紫閃の軌跡
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 突如起きたクロスベル警察訓練学校・拘置所の消失。これにはディーター・クロイス大統領だけでなく、マリアベル・クロイスや国防長官であるアリオス・マクレインも正直寝耳に水であった。

 あれだけの規模の施設が消失したとなれば『零の御子』の仕業なのかと疑った。だが、神機は一切動いた様子もなく、またそれだけのことをするだけでも御子の力もしくはその前兆を感知するはずだ。機体の設計をした<博士>F・ノバルティスはその形跡すらないと断言し、その議論よりもロイド・バニングスの行方へと話題がスライドしていくこととなる。

 

「じゃあ、キーアちゃんにも分からないの?」

 

「うん。気が付いたらという感じだったから……その、ごめんね」

 

「別に責めてないよ。でも、きっとロイドさん達は生きてると思うから、頑張ろう?」

 

「……ありがとう、シズク」

 

 では、ロイド以外の初期メンバーはというと……各々行動を開始していた。

 エリィ・マクダエルは、とある人物の助けを借りて祖父であるマクダエル議長と共にミシュラムを脱出して、一度クロスベル独立国の外に出て潜伏した。これにはさまざま意図も含んでの潜伏であるが、今は置いておく。

 

 ランディ・オルランドは自力で脱出し、国防軍に反発した元警備隊のメンバーと協力してゲリラ戦を展開。国防軍本体や古巣である『赤い星座』相手に奮闘する。シグムント・オルランドはこの程度の反抗など些事だとし、寧ろ次期<闘神>として鍛える絶好の機会だと位置付けて、自身や娘が出るまでもないと結論付けた。

 

 ティオ・プラトーについてだが、彼女も内密に脱出して現在は別の場所からネットワーク方面で様々な画策をしている。これにはクロスベル警察の所属でもあるセルゲイ・ロウやアレックス・ダドリー上級捜査官をはじめとした面々がバックアップ体制を築いている。

 

 そして、最後の一人であるロイド・バニングスはアルタイル市郊外へと来ていた。そこには二機の純白の飛行艇が停泊していて、姿を見せた人物にロイドは思わず溜息を吐いた。

 

「普段から普通じゃないとは思ってたけど、ケビンさんやリースさんと同じ立場だったってことか、ワジ」

 

「物分かりがいいのは流石リーダーだね。七耀教会星杯騎士団『守護騎士』第九位<蒼の聖典>ワジ・ヘミスフィア……それが僕の肩書というわけさ」

 

 その傍には星杯騎士の制服と思われる服装に身を包んだアッバス、その隣にはケビンとリースもいた。これはどういうことなのかと考えていると、その後ろからいろいろとお世話になった存在であるツァイトが姿を見せた。

 

『当初の予定とは大幅に異なってしまったが、久しぶりだなロイド……驚いてはおらぬようだな?』

 

「ツァイトが喋れるだけでも普通に驚いているよ。それで、どういうことなのか説明してくれると助かるんだけれど」

 

『そうだな。立ち話も風情がないだろうし、場所を変えるべきだな』

 

 そうして純白の飛行艇こと『メルカバ』玖号機の一室にて、ツァイトは今回に至る事情を簡潔にまとめてくれた。

 キーアはクロイス家が所持していた<幻の至宝>の喪失を新たな至宝の生成に費やし、その妄執の果てに生み出された人工生命体。そしてその資金のために表では銀行業を、裏では至宝を失った原因を女神だと断じつつ、悪魔を崇拝するD∴G教団として……ツァイトは<幻の至宝>の行く末を見守る女神の眷属だが、その枷が外れたためロイド達に協力することも付け加えられた。

 

『本来ならば拘置所に出向いて共和国側まで移動する予定だったのだが、突然の消失でどうしたものかと考えていた』

 

「そこに署長から連絡が入ってね。ロイドはどの道クロスベルへ戻ることになるから、協力してほしいというお願いがあった。<零の至宝>もといキーアのことは七耀教会自体悩んでいたんだけれど、結社『身喰らう蛇』の排除という形で君に協力する」

 

「ちなみに、キーアはどうするつもりなんだ?」

 

「それなんやけどな……その処置の決定権はワイらでなく第三位<京紫の瞬光>預かりなんや。その彼が言うには『様々な力のあり方を一番よく知っているのは特務支援課の面々。よって、保護責任者でもある彼らにその処置を委ねる』というわけや。つまり、キーアちゃんをどうするかはロイド君たち次第や」

 

