視線を向けられている事に気付かされる。

これは……あれだな……サーカス団に飼われて、火の輪くぐりやら、玉乗りやら、あーだ、あーだー、こーだー、こーだとやっている猛獣か、動物園の檻にぶち込まれている何かしらの動物にでもなった様な気分だぜ……。

つーか、偶然にもと言いますか、皮肉にもと言いますか……俺の使い魔は”ホワイトタイガー”ですからね……。

まさに同じ立場ですわな、ハッハッハー……。もうヤケクソだぜ、バーロー。

 

ホント……こんな状況の俺を見たら、”天国のあいつ等”は何を思うんだろうな……。きっと軽蔑するかもな……。

 

そんな胸の内とは、裏腹に、”皮肉”とでも言うべきか、俺の航空歩兵としての腕はメキメキと伸びていた……。

自分自身で言うものどうかと思うが、僅か1か月半ぐらいの飛行・戦闘訓練を重ねただけで、俺の腕前は、まさにエースレベルにまで達していた。

この状況を航空歩兵としての先輩にあたる教官のウィッチや、同じ様に再訓練や機種転換訓練を受けていたウィッチ達は「コマンド部隊で戦闘のプロフェッショナルとして訓練されて、実戦を経験している内に、体が戦闘行為に対応した体になったしか考えられない……」と解析している。

はっ……つまり、どの道、俺は”もう普通の人間には戻れない”って事か……。泣けるよ……。

 

 

そんな感じで、何もかもヤケクソな気分で過ごす日々が続く中、迎えた休暇の日……。

折角の休みなんだ、少しでも、このヤケクソな気分を紛わしたいぜ……。

そう思った俺は日もすっかり暮れた頃、訓練施設近くの酒場で、カウンターに座り、ウィスキーをロックで煽っていた。

「……マスター、もう1杯。同じ奴で構わん」

「かしこまりました」

俺はマスターに空となったウィスキーグラスを渡し、おかわりを要求しながら、ふと店内を見渡し、聞き見を立ててみる。

「だから、あの時はホントにビックリしたよねぇ〜」

「ホント、ホント!!」

「……をやるから、墜落するの!!」

「……はい、はい」

「ったく……班長の野郎、ネジの締め方1つでギャーギャー言いやがって……」

「そう言うなっての……。あれでも……」

すると、自慢話やら反省やら、愚痴やらを交わす、所謂……俺の”同期”にあたるウィッチ達に始まり、彼女らのストライカーユニットを整備する整備兵達の姿が飛び込んでくる。

そんな中で、ポツンと1人でカウンターに座ってウィスキーを煽っている俺の姿はハッキリ言って”異様な存在”だ……。

 

 

まぁ……|あの時《303高地》までは、今、周りでバカ騒ぎしている連中と同じ様に、俺も小隊の仲間達と共に任務終了後に酒飲んで、バカ騒ぎしていたしな……。

胸の内で、そう思うと同時に、脳内を今までの”あいつ等”とやった飲めや歌えやのバカ騒ぎが蘇ってきた……。

一週間近くも最前線を這いずり回り、やっとの思いで見つけたネウロイの砲撃陣地を、俺達の報告を元にやってきたウィッチ隊が全てぶっ壊して、俺達の手柄を全部持っていた事を酒の肴にし、小隊の皆で「バカヤロー!!」と叫んだ事もあれば、ネウロイの支配下で撃墜されたウィッチの救助作戦で、撃墜され、負傷しているウィッチを連れ、300体近い多数のネウロイの追撃の中、命からがら味方陣地まで連れ帰ってきた際には、その救助したウィッチの所属する部隊が俺達の事を「白馬の騎士達」とか称して、来賓として招いて行った宴会で、その隊のウィッチ達と明け方まで、飲めや歌えやのバカ騒ぎをして、憲兵隊に怒鳴られた事もあったな……。

 

そんな数々のバカ騒ぎの中で、特に印象深いのは「アフリカの星」として有名なエースウィッチである”ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ”が所属している部隊である、『ストームウィッチーズ』とやったバカ騒ぎだ……。

 

確か、あの時は……偶然発見されたネウロイの対空陣地及び終結地への攻撃をストームウィッチーズの連中が余裕ぶっこいて殴り込みに行ったら、そこに強力なレーダー機能を持ったネウロイが居たもんだから、位置が丸裸にされてしまって、攻撃が大失敗。

それで、命からがら逃げかえってきた彼女たちが、怒り心頭の頭脳で、この「レーダー役のネウロイを潰すのが最優先」と決めて、この役割を偶然にも、近くで敵陣深部偵察をやっていた俺達に依頼してきたんだっけな……。

んでもって、俺とストームウィッチーズ隊の指揮官である加東圭子少佐が無線機越しに話し合った結果……「深夜に俺達が敵陣近くまで潜入し、レーダー役のネウロイを捜索し、発見次第、位置を補足し、ストームウィッチーズ隊に連絡し、同隊が出撃すると同時に、俺達は夜明けまで、現場で即応攻撃態勢で待機し、夜明けと同時にレーダー役のネウロイを襲撃し、ネウロイ達の目を潰す。それと同時に、ストームウィッチーズ隊が一気に上空から奇襲攻撃を掛ける。その後は双方が地上から、空から、目の前に居るネウロイを滅多打ちにする」と言った作戦が考案、実行に移された訳だ。

まぁ……結果として、作戦は”大成功”で終わり、これに気を良くしたストームウィッチーズ隊が俺達を客として招いた上で、一緒にどんちゃん騒ぎしたんだよな……。ふっ、今となっては懐かしい思い出だ……。

あの時はベイカーなんか「『アフリカの星』のマルセイユ大尉と酒飲んだ事がある……って、一生分の自慢話が出来たぜ!!」とか言って、興奮していたよなぁ……。

 

仲間と共に、そんな事やっていた俺も、今じゃ独りぼっちな訳ですが……。

因みに、どういった経緯で知ったのかまでは、分からないが、何故か、俺が303高地で負傷した事を知ったマルセイユが手紙を送って来たんだが……その内容の一角に「貴方、噂じゃ、戦死した別のウィザードの体に、貴方の首を移植した……って話なっているけど、どうなってるの!?」とあった……。それって、どんなサイコパスな手術だよ……。

 

楽しい思い出を思い返し、良い気分になったのもつかの間、俺は深い溜息を付きつつ、一気におかわり分のウィスキーを喉へと流し込んだ。

全く皮肉なもんだ……。気を紛らわそうとやってきた酒場で、更に傷心になるとはな……クソッタレが!!

