紫閃の軌跡
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〜リベール王国 センティラール自治州 ケルディック東郊外〜

 

 リィン達が謎解きをして導き出されたのは一つの風車小屋。その中に入ると、リィンにとって聞き覚えのある男子の声が聞こえた。

 

「―――辿り着いたか、リィン」

 

「あ……」

 

 緑髪の男子―――マキアス・レーグニッツの姿に、リィンは嬉しさの余り抱き付いていた。これにはマキアスも思わず狼狽えていた。だが、リィンからすればあの状況から生き延びていてくれたことが何よりも嬉しかった。

 

「よかった、本当にまた会えて……」

 

「……僕らだって、あの場で果てるつもりはなかった。君がこうして立ち上がってくれることを、他の皆も強く望んでいたから」

 

 そうしてお互いに少し距離をとると、固い握手を交わす。同じ<Z組>として帝国の内戦をどうにかする糸口を掴むためにも。そしてマキアスはリィンの後ろにいる3人の姿が目に入る。

 

「それで、貴方は確か以前カレイジャスで……それに、セリーヌもか。で……そちらのお嬢さんは何方様なんだ?」

 

「覚えているとは流石帝都知事の息子さんだな。改めて、遊撃士協会所属トヴァル・ランドナーだ」

 

『驚かないって、まあ、アンタもリィンと一緒に乗り込んだのを見てるわけだし、当然よね』

 

「アリーシャ・シルフィルといいます。リィンさんのパートナーみたいなものです」

 

「……リィン、国を替えても一応貴族だから理解はするが、君は一体何人の奥さんを作るつもりなんだ?」

 

「俺だって好きで増やしたわけじゃないんだ……ところで、どうやってあの状況を生き延びたんだ?」

 

 3人の紹介を聞いた上でマキアスは珍しくジト目で鋭い指摘をして、リィンも疲れ切った表情をしつつも話題をそらした。『逃げたな……』と周囲の人間が思う中、マキアスはリィンの天然さは今更であると諦めつつ、話し始めた。

 

「生き延びることを諦めてはいなかったが、相手はクロウの駆る機械人形。あの場で全員が倒れたとしても何ら不思議ではなかっただろう。だが、それを救ったのはアスベル、ルドガー、セリカ、そしてリーゼロッテに見慣れない人物が一人いた」

 

「アスベル達が……!? それで、どうなったんだ?」

 

「信じられないかもしれないが……アスベルとルドガーは殆ど得物を使わずにクロウの乗る機械人形を圧倒した。君がやられたあの時の状態を解放しても、彼らには何の障害にもなってなかった」

 

「あの機甲兵とやらとは違うのか?」

 

「そうですね……少なくとも、基本性能は格段に違うかと」

 

『騎神の性能を十全に生かすことができれば、機甲兵なんて人形遊びみたいなものね。あの<蒼の騎神>を生身で圧倒するだなんて、その二人だからこそ出来る芸当というべきかしら』

 

 アスベル達が助けに入ったことも驚きだが、生身で騎神を相手にするという非常識を成し得たアスベルとルドガーをセリーヌはそう評した。彼らのことは置いといてマキアスは説明を続けた。

 

「そして、リーゼロッテが僕たちを安全な場所に飛ばした。その直前に、彼はこう言った」

 

『―――なぁ、お前ら。誰かに頼ったままでいいのか? 仮にリィンが戻ってきたとして、今のままなら100パーセント死ぬぞ。その時俺達が傍にいる保障なんてない。軍人や軍事力に準ずるような立場なら、これから帝国に起こりうることなんて解っているはずだ。士官学院生という軍人の末席にいる以上、無関係にすることなんてできない。貴族派の連中は間違いなくお前らを捕まえるだろう。現にそうなったわけだし。だが、敵はそれだけじゃない。<身喰らう蛇>も彼らに協力している。最早正道だけでは敵わぬ戦争に、そんな甘ったれた考えでい続けるつもりなら、これ以上関わらずに大人しくしていろ。リィンのことは代わりにどうにかしてやる』

 

「……彼が軍人だからこそ、そのことを誰よりも理解していた。ルドガーやセリカ、リーゼロッテも多分理解していたはずだ。そんな酷いことになる筈が無いと僕も含めて大半の<Z組>の面々も高を括っていたかもしれない。だが、この一ヶ月潜伏活動をして嫌と言うほどに内戦の……いや、戦争の実情を思い知らされた」

 