「彼女は意識が覚醒してまだ思考そのものが成熟していません。今ならば間違った道を正すことも難しくはないという判断かと。なので、ロイドさんは自分の目的のために進んでください」

 

 本来古代遺物絡みは星杯騎士団の与りなのだが、<零の至宝>もといキーアの存在は特務支援課の面々を助けたいがために今回の騒ぎを引き起こしてしまった。ならば、その彼らに託すのが彼女の『人としての幸せ』を鑑みるのが一番だという判断であると述べた。

 

「ケビンさん、リースさん……」

 

「ま、今回は君の目的に乗っかる形で僕達も自らの目的を果たすというわけさ。彼女を本国に連れていくような真似をしたらそれこそ教団と同じ穴の狢になってしまうからね。ヨアヒムに憑りついていた狂信者と同じ扱いは正直願い下げってワケ」

 

「ワジ、言いたいことはわかるけれどストレートすぎるで」

 

『フフ……』

 

 ともあれ、クロスベルでの移動手段は十分に確保できたことになるのだが、問題はクロスベルに存在する三機の神機。自治州内に入ればその警戒網に引っかかる懸念を考えたのだが、それについてはケビンが口を開いた。

 

「その心配はあらへん。『メルカバ』の伍号機と玖号機には特殊なステルス機能が搭載されててな。何度か試験飛行したんやけど、彼らの警戒には引っかからなかったんや」

 

「今後引っかからない保障はないけれど、それを差し引いてもいろんな機能が搭載されてるよ。例えば導力ネットをコントロールできるだけのジャミングシステムとかね」

 

 ここまで来ると驚くのも馬鹿らしくなってくるとロイドは内心そう思った。すると、ブリッジから通信が入る。

 

『ヘミスフィア卿、クロスベル方面から連絡が入りましたが……いかがします?』

 

「おや、早速か。すぐにブリッジに上がるから、通信を維持するようお願いする」

 

『了解しました』

 

 いずれにせよクロスベルの状況を知れるのならありがたい話だ。ロイド達はそのままブリッジに上がり、通信のモニターが展開されて映し出されたのは、ロイド達にとって馴染みのある人物であった。

 

『どうも、お久しぶりです。ロイドさん、無事で何よりです』

 

「ティオ、無事だったのか」

 

『はい。ティーダさんの助けを借りまして、今はリベール王国に潜伏しています。厳密には王国とクロスベルの国境線上といったところですが』

 

 ティオの説明によると、国防軍は特務支援課4人を指名手配して捜索しているのだが、ランディ以外は全員国外にいるという情報をティオは説明した。

 

「てことは、エリィも国外に?」

 

『はい。彼女も祖父であるマクダエル議長と共にリベール王国に逃れました。先日直接お話ししましたが、特に変わりなく元気そうでした』

 

「そうか……できれば合流したいんだけれど、可能かな?」

 

『私もそれを考えていました。こちらの詳細はお送りします』

 

 通信を切って、向こうから送られてきた潜伏場所のデータを確認する。どうやらプレロマ草の範囲外のため、国防軍に見つからずにすんでいたようだ。とはいえ、通信を傍受されている危険性も考慮し、早い段階での合流をすることで一致した。

 そして、クロスベル帝国皇帝であるリューヴェンシス皇帝と改めて会談をすることとなった。ロイド以外にはクロスベルの実働組としてワジが同席した。リューヴェンシスはティオや他の支援課メンバーのことを聞き、考え込むような仕草を見せた。

 

「ふむ、それならロイドは他の支援課のメンバーであるエリィ、ティオ、ランディとの合流を目指すほうがいいだろうな。あと、できれば内部の協力者との繋ぎもして欲しい」

 

「それぐらいはお安い御用だけれど、どこにいるのか解るのかい?」

 

「おい、ワジ……」

 

「気にするな、ロイド。ウルスラ病院とタングラム門、あとはアルモニカ村とマインツにもいる。責任者に俺の名前―――『マリク・スヴェンド』を出せば直ぐに解るだろう」

 

 ほぼ主要となる場所への根回しが住んでいるあたりは流石だが、ここでベルガード門が入っていないことに疑問を覚えた。すると、それを察したのかリューヴェンシスが説明を続ける。

 

「ベルガード門が入っていないのは副司令が『話の分かる奴』だからだ。タングラム門も同様だが、軍の通行にも関わってくるから協力者を入れた次第、というわけだ」

 

「となると、もう動ける状態にはなっているわけだ。問題はあの神機だけれど……勝算はあるのかい?」

 

「無論だ。三機まとめては手古摺るが、分散してしまえば勝機はある。場合によっては俺が引き受けよう」

 