喉へ流し込んだウィスキーの強力なアルコールによって、喉がカーッと熱くなるのを感じつつ、再び空になったウィスキーグラスを「ドン!!」と叩きつける様に、カウンターに置いた時だった……。

カウンターをスーッと滑ってきた別のグラスが、俺の置いたグラスにカチンとぶつかってきた。因みに、グラスの中には、ウィスキーの水割りが入っている。

「……マスター、こいつは?」

「彼方のお客様からです……」

尋ねたマスターの回答に従って、俺がマスターの示した方に顔を向けると、そこには1人の女性……恐らくウィッチが居た。

そんな彼女は俺が視線を向けた事に気付くと、ニカッと笑いながら、俺の方にやって来た。

「アンタがウィーラー中尉?」

「あぁ……そうだが……って、何だ中佐殿か……」

酔いの回ってきた頭を抱えながら、彼女をふと見てみると、中佐の階級章が目に飛び込んでくる。

これに軍人としての条件反射か、とっさに敬礼すると、彼女は笑いながら「敬礼なんて、いらないわよ」と言いながら、手に持っていたグラスに入っていた水割りウィスキーを一気に飲み干し、「ぷはぁ……」と息を吐きながら、こう言い放つ。

「とりあえず、話があるんだけど……ちょっと内容的に、ここじゃまずいから、奥の個室に行きましょうか?あ、何かつまみでも頼む?奢るわよ」

「……じゃあ、フライドチキンで」

「OK。マスター、ちょっとこの子、連れて行くから……。それと、フライドチキンとウィスキーの水割りを3つ、35番の個室にお願いね」

中佐が頼んだ注文に対し、マスターが「かしこまりました」と応対しながら、中佐の注文を伝える為に、厨房へと消えていく中、俺は中佐の案内に沿って奥の個室へと向かう……。

 

 

そうして、やって来た店の奥の個室では、肩に少佐の階級章を付け、褐色の肌のヒスパニック系の別の女性が一人、鍵の掛かった鞄を手に座って待っていた。

「ま……とりあず座って、座って」

「……はぁ」

着席を促す中佐の言葉に従い、俺が個室の椅子に腰かけると同時に、中佐が少佐の隣に座ると、同時に先程、注文を入れたウィスキーの水割り3つと、フライドチキンが個室へと運び込まれてくる。

それを「どうも」と短く返しつつ、受け取った中佐は「さて……」と呟きながら、こう話を切り出す……。

「紹介が遅れたわね……私はリベリオン陸軍航空軍、第3技術開発チームの主任開発官を務めるアリシア・ルーラー。階級は中佐で、隣に居るのが……」

「ナディア・フローレンス少佐よ」

「……どうも、ウィーラー・マッカダムス中尉であります。それで話とは?」

「とりあえず、これを見て頂戴……」

二人の簡単な自己紹介に対し、俺も簡単に自己紹介しつつ、要件を2人に問い掛けると、ナディア少佐が鞄の鍵を開け、中から一枚の写真を取り出した。

胸の内で「なんだ?」と思いつつ、正直期待しないで、その写真に目をやって俺は、思わず息を呑んだ……。

「……これは」

写真に写っているのは、ハンガーに収められた1機のストライカーユニットの写真。

だが、それは今まで見てきたP-47や、P-51、P-40と言ったストライカーユニットとは明らかに違った物だった……。

 

そのストライカーユニットは、白黒の写真でも、ハッキリと分かる程にギラギラとしたジュラルミンの金属板で形作られ、今までのストライカーユニットでは見られないスラっとしたフォルムをしており、そのシルバーの地肌に差し色の様に書かれた警告や各種マーキングも相まって、最早、ストライカーユニットとしての領域を超えた、”1つの芸術品”としての美しさすら感じさせた……。

 

思わず、その美しさに見惚れてしまう自分を見ながら、アリシア中佐とナディア少佐は、ゆっくりと写真に写るストライカーユニットについて解説していく。

「それはラッキード社の開発した新型のジェットストライカー、”P-80 シューティングスター”よ」

「正式に言えば、XP-80・タイプC。我がリベリオン陸軍航空軍の次期主力ストライカーになるジェットストライカーよ」

「次期主力……、ジェットストライカー……ですか?」

写真の解説に対し、俺が短くそう呟くと、アリシア中佐はフライドチキンを手に取りつつ、短く「そう」と答えると、続く様にナディア少佐が写真に写るP-80を説明していく。

「今、我々、リベリオン陸軍航空軍を始め、世界各国の軍で使用されているストライカーユニットのシステムは簡単に説明すると、魔力でプロペラを形成し、それを回転させて飛行する……というものだけど、このジェットストライカーのシステムは……まず魔法力で大量の呪符を形成し、大気中のエーテルを圧縮するの、それを一気に噴出させる事で、プロペラ式ストライカーユニットとは比べ物にならない推進力と加速力を生み出す事が出来る次世代ストライカーなの。それで、今現在、レシプロストライカーに代わる次期主力ストライカーとして、世界各国で研究が盛んに行われているわ。その結果として、少し前にカールスラントが実用化に成功、少し遅れてブリタニアも開発に成功……そして、我が国、リベリオンも、このP-80で遂に実用化のレベルに達したわ」

「ちなみに、|こいつ《P-80》の最高速度は965km/hよ」

「きゅ……965km/h……、ですか……」

アリシア中佐とナディア少佐によるP-80の説明と最高速度を聞き、俺は驚嘆した。

コマンド部隊から、航空歩兵に兵科替えして間もない俺でも、|こいつ《P-80》の性能の凄さは手に取る様に分かったからだ。

現に俺が今、訓練で使っているP-47の最高速度が735km/h、同じブートキャンプで、機種転換訓練を受けているウィッチ達が使っているのがP-51で、こいつの最高速度が759km/hになる。

つまり、この両機種とも比較して、P-80は単純計算で200 km/h以上も早く飛べる……と言う事になる訳だから、これを知って、驚かない航空歩兵は居ないだろうな……。

写真に写るP-80の圧倒的な性能を聞き、思わず息を飲み込む俺だが、同時に1つの疑問が湧いてくる。

 

それは、「何故、世界で唯一飛行可能とは言え、ウィザードである俺に、この新型ストライカーの話を持ち出したのか?」と言う事だ……。

 

正直、もっとこう言う話を持ち掛けるのにふさわしいウィッチなら、探せばザックザクと出てくると思うのだが……。

胸の内で、そう思いながら、俺はこの疑問を二人にぶつける。

「こいつの性能に関しては分かりましたが……しかし、これが自分に何の関係があるのですか?」

そう俺が問い掛けると、アリシア中佐はフライドチキンを齧りながら、こう言い放つ。

「ちょっと貴方に頼みたくてね……このP-80の”テストパイロット”を」

「て……テストパイロット!?」

突然、湧いて出てきた新型ストライカーのテストパイロットと言う話に対し、思わず驚く俺に対し、アリシア中佐は「うん」と短く返しつつ、相変わらずフライドチキンを貪っている。

そんなアリシア中佐の傍で、中佐に対し、半場、呆れたような視線を向けつつ、ナディア少佐が、こう説明する。

「貴方の航空歩兵としての訓練の成績を見せてもらったけど、空中戦闘機動訓練、対地・対空射撃訓練、部隊指揮訓練等の全ての訓練で優秀な成績を収めているのを評価して、この判断に至ったわ」

「そんな事を言われましても……自分よりも、優秀な成績のウィッチなら他にも居るでしょう?何で、自分が飛行可能とは言えど、わざわざウィザードである自分をテストパイロットに……」

俺をテストパイロットに指名した理由を説明するナディア少佐に対し、俺は率直に胸の内を伝える。

 

だって、そうだろ……。普通、新型ストライカーのテストパイロットと言ったら、前線かブートキャンプで優秀な成績を上げたウィッチが任命される筈だろ?