 ガレリア要塞での導力戦車演習で垣間見た力の凄さと恐ろしさ。それを揮うこととなる戦争の恐ろしさ。過去にあった<百日戦役>は知識でしか知り得なかったからこそ、現実味がなかった。戦争になるということはどういうことなのかを想像できなかった。しかし、隣国もといエレボニアでの戦闘は熾烈さを増している。国境という線を隔てれば、そこはもう戦場としか言いようがなかったのだ。

 

「アスベルのことは話を聞いてるが、アイツは<百日戦役>に関わったことがあるとカシウスさんから聞いている。実際の戦争を経験しているからこそ、あえて厳しい言葉を投げかけたのだろうな……正直、安全な場所に籠り続けてろなどと言わないあたり、まだ優しいぐらいだが」

 

「ええ。僕も含めてエリオットとフィーがこっちに飛ばされた折、変わった人が僕達を鍛えてくれました。その差配をしたのがアスベルだとその人から聞きました」

 

「そうか、こっちに飛ばされてきたのはマキアスを含めた3人か」

 

「ああ。エリオットの名前を入れれば第四機甲師団の人たちも信用できると思って試したが、見事覿面だった。今二人は国境を越えて偵察に行ってもらっている」

 

 マキアス達はこの一ヶ月の間、親切な人から武術の手ほどきを受けていた。フィーにも面識がない人であり、その人物は突撃槍を難なく使いこなしていたらしい。それでいて士官学院で教わった内容を発展させたような教練であった。

 

「正直、この一ヶ月で10年の時間を過ごしたような濃さの訓練だった。まあ、僕らもそれなりに強くなったとは思う……あまり実感はないんだが」

 

「はは……俺も学院ではアスベルに手解きを受けてたけど、そんな感じだよ」

 

「……エステルもそうだが、最近の若者は現実離れしてきてないか?」

 

『だいたいアスベルのせいというのが、どう表現すべきなのかしらね』

 

「あははは……」

 

 会話の内容がどうにも常識から外れていることに、トヴァルとセリーヌ、アリーシャはどう表現していいものか分からず各々困惑やら苦笑やらを浮かべていた。その原因を作っているのが一人の人物ということも。

 

「へっくし! ……トヴァルさんあたりでも噂してるのか? 後で総長に連絡しとくか」

 

 その噂の対象となったアスベルの勘は、妙に鋭かった。

 

 

 定時連絡の後、エリオットとフィーの二人と合流。ここで一旦ユミルに戻るという選択もなくはない。ノルドにしてもレグラムにしても帝国の外である以上、安全を期すならそのほうが選択肢としてはよいだろう。本格的にエレボニア帝国領へ踏み込むリスクは極力避けるべきなのかもしれない。だが、リィンはこう提案した。

 

「ここでガレリア要塞方面に向かうのもありだと思います。第四機甲師団のことも気になりますし、もしかしたらクロスベル方面の様子も窺えるかも知れません」

 

 双龍橋の警備は厳重だったが、謎のフードの男の案内?によってリィン達は大陸横断鉄道を通ってガレリア間道へと抜けることに成功。その途中で奇妙な建物があり、そこもある程度は攻略。それ以上の発見は特になく、ガレリア要塞に到着した。

 

 

〜エレボニア帝国東部 ガレリア要塞〜

 

 目の前には大きく削られたガレリア要塞が。そして、その向こうに見えるのはクロスベル市。よく見ると何かに覆われていたのだが、少しするとその光が消えていた。何があったのかを窺おうとアリーシャが一歩踏み出した瞬間、カチリという音が聞こえた。その瞬間、フィーがアリーシャを抱えてその場を離れると、地中に埋まっていた何かが爆発した。幸いにして威力はないが、軽い怪我を負わせるぐらいの導力地雷。

 フィーはそれを仕掛けた人物の気配に気づき、声を上げた。

 

「さっき間道でも見ていたみたいだけど―――いるんでしょ? ゼノ、レオ」

 

「ほう、流石やな」

 

「腕を上げたようだ」

 

 姿を見せたのは二人の男性。リィンはその人物に見覚えがあった。以前レグラムの実習でカイエン公の護衛としてついてきていた人物。彼らの服に入っている猟兵団の刺繍にトヴァルが反応する。

 

「貴方たちは、以前レグラムで出会った……」

 

「そのマーク、<西風の旅団>か」

 

 フィーからすればよく知る団の仲間。だが、彼らがどうして貴族連合に雇われているのか……それについては父親でもある団長は何も教えてくれなかった。しかし、それを理由にわがままを言えるような立場ではないと理解していた。

 

