Soul call each
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「…え。紘次さん、俺と飛鷹さんが出会った時のこと知ってたんですか?」

「ああ。この間ふたりで飲んだ時に、飛鷹さんから聞いた」

目を見開いている佑介に、紘次は笑みを浮かべて答えた。

 

紘次の高校大学時代の先輩・倉田臣が経営する「Cafe Lidell」からの帰り道。

友人で私立探偵の飛鷹光一郎とは方角が違うので途中で別れたあとに、佑介が紘次に打ち明けたこと。

先ほど臣たちに光一郎が話した佑介との出会いは、警視庁の道場ではないと。

すると紘次は「知ってるぞ?」と答えたのだ。

 

「そうだったんですか…」

佑介も何とも言えない表情で笑う。

「だが、元とはいえ警察の人なのに、佑介の能力のことをすんなりと受け止めていてちょっと驚いたな」

警察関係の人間は、一般的にはいわゆる超常現象は信用しないと言われている。

もちろん、全員が全員そうだとは言い切れないが。

それだけに、光一郎の反応に驚きを隠せなかったのは、佑介も同じだった。

「俺も初めはどうしようかと思いましたけど…嬉しかった」

思い出すように目を細める佑介。

「でもひとつには、俺が弟さんを『視た』からかも」

「…弟?」

紘次が首を傾げると。

「飛鷹さん、俺と変わらない年の弟さんを亡くしてるんです」

「!」

紘次の目が大きく見開く。

 

先日バーで飲んだ時は、そんなことは微塵とも感じさせなかったのに。

 

「それって、どうして…」

「プライベートなことだから、俺も聞けなかったんですけど。でも…」

あの時の光一郎の表情を思い浮かべる。

「弟さんの死に、飛鷹さんが負い目に感じてることや…病気や事故じゃないというのも視えてしまって」

こらえるように唇をかむ。

「だから、飛鷹さんが刑事を辞めたことと関係してるんじゃないかって…」

「………」

 

以前は警視庁・捜査一課の刑事で巡査部長だった光一郎。

当時23〜4歳という年齢を考えると早すぎる気がするが、周りからはエリート路線に…と期待されていた。

当の本人は、たったひとりの肉親である弟を養うための手段に過ぎなかったのだが。

だがある事件のために、光一郎は警視庁を辞している。

元々人をあまり信用しなかった性格は、そのために弟を亡くしてからは更に強くなり。

半ば自暴自棄のような状態で過ごしたこともあった。

唯一信じられる存在が、たったひとりの家族である弟だったのだから。

 

「飛鷹さんも…、大切な存在を失っていたんだな」

今になってなぜ光一郎が自分のコネを使ってまで、親身になってくれたのかがわかったような気がした。

たとえ、それが佑介の頼みだとしてもだ。

初めは拒絶して話そうともしなかった紘次を、光一郎はその心をほぐすように、話したくなるのを待ちながら接してくれた。

 

――今回のことで、自分の本当に大切なものを失ったら駄目ですよ…

 

その言葉が、紘次の心に染み入った。

 

紘次も2歳の頃に両親を交通事故で失っている。

彼自身は両親の記憶はないに等しく、その代わり「置いて行かれた」という思いがずっと心の奥に引っかかっていた。

両親の愛情も知らずに複雑な環境で育った紘次を、深い愛情で包み込んだのが妻の咲子だ。

それでもどこか満たされない部分を感じて、妻を求めてしまっていた。

 

そんな紘次が光一郎と知り合い、あの件のお礼として光一郎を呼びふたりで飲んで帰ってきた時。

心底陽気に酔っ払った紘次の様子には、咲子も大いに驚きはした。

しかも、あの紘次が咲子を求めることなくそのまま寝てしまったのには、咲子のみならず紘次の祖母のやち代も驚いたことだろう。

 

「…多分、何かが呼び合ったのかな…」

「え?」

考えにふけって、ふと呟いた紘次を見る佑介。

その顔は、穏やかで嬉しそうで。

「いや、まさか飛鷹さんとここまでになるとは思わなかったから」

照れくさそうな笑顔。「友人だ」と言ったこと自体、自分でも驚いているのだ。

 

きっと、お互い通じるものがあったのだろうか。

光一郎の内面を聞いたことで、更にそう感じた。

 

まるで、魂が呼び合うようにふたりは出会ったとしか思えない。

 

佑介もふっと柔らかく笑って。

「俺も嬉しかったですよ。紘次さんと飛鷹さんのやりとり見てて」

更に笑みを深くして。

「咲子さんも、今のふたりのやりとり見たら喜ぶと思いますよ」

「…そうかな」

変わらず照れ笑いのまま、妻の顔を思い浮かべた。

 

 

「…そういえば、臣さんの実家の蕎麦屋って…?」

思い出したという風に佑介が尋ねる。

「ああ。俺もたまに行くんだが。ご両親とお姉さんとその旦那さんがやっててね。…でも」

答えていて、ふと苦笑気味になる。

「…どうかしました?」

紘次の様子に首を傾げると。

「あそこに飛鷹さんを連れてったら、大騒ぎになるだろうなと思ってさ」

「え?」

「倉田さんのお姉さん、すごいイケメン好きだから。お母さんもそうだったかな」

「………」

とすれば、確かに光一郎を連れて行ったらさぞ…。

 

「だから、飛鷹さんにそのこと言うべきかどうか、悩むんだよな」

そう言いながら、顔は半分楽しげな表情の紘次に、

「あ、あはは…」

乾いた笑いを浮かべるしかない佑介だった。

 

(がんばってね、飛鷹さん)

 

その情景が想像できたか、心の中で手を合わせた。

 

 

 

説明
えーと、今回は短めです。「嵐のあとの日々に」での話の後、臣さんの喫茶店からの帰りでの、こーさんこと紘次氏と佑のちょっとした会話。

こーさんも、光一郎の過去に少し触れることになります。
光一郎は出てきません。
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