それなのに、何で俺みたいな、航空歩兵としては新人のウィザードである俺なんかを任命するんだ?

 

胸の内で、そんな考えが湧いてくる中、フライドチキンを食べ終わったアリシア中佐が骨を皿に置きながら、ゆっくりと口を開いた。

「……そうねぇ。更に付け加えるならば、私が個人的に気に入った……と言う感じかしら?」

「お言葉ですが……それだけの理由で?」

アリシア中佐の言葉に対し、俺が下手したら、”上官反抗”とも受け取られても可笑しくない口調で、そう言葉を返すとアリシア中佐は側に置いてあったウィスキーの水割りが入ったグラスを手に取り、水割りを喉へと流し込むと……俺の顔を見ながら、予想だにしなかった言葉を口にする。

「ストレートに言わせてもらうけど……貴方は、普通のウィザードじゃないでしょ?」

「それも、OSSによって、人工的に作られた……」

「ど……どうして、それを!?」

予想だにもしなかった、人工的にOSSによって改造された……と言う事実を、アリシア中佐とナディア少佐から告げられる……と言う事に驚愕する俺。

だってそうだろ……一応、今の世間じゃ、俺は「303高地の英雄」として、それ並みに知られた存在だが、OSSによる改造手術の事は、緘口令が敷かれ、表に出ていない情報だからだ。

これに関する噂として、この俺に施された改造手術の事実を知り、公表しようとした新聞社の記者やジャーナリストが5人ぐらい、OSSの差し向けたヒットマンによって、事故死または、マフィアの抗争に巻き込まれて犠牲になった言う様な感じで偽装された上で、殺された……と言う噂すら立っている程だ。

その様な穏やかじゃない噂もある中、どうやって、この改造手術の情報を掴んだんだ?

もしかしたら……アリシア中佐とナディア少佐も、OSSからの回し者なんじゃ……。

2人の言葉を聞き、思わずそんな疑問を抱かざるを得ない中、表情にでも胸の内の考えが出たのか、2人は俺に向け、こう言い放つ。

「おっと勘違いしないで……私達は、決して貴方が考えている様なOSSの回し者とか、そう言うものじゃないわ」

「そうそう。ちょっとOSSとかに知り合いがいるだけだから……」

「……はぁ」

俺の考えを否定するナディア少佐の傍では、アリシア中佐が笑いながら、OSSに知り合いがいる事を俺に告げながら、2本目のフライドチキンに齧り付いた。

幾らOSSに知り合いがいるからって、こんな最高機密レベルの情報を陸軍の一技術士官に伝えていい物なのか?

まぁ……そこは意外と細かく手合わせすれば、何とでもなるんだろうけどさ……。

 

 

2人の言葉……特にアリシア中佐の言葉を聞き、そんな考えが湧く中、2本目のフライドチキンを食べ終えたアリシア中佐が、何処か感慨深げにこう言い放つ。

「まぁ……実は私も、貴方に行われた改造手術の前身ともいえる物をやっていてね……。これを見て……」

……と告げながら、アリシア中佐は自身の軍服の左足をまくり上げ、左足を露出させるなり、両手で左足を掴み、まるで錆び付いたネジを回すかの様にギギッ……と言う鈍い金属音が個室に鳴り響いた……と思った次の瞬間。

「なっ!?」

俺は己の目を疑った。なぜなら、アリシア中佐の左足が、まるで人形の足を引っこ抜いたかのように、己の体から、スポッ……と抜けたからだ。

こんな目の前で起きた現実を現実とは思えない様子の俺に対し、アリシア中佐は引っこ抜いた自身の足を机の上に置きながら、こう告げる。

「これは人工筋肉付きの義足よ。貴方の左腕と殆ど同じ……と言っても、10年以上も前の物だから、システム等は全部貴方の物が最新式だけどね」

マジか……まさか前例があったとはな……。こんな狂気じみた手術が10年以上も前に行われていたとは、想像もしなかったぜ……。

机の上に置かれたアリシア中佐の左足を見ながら、そんな考えが湧いてくる中、二人は俺に対し、こう告げた。

「まぁ、これは私とナディアが第1次ネウロイ対戦に従軍した際に、私が左足を吹き飛ばされる重傷を負ってね……それで付けらたんだけど……」

「この手術を担当した医師がモニス博士……」

「あ、あの人ですか……」

2人の口から告げらた”モニス博士”と言う人名に俺は覚えがあった。いや、むしろ無い方が不思議なぐらいだろう……。

 

なぜなら、このモニス博士……”俺の改造手術におけるリーダーを務めた医師……いや、マッドサイエンティストだから”だ……。

 

普通に生活していれば、絶対に思いつく事の無い”重傷を負ったウィザードの体を弄って、空を飛ばす”なんて、考えを思いつく人だ。

俺だったら、そんな事をやろうとしていると知った瞬間、即座に病院に通報するね……。電話越しに「頭の可笑しいヤローがいるから、連れて行ってくれ」ってな……。

だって、こんな考えを思いつく奴なんて、世界中探してもキ〇ガ〇野郎しか居ねえよ……。それもキ〇ガ〇中のキ〇ガ〇だ……。

現に噂で聞いた程度だが、|この計画《人工ウィザード製造計画》に加わる前に勤めていた大学で、”とんでもなくヤバい研究”をやって大学及び、学会から永久追放処分にされた……って噂のある人だからな……。

なるほど……アリシア中佐も、このモニス博士の被害者と言う訳か……。

 

2人から告げられた”モニス博士”と言うワードに対し、そんな考えが脳内を駆け巡る中、アリシア中佐は更にこう続ける……。

「まぁ……もう大体の予想がつくと思うけど、同じ人に改造された者同士故に、OSSに居る知り合いから、自然と情報が私の下にも回ってきてね……」

「それを知るなり、似たような境遇故に、彼女が貴方の事を偉く気に入ってね……今回の話になった訳よ……」

「な……、なるほど……」

全く……人の縁と言うやつは不思議なもんだぜ……。

10年以上も前に行われた改造手術の患者が、10年以上も経った後に、同じ医師の下で行われた患者の元に来るなんてな……。

まぁー……、よくも「真実は小説よりも奇なり」とはいうけど、ここまで”奇なり”な巡り合わせも無いだろうな〜……。

 

 

そんな事実を前に、何処か感慨深げにウィスキーの水割りを喉へと流し込む俺に対し、二人は改めて、こう問い詰めてくる。

「さて……ここまで話した所で、本題に戻るわよ……。テストパイロットの話……受けてくれるかしら?」

「……正直、まだ心の整理が付かないのが本音です」

俺は正直な胸の内を2人に伝える。

だってそうだろ……303高地で部下を全員戦死させて、たった一人だけ生き残った……と言う事に始まるかと思えば、担ぎ込まれた病院で他人の内臓を腹に突っ込まれ、吹っ飛んだ左腕と顔の左半分に機械を埋め込み、おまけに血液まで真っ白なものに入れ替えられちまった奴が新型ストライカーのテストパイロットだなんて……、想像も出来ないぜ……。