「……どうして二人がそこにいるのか、団長は何も教えてくれなかった。今言えることは、私達の行く手を阻むってことで理解していいんだよね?」

 

「ハハ、せやな。今日は生憎仕事で来とるんや」

 

「我らの依頼主の意向なのでな。如何に同じ団の人間といえど容赦はしない。猟兵の仕来りはよく理解しているはずだ」

 

「―――だよね。なら、マキアスにエリオット。手伝って」

 

「ああ、承知した」

 

「うん。足を引っぱらないよう頑張るよ」

 

 フィーは二丁の銃剣、マキアスはショットガンタイプの導力銃、エリオットは魔導杖を取り出す。どうやら名のある猟兵二人に三人で挑むつもりのようだ。それを見たリィンらは驚きの声を上げる。

 

「フィー!? それに、マキアスとエリオットの3人でなんて…!」

 

「相手は<西風>、無事に済む保証なんて―――」

 

「……リィンさん、トヴァルさん。しばらく様子を見ましょう。何か考えがあってのことかもしれません」

 

『ええ。それに機甲兵の姿はまだ確認できない。アンタはそっちに気を配りなさい』

 

 リィンとトヴァルが慌てる一方、アリーシャは何かを感じ取って二人を窘め、セリーヌは貴族連合側の機甲兵の存在を鑑み、今は体力を温存するのが良いと判断。リィンは已む無く加勢するのを留めたが、それでもやきもきしているようだ。

 ゼノと呼ばれた人物はブレードライフル、レオニダスは機械化手甲を取り出して構える。

 

「ハハ、別に7人一斉でも構わんのやけどなあ?」

 

「私達はあの日、現実を知った。そしてどうしようもない“壁”を知った。それを乗り越えられるかどうか……ゼノとレオには申し訳ないけど、私達の1ヶ月の成果をここでぶつける!!」

 

「成程、我らを試しとするか……逆に押しつぶされないよう、精々気張ることだ!!」

 

 ゼノとレオニダス、フィーとマキアスとエリオットの戦いが幕を開ける。ゼノが何かを放り投げて地面に突き刺さる。それが何かしらの罠だと察したマキアスはショットガンで次々と破壊する。エリオットは二人を解析して何とか突破口を見出そうと試みる。その二人の時間を稼ぐため、フィーは一気に加速した。

 

「なっ!? この速力は……!!」

 

「パワーじゃ流石に勝てない。だから、私は私の武器で戦う」

 

 フィーの新たなクラフト―――高速移動を繰り返して相手の死角から銃撃を繰り出す『バレットダンス』で二人を引き付ける。

 

「チッ、一年前とは比べものにならん速力や。そんなら、ワイが狙うは一つや」

 

 ゼノはライフルを構えてエリオットを狙い撃とうとする。だが、ゼノの放った銃弾を阻んだのはマキアスの放った銃弾であった。気が付けばマキアスもライフル型の導力銃を構えていた。

 

「オイオイ、銃弾を銃弾で落とす芸当ができるやなんて初耳やで」

 

「実戦ではぶっつけ本番さ。何せ、この一ヶ月は寝る間も惜しむぐらい忙しかったからな!」

 

「チッ!!」

 

 続けてマキアスは弾丸を放ち、エリオットをカバーする。こうなればレオニダスは何かをしようとしているエリオットを狙うべきなのだが、それを阻止せんとフィーが駆け出す。

 

「いくよ、シルフィード……ダンス!!」

 

「ぐっ……だが、これでも<破壊獣>の名を持つ猟兵。この程度で倒れるとは思わんことだ!!」

 

 強引にフィーの攻撃圏から逃れ、一目散にエリオットの元へと向かう。三人の切り札と思しき何かを潰す。その勘は確かに正しかった。だが、ゼノとレオニダスはここで一つの間違いを犯した。エリオットを狙うのがゼノならば『まだマシ』であったことをこの直後に知る。レオニダスの手甲がエリオットに届こうとした瞬間、

 

「かかったな、阿呆が!!」

 

「ぐあっ!?」

 

 その刹那、レオニダスはエリオットによって地面に叩き付けられていた。まるでそのまま地面にめり込ませるように埋まっていくレオニダス。だが、エリオットの攻撃は終わらない。本来のエリオットからすると、発することのないような言葉と共に。

 

「容赦はしない! さあ、地面と一緒におねんねしろぉ!!」

 

 音の振動をレオニダスの至近距離で発動させ、彼の動きを封じるだけでなく彼の骨を粉砕する。数秒後、完全に気絶して地面にめり込んだレオニダスの姿にゼノは自分の目を疑うように瞼を擦った。