 皇帝自ら危ない橋を渡るのには驚きだが、目の前にいる人物が署長時代に色々やっていることはもう解り切った話なので、反対するのは無駄な論議にしかならないと判断した。というか諦めた。反対意見が出ないことにリューヴェンシスは笑みを零し、傍に控えていた秘書官に耳打ちをすると、秘書官が部屋の外に出た。その扉が閉まると同時にリューヴェンシスは説明を続ける。

 

「で、だ。相手が結社の連中もいる。なので、クロスベル帝国随一の書記官を2名同行させる。ロイドからすれば顔馴染みなので、行動を共にしつつ戦闘をしたりする分には問題ないだろう」

 

「差し当たっては僕らとの連絡役ということかな?」

 

「そう思ってくれて構わない。どうやら、来たな」

 

 扉が開いて2人の女性が中に入ってくる。それを見たロイドは驚きを隠せなかったが、女性の片割れが涙ぐむ表情を見せて駆け寄り、ロイドに抱き付いた。

 

「ロイド! 本当に、ロイドなのね?」

 

「ああ、勿論だよエリィ。ティオから聞いてたけれど、こんなに早く会えるだなんてとても嬉しいよ……で、ルヴィア。当たってるから」

 

 エリィに正面から抱き着かれているロイドの首に腕を回して抱き付いているルヴィアゼリッタに、ロイドは疲れたような表情を見せつつ尋ねた。一方、その当人は悪びれもせずにお約束とも言わんばかりのセリフを言い放った。

 

「勿論、当ててますからローウェン君」

 

「うん、その言い回しはどう見てもルヴィアだな……あの、人目もあるので離してくれると助かるんですが」

 

「俺は一向に構わんぞ」

 

「僕らのことは気にせずに。何なら席をはずそうか?」

 

「ワジはともかく、陛下に気を使われたら俺の肩身が狭いです!!」

 

 別れる前より更に自己主張が激しくなったエリィ。これは絶対ルヴィアゼリッタの影響だと思いつつ、数分ほどその状態が続いたことに自らの理性を必死に保ち続けたロイドであった。多分というか恐らくこれからやることが疲れなくて済むと思うのでは、と心なしか感じていたのであった。

 

「はは、モテモテじゃないか。うちの国は一夫多妻を認めるから、安心しておけ」

 

「あのですね……」

 

「おっと、書記官殿の機嫌を損ねる前にもうひとつ大事な話だ。リベール王国からクロスベル攻略の協力員として武官が1名送られてくる。彼もロイドが指揮を執ることに同意しているから、遠慮なく使ってほしいということだ」

 

「その言い方ですと、高い地位の軍人であると思われますが」

 

「ああ。だが本人は遊撃士としての実績もある。今回は遊撃士協会経由で『クロスベルの遊撃士協会支部への通信機能回復』、クロスベル帝国の依頼で『D∴G教団の首謀者であるクロイス家の討伐』という名目だな」

 

「あの、陛下。まさかとは思いますが……その軍人って」

 

 現役の軍人で元遊撃士。それでいてかなり高い位。ロイドとエリィには一人心当たりがある。それを尋ねられたリューヴェンシスの表情はにこやかな笑顔であった。

 

「ああ。リベール王国軍実質のトップ、カシウス・ブライト中将その人だ」

 

 

〜リベール王国 ロレント市郊外 ブライト家〜

 

「で、その提案に乗ったと?」

 

「ああ。俺自身教団の制圧作戦に関わっていた身だ。ならば、その首謀者を誅するのは俺自身の責任でもある」

 

 時は遡って王国への帝国・共和国軍侵攻から1週間後。書斎でカシウスとアスベルが向き合って話をしていた。アスベルの体の元の持ち主が教団に連れ去られたことは明白。そのことは制圧作戦に回収したデータで確認できた。そして、今はブライト家の養女であるレンも被害者の一人。それを踏まえたうえでカシウスは話を続ける。

 

「クロスベル独立国攻略時には俺が国許を離れ、エステル達もクロスベルに向かうこととなる。そうした時にエレボニアの動きを探る狙いもある……その際の権限は一時的にお前が担ってもらうことになるな」

 

「侵略行為となれば、かなり苛烈に出ます。場合によっては首謀者クラスの拘束・処刑も止むを得ませんが、それでもよろしいと?」

 

 本来ならばアスベルは特例の法規的措置により軍の指揮権を有さない立場。その彼に指揮権を委ねる意味はカシウス自身も理解していた。時と場合によっては従来の方針から若干逸脱する可能性を認めつつ、言葉をつづける。