それに第一、こう言う新型ストライカーのテストパイロットっていうのは、そいつがテストしている新型ストライカーの性能の有無を決めるもんだし、言うなれば、こいつのテスト次第で採用が決まったストライカーで、多くのウィッチ達が空へと飛び出すんだ……。

つまり、そいつが中途半端な物にOKサインを出してしまえば、中途半端な性能のストライカーで多くのウィッチ達が戦い、死んでいく事になるんだ……それだけの責任を俺は背負えないぜ……。

ナディア少佐は、そんな俺の胸の内が理解できるのか、ウィスキーの水割りを手に「そうよねぇ……」と短く呟く。

そんなナディア少佐の傍で、同じ様にウィスキーの水割りを飲んでいたアリシア中佐が空になったグラスを机に置きながら、ゆっくりと口を開き、こう言い放つ。

「中尉、貴方は……303高地で部下を失って以降、ずっと胸の内で『何で自分だけが生き残ったのか?どうして、こんな体になったんだ?』と思っているわね?」

「えぇ……」

このアリシア中佐の問いかけに、俺が短く言葉を返すと、中佐は再び、ウィスキーの水割りを喉へ流し込み、机の上に置いてあった義足を手に取りながら、こう言い放つのだった。

「私も、この左足になった時は、貴方と同じ様な考えをずっと抱き、答えを必死に探していたけど、答えは今でも見つかっていないわ……でも、それでも環境を変えることで、何かしらの”答えへの手掛かり”は掴んだような気はするわ……。貴方も答えへの手掛かりを見つけたければ、環境を変えるべきだと私は思うわよ……」

「環境を変える……ですか……」

「そう……。でも、あくまで貴方が求める答えは、貴方自身でしか見つけられないのも事実よ……。私が言った事はあくまでも助言に過ぎないわ……だから、無視してもかまないわよ……」

そこまで言って、アリシア中佐は机の上に置いてあった義足を装着すると、ゆっくり立ち上がり、俺に向けて、こう告げた。

「まぁ……とりあえず、テストパイロットの件は急ぎではないから、ゆっくり考えなさい」

「考えがまとまったら、ココに連絡して。それと飲み代は、ここに置いていくわよ……。じゃあ、お先になるわね」

立ち上がりながら、そう告げたアリシア中佐に続く様にナディア少佐も立ち上がり、裏に電話番号の書いたP-80の写真と飲み代を机に置きながら、個室を後にする。

(答えの手掛かりを攫む為、環境を変える……、か……)

そうして、一人残った俺は胸の内で、そんな考えをずっと抱きながら、P-80の写真を手に取り、じっと見つめていた……。

同時に、ウィスキーの水割りに浮かぶ氷が解け、カラン……と小さく音を立てるのだった……。

 

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それから数週間後、俺はアリシア中佐の誘いに乗る形で、P-80のテストパイロットになった。

理由は上手く説明できないが……やっぱり、中佐の言った『答えの手掛かりを攫む為に、環境を変える』と言う言葉に何処か惹かれたんだろうな……。

そんな漠然とした考えの下で、俺は今日も|あの時以降《303高地》の答えを探すべく、ロマーニャにあるリベリオン陸軍航空軍の兵器試験場で、P-80の試験飛行を行っている。

 

 

そして、今はP-80の機動力を試験するべくアリシア中佐とナディア少佐の指揮の元、先輩達と編隊を組み、曲芸飛行さながらの試験を行っていた……。

『フォーメーションリーダーより、各員へ。速度800で、左斜めにエシュロン編隊を組むわよ……用意!!』

『『『『「了解!!」』』』』

『フォーメーション……|NOW《ナウ》!!』

P-80のジェットエンジンの轟音が鳴り響く中、耳につけたレシーバーから聞こえてくるフォーメーションリーダーのナディア少佐の指示を受け、俺は先輩達と共にエシュロン編隊を組んでいく。

因みに、エシュロン編隊とは、フォーメーションリーダーを先頭に、右斜め後ろ、もしくは左斜め後ろに僚機が一列に並んで組むフォーメーションであり、今回は左斜め後ろに並んでいる。

その構成メンバーは、フォーメーションリーダーであるナディア少佐に始まり、2番機担当のアンジュ・マクギリス少佐、3番機担当のマリア・ハイネマン大尉、4番機担当のリアス・ミッチェル大尉、そして最後尾の5番機を務める俺だ。なぉ、ここに居る先輩達は、全員が第1次ネウロイ対戦を生き延びたベテラン……つまり、所謂、”上り”を迎えた面々だ。

んで、この様なメンバー構成でエシュロン編隊を組んだ俺達は次の試験段階へと移っていく。

『次に速度を維持しつつ、30秒後に右へ2回転しながら、降下して、高度を1500メートルまで一気に落とすわよ……時間合わせ!!』

『『『『「了解!!」』』』』

このナディア少佐の指示に対し、俺と先輩達が再び復唱する。

『……10……20……30、旋回開始!!』

俺と先輩達の復唱を聞きながら、腕時計で時間を読んでいたナディア少佐が、旋回指示を出すと同時に、素早く旋回し、右方向に2回転しながら、一気に高度を下げていく。

それに続く様に、先輩達も一気に素早く旋回し、右方向に2回転しながら、ナディア少佐に続く様に高度を下げていく中、俺も先輩達と同じ様に動いていく。

「ぐっ!!」

旋回及び2回転する際に、胃の中の朝飯やら、内臓やら血液やらが、体中のあちこちに引っ張られ、飛び回る感覚に堪えつつ、俺もナディア少佐と先輩達に続いていく。

『ウィーラー君、ちゃんと付いてきてるわよね!?』

「はい、何とか!!」

そんな俺の様子を横目で見ながら、先輩のリアス大尉の問いかけに答えていると、レシーバー越しにナディア少佐の檄が飛んでくる。

『二人共、余計な会話してないで、次に行くわよ!!』

このナディア少佐の檄に対し、俺とリアス大尉が『「了解!!」』と答えるのを聞き、ナディア少佐は、次なる指示を飛ばす。

『次に各員フルバーナーで、900km/hまで加速後、高度2000まで上昇し、そこで宙返りを3回……行くわよ!!バーナー、ON!!』

ナディア少佐は、そう指示を飛ばすと同時に『GO!!』を叫びつつ、P-80の魔導エンジンに己の魔力を流し込み、一気にバーナーを吹かしながら、加速しつつ、宙返りを決めていく。

続く様に、先輩達も次々とP-80の魔導エンジンに魔力を流し込んで、一気にバーナーを吹かし、排気口から青い炎を出しながら、加速し、少佐の後を追尾しつつ、宙返りの体制に入る。