 

「えっと……もしかしなくても、ワイ結構ピンチ?」

 

「そだね。じゃあゼノも一緒におねんねする?」

 

 ゼノはその一瞬の隙にフィーが背後に移動していたことを察する。だが、それに気づいた瞬間、フィーの超高速の移動から繰り出された蹴りによって上空に打ち出されるゼノ。そこから間髪入れずにフィーが縦横無尽の動きでゼノへダメージを与えていく。そして、とどめとしてフィーが直上からオーラをまとってゼノに突撃し、そのまま地面に衝突した。激しい振動と煙が巻き起こり、その煙が晴れると完全に気絶したゼノと彼を足場にしているフィーの姿があった。

 

「……えっと……」

 

「お前さんのクラスメイト達、人間辞めてないか?」

 

『明らかに一ヶ月前より強くなりすぎでしょ……』

 

「あははは……」

 

 リィンは戸惑いを隠せず、トヴァルは冷や汗を流し、セリーヌは明らかに埒外の強さを手にしているリィンの仲間達に溜息を吐き、アリーシャに至っては苦笑しか出てこなかった。

 本当なら苦戦必至のはずの<西風>二人相手にフィーがいたとはいえ完勝。しかも、明らかにパワーがなさそうなエリオットがレオニダスの巨体を投げ飛ばしたのは衝撃的だった。しかも、どうやら学院祭の時に見た『スパルタモード』が戦闘でも発動するようになっていた。そんな二人の影に隠れがちだが、銃弾を銃弾で落とす芸当を発揮したマキアスもかなりのレベルアップを果たした。

 

「……うかうかしていると置いて行かれるかもしれないな、リィン」

 

「……そうですね」

 

 すると、戦車の駆動音が聞こえてきたことにリィン達が気付き、一台の戦車の上に直立不動で立つ帝国軍の軍服を身に纏った人物がいた。彼は確かな足取りで地面に降り立つと、リィン達に話しかけた。

 

「久しいな、リィン・シュバルツァー。<Z組>の面々に個性的な顔ぶれも揃っているようだが……」

 

「ふう……あれ、父さん!?」

 

「おおっ、エリオット!!」

 

 その男性は息子の姿を見つけるとエリオットに駆け寄ってきた。おそらくはこのまま抱きしめようとするのだろうが、それを見たフィーは『あ、これマズいかも』と心の中で呟いた瞬間、エリオットは抱きしめようとする男性の背後に素早く回り、そのままジャーマン・スープレックスを決めてしまったのだ。

 

「あがあっ!? む、息子よ……逞しくなったな……ガクッ」

 

「あ……って、父さんごめん! しっかりして!!」 

 

 反射的な行動をしてしまったことにエリオットは謝罪の言葉をかけつつ、その人物―――エリオットの父親である“紅毛”オーラフ・クレイグ中将の治療を行う。第四機甲師団の兵士達は我が子同然のような存在であるエリオットの成長?にどう反応したものか困惑していた。

 すると、そこに空色の髪の女性―――鉄道憲兵隊クレア・リーヴェルト大尉が姿を見せた。彼女もこの状況に困惑しながらも心の中で自らを奮い立たせるように、冷静な口調を出来るだけ保つように話しかけてきた。

 

「えと、お久しぶりです皆さん。とりあえず場所を移しましょう。あそこに埋まっている方々は……ひとまず、治療して拘束ですね」

 

 流石にゼノとレオニダスを放置するわけにもいかず、軽い処置をして第四機甲師団の臨時拠点へ運ぶこととした。クラスメイトの成長に喜ぶべきなのか正直に困るとはこのことかもしれないとリィンは頭を抱えたくなった。

 

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やりたかったネタ一つ目。

エリオットは本作中で自身の父親のこともあってか男らしさに憧れていた節がありました。それを色々と改良した結果、こうなりました。解りやすく言えば銃を使わないダドリーさん。マキアスの影が薄くなってしまいましたが、彼もかなり強くなってます。フィーはようやく本調子が戻ってきたという解釈で。

 

こんな調子で他の<Z組>面子もだいぶ強化されます。元のステータスから底上げみたいな解釈で問題ないかと。機甲兵のブレードについては展開で帳尻合わせますのでご了承ください。

 

説明
第132話 若者の人間離れ〜ガレリア要塞跡編〜
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コメント
トヴァルさん…あんた余計なこと言うから…どんな目に合うのかなぁ……(黄泉)
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