 

「今の帝国政府が理知的であるならありがたいのだがな……先日の行為からしてその兆候は無かった。多少苛烈に行かねば国は守れん」

 

 勢いを盛り返してきた正規軍と拮抗した状態にある貴族連合軍。ここで皇族でも担ぎ出して正規軍の勢いを一気に削ぐのが定石なのに、彼らは皇帝夫妻どころかセドリック皇太子を担ぎ出そうとしていない。下手に担ぎ出せば正規軍に『皇族奪還』という大義名分を与えるのを恐れているのか……その意味合いでは皇族という存在と権力が弱体化しているに等しかった。

 というか、勢いのあるうちに叩きのめせば済んだ話なのに一定の弱体化で済ませようとしている。これは貴族連合の戦略を立てている人物が『それを望んでいない』と言わんばかりである。

 

「陛下からは最小限の被害に留めるよう要請された。だが、敵兵が自棄になって罪もない市民が被害に遭うことだけは絶対に避けなければならん。場合によっては敵兵の一掃も認めてもらった」

 

「そうですか……」

 

 12年前の<百日戦役>の件はカシウスにとって非常に重く圧し掛かっている。下手をすれば妻であるレナが亡くなっていただけに。それを助けた側であるアスベルもそれは承知しているし、アリシア女王も知っている。彼女も悩んだ末に自国の民を守りきるための判断と許可をカシウスに与えた。

 そして、カシウスは立て掛けてあった細長い包みに手を伸ばし、掴むと包みをはぎ取った。それは紛れもなく一本の太刀であり、その太刀にアスベルは見覚えがあった。その表情にカシウスは苦笑を零した。

 

「二度とこの武器を手に取るまいとは思っていた。お前やシルフィア、レイア、エステル、ヨシュア……皆が決意をもって戦っている中、俺は憶病になりすぎていた。己の手を血で汚すことにな。だが、それでは軍人失格だ。そんな時に、お前がかつて渡してくれたこの太刀が目に入った……アスベル、俺を鍛えてくれ」

 

「母さんには?」

 

「とうに話してある。これはお前たちの未来を守るための戦い。それに、恐らくだが俺は父親としての戦いも迫られていると思うのでな」

 

 今現在でもカシウスの実力は凄まじい。だが、人を守るために人を殺めるという軍人としての覚悟が欠如している。彼は自身でそのことを自覚し、八葉の極致に最も近いアスベルと手合せすることを望んでいる。この人物といい、ブライト家の人間は一体どうして自分らを目標として研鑽するのか……その理由を述べるかのように、カシウスは言い放った。

 

「お前は自分で思っているよりも遥かに強い。それでいてまだ未熟と言うのなら、俺なんぞ赤子程度に過ぎん。なら、己を極めるために父親を超えて見せろ」

 

「解りました。ふぅ……一部の隙も無くなるまで本気でやるから、覚悟してよ『父さん』」

 

「……ふっ。ああ、解ったぞ『我が息子』」

 

 とはいえ、この手合い自体アスベルも望んでいたものには違いなかった。互いに近い場所にいながらも親子としての関わりをどこかしら避けていた。それはアスベル自身の経緯によるものか、あるいはカシウスの自責の念によるものか……時間がないということでかなり急ピッチでスパルタな訓練となったが、そこは現役軍人で<剣聖>と呼ばれたカシウスは難なくこなしていった。

 後日、そのことを手紙で知ったユン・カーファイは、事情はどうあれ愛弟子が再び剣を取ったことに年甲斐もなく喜んだとアネラス経由で知ることとなったのは別のお話。

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閃Wが発売しましたが、情報は公式サイトからしか仕入れていません。

それを見ちゃうとプロットに大幅な影響が出かねないので(汗)

 

支援課の面子は何かしら転生組の影響を受けていますので、こういう展開に持っていくことにしました。他の支援課の面子を助け出すというよりは、各方面の協力を取り付ける方向性にシフト。

 

そして、カシウスのパワーアップフラグ。これに至った理由は閃Wのプロフィールを見てひらめいた次第です。強さ的には文字通りのチートレベルになるかもしれませんが(笑)

説明
第124話 強かな仲間と動き出す剣聖
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コメント
感想ありがとうございます。 黄泉様 こっちの世界だと棒で戦車ぶっ壊してますが、ある意味某泥棒の剣士みたいなことを片手間でやるような感じでしょうかね(投げやり)(kelvin)
カシウスさん今のままでも十分チートなのにまだ強くなるのかwwww(黄泉)
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