そして、俺も少佐や先輩達と同様に己の魔力をP-80の魔導エンジンに流し込み、一気にバーナーを吹かし、加速し、少佐や先輩達に続いて宙返りを行っていく。

「こな……くそっ!!」

宙返りによって、天と地が一瞬でひっくり返る中、それに伴って、襲い掛かってくるGや風圧、体中の内臓やら、血液やらが引っ張られる感覚を堪えつつ、俺は必死に先輩達のケツに付いていく。

なぉ、「ケツに付いていく」と言っても、決して嫌らしい意味ではなく、”少佐や先輩達との間隔を保ちつつ、編隊を維持しながら飛行する”と言うだからな。変なイメージした奴、後で吹っ飛ばす。

……とまぁ、こんな感じで、俺は少佐と先輩達と一定の間隔を保ち、尚且つ、編隊の形を維持しながら、1回……、2回……、そして3回と宙返りを決めていく。

『おーし、全員飛んでいるわね!?次に行くわよ……』

3回連続の宙返りを終え、全員が無事に編隊を維持しつつ飛んでいる事を確認したナディア少佐は、次なる指示を飛ばす……こうして、まだまだP-80の試験飛行は続くのだった。

 

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<?Side>

そんなウィーラーの編隊飛行の様子を地上から、確認し、データを記録していく第3技術開発チームの技官、P-80の製造元のラッキード社から派遣された来たメカニック達の面々の中に混じって、この編隊を双眼鏡越しに見ている2人の女性の姿があった。

「どうです?彼、良い腕してるでしょう?」

「えぇ、確かにいい腕をしているわね」

双眼鏡を下しつつ、そう会話を交わすのは、|同隊《第3技術開発チーム》の主任開発官を務めるアリシアと、ウィーラーが改造された後に設立された第501統合戦闘団の指揮官を務めるミーナであった。

彼女達の上空で行われているウィーラー達のP-80の編隊飛行による、ジェットエンジンの轟音が鳴り響く中、二人は更にこう会話を交わす。

「この度は、無茶な要望を聞いてくださり、誠に感謝申し上げます。アリシア中佐」

「いやいや……丁度、|コチラ《リベリオン陸軍》の方でも、上の方から各技術開発チームに『速やかに実戦投入可能な新型ストライカー及び、兵器を欧州戦線に派遣し、実戦テストを実施されたし』なんて、無茶苦茶な計画が出ていましたし、そんな中でウチの方から実戦投入できるのは、彼だけでしたし、それ故に他の部隊に回すことも、なかなか出来ないので、頭を痛めていた中でのオファーでしたので、まさに渡りに船でしたわ」

「そう言って貰えると、光栄です」

 

……と、二人が交わす会話の内容を少し時系列を遡りながら、説明していこう。

 

ウィーラーが第3技術開発チームに配属されて、暫く経った頃、各戦線で戦う各リベリオン軍の部隊より、更に強力な兵器を求む声が上がり、それをリベリオン議会までもが、問題視する声を上げた事を受け、リベリオン軍は全軍の各技術開発チームに対し、『ゼブラ計画』を発動した。

この計画は『速やかに実戦投入可能な新型ストライカー及び、兵器を欧州戦線に派遣し、実戦テストを実施されたし』と言う、各技術開発チームに対する、事実上の実戦投入命令であり、各技術開発チームは各自が研究を行っていた新型ストライカー及び兵器を次々と各地の前線へと投入していった。

例として、現在、リベリオン陸軍及び海兵隊で試験運用され、現在主力のM4シャーマンに代わる新型の重戦車タイプの陸戦ストライカー『T26E3(※通称:パーシング)』に始まり、同陸軍にて、研究中だった自走砲型ストライカーの『T83(※通称:ビッグショット)』の試験投入に始まり、同じ頃にリベリオン海軍も、新型航空用ストライカーユニットの『F7F タイガーキャット』、そして同海軍初となる艦上用航空ストライカーの『FD-1(FH-1) ファントム』を次々と最前線へと投入し、実戦テストを行っている。

勿論、この流れはアリシアが指揮すると同時に、ウィーラーが所属するリベリオン陸軍航空軍・第3技術開発チームにも伝わっていた。

しかし、同隊に所属するアリシアを始めとするウィッチ達の殆どが、ウィッチとしての上りを迎える20歳を超えており、唯一、戦えるのは、|ウィザード《男》であるウィーラーだけだ。

それ故に、アリシアは各部隊にウィーラーの配属を打診したが、打診した各部隊は揃って、ウィーラーの配属に難色を示していた。

当然と言えば、当然の話である……女しかいないウィッチ達に男を一人放り込むのだ、それが原因で”変な事が起きないか”を心配するのは、ある意味で当たり前の反応だ。

しかし、ウィーラーの実戦投入は、事実上の軍上層部からの命令であり、拒否することも出来ないが故に、アリシアが頭を痛める日々の中、この話を聞きつけたが、ミーナであった。

ミーナは美緒と共に病院で、ノートンから聞いた、ウィーラーに施された改造手術の内容及び、その最終目的を知って以来、この最終目的を阻止し、ウィーラーを救い出す為に、日々の業務、ネウロイとの戦闘の傍らで、ノートンの協力を得つつ、何とかウィーラーを自身の率いる501に引き抜けないか、必死に探っていたのだ。

それ故に、今回の『ゼブラ計画』における、ウィーラーの部隊配属が、思う様に進んでいない事は、彼女にとって何よりの朗報であり、それを知るなり、ミーナは直ぐに”渡りに船”と言わんばかりに、アリシアに連絡を取ったのだ。

ミーナからの連絡は、アリシアにとっても朗報中の朗報であり、まさに頭を痛めていた彼女にとっても”渡りに船”であった。

こうして、二人は暫くの協議の後、今行っているP-80の各種試験及びウィーラーが実戦部隊に配備できるまでの技量を持った所で、正式に501へと派遣する事にし、遂にその時が来たのであった……。

 

なぉ、この計画の背景に『第2次ネウロイ戦争における存在感を象徴したいリベリオン軍及び議会……並びに、各同盟国軍に開発中の新型兵器の性能アピールを行い、セールス拡大を狙っている各軍需産業及び兵器メーカーの思惑が絡んでいる』との噂もあるが、真偽の程は不明である……。

 

-7ページ-

 

<ウィーラーSide>

今現在、俺は今日の午前の試験飛行を終えて、ナディア少佐達の後に続く様に、着陸に入ろうとしていた。

『コントロールより、デビル5へ。着陸許可を出す』

「デビル5、了解。|着陸開始《アプローチ・GO》!!」

そう|コントロール《航空管制室》とやり取りしながら、俺は滑走路上空に進入し、着陸態勢に入る。

主翼の仰角を細かく調整しつつ、主翼前縁|スラット《補助揚力装置》をオープンし、フラッペンを調整、エアブレーキを最大に掛けながら、徐々に高度と速度を落としていく。

段々と近づいて来る滑走路を前にし、俺は体全体を水平飛行の体制から、ゆっくりと上体を引き起こしながら、一気に滑走路に進入する。

そして、一気に体を”くの字”にしつつ、ストライカーの排気口から放たれる排熱と推力が、地面に跳ね返ってくる感覚が大きくなるのを覚えながら、P-80を接地させ、着陸する。

着陸した後は、速やかに誘導員及び誘導灯に従って、P-80を格納庫に向け、|タキシング《地上滑走》させる。

そうしてやって来た格納庫内では、先に着陸した先輩達がP-80を専用のストライカーハンガーに収納し、背負っていたパラシュートザックを下しつつ、この隊の指揮官であるアリシア中佐の前に整列していた。

「おー、来た来た」

「早くしないと、お昼ご飯無くなっちゃうよ〜……」

「もたもたするな、新人ー!!」

「はい、直ちに!!」

格納庫内に俺が入ってくるのを見て、先に着陸していたマリア大尉、リアス大尉に急かされ、アンジュ少佐が飛ばしてくる檄を受けながら、俺はP-80を自分のハンガーへと向ける。

そしてたどり着いた俺のP-80のハンガーに対し、バックでP-80を入れると瞬間、ハンガーの右脇についている赤色の作業灯が点灯し、ゆっくりと後ろから固定用の器具が伸びてきて、P-80を固定する。

こうして固定が完了すると、赤色の作業灯が消え、代わりに緑色の作業灯が点灯。それと同時に「プシューッ……」と言う真空だった物に空気が入るような音を立てて、P-80の全面が右と左に開いて、やっと足が解放される。

「……ふぅ」

その感覚を覚え、一息つきながら、俺は背負っていたパラシュートザックをハンガーに設置されている専用の置き場に置き、ダッシュで、整列する先輩達の元に向かい、4番機担当のリアス大尉の横に並ぶ。

 

 

それを見ていたアリシア中佐が一回息を吸うと、目を大きく見開きながら、こう言い放つ。

「気を付け……点呼!!」

「1!」「2!」「3!」「4!」「5!」

この中佐の指示に従い、俺と先輩達は『ビシッィ!!』と言う音が聞こえてきそうな勢いで気を付けの姿勢を取ると同時に、素早く点呼を取る。

その点呼を聞き、中佐はナディア少佐に対し、顔を向けながら、次の指示を飛ばす。

「ナディア少佐、人員及び機材に報告せよ!!」

「はっ!!第3技術開発チーム、テストパイロット5人、全員異常ありません!!」

「了解……皆、楽にして良いわよ」

少佐の報告を聞き、中佐が楽にして良いというのを聞き、俺達は気を付けの姿勢を止めながら、中佐を注視する。

そんな俺達の視線を受けながら、中佐は午前の試験飛行のデブリーフィングを始める。

「はーい、皆お疲れ〜。特に今日は全員に異常等は無かったわね、良かった、良かった。んで……分かっていると思うけど、今から昼食及び休憩時間だから、それが終わり次第、各自の飛行データをまとめて私に提出してね」

「「「「「了解!!」」」」」

「はい、じゃあ、解散!!」

そう言って簡単ながらも、デブリーフィングを終えた俺と先輩達が各自シャワー室や、食堂等に向かおうとする中、「あぁ……」と何かを思い出した様に呟きながら、俺に対して、中佐がこう話しかけてくる。

「そうそう、ウィーラー。後で話があるから、私のオフィスに来て。休憩時間終わった後で良いから」

「……はぁ、了解しました」

「んじゃ、後で」

俺の返事に対し、そう短く返し、手を振りながら、食堂へと足を向ける中佐を見ながら、俺は呼び出される理由を考えていた。

別に今日の午前中の試験飛行でヘマはしていなしな……、現にストライカーもぶっ壊してないし……。ん〜……俺、何か、呼び出される様な事をやったかな?

自分の中で理由が見当たらないが故、頭に3つぐらい疑問符を浮かべ、首を傾げながら、俺は午前の試験飛行でかいた汗を流す為に、シャワー室へと向かうのだった……。

 

-8ページ-

 

んでもって、俺は、中佐に言われた通り、昼食及び30分程度の仮眠を終えた後に、まだ仮眠状態から覚めない頭を必死に回しつつ、中佐のオフィスへとやってくる。

中佐のオフィスのドアを軽く2回ノックすると、中から中佐の「入れ」と言う声が帰ってくるのを確認し、ドアを開け、俺は中佐のオフィスへと入室する。

「失礼します」

「あー、来た来た。まぁ、座って、座って」

「……はぁ、それで何の用でしょうか?」

そう中佐に着席を促される形で、オフィスの中にある椅子に座りながら、俺は中佐に呼び出した理由を問い掛ける。

この問いに対し、中佐は「うん」と呟きながら、自身のデスクの引き出しを開け、一枚のファイルを取り出しながら、こう告げる。

「前に『ゼブラ計画』の事は伝えたわよね?」

「えぇ……、ここで試験しているP-80を始め、今現在、リベリオン各軍で開発中の新兵器を実戦テストせよ……と言った、かなり無茶苦茶な計画ですよね?」

「そうそう……それで、ウチの隊からは、中尉しか出せないと言う事は、中尉自身がよーくしってるでしょ?」

「はい、それは否が応でも……って、自分を呼び出した理由って……」

「まぁ、中尉の予想している通りで……」

「なるほど……」

ここまで会話をし、中佐が俺を呼び出した理由が分かった。それもハッキリと……。

どうやら、俺を呼び出した理由は”「ゼブラ計画」に関し、俺が派遣される部隊が決まった”……と言う事で間違いないだろう。

しかし……よく俺みたいなウィザードを戦力として組み込んでくれるウィッチ隊があるとはな……。この世の中、珍しい事もあるもんだ……。

胸の内でそう思いながら、中佐に視線を向けると、中佐はファイルを開きつつ、こう言葉を続ける。

「とりあえず中尉の部隊配属が決まったわ、同時に、それを受けて、近い内に貴官に対し、大尉への昇進が言い渡されるわ」

大尉への傷心ね……。ウィザードは、ウィッチ以上に昇進が早いというけど、本当だな……。その割には、全くありがたみが無いけどね……。

中佐の告げた俺の大尉昇進に対し、冷めた感情を覚えながら、俺は中佐に配属の決まった部隊を聞く。

「そりゃ、光栄で……。それで、自分は、何処に配属されるんですか?」

「知りたい?」

この俺の問いかけに対し、中佐はニヤリと、まるでいたずら前の悪ガキの様な笑顔を浮かべながら、こう言い放つ。

「聞いて驚かないでよ……。貴方の配属先は……第501統合航空団よ」

「だ、第501統合航空団!?」

中佐……いくらなんでも、この決定を前に「驚くな」と言うのは、ハッキリ言って不可能ですよ……。

胸の内で、そう中佐に突っ込みを入れる俺。だって、そうでしょ?

第501統合航空団って言ったら、ブリタニア防衛&ガリア奪還を目的に設立された部隊で、所属しているのも、カールスラント空軍1の撃墜王である『黒い悪魔』こと、エーリカ・ハルトマン中尉と言ったような、各国の精鋭中の精鋭を引き抜いて編成したエース中のエース部隊だぞ。

まだ自軍のウィッチ部隊に配属するなら、100歩譲って、まだしも、そんな所に|ウィザード《男》である俺をぶち込む……って、普通に考えら、絶対にありえない話でしょ……。

中佐……もしかして、俺の事を「|女《ウィッチ》です」とか言って、|向こう《501》の隊長に話を付けた訳じゃないよな?流石にそこまでは無いと思うが……。

でも、もし仮にそうだった向こうに付いた瞬間に送り返されるよな……っていうか、送り返してくれないと逆に困るわ……つーか、送り返してください。お願いします、何でもしますので。

んで、送り返されたら、即座に中佐をぶっ飛ばすか……うん、そうしよう。

 

 

所属する部隊が第501統合航空団だと知った瞬間に、そんな考えが、頭の中やら、胸の内やらを猛スピードで駆け巡る。

そんな考えが表情に出たのか、中佐はファイルを机に置きながら、俺に向け、こう告げる。

「おっと……勘違いしないで、これは向こうからのオファーよ」

「向こう……って、501の方からですか?」

「そうそう」

俺の問いに対し、頷きつつ、肯定する中佐を見ながら、俺は考えた。

俺の事を知っているウィッチの中で、501に配属されるようなウィッチって……誰だ?

パッと思いつくのは、ストームウィッチーズ隊に所属するマルセイユ中尉だ。

確かに彼女なら、501に引き抜かれても可笑しくない腕前だし、それに俺がコマンドだった頃に作戦を遂行した仲だからな。

とはいえ、それだったら、少し前に送られてきた手紙に、その事が書かれているはずだ。それが無かったから、恐らく違うんだよなぁ……?

考えれば、考える程にズブズブと底なし沼に足を取られるような感覚を覚えながら、俺が知っているウィッチ達の中で501に配属されそうな奴を必死に探していると、そんな俺の様子を見ていた中佐が、こう言い放つ。

「まぁ、貴方をオファーした、当の本人が来ているから、会ってあげなさい」

「え?来てるんですか?」

「そうそう。入っていいわよ」

中佐の口から、想像もしなかった情報が飛び出した事に、思わず呆然とする俺に対し、中佐はオフィスの一角にある別のドアに向けて、入室を促す。

「失礼します」

「!?」

中佐に入室を促される形で、オフィスの一角にある別のドアが開き、そこから出てきた人物を前にし、俺は愕然とした。

 

そこに居た人物こそ、俺を501にオファーした当の本人であり、|あの時《303高地》に瀕死の重傷を負った俺を救助した、カールスラント空軍のウィッチ……ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐だったからだ。

 

想像もしなかった再開を前に、思わず口をまごまごとさせる俺を見ながら、ミーナ中佐は優しく微笑みながら、こう話しかけ来る。

「久しぶりね、ウィーラー少尉……あぁ、今は中尉だったわね。元気にしていた?」

「あ……、あぁ……、はい……」

「髪……、伸びたわね。そのポニーテール、似合っているわよ」

「そ、それは良かったです……」

優しく話しかけてくるミーナ中佐に対し、まるで幼稚園児の様なチグハグな言葉しか出ない俺に対し、アリシア中佐は、こう告げる。

「第501統合航空団指令であるミーナ中佐が、貴方に対して、直々にオファーしたのよ。名誉に思いなさい……」

そう言うアリシア中佐の言葉に「……はぁ」と返しながら、俺は胸の内から湧いてくる疑問を押さえきれなくなりつつあった……。

だって、そうだろう……俺みたいな、ウィザードなんかより、もっと良い腕前のウィッチが他にも居るのに、何で俺みたいな奴をオファーしたんだ?

まるで水道管に大穴開けたかの様に、湧いてくる疑問を堪え切れなくなった俺はミーナ中佐に、失礼を覚悟で、ぶつける事にした。

「ミーナ中佐……お言葉ではありますが、何故、自分を第501統合航空団にオファーしたのですか?自分よりも優れたウィッチなら、他にも居ると思うのですが……」

この俺の問いかけに対し、ミーナ中佐は一回息を吸うと、こう言葉を返す。

「確かに……貴方以上に優れた腕前のウィッチなら、探せば出てきたわよ……。だけど、それ以上に、貴方と共に戦いたいと思ったの……。貴方が背負った運命を知った時からね……」

「……ミーナ中佐は、自分の体の事を知っているのですね?」

「えぇ……貴方の主治医の一人であるノーマン先生から教えてもらったわ」

「そう……ですか……」

出来るんだったら……死ぬまで、この体の事は誰にも知られたく無かったな……。

ミーナ中佐の言葉を聞き、思わずそんな感情が胸の内で、湧いてくる中、ミーナ中佐は更に言葉を続ける。

「ウィーラー中尉……。貴方は、|あれから《303高地》ずっと、『自分、一人が何で生きて帰ったのか?』と言う問いの答えを探しているのよね……。その答えが501に来れば、『必ず見つかる』とは言わないわ……。だけど、『何もしないと、絶対に答えは見つからない』わ……。だから、その答えを見つけるのを私にも手伝わせて欲しいの……」

「………」

俺はミーナ中佐の言葉に黙り込んでしまう……。ミーナ中佐の言う通りだからだ……。

 

|あの時《303高地》から、狂った……いや、俺の人生は、もともと狂っている様な物か……。

マフィアの鉄砲玉と娼婦の息子として生まれ、3歳の時に親父も母さんも揃って、死んだと思ったら、直ぐにマフィアの経営する”孤児院”と言う名の”強制労働所”で、来る日も来る日も、密造酒の製造に駆り出されていたな……。はっ、ガキの頃から、見事に狂った人生歩んでいるな……、俺……。

そんな今日までの狂いに狂った人生の中で、|あいつ等《第32小隊の面々》と一緒に居た時が一番、俺の人生で輝いてた時だ……。

過酷かつ、死と隣り合わせの訓練と任務の日々の中、絶対に揺るぐ事の無い信頼と絆があったからこそ、|あの時《303高地》まで、俺は生きてこれたんだ……。

だから、その揺るぐはずの無い信頼と絆が揺れ、崩れ落ちていった時、俺は全てを恨んだ……。悪魔は勿論……、神……、そして、己の運命さえも……!!

 

悪魔は何故、仲間達を殺した!?

どうして、俺も仲間達と一緒に殺してくれなかった!?

神は何故、俺に、この機械の左腕と左目、そして白い血を授けたのだ!?

運命は、この俺に授けた物で俺に一体、何をしろと言うのだ!?

 

どんなに探しても、決して、ぶつけられる相手が見つからない怒り混じりの疑問を抱えながら、明ける事の無い暗闇を歩き続ける様な日々の中で、突如として差し込んだ光……。

それが、リベリオン陸軍航空軍の新型ストライカー『P-80』のテストパイロットへの任命、そして、この第501統合航空団への配属だ……。

これで、必ず俺が今まで抱えて生きてきた疑問への答えが見つかるとは限らない……。ハッキリ言って、コレは博打だ……。それも、どんなカジノでも出来ない大博打だ……。

 

だけど、これで、もし少しでも答えの手掛かりが……、”答え”が見つかるのなら……、俺はこの博打にかけてやるさ!!

 

そう決心した俺は一回息を吸いながら、ミーナ中佐に対し、こう告げる……。

「……分かりました、ミーナ中佐。第501統合航空団への配属の話、受け入れさせてもらいます」

「その言葉を待っていたわ、中尉……」

俺の宣言とも言える言葉に対し、ミーナ中佐は優しく微笑みながら、スッと手を差し伸べる。

その差し伸べられたミーナ中佐の手に、俺も手を差し伸べると、互いに握手を交わすのだった……。

 

-9ページ-

 

それから暫く経った後、アリシア中佐が言った様に、大尉に昇進した俺は、遂に第501統合航空団へ向けて、旅経つ時が来た……。

多数の輸送船や駆逐艦、空母、戦艦が停泊する軍港の一角に停泊している中、俺は第501統合航空団の配備先であるブリタニアに向けて、出港するリベリオン海軍の空母『サラトガ』の近くで、アリシア中佐を始めとする隊の先輩達の見送りを受けていた。

「……準備は良いわね?」

「はい、大丈夫です」

第501統合航空団への配属に備えて、最後の旅支度を整える俺に、アリシア中佐がそう問い掛けるの対し、短く言葉を返すと、今度は先輩達が次々と話しかけてくる。

「ウチの代表としてしっかりやってきなさいよ」

「何かあったら、お姉ちゃん達に知らせてね!?直ぐに飛んでいくからね!!」

「生水は絶対に飲んじゃ駄目よ、それに怪しい女には気を付けるのよ?」

「……頑張るのよ」

「分かってますって……」

まるで全寮制の学校に入学し、寮生活になる弟を、見送る姉の様な行動や言動を放つ先輩達に対し、軽く苦笑いしながら、俺は沿う言葉を返した時だった。

「ブリタニア向け、サラトガ出港まで、あと30分!!乗員及び乗艦予定の隊員は速やかに乗艦せよ!!」

……と、海軍の担当者による乗艦指示のアナウンスが耳に飛び込んでくる。

「そろそろね……」

「……そうですね」

そのアナウンスを聞き、アリシア中佐が、何処か寂しげに呟く中、俺は地面に置いてあったダッフルバッグを背負いながら、中佐及び先輩達に改めて向き直ると、気を付けの姿勢を取りながら、こう言い放つ。

「ウィーラー・マッカダムス大尉、これより、P-80の実戦試験の為、第501統合航空団へと向かいます!!」

「了解、第501統合航空団への到着以降は、同隊の所属として、指揮官ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐の指揮下に入れ。貴官の活躍と幸運を祈る」

「了解!!」

まるで儀式の様なやり取りを交わした後、俺とアリシア中佐は共に目の覚める様な敬礼をし、それに続く様に、先輩達も敬礼をする。

そんな中佐、先輩達の視線を受けながら、後ろを振り返った俺はタラップを上り、サラトガに乗艦していく……。

俺の探している答えを見つける為の新しい戦いが、今始まろうとしていた……。

 

-10ページ-

 

<?Side>

ウィーラーが第501統合航空団への配属に向け、ロマーニャを発った頃……。

配属先の第501統合航空団の格納庫では、新しいストライカーハンガーの設置作業が、ラッキード社の技術者主導の元、リベリオン陸軍の工兵隊によって行われていた。

格納庫内に鳴り響く、工具の音を聞きつつ、同隊に所属するウィッチ達が作業を見守っていた。

工兵隊が設置しているのは、自分達が使っているストライカー用ハンガーとは、全く違う形、機構のストライカー用ハンガーだ。

この見た事も無いハンガーが設置される事によって、新しくこの隊に来るメンバーが、どんな人なのか、どんなストライカーを使うのか……と、まるで次の芝居の内容を予想するかの様に、語り合うウィッチ達を見ながら、ミーナと美緒はこう呟く……。

「いよいよだな……、ミーナ」

「えぇ……」

そんな2人とは別に、格納庫の一角で、自身の愛用するストライカーであるP-51を弄っている一人のウィッチが居た……。

スパナを片手に、少女は額を伝う汗を拭いつつ、「ふぅ……」と一息つきながら、ふとハンガーの設置作業に視線を向ける。

「何か、面白い事になりそうだなぁ……♪」

視線の先で、設置されていく新しいハンガーを見て、まるで新しい玩具を前にした子供の様に、何処か嬉しそうに、そう呟いた少女はニヤリとした笑み浮かべた。

この少女こそ、後にウィーラーの”深いパートナー”となるウィッチ……シャーリーこと、シャーロット・E・イェーガーであった……。

説明
流星の白虎と暴れ馬のウサギ

物語は1943年、人類とネウロイの戦いが繰り広げられるロマーニャ前線の”とある防衛線にある高地”から始まる。

通称、『303高地』と称される防衛線の一角で、激しいネウロイとの攻防戦の末に全滅したリベリオン軍のウィザード魔術師部隊があった。
続きを隠す
この全滅した部隊の小隊長にして、唯一の生還者となったウィザードの少年……ウィーラー・マッカダムス。

瀕死の重傷を負った彼を待っていたのは、軍とOSSによる極秘プロジェクト……『人工ウィザード製造計画』だった。
この計画に基づく手術によって、彼は戦死したウィッチ、ウィザードの内臓移植から始まる人体改造手術を施され、生還を果たすと同時に人類初の飛行可能なウィザードとして生まれ変われる。

その後、彼を待っていたのは軍のプロバガンダによって『303高地の英雄』として称賛され、人類の戦意を鼓舞すると同時に、世界で唯一飛行可能なウィザードとして、リベリオンが開発したジェットストライカー『P-80 シューティングスター』のパイロットとしての日々であった。

そんな日々の中、彼が胸の内で思うことはただ一つであった……。

「どうして、俺の仲間たちは死んでいったのか……。どうして、俺はあの高地で死ねなかったのか……。どうして、神は俺にこの力と運命を授けたのか……」

答えの出ない問いへの答えを求め続ける日々が続く中、彼にP-80の実戦テストを兼ねた航空歩兵としての配属命令が下る。
その部隊とは激戦が続くガリア共和国奪還の為にブリタリアに駐留する航空歩兵のエース部隊”第501統合戦闘航空団”だった……。

※この作品は、自作ホームページで公開していた作品『「303高地の英雄」と呼ばれたウィザード(魔術師)』を、ハーメルンで掲載中のきょうじゅうさんの作品『唯一魔法が使える少年』に主人公ウィーラーを派遣した事を機に、リメイクした物です。なぉ、自作ホームページの他、PIXIV、暁でも公開しております
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ストライクウィッチーズ 二次創作 ウィザード 男オリ主 グロ・人体改造・スプラッター描写あり 他者様の作品と一定の共通点あり P-80 

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